真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜第二十九話 夏―――は過ぎちゃったから、秋のヒーロー祭り!華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫! 四幕
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                                  真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜

 

               第二十九話 夏―――は過ぎちゃったから、秋のヒーロー祭り!華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫! 四幕

 

 

 

 

 

 

「白馬真剣、鋼斬りッ!!」

 説明しよう。ただの袈裟斬りである!

「ぐわぁぁぁ!!」

「白馬真剣、水平斬りッ!!」

 再び説明しよう。ただの抜き胴である!

 

「ぐへぇぇッ!!?」

 続け様に放たれた仮面白馬・剣龍の斬撃を受け、チンピラ達が大地に倒れ伏す。剣龍は、自分を囲んでじりじりと後退するチンピラ達から視線は外さず、後ろで体勢を立て直した星華蝶と仮面白馬に向かって、声を掛けた。

 

「この程度の輩に遅れを取るとは情けないぞ、妹よ!」

「へ?―――あ、そうだった!えぇと、済まない―――兄さん!」

 その受け答えを聴いた群衆から、興味深そうなどよめきが上がった。

「へー!あの二人、兄妹だったんだ!」

 

「だから、似た様な格好してるんだな!」

「(うむむ……白蓮殿、いつの間に、その様な設定が出来上がっていたのですかな?)」

 見物客の反応を見た星華蝶が、何故か悔しそうにそう囁くと、白蓮は苦笑いを浮かべて答える。

「(いや、北郷がさ、もしもの時に備えて、一応、私達の関係を決めといた方がいいだろうって言うから―――まさか、本当に使う事になるとはなぁ……)」

 

「(なんだかんだとゴネていた癖に、そんな事まで―――主、意外と気に入っておいでなのではないですか……)まぁ、このままでは癪であるし、我々もそろそろ往くとするか、仮面白馬!」

「ははは。応、星華蝶!」

 二人は頷き合って、再び乱戦の只中へと身を躍らせる。再び観衆から大きな声援が上がった―――。

 

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「ふっふっふっ。漸くやる気になったみたいね、北郷。これから私が、あんたに本当の地獄を見せてあげるわ……」

「桂花ちゃん、その台詞は〜―――」

「大変ですぜ、程の姐さん!!」

 袁紹こと麗羽の影で、陰険な嗤いを浮かべる荀ケこと桂花に、程cこと風が何かを言おうとした瞬間、チンピラの一人が、息を切らせて風の元に走り寄り、本職の伝令兵宜しく、片膝を付いてかしづいた。

 

「はいはい〜。どうしましたか〜?」

「警備隊が動き出しやした!数は約四十!今は東地区の屯所を出て、ここから二十町の辺りを進軍中です!」

「……ぐぅ」

「寝ないで下せぇ!!」

 

「おぉ!?いやいや、済みません。とっても麗らかな陽気だったので、つい〜。ともあれ、流石の稟ちゃんも、これ以上の時間稼ぎは出来ませんでしたか〜。どうしましょうねぇ〜」

 風は、僅かに眉に皺を寄せて、暫く考え込むと、やがてパチリと目を開き、未だ悦に入って邪悪な笑みを浮かべている桂花の袖を、クイクイと引いた。

 

「桂花ちゃん桂花ちゃん」

「?なによ、風。折角、人が幸せな空想に耽っている時に……」

「今のは、幸せな人が浮かべる笑顔とは程遠いと思うのですが……ま、良いのです。警備隊の人達がこちらに向かってるらしいので、ちょっと足留めしてくるのですよ。美以ちゃんと小蓮ちゃんと、あと、季衣ちゃんも貸してくれませんか〜?」

 

「季衣も?美以と小蓮だけで十分じゃないの?」

 桂花が不思議そうにそう尋ねると、風は、飄々とした顔で、キャンディを舐めながら答える。

「いえいえ〜。これだけの規模の騒動ですから、向かってるのはきっと、凪ちゃん率いる最精鋭の部隊の筈なのです〜。小回りの効く小蓮ちゃんと美以ちゃんなら、確かに攪乱と足留めには十分でしょうが、撤退の時に地形を利用して追い込まれる可能性があるのです。だから、街を知り尽くしている季衣ちゃんに居てもらった方が確実なのですよ〜」

 

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 桂花は、風の意見を吟味する様に握った手に顎を乗せて暫くの間考え込むと、やがて小さく頷いた。

「良いわ。三人を連れて行きなさい。こっちには“切り札”もあるし、戦力的には問題ないもの」

「はいは〜い。じゃ、適当に時間を稼いだら直帰するので、後はお願いしますね〜」

「あら、北郷の絶望に打ちひしがれた姿を見て行かないの?」

 

「こっちに撤退して来たら、陽動の意味ないじゃないですか〜」

「ま、それもそうね。じゃあ、私があなた達の替わりに、しっかりと目に焼き付けておいて上げるわ」

「そうなると良いですね〜。ではでは〜(やれやれ、桂花ちゃんも、案外お甘いようで……)」

 風は、何時もの様に抑揚の無い口調で答えながら、聞き取れぬ程の小さな声でそう呟き、大声で指名した三人を呼び寄せて経緯を説明した。

 

「りょ〜かい!じゃ、屋根の上、伝ってった方が早いね。風ちゃんはボクの背中に乗っていきなよ!」

 許緒こと季衣が、そう言ってしゃがみ込んでやると、風はいそいそとその背に乗っかる。

「いつも済まないねぇ、季衣ちゃん」

「それは言わない約束だよぉ、風ちゃん」

 

「あんた達って、変な所で息ピッタリだよね……」

 孫尚香こと小蓮が、大きく跳躍して屋根に上がった季衣を追いかけながら、半ば呆れた様にそう言うと、横を並走していた孟獲こと美以も、ウンウンと勢い良く頷いた。

「スゴイにゃ!“あ〜うん”のこきゅうだにゃ!」

「違うよ、美以。阿吽だよ、あ・うん!“あ〜うん”じゃ、適当に相槌打ってるだけみたいじゃない」

 

「む〜、しゃおは難しいコトばっかり言うにゃ!ちゃんと分かったんなら、別にいいにゃ!」

「あのねぇ―――はぁ、やっぱ、もう良いよ。どうせ言っても聞かなそうだし……」

「小蓮ちゃんも、少しは穏ちゃんの気持ちが分かってきたみたいですね〜」

 風が、季衣の背中で面白そうにそう言うと、小蓮は、頬を膨らませて、風を睨み返した。

 

「ちょっと、風!それってどう言う意味よ!」

「ぐぅ……」

「寝るなっ!」

「おぉ!?いやぁ、頬を撫でる風が心地よくて、つい〜……あ、それからですね〜」

 

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「あからさまに話をすり替えるな!」

「適当に時間を稼いだら、そのまま警備隊を捲いて解散しますから、そのつもりでいて下さいね〜」

「無視なのね―――って、え!?帰って来ないの!?シャオ、まだ全然活躍してないよ!?」

「みぃもだじょ!どうして帰るにゃ!?」

 

「もう、潮時だからですよ〜。と言うか、お兄さんが出て来た時点で負け確定ですし〜」

「え、そうなの!?」

 季衣が、背中の風を振り返りながら驚いてそう言うと、風は当然だとでも言う様に頷いた。

「そですよ〜。桂花ちゃんがお兄さんに対して何か企んで実行する時には、ほぼ九割近い確率で失敗してますからね〜。大体、あれだけお兄さん達に“勝利ふらぐ”を立てられてるんですから、とっくに撤退の時期を考えておかないといけないんですけどね〜」

 

「ふらぐ?ふらぐって、なんの事?一刀もたまに言ってるけど……」

「“ふらぐ”と言うのは、天の国の言葉で、旗と言う意味だそうです。特定の条件が成立した時の事を、旗を立てて合図する事になぞらえて、“ふらぐが立つ”って言うんだそうですよ〜」

 

「へ〜。じゃあ、風は負けるって気付いてたのに、桂花に付き合ってたの?」

「はい〜。こちらにも、色々事情がありまして〜」

「ふーの言うことは、みんな難しくてワケが分からないじょ……」

「ふふっ、それで良いんですよぉ、美以ちゃん。軍師が簡単に考えを読まれる様では、失格なのです〜」

 風は、頭を抱える美以に優しげな眼差しを送ってそう言うと、再び目を閉じて、束の間の微睡に沈んで行くのだった―――。

 

 

 

 

 

 

「うぉりゃあああ!!」

「なんのッ!!」

 二つの裂帛の掛け声と共に、金属がぶつかる鋭い音が交錯する。大上段から振り抜かれた文醜こと猪々子の剣を、一刀扮する白馬仮面・剣龍の直剣が受け止めたのである。力が拮抗し、鍔迫り合いになって数瞬、今度は顔良こと斗詩が、腰溜めに構えた大金槌を剣龍の胴目掛けて、真横に振り抜く。

 

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 剣龍は、素早く猪々子の剣を弾き返すと、派手な回転を加えて跳躍し、斗詩の攻撃を((躱|かわ))してから、華麗に着地しつつ剣を構え直した。その瞬間、演舞の様な一連の剣龍のアクションに、割れんばかりの拍手と声援が巻き起こる。

