ISとエンジェロイド
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 第六話 フランスとドイツからの転入生

 

 

 

 

 

 六月の頭、月曜日。今日もいつものように一夏と教室に入ると、数人の女子が噂話をしていた。

 

 

 「ねえ、聞いた?」

 

 「聞いた聞いた!」

 

 「え、何の話?」

 

 「だから、あの織斑君と山下君の話よ」

 

 「いい話? 悪い話?」

 

 「最上級にいい話」

 

 「聞く!」

 

 「まあまあ落ち着きなさい。いい? 絶対これは女子にか教えちゃダメよ? 女の子だけの話なんだから。実はね、今月の学年別トーナメントで――」

 

 「俺達がなんだって?」

 

 「あ―――っ! 織斑君達だ!」

 

 「えっ、うそ!?」

 

 「ねえねえ、あの噂ってほんと――もがっ!」

 

 

 俺達の存在に気づいた女子が詰め寄って来る。

 

 

 「い、いや、なんでもないの。なんでもないのよ。あははは……」

 

 「――バカ! 秘密って言ったでしょうが!」

 

 「いや、でも本人だし……」

 

 

 一人が俺達の前で通せんぼして、その陰で二人が小声で話している。

 

 

 「噂って?」

 

 「う、うん!? なんのことかな!?」

 

 「ひ、人の噂も三六五日って言うよね!」

 

 「な、何言ってるのよミヨは! 四十九日だってば!」

 

 

 二人共間違ってるから。それより何か隠してるような。

 

 

 

 「何か隠してない?」

 

 「そんなことっ」

 

 「あるわけっ」

 

 「ないよ!?」

 

 

 無駄に連携技を決めて即撤退。流石に一夏も状況が全く理解出来ないようだ。

 

 噂の件から数分後。

 

 

 「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

 

 「え? そう? ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

 

 「そのデザインがいいの!」

 

 「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」

 

 「あー、あれねー。モノはいいけど、高いじゃん」

 

 

 クラス中の女子がISスーツのカタログを持って、意見交換している。

 

 

 「そういえば織斑君達のISスーツって何処のやつなの? 見たことない型だけど」

 

 「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、もとはインクリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」

 

 「よく覚えてたな、一夏」

 

 

 俺も忘れかけてた。因みに俺のISスーツは全身タイプだが、見た目は全身タイツに似ている。

 

 

 「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」

 

 

 長い説明お疲れ様です、山田先生。

 

 

 「山ちゃん詳しい!」

 

 「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん?」

 

 「山ぴー見直した!」

 

 「今日が皆さんのスーツの申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー?」

 

 

 入学から二ヶ月。山田先生には8つくらい愛称がついていた。俺にも山田先生と似たあだ名がついている。

 

 

 「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと……」

 

 「えー、いいじゃんいいじゃん」

 

 「まーやんは真面目っ子だなぁ」

 

 「ま、まーやんって……」

 

 「あれ? マヤマヤの方が良かった? マヤマヤ」

 

 「そ、それもちょっと……」

 

 「もー、じゃあ前のヤマヤに戻す?」

 

 「あ、あれはやめてください!」

 

 

 珍しく語尾を強くして山田先生が拒絶の意志を示す。何かトラウマでもあるんだろうか。

 

 

 「と、兎に角ですね。ちゃんと先生とつけてください。わかりましたか? わかりましたね?」

 

 

 はーいとクラス中から返事をしているが、あまり効果がなさそうだ。今後もあだ名が増えそうな気がする。

 

 

 「諸君、おはよう」

 

 『お、おはようございます!』

 

 

 ざわざわとしていた教室が織斑先生の登場で静かになった。

 

 

 「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れた者は代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもない者は、まあ下着で構わんだろう」

 

 

 いや構うだろう! と、俺と一夏以外も心の中で突っ込んだと思う。

 

 

 「では山田先生、ホームルームを」

 

 「は、はいっ」

 

 

 織斑先生に話し掛けられ、山田先生が慌てて返事をした。

 

 

 「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」

 

 「え……」

 

 『えええええっ!?』

 

 

 行き成りの転校生紹介にクラス中が一気にざわついた。

 

 

 「失礼します」

 

