インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#86
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マドカはご機嫌だった。

 

美術部の爆弾解体ゲームで最短レコードをたたき出す。

 

サバイバルゲーム部の射的で最高記録をたたき出す。

 

一年四組の縁日でキツネの仮面と水風船を手に入れる。

 

二年二組がやってた模擬店でりんご飴を買う。

 

一年一組でケーキセットに感激する。

―――etc.etc.

 

なんて文化祭を満喫していればそりゃ機嫌も良くなるというものである。

 

(それにしても、なんで誰も私の事を気にしないんだ?)

 

マドカは不思議に思う。

 

自分の外見は(想うところはいろいろあるが)世界屈指の有名人である織斑千冬に瓜二つだ。

おまけにここ、IS学園の教師であり、風の噂では『学園最強の一人』と名高いらしい。(まあ、世界最強と言われるくらいだから当然と言えば当然だし、むしろ『一人』の部分が気になる。)

 

だというのに、誰も気にする様子も無く、むしろ生温かい、見守るような………

 

『ピンポンパンポーン』

 

りんご飴を齧りながらいぶかしんでいると放送が流れる合図のチャイムが鳴った。

 

『これより、第一アリーナにて、生徒会有志による演武を行います。御観覧を希望の方は、第一アリーナまでお越しください。』

 

「演武…か。」

 

要はISでの模擬戦を公開しようというモノであるのは受付で貰ったパンフレットで知っている。

その、演武をする生徒会に専用機保有者が三人いることも。

 

(いずれ殺り合う相手を知っておくのも、悪くは無いか。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』ってどこかの偉い人も言ってるし。)

 

まるで自己弁護のような考えを浮かべながらパンフレットを頼りに第一アリーナに向かおうとした時、唐突に((警報|アラート))が鳴り響いた。

 

「っ!?」

 

周辺の学生や来場客にはなんの変化も無いので学園の発した((警告|アラート))ではない。

亡国機業のエージェントが緊急事態の際に使う救難信号がISのプライベートチャンネルを経由して届けられたのだ。

 

(誰だ?((スコール配下|うちのところ))じゃないのは確かだが…)

 

スコールの処にいるIS持ちはスコール含めて三人。そのうちの一人はここに居るし、残りの二人も拠点で乳繰り合っているだろう。

 

それに((そのうちの一人|オータム))はこの間槇篠技研を襲撃した時に((IS|アラクネ))を喪っているし、幹部であるスコールが表に出なければならない状況だったらマドカ自身、文化祭に乗じての潜入偵察なんかしている場合ではないし、アラートなんて使わずに直接通信をしてくるだろう。

 

(見捨ててもいいが…)

 

『他の幹部の邪魔さえしなければそれでいい』のが亡国機業((実働部隊|エージェント))の不文律になっているし、((他の幹部配下|よそのエージェント))に手を借りる事を酷く嫌う連中も多い。

 

それに、亡国機業の((実働部隊|エージェント))は腕利きの集まりだ。

下手な代表候補生に比べれば実力もあるし、それに誇りと自信も持っている。

 

しかし、それが『助けてくれ』などと言う相手にマドカは少しばかり興味が湧きはじめていた。

 

(つまらない相手だったら…どうしてくれようか。)

 

 

『とりあえず、SOSを出したやつはシメよう。』と内心で決意しつつ、マドカは人気のない森の中を通って港湾ブロックに抜ける。

 

同時に『マドカ』から『エム』へシフト。

 

食べ終わったりんご飴の棒と、手慰みにもてあそんでいた水風船を投げ捨て、海へと飛び込む。

 

着水と同時にISを展開。ステルスモードでセンサーを誤魔化しつつ海中を駆けさせる。

 

 

学園周辺の警戒域を抜けて海上に上がった時、すでに遠く離れたIS学園から上空へと閃光が奔っていた。

 

 * * *

 

IS学園 第一アリーナ――生徒会主催 特別演武会場。

 

 

鈴にいろいろと案内して貰っていた弾、蘭、数馬の三人は鈴をはじめとした二組の面々と共に、演武の会場に居た。

 

「おい、鈴。店閉めてきて大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ。どうせみんなこの演武会場に来てるから。全校同時の休憩時間とでも思えばいいわ。」

 

弾の問に鈴が答え――

 

「この演武を行う二人は一年生では最強格と言っても過言ではない。それを見逃すわけにはいかないだろう。」

「どっちもウチのクラスのメンバーだし。」

「まあ、それだけではありませんが。」

 

「あ、やっぱ来てたんだ。」

 

「当然だろう。」

 

「あ、ラウラちゃん。」

 

ラウラ、シャルロット、セシリアの三人組もその輪に加わってくる。

その近くにメイド&執事の集団がいるところをみるとクラス全員がここに来ているようだ。

 

「む、お前たちか。」

「お二人ともお久しぶりですわね。」

 

夏祭りの一件で弾と蘭に面識のあるラウラと、夏休み序盤の臨時クラス会後の一件で弾と数馬に面識のあるセシリアはそれぞれと軽く挨拶を交わす。

 

「あれ、ボクだけ仲間外れ?」

 

そんな中、唯一人面識のないシャルロットが声を上げた。

 

「ああ、そう言えばシャルロットはここの三人のこと知らなかったっけね。あたしと、一夏の中学時代の友人の五反田弾と御手洗数馬、弾の妹で蘭。」

 

「五反田蘭です。一夏さんがいつもお世話になってます。」

 

