インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#87 |
IS学園第一アリーナの演武会場は唐突に起こった師弟対決に燃え上がっていた。
地表付近で鍔迫り合い火花を散らす白式と打鉄。
その上空では大型ライフルで白式を狙うラファールとその阻止に回る紅椿がそれなりの広さがあるバトルフィールドを所狭しと飛び回る。
「一夏ー!頑張れー!」
「箒さーん、ファイトですわー!」
「ええと、一夏を…でも教官と母様が…ああ、どっちを応援すれば?」
一夏と箒を応援する声、
「きゃー、千冬さまー!!」
「空くーん!」
千冬と空を応援する声、
「むむ…あれが槇篠の新型……だが、相手は訓練用の第二世代で…しかし操縦者は…」
機体を分析しようとする呟きの声まで様々に上がる。
そして、人気のない場所――第一アリーナ付の簡易整備所から空間投射モニター越しに見つめる人が一人。
その表情は誇らしげであり、物憂げであり、悲しみにうちひしがれ泣いているようでもあった。
「…ちーちゃんを助けてあげてね。お願い、くーちゃん。それに―――――――――『暮桜』。」
その視線の先では『打鉄』が白式と刀型ブレードを打ち合わせ火花を散らせていた。
* * *
[side:エム(織斑マドカ)]
IS学園警備領域外 海上―――
私は目前に広がる光景に絶句していた。
亡国機業の『目的が世界征服』派が主戦力として用意していたのであろう無人IS『ゴーレム』の最新型『ゴーレムIII』。
その十二機がたった一機のISに翻弄されていた。
エマージェンシーコールは襲撃を受けた為に『ゴーレム』が自動発信したものなのだろう。
「嘘…………」
ゴーレムシリーズの根幹を担う無人制御システム自体は盗品故に弄れないがその機動アルゴリズムは腕利きの集まりである亡国機業が((実働部隊|エージェント))の機動データを元に作り上げた逸品であり並の相手では一対一すら厳しいシロモノだ。
そして機体自体も奪取した機体から得たデータと独自に開発を進めていた技術を組み合わせて作り上げた物であり、以前のゴーレムIとは違いより女性らしいフォルムをした『鋼鉄の戦乙女』と評するに相応しい外見と性能を誇っている。
決して弱くない。
むしろ強い部類に入る。
けれども、それが翻弄されている。
まるでデータ収集をするかのように、弄ばれている。
少なくとも、私の目にはそう見えた。
そして、その((機械仕掛けの戦乙女|ゴーレムIII))を翻弄する機体は―――
「白騎士………」
純白の装甲、右腕に砲、左手にはブレード。ゴーレムIIIとはまるで逆なその機体は細部こそ若干異なるがその機体はどう見ても白騎士であった。
六機が右腕と一体化したブレードで斬りかかり、残りの六機がゴーレムIから引き継がれた左腕部一体型の高出力((熱線砲|ビームカノン))を撃つ。
機械ならではの計算され尽くした連携攻撃。
私やオータムですら初見では被弾を余儀なくされ防御に徹する羽目になったそれを――
切りかかった一機目を鍔迫りになると同時に蹴り飛ばし二機目にぶつける。
三機目は接近と同時に右腕の砲――高出力の荷電粒子砲の直撃を受け四機目、五機目、六機目は残りの六機が撃ったビームへの盾にされ体勢を崩す。
「なッ!?」
思わず、声に出して叫んでしまった。
それが呟く程度の声量で済んだのはせめてもの幸いと言うものだろう。
その連携攻撃が失敗したという隙はその『白騎士』を前にした今、取り返しが付かないほどの隙となり――
以前、オータムの持ち帰った戦闘記録で見た『白式・雪羅』の荷電粒子砲とは比べられないほどの威力を持つ荷電粒子砲と青白く光る刀状の非実体剣に、シールドなどお構いなしに斬り伏せられる。
「冗談キツイな……これは………」
接近戦を挑んでいた六機が正に『刹那の間』に撃破され海へと堕ちてゆく。
そして残る六機が全て海に叩き落とされるまでに要する時間も、それほど多くない。
私は―――迷った。
最新型のゴーレムを十二機を相手にして六機をあっという間に撃墜し、今もまた一機づつ着実に撃破されて行っている。
対して、白騎士はその名の通りの純白の装甲に傷はおろか煤すら殆どついていない。
そんな相手に、私とサイレント・ゼフィルスは勝てるのか。
いや、逃げ切る事は出来るのか、と。
そして決断できないまま時間が過ぎ………
最初の『ゴーレム』が撃破されてからちょうど三分後――最後の一機が、海に墜ちた。
「―――さて、君で最後だよ。」
「―――――男!?」
ステルスモードも使って姿を隠していたのに見つけられた。
私を襲った驚きはそれだけでは無い。
その声は間違いなく男の声だった。
『あり得ない』とされる『織斑一夏』以外の男性IS操縦者。
ほんの数瞬だが、驚愕に意識を取られ、気がついた時、白騎士は目前にまで迫っていた。
「ッ!」
咄嗟に((大型ライフル|スターブレイカー))を楯にしてブレードの一撃を受ける。
ほぼゼロ距離射撃と言える距離からの荷電粒子砲はギリギリで展開したシールドビットのエネルギーアンブレラと機体のシールドで受け止める。
「このぉッ!」
ティアーズ型標準装備のショートブレード《インターセプターMk-II》で強引に距離を開けさせようとして――
「甘いよ。」
「ッ!」
突如として光に包まれた『白騎士』の右腕。
荷電粒子砲が消え現れたのは、刃渡り六十五センチの刀―――長脇差。
ギャリッ!
