ISとエンジェロイド
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 第七話 相部屋になる為の模擬戦

 

 

 

 

 

 「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

 『はい!』

 

 

 一組と二組の合同実習なので人数はいつもの倍。出てくる返事も妙に気合いが入っている。

 

 

 「くうっ……。何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」

 

 「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」

 

 

 ズキズキと叩かれた場所が痛むのか、セシリアと鈴はちょっと涙目になりながら頭を押さえているが、鈴は不吉なことを呟いていた。

 

 

 「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」

 

 「な、何故わたくしまで!?」

 

 

 セシリアがとばっちりを喰らった。

 

 

 「専用機持ちはすぐに始められるからだ。いいから前に出ろ」

 

 「だからってどうしてわたくしが……」

 

 「一夏のせいなのになんでアタシが……」

 

 「お前等少しはやる気を出せ。――気になる奴にいいところを見せられるぞ?」

 

 

 なんだか悪寒がした。

 

 

 「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

 「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」

 

 

 いきなり二人共やる気を示しだした。やっぱり原因は織斑先生か。

 

 

 「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

 「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

 「慌てるなバカども。対戦相手は――」

 

 

 キィィィン……。

 

 

 突然空気を裂く音が聞こえ、上を見ると……。

 

 

 「ああああーっ! ど、退いてください〜っ!」

 

 

 と、言いながら俺と一夏、シャルルのところに落ちて来た。

 

 俺はデュナメスを起動させ、咄嗟にシャルルの腕を掴んで退避した。

 

 

 ドカーン!

 

 

 「シャルル、無事か?」

 

 「うん、ありがとう。航」

 

 

 音がした方を見ると、一夏が山田先生を押し倒して胸を掴んでいた。一度懲らしめる必要がありそうだ。

 

 

 「狙い撃つ」

 

 

 GNスナイパーライフルを一夏の方に向け、ビームを放つ。一夏は身の危険を感じたのか山田先生から体を離して俺を見た。

 

 

 「ちっ、外したか」

 

 

 俺は更に一夏に狙いを定める。

 

 

 「………………」

 

 

 反対側から鈴が《双天牙月》を連結させた音が聞こえ、そのまま振りかぶって投げた。

 

 

 「うおおおっ!?」

 

 

 鈴が一夏の首を狙って投げたが、一夏は間一髪で仰け反り勢い余って仰向けに倒れた。

 

 投げた《双天牙月》はブーメランと同じ形状なので返ってきて、再び一夏に向かう。

 

 

 「はっ!」

 

 

 ドンッドンッ!

 

 

 山田先生は二発の弾丸を的確に《双天牙月》の両端を叩き、軌道を変える。

 

 

 「俺は更に狙い撃つ」

 

 

 悪ノリで《双天牙月》の両端をビームで撃ち、軌道を少し戻す。《双天牙月》は一夏の顔の前を通り、鈴の手元に戻った。

 

 

 「………………」

 

 

 俺とシャルル、ボーデヴィッヒ以外の生徒は唖然としていた。

 

 

 「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今みたいな射撃は造作もない」

 

 「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし……」

 

 

 体を回して起き上がり、肩部武装コンテナに銃を預け、ずれた眼鏡を両手で直した。

 

 

 「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさと始めるぞ」

 

 「え? あの、二対一で……?」

 

 「いや、流石にそれは……」

 

 「ふむ。二対一が嫌なら……織斑と山下も参加しろ。オルコット、凰、山下対織斑、山田先生で行う。準備が出来次第、開始する」

 

 

 俺はセシリアと鈴の所に向かい、作戦会議をする。

 

 

 「俺は山田先生を相手にするから、鈴は一夏をお願い。セシリアはサポートを頼む」

 

 「わかりましたわ」

 

 「任せなさい」

 

 

 作戦会議が終了したので、織斑先生に合図をする。

 

 

 「織斑と山下。どちらか勝ったら、デュノアと相部屋にする。では、始め!」

 

 

 号令と同時にセシリアと鈴、一夏が飛翔した。それを目で確認してから、俺と山田先生も空中へと躍り出る。

 

 

 「手加減はしませんわ!」

 

 「さっきのは本気じゃなかったしね!」

 

 「い、行きます!」

 

 

 鈴が一夏に突撃し、セシリアが鈴のサポートをするような位置を取る。

 

 俺はGNビームピストルで牽制をしつつ、全員の位置を確認しながら距離を広げる。

 

 それから山田先生と射撃と回避の繰り返しで、時折俺が一夏にビームを撃ったり、セシリアが山田先生に牽制したりする。

 