鈴の紹介に真っ先に反応してそう言った蘭とシャルロットの視線が交差する。

 

「僕はシャルロット・デュノア。宜しくね、蘭。」

 

朗らかな笑顔で返すシャルロット。

差し出された右手同士ががっしと握手を交わすが、弾と数馬の目には火花が散っている様子が映っていた。

 

そして、同時に思う。

『ああ、やっぱりか』と。

 

「お前たち、それくらいにしておけ。そろそろ始まるぞ。」

 

そんな二人の間に入ったのはラウラだった。

 

その視線はアリーナ中央のバトルフィールドに向けられたままだ。

 

『大変お待たせしました。これより演武を―――』

 

開始します。

 

その一言と同時に両側のカタパルトから紅と白が飛び上がった。

 

真っすぐと上昇しながら飛ぶそれらは交差する時に火花を散らしたかと思うとそれぞれ高度を取り円軌道を描きながら荷電粒子砲と大型ライフルでの射撃戦が始まる。

 

閃光と破裂音が飛び交うが互いに絶妙な加減速を繰り返して掠らせすらしない。

 

「おー、見事な((円状制御飛翔|サークル・ロンド))だね。((流動的射撃機動|シューター・フロー))も完璧にこなしてる。」

 

シャルロットが感嘆の声をこぼす。

 

「すげぇ…マジにISVSだ…」

「なんだかよく分からんが、確かに凄いな。」

 

弾と数馬も驚く中、蘭は一人首を傾げる。

 

「ええと、あれって凄いの?」

 

「む、まあ、そうだな。傍から見れば何でも無いように見えるだろう?」

そんな蘭にラウラが問う。

 

「ま、まあ。」

 

「だが、あれは飛ぶのに必要な制御や射撃時の反動の打ち消し、回避機動…その全てを手動でやっているんだ。本来はコンピュータ制御に任せている部分もな。簡単に見えてこれが難しいんだ。」

 

「?」

 

「なんせ、普段は『考えるだけ』で出来る事にいちいち気を使う必要があるからな。」

 

「良く分からない…」

 

「まあ、こればかりはIS乗りでないと判らないからな。―――む、状況が動くぞ。」

 

「え?」

 

円状飛行していた二人が突如として刀を手に相手に向かって急激に方向を切り替える。

 

最初の一瞬のように交差の瞬間に火花を散らしてまた離れ―ちょうど模擬戦の開始位置についた処で二人が静止した。

 

 

ワァー、と上がる歓声、賞賛の声。

 

『それでは、演武を行う二人を紹介します。正面モニター右側サイド……生徒会書記、篠ノ之箒。搭乗機は紅椿。』

 

モニターの半分…ちょうど右半分にバストアップの写真と機体画像が表示される。

 

『続きまして左側サイド…生徒会庶務、織斑一夏。搭乗機は白式・雪羅。』

 

「え、一夏さん!?」

 

驚く蘭。

 

一方でシャルロットやセシリアは頭が痛そうだった。

 

「まったく、最近近接格闘戦じゃ織斑先生じみてるってのに…」

「一体どこまで万能になれば気が済むのでしょうね…」

「…最低でも空並じゃないかな?」

「つまり、織斑先生と一対一で互角に戦えるくらい…と?」

 

顔を見合わせ、自然と深い溜め息が漏れた。

「はぁ……」

 

 

『それでは、第二幕を『避けろ、箒!』――え?』

 

『ッ!』

 

余程慌てていたのかオープンチャンネルで飛ぶ声。

 

突如飛んできた弾丸を回避した後、素早く上昇し背中合わせになる白式と紅椿。

 

「な、なんだ?」

 

「ラウラ、」

 

「―――ピットのカタパルトだ!」

 

その声と共にその場にいた全員の視線がモニター右側にあるピットに集まる。

 

そこには…

 

『やっほー。』

『どれくらい成長したのか、見せてもらうぞ。』

 

大型の((対物狙撃砲|アンチマテリアルライフル))を持ったラファール・リヴァイヴと日本刀型ブレードを持った打鉄がそこに居た。

 

『え、千冬姉!』

『空――先生…』

 

驚愕と絶望に近い声をあげる二人と同じ高度まで、打鉄を装着した千冬とラファールリヴァイヴに乗る空が上がってくる。

 

『さて、演武の第二幕を――始めようか。』

 

ブレードを構える千冬の打鉄、ライフルを構える空のラファール。

 

思わぬ強敵の出現に会場は沸き上がった。

 

―――対戦する事になった二人の内心など、お構いなしに。

説明
#86:文化祭 二日目 その三[演武、そして動き出す闇]
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コメント
お久しぶりです。 IS学園生による生温かい視線の意味はご想像にお任せします。自分でも張った伏線を何処で回収するつもりだったのか判らなくなったものもあるので読み返して思い出しつつ続きを書いて行きたいと思います。(高郷 葱)
どうもお久しぶりです。マドカさん、すっかりお祭り気分を満喫してますねー。周囲の生暖かい視線の意味ってひょっとして……。最後のくだりでまた襲撃かと勘違いしましたが、予想外の強敵の出現に正直驚かされました。束やナターシャさんたちがどのタイミングで登場するのかを期待しつつ、次回の更新も楽しみにしています。(組合長)
普通に『ワー』とか『キャー』とか『チフユサマー』とか、そんな感じかと…(高郷 葱)
会場「「「「「「フォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」」」」」…こんな感じですか?www(神薙)
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インフィニット・ストラトス 絶海 

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