超次元ゲイムネプテューヌ『女神と英雄のシンフォニー』チャプターU第三話『黒衣のバウンティーハンター』 |
「ここがこの前、モンスター退治の時に会った社長さん……シアンの会社?」
「お、来たか。……別に会社なんて立派なもんじゃねーよ。ただの町工場」
ネプテューヌ達が訪れた場所、そこは以前モンスター退治を頼んできたシアンが経営する工場。4人が入り口を潜り、中の様子を見渡していると従業員と打ち合わせしていたシアンがこちらに気づき、話を切り上げ近づいてきた
「調理器具からミサイルまでなんでも作ってるぜ?それよりこっちだ。ここじゃ落ち着いて話もできないだろ」
シアンの案内の元、工場のドアを一つ潜るとそこは工場とは似ても似つかない場所。工場がオイルの匂いや機械の駆動音が響いていたならば、こちらは食べ物の匂いと何かを焼いている音が響き渡る食堂となっている食堂になっていた。他の工場の従業員と思しき人や、冒険者と思われる黒いロングコートを羽織った客が食事をしている。その脇の壁には巨大な太刀、峰の部分には大小様々な三日月状の刃が取り付けられていたが立て掛けられていた
「ただいまー。好きなトコに座ってくれよ! ここ、俺の家だから」
「へー、じゃあ私カウンター席とったーっ!」
辺りを見渡し目を輝かせていたネプテューヌが真っ先に厨房の目の前のカウンター席を陣取り、残りの三人は近くのテーブル席に腰を下ろす
「へでも仕事場の隣がレストランなんていいなー。……っていうか、頼み放題だよ!?」
「自分の家で頼み放題しても仕方ないだろ。工場の稼ぎだけじゃ苦しいからな。母さんがここを片手間でやってくれてるんだ。この辺りは、ま……なんていうか。アヴニールのせいで中小にまで仕事が回ってこなくなってるからな……」
「やっぱりアヴニールは悪い会社なんだ! シアンも街の人も、それで困ってるんでしょ?」
「悪いなんてもんじゃない! 仕事を全部取り上げて自分だけドンドンでかくなるバケモノみたいな会社さ!! どういうわけか女神様も、それに仕える協会も。アヴニールの悪行には見て見ぬふりだ。放っておいたら大陸中があの会社に乗っ取られるに決まってる!!」
「やっぱり、わたしの思ったとおりだよ! アヴニールを倒さなきゃラステイションに平和は訪れないよ!?」
「意気込みは良いが、どうやって倒すのかは検討がついてるのか?」
ネプテューヌがその場に憩いよく立ち上がり、声を上げた瞬間、さっきの黒いコートの冒険者が水の入ったコップを片手にこちらの会話に入ってきた。黒のミドルヘアーに左眉端の部分に盾に刻まれた傷跡を前髪で隠している。
「えっ、もしかして……エミルさん!?」
「よう」
「あいちゃん、知り合いなんですか?」
コンパが尋ねると、アイエフは冒険者の前に立ってから、ケイト達の方を振り向いて
「この人はエミル・ヴァーミリオンさん。モンスター退治や、護衛、宝探しと言った荒事専門何でも屋、バウンティーハンターをしながら旅をしているの。私も、仕事で何度か組んだ事あるのよ」
「そう言う事。まっ、よろしく頼む。しかし、珍しいなアイエフが仲間連れなんてな」
「それは、少し訳ありなんですよ。えっと――」
アイエフは次にケイト達の事を紹介して、そのまま彼の隣に腰をおろした
「ふぅん、コンパにケイト、それにネプテューヌ、ねぇ」
「それで、エミル。さっき言ってた話だけど――」
「ちょ、ちょっとネプ子、エミルさんは私たちより年上なのよ。そんな呼び捨てなんて――」
「別にかまわねぇよ。同じ年齢の奴から呼び捨て所か愛称呼ばわりされてるぐらいだからな」
今更気にしない。と言う風に手を振って、アイエフの言葉を止めて
