BIOHAZARD ~WITCHES HUNT ~ chapter1 〜魔女と傭兵〜
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東欧・イドニア共和国。

この国は今、戦乱の渦中にあった。

80年代後半、他の東欧諸国同様に民主化を果たしたイドニアであったが、民主化して20年がたち、徐々にその内政に混乱が見られるようになった。

 

この混乱に乗じ、一部将校たちによるクーデターが発生。イドニア市庁舎の占拠などが行われたが、皮肉にもそれが混乱していた政府の足並みをそろえることなった。

 

国民の支持を失いつつあった当時の首相は議会を解散。

代わってEU諸国との関係強化を訴える政党が第一党となり、イドニアの内政は、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。

クーデターを起こした勢力は、徐々に追い詰められ壊滅状態にまで陥ったが、それでも一部過激派は反政府軍となって頑強な抵抗を続けた。

 

しかし、その状態も長く続かず、周辺諸国の不安定な政情に便乗する形で、反政府軍は再起。

加えて一部の貧困層が便乗して暴徒化したため、2010年、ついにイドニアは内戦状態へと陥った。

その内戦に、新たな混沌の種、『Bio Organic Weapon』…通称『B.O.W』が放たれたという情報が、現地に派遣されていたNGO団体を通じて国際連合へと届いたのはそれから間もなくしての事であった…

 

 

2012年 12月24日 イドニア共和国首都近郊のとある市街地――― 

 

「はぁ! はぁ! はぁ!」

 

激しい銃撃音や爆音とヘリコプターや戦車の駆動する機械音、そして人々の怒号や悲鳴の響き渡っている戦場の最中、必死で走る一人の女性の姿があった。

赤いロングヘアに深緑色の軍服、そしてその下半身には何故か濃い赤紫色のローレグと靴を除いて何も付けていないという破廉恥な格好をしたその女性は近くで衝突している政府軍や反政府軍の双方に極力見つからないように絶えず周囲を警戒して、伏兵の存在がないか確認しつつも、決して走るスピードは落とそうとせず、崩れ落ちた廃墟や裏路地、さらには常人であれば入ることにも戸惑ってしまうであろう古びた下水道のトンネルを躊躇なくくぐり抜けて、巧みに混沌の真っ只中へと突き進んでいく。

 

方向感覚はとっくの昔に狂っていて、自分がどこへ向かっているのか判らない。

しかし、彼女は立ち止まる事ができなかった。

敵が近づいている…逃げなければ殺される…

所持している自動拳銃 ワルサーPPKの弾丸は残り僅か…敵はまともに抵抗するだけ無駄な程の大人数…

そうなれば彼女に残された唯一の道はただひとつ…逃げる事しかなかった。

 

しかし、ここまで必死に逃げなければならないなんて何年ぶりの事だろうか?

そもそも、ずっと大空を舞台に戦い続けてきた自分がこうして、地上の戦場を駆け抜ける事自体、久々の事じゃないか。

 

国連平和維持軍第501統合戦闘航空団隊長である “魔女《ウィッチ》”。 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は、必死に走りながらそんな事を考えていた―――

 

ウィッチとはこの世界に存在する特別な力 “魔法”を発揮でき、脚に装着するタイプの飛行推進機“ストライカーユニット”を唯一使うことが出来る少女達の事である。

普段は身体能力を強化させたり、魔力のフィールドを張ったり、ちょっとした質量の物を動かしたり、ごく稀にほうきで空を飛ぶ程度だが、ストライカーユニットを装着した時は魔力の増幅で様々な能力を発揮できる。

魔力を使える人間は圧倒的に女性が多く、しかも魔力の影響か容姿に優れた女性が多い。10代をピークに年齢と共に魔力を失うことが多く、中でも魔法シールドを失うことで戦士としての寿命が終わってしまう。この理由から兵役期間がとても短く、人々から「儚い花」さながらの憧れの象徴とされている。

その歴史は非常に古く、遡っては、かの世界中が戦場と化した第二次世界大戦の時代に魔法、そしてウィッチの存在は連合国内の間で明らかとなったが、その存在は当時の国々の間では国家レベルでの最高機密扱いとされており、一部のウィッチを除き大部分は、忌まわしき世界大戦の中で兵器として扱われる事なく、1945年、大日本帝国が降伏して戦争が終結した後、連合軍が中心となって設立した国際連合の内部で行われた審議の結果、国連の監視下に置くというリスクは残しながらも、ウィッチ達はその存在を公表される事なく、平穏な生活を保証される事となった。

しかし、それから大きく時を経て、20世紀末に突如として世界への放たれた“脅威”の存在が、ウィッチ達の平穏を破り、その存在を世に知らしめる大きなきっかけとなった…

 

