Masked Rider in Nanoha 四十二話 穏やかな時間 |
「しまった!?」
龍騎の手からドラグセイバーが弾き飛ばされる。それを見て即座にドラグセイバーを射撃で遠ざけるティアナ。そのため、取りに行こうとしていた龍騎の動きも止まる。更にそこへスバルとギンガが襲い掛かった。
その攻撃をかわす龍騎だったが、二人の息の合った連携に隙が中々見出せずデッキへ手を伸ばす事が出来ない。そのすぐ横ではアギトが苦戦していた。相手はフェイトとトーレ、それにセッテだ。高速移動を主体に動かれているのだが、フレイムフォームへの超変身を阻止されているため翻弄されていたのだ。
「不味い……このままじゃ……」
何とか動きは見えているので致命傷は受けていないが、それでも徐々にダメージが蓄積されている。何とかフォームチェンジをしようとするのだが、その度に魔法が、ブーメランブレードが、トーレが襲い掛かる。
そう、クウガと違い超変身にベルトを叩く必要があるアギト。その欠点を三人は突いていたのだ。龍騎はベントカード、アギトはフォームチェンジと互いの特徴であり弱点とも言える部分を突かれている。これは今までの敵が狙ってこなかった事だ。それを執拗に攻められる事で、二人は自分達の弱点をもう一度再確認していた。
一方、そこから離れていない場所でもクウガが苦戦していた。
「くっ! これじゃ……」
クウガは周囲に自分の武器となる物がない事に気付き、やや焦り気味に視線を動かす。彼の相手はシグナム達守護騎士四人とリインにアギト。更にエリオとキャロもいる。彼らは徹底してクウガの行動を制限していた。
超変身してもその力を最大限発揮出来ないようにと。そう、何もないのだ。クウガの武器へ変えられる物が。あるのは石ころや瓦礫のみ。棒切れ一つ落ちていないのだ。これではペガサスボウガンどころかドラゴンロッドやタイタンソードも生み出せない。
確かに超変身の特徴を活かして戦う事は出来る。だが、クウガは知っている。超変身はその専用武器があって初めてその真価を発揮する事を。今もタイタンでユニゾンしたシグナムの炎の剣撃やヴィータの鉄槌を防ぎ、時にはエリオの速度に惑わされながらもその攻撃を受け、シャマルやキャロのバインドをその力で無理矢理破壊している。
ザフィーラの格闘には素早くマイティへ戻り、対処する。リインの設置型のバインドは偶にペガサスになる事でそれを見抜いていた。だが、どこまでも防戦なのだ。現状を打開出来ない。そのため、クウガもまた自分の弱点を思い知らされていた。
そして、そんな風にライダー三人が苦戦している頃、RXは一人奮戦していた。そう、残った者達は全てRXへと攻撃していたのだから。
「ボルティックシューター!」
ロボライダーの手にした銃から高エネルギーが放たれる。それをなのはの砲撃魔法が迎撃するが、負けじとロボライダーが連射するのを見てディエチが自分の砲撃を加え押し返した。だが、その砲撃を受けてもロボライダーは軽く飛ばされただけで立ち上がる。
そこへディードが襲い掛かった。瞬間加速を使った攻撃にロボライダーはかわし切れずその体から火花が散る。それでも、ディードは追撃する事無く身を退いた。そこへ殺到する広範囲魔法の光。はやての魔法だ。ツヴァイとユニゾンし、その持てる力を発揮した状態の魔法。それは正確にロボライダーだけを襲った。
「くっ! まだだっ!」
その魔法の中をゆっくりとだが歩いてくるロボライダー。だが、そこへ追い打ちのようにウェンディのエリアルキャノンが火を噴いた。その衝撃にさしものロボライダーもたじろいた。それを待っていたかのようになのはとオットー、そしてディエチが息を合わせて攻撃を放つ。
ディバインバスターとレイストームの輝きにイノーメスカノンの閃光が合わさり、大きくロボライダーを吹き飛ばす。そして起こる激しい爆発音。強く地面に叩き付けられるロボライダーの体からは煙が出ている。
そこへノーヴェが走りこんでくる。とどめとばかりにガンナックルを構え、倒れるロボライダー目掛けて振り下ろす。その瞬間、その体が液状に変化しその場から離れた。それを見たチンクとクアットロが周囲へ警戒を呼びかける。バイオライダーになったからだ。
それにその場にいた全員が表情を険しくする。RXの二段変身で一番厄介な能力を有しているのがバイオライダーと知っているために。それを受け、即座にウーノが戦術の変更を指示する。ドゥーエはセインと共にバイオライダーのゲル化を何とかするべく動き、ディエチはいちかばちかの冷凍弾を準備し始める。
バイオライダーは自分へ的確な攻撃を考え、実行する周囲に感心と頼もしさを感じていた。そう、もう彼は何度となく自分の弱点や欠点を敵に突かれていた。そのため、それを思い知る事はない。逆にそれに気付き、対処しようとするなのは達へ敬意さえ抱いていた。
(俺の能力に慣れたのもあるんだろうが、それでも諦めずに戦う姿勢は大したものだ。これなら、どんな怪人相手でも臆する事無く戦える)
こうしてこの日の早朝訓練は過ぎていく。本来は旧六課対ヴァルキリーズ対ライダーだったのだが、それを光太郎の提言により六課対ライダーとなったのだ。それは、ライダー四人を邪眼や怪人に見て立てての事。