「そんじゃ話を戻すが、なんかあんたらアブニール討伐に燃えてるみたいだけど、具体的にどうやって倒すつもりだ? 確かにあの企業はここら辺の仕事を独占してるが、企業の活動自体に黒い噂は全然聞かないぜ。まさかとは思うが、アヴニールの所為で仕事失った連中集めて、ケンカでもふっかけるつもりか?」
少し小ばかにした様な物言いに、シアンが少し表情を険しくして――
「……俺達だって、そんな無謀な事をするつもりはないさ。ちゃんと考えはある。今年は待ちに待った総合技術博覧会の年だしな」
「……そうごう、ギジュツ、博覧会? それってなんです。お祭りでもあるんですか?」
「そういえば、三人はラスティション初心者だったわね。……面倒だとは思うけど、一から説明してあげて。あ、かくかくしかじかってのは無しよ? 分んないから」
シアンは「ちょっと待ってな」と頷いてからそのまま奥の方に引っ込み、やがて一枚のポスターを持ってきてケイト達の座ってるテーブルに広げ、カウンター席に居たネプテューヌも傍にやってきて、ポスターを覗き込んだ
「ラステイションでは四年に一度、総合技術博覧会ってのがあって、いろんな会社が決められたジャンルで展示を行う催しがあるんだ。目的は技術交流らしいが、それだけじゃない! 出展したモノの中で最も優れた展示品には女神様から直々にトロフィーが送られるんだよ!!」
「なるほど、そういう訳か」
そこでエミルは納得したようにニヤリと笑みを浮かべ、ケイトもその後に「ああ!」と合点が言った様に声を上げた
「トロフィーが送られるですか? スゴイですぅ! ……でも、トロフィーでアヴニールさんをやっつけるですか?」
トロフィーと言う言葉にコンパは一瞬目を輝かせるも、すぐにその表情に疑問の色が浮かぶ。コンパの頭の中では、小太りでスーツを着た、いかにも悪者と言う様なはげたオッサンにシアンがトロフィーで殴りかかっている風景が浮かんでいた。それを知ってか知らずか、エミルが「ハハッ!」と短く笑ってから
「そんなんで会社潰せたら苦労はしないだろうな。じゃなくてだ、博覧会でアヴニールより優れた技術力を見せ付けて、更にそのトロフィーを貰う時に女神様に直談判、ってところだろ?」
「その通りだ。恐らくアヴニールの悪行が放置されているのはやっぱりアヴニールの技術力が優れているからだと俺は思ってる。だから、博覧会でそれを覆して、なおかつ女神様に直接申し立てる訳さ」
「なるほどです! でもその為には、シアンさんがとってもとってもがんばらないとダメですよ?」
「それもそうだが、何事にも先立つものは必要だ。やっと本題に入るけど、今日来てもらったのはその話をする為なんだよ」
「借金の保証人なんか絶対しないよー!」
「はははっ! 先立つものって言ってもお金じゃねーよ! 資材や道具を運ぼうにもモンスターの脅威は増すばかり……ネジ一本だって命がけだ! それで、これからもこまめに仕事を頼むだろうからよろしくって事さ」
シアンがそう言った瞬間、ネプテューヌは一瞬だけハッとなりすぐさま表情を険しくして反論するが、シアンは特に気を悪くした様子もなく、笑って流すと説明を続けた。つまりは資材の運搬、もしくはその護衛に自分達を頼ってくる。というわけだ
「なるほど。やっと少し見えてきたよ。博覧会の準備を、モンスターに邪魔されないように手伝って欲しいんだね?」
「そう言う事だ。なんだ、意外と物分りいいじゃないか。たまにムリもいうかもしれないが、なにとぞ頼む」
「まぁ、頑張るこったな。と、それとは別にして、だ」
エミルがコップの水を一気に飲み干してから太刀を背中に背負う
「アイエフ、俺はこれから一仕事あるんだが久々に一緒にどうだ? そこそこ報酬も良いし、路銀稼ぎにはピッタリだぜ」