金属同士がこすれあう音を立ててインターセプターと長脇差が競り合う。
出来上がった膠着状態にビットを放出しようとして、己の失策に気がついた。
今、自由になっている左の手に握られているのは―――――
「ッく――――――」
シールドビットを自爆させようとする。
自爆に等しい行為だが、あのブレードを食らうよりは遥にマシだろう。
だが、『白騎士』の青白く輝く刃の方が早かった。
シールドを無視したかのような一撃に絶対防御が発動しまたたく間にエネルギーが喪われてゆく。
そして―――残エネルギー、ゼロ。
その無慈悲な宣告と同時に腹部に焼けるような痛みが走る。
『((撃墜|おと))された。』
そう、私が認識したとほぼ同時に耐えきれなくなった機体が機能を停止した。
武装はもちろん、センサーも、シールドも、機体を浮遊させていたPICも。
成す術がない。
墜ちる。
私は海面に叩きつけられたにしては妙に軽い衝撃を背中で感じつつ意識を喪った。
* * *
一夏対千冬、空対箒という師弟対決は終盤に差し掛かっていた。
技量で勝る千冬と空に性能差で喰らい付き続けた一夏と箒。
それが崩れたのは、勝負を焦った一夏が唐突に空へと切りかかった事によって起こった。
「でぇぇぇぇッ!」
意識の外からの奇襲という一手に賭けた一夏。
だが、それは―――
「悪手だね、それは。」
バクン、とラファールの左腕に装備されていた物理シールドがパージされ露わになるパイルバンカー"グレイスケール"。
突っ込んで行く一夏に対しカウンター気味にパイルバンカーが撃ち込まれる。
ズガン!
「ぐぅ…」
「一夏ッ!」
「隙だらけだな。」
思わず助けに行こうとする箒。
だが、一夏が空に向かった事でフリーになった千冬の強襲を受ける事になる。
訓練機をつかっているとは思えないような鋭い斬撃に守勢に回ると、突然千冬の攻撃が緩む。
「えっ!?」
「千凪、止めは任せる。」
その一瞬の緩みに戸惑った隙に蹴られ空の方に飛ばされる箒の紅椿。
「りょーかい。」
その向かう先には一夏を撃墜し、((再装填|リロード))したパイルバンカーを構えた空がいた。
待っているのは―――一夏と同じ運命。
「くっ…!」
「ちょっとばかり、詰めが甘かったね。」
回避を試みた紅椿をパイルバンカーを捉える。
接触、そして炸裂。
ズガァン、
『ビィィィ―――!』
パイルバンカーの炸裂音と同時にアリーナに試合終了を告げるアラームが響いた。
「はぁ…はぁ…やっぱ強いな…」
「まだまだ、か……」
「ふん、お前らひよっこにはまだ負けんよ。」
「でも、追いつくのはそう遠くはないかな。」
撃墜されて地表で機能停止した白式と紅椿から一夏と箒が見上げると滞空する打鉄とラファールから千冬と空が不敵な笑みを浮かべて見下ろしていた。
その姿はまるで至高に立つ王者の如く――
「試合終了ぉ!!勝者は織斑先生アンド千凪先生チーム!生徒最強の生徒会長すら負けさせるという、学園最強コンビの名は伊達じゃなかった!それでもそんな二人に果敢に立ち向かい健闘した二人に盛大な拍手をお願いします!」
アナウンスが流れ、再起動した白式と紅椿が再度浮上すると再び歓声が上がる。
「それでは、生徒会主催の特別演武を終了とさせていただきます。続きまして第二アリーナにてISの体験搭乗と射撃体験を行います。男性の方も第二第三の織斑一夏を目指してのチャレンジ、お待ちしています!」
湧きあがる会場から今度は笑い声が上がる。
それぞれ、白式と紅椿が右側ピットへ、打鉄とラファールが左側のピットへと消えるまで歓声と笑い声は続いていた。
説明 | ||
#87:蠢動する闇、暗躍する光 なんか筆が進んだのでもう一発。 よーし、これで後に引けなくなったぞ。 |
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コメント | ||
感想ありがとうございます。――機体は実はハンデでもなんでもなかったり……。原作イベントも残すところあと『一つ』となり物語も終盤戦へ。良い意味で予想を裏切れるように頑張りたいと思います。___風邪も治ってきたので。(高郷 葱) 師弟対決、ハンデありでもその壁は高かったかぁ。一夏たちの学園祭が順調に進むなか、裏では着々と物語が進行している様子。作者様と束の意味深な言葉に期待を寄せつつ、次回の更新を楽しみにしています。気象の変化で何かと風邪をこじらせ安い季節となりましたので、体調の管理にはご注意を。では。(組合長) |
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