真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第39話]
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真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜

 

[第39話]

 

 

「え〜と、そうだね。じゃあ、君に聞きたい事があるんだけど、構わないかな?」

 

ボクは熟慮の結果、張梁に詳しい話しを聞く事にしました。

 

「なんでしょうか? ……ああ。私のことも姉さんと同様に、真名で呼んで貰って構わないですよ」

「そうかい? じゃあ、そうさせて貰うかな」

 

張梁は、ボクに視線を合わせて返答してきました。

彼女も張角と同様に、他人に真名を呼ばれる事に忌避感が無いみたいです。

張梁は片手でメガネの淵をクイッと押し上げ、家庭教師の先生が『何でも聞いて来なさい』とか言いそうな感じを匂わせながら、ボクが質問してくるのを待っていました。

 

「それで、((人和|れんほう))に聞きたい事なんだけど。官軍が黄巾党の討伐へ繰り出しているのは、朝廷からの((命|めい))が下っているからなんだ。その討伐理由の一つに、君たちが『天公』という((不遜|ふそん))な名称を自称しているからだと云うのがある。その事について、心当たりはあるかい?」

 

ボクがそう問いかけると、張梁は眉をひそめながら怪訝そうに答えてきました。

 

「天公……?」

「そう。その名称は、『天子』であらせられる陛下を頂く漢王朝にとって、無視できるものでは無いんだ。だから、君たち三人には生死不問の討伐令が下っている」

 

疑問に疑問で返すという無礼を((咎|とが))めること無く、ボクは張梁の質問に答えて説明してあげました。

説明している文中の『生死不問』と云うくだりで、自分がそうされる事を想像したのか張宝は小さな悲鳴をあげます。

張角と張梁は悲鳴こそ上げませんでしたが、その顔は思いなしか青ざめているように見受けられました。

 

「どうなんだい?」

「それは……」

「先に言っておくけど。いま助かりたいが為に虚言を((弄|ろう))して言い逃れたとしても、後で偽証が判明した時点で君たちを処断する。ボクは、それを選択する事に((微塵|みじん))の((躊躇|ためら))いも感じない。だから、良く考えて答えて欲しい」

 

脅すつもりはありませんでしたが、それだけ重要なんだと云うことを理解して貰う為に、ボクはあえて厳しい言葉を告げました。

返答如何によっては、彼女たちを助けたくても助ける訳にはいかなくなるからです。

それを理解してくれたのか、張梁は真剣な顔持ちで返答してきました。

 

「私たちは誰も、その名を自称してなんていないわ。でも……」

「でも?」

「……私たちを支援してくれて居た老公が、ある時分からそう言われていたと思う」

「老公……?」

 

老公というのは、だいたい年を召した老人をさす尊称でした。

ボクは張梁の話しを聞いて、その人物が報告書にあった張角だと目されて居た老人なのではないかと当たりをつけます。

もし彼女の話しが本当だと仮定すると、密偵が天公を自称していたとされる人物を探している時に、名前が浮かび上がって来る存在だからでした。

それに、天公を自称していた人物と張角とが同一人物でないのなら、密偵が調べあげた結果報告に違いがあっても可笑しくは無いと思ったからです。

 

(ふむ……。黄巾党には、天公と自称している人物は存在したと云う事ですか。それでは、朝廷内で((蔓延|はびこ))っている風潮も、あながち間違いでは無い云う事なのでしょうか……?)

 

ボクはそのように思い、さらに詳しい話しを張梁に聞き込んでいきました。

 

「老公と云うのは、誰なんだい?」

「私たちは、歌うことを((生業|なりわい))として大陸を渡り歩いていたわ。その頃に知り合った、私たちの活動を支援してくれた人よ」

「姓名や素性は?」

「……知らないわ。本人は何も言わなかったし、私たちも聞かなかったから」

 

ボクの質問に張梁は、老公の素性を聞いて置かなかった事を後悔するように吐き捨てて言い放ちました。

 

(正体不明の老人ですか。やれやれ、((怪|あや))しさ大爆発ですね)

 

そのような感想を抱き、ボクは溜め息を付きました。

 