北米を拠点に世界各国にシェアを展開していた巨大製薬企業“アンブレラ社”は、その裏でウィルス兵器やそれを使った有機生命体兵器“B.O.W”を開発していた。

だが、1998年。その研究拠点のひとつであったアメリカ中西部“ラクーンシティ”で事故が発生した事をきっかけに、同社が最も力を注いでいたウィルス兵器 『T-ウィルス』が街中に漏れ、多くの無関係な人々が犠牲となった。

問題は、T-ウィルスに感染した者が“死んだままではいなかった”事である。

そのウィルスに感染し、死に至った者は脳細胞をウィルスに侵食される事で、生きる屍“ゾンビ”と化してしまう。そしてゾンビは感染の及んでいない生存者に襲いかかり、ゾンビに噛まれた者もまた、傷口からウィルスに感染しゾンビと化してしまう…

まさに無限地獄のように感染の連鎖は広がり、ついには街全体がゾンビやその変異体であるクリーチャー達の蔓延る死の街と化してしまった。

さらにアンブレラ社はそれを好機と見て、ラクーンシティにT-ウィルスの産物によって生み出された怪物 B.O.Wを放ち、実験を強行しさらに犠牲者を増加させた。

アンブレラはアメリカ政府に市民を隔離するように働きかけ、一方アメリカ政府もアンブレラの最大の顧客であり、非合法な研究なども黙認していた経緯を持っていた為、これを機にアンブレラと政府の関係が世間に知れ渡ってバッシングを浴びてしまう事を恐れ、それを隠蔽するため、ラクーンシティを爆撃したのだった。

 

しかし、ラクーンシティでの事件の生存者の証言や証拠を通じて、アンブレラの生物兵器開発が世間に露呈。

手に負えなくなったアメリカ政府によって操業停止命令を受け、企業的信用を失して株価が暴落、そしてアメリカ政府にも世界中から大バッシングが浴びせられるようになり、特に第三世界を中心とした発展途上国はアメリカへの信用を大きく下げる事となった。

さらに、この混乱に乗じて私利私欲を働こうと目論んだ一部の人間の手によってアンブレラからB.O.Wが流出…

その結果、世界各地でラクーンシティの再来とも呼べる大規模な生物災害“バイオハザード”が頻発するようになってしまった。

そして、B.O.Wは瞬く間に改良を重ねられ、ついには通常の警察組織や軍隊の手には負えない程の戦力を持つB.O.Wが各地で目撃されるようになり、特に飛行型B.O.Wは戦闘機より遥かに小柄で俊敏かつ、ミサイルの熱探知レーザーにも反応しないなどして航空戦闘において人類側を遥かに苦しめる事となった。

この事態にアメリカは、ついに機密扱いであったウィッチ達をB.O.Wに対応する為の戦力として導入する事を提案。さらに、研究の結果ウィッチ達が持つ魔力は、B.O.Wの持つ生物に有害なウィルスを打ち消す能力がある事が判明し、より強く推し進める事となった。

だが、それを国連の議会で発表した当初、各国の反応は年端もいかない少女を怪物と戦わせるという前代未聞の提案に、少年兵問題と重ねて非難する声が上がったりと、賛否両論であった。

しかし、各地で発生するB.O.Wの脅威はとどまる事を見せず、徐々に世界規模で拡大していく被害の前に、国連もついにウィッチの存在の公表と、その対B.O.W戦力としての導入を容認せざるを得ない状況となった。

こうして幾多の条件を付けながらも、ウィッチは正式にB.O.W専門の兵士として各国の軍隊、そして国連平和維持軍に導入される事となった。

また、それに伴い国連は各国の優秀な技術者を集結させ、ウィッチ達が確実に且つ安全にB.O.Wと戦える為に、魔力を動力にする「魔導エンジン」により駆動される機械装置『ストライカーユニット』を開発。

それによって魔力を適切にコントロールし、一部の訓練をつんだウィッチにしか出来なかった飛行能力や身体能力強化、防御魔法などを特別な訓練無しに使えるように出来る事が可能となり、ウィッチの戦力発展に大きな貢献を果たした。

 

こうして、B.O.Wとの戦いに導入された魔女(ウィッチ)達は各地で瞬く間に戦果を上げ、B.O.Wの制圧に成功していき、何時しか人々から“希望”の象徴と見られるようになっていった。

一方、B.O.Wの根源とされたアンブレラ社は2004年、ついに事実上の廃業へと追い込まれ、B.O.Wの脅威は去ったかに思われた。

 

だがそれは間違いだった。アンブレラの崩壊は、その手中にあった生物兵器が本格的に世界中のテロリスト達の手に渡り、紛争地域で悪用されるという新たな惨劇の始まりを意味していた。

人々はB.O.Wだけでなく、それを悪用したテロという新たな恐怖に慄く事となり、各国は生身の人間相手に戦う事が許されていないウィッチ達に代わって、バイオテロリスト達の封じ込めとその取り押さえを図るため、製薬企業連盟が創設したバイオテロ対策部隊『BSAA』を国連直轄の新組織として再編。ウィッチと並び、新たなB.O.Wと戦う戦力が登場する事となった。