 それもその筈。一刀と猪々子と斗詩がやっているのは、正しく、計算し尽くされた“演舞”なのだから。疾走して再び剣龍と鍔迫り合いになった猪々子は、愉快そうに小声で一刀に話しかけた。

 

「(いや〜、やっぱ、客のノリが良いと燃えるよな〜!思わず力が入っちゃうぜ!!)」

「(おいおい、興が乗るのは結構だけど、真っ二つにされるのは勘弁だぞ、猪々子……)」

「(んな事しねぇって。何十回も練習して来たんだからよ―――っと!)おりゃ〜!!」

 猪々子は、そう言って間合いを切るや、大剣を棒か何かの様に軽々と振り回し、剣龍目掛けて続け様に斬りつけた。剣龍は、半身を逸らしてひらりひらりと鋭い剣閃を避け続け、最後の一撃で地面にめり込んだ大剣の腹を、回し蹴りで強かに打ち据える。

 

 この一連の動作も、一刀と猪々子が考えた演舞である。いや、“魅せる事”を前提としている以上、最早、『((殺陣|たて))』と言ってしまって良いだろう。

 どの方向から、どの程度の速さで、何度、斬撃が来るのか。その全てを事前に知り、身体に覚え込ませているからこそ、紙一重で華麗に躱す事が出来ているのである。

 

無論、それだけではなく、相手への絶対的な信頼と、互いの動きを察し合う絶妙な呼吸も同時に要求される。幾ら刃引きをしてあるとは言っても、猪々子の得物は、人の身の丈以上の大剣だ。

ただ振るわれた物に当たっただけで、並みの人間ならば致命傷は避けられないだろう。だが、二人の心の根底にあるその緊迫感こそが、殺陣を更に危険で、魅力的な物にしていると言えた。

 

 猪々子が、剣龍の蹴りで弾かれた大剣の勢いに身体を持って行かれて体勢を崩すと、すかさずその隙に、斗詩の大槌が剣龍の頭上に迫った。しかし、事前に斗詩が大きな掛け声を出してタイミングを知らせてくれているので、剣龍は、まるで後頭部に目が付いているかの様な正確さで大槌を躱す事が出来た。

 

大槌の柄を掴んで斗詩と睨み合いながら、摺り足でジリジリと移動していると、斗詩が小さな声で語り掛けて来る。

「(凄いです、ご主人様!私達、今までのどんな練習より、ずっと上手く出来てますね!)」

「(そりゃそうさ。人の目があると、士気が違うからな。猪々子の剣なんて、キレ過ぎておっかねぇ位だよ)」

 

「(文ちゃんだって、ちゃんとギリギリで我慢出来ますよ……多分)」

「(相棒がそういう事言うの、やめてくれよ。めっちゃ不安になるじゃないか……)」

「(あはは。それは兎も角としてッ―――!)」

 

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 斗詩は、塞がった両腕の代わりに、鋭いミドルキックを放ちながら、言葉を続ける。

「(もうそろそろ、“締め”にいきますか?お客さんも、良い感じに盛り上がってますし……)」

「(いや、もうちょっと―――)」

 剣龍は、斗詩の蹴りを自分の脛で受け止めながら、ちらと視線を投げた。

「(二人が恋を助け出すまでは、もう少し粘りたいな)」

 

 剣龍の視線の先には、地和率いるチンピラ達を薙ぎ払う、星華蝶と仮面白馬の姿があった。二人は、呂布こと恋に張り付いて動きを封じている量産型南蛮娘達を引き剥がしに行きたいのだが、地和の扇動とあざとい声援で狂戦士と化したチンピラ達は思いのほか奮戦し、中々二人を進ませてくれないのだ。

「(うわぁ。地和ちゃん、全力じゃないですか……)」

 

 斗詩は、唇の端をヒクつかせながら、お決まりの『ほわ〜〜〜!!』と言う奇声を上げて星華蝶と仮面白馬に群がる男達と、それを扇動している地和に生温かい視線を送った。

「(引いてやるなよ、斗詩。当人達は大マジメなんだからさぁ……ともあれ、風が居なくなってくれたし、あっちはもう少し時間掛ければ何とかなるだろ)」

 

「(でも、まだ桂花さんが居ますよ?この位の規模の戦闘、二面同時に指揮するのなんて平気なんじゃ……)」

 大槌の柄で剣龍と打ち合いながら斗詩がそう尋ねると、剣龍は、半ば呆れた様な、それでいて面白がっている様な表情で、僅かに顎をしゃくってみせた。

「(―――あれ、見てみろよ、斗詩)」

 

「(あ……)」

 斗詩は、剣龍の示した方向を見ると、それだけを呟いて、全てを悟った。桂花は、地和が指揮している対華蝶連者戦線などには脇目も振らず、苛立ちの籠った眼差しでこちらを睨みつけながら、言葉にするのも憚られる様な罵詈雑言を撒き散らしている真っ最中だったのである。

 

「(な?桂花は元々、俺に群衆の前で恥掻かせたくてこんな事してるんだろ?俺が出て来た時点で、華蝶連者とむねむね団がどうなろうと、眼中にないんだって)」

「(何て言うか……モテモテですね、ご主人様……)」

「(よせやい、照れるぜ!)」

 

 剣龍は、周りには見えない様に、自嘲めいていながら爽やかと言う極めて微妙な笑顔を浮かべると、言葉を続けた。

「(だから、もう少し粘ってくれ。良い時期が来たら、そん時にまた知らせるからさ)」

「(了解です!じゃ、行きますよ!)」

 斗詩は、剣龍に向けて微苦笑を向けると、大きく間合いを取って、大槌を振り上げた―――。

 

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「何をチンタラやってるんですの!そう、そこですわ!あっ!?惜しい!!」

 袁紹こと麗羽が、そんな勝手な事を叫んで戦闘に夢中になっている間に、桂花は不意に黙り込み、仮面の奥で眼光鋭く思考を廻らせた。

「(まったく、何が袁家の二枚看板よ!北郷なんかに此処まで手間取るなんて、信じられないわ!!こうなったら、少し早いけれど―――)」

 

 本来、北郷一刀を完膚なきまでに叩き潰してから駄目押しに使おうと思っていた、“切り札”……。桂花は、それを今切る事に決めて、担い手の名を呼んだ。

「周。“アレ”の準備、出来ているわね?」

「は、はい!けい―――じゃなかった、荀様!でも、少し予定より早いんじゃ……」

 

「いいえ、このままでは埒が明かないもの。トドメに使うつもりだった物を、戦意を削ぐのに使う事にしただけ―――計画に変更はないわ。どの道、“アレ”を出された段階で、北郷が大恥を掻く事にあるのに変わりはないんだから……」

桂花は、明命の少しと惑い気味の言葉に視線も合わさずにそう答えると、斗詩と猪々子の二人と交互に切り結んでいる剣龍を、邪悪な笑みを浮かべて見詰めるのだった。

 

「(はぅあ……申し訳ありません、一刀様。これも、巨乳人への道の為―――明命は、修羅になります!)」

 明命は、身体に動きに合わせて勢い良く揺れる麗羽の胸元に羨望と嫉妬の入り混じった視線をちらりと向けると、意を決して、胸元に手を潜らせた―――。

 

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「そこまでです!かず―――じゃない、仮面白馬・剣龍!!」

「なに?」

「え……?」

「何だぁ?」

 

 突如として響いたその声に、剣龍だけでなく、派手に剣戟の音を響かせていた猪々子と斗詩も、思わず手を止めて声の主―――明命を見遣った。明命は、剣龍と群衆の目が自分に対して十分に集まった事を確認すると、その“慎ましい”胸元から何かを取り出し、叩き付けるかの様に剣龍の前にそれを掲げる。

「それ以上抵抗するのなら、“コレ”がどうなるか、保証は出来ませんよ!」

 

「“コレ”って―――本?いや、それは……まさか!!?」

 剣龍は、明命の手に握られているのが数冊の本である事を理解し、その表紙に見覚えがあるのを確認して、サッと顔を青くした。

「そうです!これは、あなたの寝―――じゃない。アジトに潜入して入手して来た、あなた秘蔵の((希少艶本|これくしょん))!!さぁ、抵抗を辞めて下さい!でないと……」

 

 明命は、そこで言葉を切ると、何処からか取り出した極太の蝋燭の火を、本の角に近づける。

「ま、待て!待ってくれッ!!」

「ふふふっ。良い気味ね、剣龍!真性ド変態のあんたには、これ以上の人質はないでしょう?」

 桂花は、よく彼女を形容するのに用いられる猫そのままの、捕えた獲物を((甚振|いたぶ))る無邪気な眼差しで、剣龍を見遣った。

 

「おのれ、卑怯な……!」

 口惜しそうにそう呟く剣龍を見る桂花の口元は、愉悦と征服感とで、更に大きく吊りあがって行く。

「あら、そんな生意気な口を利いて良いのかしら?私の機嫌を損ねると、この汚らわしい本がどうなるか―――」

 

