真恋姫†夢想 弓史に一生 第五章 第五話 制約と契約(前編) |
〜雅side〜
私がこの世界に来ることを決めたのは一年前の今日。
ひーちゃんに最終確認を済まして私は決意する。
…………待っててね、ひーちゃん。
私はこの外史の管理者。
管理者は普通この世界に干渉することは許されない。
何故なら、その先に起こることを全て知っているのだから…。
もし、この外史に介入することを選ぶなら、その時点で管理者と言う立場を棄てなければならない。そしてその後、この外史に存在する人物の誰かに転生することになる。
今までの歴史上、その様なことをした管理者は極めて少ない。何故なら、転生することに利が見出せないからだ。
因みに転生の際、管理者として生きてきた記憶は残るが、未来に関する記憶は全て削除される。
勿論、その記憶どおりになるとは限らないのだが、しかし、消されなければならないのである。
私の場合、未来の記憶などどうでも良かった。寧ろ、過去の記憶が残ることが分かって本当に嬉しかった。
……もし、過去の記憶がなくなっていたら…私はこの選択をしなかっただろうから。
何時から私はこんなにひーちゃんのことを意識するようになったのだろうか…。
あれはまだ、ひーちゃんが正史、日本に居たときの話に遡る。
「………終わったわねぇ。」
「……えぇ。((いつも通り|・・・・・))にね。」
「……今回のご主人様も駄目だったわね…。」
「……そうね。」
「………何回目だったかしら。」
「……さぁ? 気にもしたこと無いわ。」
「天帝ちゃんはどうも思わないの?」
「彼には荷が重いんじゃない?」
「……荷が重過ぎるのかしら……。」
「………新たな主人公を探すのも手だと思うわよ。」
この外史は未完成の外史……。
主人公や登場人物の確定していない不安定な外史。
同じことが繰り返し起こり、結末があるようで結末のない外史。
この外史を作り、結末まで持って行ってくれる人物は……まだ見つかっていない……。
この外史の仮の結末を果たして何回見てきたのだろうか…。
そりゃ、初めのころは可哀想に思えた。
どんなに頑張っても報われない世界など悲しいだけなのだから。
しかし、何度も見ているとその感情は次第に薄れ、『またか…。』と思えるようになってくる。
結末の決まっている物語。
そう、同じ話を何度も聞かされれば面白さは半減するように……この外史に対して私は諦めに似た感情がある。
「((救世主|メシア))でも現れれば変わるかもしれないわね…。」
「あらぁん…。あなたがそんな夢物語を口にするなんて…。」
「……あくまでも可能性の話よ…。さて、正史でも見て新たな主人公でも探そうかな…。」
「……((救世主|メシア))が見つかると良いわね。」
私は外史から目を背け、正史の世界に目を向ける。
電車が走り、飛行機が空を飛び、車が行き交う。
電気・機械技術が発達し、科学技術が発達し、市場経済は軒並みに発展、そんな進んだ世界。
外史の世界とは時代が違うとは言え、ここまで差があるものかと思える。
私は霊体の様な状態で正史に入り込み、救世主探しを始める。
まずは医療関係者から虱潰しに見ていく。
何故かと言えば、あの時代では病気にかかると直ぐに死んでしまう。その為、病気に対して何かしらの対策、手段を持つものでなければならないのである。
しかし、医療従事者なら誰でも良いというわけではない。主人公となり得るだけの器、知識、力を持っていなければあの世界を救うことなど出来ない。
私には人の才能や潜在能力を見ることが出来る能力がある。まぁ、これは管理者特典と言えるものだが…。
「う〜ん……どれもこれも……どんぐりの背比べね…。」
低能とは言わない。だが、主人公としては物足りない。
医療従事者に付き物な自尊心が強過ぎ、その一方で他を敬う心が足りない。
これでは一諸侯となることは出来ても、世界を変えるほどの人物になるようには思えない。
その先に待っているのは独裁者か暴君か……。
「はぁ〜……なかなか見つからないものね…。」
元々見つかるとは思っていないが、ここまでいないとなると少し不安になる。
もしかしたら、もう救世主はいないんじゃないか……あの世界は救われないのではないかと…。
しばらく繁華街をぶらぶらする。
すると、医療従事者という点を除けば、この中にも面白そうな才能を持った人物が数多く見られる。