こうしてウィッチ達とB.O.Wとの戦いが新たなステージへと突入していく中、国連は2010年に平和維持軍内に、BSAAとウィッチの組織的連携をより効率よく進められる為にその仲介組織であると同時に精鋭部隊として第501統合戦闘航空団「STRIKE WITCHES《ストライクウィッチーズ》」を組織し、各国のトップエースや将来有望な若いウィッチを招聘する事となり、世界各地で活躍するウィッチ達の先鋭としてバイオテロとの戦いに身を投じる事となったのだ。

 

その栄えあるストライクウィッチーズの隊長を務めるのがミーナである。

ミーナはドイツ連邦空軍に籍を置く前は、ドイツの情報機関 BNDの諜報部員として所属、ドイツ本国やヨーロッパ各地におけるバイオテロリストの情報を入手し、幾多のバイオテロを未然に阻止した経験を持っていた。

そして、ウィッチとしても戦闘力は高く、ドイツ連邦空軍に移籍してからは巨大飛行型B.O.Wに対し150体を超える撃墜スコアを挙げている。

 

そんな有能なウィッチである彼女がストライカーユニットを装着せず、この混沌とした戦場の真っ只中にいるのには理由があった…

 

 

1ヶ月前…2012年 11月25日。

欧州にある第501統合戦闘航空団の基地―――

 

「ミーナ!」

 

いつものように書類整理をしていたミーナの下に、右目を眼帯で隠したポニーテールの女性が深刻な表情で駆け込んできた。

 

「美緒!? どうしたのそんなに慌てて」

 

ストライクウィッチーズ教官にして、ミーナと共に隊の先頭を担う存在…そして公私共に彼女の良き理解者にして親友である、日本人ウィッチ 坂本美緒少佐が、めったに見せる事はない慌てたような様子を見せている事に、戸惑いを覚えながらもミーナは彼女を落ち着かせて、その理由を問いかけた。

すると美緒は息を切らせながらも、ミーナに一枚の手紙を渡した。

 

「さっきICPOから届いた伝令だ。 私とミーナにのみ閲覧が許可された機密扱いという事で私が直々に届けたんだ」

 

「ICPOから? 機密扱いとはどういう事かしら?」

 

ICPOとはバイオテロを含む国際的な犯罪を捜査、阻止する為にある警察機関 『国際刑事警察機構』の略称である。

ストライクウィッチーズやBSAAとの繋がりも深く、時には両組織ともバイオテロ関連の捜査などで協力する事もあった。そんなICPOの上層部から自分と美緒宛に直々に極秘の伝令が届くとは余程の事があったらしい。

そう考えながら、ミーナは美緒から手紙を受け取り、その文面に目を通した。

そして、そこに記されていた伝令の内容に思わず目を見開いて驚く事となった。

 

『東欧・イドニア共和国の戦闘区域領内においてウィッチの失踪事件多発。 至急、その原因を調査せよ』

 

文面の書き出しはそう記されていた。

その後は長々と事の詳細が記されていたが、内容をかいつまむとこうだ。

東欧の紛争地域『イドニア共和国』で2010年の内戦勃発以来、戦場において正体不明の生命体の目撃情報が相次いでおり、幾多の調査の末に国連はこれをB.O.Wと判断し、各国のウィッチ達による戦場への介入を開始してた。

だが、2ヶ月前に一人のウィッチが警邏飛行中に消息を絶った事を皮切りに、イドニア国内で次々とウィッチ達が相次いで行方不明となる事件が勃発していた。

既に現在までの行方不明となったウィッチの数は把握できるだけで36人。

国連は早急にBSAAを中心とした傘下組織に調査を命じたが、その原因や消えたウィッチ達の行方は未だ掴めていない状況にあるという。

これを受けて、各国政府は自国のウィッチをイドニアへ派遣する事を中止し始め、国連も有力な対抗策を打ち出す事ができずに困惑している状況にあるという。

 

「ひとつの戦いでこれだけのウィッチが行方不明になるなんて…」

 

この内容に驚きを隠せないミーナ。

まさか、『行方不明』という単語が出てくるとは穏やかではない。

今までも幾つかB.O.Wとの戦地に派遣されたウィッチが負傷したりトラブルに巻き込まれるがあったが死亡者はおろか失踪者すらも殆ど出ていない連戦連勝の状態である筈だった。

それがまさか36人も相次いで行方不明となるという今回のケースは、今まで様々なバイオテロの現場を見てきたミーナや美緒にとっても明らかに異質なものに感じられた。

 

「それで、各国が自国のウィッチを派遣する事に抵抗を示しているから、私達ストライクウィッチーズから調査要員をイドニアへ派遣するように依頼が来たというわけね」

 

「そういう事だ」

 

美緒がそう言うと、ミーナは難しそうな表情を浮かべ、腕を組む。

 

「困ったわね…今、ウィッチーズは全員揃っていないし、それにウィッチが被害を受けている以上、これはかなり危険性が高い任務だから誰を派遣すべきか私の一存では決めかねるわ」