 

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「待て!!――――分かった。好きにしろ……」

 剣龍は、構えを解くと、手にしていた剣を地面に投げ捨てた。

「まだよ!その剣、こちらに蹴りなさい!」

「…………」

 

 間髪入れぬ桂花の言葉に、剣龍は唇を噛みしめながら、桂花の足元に向かって力なく剣を蹴る。今や、離れた場所にいる星華蝶と仮面白馬、そして、彼女達と戦っていた筈の地和やチンピラ達までもが、群衆と共に、固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた。

「お〜っほっほっほ!流石は“私の”軍師ですわ!!良くやりましてよ!」

 

「この!誰が……!!」

 桂花は、麗羽の言葉に反論しようとする自分の口を、全精神力を以って押さえ付けた。ここまで全て上手く行き、既に計画の八割方は成ったも同然だ。

 この千載一遇の機会を、内輪揉めなどで逃してなるものか。桂花は、大きく息を吐いて気持ちを切り替えると、目の前で身動き出来ずに居る仇敵に向かって、再び笑みを漏らした。

 

「さぁ、どうして上げましょうか?先刻あんたが気絶させた男どもを起こして、ボッコボッコにさせてやろうかしら?それとも―――」

 桂花は瞳を爛々と輝かせながらそう言って、不意に言葉を止め、ぽん、と両手を叩いた。

「そうだわ!この本の題名を読み上げて、ここに居る人間達にあんたの性癖をバラして上げる!」

 

 瞬間、群衆にざわめきが広がる。名目上は敵である筈の猪々子すら、「うわぁ、エゲつねぇ……」と呟き、気怠げに大剣を担ぎ直してゲンナリしてるし、星華蝶も、「((惨|むご))い真似を……」と言いながら唇を噛んでいる。

 敢えて記すが、斗詩と仮面白馬はドン引きしていた。

「そうねぇ―――まずはコレなんてどうかしら?“奴隷になる女子書生悪魔の羞恥秘園”!」

 

 瞬間、群衆のざわめきが一際大きくなる。

「おい、あれって……」

「まさか、幻の……」

 男達のそんな声が、((俄|にわ))かに漏れ聴こえ出していた。桂花は、いよいよ得意満面の笑顔を浮かべ、明命が持つ二冊目の本に顔を近づける。

 

「次は―――“性奴愛玩具初夜・特装版”!」

 ざわ……ざわ……。

「三冊目は、と―――“美臀侵食満漢全席大工房”、ですって?サイテーね!」

 ざわ……ざわざわ……!!

 

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 次第に大きくなる民衆の反応に、桂花は最早、有頂天であった。自分が、北郷一刀を辱めている。

その事実を認識するだけで、曹操こと華琳に優しく全身を撫で回されているかの如き快楽が、彼女を包んでいたのである。

「最後は―――“同級生肉襲天使誘惑相姦寝室”?まったく、どれもこれも品のない下劣な題名ね!ほんと、あんたの劣悪な本性が知れるってもんよ!」

 

「いや、その品のない下劣な題名を、公衆の面前で大声で音読してるお前はどうなんだよ……」

 仮面白馬のそんな的確なツッコミも、今の桂花の耳には馬に念仏である。

「さて―――じゃ、選びなさい、剣龍。その気障ったらしい仮面を取るか、この本をどの順番で灰にするかを」

 

「な―――に!?」

「あら。私は、抵抗をやめたらこの本を返して上げるなんて一言も言ってないわよ?さ、選びなさい、剣龍。それとも、私に選んで欲しい訳?」

「クッ……!!」

 

 剣龍が拳を握り締め、絶望に呑み込まれようとした刹那、群衆の中から、一つの声が上がった。

「ふざけんな!いい加減にしろよ、この性悪ネコ耳!!」

「な、何ですって!?」

 その罵声の内容よりも、罵声が北郷一刀ではなく自分に向けられた事に驚いた桂花は、思わず視線を彷徨わせ、声の主を探した。だが、それも直ぐに無駄となった。

 

先程の声を皮切りに、周囲から次々と、男達の怒りの声が上がったのである。

「そうだぞ!女のお前には分かんねぇだろうけどな、その本はみんな、今や売れっ子作家になってる奴等が若手の頃に書いた、売れば家建つ位の超絶((希少価値|プレミア))付きのお宝本なんだ!漢の夢が詰まってるんだッ!!」

「そうだそうだ!それを、下劣だの品性がないだのって馬鹿にしやがって!」

 

「負けるな、剣龍さん!!俺達はあんたの味方だぞ!!」

「漢の浪漫をコケにするようなヤツに負けないでくれ!俺の……俺達の夢を、守ってくれ!!」

「ちょ―――何なのよ、これ!どうしてこうなるのよ!!?」

 完全に予想外の事態に直面した桂花は、真っ赤な顔で周囲を忙しなく見渡しながら、混乱した思考を整理しようと必死になっていた。しかし、漢たちの魂の叫びは、今や大きなうねりとなって、桂花達、品乳むねむね団を取り囲んでいる。

 

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 物怖じと言う言葉など辞書に無いであろう麗羽ですら、頬は引き攣り、腰が引けてしまっていた。それ程に、漢達の義憤の気当たりは凄まじかったのである。

 桂花は、計画の初期段階で大きな過ちを犯していた。この都は、今や大陸の政治と経済の中心地だ。

 つまり、政治に携わる地方豪族や武官・文官と、単身赴任で付き従って来るその部下達。経済面で言えば、商売やら出稼ぎやらで各地の村々から出て来た男達が溢れ返る、謂わば、『男達の街』と言って差し支えなかった。

 

 男は、人口比率で言えば初期の江戸とタメを張る、八対二と言う圧倒的な((多数派|マジョリティ))なのである。そんな街のど真ん中で、妓楼に上がる金も無く、一人寂しさに耐える男達の無聊の友とも言える艶本―――しかも、娯楽の少ないこの時代に、超絶プレミアが付く程に有名なそれを公然と貶めるなど言う事は、断じて許されざる暴挙であり、腹を空かせた虎が漸くありついた僅かな肉を蹴り飛ばし、次いでにその尾を思い切り踏み付ける、とでも言うべき、分かりやす過ぎる愚行であったのだ。

 

「み―――みんな……!!」

 剣龍は、感無量の面持ちで周囲を見渡すと、瞳を閉じて深く深呼吸をし、静かに瞼を開いた。

「―――取らない」

「何ですって?」

 

「俺は仮面を取らない!俺の名は、仮面白馬・剣龍!お前達の様な卑劣な奴等には、決して屈しはしない!!」

 高らかと告げられた剣龍の言葉に、男達から惜しみない歓声が浴びせられる。そんな中、猪々子は、不思議そうに斗詩に尋ねた。

 

「なぁ、斗詩―――」

「なに?文ちゃん……」

「あの艶本の中身ってさぁ、題名から想像してみる限り、アニキの日常と大して変わんねんじゃね?」

「うん。どれも、頼めばやってくれそうな((女|ひと))、居るよね……」

 

「なのに、後生大事に本まで持ってるなんて、男って、よく分かんねぇよなぁ……」

「だねぇ……」

 そんな二人のガールズトークは、男達の熱い歓声の呑まれて、静かに消えて行った―――。

 

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「うむ!うむ!!これぞ王道!これぞ((正義の味方|ヒーロー))!!流石は、私が認めた御方だ!!」

 星華蝶は、観衆の声援に応えてすっくと立った仮面白馬・剣龍の背中を見詰めながら、満足げに頷いている。それを見ていた仮面白馬(無印)は、呆れた様子で頭を掻いた。

「そうかぁ?だってあれ、((艶|エロ))本を燃やすの燃やさないのってだけの話だろ?」

 

「…………ハァァァァァ…………」

「な!?なんだよ星華蝶!その、魂吐き出すみたいな溜め息は!!?」

「仮面白馬よ……そんなんだから、お主は影が薄いだの、派手な格好してるクセに結局、地味だの、何時まで経っても普通だのと言われるのだ……」

 

「は!?そうなの!!?」

「当たり前であろう―――良いか?こう言う時は、ノリと勢いで多少の矛盾や微妙な元ネタなどは突っ切ってしまうのが正義の味方というもの……そこに知った様な口でツッコミを入れるなど、無粋の極み!興ざめする事甚だしい!そんな場面で、『自分は違います』的な立ち位置を確保しようとするから目立んのだ!!少しは、“お兄上”を見習うのだな」

 

「う゛……」

「ま、それは後々の反省会ででもじっくり話すとして―――」

「また呑むのかよ……」

「我等もこの勢いに乗り、敵を蹴散らして正義を示さねば!!」

 

「俗っぽいのか高潔なのか分かんない話の流れだな……」

「その必要はねぇぜ、華蝶仮面」

 仮面白馬が、突然、背後に炎を纏ってやる気を出している星華蝶に呆れていると、今まで戦っていたチンピラ達の筆頭格だったチョビ髭の男がそう言って、手に持っていた直剣を地面に投げ捨てた。周りのチンピラ達も、それに倣う様に、次々と武器を捨てて行く。