 一夏達の方を見ると、セシリアが誘導して鈴が一夏にトドメを刺した。

 

 

 「今度は俺の番だな。TRANS-AM」

 

 

 機体が赤く光り、機体性能が大幅に上がった。高速でビームを撃ちながら接近し、ある程度近付いたところでGNミサイルをフロントアーマーと両膝から射出する。射出後GNビームピストルを脹脛のホルスターに戻し、腰部からGNビームサーベルを二本取り出して山田先生に振り下ろす。この攻撃で山田先生のシールドエネルギーが切れてゆっくりと地面に墜落した。

 

 

 「さて山下がワンオフを使って倒してしまったが、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解出来ただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 

 ぱんぱんと織斑先生が手を叩いて皆の意識を切り替える。

 

 

 「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、山下、凰だな。では七人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」

 

 

 織斑先生が言い終えると、俺と一夏、シャルルに大勢の女子が詰め寄って来た。

 

 

 「織斑君、一緒に頑張ろう!」

 

 「わかんないところ教えて〜」

 

 「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」

 

 「ね、ね、私もいいよね? 同じグループに入れて!」

 

 

 この状況を見かねたのか、自らの浅慮に嫌気がさしたのか、織斑先生は面倒くさそうに額を押さえながら低い声で告げる。

 

 

 「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百週させるからな!」

 

 

 鶴の一声で蟻のように群がっていた女子達は、蜘蛛の子を散らすが如く移動した。

 

 

 「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」

 

 

 ふうっと溜息を漏らす織斑先生。溜息を吐いてる場合ではないと思います。

 

 

 「……やったぁ。織斑君と同じ班っ。名字のおかげねっ……」

 

 「……山下君のIS教えて……」

 

 「……うー、セシリアかぁ……。さっきは二対一で勝ってたし」

 

 「……凰さん、宜しくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ……」

 

 「……デュノア君! わからないことがあったら何でも聞いてね! 因みに私はフリーだよ!……」

 

 「…………………………」

 

 

 唯一会話がないのがボーデヴィッヒの班である。あの様子じゃあ話し掛けるな、と言ってるみたいだ。

 

 

 「ええと、いいですかー皆さん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は『打鉄』、『リヴァイヴ』共に三機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」

 

 

 山田先生がいつもよりしっかりしている。さっきの模擬戦で自信を取り戻したのだろうか。その姿はなんだか堂々としている。

 

 

 「山下君、ISの操縦教えてっ」

 

 「実戦訓練の基本はツーマンセルよね。じゃあ山下君、組みましょう」

 

 「ねえねえ専用機ってやっぱりいい感じ? いいなー、羨ましいなー」

 

 「はいはい静かに。皆は『打鉄』と『リヴァイヴ』どっちがいい?」

 

 『リヴァイヴがいい』

 

 

 まさかの全員一致だった。山田先生のところまで行って、リヴァイヴを受け取って戻る。

 

 

 『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』

 

 

 ISのオープン・チャネルで山田先生が連絡してくる。

 

 

 「それじゃあ出席番号順にISの装着と起動、そのあと歩行までする。まずは――」

 

 「宜しくお願いしますっ!」

 

 「ああっ、ずるい!」

 

 「私も!」

 

 「第一印象から決めてました!」

 

 

 俺の班の女子が一列に並び、お辞儀をして頭を下げたまま右手を突き出してくる。

 

 

 『お願いしますっ!』

 

 

 一夏とシャルルのところからも同じような声が聞こえた。

 

 

 スパーン!

 

 

 『いったああっっ!』

 

 

 見事なハモリ悲鳴が響いた。頭を押さえながら顔を上げたシャルル班の女子は、目の前に居る人物に気付いた。

 

 

 「やる気があってなによりだ。それならば私が直接見てやろう。最初は誰だ?」

 

 「あ、いえ、その……」

 

 「私達はデュノア君でいいかな〜……なんて」

 

 「せ、先生のお手を煩わせるわけには……」

 

 「なに、遠慮するな。将来有望な奴等には相応のレベルの訓練が必要だろう。……ああ、出席番号順で始めるか」

 

 

 小さく息をのむのが聞こえた気がした。

 

 

 「さて、皆もシャルル班のようになりたくなかったら、真面目にしようか?」

 

 『はいっ!』

 

 

 女子達は、シャルル班のような事になりたくないのか、素直に返事をした。

 

 

 「とりあえず装着して起動、歩行を順にして降りる時は必ずしゃがむこと。行動は迅速に行わないと、放課後居残りになるから忘れないように」

 

 「そ、それは不味いわね! よし、真面目にしよう!」

 

 

 今まで真面目にしてないような発言だ。

 