「老公とやらは、なぜ不遜な名称を名乗り始めたのかな?」

「それは……。酒の席で老公が ((戯言|ざれごと))として言ったの、それを真に受けた周りの人達が面白がって呼ぶように成ったから、かしら?」

「誰も気にしなかったのかい?」

「その名称が不遜だなんて思っていなかったわ。それに、老公と言われて年寄り扱いされるよりも、姉さんの真名と似ている呼ばれかたをされる方が嬉しいなんて言われれば、私たちに反対は出来なかった」

 

援助をしてくれる人物に対して、受け取る方は気を遣ったと云う事なのかも知れません。ボクは張梁の話しを聞いてそのように感想を持ちながらも、どこか老公と云う人物の言動に不自然さを感じました。

何故なら、今のご時世に援助が出来るほどの資金を有しているのだとすれば、それなりの身分ある人物だと考えられるからです。

((市井|しせい))の者ならいざ知らず、そんな人物であったのなら、『天公』と云う名称が不遜である事を理解していないはずは無いと思ったからでした。

であるのにもかかわらず、老公とやらは酒の席での戯言とは云え、何故かそう呼ばれるように周りを誘導しているかのような言動を行っている。

その事に違和感を覚えつつ留意して、ボクは次の疑問を問いかけていきました。

 

「こちらの調べでは、老人の他に中年の人物が居るともあるんだけど、その事について知っている事は?」

「……それは多分、老公が連れて来た商人たちの事だと思うわ」

「商人たち?」

「ええ。人を集める手助けや、物資を用立ててくれた人達よ。老公の時と同じように酒の席での戯言だったけれど、天公と呼んで貰えた自分と同様に、その商人たちも私たちの真名に似せて『地公』や『人公』と呼んで欲しいとか言っていたわ」

「それで老公とやらと同じように、その商人たちも周りからそう呼ばれ始めたと? 君たちは、それを黙って容認したのかい?」

「……呼び名が似ているだけだったし、それほど気にしていなかったわ。 ((孟子|もうし))だったかの『天の時、地の利、人の和』と云う語句を、一致団結して私たちを売り出して行く為に ((掲|かか))げる意味合いもあるとか言われれば、世話になっている身で断る訳にもいかなかった」

 

ボクの問いつめるような質問に、張梁は少し考えてから言い訳をするような感じで返答してきました。

しかも『地公』や『人公』と云う、ボクが告げていない朝廷の討伐理由までも含んでいる。

それらを((鑑|かんが))みると、彼女の証言は限りなく真実を話しているのではないかと思われた。

しかし、頭の良さそうな張梁の事です。そう思わせる((手管|てくだ))なのかも知れません。

だからボクは、それらの事を踏まえて慎重に話しを進めていきました。

 

「老公とやらは、なぜ君たちに近づいたのかな? 理由を知っているかい?」

「知らないわ。ただ私たちの歌が気に入ったから、その手助けがしたいとしか言わなかったもの……」

「変だと思って、警戒しなかったのかい?」

「警戒はしたけど……。その頃の私たちは名前が売れてなくて、その……((藁|わら))をもすがりたい気持ちだったから。それに、たいした条件もなく資金援助をしてくれると言われれば、危険な話しだと分かっていても飛びついたと思うわ」

 

張梁は語尾をか細くさせながら、言い憎くそうに告白してきます。

もう少し慎重であるべきだったと、そんな後悔をしているように見受けられました。

 

「今まで売れていなかったのに、急に名が知れ渡るようになったのは何故なのかな?」

「さあ? 老公から太平ナントカとか云う書簡を渡されて、それを読んだからとしか言いようがないわ。他には、これといって変わった事はしていないし……」

「――?!」

 

張梁の口から太平ナントカと云う書簡の名前が出てきて、ボクは思わず叫びそうに成ってしまいました。

彼女の言う書簡の正式名称は、恐らく『太平要術』だと思われたからです。

ボクが記憶するところの太平要術というのは、張角が南華老仙から託され妖術を学んだとされている危険な書簡。そんな物がこの世界に実在しており、まして彼女たちの手に渡っていたと云う事実に驚いたからでした。

ですが、ボクは何とかそれを抑えて表面的には動揺を見せず、それとなく所在を確かめていく事にします。

 