 

「な!?ちょっと、皆どうしちゃったの!?」

「すまねぇ、チーちゃん。俺達みたいな悪党でも、男の端くれだ。漢の夢をあんな風に弄ぶ作戦には、従えね―――ふべらッ!!?」

 哀愁漂う表情で地和に語り掛けていた男は、不意に、奇妙な叫び声を上げて、民家の壁目掛けて吹き飛ばされた。

 

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「……え?な、ちょ、れれれれ、恋!!?何で!?」

 男が立っていた場所の、僅か数歩後ろ。そこには、右手で肉まんを口に運びながら、無造作に左腕を前に突き出した、紅蓮の戦神の姿があった。

「おぉ、恋華蝶!何時の間に復活したのだ!?」

 

「…………ん」

 恋華蝶は、肉まんの残りを全て口に放り込むと、今まで自分が動けずにいた辺りを指差した。

「おぉ、朱華蝶!」

 そこには、量産型南蛮娘たちに肉まんを配っている、朱華蝶の姿があった。

 

「あ、星華蝶さん、仮面白馬さん。御免なさい。恋華蝶ちゃんのご飯を買ってたら、遅くなってしまって……」

「成程、肉まんを餌にして、そいつらを引き剥がしたのか!良く考えたなぁ!」

 仮面白馬が、関心してそう言うと、朱華蝶は、照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「最初は、ご―――剣龍さんのお考えで、本当に恋華蝶ちゃんのご飯を買いに行ったんですけど、途中で思い付いて―――」

「よし。良くやってくれた、朱華蝶!これで全員集合だな!往くぞ―――!」

「はい!天知る」

 

「…………地知る」

「我知る!」

「子知る!」

「悪の蓮花の咲く所!」

 

「正義の華蝶と」

「白馬あり!」

「朱華蝶!」

「…………恋華蝶」

 

「星華蝶!」

「仮面白馬!」

 

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「か弱き花を守るため!」

「輝く蹄も高らかに!」

 

「華蝶の連者!」

「白馬の戦士!」

「四人揃って」

「……ただいま」

 

「「参上!!」」

「……さんじょう」

 ドドーーーン!!

 

「くそぅ、華蝶連者め!良くも兄貴を!」

「許さないんだな〜!」

 小男と巨漢は決死の形相でそう言うと、背後に四色の煙を背負う華蝶連者を睨み付け、続いて、背後の地和に視線を向けた。

 

「チーちゃん、ここは俺達に任せて君は―――って、チーちゃん!!?」

「ど、どこ行ったんだな〜!?」

 二人が驚くのも無理はなかった。地和がつい先程まで居た場所には、その影すらも残されて居なかったのである。

 

「ははははは!お前達の頭目なら、私達が名乗りを上げた瞬間に、尻尾を巻いて逃げ出したぞ!」

 星華蝶の言葉を聞いた二人は、ガックリと項垂れ、地面に膝をついた。

「そ、そんなぁ……折角、カッコイイところを見て貰おうと思ったのにぃ……」

「あんまりなんだなぁ……」

 

「諦めろ、お前達!これまでだ!!」

「うぅ……こうなりゃヤケだ!おい、デク!」

「うん、最後まで暴れてやるんだな〜!皆も行くぞ〜!!」

 仮面白馬に剣の切っ先を突き付けられた二人は、ふらりと立ち上がると、周りで動揺していたチンピラ達に激を入れる。最早、後に引けなくなったチンピラ達は、ヤケクソ気味の奇声を上げて、華蝶連者に向かって突っ込んで行くのだった―――。

 

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「な、何で逃げてるのよ、地和のヤツ!?これじゃ、前線がダダ崩れじゃないの!!クッ、こうなったら―――」

 桂花の(本来)明晰な頭脳は、事ここに至り、漸く撤退の算段を弾き始めた。華蝶連者を抑えきれなくなった以上、最早、作戦の完遂は難しい。

 

 となれば、切り札である艶本を人質代わりとして北郷の気を引き、明命と共に戦場を離脱するのが最良だろう。麗羽など元々どうなろうと知った事ではないが、負け戦に慣れている二人の部下が付いているし、残して逃げても問題はあるまい―――。

「仕方がないわね。明命―――って、ちょっと、明命!!?」

 

「はぅあ〜。肉まんを頬張る大量のお猫様……幸せ過ぎます〜〜って、アチチチチ!!?あ……」

 明命は、手に感じた熱に慌てて我に返り、そこで初めて、自分が地面に落とした物を確認した。それは、勢いよく燃え上がる一刀秘蔵のコレクションであった。

 彼女は、量産型南蛮娘達を愛でる時、何時もの癖で、両手を胸元の近くに近づけてしまっていたのである。となれば、それぞれに持っている蝋燭と艶本も、限りなく接近する訳で、まぁ、至極当然ながら、火は艶本に燃え移ってしまったのであった。

 

「なんて事してんのよ!これ無しじゃ―――」

「お前ら……」

 周囲の男たちが悲鳴にも似た絶叫を上げる中、桂花が明命に何かを言いかけた瞬間、妙に静かな男の声が二人の耳に届いた。

「げ!?」

 

「はぅあ!?」

 二人が揃って、“ギシギシ”と言う音が聞こえそうな動きで顔を上げると、そこには、静かに佇む仮面白馬・剣龍の姿があった。

「お前ら……ゆ゛・る゛・さ・ん!―――天よ、地よ、火よ、水よ、我に力をあたえ給え……((最終合身|パイィィル・フォーメイション))!!」

剣龍は、胸元から筒状の物体を取り出すと、高らかにそれを掲げる。すると、筒の中から煙の尾を引いた何かが飛び出し、空中で大きく弾けて、空中に巨大な煙の球を作り出した―――。

 

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「キタ、キタ、キタで〜〜〜!隊長からの合身要請や!華琳様、ええですよね!?」

 魏の屋敷の中庭で、空に出現した煙の球を見ていた李典こと真桜が嬉しそうにそう言って振り返ると、彼女の主である曹操こと華琳は、やれやれとでも言うように首を振った。

「まったくもう……結局、こうなったわね。街の騒動を耳にした時から、嫌な予感がしてはいたけれど―――まぁ、いいでしょう。最終合身、承認!!」

 

「了解!むろふし君二号、起動。発射角、誤差修正―――隊長、上手く受け取ってや!!でらっくす最終合身せっと、発射!」

 真桜は、むろふし君二号に走り寄って台座を動かし、レバーやらクランクやらを一瞬で操作し終えると、巨大で毒々しいまでに赤いボタンに、勢い良く拳を叩き付けた―――。

 

 

 

 

 

 

「トゥ!!」

 剣龍が勢い良く煙の中に突っ込むのと同時に、轟音を伴って飛来した謎の物体も煙の中に姿を消した。

「斗詩、なんか飛んで来たぞ……」

「うん、飛んで来たねぇ……」

猪々子のどこか悟った様な口調の言葉に、斗詩も同じ様に答えた。

 

「こんなの、段取りに無かったよな……」

「うん。もの凄く嫌な予感、するねぇ」

「だなぁ。ちょっと、離れてた方がよさそじゃね?」

「そうしようかぁ」

 二人が、そんな事を囁き合いながら、固唾を飲んで空中の煙の塊を見詰めている麗羽、桂花、明命の三人に気付かれないよう、そろそろと群衆の中に紛れ込むのと同時に、煙の中から人影が躍り出て地面に片膝を突き、華麗に着地をした。

 

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「仮面白馬……バァイ、カンフーッ!!」

 説明しよう!一刀が都の空高く合図を送ると、(ある意味)時を越え、(ある意味)次元を越え、((最終合身|パイルフォーメーション))は完成する。倍功夫は地上すべてのエネルギーとシンクロし、自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ!!…………多分。

 

「って、なによソレ!白くないじゃない!って言うか、むしろ赤いじゃない!!どこが仮面“白”馬なのよ!!」

「そんな事、俺が知るか!!」

「な!?横暴過ぎるでしょ、そんなの!!」

 

 桂花の言葉も最もだった。再び空中の煙の中から姿を現した剣龍……いや、倍功夫の纏っている鎧の色は明るい赤で、白と言えば、アクセント程度にラインが入っている位である。しかも仮面にまで、口の部分を覆う赤い部品が追加されていた。

 これでは確かに、『どこが仮面“白”馬だ!!』と、誰もがツッコミを入れたくなる筈であろう。

 

 しかしながら、一刀の言い分も至極もっともで、先日見た時には白かった筈の鎧が何故赤いのかという事については、製作者の李典こと真桜しか与り知らぬところである。まぁ大方、『その方がハデでカッコええやん!!』とか、そんな理由であろうが。

「な、なんと!!二段変身とは……その発想はなかった……」

 

 星華蝶が、今まで以上の声援を受けてむねむね団と対峙する倍功夫を悔しそうに見遣りながら唸る様にそう言うと、隣の仮面白馬が慌ててその肩を揺すった。

「そう言う事じゃなくて!!こっちも粗方、片付いたし、助けに行かないとヤバいんじゃないのか!?」

「は?何故です?」

 