そのため、なのは達は協力し合って四人のライダー相手に戦っていた。各自の欠点を的確に突き、追い詰めていくなのは達。だが、それも分断出来ていればこそだった。クウガがドラゴンの跳躍力を駆使し、アギトと合流した所からライダー同士の連携が始まったのだ。
クウガとアギトはあの邪眼戦で一度連携を経験している。そのため息を合わせる事が出来た。更に近くにいた龍騎もそれに加わった事で形勢が五分へと変化する。そして、三人はそれぞれの力を合わせ現状を打開していく。
アギトがフォームチェンジする時間をクウガと龍騎が作り、ストームフォームが竜巻を引き起こす。それを避けてフェイト達がやや距離を取ったのを見て、龍騎がクウガへドラグセイバーを拾って渡した。それを手にクウガはタイタンへ超変身。タイタンソードを手にし、竜巻を悠然と超えていく。
フェイト達が高速戦闘を仕掛けようとするも、龍騎がストライクベントを使いドラグファイヤーでそれを妨害。シグナム達へはアドベントで呼び出したドラグレッダーが向かい、そこへアギトも援護に入って奮戦。
クウガはフェイト達への対抗手段としてペガサスを使用し、龍騎からドラグクローを借りる。それがペガサスボウガンに変化したのを見てクウガ以外が驚いた。ドラグクローは炎を打ち出す事が出来る。つまり射撃が出来るのだ。クウガはそれに一縷の望みを抱いたという訳だ。
その正確無比な射撃はフェイト達の動きを牽制する。そこを龍騎が元に戻ったドラグセイバーを手にし攻撃開始。だが、それでも人数的な不利は覆せないと踏んだアギトは遂にある姿を使用した。
それはストームとフレイム、グランドの力を兼ね備えた姿。トリニティフォームと呼ばれるものだ。初めて見るその姿に誰もが息を呑む。そう、両腕と体を見ただけでそれがどんな力を有しているのかを理解したのだ。
「行きますっ!」
アギトはそう告げると、手にしたストームハルバードとフレイムセイバーを同時に動かす。それが炎を纏った竜巻を生み出した。その勢いに言葉が無い一同。しかし、クウガと龍騎はすぐに我に返るとそれを好機とするべく動き出す。
クウガは紫の金の力を発動し自分の防御力を高め、龍騎はサバイブしてからシュートベントでそれを援護。そこへ遂にRXも合流し四人は反撃を開始したのだが、結果は時間切れの引き分けに終わる。
しかし、四人の仮面ライダーが協力した力は凄まじく、誰もが恐ろしさを感じると同時にその頼もしさに再び希望を強くしたのだった……
「おはよー、イクス」
「おはようございます、ヴィヴィオ」
訓練場で参加者達が簡易的な反省会を終えた頃、ヴィヴィオは医務室にいた。イクスに会うためだ。共にベルカ時代の存在である二人。だが、ヴィヴィオにはまだ教えられていないのに対し、イクスには既にそれが伝えられていた。
だが彼女はヴィヴィオを聖王とは呼ばないで欲しいとのなのは達の頼みを受け、その理由を聞いてそれを承諾。加えて、ある意味では重要参考人ともいえるイクスをただ保護するだけではいけないと思ったはやてはすぐに手続きを開始。彼女を自分が後見人をする事で一人の人としての権利を所持させたのだ。
「ね、今日は遊べる?」
「そうですね……。シャマル先生に聞いてみなければ分かりませんがおそらく大丈夫です」
「ホント!? じゃ、また五代さんにジャグリング教えてもらおー」
「ええ」
楽しげに笑うイクスへヴィヴィオも嬉しそうな笑みを返す。あの海底での戦いから既に三日。イクスの容態は不思議な程に安定していた。本来目覚めるはずではなかった彼女。それが異常らしき異常を見せなかったのだ。その原因は定かではなかったが、ジェイルはイクスの話からある仮説を立てた。
それはキングストーンの光を浴びたためではないかというもの。邪眼を怯ませる際に放ったそれがイクスを結果的に目覚めさせた。それ故、その神秘の輝きが彼女の状態に一役買っているのではないかと。
光太郎もその仮説にそうかもしれないと返す事しか出来なかった。過去に何度も不思議な事を起こしてきたキングストーン。それならば、確かにそういう事を引き起こしてもおかしくなかったからだ。そんな事を知らない二人は、歳の近い友人として他愛もない雑談に花を咲かせていた。
「でも、イクスってどこか話し方が違うよね」
「そうでしょうか?」
「うん。ヴィヴィオと話す時ぐらいもっと楽にしてよ〜」
「楽、ですか? これでも普通に喋っているのですが……」
「え〜、ホントにぃ?」
イクスの言葉に嘘だといわんばかりに不満顔を見せるヴィヴィオ。それに彼女がやや困り顔を見せた。ヴィヴィオが聖王と知っているため、どこかに敬う気持ちが生まれてしまうためとは言えない。
かと言って、丁寧な言葉遣いを止められる程イクスは単純ではなかった。故に困る。だが、ヴィヴィオはそんな彼女の反応を見てこれ以上言っても困らせるだけと理解したのだろう。小さくため息を吐いてこう告げた。
「う〜、もういいよ。でも、もっと仲良くなったら考えてね」
「もっと仲良くですか……はい、分かりました」
「うん!」