しかしそれでも、王の器を持つような人物はいない。まぁ、そんな人が数多くいるわけは無いのだが…。
ふと、声が聞こえた気がしたので、ビルとビルの隙間の道を進んでみる。
両脇をコンクリートの壁に囲まれた、暗く狭い空間は、寒く、冷え切った印象を与えてくる。
路地裏では、三人の若い男が一人の中年の男を恐喝していた。所謂親父狩りというやつだろうか…。
私はこういうのを見ても可哀想だとか助けなきゃとは思わない。
何故なら、恐喝する方もされる方も何かしら悪いのだから……。
但し、どちらも同じだけ悪いとは思わない。それは勿論、恐喝する方が悪いに決まっている。
「おっさん、金だしな!!」
「ひっ……!!ききっ……君達!!ここ……こんなことして、良いと思っているのか!? これは、立派な犯罪だぞ!!」
「あぁ!!? 良いからおっさん。金出せよ!! それとも、ばらされたいの?」
「ばらされたらおっさん、あんた社会的に大変なことになるよね〜。」
「ばっ……ばかなこと言ってないで、それを渡しなさい!!」
「あ? 命令してんじゃねぇよ!!(バキッ!!)」
「ぐっ……がはっ!!」
「おっさん…今の状況少しは考えろよ…。痛い思いしたくなかったら……どうすれば良いか。年取ってんだから分かんだろ!?」
「うぅ〜……。」
もし、今ここにこのおじさんを救いに来る人が現れたとしよう。その人は傍から見たらヒーローなのかもしれない。
しかし、私にはただの偽善者にしか思えない。
助けに来た人はきっと、自分の力を誇示しようとしているだけに過ぎないのだ。そんな人をヒーローと呼べるのだろうか……。
答えは勿論ノーだろう。
「……おい。」
「おっさん。早くしてくんない? 俺達も忙しいんだよね。」
「……おい!!」
「……あぁ??」
路地の先に人影が見える。
所謂ヒーローの登場と言うわけだ……いや、偽善者か…。
「……いい加減止めたらどうだ。」
「何? お前。まさか、正義の味方って奴? はっ、ウケる!!」
「いるよね〜。そういう正義感だけ強い奴って(笑)」
「痛い目見せて、身の程って奴をお前に教えてやるか。」
三人対一人の喧嘩が始まろうとしている……が、その結果を見る必要も無い。
助けに現れたその男は、明らかに三人よりも強かった。きっと直ぐに終わるであろうが……私にはやはりこの男が偽善者にしか思えない。
自分の力を示したいだけ、強さを示したいだけと言う自己中心の塊。
人助けをしたと言う悦事にその身を浮かべ、自分のしたことを正当化し、鼻高々にその出来事を語るだけの偽善者。
その考えの中心は人助けではなく、自分が目立ちたいだけ……。
そんな奴じゃ、世界を救えるわけが無い。
「あらっ……いつの間にか終わってたわ。」
気付けば、三人の若い男達は地面に突っ伏す形で倒れていた。考え事をしている間に終わっていたのだ。
その男はおじさんの所に歩み寄った。
「……おっさん。」
「いや〜!!!助かったよ!!! 君には感謝している。本当にありがとう!! それじゃあ私は……。」
「……待てよ。」
「……何だね? 言っとくがお礼なんかはしないぞ。私は助けてくれなど一言も言ってないからな!!」
はぁ〜……。
まったく、この世は人が腐っている。きっと文明の発達と共に人間性が欠如していってるのね。
こうまで言われたら、助けた男も怒れるだろう、助けたかいがないものだと。
「……何故だ?」
「「はぁ??」」
その男の一言におじさんだけでなく私も聞き返してしまった。
「何故あんたは……大人として責任を取らない!!」
「何を言ってるんだ君は……。こいつらが私に恐喝してきただけじゃないか!! 悪いのは全部こいつらだろう!!」
「確かに、悪いのはこいつらだ!! だが、それだけじゃないんだろう!?」
「………何のことだね。大体こいつらは格好や言葉遣いから……。」
「あんたは人を格好や言葉遣いだけで判断するのか!? だとしたら、人の本質なんか分かっちゃいねぇ!! 知ったようにこいつらの事を語るな!! こいつらよりも、あんたの方がよっぽど腐ってやがる!!」
「何を〜!! 君は私を怒らせたいのか!!」
「別にそんな事をしたいわけじゃない!! 俺はあんたみたいに被害者面してのうのうと生きながら、この世を批判している奴が大っ嫌いなんだよ…。勿論、こいつらがやったことは許されることじゃない。こいつらのしてたことは正真正銘の犯罪だ。でもな、その原因の一端にあんたがなってるのも事実だろ!? それとも、心当たりがないとでも言うのか!?」