確かに、ラステイションはアヴニールの仕事の独占により景気が低下傾向にある。それは自分達の受ける依頼の報酬にも影響しているのは前に知っての通りだ。総合技術博覧会が開催されるまではラステイションに滞在する必要がある
「そうですね。でしたら邪魔でなければ、ご一緒させてください」
「そうこなくっちゃなっ! とは言え、あんたらからしてみれば余り良い仕事じゃねぇかもしれねぇけどな?」
その言葉に、コンパとネプテューヌは頭に?マーク。ケイトとアイエフは察しが着いたらしく「ああ」と苦笑を浮かべた
「ねー! なんで!? アヴニールは悪い会社だって分ったのになんでそこの仕事なんかするのー?」
「予想通りの反応ありがとさん。言っただろ? あんたらにとっちゃ余り良い仕事じゃねぇって」
アヴニールはこのラステイションの人々を苦しめる敵だと言うのに、なんで態々そんな相手を助ける様な事をしないといけないのか。依頼人との待ち合わせ場所に着いた所で、エミルが今回の依頼の内容、というより依頼人を説明した段階で、ネプテューヌは顔を険しくしてエミルに詰め寄ったがエミルは予想通りの反応にネプテューヌの抗議をサラッと流して肩を竦めた
「理想だけじゃ食べていけないでしょ? ご飯も仕事も好き嫌いしてたら立派な大人になれないってコト。yしゃんとして、依頼主が来たわ」
アイエフの視線の先から、鋭い目つきをした初老の男性がこちらに近づいてくる。すると、エミルが前に出てその男性と対面、しばらく間があってから相手の方から口を開いた
「……まぁ、社の者が頼んだのなら仕方が無い。わたしが市外のプラントを視察する間に周辺のモンスターを一掃してもらいたい」
「モンスターの討伐な、了解。っと、他になんか注意する事は?」
「くれぐれも、モンスターを逃がして施設に被害を与える様な真似だけはしてくれるな。……では、後は任せる」
相手はどうやらこちらと話すつもりは無く、必要最低限の事のみを伝えに来たらしい。長年、色んな依頼人に会って来た経験と感から、そう読み取ったエミルはこちらも余計な問答はせずに必要な事のみを聞いて去っていく依頼人を見送った
「なんか、感じ悪いです……。きっとシアンさんの時と同じで、子供だと思って侮ってるです。失礼しちゃうです」
「まーコンパとネプ子が一緒じゃ、そう見られるもの仕方ないかもね」
「えーっ! わたしそんな子供じゃないよーっ! 立派なレディーだよーっ!!」
「アイちゃんだって、人の事言える様な身長と胸じゃないです」
「ちょっ!? 胸は関係ないでしょ! 胸はっ!」
と、ネプテューヌ達が騒いでいる中、エミルはケイトの方に近づいていった
「ったく、賑やかなもんだな。あんたら、いつもこんな調子で旅してんのか?」
「ええ、まぁ。いつもって言うほど、旅を始めてから長い訳じゃないですけど。エミルさn「ストップ」え?」
「年上つっても、そんな大きく離れてる訳じゃねぇんだ。堅苦しいのは無しにしようぜ」
「そう、ですか?」
「ほれ、早速敬語になってるぞ」
ケイトはそれでも年上のエミルと普段どおりに話す事に抵抗があったのか、しばらくエミルの方に目を向けながら困惑していたが、やがて観念して、咳払いをしてから
「……まぁ、そっちがそれで良いって言うなら。話し戻すけどエミルは旅に出て長いのか?」
「まぁな。かれこれ……もう5,6年ってところだな。ケイトは……旅は初めてって雰囲気だな」
「旅どころか何もかも初めてだらけだよ」
旅、モンスターとの戦闘、そしてこの世界自体、ケイトにとっては初めてだらけな事ばかりだ。ネプテューヌ達と一緒だからこうしてやっていられるけど、何時までもこうと言う訳にはいかない。何より、必ずしも彼女達といつまでも一緒という訳ではない。目的を果たし時、もしくはモンスターとの戦闘で誰かが命を――――
(……?)