 

現在、ストライクウィッチーズは日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、東欧からそれぞれ選出された実働要員のウィッチ9人と、その教官兼現場指揮官を務める美緒、そして部隊長のミーナの合計11人によって構成されている。

そして今、その内4人のウィッチが各地のバイオテロの現場に向かっており、その他の隊員もそれぞれの諸事情で基地を離れている為、現在すぐに動けるウィッチはミーナか美緒しかいない状況にあった。

 

「だったら こうしよう。 一先、私がイドニアへ行って状況を見て確かめてくる」

 

「えっ!?」

 

突然の美緒の言葉に驚くミーナ。

 

「貴方が、一人でイドニアへ?」

 

「あぁ。 所謂現状査察だ。 それでその報告に基づいて、その後の本格調査を始めるか否かはお前が決めたらいい」

 

「でも…一人で向かうのはやっぱり危険じゃ…」

 

ミーナはそう言って美緒を心配するが、決して彼女の実力を疑っている訳ではなかった。

2005年 各地で多発し始めたバイオテロに対し、日本政府は対抗策として自衛隊の科学対策部隊を対特殊生物(B.O.W)戦闘専門の部隊として独立・発展させた陸海空三軍とならぶ第4の自衛隊『特生自衛隊』を設立した。

美緒はその特生自衛隊に所属するウィッチ部隊第一期生の一人であり、幾多のバイオテロとの戦いにおいて大きな活躍を見せてきた。

射撃能力や魔力の高さもさることながら、日本刀を最も得意とし、幾度のB.O.Wとの戦いにおいてその天武の才能を遺憾なく発揮してきた通称『サムライ』の異名を持つ歴戦の猛者である。

そんな美緒が簡単にやられるわけがない事は、自分が一番理解しているつもりでいるミーナだったが、それでも美緒を単独でイドニアへ向かわせるという事には少々抵抗感があった。

決して不安する事など無いはず…けれどもミーナの胸の内には何故か途方もないほどの不安が過ぎっていた。

 

「ハッハッハッハッハッ。どうした? 今日はやけに心配症だなミーナ。ひょっとして私がイドニアへ行ってしまうのが寂しいと思っているのか?」

 

「そ…そういうわけじゃなくて!」

 

美緒は単なる冗談のつもりで言ったのだが、ミーナは真に受けて思わず赤面しながら抗議する。だが、そのお陰で胸の内にかかっていたモヤモヤが少し晴れた気がした。

 

(そうよね。 美緒に限って、私が思い悩むような不覚をとる事なんてないわよね? きっと大丈夫…うん)

 

ミーナは心の中でそう言い聞かせるようにしながら、決心を固めた。

 

「わかりました。 それでは坂本少佐、貴方に連続ウィッチ失踪事件の捜査の為の事前調査としてイドニア共和国へ出向を命じます」

 

ミーナの凛とした物言いに、美緒は直ぐ様真面目な表情になって敬礼を持ってして答えるのであった。

だが、美緒がイドニアへと出発してから1週間後…あの時抱いていたミーナの不安は予想もしなかった形で的中する事となってしまう。

 

2012年12月2日。イドニアにて美緒と合流し、合同で調査にあたっていたICPOの調査団が「…巨大なB.O.Wに…」という通信を、最後に消息を絶ったのだ。

通信回路を追って、最後にリンクできた場所へBSAAの捜索部隊が向かったところ、首都から少し離れた山岳地帯において行方不明であった調査団は発見された。

調査団は隊長で元BSAA欧州本部エージェントだった ロベルト・ヤフキエルをはじめ、全員が死亡。

現場では激しい戦闘跡と、燃え尽きたように灰化した生物の死骸、そして美緒が肌身離さず携帯していた愛刀『烈風丸』が発見された。

捜索部隊は遺体の他にも死骸の一部である灰と、烈風丸を回収したが、その持ち主である美緒本人の遺体は現場周辺のどこからも見つからず、結局『生死不明』という形となって捜索部隊は引き上げる事となった。

しかし、その帰路で新種と思われるB.O.Wと行動を共にしたイドニア反政府軍の傭兵部隊と交戦。

その結果、隊員は僅か数人を残して壊滅し、さらに回収したサンプルと烈風丸を敵部隊に奪われる形となり、全容は一気に闇の内に葬られる形となった。

 

そして、美緒が行方不明になってから3週間。この間にイドニアを取り巻く状況は一気に加速し、急展開を迎える事となる。

きっかけは捜索部隊の回収を終えたBSAAの上層部が、その後の会見で明かした捜索部隊の生き残りから得た証言がきっかけだった。

 

『イドニア反政府軍の兵士達の身体能力や攻撃に対する耐久性は通常の人間では考えられない程に高いものであり、中には人間とは全く異なる異形の姿のクリーチャーに変貌したという証言が確認された。