「……っぐ。」
「さっきまでの出来事、俺は全部見てたよ。」
「……金か?」
「はっ??」
「金が欲しいのか……?お前も……。だったら、結局お前もあいつらとなんら変わらないじゃないか!! お前らみたいなのをなんていうか知ってるか? 社会の屑だ!! 特にお前なんかは、正義面して自己満足に浸ってる唯の偽善者じゃないか!!」
状況がよくつかめないが……このおじさんの言っていることは、先ほど私が感じていたことそのままである。
「……あんた、最低だよ。」
「…何!?」
「確かに俺は偽善者かもしれない。でもな、自分の罪はいざ知らず、人の罪だけに固執して……自分は被害者面して……そんな奴、放っておけるかよ!! ちゃんと責任を取れよ!! 良い大人だろ!!逃げんじゃねぇよ!!」
「うるさい、うるさい、うるさい!!!!私は何も悪いことなどしてないんだ!!」
おじさんはそう言って路地裏から出て行こうとする。
「……次は。」
「あぁ!??」
「次は無いと思えよ(ギロッ!!)」
「「っ!!?」」
その男の放った気に、私の体はすくみ、全身は震え、汗は止まらなくなり、一歩も動くことが出来なかった。
おじさんを見ると、顔を真っ青にしながら泡を吹いている。
男はそれ以上何も言わずに路地裏から出て行った。
先ほどのは…この男の気。
多分殺気だったのだろうが、その程度は驚くべきものだった。
そして同時に感じた王としての気。これほどの逸材を未だかつて見たことがない。
………少し、この男に興味が湧いた。故にこの男に着いて行ってみる。
男は急ぎ足で駅へと入っていった。そして、そこには若い女の人と駅員さんがいた。
「すいません。痴漢は捕まえられませんでした。」
「そうですか……いやっ…しかし、ご協力感謝いたします。」
どうやら、経緯的には先ほどのおじさんは痴漢で、その現場をあの若者三人に見られて、写真に収められていたらしい。それを基におじさんを脅そうとしてさっきのような状況になったんだとか……。
たまたまその光景を見ていたこの男は、おじさんに確りと罪を償わせるために後を追ったらしい。
そこで先ほどの場面に遭遇。今に至るというわけだ。
悪行必罰だと私は思う。
悪い事をすればやはり、何かしらで自分に返ってくるものだ…。
そう、正に今回のことのように…。
……この男。
見た目は若い男、大学生かそこ等辺りであるが、一本の信念をその胸に抱き、それが揺るがない教えを受けている。
そういう人は人の上に立てる人間である。
どうやら、この男には王たる資格は既に賜っているようだ…。
しかし、この男は甘すぎる…。
先ほどのおじさん、罰を与えなければ必ず悪行を繰り返す。
それが人間というもので、一度懲りなければ収まることはないのだ。
そんな男を「次は無いぞ」と脅すだけで止めてしまった。
これでは、罰とはいえない…。
勢力を持った際に、信賞必罰が出来なければ、国は直ぐに荒んでしまうだろう。
心を鬼にし、冷静な判断で信賞必罰を行うことこそ、王たるに必要な器であるのだ…。
「…まっ、器なんかあの世界で生きれば自然と手に入るかな…。」
そう思えるほど、この男は才能に溢れている。
後に分かったが、この男は医療関係者であり、私の腹は決まった。
ふふふっ……次の主人公はこの男に決まりだ…。
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 前話はちょっと読者を置いていくような内容になっていたかなと思ってます……。申し訳ないですが、今話と結びつけるために必要かなと思いやっちゃいました。 今話は雅の視点に焦点をあてて見ます。 果たして、彼女が来た目的は……?? 前編後編となっているので、なるべく早くあげたいと思っています。なので、次話は水曜日にあげれたらあげようと思います。 オリキャラが全員登場した時点でオリキャラや主人公の設定を公開しようかと思っていますが………別にいらないですかね?? 公開して欲しいと言う方はコメント残して頂けると嬉しいです。 |
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