 「……………」

 

 

 クラスに入って来た二人の転校生を見て、ざわめきがぴたりと止まる。転校生の二人の内、一人が――男だった。

 

 

 

 

 

 「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さん宜しくお願いします」

 

 

 クラス全員が呆気にとられた。

 

 

 「お、男……?」

 

 「はい。此方に僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を――」

 

 

 第一印象は、『貴公子』といった感じだ。

 

 

 「きゃ……」

 

 「はい?」

 

 『きゃあああああああ―――っ!』

 

 

 何だとっ!? 咄嗟に耳を塞いだにも関わらず、貫通するとは。

 

 

 「男子! 三人目の男子!」

 

 「しかもうちのクラス!」

 

 「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

 「地球に生まれてよかった〜〜〜!」

 

 

 相変わらず元気だな、うちのクラスの女子は。

 

 

 「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 

 教師の仕事、面倒臭そうだな。俺はやりたくないな。

 

 

 「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから〜!」

 

 

 忘れていた訳ではないが、デュノアの印象が強すぎた。だが、それでも一人異様な雰囲気を纏っている。

 

 

 「…………………」

 

 

 当の本人は未だに口を開かず、視線を織斑先生に向けている。

 

 

 「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

 「はい、教官」

 

 

 佇まいを直して素直に返事をした銀髪の転校生に、クラス一同がぽかんとする。

 

 

 「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

 「了解しました」

 

 

 そう答え、姿勢を正すがどう見ても軍人、又は軍施設関係者というのは解る。

 

 

 「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 「………………」

 

 

 クラスメイト達の沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたらまた黙ってしまった。

 

 

 「あ、あの、以上……ですか?」

 

 「以上だ」

 

 

 空気に居た堪れなくなった山田先生が出来る限りの笑顔でボーデヴィッヒに訊くが、無慈悲な即答が返ってきた。

 

 あ、一夏とボーデヴィッヒの目が合って、一夏の方に向かってる。

 

 

 「! 貴様が――」

 

 

 ボーデヴィッヒが手を振りかぶった瞬間、ナドレの脚部を展開。膝からGNビームサーベルを取り出し、ボーデヴィッヒに向ける。

 

 

 「邪魔をする気か?」

 

 「別に。今問題を起こして困るのはお前の方だぞ」

 

 「くっ……。まあいい、私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 

 屈辱的な表情で俺を睨み、一夏に一言言って立ち去り、空いている席に座ると微動だにしなくなった。それを確認すると、ISの展開を解除した。

 

 

 「あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 

 織斑先生がぱんぱんと手を叩いて行動を促す。

 

 

 「おい織斑と山下。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

 「君達が織斑君と山下君? 初めまして。僕は――」

 

 「挨拶は後だ。一夏、さっさと行くぞ」

 

 「おう」

 

 

 即座に行動に移し、俺はデュノアの手を取り教室を出た。

 

 

 「取り敢えず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替え。これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」

 

 「う、うん……」

 

 

 さっきまでと違うがまぁいいや。

 

 

 「ああっ! 転校生発見!」

 

 「しかも織斑君と山下君と一緒!」

 

 

 ちっ、情報先取の為に尖兵を送り出したか。

 

 

 「いたっ! こっちよ!」

 

 「者ども出会え出会えい!」

 

 

 何? 増援だと。それよりもいつからここは武家屋敷になったんだ。

 

 

 「織斑君達の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

 「しかも瞳はエメラルド!」

 

 「きゃああっ! 見て見て! 二人! 手! 手繋いでる!」

 

 「日本に生まれて良かった! ありがとうお母さん! 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

 

 おい、最後の奴。なんて物をあげてるんだ。

 

 

 「な、何? 何で皆騒いでるの?」

 

 「そりゃ男子が俺達だけだからだろ」

 

 「……?」

 

 「いや、普通に珍しいだろ。ISを操縦出来る男って、今のところ俺達しかいないんだろ?」

 

 「あっ! ――ああ、うん。そうだね」

 

 

 何か怪しいなぁ。

 

 

 「それとアレだ。この学園の女子って男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」

 

 「ウー……何?」

 

 「気にしなくていい。解りづらいし」

 

 