「……その太平ナントカと云う書簡の名前は、もしかして太平要術って言うんじゃないかな?」

「ああ……。そういえば、そのような名前だったわ」

「その書簡は、今どこにあるのかな? 老公とやらが持っているのかい?」

「いいえ。私たちが、ここに来るまでに居た天幕にあるわ。都市から逃げ出す時に荷物と一緒に持って来たから。……それが何か?」

「その書簡も回収する対象だからさ。出来れば、こちらに渡して欲しい」

「……そう、それなら仕方ないわ。後で、お渡しします。姉さん達も、それで良いわよね?」

 

張梁は首を横に向けて姉たちに同意を求めました。張角は快く、張宝は渋々ながらも同意を示してくれます。

太平要術の書簡の内容がどう云ったものであれ、急に名を売り出せる事を可能にするなど危険な物に違いは無く、ボクは彼女たちからは回収した方が良いと判断しました。

華陽軍の将軍たちは、何故ボクが書簡を回収する意思を示したのかを理解できず、周りで怪訝げにやり取りを見ています。

でもボクは、そんな将軍たちの事よりも、既に書簡の内容を知識として知ってしまっている張角たちを、今後どのように遇するべきかを考えあぐねてしまっていました。

例え無実であったとしても、このまま彼女たちを無罪放免と云う訳には行かなく成ってしまったからです。

その知識を他所で意図的な人心掌握などに悪用されたりでもしたら、目も当てられない状況に((陥|おちい))ってしまうのですから。

だからボクは、新たに浮上してきた問題に頭を悩ませてしまいました。

 

 

(ここまでの話しを聞く限りでは、どうやら老公とやらが今回の乱の首謀者のようですね。しかも、意図的に孟子の語句を持ってくるあたり、それなりの家柄の出と考えるべきでしょうね)

 

ボクはそのように思い、さらに考察していきます。

 

(でも、いま問題にするべきは、老公とやらが主体で乱を引き起こしたのか、それとも権力者の誰かに命じられた工作員だったのかと云う事ですね。それによって、ボクたちに降りかかる危険度も変わってしまうのですから。それに、老公が連れてきたと云う商人たちも、巻き込まれただけなのか。それとも、老公の行動を監視する為の密偵なのかと云うのも考えどころです)

 

張梁の話しを聞く限りでは、黄巾党側の首謀者は老公と云う正体不明の人物に間違いは無さそうでした。

しかし、朝廷内のどこかにも内通者が居るはずなのです。

でなければ、朝廷内で蔓延っている風潮や、ボクたちに渡ってくる情報に制限がかけられている事の説明がつかないからでした。

そんな事が出来ると云う事は、それなりの地位のある権力者である可能性が高い。

だからもし、内通者であるところの正体不明の権力者が主体で戦乱が((企|くわだ))てられたと仮定すると、そんな鬼謀の持ち主には細心の注意が必要になる。

今のボクたちでは、そんな深慮遠謀な策を謀ってくる人物に対抗できるだけの準備が整っていないからです。

だからボクは、一先ず老公とやらを捕縛するなりして内通者の割出しをした方が賢明と判断して、その所在を確認していこうと思いました。

 

「それで、君たちが不遜な名称を自称していなかったというなら、肝心の老公や商人たちは今どこに居るのかな? 広宗の都市かい?」

「老公は……亡くなったわ。商人たちは、まだ広宗の都市で頑張っているんじゃないかしら?」

「……亡くなっている? 老公がかい?」

「ええ……。だから、私たちは都市から逃げ出して来たのよ。支援する事の条件に、どこで講演を開くかは老公が決めていた。でも彼が亡くなって、あそこで活動を続ける必要もなくなったから。それに、その時は理由までは知らなかったけれど、私たちの活動が朝廷に目を付けられていたのは分かっていたし……」

 

張梁の雰囲気を見る限りでは、嘘を言っているようには感じられませんでした。

と云うことは、本当に首謀者と思しき老公は鬼籍に((入|い))ってしまっているのでしょう。

いきなり手がかかりを失ってしまって、ボクは虚脱感を感じずには居られませんでした。

 

「……死因は何だい? 老公とやらは、誰かに暗殺されたのかな?」

 