「いや、何故ですって、お前!猪々子と斗詩に加えて、明命の相手までは無理だろう、どう考えても!!」

「なぁに、大丈夫でしょう。な、朱華蝶?」

「ですね〜。流石に、こうまであからさまだと……」

「おいおい、朱華蝶まで何言ってんだよ!?」

 

 まさか、朱華蝶までが星華蝶に付くとは思ってもいなかった仮面白馬が驚いてそう言うと、朱華蝶はどこか呆れた様な、それでいて困った様な笑顔を浮かべた。

「あはは……まぁ、仮面白馬さんのお気持ちも分からなくはないですけど、私としては((寧|むし))ろ、この状況を引っくり返せたら、むねむね団の皆さんの評価の方を、かなり改めなければならないと思いますよ?」

 

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「マジで!?そんなに圧倒的なの?」

「ですな。ここまで“お約束”が立ち並んでおるのです。、主の勝利はほぼ確定―――払い戻しがあるとしたら、精々1.1倍程度が関の山でしょう」

 仮面白馬が、未だに二人の言う事を理解できずに半ば茫然としていると、今まで黙って残りの肉まんを頬張っていた恋華蝶が、不意に腕を上げて大櫓の下を指差した。

 

「もうそろそろ、終わる…………」

「えぇ!?早いな、おい!」

「ふむ。ではまぁ、兄思いの仮面白馬の胃に穴が空いてしまわぬよう、一応、何時でも駆けつけられる準備はしておくとして―――主のお手並み、拝見と参ろうか」

 

 

 

 

 

 

「ち、ちょっと周!こうなったら、あんた、どうにかしなさいよ!こういう時の為の戦闘要員でしょ!?」

「はぅあ!?わ、私ですか!!?いや、でもでも、今の一刀様、とっても怖い感じですよ?近づいちゃダメだって、私の中の何かが叫んでるんです!!」

「んもう!!役に立たない新幹部ですわね!って、文さん、顔さん?ちょっと、どこに行きましたの!?」

 

倍功夫は、姦しく大騒ぎをしている三人を憐れみの籠った眼差しで暫く見詰めて、口を開いた。

「どうやら―――自分達では順番を決められないらしいな。良いだろう、なら、一遍に片を着けてやる!!」

「は?」

「へ?」

「なんですっ―――」

 

 

「バイカンフゥゥ!ボンバァァァー!!」

 倍功夫の叫びと共にその手から放たれた球体は、三人の中心で勢いよく弾け飛び、周囲に煙の幕を作りだした。規模こそ先程のものには及ばないが、濃度はそれ以上であろう。濃霧の様な煙の中、半ばパニックに陥った桂花は、片方の袖で口を押さえながら、必死に残る二人の名を呼んだ。

 

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「袁!?周!?どこに居るのよ!返事しなさいよ!!」

「こ、ここです!荀さま!」

「ここってどこよ!?この中じゃ全然わかんないわ!」

「荀さまから見て―――え!?ちょっ、今そんなところ!?……いや……ふあぁぁぁん♪」

 

「周?周!?……何だって言うのよぉ」

 桂花は、不意に途絶えた明命の声を探しながら、恐る恐る、煙の中に目を凝らした。明命が最後に漏らしたあの叫び声は、尋常ではない。十中八九、この中には、北郷一刀が何か、罠のような物を仕掛けているのだろう。ならば、声を出さずに煙が晴れるのを待っていた方がいい。

 

「(そうよ。視界が悪いのは、あいつも同じなんだから。この煙だって、いつまでも展開してはいられない筈―――)」

 桂花が、懸命に思考を働かせてそう自分に言い聞かせた瞬間、高慢そうな金切り声が、すぐ近くから響いた。

 

「もう、どなっているんですの!?この私を一人にするなんて―――」

「麗羽さま麗羽さま。早く離脱しますよ!」

「急いでください!」

 煙幕に紛れて群衆の中から飛び出した猪々子と斗詩が、麗羽の腕を両側からガッチリと掴み、何かを言いかける麗羽を無視して、煙をかき分け去って行く。

 

「ちょ!?あんた達、逃げるなら私も連れて行きなさいよ!!」

「誰かお探しですか、軍師殿?」

 思わず叫んだ桂花の背後。正しく、一寸先も見えないような白い靄の中から、不意に男の声が聞こえた。

「ひっ!!?あんた、どこから―――え!?ちょっと、何するのよへんた…………いや!こんな……こんなヤツに……ああぁぁぁ♪」

 

「―――中で、何が起きてるんだ……?」

 倍功夫が巻き起こした煙の渦の外で、観衆と共に事態の趨勢を固唾を飲んで見守っていた仮面白馬は、不安げな声でそう呟いた。既に、煙が発生して一分ほどが経っている。

「さぁ?しかし、もう分かるだろう―――風が出てきた」

星華蝶が、仮面白馬にそう答えたのと同時に、涼やかな一陣の風が広場を吹き抜け、煙の粗方を拭い去る様に運んで行く。そこには、倒れて、何故か艶っぽく肩を上下させる桂花と明命に背を向けた倍功夫が、悠然と佇んでいた。

「白馬宙真拳奥義、((神掌絶頂拳|ゴッドハンド・ファイナル))!そこがお前達の―――((到達点|ゴール))だ」

 

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倍功夫が見得を切った瞬間、観衆の大歓声が沸き上がった。

「スゲー!幹部二人を一撃かよ!」

「つか、なんか知らんけどエロくね!?」

「確かに。良く解らねぇけど、エゲつない気配がプンプンするよな……だが、そこにシビれる憧れるッ!!」

 

「これはまた、何と言うか……」

 煙の中で何が行われたのかを察した仮面白馬が、何とも言えない表情でその光景を見詰めていると、星華蝶は、カラカラと陽気な笑い声を上げた。

「はっはっは。“種馬”の本領発揮だな!いや、流石流石!」

 

「素直に褒めていいんでしょうか、それ……」

「けぷ……ごちそうさま……」

 頬を赤らめて星華蝶の言葉に答える朱華蝶の横では、恋華蝶が肉まんを殲滅していた。そこに、倍功夫から声が掛る。

 

「華蝶連者、あのデカブツは任せるぞ!」

「おや、我らにも見せ場をくれるようだな。しかし……ふむ。流石に、私一人ではちとキツいか。今回は三人で行くとしよう。いいな、恋華蝶、仮面白馬!」

「応、任せろ!」

 

「お腹一杯……行く……!!」

 星華蝶の号令の元、三人は武器を腰溜めに構え、大櫓に向かって突貫する。

「くらえ!華蝶!風!月!斬・改!!」

 三人の猛将の一撃が、大櫓を直撃する。大音響と共に崩れ去る攻城兵器は、弾け飛ぶ木片と土煙を巻き起こし、一瞬にして木材の山へと帰した。

 

「正義は勝つ!」

「正義は勝つ!」

「……正義は、勝つ……」

 三人の勝ち名乗りに、再び観衆が喝采を送る中、民家の屋根の上から、麗羽の悔しげな声が響いた。

「き―――っ!!覚えてらっしゃい、華蝶連者!次こそはギャフンと言わせて差し上げますわよ!!」

「ちょっと……あの……」

 言うだけ言ってさっさと立ち去ろうとする麗羽の背中に、明命が力なく声を掛ける。

「んあ?どした、周。撤退すんぞ?」

 

 猪々子が不思議そうな顔をして、未だ地面にへたり込んだままの明命を見遣りながらそう尋ねると、明命は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「いや、ですからですね。あの、何と言うか……」

「んだよぉ。はっきりしねぇなぁ。引き際も悪役の見せどころなんだぜ?早くしろよ」

 

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「だから、腰が抜けて立てないのよ!!一々言わせんな、この猪娘!!」

 明命の近くで同じ様にへたり込んでいた桂花が赤面しながらそう怒鳴ると、猪々子は漸く得心した顔をして屋根から降り、両腕に二人を抱きかかえた。

「なんだ。そうならそうと、早く言えよな。ったく、世話が焼けるぜ」

 

「はぅあ……面目ないです……」

「こんな猪に呆れられるなんて……屈辱過ぎる……屈辱過ぎるわ!!」

「んじゃ、華蝶連者、仮面白馬、またな〜!!」

 猪々子は、両の小脇に抱えられた二人の言葉など歯牙にも掛けず、ニカッと笑って屋根の上に飛び乗り、そのまま麗羽と斗詩の後を追って行ってしまった。

 

「やれやれ。今回は、流石に苦戦したな」

「あぁ……。倍功夫殿」

 星華蝶は、仮面白馬の言葉に頷いてから、倍功夫に向かってその名を呼んだ。

「何だ、華蝶仮面」

 

「むねむね団は更に力を増し、これからは厳しい戦いが続くだろう。どうか、我等と共に戦ってはもらえないだろうか?」

 倍功夫は、その言葉にゆっくりと首を振った。

「私は流浪の身。済まないが―――」

 