 

 「あ、言い忘れてたけど、しゃがまずに降りた人には次の人が乗る為の踏み台になってもらうから。嫌なら指示した通りにすること。いいね?」

 

 『はーいっ』

 

 

 その後何かして欲しそうな視線を感じたが、それを無視して滞りなく終了した。

 

 

 

 

 

 「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

 

 織斑先生が連絡事項を伝えると山田先生と一緒に引き上げて行った。

 

 

 「あー……あんなに重いとは……」

 

 「ISを展開してたら楽だったのに」

 

 「そこまで思いつかなかった」

 

 

 一夏の班は二人目から抱っこして運んでいた為、時間がギリギリだった。

 

 シャルルの班は数人の体育系女子が訓練機を運んでいた。なんでも『デュノア君にそんなことさせられない!』とか言ってた。

 

 

 「まあ、いいや。シャルル、航、着替えに行こうぜ。俺達はまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」

 

 「え、ええっと……僕はちょっと機体の微調整をしていくから、先に行って着替えててよ。時間がかかるかもしれないから、待ってなくていいからね」

 

 「ん? いや、別に待ってても平気だぞ? 俺は待つのには慣れ――」

 

 「はいはい。ぐだぐだ言わずにさっさと行くぞ」

 

 「わかったから首を掴まないでくれ」

 

 

 更衣室に向かう途中で一夏の首から手を離した。

 

 手の内を全て見せるのはまだ早いか。まあ、何かある時までに決めればいいか。と、考えながら更衣室を後にした。

 

 

 

 

 

 「……どういうことだ」

 

 「ん?」

 

 

 昼休み、俺達は屋上に居た。俺とシャルルは一夏に連行された。

 

 

 「天気がいいから屋上で食べるって話だっただろ?」

 

 「そうではなくてだな……」

 

 

 箒が一夏以外の俺達に視線を向ける。

 

 

 「折角の昼飯だし、大勢で食った方が美味いだろ」

 

 「そ、それはそうだが……」

 

 

 そんなやりとりを聞きながら、弁当の包みを開ける。

 

 

 「はい一夏。アンタの分」

 

 

 そう言って一夏にタッパーを放る鈴。

 

 

 「おお、酢豚だ!」

 

 「そ。今朝作ったのよ。アンタ前に食べたいって言ってたでしょ」

 

 

 俺とシャルルは食事を始めている。イカロスが作った料理は美味いものだ。

 

 

 「航さん、わたくしも今朝は偶々早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの。よろしければおひとつどうぞ」

 

 

 バスケットを開き、そこにはサンドイッチが入っていた。サンドイッチを一つ手に取り、千切って口に入れる。

 

 

 「セシリア……きちんと味見したか?」

 

 「いえ、していませんわ」

 

 

 そうか、味見をせずにサンドイッチを差し出したか。俺やイカロスも味見は必ずするのに。

 

 

 「サンドイッチを食べた感想はセシリアも食べればわかるぞ」

 

 

 俺はサンドイッチを一口大に千切り、セシリアの口に押し込んだ。すると顔が真っ青になってその場に倒れた。

 

 

 「だ、大丈夫かな?」

 

 「大丈夫だろ、実際に俺も食べたし。味は酷かったけどシャルルも食べるか?」

 

 「え、遠慮しておくよ」

 

 

 俺は残ったサンドイッチを口に入れてお茶で流し込んだ。

 

 

 「ええと、本当に僕が同席してよかったのかな?」

 

 「男同士仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうが、まあ協力してやっていこう。わからないことがあったらなんでも聞いてくれ。――IS以外で」

 

 「アンタはもうちょっと勉強しなさいよ」

 

 「してるって。多すぎるんだよ、覚えることが。お前等は入学前から予習してるから解るだけだろ」

 

 「ええまあ、適正検査を受けた時期にもよりますが、遅くても皆ジュニアスクールのうちに専門の学習を始めますわね」

 

 

 いつの間にかセシリアが復活して会話に加わっていた。

 

 

 「一夏が必読の参考書を捨てたからだろ。俺は入学する前日に貰ったんだし。織斑先生が大目に見てくれたから良かったけど」

 

 「くっ、痛いところをつくなぁ」

 

 

 そんななか俺とシャルルは弁当を半分は食べ終えていた。

 

 一夏が唐揚げを箒に食べさせたらセシリアと鈴が自分も、と俺や一夏に迫ったり、俺の弁当のおかずを食べたセシリアが落ち込んだり、一夏達も俺のおかずを食べて箒と鈴がセシリアと同じようになった。

 

説明
複数対複数の対戦、昼休みの出来事。
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