以上の事からBSAAは、イドニア反政府軍内において新たなB.O.Wか、その原因となるウィルス兵器の横行によって兵士そのものがB.O.W化している可能性が高いと判断。よってBSAAのイドニア出兵を国連に申請した』

 

この発表によってイドニアでの一件はBSAAが正式に担当する事となり、この反政府軍兵士達が変貌した新たなB.O.Wはセルビア語で「悪魔」を意味する“ジュアヴォ”と命名され、BSAAはその調査と鎮圧の為に多数の兵員達が送り込んだ。

その代わりにウィッチを含む、その他の国連の調査機関はこの一件に未知のB.O.Wが絡んでいる事を知り、畏れ慄いて次々と調査から手を引き、撤退する事が決まった。

そんな中でもミーナは、細々とではあるが独自にウィッチ連続失踪事件の調査を進めていた。

彼女に協力したのは、一部のICPO関係者や一連の事件で行方不明となったウィッチの同志や被害者家族達。

そして、第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」の仲間達である。

だけど、これだけでは人手は足りず、ジュアヴォとの因果関係が薄い事から国連の援助も受けられない。

それに、自分を含めた多くのメンバーも新型B.O.W『ジュアヴォ』対策に協力しないといけないため、調査は全く進んでいなかった。

 

それでもミーナは諦める事はなかった。

大切な仲間であり、かけがえのない親友である美緒の死を認める事などできなかった。

美緒が死ぬはずがない…美緒は絶対にどこかで生きている。

遺体が発見されていないという現状から、決して可能性としてはゼロではない希望を胸に抱き、ミーナは調査を続けた。

 

「私があの時、安易に調査を命じさえしなければ、美緒はあんな事にならなかったのよ…」

 

ミーナは、美緒が消息を絶ってからずっと胸の中で燻り続けていた思いを、ふと言葉にして呟いた。

悔やんでも悔やみきれない想いがそこにあった。

あの時、自分が抱いた不安をもっと真剣に考えてさえいれば…あの時、美緒だけでなく自分もイドニアへ向かってさえいれば…

だが終わってしまった事は変えられない、それは事実だ。

ミーナがいくら願っても足掻いても、起きた出来事は変わらない。

そうなれば、残された道はただひとつ、自らが真相を求めて突き進んでいく事だけだ。

 

しかし、そんなミーナの決意とは裏腹に、彼女を取り巻く環境は決して彼女に協力的ではなかった。

イドニアにおけるジュアヴォの一掃は思うように進まず、イドニアの戦況自体もどんどん悪くなっている。

そんな中で、成果の上がらない調査を続けているミーナ達に国連は調査の許可を出す事ができず、また、各所からは批判の声が上がっているのも事実である。

このままだと、近いうちに調査は強制終了となるかもしれない。

 

そんな危機感を覚えたミーナが考えついた答えは、『ウィッチを捨てる事』であった。

ミーナは知り合いのICPO関係者に頼み込み、形式上は「捜査体制の研修」という名目で、ICPOへ出向し、数々の制約が付くウィッチから、捜査の為なら比較的自由な行動を許される『エージェント』へと一定期間の間移籍して、その間にイドニアへと潜入し知りたい情報を仕入れるという作戦だった。

しかし、いくらBND諜報部員の経験があるとはいえ、ここ数年間をずっと空中戦闘のみで過ごしてきたミーナにとって、この作戦は少々危険が伴うものであった。

ウィッチはストライカーユニットを装着しなければ、魔法シールドなどの幾多の魔力による恩恵を受けられなくなってしまう。

しかも、地上での戦闘経験はブランクのある状態で、激戦地帯のイドニアへ単身潜り込む事は翼の取れた鳥が、飢えたハイエナの群れの真っ只中に飛び込む事に値する危険行為なのだ。

 

しかし、ミーナはこの作戦を選んだ。

少しでも美緒や行方不明になったウィッチ達の行方に関する手がかりが掴めるなら…そんな僅かな望みを、自分を危険に晒してまで挑むミーナの決意は本物だった。

こうして、ミーナはストライクウィッチーズ隊長としての指揮権を副官であり、ドイツ時代からの友人であるゲルトルート・バルクホルンに委ね、ICPOへと出向。

そして世間では『クリスマス・イブ』と称し、盛り上がっているであろう今日12月24日、ついにここ、イドニア共和国の戦場への潜入に成功したのだった。

ミーナは早速、情報収集の為に反政府軍の関連施設を調査しようとしたが、そこへ運悪く施設近くの戦闘区域でガスマスクを付けた反政府軍の部隊と遭遇し、銃撃戦となった。

しかし、エージェントとしての隠密性を重視して潜入した為に、携帯武器が自動拳銃 ワルサーPPKとその予備マガジン数本しかなく、対する反政府軍の兵達は、元が反政府軍のゲリラや傭兵という事もあってか突撃銃 AK-74や短機関銃 AB-50、重機関銃 USSR RPDなど圧倒的な火力を誇る兵器が揃っており、まともに銃撃戦を繰り広げて勝てる相手ではなかった。