「そうか!戦ってくれるか!!」

「へ?いや、だから……って、痛だだだだ!!?」

 倍功夫は、自分の言葉を遮って握られた手の余りの力強さに、思わず声を大きくした。しかも、押しても引いても、一向に放してくれる気はないらしい。

 

 しかも、星華蝶の言葉で観衆が大盛り上がりをしてしまった為に、最早、引くに引けない状況である。

「(てめぇ、星。後で覚えてろよ……!)」

一刀が引き攣った笑顔のまま星華蝶に顔を寄せ、小声でそう囁くと、星もまた、仮面の奥で不敵に微笑んだ。

 

「(ふふふ、全て覚悟の上。その時は、謹んでお相手致しましょう。まぁ最も、主が閨以外で私をどうこう出来るとは、とても思えませぬがなぁ?)」

「(その言葉、忘れるなよ……)」

 倍功夫は、観衆に愛想笑いを見せて手を振りながら、苦々しい口調でそう呟いた。かくして、狂宴は幕を閉じる。その様子を、遥か二町先の物見櫓から見下ろしていた薄紅色の髪の女性の存在など、一人として知る事はなく。

 

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「あはは!面白かったぁ。お酒のアテにはもってこいだったわね♪でも、みんな狡いわ。こんな面白そうな事に私を誘ってくれないなんて……そうだ!次の時は、私も一刀みたいに乱入しちゃおうかしら?冥琳の驚いた顔が目に浮かぶわぁ♪」

 そんな、あまりにも迷惑過ぎる呟きすらも、誰にも聞こえてはいなかった―――。

 

 

 

十一

 

 

 

「―――で。まさか、弁解など出来るとは思っていないでしょうね、桂花?」

 魏の屋敷の玉座の間。あくまでも穏やかに、あくまででも優しく。曹孟徳はそう言って、眼前に正座してガタガタと震えている腹心の部下を睥睨していた。桂花の周りには、男性の文官達が円を描く様に立ち並び、一身に桂花を見下ろしている。

 

 そう。今は、華琳が桂花に対して“本気の”お仕置きを行使している真っ最中であった。

「本国から勝手に官渡の折りに((鹵格|ろかく))した大櫓を輸送させた挙句、あんな悪戯に使って壊したんですもの……当然、それなりの処罰は覚悟いているのよね?」

「華琳様、どうしてそれを……」

 

 桂花が恐る恐るそう尋ねると、華琳は心底呆れたとでも言う様に鼻を鳴らした。

「あんな物を極秘で都に運び入れ、しかも真桜に悟られる事なく組み立ての人員を確保する―――そんな事の出来る人物、そうは居ないと思わない?」

「うぅ……」

「その上、運搬費用を編成予算に紛れ込ませるなんて真似までされたのではね。しかも、書類の決裁印にはあなたの名前がある、と。そうなれば、自然と容疑者は一人に絞られてくる。もしもあなたではないと言うのなら、あなたは高額な国家予算の横領に気付きもしない無能者と言う事になるけれど……。桂花、私は間違っているかしら?」

 

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「い、いえ!仰る通りです……御見それ致しました……唯、その……使った分に関しては、あとできちんと私財から穴埋めをしておこうと……」

「当たり前です!!」

「ふぁい!!?」

 

 桂花が突然の怒号に身を竦ませると、華琳は目を閉じて、盛大に溜息を吐いた。

「まったく。あなたの蓄財がすぐに穴埋め可能な位はあったから良かった様なものの、もし出来なかったら、首を刎ねねばならない所よ。兎も角、罰として今日一日、その文官達に見詰め続けられているといいわ」

 

「そんな、華琳様!!」

「あの、曹操様……」

 桂花の叫び声から反拍ほど置いて、桂花を取り囲んでいた文官の中の一人が、申し訳なさそうに華琳に声を掛けた。華琳は、分かっているとでも言う様に手を振って、それに答える。

 

「心配はいらないわ。今日一日の分、貴方達の抱えている案件の期日は延ばしておくから。それに、多少ではあるけれど、私が個人的に勤務外手当も付けて上げる」

「それは、誠に恐れ多い事で―――唯、そちらではなく……ですね」

「あら、まだ何か?」

 

「はい。あの、我々の“身の安全”の事で……」

 文官はそう言うと、ちらと桂花の方に視線を投げてから、再び華琳を見た。周りの文官達も一様に、不安そうな顔で華琳を見詰めている。

「……あぁ。そう言う事」

 

 華琳は、合点がいったと頷いて、悪戯っぽく微笑んだ。性悪ネコ耳として名高い荀文若の懲罰に直接関わったとなれば、当然の不安であろう。しかも、自分が男ともなれば。

「大丈夫よ。桂花からあなた達に報復なんてさせないから。もしも、私の命を守っただけの忠臣に八つ当たりなんてしたら……解っているわね、桂花?」

 

「は、はい。それはもう……」

 華琳の怜悧な視線に見下ろされた桂花は、蛇に睨まれた蛙よろしく、脂汗を流して頷くばかりである。その顔の奥深くに悔しそうな表情が見え隠れしているのは、文官達の危惧が図に当たっていた何よりの証拠であろう。

 

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「それじゃ、そう言う事で―――あぁ、そうだったわ」

 玉座の間を後にしようと扉に手を掛けた華琳は、思い出した様に(少々わざとらしく)そう呟いて、再び桂花に視線を向けた。

「桂花。あなた、麗羽に『私の軍師』と呼ばれて、反論しなかったそうね?」

 

「へ?あ!?いえ、あの、それは……!!」

 桂花は、恐怖と焦りで、言葉に出来ない言葉を口から溢れさせた。最早、誰から聞いたのかと言う質問すら、頭には浮かんでこない。

「私としては、あなたがどうしてもそうしたいと言うのなら、止めはしないけれど?」

 

「ち、違うんです華琳様!あれは、方便として止むを得ず!」

「方便……ね?それは、誰の為のものなのかしら?魏?それとも私?」

「その……じ、自分の……」

「成程。あなたの都合で、私が聞いたら不愉快になると分かりきった方便を、大勢の人間の前で使ったと、そう言う訳ね?」

 

「うぅ……はい……」

 桂花が渋々と頷くと、華琳は美しい唇を三日月に歪めた。

「結構。正直に認めた事を鑑みて、厳罰は勘弁してあげる。た・だ・し!」

 華琳はそこで言葉を切ると、桂花から視線を外して正面を向き、扉を開け放った。

 

「今日から一カ月、私の閨に近づく事は禁止します!いいわね!!」

「そんな、華琳様!それでは余りに―――華琳様!?かりんさまぁ〜!!」

華琳は、文官達に憐憫の視線を浴びながら自分を呼ぶ桂花には一切答えず、大股で玉座の間を後にしたのだった。

 

「今回は、随分と手厳しくやったみたいだなぁ」

 玉座の間を出て、渡り廊下を歩く華琳にそう声を掛けたのは、隣に風を従えて手摺りに寄り華琳を待っていた、北郷一刀だった。その顔には微苦笑が浮かんでいる。恐らく、桂花の大声が此処まで聞こえていたのだろう。

 

「あら、一刀。来ていたのね」

「あぁ。風と約束があったもんでね。それに、投石機を使わせてもらった礼を、まだ華琳にしていなかったし」

「そう。まぁ、ともあれ、あの子には良い薬よ。今回は流石にやり過ぎだもの。それから、礼は結構よ。あの騒動は、こちらの責任でもあるのだし」

 

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「ですね〜。桂花ちゃん、いくらお兄さんに遊んで欲しかったからって、やりたい放題でしたし〜」

「そう言ってもらえるなら、もう何も言わないけど。でもその……事の成り行きでさ。出来れば、今後も使わせてもらえたら有り難いんだが……」

 一刀が自分の事を棚に上げた風の発言を敢えて黙殺して申し訳なさそうにそう言うと、華琳は溜息混じりに答えた。

 

「まぁ、仕方がないわね。元はと言えば、その“成り行き”も、あの子の悪ノリが原因なのだし。と言うか、こちらから貴方に詫びをしなければいけないわね」

「いや、いらないよ……と言っても、聞いてくれないんだろう?」

 一刀がそう言って苦笑すると、華琳は至極真面目に頷いた。

 

「当然でしょう。部下の不始末の尻拭いをしてもらったのだもの。受けてもらわなければ、こちらが困るわ」

「華琳ならそう言うと思ったよ。なら、そうだな―――今度の休日は、俺の為に空けといてくれると嬉しいんだけど、どうかな?」

 

「そ、そんな事で良いなら、まぁ……((吝|やぶさ))かではないけれど……」

 華琳が、僅かに頬を赤らめてそう答えると、一刀は微笑んでパチリと片目を閉じた。

「良かった。なら決まりだ。宜しく頼むよ」

「まったく、生粋の女たらしね、貴方は。じゃあ、私はそろそろ行くけれど―――風、あなたはどうするの?」

 