 俺も実際、一夏の言い回しが独特で分からなかった。

 

 

 「しかしまあ助かったよ」

 

 「何が?」

 

 「いや、やっぱ学園に男二人は辛いからな。もう一人男が居てくれるっていうのは心強いもんだ」

 

 「そうなの?」

 

 

 そうなのって……逆の立場のことを考えたら共感出来ると思う。

 

 色々考えている内に群衆を抜け、校舎を出ていた。

 

 

 「よーし、到着!」

 

 「取り敢えず自己紹介をしようか。俺は山下航。呼び方は航で」

 

 「俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

 「うん。宜しく一夏、航。僕のこともシャルルでいいよ」

 

 「ああ」

 

 「分かった、シャルル。……ってうわ! 時間ヤバイな! すぐに着替えちまおうぜ」

 

 

 時計を見た一夏は言いながら制服のボタンを一気に外し、ベンチに投げてTシャツも脱ぎ捨てていた。俺は中にISスーツを着込んでいるので制服を脱ぐペースはあまり速くない。

 

 

 「わぁっ!?」

 

 『?』

 

 

 突然驚いてどうしたんだ?

 

 

 「荷物でも忘れたのか? って、なんで着替えないんだ? 早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間に五月蠅い人で――」

 

 「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、あの、あっち向いてて……ね?」

 

 「??? いやまあ、別に着替えをジロジロ見る気はないが……って、シャルルはジロジロ見てるな」

 

 「み、見てない! 別に見てないよ!?」

 

 

 シャルルが両手を突き出し、慌てて顔を床に向ける。そんなに男の上半身裸が珍しいか?

 

 

 「まあ、本当に急げよ。初日から遅刻とかシャレにならない――というか、あの人はシャレにしてくれんぞ」

 

 「確かに。……って一夏、さっさと着替えろ。時間ないぞ」

 

 「そうだな。それにしても、二人共着替えるの超早いな。なんかコツでもあんのか?」

 

 「い、いや、別に……って一夏まだ着てないの?」

 

 「これ、着る時に裸っていうのがなんか着辛いんだよなぁ。引っかかって」

 

 「ひ、引っかかって?」

 

 「おう」

 

 「変なこと言ってるんじゃない! ……あっ」

 

 

 咄嗟にエクシアのGNシールドを展開してツッコミをしたせいで、一夏が吹っ飛んだ。

 

 

 「取り敢えず俺達は先に行こうぜ?」

 

 「うん。でもいいの、一夏は?」

 

 「まぁ、いいんじゃない? 遅刻したくないから置いて行こう」

 

 「う、うん」

 

 

 シャルルが戸惑いながらも、俺の後をついて来る。

 

 

 「ふぅ、なんとか間に合った」

 

 

 あと少しで遅刻するところだった。

 

 

 「随分ゆっくりでしたわね」

 

 「悪い。シャルル目当てで他のクラスの女子が集まっていたから、遅くなったんだ」

 

 「そうでしたの」

 

 

 数十秒後に一夏が遅れてグラウンドにやって来た。

 

 

 「遅い!」

 

 

 一夏が余計な事を考えていたのだろう。織斑先生から出席簿で叩かれて此方に来た。

 

 

 「遅かったな」

 

 「航が盾でツッコミをしなかったら、間に合ってたのに」

 

 

 俺に対して一夏が嫌味を言ってきた。

 

 

 「何? アンタまたなんかやったの?」

 

 

 後ろから鈴(IS襲撃事件の後、鈴って呼んでいいと本人に言われた)が話しに加わったが、一夏は辺りをキョロキョロしている。

 

 

 「後ろに居るわよ、バカ」

 

 

 一夏が後ろを向いて漸く気付いた。

 

 

 「此方の一夏さん、今日来た転校生の女子に叩かれかけましたの。航さんが阻止していなければ、叩かれていましたわ」

 

 「はあ!? 一夏、アンタなんでそうバカなの!?」

 

 「――安心しろ。バカは私の目の前にも二名いる」

 

 

 セシリアと鈴がゆっくり首を動かし、視線の先には織斑先生が待ち構えていた。そんな二人に出席簿が落ちた。

 

 

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転入生が来る話。
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