こうしてミーナは体勢を立て直す為に一度撤退するが、そんな彼女を執拗に反政府軍は追いかけて攻撃を仕掛けてきた。

 

かくしてミーナは逃げるに逃げて…冒頭の場面になるのだった…

 

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やがて廃墟群の立ち並ぶ裏路地を抜けて、追撃の反政府軍達をようやく振り切った頃…ミーナの前に、建物の半分が崩れ落ちた巨大な建物が姿を現した。

それだけを見ると周囲にある住む者の無くした廃墟群と同じであるようだったが、ただ、二つだけ他の建物とは違う箇所があった。

ひとつは正面にある入口…閉じられていたらしいシャッターが外側から内側へ破られて出来た大穴の前にAK-74を装備した反政府軍兵士が2人立っていた事…

そして、建物の二階の窓から、イドニア反政府軍を象徴する蜘蛛の描かれたシンボルマークの旗が掲げられていた事であった。

 

「反政府軍の施設…ここで間違いないみたいね」

 

ミーナは辺りを確認すると、見張りの反政府軍兵士達に気付かれないように早足で建物の裏側へと回りこむと、無造作に開け放たれた裏口を発見し、PPKを構えながら建物内へと潜入に成功するのであった。

 

その建物は、元々は病院であったらしい。建物内外のあちこちが破壊されて、床には瓦礫や割れたビンの破片や錠剤のシート、そして書類などが散乱していた。

入口付近のドアや窓のガラスは叩き割られ、壁は機関銃かアサルトライフルのものと思われる銃痕がビッシリと撃ち込まれており、廊下には本来そこに置くべきではない筈のソファーや薬棚などが無造作に積み重ねられ、即席のバリケードが築かれていた。

支給された懐中電灯を照らしながら、ミーナは薄暗い建物内を進んでいく。すると途中で煌々と明かりが燈された部屋を見つけた。

ミーナが音を立てないようにそっと部屋の入り口の近くに寄ってみると、中からは男達の声が聞こえた。

小声で話していたのと、セルビア語での会話だった為、ミーナはそのすべてを把握する事は出来なかったが、どうやら反政府軍の傭兵と思われるその男達は酷く興奮した様子を見せていた。

 

「Ca овим типом, ?а ?у вероватно борити ?е 10 дана без ?ела ништа(こいつを使えば、何も食わずに10日は戦えるみたいだぜ)!」

 

「Aли, изгледа да ?е нутри?ент ко?и ?е произведен у САД, Хе?, шта стварно ради(アメリカで生産された栄養剤だそうだが、本当に効くのか)?」

 

多少、セルビア語を嗜んでいたミーナは男達の会話の中から“栄養剤”という単語を聞き、怪訝な表情を浮かべた。

 

(栄養剤? 確かイドニア反政府軍は兵士達への食料需要も低いって問題があった筈…どこからそんなものを仕入れたのかしら?)

 

ミーナが考え込んでいると、男達は唐突に懐から白い注射器型のアンプルのようなものを取り出し、それを徐ろに自分達の足や首筋に射し始めた。

ミーナは慌てて顔を隠しながら、更に様子を伺おうと聞き耳を立てて、中の様子を伺っていた。

だがその時、部屋の中から男達の苦しみ、喘ぎだす声が聞こえてきた。

慌てて再度部屋の中を覗きこむと、そこにはさっきまで興奮した様子で話し込んでいた男達が、身体を押さえて悶絶している光景が見えた。

何が起こったのか? ミーナは潜入している事を忘れて、思わず男達に近づいていく。

するとミーナの前で一人の男が顔を見上げてきた。

 

「きゃあ!?」

 

その姿を見た途端、ミーナは口を抑えて悲鳴を上げた。

その男の目はボロボロにただれ、血が垂れているだけでなく、その周辺にはまるで虫のように大小様々な大きさのたくさんの目が形成されていた。

 

「これが…ジュアヴォ!?」

 

ミーナは初めて目の当たりにする新型B.O.W ジュアヴォの姿に息を飲んだ。

するとジュアヴォは、絶叫を上げながら懐からナイフを取り出し、ミーナ目掛けて突き刺してきた。

咄嗟にそれを回避したミーナは、ジュアヴォのナイフを持った手を逆手に押さえつけ、その手からナイフを叩き落とすと、そのまま合気道のようにジュアヴォを部屋の壁に向けて投げ飛ばす。

勿論、それだけではジュアヴォを無効化にはできない。

ジュアヴォは直ぐ様起き上がり、予備に持っていたのであろうもう一本のナイフを取り出してミーナに向けて構えた。

すると、他の男達を次々と苦しむのをやめて、ゆっくりと起き上がってきたが、全員がミーナを襲った男同様、ジュアヴォと化していた。

ミーナは咄嗟にPPKの銃口を構えたが、ここで発砲すべきかどうか迷ってしまう。

もしここで発砲すれば、響いた銃声で他にもいるであろう傭兵達を呼び寄せることになってしまう。

そう考えたミーナはPPKを構えたまま、ジリジリと後手に下がっていく。

するとジュアヴォ達は、白く荒い吐息を吐きながら、ミーナに向けて少しずつ歩を進めていこうとする。

 