そう考えた時、突然胸が痛くなり、思わず胸の辺りの服を握る。いや、日は浅いとは言え仲間が死ぬ事はとても悲しい事なのは当たり前だ。だが、それとはまた別の喪失感が去来した
「どうかしたか?」
「あっ、いや……なんでも、ない」
「……まっ、大丈夫だって言うならいいけどよ。間違っても戦闘中ボーっとしないでくれよ」
「言われなくても判ってる」
「エミルーっ! ケイトーっ! 早く来ないと置いてくよーっ!」
「今、行くっての。そうあせんなって」
ネプテューヌからの呼び声にエミルが3人の下へ歩いていった後、ケイトも最後に胸に手をあてる。今までに無かった別の感情、それがなんなのか判らない。が、今は気にしている余裕も無い。とりあえず、その事は脇に置いてから、その後に続いた
「やれやれ、アイエフもとんでも無い奴と冒険してるな」
こちらは独りで大丈夫だからと、3人とは別行動でモンスタ−の討伐にあたってる。まぁ、同時にあまり見られたくない事をするのも理由の一つだけれども。そしてネプテューヌ、彼女はきっと“あの二人”が言ってたネプテューヌの事なのだろう
(まぁ、俺が関われる問題じゃねぇけど)
これはあくまで彼女達の問題であり、自分が介入できる事ではない。その資格を持っているのは“彼女”だけだ。とは言え、彼女達とは縁がある以上それが少し寂しくも思うが……
「っと、お出ましか」
エミルはそこで思考を中断し、ざっと周りを見渡す。1,2……かなり居る。エミルは右肩に手をあてながら右腕を回し、背中の太刀を止め具から外し構える。それと同時に、エミルの周囲からモンスターが一斉に飛び掛ってきた。が、エミルは気圧されるどころか逆に口元を吊り上げ
「斬鉄……旋風っ!」
そして、ケイトの旋風輪の様に、横に一回転し飛び掛ってきたモンスターを纏めてなぎ払う。それで、モンスターの勢いを削いだところで、反撃とばかりに目に付いたモンスターに太刀を振り下ろし、真っ二つにし返す刃でもう一匹、三日月状の刃で抉り飛ばす。圧倒的な実力差、モンスターはその本能からそれ以上の攻撃が出来ず、思わずエミルから一歩距離を置く。
「一匹残らず潰してくれとのお達しなんでな。悪いが、運が無かったと思って諦めてくれ」
本来ならばモンスターは狩る者であり、人は狩られ蹂躙されるはずの存在。しかし、今この場ではその立場は間違いなく逆転していた
「ほい。これでこちらはお仕舞い、っと」
最後の一匹を横になぎ払い、仕留めたのを確認するとエミルは太刀の切っ先を下に下ろして構えを解いた
(後はアイエフ達の方か、まぁ、ネプテューヌが居るならそうそう負ける事はねぇだろうが……一応、見に行くか)
そして、ケイト達の居る方に向かおうとした所で足を止める
「……の、前にまずはこっちか」
エミルがそう呟いた瞬間、上から何かが降ってきた。それは巨大な二足歩行の人狼。赤い目つきでこちらをにらんでいる。エミルは先手必勝とばかりに、太刀で斬りかかるもそれは人狼の腕に防がれた。どうやら、かなり頑丈な剛毛をしている。とは言え、エミルはうろたえなかった。それはこちらもホントの意味じゃ本気ではないから
(まぁ、時間も無いしさっさと終わらせますか……)
エミルは左手をゆっくりと握り締める。この武器、そしてエミルと言う名前と共に残っていた失われた記憶の手掛りとなりうる……それは、力
「深層意識との精神接続バイパス展開……紋章機関、第一拘束機構解放」
そこで、人狼はエミルに襲い掛かってくる。それを横っ飛びで回避。
「……紋章機関『剣狼』、駆動っ!!」
その瞬間、エミルの左手の甲にある紋様が浮かび上がり、その状態で剣を握ると刀身が黒を混ぜた紫の炎の様なエネルギーに包まれる。そしてそのまま人狼を一閃。モンスターはさっきと同様、腕でガードする。しかし、次の瞬間にモンスターの腕は斬り飛ばされ、モンスターの悲鳴と共にそれは血の様に赤い粒子となって消える
「もういっちょっ!」
そして、そのまま峰の刃を使い相手を切り上げる。それがモンスターの胸部を切り裂き、そこからも粒子がもれ始めている。それでもモンスターとしての本能が、目の前の人間を蹂躙すべく襲い掛かる。蹂躙されているのは自分だと気付かないまま
「これで、トドメっ!」