「申し訳ありません〜。風は、お兄さんと色々お話しなければならない事があるので残るのです〜」

 華琳に水を向けられた風が何時もの調子でそう言うと、華琳は小さく頷いて、一刀に視線を戻した。

「ではまたね、一刀。風を宜しく頼むわ」

「あぁ。今度ゆっくりな」

 

 華琳が去ると、一刀は面白そうにくつくつと笑った。

「やれやれ。桂花のヤツ、今回ばかりは相当絞られたみたいだな―――可愛い((艶本|コレクション))たちよ。仇は取ったぞ……って、いてて!?何するんだよ、風」

 一刀は、唐突に自分の脇腹を抓った小さな手の持ち主に向かって視線を落とした。そこには、不機嫌そうな風の顔がある。

「む〜。風を放っておいて、華琳様といちゃいちゃしていた、だらしない種馬にお仕置きをしているのです〜。風は、季衣ちゃんや小蓮ちゃん、美以ちゃんまで前線から引き離すと言う功績を挙げたのに〜」

 

「いや、種馬としては、寧ろそれは優秀なんじゃ―――じゃ、なくて!それには感謝してるし、別に放ってなんかいないだろ。現にこうして約束通り、風に会いに来たんだし」

「まぁ、良いのです。でも、流石の桂花ちゃんも、風がお兄さんに“通じて”いたとは、思いもよらなかったみたいですね〜」

 

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「だなぁ。まぁ、今回は桂花の動きが速過ぎて、事前に阻止とまではいかなかったけど」

「雛里ちゃんが留守だったのも痛かったですね〜。二人居れば、どちらかがこっそり知らせる事も出来たのですが〜。しかし、お兄さんに間諜役のお話を頂いた時にはビックリしたですよ〜」

 風が悪戯っぽく微笑んでそう言うと、一刀は苦笑いを返した。

 

「ははは。雲行きが怪しくなって来た時点で、根回しは始めとかないとな。桂花は兎も角、麗羽の方は動きが分かりやすいし、猪々子や斗詩も居るから、そっちから情報が入ったんだよ」

「で、立場も士気も微妙な雛里ちゃんと、元々どちらでも良かった風に白羽の矢が立った、と言う訳ですか〜」

 

「まぁね。引き込むなら、そう言う人物からが軍略の定石―――だろ?」

「で、ちゃっかり気持ち良いコトもしちゃおう、と〜」

「ひどいな。報酬はそれが良いって言ったのは、風の方じゃないか。何なら今からでも、お菓子か何かに変えようか?」

 

一刀が風の耳元でそう囁きながら、風の腰を優しく抱き寄せると、風は顔を赤くしてそっぽを向いた。

「誰もそんな事は言っていないのですよ〜。お兄さんはイジワルなのです」

「冗談だよ。そう拗ねるなって……で、これからどうするんだ、風。どこかブラついて食事でもするか―――それとも、このまま部屋に行こうか?」

 

「そんな事、乙女の口から言わせたいんですか〜?お兄さんは本当に変態種馬野郎ですね〜」

 一刀は、風の言外にある要望を汲み取ると、微苦笑を浮かべて頷いた。

「畏まりました、お嬢様。では、お部屋までご一緒に」

「む〜。何だか、弄ばれてるみたいで癪なのです……」

 

 

 風は、言っている事とは一致しない嬉しそうな顔で、一刀が“くの字”に曲げて差し出した右腕に自分の腕を絡ませると、思いついた様に一刀に尋ねた。

「そう言えば、星ちゃん達とは今後のお話はしたのですか?これからも続ける事になったんですよね?正義の味方〜」

 

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「いや、続ける事になったと言うか、続けざるを得なくなるよう強要されたと言うか……」

「まぁ、断り切れませんよね〜。お聞きした通りの状況じゃ〜」

「だろ?まぁ、ささやかながら意趣返しの手筈は整えて来たから、差し当たりそれはもう良いさ。今後の事は、追々相談して決めるとするよ」

 

 一刀がそう言って片目を瞑って見せると、風は怪訝な顔をして一刀を見返した。

「仕返し……星ちゃんにですか〜?お兄さん、勇気ありますね〜。イビり殺されても風は助けて上げられないのですよ〜?」

「いやぁ、今回は大丈夫だろ。当の本人が『やれるもんならやってみろ』みたいな事言ってたし。それに……」

 

「?それに、なんですか〜?」

「いやぁ、今回の“細工”は強烈だからさぁ。いくら星でも、暫くは俺をどうこうしてやろうなんて、考えてられないと思うよ?」

「むぅ、もったいぶらないで教えて下さいよ〜。気になるじゃないですか〜」

 

「はは。よし、ちょっとお耳を拝借……ぽしょぽしょ……」

「ほぅほぅ……」

「で……ぽしょぽしょぽしょ……と、言う訳だ」

「……お兄さん……」

 

「何だ?」

「風がこんな事を言うのも何なんですが……エグいですね〜。最早、鬼畜の所業なのです〜」

 風は、そんな事を言いながらも、自分の袖で口を押さえ、小さく笑っていた。

「まぁ、今回は流石になぁ。余計かつ永続的な仕事を増やされちゃったし、ちょっと痛い目を見てもらおうかな、と思ってね」

 

 一刀は、風に釣られて喉を鳴らすながらそう言うと、彼女の部屋へのエスコートを再開して、屋敷の廊下を歩き出したのだった―――。

 

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十二

 

 

 

 一刀と風が、魏の屋敷の廊下を歩いていたのとちょうど同じ頃、星、朱里、恋、白蓮の四人は、一刀の鎧を制作した((特別協力者|スペシャルサンクス))の真桜を交え、いきつけの酒家で杯を酌み交わしていた。

最早、恒例となっている、反省会兼慰労会である。

「いやぁ、今回は素晴らしい展開だったな!新たな敵幹部の登場!全滅の危機!そして新戦士登場からの大逆転劇!まさに王道!いやぁ、神回であった。明日辺り、赤い雨でも降るのではないか?はぁっはっはっ!」

 

「星、うるさい……」

 隣に座って黙々と((粽|ちまき))の山を掃討中の恋が漏らした迷惑そうな呟きなど、暖簾に腕押し糠に釘。今夜の星は、かなりの上機嫌であった。

「確かに、分断された時は((厄場|ヤバ))かったなぁ。上手く切り抜けられたなんて、未だに信じられないよ。星の言う通り、赤い雨が降っても不思議じゃない位だ」

 

 白蓮は、星の興奮した様子に苦笑を浮かべながらも、概ねその意見に同意した。

「そらそやで、白蓮様。なんちゅうても、ウチが隊長の為に丹精込めて開発した新装備やからな!敗北なんてありえへん!!」

 芝居掛った調子で言葉を締め杯を((呷|あお))る真桜に、お茶を啜りながら微笑んでいた朱里が、不思議そうな顔をして尋ねた。

 

「そう言えば、何であの鎧、赤かったんですか?仮面“白馬”なのに……」

「何でってそんなん……その方がハデでカッコええやんか!!」

「あ、あはは……なるほどぉ……」

 朱里が困った様な顔で頷く横で、白蓮は些か不満気な顔をした。

 

「まぁ、そりゃあ、派手だし格好良かったけどさ……やっぱり仮面“白馬”は、白くないとさぁ……」

「まぁまぁ、良いではないですか、白蓮殿。格好良いは正義なのですよ」

「いやしかし、私にも譲れない矜持と言うものが―――ん?あれは愛紗じゃないか?」

 口にし掛けた反論を途中で飲み込んだ白蓮が視線を向けた先は、酒家の入り口。確かにそこには、蜀の軍部を率いる軍神、美髪公・関雲長こと愛紗が佇み、店内を見回している所であった。

「おぉ、確かに愛紗に相違ありませんな。どれ―――おぉい、愛紗!」

 星が軽く手を振って呼び掛けると、それに気付いた愛紗が、微笑みを浮かべながら五人の座っている卓に歩み寄って来た。

「珍しいな。お主がこんな時間に酒家に現れるなど……さては、恋の気配を察して餌付けにでも来たのか?」

 

「い、いや……」

 愛紗は、栗鼠の様に頬を膨らませている恋に一瞬、瞳を奪われながらも、小さく首を振って星に視線を戻した。

「実は星。お主に、改めて相談したい事があってな」

 

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「ほう?お主が、朱里にではなく私にか?それは益々もって珍しい。そう言う事なら、無論、相談に乗らせてもらうとしよう」

「そうか。それはありがたい。相談と言うのは、“これ”の事なのだが……」

 愛紗は、そう言って、スカートのポケットから、何やら掌大の大きさの紙の束を取り出し、星に手渡した。

 

「ん?なになに―――趙雲子竜様……請求書……ご飲食代として下記の通りご請求……な……んだと……!?」

「いやぁ、つい先程、街の酒屋の代表と名乗る御仁が、我らの屋敷に御出でになられてな。『言われた通り、これまで趙雲将軍にお出ししていた酒の代金を計算して、私が代表でお持ちしました』と言うではないか―――」 

 

一瞬にして青ざめ、顔中に脂汗を浮かべる星を他所に、愛紗はまるで『最近、化粧ののりが悪くて』とでも言う様な軽い口調で話を続ける。その穏やかな微笑みは些かも崩れる事はなく、声の抑揚も至って優し気で。それが尚の事、星には恐ろしかった。