今よりも親密になったら丁寧な口調を止めて欲しい。そう取ったイクスはそれならばと頷いた。本人が強く希望している事もあるし、何よりも彼女にとってヴィヴィオは初めて出来た友人。その望みを叶えてやりたいとそう思ったのだ。
こうして二人はそのまま会話をシャマルが戻って来るまで続ける。その光景は誰が見ても子供同士の親しげなやり取りにしか見えなかった。
所変わってデバイスルームではジェイルが充実感を感じていた。レジアスから送られたデータを基に改良した改造バトルジャケット。それが遂に完成したのだ。外見についてはレジアスから希望があったため、従来とは違うものへと変わった。
大きな変更点はそのフェイス部分。ブランク体のものではなくある物をモチーフにしたデザインへ変更されたのだ。正直ジェイルはそれをどうかと思ったのだが、レジアスがそれを強く希望したのでそうしたのだ。更に全体的に仮面ライダーらしさも増し、鎧というより強化服のイメージに近くなったのも大きい。
今、ジェイルはそれをシャーリーと無言で見つめていた。彼女もその外見にやや難色を示すものの、それが魔力を持たない者でも怪人と戦えるようにする装備と知っている。なので特に何も言わないでいた。
「……これで、AMFCを手伝ってくれますか?」
「ああ。もう、これで私のやりたかった仕事は終わったからね。後は義務を果たすだけさ」
「むっ! 私が頑張ってやってた事はついでですか?」
ジェイルの言い方に不満を表すシャーリー。それに彼は少し苦笑し謝った。
「すまない。そんな事はなかったんだ。許しておくれ、シャーリー」
「……まぁ、いいです。じゃ、また今日からよろしくお願いしますね、ジェイルさん」
「こちらこそ」
笑顔で手を差し出すシャーリーにジェイルも笑みを返してその手を握る。だが彼女の頬は微かに赤みを帯びている。それにジェイルは気付くも指摘する事はない。自分と久しぶりに仕事を出来るのが嬉しいのだろうと考えたからだ。
実際彼はシャーリ^と共に仕事を出来るのは嬉しかった。今までは一人でやるしかなかった研究。それについて意見や感想をくれる相手。それがシャーリーだったのだから。こうして、二人はまた以前と同じように様々な事を話しながら仕事を始める。
今の急務はAMFの無力化の確立。現状では弱体化が精々なのだ。それを何とか無力化までもっていきたい。そう二人は思っているのだ。ある程度微調整を続けるが、やはりそう簡単に上手くはいかない。
そんな時、シャーリーが何気なく悔しそうに告げた一言がジェイルにある発想をもたらす。それは、何度目かの微調整失敗の時。彼女がその結果を見て呟いたのだ。
―――あ〜あ、この効果が二倍になればなぁ。
それにそう単純にはいかないと答えようとして、ジェイルははたと気付いた。今まではトイ一機で無力化を成功させようとしていた。だから出力調整に難航している。だが、今の弱体化の出力を二機で共鳴させる事が出来たらどうなるかと。
そう考えた瞬間、ジェイルは即座に手を動かした。そして、その発想を仮定ではあるが入力しシミュレーションする。その結果は一瞬シャーリーの思考を停止させる程の衝撃があった。
「嘘……成功だ。成功ですよ、ジェイルさんっ!」
「……そうか。何も一機で相手のトイの無力化に挑む必要は無かったんだ。相手は一機一機で強力なAMFを展開してるだけ。それを合わせる事で強化してる訳じゃない。なら、こちらは協力してそれに立ち向かえばいいんだ」
「成程。でも、これって私達らしくていいかも」
シャーリーの呟きにジェイルも頷いた。邪眼達は連携を取らず強力な個人で事を成そうとしている。それに対抗する自分達は互いの力を合わせる事で立ち向かっているのだ。まさに六課らしい発想と言える。そう考え、ジェイルは噛み締めるように言った。
―――見せてやろうじゃないか……。微々たる力でも、合わせる事で巨人さえ倒す事が出来るとね。
それにシャーリーも頷き、二人はAMFCの共鳴システムの開発へ取り掛かる。その顔に浮かぶは希望の輝き。立ち込めていた暗雲。それを貫くような一筋の光明。それを見出した今、二人には力強い気持ちしかないのだから。
そのまま、二人は昼食時まで一心不乱に作業に没頭した。ちなみに二人を現実に引き戻したのは互いの空腹を告げる音だった事を追記しておく。
六課隊舎からすぐの格納庫。そこの前でヴィヴィオとイクスが揃ってお手玉を手にジャグリングの練習をしていた。先生は五代のはずだったのだが、セッテがその代わりを引き受けていた。
そんな彼女は現在、二人の姿を見て口出ししようかまだ黙って見守るべきかと迷っている。あまり世話を焼きすぎると本人達のためにならない。そう五代にも真司にも言われたからだ。
そんな光景を見て苦笑する光太郎とディエチ。ノーヴェとウェンディはやや呆れが混じっているが笑顔だ。とてもかつて聖王と冥王と呼ばれた者達とは思えない光景がそこにある。だが、それでいいと光太郎は思った。
誰もが過去に縛られる事無く歳相応の生き方を出来る事。それこそが平和なのだと、そう強く思ったのだ。更にセッテ達は下手をしたら自分達と戦っていたかもしれない者達。それがこうして共に笑い手を取り合っている事に光太郎は希望を感じていた。