その時だった。

 

「おい」

 

不意に掛ってきた声にミーナや、ジュアヴォ達が一斉にその声の聞こえてきた方向に目をむける。

それは、ミーナが入った入り口とはまた別のところにある入口からだった。

 

「朝っぱらから、ガタガタうるせぇんだよ。 早速その“栄養剤”の効果でも出てきたのか? あぁ?」

 

そこに立っていたのはジュアヴォ達と同じ反政府軍の紋章を肩に付けた一人の青年だった。

茶色い髪を剃りの入ったスポーツ刈りのように短く狩り、腰に拳銃入りのホルスターを付けた少々身軽な武装をした青年は、リンゴを片手に持ちながら、異形のジュアヴォ達を前にしても全く動じた様子を見せず、軽口を叩きながらゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「ここだけの話。 こんな得体のしれない薬もらうくらいなら、ギャラアップでもせがむべきだったかもな」

 

まるで気づいていないかのように、気軽に話しかけてくる青年に、ジュアヴォの一体が突然ナイフを取り出すと、それを青年に向けて振りかざした。

 

「危ない!」

 

ミーナが思わず青年に向かって叫ぶと同時に青年は身体を後ろに逸らしてナイフ攻撃を避けた。

するとジュアヴォのナイフは青年の持っていたリンゴを真っ二つに両断し、そのまま部屋の壁に深々と刺さって抜けなくなってしまった。

慌ててナイフを引き抜こうとするジュアヴォに対し、青年は半分になってしまったリンゴを見て小さく溜息を吐きながら呟く。

 

「…高くつくぜ」

 

青年はリンゴを投げ捨てると、ナイフを引きぬいて再度斬りかかってきたジュアヴォの腕を押さえつけながら少しも動じる事なく、話し続ける。

 

「お互い金で雇われた身だ。 その意味わかるよな?」

 

青年はそう告げながら、ジュアヴォの腕を捻じ曲げると、その首を押さえつけながら膝蹴りを放ち、それに怯んだ隙を突いて、ジュアヴォを壁に向かって蹴り飛ばした。

すると、それを見ていた他のジュアヴォが青年を押さえようと、スタンロッドやナイフを手に、背後から襲いかかってくるが、青年は振り返ると同時に先頭にいたジュアヴォの顔を片手で押さえた。

それを見た他のジュアヴォ達も驚いて、思わず動きを止めてしまう。

 

「仲間でもなんでもねぇ」

 

青年は冷徹な口調でそういうと、振りほどこうと手を強く掴んでくるジュアヴォの、隙を突いてその首筋を手刀で打ち、そこから早業で何度も拳を叩きつけて、その場に引き倒す。

そして後ろに立っていたジュアヴォと距離を縮めると、その膝に目掛けて足をかけて、そのまま横に捻ってへし折り、膝を付いた所を首筋に手刀を打ち込んで悶絶させた。

これを見て激昂した最後のジュアヴォがスタンロットを構えて青年に襲い掛かるが、青年は難なくジュアヴォからスタンロッドを取り上げて、遠くに投げ捨てると、ジュアヴォの肩を押さえたまま、身体を一回転回すと、部屋の柱に向けてジュアヴォを投げ飛ばした。1回、2回、3回と回転しながら、ジュアヴォは柱に向けて飛んでいき、大の字になって叩きつけられたところを青年からたれ、そのまま力なく床に倒れ込んだ。

 

「つ…強い」

 

B.O.Wを素手で叩きのめした青年にミーナは唖然とした表情で呟いた。

すると、青年はそこでようやくミーナの姿に気づいたのか、部屋の入口に立っている彼女の姿を一瞥する。

 

「あ? 誰だアンタ? 新入りの傭兵か?」

 

「貴方…もしかしてこの人達と同じ薬を使ったの?」

 

ミーナが拳銃をしまいながらそう問いかけると、青年はまた小さく溜息をつきながら答える。

 

「あぁ…興味があんのなら…この辺りで薬配ってる姉ちゃんに言いな」

 

青年がそう話している傍らで、突然倒れていたジュアヴォ達が身体の中から燃え上がるようにして火に包まれ、瞬く間にその骸は灰と化した。

その様子を見ながら青年は失笑しながら言葉を足す。

 

「…俺は勧めないけどな」

 

青年はそういうと再度、ミーナに向けて問いかけてくる。

 

「で、アンタは一体誰だ?」

 

青年の質問にミーナは懐から、証明書代わりの手帳を取り出し、ジェイクの前にかざしてみせた。

 

「私はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。国際連合平和維持軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』の隊長よ」