老公の死因が暗殺の((類|たぐい))であれば、権力者の工作員への口封じである可能性が濃厚になってきます

もしそうであるならば、朝廷内に居る内通者が主体で今回の乱が計画されて実行に移されたと云う事になる。

だからボクは、それを確かめるべく張梁に問いかけました。

 

「いいえ。たぶん寿命だったと思うわ」

「寿命?」

「ええ。最初は気付かなかったけど、身体のどこかを((患|わずら))っているようだったわ。それに、自分の死期も、どこか悟っているような感じだったから」

 

張梁は淡々と、在りし日の老公の状態をボクに告げてきました。

 

「前日の夜に自分の寝床で就寝して、そのままの格好で明朝に息を引き取っていたわ。苦しんだ形跡も無く、安らかに……ね」

「そうか……」

 

ボクは張梁から話しを聞いて、良く分からなく成ってしまいました。

老公が主体としてであれ、誰かの工作員としてであれ、自分の死期を悟っているような人物が戦乱を引き起こして、いったい何を得られると云うのでしょうか。その心情が理解できず、((腑|ふ))に落とせなかったからです。

 

ボクは亡くなっていると云う情報を聞くまでは、正体不明の誰かが工作員として老公を送り込み、張角たちを利用して大きな戦乱を引き起こさせ、その事に乗じて何かを企てていたのではないかと考えていました。

その正体不明の人物を、それなりの権力や財力を持っている、取得した情報を選んでボクたちに渡して、都合の悪い情報は((揉|も))み消す事ができるほどの高官であると、そんな風に仮定していたのです。

だから、ほとんど無名とも云える張角たちを発見して近づき、資金援助や危険な書簡を渡しながら名前を広めつつ、さらに商人たちと結託してまで人を集めさせたのだと思っていました。

老公の方は朝廷内に居る内通者から情報を得て戦局を有利にこなして行き、内通者であるところの権力者は反乱の規模を大きくして長引かせる為に、『黄巾党討伐すべし』と云った風潮を朝廷内へ形成していったのではないかと考えていたのです。

 

多くの人々は、敵と味方、正義と悪、そのような分かりやすい二元性を好んでいます。

そして、同じ陣営に居る自分が正しいと思っている事に賛同する者を味方だと認識してしまい、その者の真意が自分と同じであるかどうかを良く考えていません。

多くの場合、同じ陣営に居て同じ意見なのだから、その人物も自分と同じように考えているはずだと思い込んでしまっているからでした。

だから、もし首謀者が戦乱を支配下に置きつつ利益を得たいと望むなら、裏で結託している者たちが((宛|あたか))も対立しているかのように((装|よそお))って、それを周りに見せつけて行けば良いだけなのです。

そして、表面的に敵対している者たちが裏で情報をやり取りする事で、戦乱の規模や戦闘行為などを望む形で終始させて行く事が出来る。

お互いが起こっている事態の責任を相手に((擦|なす))り付ける事で、自分たちは正しい事をしているんだから何も悪くないと云う大義や風潮を((醸|かも))し出していき、そのように人心が((傾|かたむ))いて行くように誘導する。さらに、自分たちが望むような解決を行う為には敵を屈服させなければ成らないと云った、独善的な名分を言い立てて行く。

そうすれば好きな所で、好きなように、好きなだけ戦乱そのものを創り出し、自在に((操|あやつ))って行く事が可能になるからです。

 

今の漢王朝の在り方は、重病に((侵|おか))された末期症状の病人そのもので、官位の売官行為などが((罷|まか))り通っているきらいがありました。

それに触発されてか、要職についている政府高官のみならず、末端の官吏たちにも自分の ((懐|ふところ))具合を広げる事や、派閥を形成して自分の権力基盤を増強する事しか考えないと云った風潮が、ところかしこに蔓延っているのです。

周りがやっているのに自分だけやらないのは損だと言わんばかりの、誰も彼もが“((我|われ))良し”の心情に((陥|おちい))ってしまっていて、自分のしている事がどのような結果を((招|まね))くのかと云う事を良く考えていません。