(ほんの些細な事で運命は変わる。なら、俺達はそれを信じて戦おう。俺達が助けた命が明日をよりよくしてくれると、そう強く願って)
そう、一人一人が世界を守り支えていくヒーローなのだ。どんな小さな事でもそれが世界を変えていく。それを知るからこそ、光太郎はこの時間がどれだけ大きな意味を持っているかを考えた。
どんな相手とも分かり合える。それが心を持った相手ならば。いや、もしかするとそうでない者でもそうなれるかもしれない。そんな事を考えながら光太郎は笑う。目の前の光景に微笑んで。
「あ〜、ヴィヴィオもイクスも落としちゃったね」
「結構イイ感じだったッスけどね〜」
「イクスって、意外と不器用なんだな。何か見た目は器用そうに見えたんだけど」
お手玉を揃って地面に落とすヴィヴィオとイクス。それに悔しそうな表情のヴィヴィオ。イクスは不思議そうに何故落としてしまうのかを考えている。それを見たセッテはもう我慢出来なくなったのか二人へ近付きあれこれと助言を言い出した。
そして実演も見せて二人から拍手をもらっている。セッテはそれに嬉しそうに笑みを見せジャグリングを続けていく。それにノーヴェ達が揃ってため息を吐き、苦笑し出した。
「セッテがやっても意味ないッス」
「だよなぁ。ヴィヴィオ達に教えないといけないのにさ」
「駄目だ。あれ、完全に目的忘れてるよ」
そんな風に会話する三人。そこへやや呆れ気味の声が響く。
「で? お前らはいつまで油売ってんだ?」
ヴァイスはそう言ってノーヴェ、ウェンディ、ディエチの順に軽く頭を叩く。それに三人が軽く謝ってそれぞれ仕事に戻っていく。光太郎はそれに苦笑し自分もと思って動こうとした。だが、そんな彼へヴァイスが小さく告げた。
「今度、休み取って妹に会いに行って来ますわ」
「……そっか。うん、きっと上手くいくと思います」
「ははっ、そうなるよう頑張りますよ」
そう言ってヴァイスも仕事へ戻ると、光太郎も彼の後に続くように歩き出す。いつものようにライダーマシンを綺麗にしようと動き出すノーヴェ達を眺め、光太郎は小さく笑みを浮かべる。今日も格納庫は平常運転だった。
同時刻、ティアナとギンガはデスクに向かい滑らかに指を動かしていた。それに負けないようにとエリオとキャロも動かしていく。ただ一人、スバルだけがやや鈍い動きだった。以前までエリオとキャロの補佐をしていたドゥーエはそこにはおらずシグナムの補佐をしている。二人に手がかからなくなったためだ。
ちなみにドゥーエに補佐を頼んだシグナムを見た新人達は、デスクワークが苦手な彼女を可愛いと思ったとか何とか。しかし、そこになのはとヴィータの姿がない。そう、今日は隊長陣の休みの日なのだ。とはいえ、前線を支える隊長を一気に全員休ませるのは色々と不味い。故にスターズの二人が休みとなっている。
「今頃、高町はスクライアと会っている頃か。お前は休みになったらどうするつもりだ、テスタロッサ」
「光太郎さんにバイクを出してもらう事になってます。私もデートですよ」
「はぁ〜、いいわね。私も今度真司君にでも頼もうかしら?」
ふと気になったのかそれとも今やっている仕事が複雑だったからなのか。息抜きをするようにシグナムが尋ねた事へフェイトは笑みを浮かべて答えた。その笑顔はとても自信に満ちている。光太郎は想いに応える事は出来ないまでも受け止めてはくれる。それがフェイトに女性としての美しさと自信を与えていた。
その雰囲気を感じ取り、ドゥーエは羨ましいといわんばかりにため息を吐くもイイ事を思いついたとばかりにそう続けたのだ。それにフェイトが何に乗るつもりと尋ねると彼女は冗談めかして答えた。
―――火を吐くバイクよ。
それが龍騎サバイブのファイナルベントだと察しフェイトとシグナムが揃って笑った。そんな物でミッドを走るなとシグナムが言えば、フェイトが大騒ぎになりますと続ける。それにドゥーエが話題になって面白いと思うと返して三人で笑う。
そんな光景を眺めスバル達は揃って小さく笑みを見せた。何となくこんな空気が堪らなく嬉しく思えたのだ。早く邪眼を倒しこんな時間が当然となって欲しい。そんな風に思いながら五人は手を動かしながら話し出す。
「次の休みが待ち遠しいねぇ、ティア」
「……アタシは別に」
「え? どうして?」
ティアナの素っ気無い返事に疑問符を浮かべるギンガ。だが、それにティアナが答えるよりも早くスバルが少し意地悪な笑みを浮かべて告げた。ティアナは次の休みが翔一と一緒じゃない可能性があるから不機嫌なのではと。
そう言った瞬間、ティアナが無言のままスバルへじと目を向けた。その眼差しに思わずスバルが申し訳なさそうに頬を掻くがギンガ達は苦笑する。ティアナもそんな周囲に呼応するようにその眼差しをすぐに消して小さく息を吐いた。
「ったく、しょうがないわね。これで勘弁してあげるわ」
「あはは、ごめんティア。ちょっとからかってみたくてさ」
「はいはい。じゃ、これで満足したでしょ? 仕事へ戻りなさい」