 

「ヒュ〜。アンタが噂の“魔女(ウィッチ)”って奴かい? どおりで戦場のど真ん中でそんなスケベったらしい格好してるわけか」

 

青年のからかうような口調に動じず、ミーナは逆に青年に向かって質問する。

 

「それより、貴方もイドニア反政府軍の傭兵よね? どうしてさっきの人達みたいに怪物化しなかったの?」

 

「さあな。 理由はわからねぇが、この“栄養剤”とやらを注射した途端、俺以外全員がさっきの化け物になっちまったみてぇだな」

 

青年は灰化したジュアヴォの死体の傍に落ちていた注射器を手にとってミーナに掲げて見せた。

それを見たミーナは考えこむように手を顎に当てる。

 

「ひょっとして…それが例の新型ウィルスかも?」

 

「あぁ? 何の話だよ?」

 

ミーナの言葉に、青年が怪訝な表情を浮かべたその時だった。

唐突に建物内にサイレンが鳴り響いた。

 

「!? どうしたの?!」

 

「はぁ、どうやらさっきの騒ぎを、他の奴らにでも聞かれたみてぇだな」

 

青年が落ち着いた様子で説明すると同時に部屋に設置されていたスピーカーから慌ただしい男達の声が聞こえてくる。

 

《Дa ли ?е у?ез на са?ту! Нашао сам ухватити или убити!(施設内に侵入者あり!見つけたら捕まえるか殺せ!)》

 

「フッ…連中はお宅が侵入した事も把握済みみたいだぜ」

 

「!? そんな! どうして!?」

 

慌てるミーナだが、青年は冷静にその原因を突き止めた。

 

「あ〜…ミーナだっけ? アンタのその足下見てみろよ」

 

「足下?……あっ!?」

 

青年からの指摘を受けて、ミーナがふと自分の足元を見下ろしてみるとそこには泥混じりの雪が大量に付着しており、さらに自身の立つ後ろには転々と今立っている場所まで足あとが続いてきていた。

ミーナはそこで気がついた。今の季節は12月、真冬もピークへと突入する時期である。それにここは東欧…当然ながら積雪量は高い地域だ。

そうなってしまえば靴の裏には土だけでなく大量の雪やそれが溶けて土と混ざり合ってできた泥が付着するはずだ。

そんな環境の中を全力で走ってきたミーナの靴にはは当然ながら多量の雪の溶け水や泥が付着していた。そんな状態で建物に入れば言うまでもなく床には足あとは残るであろう。

通常の諜報部員であれば潜入前にそれに気づくはずだが、数年間のブランクがあった上、ここしばらく足あとの心配がない空戦に身を投じていたミーナはそれに気が付かなかったのだった。

 

「し…しまったわ。 久々の陸戦だからすっかり忘れてたわ」

 

ミーナが頭を抱えて、悔やんでいると青年が唐突に話しかけてくる。

 

「おい。逃げるんだったら、力を貸してやるぜ」

 

「えっ?」

 

青年の突然の申し出に驚くミーナ。

 

「どのみち、他の連中もさっきみてぇに栄養剤打って変になってるはずだ。 だったら俺もこんなところいたって追われるだけだろうからな」

 

「で…でも…」

 

ミーナは戸惑った。

いくら自分を助けてくれ、ジュアヴォにも化していないとはいえ、彼も反政府軍側に雇われた傭兵だ。

場合によっては、これは自分を欺くための罠かもしれない。

そんな警戒心が彼女を躊躇わせていた。

 

「Ha ова? начин! Фоотпринтс настав?а!(こっちだ! 足跡が続いてる!)」

 

「Лоокинг фор! A ?а ?у убити!(探せ! そして殺せ!)」

 

だが、廊下の遠くの方からジュアヴォと思われる殺気立ったような怒号と足音が聞こえてきた事で、ミーナは選択の余地がない事を察した。

 

「わかったわ。 協力してちょうだい」

 

「OK その代わり無事逃げれたら報酬はちゃんともらうからな。 国連の部隊の隊長なんだからそれなりに金回りはいいんだろ?」

 

そう言いながら青年は、退路を確保する為に部屋の中にあったダストシューターの蓋を開けて、中を確認する。

そんな青年にミーナは問いかける。

 

「いいわ。ところで貴方、名前はなんていうの?」

 

すると、青年は手短にこう応えた。

 

「俺はジェイク・ミューラー。 護衛の報酬は一回につき2000ドルだ」

説明
今作では『バイオハザード6』の時系列に沿って、イドニア編→トールオークス編→ランシャン編と続く形で話が進みます。
まず第一章のイドニア編の幕開けは、『6』で華麗なバイオシリーズデデビューを飾った新主人公 ジェイク君と、ストライクウィッチーズの隊長 ミーナさんが大活躍します。
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ジェイク・ミューラー ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ ストライクウィッチーズ クロスオーバー バイオハザード6 バイオハザード 

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