戦乱の規模が大きくなって長引けば、それだけ朝廷内で編成する予算が多く成っていって、多額の金銭が色々な部署へと動き出していきます。

もし仮に、その予算を組む者や監察する者たちなどが結託しているとすれば、裏金を作る事など造作もありません。

ボク自身、実際に朝廷内の権力者たちに“誠意”を贈っているから、それらの風潮を身に染みて感じて知っていました。

だからボクは、今回の反乱を考え出した首謀者が朝廷内に居て、誰もが無視できない問題である戦乱を創り出し、それを解決しなければならないと云った風潮を蔓延させ、それを隠れ((蓑|みの))にしながら予算の水増しや物資の横領で利益を得ているのだと思っていたのです。

さらに言えば、華陽軍が賊を捕虜にしていなければ、漢王朝の政策に((託|かこつ))けた自分の独善的な意思に従わないとして、合法的に不満分子たちを根こそぎ((殲滅|せんめつ))できると云う、一石二鳥の無慈悲かつ愚劣な策略でした。

だからこそボクは、そんな己の利益のみを考えた残虐な策謀を行ったとして、正体不明の人物を細心の注意を払って対応すべき存在だと警戒していたのです。

 

しかし、今回の反乱の首謀者と((思|おぼ))しき老公は既に亡くなっている。

それでは、朝廷内に居る内通者は黄巾党が起こす乱を支配下に置く事が出来ず、何かに利用する事も不可能になってしまうのです。

老公の死因は、誰かに暗殺されたのでは無く自然死であったという。自然死を装っての暗殺とも考えられるが、張梁の話しを聞く限りでは、その可能性は低いと判断して良いと思われる。

それはつまり、内通者であるところの権力者の誰かが計画していた戦乱を終息させる為、潜り込ませていた工作員である老公の口封じを謀ったのでは無いと云うこと。

だとすると、老公とやらが主体で今回の反乱を計画して実行に移して行ったと考えられ、朝廷内に居るであろう内通者の主な目的は、前線に送られる情報の制限や遅延をかける事、並びに官軍の陣営情報を売り渡して((賄賂|わいろ))を受け取るだけだったと思われる。

 

 

(でも、本当に老公とやらは、誰かの工作員では無かったのでしょうか? 無名だった天和たちを見つけ出して資金を与え、人数を集めて今回のような大きな戦乱を創り出し、さらに途中までとはいえ官軍に連勝していたのです。そんな事を、一個人の力量のみで為せるものなのでしょうか? むしろ老公の方が、自分の身体の事や真意を雇い主である内通者に隠して、何かを意図しながら戦乱を起こす計画に従ったと考えた方が自然なのでは……?)

 

ボクはそのように思い、この身に感じている疑念を晴らして((扶植|ふしょく))する事が出来ずにいました。

何故なら、それでは『黄巾党を討伐すべし』と云った風潮が、朝廷内で ((蔓延|まんえん))している事の説明がつかないからです。

周りに意図的な風評を形成して行けば、必ずどこかに形跡が残って首謀者が突き止められてしまう。それを回避しつつ利益を得たいのであれば、沈黙したまま情報を売って金銭を受け取っているだけで事が足りる。

つまり、内通者は自身の身元が判明される危険を((冒|おか))してまで、風評を朝廷内で広げて行く必要は無いのです。それでは、割に合わなく成ってしまうのですから。

自分の死期を悟っていたという老公が、残された((僅|わず))かな((生命|いのち))を使ってまで何を意図して反乱を決起させたのか。

そもそも、これだけの反乱を起こすだけの資金や武器を、老公はいったいどこから得ていたのか。

それらの疑問が依然として闇の中に存在していて、いまだに表へ現れて来ていない。

だからボクは、さらに詳しく老公の((為人|ひととなり))を知り、そこから真相へと((辿|たど))って行くしかありませんでした。

 

 

「その老公なんだけど、どこかと連絡を取っていなかったかな?」

「連絡……?」

「そう。それほど((頻繁|ひんぱん))にでなくても構わないけど、誰かと連絡を取っていたような形跡は無かったかな?」

「どうだったかしら……? 姉さん達は知っている?」

 

ボクが抱く疑問を張梁に問うと、覚えのない彼女は隣に並んで居る姉たちに問いかけていきました。

 

「さあー? 知らないわ。だってわたし、老公の側にあまり居なかったもの」

 