それにスバルの表情が変わる。その様子に微笑み、ティアナも仕事へと意識を向けた。だが、その内心ではスバルを鋭いと感じていたが。そう、ティアナは異性として翔一の事を意識し出していたのだ。食堂に行った時もつい翔一に視線がいってしまうのもその一つ。誰に対しても笑顔で接する翔一を見て嬉しく思う反面、少し怒りも感じるようになったのもそれが原因。
―――アタシだけ笑顔を見せて欲しいな。
そんな想いを抱いてしまう程、今のティアナは完全に乙女になっていた。そこで彼女が不安に思うのははやての存在。はやては自分と同じぐらいかそれ以上に翔一の事を想っているのではないかという事。あのアグスタに行く際の事を思い出せばそう思ってしまうのも無理はない。実際は兄妹的な気持ち故の行動だったのだが、それをティアナが知るはずはない。
彼女もあの頃は別にそこまで気にもしなかった。だが、今は気になるのだ。はやてが職務を忘れてあんな事を言い出した理由。もし自分が逆の立場なら確かにああ言い出していたと、そう考えてしまったからだ。
そんな事を考えてティアナがややもの鬱げな表情を浮かべる中、スバルは視線をエリオとキャロへ向けて同じ事を聞いていた。
「ね、二人は今度の休みはどうするつもり?」
「はい、一度スプールスに行こうかと」
「お世話になった人達や動物達に会いたいなって」
笑みを浮かべてそう告げるエリオとキャロ。それにスバルとギンガが成程と納得。その時には邪眼を倒して平和になっているはずだから。そうエリオが言うとキャロもそれに頷いた。
ギンガはそんな二人に微笑み、自分も父親であるゲンヤに会いに行こうかと思った。クイントも彼女もスバルも今は彼とは別の部隊にいる。しかも彼女とスバルは寮生活なので、二人には中々会う事が出来ないのだ。
「私は……一度家に帰ろうかな。父さんや母さんに元気な姿を見せないとね」
「あ、なら私もそうしよ。ついでに、久しぶりに母さんのご飯も食べたいし……」
「アンタの場合、そっちが本命でしょ」
スバルの言葉に思考を切り替えたティアナが的確に突っ込んだ。それにスバル以外が苦笑する。それを受けてスバルがやや照れながら頬を掻いた。
「バレたか……」
そう言った瞬間全員が声を上げて笑う。それをフェイト達も微笑んで見つめるがそれも少しだ。揃って五人へ仕事をしなさいと注意し彼女達もまたデスクワークに戻る。ここでも平和な時間が流れているのだった。
時刻は昼時。食堂では翔一と真司、それにリインやチンクにセインといったいつもの者達が忙しく働いている。だがそこに五代の姿はない。彼はなのは達に会わせて休日となったため外出しているのだ。光太郎も今日は休み扱いだが、ヴィヴィオとイクスヴェリアがいる今はライダーの数を減らす訳にもいかないと考えたので別日に変更してもらっていた。
ちなみになのはもヴィータも出かけていて六課にいない。そして、五代の代わりに今日の食堂にはある人物が手伝いとして参加していた。
「翔にぃ、アギトセット上がったで」
「了解。ありがとう、はやてちゃん」
はやてからアギトセットを受け取り、翔一は微笑んだ。それに彼女も笑みを返し再び調理へ戻る。以前フェイトから提案された翔一とのレストラン運営。それを今日はやては行なっていた。
なのはとヴィータだけではなく彼女も休み。なのでこうして翔一と揃いのエプロンを着け上機嫌で働いていたと言う訳だ。リインはそんな二人を邪魔しないように見守っているし、真司達はそんな二人を見て微笑みを浮かべている。
「何かはやてちゃん、機嫌がいいよな」
「まぁ、当然だろう」
「そうだよね。翔一さんと二人で頑張ってるってのがいいんだろうし」
真司の言葉に共にいたいと思う相手がいる身のチンクとセインが答える。彼女達もはやての気持ちが分かるのだ。それに彼はそういうものかと思い、頷いて手を動かしていく。チンクとセインはそんな反応に苦笑し何気なくを装って彼へ小さく告げた。
―――真司、好きな相手と一緒に居れるだけで女は嬉しいものだぞ。
―――そうだよ。例え、相手が自分の好意に気付いてなくてもね。
そう笑みと共に告げた二人の言葉に成程と納得する真司だったが、どこか何かを匂わせるような言い方だった事に気付き疑問を浮かべた。そんな風に考え込み始める彼を見て二人は互いに視線を向け合って小さく笑う。
微かに色めいている者達を見たリインはやや楽しそうに呟く。盛んな事だと保護者や親のような気持ちで。だがそこで彼女はふと思う。自分にもそんな相手がいつか出来るだろうかと、そんな風に考えたリインは苦笑する。自分も影響されていると気付いたのだ。
(恋愛、か。私には関係ない話だと思っていた。しかし、考えてみるのもいいかもしれんな。私もシグナム達も”人”なのだから)
優しい主や友人達。それが彼女達をどう捉えているかは明確だ。人として生きて欲しい。そう、人らしさの意味を今のリインは知っている。光太郎から聞いた仮面ライダー達。その在り様こそ人らしさなのだ。
心さえ人らしくあるのならそれは人。ならばリインには心がある。はやてを愛し、守護騎士達を愛し、妹を愛している。それだけははっきり言えた。だからこそ彼女は思うのだ。自分達もまた人なのだろうと。
「どうしたアイン? 何か嬉しそうだな」