エミルは太刀を片手に持つ。すると、フリーハンドになった左腕の紋章から赤黒い光が湧き出し、エミルの左手を包み、やがてそれは一回り大きい巨大な悪魔の腕の様な形を取る。その状態でエミルもモンスターとの間合いを詰め、襲い掛かってきたもう片方の腕を太刀で斬り飛ばし、左手の巨大な爪で、モンスターの胸部を貫き、握り締めて、モンスターを持ち上げる
「喰らい尽くせっ!」
その言葉に呼応し、モンスターの肉体に太刀纏ったのと同じ黒紫の亀裂が走り始め、やがてそれが全身に広がると同時にモンスターの肉体そのものが粒子化、そのままエミルの左腕に吸込まれ、消えた。左手が元に戻り、こんどこそ完全に辺りのモンスターが居なくなったのを確認。と同時に紋章も消える
「相変わらず、エグイもんだな……」
使っておいてなんだが、あまりいい気がしない。何せあの状態では圧倒的な戦闘力を得るだけでなく、この力は相手の――――
(なんでこんな力をもっているのかねぇ、俺は……)
それは目覚めてから行ってきた自問自答。けれど、記憶が無い以上その答えは出ることは無い。
(さて、アイエフ達の調子はどうかな、っと)
故に、最近はすぐに頭の隅に追いやる様になった。そして今回もそうなってすぐに意識はアイエフ達の方に切り替わる。エミルは太刀を止め具に戻して、みんなと合流すべく、その場を去っていった
「よし! キレーになった!! もーいないよね?」
「もう全然見当たらないです! もしいても、もう逃げちゃってるですよ。今日のお仕事は完了ですぅ」
「よう、そっちもお掃除完了したみたいだな」
モンスターを粗方討伐し終え、ネプテューヌ達が武器を仕舞うと同時に、エミルも3人と合流した。
「完全に駆逐できたかは分らないが、少なくてもこの辺りにはもう居ないと思う」
「そっか、こっちも途中ボスみたいな奴を仕留めたからな。この辺りは当面は群れでモンスターが出ることはねぇだろうな。まっ、何はともあれお疲れさん」
そう言って、エミルは軽く手を上げたのでケイトも同じ様に手を上げてハイタッチ。そこに丁度、視察を終えた。依頼主の男性が戻ってくる
「視察は終了した。……モンスターの駆除も終わったか? この辺りのモンスターは全部倒したんだろうな?」
「ああ、粗方排除は完了した。ボスと思える奴も仕留めたから、万一生き残りが居たとしてももうこの辺りからは逃げた後だろうさ」
「そうか……だが、もしモンスターが残っていて施設に傷の一つも付ける様な事があれば……今後一切、君達に仕事は頼まん」
相手はエミルの報告を聞き終えると、無言で報酬の入った皮袋をエミルに投げ渡し、人に興味の無い……というより見下した目つきで淡々と告げた
「そ、そんな大げさですぅ。壊れても、すぐ直せば済むじゃないですか……」
「……何も分っておらんな。対して焼くにも立たん人間の分際で機会を軽んじるなど、おこがましい……!! 人に機械ほどの精密さがあるか? 人に機械ほどの正確さがあるか?」
初めて目の前の男性が少しだけ感情的になり、コンパに言葉を投げかける。が、それはとても威圧的で人を否定する物言い。それに気圧され、コンパは若干涙目になっていく
「そ、そんな事言われても、わかんないですぅ。わたしは機械じゃ、ないですからぁ……」
「そうだな。君は機械ではなく不完全な人間だ。いつどこで、ミスをするか分らない。だが私は人間だからと言ってミスを許すつもりは無い。ミスをして当たり前。それが人間ならわたしは迷わず機械に仕事を頼むだろう。君達にも。次から我が社の仕事を受ける際には、それぐらいの危機感を持って、やってもらいたいものだな……」
そう言い残して、男は踵を返し去っていった。後には唖然としているケイトとネプテューヌとアイエフ
「今まで色んな依頼人を見てきたが、とんでもねぇ奴だな……」
呆れ気味にポツリと呟くエミル。そして――
「な、なな、なんでわたし……あんなにおこあえたで……です……ですぅ……。わたし、何か、悪い事、いったですか?」
「泣かない泣かない。コンパは何も悪くないわ。っていうか大人気ないわね。女の事を脅すなんて……!」
コンパの頭を撫でながら彼女を慰めていたアイエフだが、やがて男性が去っていった方向を睨み付ける
「わ、わたしが……機械をバカにしたとか思われちゃったんです、きっと」