張梁の問いかけに、張宝は気の無い感じで否定の言葉を返してきました。

 

「あー。それなら、お姉ちゃん知っているよぉー。お爺ちゃん、((洛陽|みやこ))に居る人と文のやり取りをしていたもん♪」

 

張角も知らないだろうと高を((括|くく))って話しを聞いていたら、何でもない事のような感じで彼女は爆弾発言をかましてくれました。

残りの姉妹たちは驚いて、そんな張角に問いただしていきます。

 

「えぇー?! 何で姉さんが、そんなこと知っているのよ?! おかしくない?!」

「そうね。ちょっと驚いてしまったわ」

 

予想外な人から予想外な事を聞いたと言わんばかりの姉妹たちの態度に、張角は顔を赤らめて((頬|ほお))をちょっと膨らませて返答してきます。

 

「えー。ひどいよ、二人ともぉー。そんな風に言わなくたって良いじゃない! そんなこと言うんだったら、お姉ちゃん教えてあげないんだからぁ!」

 

張角は、ご立腹のご様子で取り付く島がありませんでした。

まあ、天然呆け風な人物が重要な事を知っていたら、驚くのも無理はないとは思います。

でも、これでは話しが続かないので、ボクは口を挟んでいきました。

 

「えーとね、((天和|てんほう))ちゃん。申し訳ないけど、詳しい事を話して貰えないだろうか? できれば、君が老公について知っている事を全部」

 

ボクは姉妹の((諍|いさか))いを収拾すべく、そう告げました。

例えどんなに((些末|さまつ))と思える情報であれ、今は少しでも知って置きたかったからです。

 

老公や内通者が何の為に、そして何を求めていたのかを知る為に、ボクは更に聞き込んで行くしか手立てが無かったからでした。

 

 

 

 

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[補足説明1]

 

孟子と云う人物の書かれた書簡の中の『天の時は地の利に((如|し))かず、地の利は人の和に如かず』を意訳すると、『人同士が仲良く力を合わせる事は、土地の立地条件や天が与えてくれる好機に勝りますよ』と云う意味らしいです。

 

今回の話しの『孟子』は書簡の名前で使用しましたが、本来の『孟子』と云う語句の子は、人物をさす〜先生と云う意味合いみたいで、孟先生って意味に成るのかも知れません。

実際の姓名は、姓が((孟|もう))、名を((軻|か))、字が((子輿|しよ))。

 

 

 

[補足説明2]

 

『老公』と云う語句は、実際の中国語では『夫・旦那さん』とかを意味するらしいです。

それに加えて『老婆』が『妻・奥さん』だとか? 

古い意味合いでは『夫婦』を意味する語句とも云われていたと、そうネットで検索したらありました。

 

『天公』は、なんとなく分かりそうな『天の神様』とかの意味らしいです。

だから多分、『地公』は『地の神様』。『人公』は『人の神様』って事になるのかな?

ちなみに、鮪(マグロ)はチョウザメで、鮭(サケ)がフグとかの意味らしいです。

中国で牛丼屋さんの定員に、中国語が話せないから紙に『鮭定食ください』とか漢字で書いて渡したら、………肉フグ定食が出てくる?

 

そんな感じで、日本語と中国語って同じ漢字でも意味が全然違うみたいです。

そのために、色々な誤解を生む部分もあるのかも知れませんね。

 

 

 

では、また次回にて。

読んで頂いて、ありがとう御座いました。

 

 

 

 

PS:全部、検証不十分ですので間違っていたら御免なさい。

 

説明
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
*この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。
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コメント
h995さん、コメントありがとう。そうですね。人それぞれの頭の中に、それぞれのドラマを創り出していますから、どれが正解だというものは無いですね。人の営みそのものが、人同士の思いが入り混じって相乗効果で動く性質を持っているのだと思います。悪い方にも、良い方にも。(愛感謝)
どうやら劉璋は思考の迷宮に入り込んでしまったようですね。でも、いくら考えてもおそらく正解は出てないでしょう。複数の人間の思惑が入り混じった挙句、その相乗効果で想定外の方向へ飛んでいってしまったのがこの黄巾の乱だと思うので。(h995)
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