そこへザフィーラが現れた。ヴィヴィオとイクスヴェリアを連れていて、まるで父親のような様子だ。その後ろからはセッテも戻ってきている。それを見ながらリインは軽く笑みを浮かべると少し悪戯めいた表情で答えた。
「ザフィーラか。何、恋でもしてみようかと思ってな」
その答えにザフィーラが一瞬声を失い、すぐに楽しそうに頷いた。それはいいなと、そんな風に言って。それに彼女も頷き返すと静かに彼へ近付いた。そして、そんなリインの行動にやや戸惑うザフィーラへこう囁いたのだ。
―――相手も意外と近くにいるかもしれん。
それにザフィーラが驚いて目を見開くと、リインはクスクスと笑って厨房へと向かって歩き出す。その後ろ姿をやや茫然と見送って少ししてからザフィーラが小さく笑った。
「アイン、今のお前を見ていると強く思う。翔一達と出会えて良かった、とな……」
そこでザフィーラは思う。おそらくだが五代や翔一がいなければリインを助ける事は叶わなかった。もし邪眼がいなければそれはそれで助ける事が出来なかったとも思う。しかし、邪眼だけがいたのならは自分達は勝つ事が出来なかったと。
あの戦いを勝利出来たもっとも大きな要因。それは二人の仮面ライダーが自分達と共にいたから。そう思うからこそ、今の彼の心には神に対する感謝にも似た感情が浮かんでいた。その気持ちのまま、ザフィーラはリインの背を見つめて小さく呟く。
―――お前がもう悲しまずに済むよう、私が必ず守り抜こう。盾の守護獣の名に賭けて。そして、一人の人としてな……
その頃、偽装状態のビートチェイサーがクラナガンの街中を走っていた。そこを歩く内の何人かがその外観にクウガのバイクを見たのか思わず振り返る。だが、その色合いが違うのを見てきっとそれを模したのだろうと考えたのか興味を失くして視線を戻した。
そんな事に気付きもしないで走るビートチェイサー。向かう先はベルカ自治区。そう、五代は聖王教会へ行こうとしていた。そうなったのには訳がある。実は、はやてを通じてカリムが五代をクッキーパーティーに招待したのだ。
―――冒険の話を聞いてみたいと思いますし、義弟のロッサやシャッハも五代さんとお話したいと言っていますので。
そうはやてから聞いた五代は、ならばと休みの予定も無かった事もあってそれに応じる事にしたのだ。一応仕込みなどは手伝い、昼休みで忙しくなる前に隊舎を出発して。聖王教会までの道のりは一度しか見た事のない道。だが、それでも記憶に残る景色と照らし合わせて五代はビートチェイサーを走らせる。これも一種の冒険だと思いながら。
やがて都会然とした景色が徐々に少なくなっていき、ゆっくりと自然の比率が増えていく。そんな光景に心を和ませつつ五代は思う。カリムが自分を呼んだ理由は決して冒険の話だけが目的ではないだろうと。黒の四本角のクウガ。その事を詳しく聞きたい。そんな事をどこかで思っているはずだ。
そう結論付け、彼は噛み締めるように呟いた。
「俺だって、あの姿にはもうなりたくないし……」
それでも光太郎が言うように、邪眼が自分達へ複数で襲い掛かってくるのなら最悪それさえ考えなければならない。そう言える程、今の五代のあの姿への認識は変わっていた。あの姿はなってはいけない姿ではない。だが、出来る事なら使ってはいけない力だと。
どうしてもそれでなければならない事態。そうでなければ黒の四本角の姿は使ってはいけない。そう、彼にとってはクウガの力も同じだ。本当ならば仮面ライダーの力は使う必要などないもの。それを使うためにはある程度の条件が必要なのだ。命を、未来を守る。その力でなければ守れない相手から。
壊す者でありながら守る者。それが仮面ライダーだと五代は思っていた。闇を壊し、光を守る。その在り方を決して忘れてはならない。彼は光太郎から仮面ライダーの話を聞いてその想いを強くした。
いつでもその力は、戦いは、みんなの笑顔のために。それこそが自分達仮面ライダーの絶対条件なのだと、そう考えながら五代は遠くに見えてきた教会に小さく笑みを浮かべ速度を上げた。
(今はとりあえずクッキーを楽しみにしよう。後、ロッサさんってどんな人かも気になるし……)
どこまでも自分は自分。そんな風に思い、彼は一人笑顔を浮かべる。まだ見ぬロッサの人柄などへ思いを馳せて。そうやって五代がベルカ自治区を疾走していた頃、本局にある無限書庫は司書長室になのはの姿があった。その隣にはユーノがいる。
二人は室内にある来客用のテーブルに着き、そこにはなのはによる手製弁当があった。色とりどりのサンドイッチに唐揚げや卵焼きなどの基本的な作りで、軽い遠足みたいだとはユーノの談。その中のおかずの一つである卵焼きを彼女はユーノへ食べさせていたのだ。
「はい、あ〜ん」
「あ、あ〜ん……」
「美味しい?」
「…………うん、美味しいよ」
食べさせた方も食べた方も顔を真っ赤にさせる奇妙な食事風景。他に人目がないとはいえ、やはり照れるものは照れるのだ。しかし、どちらも視線を逸らしてはいない。そう、もう二人は婚約をしたような関係故に。