 周り四人も、今や愛紗の身体から発せられる言い様のない凄味を感じ取り、固唾を呑んで事態の趨勢を静観している。

 

「まったく、困ったものだ。我が国の軍の中枢を担う車騎将軍ともあろう者が、民の善意を良い事に街中の酒屋にタダ酒を呑ませてもらっているとはなぁ……そうは思わんか?星」

「あぁ……いや……そう……だな……」

「だろう?これでは、ご主人様や桃香様が、自由に酒を呑むだけの俸給も与えていない((吝嗇家|りんしょくか))だと、民から思われてしまいかねん。まったく以て、主の顔に泥を塗るが如き不忠の所業。あまつさえ、これが他の兵達に知られでもしたら、賄賂や強請りが横行してしまう恐れすらある」

 

 

 最早、蝋人形の様な顔色で頷く事しか出来ない星。その手元の紙をそっと覗いた白蓮は、「うわぁ……」と言う驚きと呆れが((綯交|ないま))ぜになった声を上げて、伸ばしていた上半身を元に戻した。

その様子を見ていた朱里が、恐る恐る白蓮に話し掛ける。

「あ、あの、白蓮さん……お幾ら位だったんですか?」

 

「うん……まぁ……大雑把に言うと、一流の軍馬が二・三頭、余裕で買える位……かな……」

「はわわ……」

 白蓮の言葉を聞いた朱里の身体が、ふわりと横に揺らいだ。あわや椅子から転落しそうになった所で、恋の無造作に突き出された片腕が、華奢なその身体を受け止めた。

 

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「あ、ありがとう。恋ちゃん……で、でも、そんなの……個人の案件で使うとしたら、幕僚会議に提出して承認を貰わなきゃいけない位の額じゃないですか……それを市井の方々からだなんて……もし噂が広がったら、我が国の風評に、き、き、き、傷が……」

 未だに目が泳いだままの朱里が、夢遊病患者の様にそう言うと、真桜も呆れた顔で頭を掻きながら、何度も頷いた。

 

「せやなぁ。そらナンボなんでもアカンわぁ。もし魏やったら、大将のご機嫌次第では首チョンパもんやで……」

「うむ。ここに居る皆は、事態を正しく認識してくれている様で何よりだ。まぁ、この請求書に関しては、“本人の蓄えから可及的速やかに支払ってもらうのは当然”として―――星?」

 

「お、応!!?」

「どうした、星。何やら、声の調子がおかしい様だが?」

「あぁ、いや……ここは少し暑いからな。多分、そのせいであろう……」

「そうか。お前は、我が蜀の屋台骨を支える一人。身体は厭わねばならんぞ?良く見れば、顔色も悪そうだ」

 

「う、うむ。気遣い、痛み入る……」

「そうだ!お前に風邪でも引かれては、当座の業務に差し障る。私が送って行ってやるから、すぐに屋敷に戻るのが良いだろう」

 星は、そう言ってポンと自分の肩に手を置いた愛紗に、乾いた笑顔を向けて答えた。

 

「い、いや、一人でも帰れる故、心配には―――痛だだだだッ!!?」

「つまらん遠慮などするな、水臭い。あぁ、ついでに、私の部屋に寄って行くと良い。久し振りに、“腹を割って話そう”ではないか」

 愛紗の言葉を聞いた星は、その強調された部分の意味するところを察して、青白かった顔を更に青くし、今やミシミシと軋みを上げる肩から愛紗の手を退かそうと、最後の抵抗を試みた。彼女の手に自分の手を重ね。引き離そうとしたのである。

 

 しかし、愛紗の手は、吸盤でも付いているかの様に星の肩に食い込み、ビクともしはしなかった。星は、痛みに導かれる様にして席を立たされ、悪戯をした猫さながらに愛紗に引っ張られて行く。

「痛い!痛いぞ、愛紗。分かった、大人しく帰って寝るから、手を放してくれ!!」

「ははは、何を莫迦な事を。まだ宵の口ではないか。そう“いけず”な事を言わず、私の部屋に寄って行けと言うに」

 

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「い、嫌だ……“本気説教”は……あれだけは!あれだけは勘弁してくれぇぇぇぇ!!」

 断末魔の声も聞こえなくなった頃。残された四人は、星の靴底が残した二本の轍を見詰めながら、漸く安堵の溜め息を吐いた。

「はわわ……愛紗さんが本気で怒ってるの、久し振りに見ました……。あの分だと、星さん、四・五日は使い物にならなそうですね……星さんのお仕事の代役を誰にするか、検討しておかないと……」

 

「あの星が、皮肉一つ言えずにされるがままだなんてなぁ……」

「あれやな、人間、腹が立ち過ぎると返って静かになるっちゅうんは、ホンマやったんやな……」

「愛紗……怖かった……(ガクガクブルブル)」

 後日、趙雲将軍の六ヶ月間の減俸処分が幕僚会議で内々に決定されたのは、言うまでもない。

 

 余談であるが、同時刻、呉の屋敷では、正座させられた小蓮と明命が、沈黙の鎧を纏った冥琳に唯々睨まれ続けると言う((単純|シンプル))かつ極めて恐ろしいお仕置きを受けていた事も、付け加えて置かねばなるまい。

 その時の冥琳の迫力たるや、孫権こと蓮華や黄蓋こと祭すらも震え上がり、何も言えずにその場を立ち去ってしまった程だったそうである―――。

 

 

 

                     終劇

 

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                                あとがき

 

 はい、今回のお話、如何でしたか?

 大変長らくお待たせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした!正直、今回は、途中から長くなりそうだとは思っていたのですが、まさかここまでとは予想していませんでした。

 エピローグ部分が、かなり長くなってしまったのが原因ではあるのですが、よもや愛紗編を超える文字数になろうとは……。

 

 二回に分けて投稿しようかとも考えたものの、随分皆さまをお待たせしてしまった事でもあるし、その分、読み応えがあった方が良いかと思い直して、この様な形になりました。内容的にも、一刀に面白いバトルをさせられたと思っています。

 格好良いのは本編でやってますしねwまた、今回も所々に色々なパロディネタを仕込んでみましたので、そちらも探して頂けると面白いかと思います。

 

 それから、最後の愛紗の“本気説教”は無印時代のネタです。懐かしいなぁ……。完結まで想像以上に掛ってしまったので、アンケートでリクエスト頂いたエピソードは、次回以降の本編に絡める形でリファインしつつお送りさせて頂こうと思います。重ねて申し訳ありませんが、ご了承ください。

 今回も、支援ボタンクイック、コメント、誤字報告等、お気軽に下さると本当に嬉しいです。

 

 ではまた、次の作品でお会いしましょう!!

 

 

説明
 どうも皆さま、YTAでございます。お待たせいたしました。漸く投稿であります。
 大変長いですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
 では、どうぞ!!
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コメント
西湘カモメさん、コメントありがとうございます。次の仮面白馬のお話ですか…随分先の事になりそうですが、どうなんでしょうね?何せ雪蓮さんなので、敵になるやら見方になるやら…。今の段階では私にも見当がつきません(;´∀`)でもまぁ、きっと想う様引っ掻き回してくれると思いますw(YTA)
うーん、如何しても「説明しよう」の台詞が、堀内賢雄さんの声に変換されてしまう・・・。 次回の仮面白馬シリーズは雪蓮扮する謎の(?)ヒーローとの対決ですかな?フォーゼ対キョーダインやウィザード対アクマイザー3みたいな?(西湘カモメ)
アーバックスさん、コメントありがとうございます。随分見つけて頂いたみたいですね!偏った元ネタの為、分からない方には気付いてすら貰えない可能性が多分にあるので嬉しいです!(YTA)
ブラッ●にアク●ル…、ガ●ダムに●オガイガー・・・くッ・・・!! ネタが多すぎて突っ込み切れない・・・だと・・・!?(アーバックス)
tenryuさん、コメントありがとうございます。因果応報とは恐ろしいもんですねw(YTA)
紫蒼の慧悟さん、コメントありがとうございます。私の大事なコレクションが、過去に一度ホロコーストの憂き目に合った事があるもんですから、書いていて、その時の心境を思い出しましたよ…。(YTA)
狼の兄貴、コメントありがとうございます。愛紗って、無印の頃はもっと尖ってたよなぁ…とか思いつつのネタでしたwドラマCDなんて、完全にヤンデレでしたしねぇwww冥琳さんはねぇ…自分で書いてて、シャオと明命に同情してしまいました…。(YTA)
こうして、悪は滅びたとさ(笑)!!(tenryu)
エ○本は大事ですよね…私もアレを燃やされたら血涙を流しながら復讐するでしょうから、漢達の気持ちが痛いほどわかる気がする(紫蒼の慧悟[しっけい])
ワロタwwwも、いろいろとwww しかし愛紗・・こええ(゜д゜;) あと冥琳の無言・・・ガタガタブルブル(狭乃 狼)
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