「機械をバカにされたっていうか人間をバカにしてるって感じね、アレは!」
「むーっ! だからアヴニールの仕事なんて受けるべきじゃなかったんだよーっ!」
「まぁ、とりあえず報酬は問題なく貰った訳だしこの話はこの辺にしてシアンのところに戻らないか? 時間も時間だし、そこで昼飯でも食べてさ」
「だな、しっかし……あれがアヴニールの代表サンシュ、か」
4人が街に向かい始めた所で、エミルはもう一度三種が去っていった方を無言で見つめていたがそのままケイト達の後に続いたのだった
「ただいまーっ! あーくつろぐなぁ……この汚いカウンター! 差し迫る狭い造り! こびりついた食べ物さんの匂いー」
シアンの店に到着するや否やネプテューヌは再びダッシュ、カウンター席に座り今度はケイト達もカウンターに座る。エミルだけはケイト達から離れ、壁際の席に近寄り、太刀を外して壁に立て掛け、上に来ていたロングコートを脱いで椅子の背に掛けてそこに座った
「……はっ倒すぞ! そう言えばお前等、あのサンジュに会ったんだろ? どうだ? 嫌な奴だろう!!」
「会った! アイツ、機械がどうこうってコンパを泣かせたんだよ! 絶対、悪者だよアイツ!!」
「あー……やっぱそんな事言ってたか。あいつは、なんて言うか、人のモノ造りを全否定してるかんじだからな」
シアンが5人に水を差し出しながら答える。どうやら、工場をやっていない時はこっちの店を手伝っているらしい
「シアンも会った事があるの?」
「もちろんだ。問題の会社の代表だし。アイツ、俺が居た専門学校のOBだしな。特別講師で来た時に会ったけど、たぶん、その時と同じ事を言ったんだろ。人に機械ほどの正確さがあるか? ……とかな」
「ご名答、ずばりその通りだよ」
「……アイツは、技術者の腕を否定する。技術者の誇りを否定する。だから嫌いだ。それだけじゃないけど、嫌いだ……」
シアンはお盆を脇に持って、どこか遠い目をした。昔、彼と何らかの因縁があったんだろうか?が、それは他人であるケイト達にはおいそれと伺う事など出来ず、しばらくシアンに目を向けているだけだったが、その視線に気付いたシアンは一瞬だけハッとなってからすぐにいつもの雰囲気に戻り――
「あ、今なんか、らしくない事言ったな俺! そんな事より仕事の話をするか! 今日は隣町まで行って、シェーブルの資材屋から必要な資材を受け取ってきてほしい。なじみの店だから、地図を渡しておく」
そう言って、作業着のポケットから予めコピーしていた地図を一番近くに居たケイトに手渡し、ケイトがそれを広げて中を確認していると時、店内に流れていたラジオ放送に一瞬だけノイズが走り
『……放送の途中ですがここで協会からの公共情報をお送りします』
『例年より大分発表の遅れていた総合技術博覧会に関してですが、教員関係者の話では今年の開催は見送られる事になりました』
「っおい!? ちょっと待ってくれよ!!」
その内容に全員が驚きの表情を見せて、シアンは目を見開き、ラジオに向かって叫んでいる
『教院側は参加企業の減少を理由として挙げていますが、民間の実行委員会からは教院主導の大陸行事に対し、国政院による圧力があったのではないか、との意見から反発が強く、今後の方針について充分な審議がなされるのかどうかにも、疑問の……』
「ふざけるなっ! 今やらなくていつやるってんだ!? 四年後まで待ってたら参加する工場なんて本当に、一つもなくなっちまうんだぞ!!」
「ちょっ! シアン、落ち着いてよ!!」
「この工場にとっても……もう今年が最後のチャンスかもしれないのに……!!」
突然に発表に、店に食事に来ていたお客もざわめきだした。今だ取り乱しているシアンをネプテューヌ達が慰めている中、エミルだけは真剣な表情で無言のまま口元に手をあてて何かを考えていた
説明 | ||
疾風ことアゼルから聞かされた言葉。それは地球への帰還の否定。この地で、自分の生きる道を見出した親友をケイトは心からの祝福を持って受け入れ、友の行く末を見届けたケイトは改めてイースン救出と地球への帰還方法を探すべく旅を続けるのであった | ||
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