生憎ユーノはまだ婚約指輪を用意出来ていないが、出来るだけ早く用意しようと思っている事からもそれが分かる。なのはに言い寄る者がいるとは思えないが、それでも念には念をと考えているのだ。それをなのはに告げたら心配性だと苦笑されたユーノだった。
実は、やっとなのはが休みと相成ったのだがユーノが合わせられずデートはご破算。結局、こうして彼女が無限書庫を訪れる形となっていたのだ。しかも、彼女は午前中は仕事の手伝いまでしている。それも少しでもユーノとの時間を得るための行動なのだ。
互いにサンドイッチを手に取り一口運ぶ。そこで互いに思わず笑みが零れるのは愛する者といる幸せ故だろうか。そのまま二人は心持ちゆっくり食事を楽しんだ。愛しい相手との時間を噛み締めるように。
そうして弁当の中身を全部食べ終えた時、なのはがふとある事を思い出した。それは久しぶりに訪れたからこその疑問。
「そういえば、少し来ない間に新しい人が増えたんだね」
「ルネの事? うん、六課が出来て少し後ぐらいにレティ提督が紹介してくれたんだ。何でも、元々は戦災孤児らしくてね……」
「そうなんだ。苦労してるんだ、あの子」
ユーノの告げた内容になのはは表情を曇らせる。管理世界は管理局が関っているためある程度の治安を維持している。だが、管理外世界の中には世界規模で内戦を続けている場所もある。それを知るからこそなのはは悔しく、そして辛く思った。彼女達は管理外では何も出来ない。その存在を否定されていたり、拒否されていたりするからだ。
するとなのはへユーノは小さく声を掛ける。決して無力なんかじゃないと。管理局体制が絶対正しいとは思わない。だが、それで助ける事が出来ている命もあるし、守れる明日があるのだから。そう優しく告げるユーノの言葉になのはも頷いた。
「そうだね。それに、もしかしたらそんな世界にはライダーみたいな人がいるかもしれないし」
「そうかもね。仮面ライダーはそういう理不尽がまかり通る場所でこそ戦うはずだ。僕らが知らないだけで、実は彼らのような人はいつでもどこかで戦っているのかも……」
そんなユーノの声が思い詰めるものだと気付き、なのははその理由へ即座に思い当った。ユーノが何を考え何を思ったのかを。だから彼女は表情を笑顔に変えて告げた。
―――大丈夫! 仮面ライダーは一人じゃないから!
―――……そうだね。僕らと五代さん達のように、きっと多くの人達がその背を支えているはずだ。
互いにサムズアップを向け合う。その顔は笑顔だ。そして落ち着いてからユーノがぽつりと呟く。結婚式には五代達四人も居て欲しいと。それになのはも静かな声でそうだねと返す。邪眼を倒した後、五代達がすぐ帰ってしまうのではないか。それだけが二人の心配事であり不安だった……
海鳴にある月村家。そこのメイドであるファリンとイレインは、庭仕事を終えて互いに庭先で寛いでいた。あの五代達が来た日以来一度として邪眼による襲撃は行なわれず、海鳴の街は平和そのものだった。それでも未だに誰一人として気を抜いていない。
高町家の美由希と士郎だけではなくハラオウン家のエイミィやアルフにリンディさえも、いつ何があってもいいように心構えだけはしていた。すずかとアリサもそれは同じ。護身用にスタンガンなどを所持しているのだ。それがどこまで頼りになるかは分からないが無いよりはマシとの考えで。
「……平和だよな」
「そうですね?、一応お姉様の方も何事もないようですし……」
あの事件があった後、ファリンはドイツにいる忍達へ警告した。マリアージュのような恐ろしい相手がそちらにも現れるかもしれないからと思って。だが、そちらにも一度として襲撃は無かった。それでも彼らは完全に気を抜く事は出来ないでいた。
「でも、絶対に気を抜き過ぎるなって士郎さんも言ってたしな」
「ええ。こうやって、私達の警戒心が緩んだところを狙ってくるかもしれませんからね」
「……五代の奴、元気でやってるよな?」
「当然です。だって、五代さんはクウガですよ!」
「そう、だよな。そうだった」
そう言ってイレインは笑う。ファリンも同じく。二人は視線を上へと向ける。そこには気持ちのいい青空が広がっている。五代が好きな空。それを見上げて二人は願う。五代の無事を。そして、また共に過ごせる事を心から。
その頃、ヴィータはゼスト隊の隊舎にいた。休日なのだが、それを彼女は邪眼対策に使う事にしたのだ。そう、公開意見陳述会。その日が刻一刻と迫っているために。
今、彼女はゼスト達三人とその日の警備体制について話し合っていた。ゼストはレジアスと会い、邪眼に対しての対策を求めたのだが、彼は公に事を荒立てる訳にはいかないとそれを一蹴。しかし、グレアムとの話し合いの進行具合を教えてこう告げたのだ。
―――今は動けん。だが、奴が動いた時にはこちらも動く。奴らが絶望を振りまくのなら、儂らは希望を見せてやろう。
その言葉と共にレジアスはゼストへ全てが終わったら話したい事があると告げ、そこで会談は終了となった。その時のレジアスの表情が自分の良く知る顔だった事を確認し、ゼストはその言葉を信じて待つ事にしたのだ。
希望を見せる。それがどういう事かは分からない。だが、それが邪眼達への反撃を意味するぐらいは彼にも分かる。故に、ゼストは六課とだけではなく108とも連携し有事に備える事にしたのだから。
「……だから、108にはあたしが教導に行ってマリアージュ対策と怪人戦をある程度意識した事を仕込んでくる」
「そうか。こちらもマリアージュ対策だけは練っておく」
「それと他の陸士隊にもマリアージュ対策ぐらいは伝えておきましょう。それだけでも違うはずです」
ゼストの言葉にメガーヌがそう続く。それにヴィータは頷いた。怪人はやはり実際見ないと信じる事は出来ないがマリアージュだけは別。あれはもう第一級危険ロストロギアに指定されていた。そう、幾度かに渡る戦闘の結果出た被害。それをマリアージュの仕業にして上層部に報告したのだ。
なので、現在はマリアージュ対策だけならば納得させる事が簡単だ。しかも、それが地上の守護神と言われるゼスト隊からなら余計に。そう判断し、ヴィータは助かると告げた。彼女はちゃんと礼儀を弁える人物だ。どんな相手でも階級が上であれば一定の敬語を使って接する。だが、今の彼女はゼスト達へそんな言葉遣いをしていない。
その理由はたった一つ。ヴィータの言葉に対するゼストの言葉に、それはあった。
「気にするな、ヴィータ副隊長。俺達は共に邪眼と戦う仲間なのだからな」
仲間。それがあるからこそヴィータはゼスト達へ敬語を使わない。何故か。簡単だ。仲間に上も下もない。みんなが同じなのだ。立場も年齢も関係ない。共に悪を憎み、今日の笑顔を、明日の平和を願う者同士なのだから。
「……でも、ありがとうって言わせてくれ。正直、六課はどこか陸の部隊から疎まれてる部分があるしさ」
「そうなのよね。むしろ、六課はライダーと管理局を繋いでくれた部隊なのに」
「仕方ないわ。はやて部隊長を初め、主な構成員が海や空の人間だもの。でも、それがかえっていい方向に活きてる」
クイントの悔しそうな言葉。それを聞いてメガーヌも同じような声を返す。しかし、後半には噛み締めるような声に変わった。それにヴィータ達は頷く。
実際、六課が他の陸士隊から疎まれるような存在となる事を見越し、その隊舎はかなりクラナガンから離れた場所になったのだが、だからこそ邪眼の襲撃の被害が最小限で済んでいる。
更に、六課と係わり合いが多い陸士隊はゼスト隊ぐらいだ。よって他の陸士隊が邪眼による襲撃対象となる事もなく今日まできた。それを考えるとメガーヌの言葉は的を射ていたのだから。
「こういうのを日本語で怪我の功名、と言うのだったか。それとも災い転じて福と成すだったか?」
「意味合い的には前者の方が近かった気が……? 今度フェイト執務官に聞いておきます」
「とにかく、もう一度か二度襲撃があると見て、問題はやはり……」
「ああ。絶対公開意見陳述会だ。あいつら、怪人が邪眼も合わせて全部で二十一体もいやがるしな」
ヴィータの言葉にゼスト達がやや疑問符を浮かべた。総数が足りないのだ。邪眼の残りは十体。ヴァルキリーズを基に生まれた怪人達が十二体。二十一体では一体足りない。そう思ったのをヴィータは気付いたのだろう。嫌悪感をむき出しにして告げた。
邪眼はおそらく自分を一体残し、保険にするはずだと。それにゼスト達も怒りと嫌悪感を露わにした。自分さえ捨て駒に考え、それに何の躊躇いもない邪眼に。命を何とも思っておらず、ただの消耗品のように使い捨てるその在り方へ強い怒りを感じたのだ。
そこで話し合って決めたのは邪眼の相手は基本ライダーに任せようという事。その理由はあの無人世界での戦いからの経験だ。ヴィータ達守護騎士さえ邪眼と対峙した時はその神経を酷く疲れさせた。
しかも、あの海底遺跡で再戦したフェイトとシグナムが改めてそう告げたのだ。やはり邪眼相手は色々と疲れると。現にあの後エリオとキャロ、ツヴァイは揃ってダウンした。六課隊舎に着いた瞬間緊張の糸が途切れて眠ったのだ。
そこから考えて、怪人相手にはもうスバル達もヴァルキリーズも慣れたが邪眼だけはやはり別格となるだろうと結論付けた。
「……総勢九体の邪眼。それに対し、こちらはライダーが四人」
「二体一の構図ね。しかも、下手をすれば誰か一人は三人相手に?」
「いや、光太郎が言うにはその一体はあたしらへ向かってくるんじゃねえかって。新人達やヴァルキリーズの末っ子辺りは結構耐えるのだけで精一杯だろうからさ」
「そこへ残った怪人が全部。しかも、まだ知らない怪人が何体かいる……」
六課だけで支え切れる数ではない。怪人だけでも多いのにそこへマリアージュも加わるのだろうからだ。そう、イクスヴェリアにはマリアージュを制御する力があった。だが、それは彼女が生み出したマリアージュに限るものだったのだ。
邪眼が生み出している個体に関しては彼女は無力。だが、それを誰も責めなかった。むしろ安心したのだ。イクスヴェリアを助ける事が出来た事に。利用されれば、今以上にマリアージュが増える。それは一番忌むべき事態へ繋がるのだから。
マリアージュによる自爆攻撃。それを展開されれば、事は地上本部だけに留まらない。クラナガン全体に広がる可能性もあったのだ。だが、現状でそれは可能性が低いと予想されていた。
それは邪眼の行動目的。その目的は世界征服よりも創世王になる事へ重点を置いているのだ。つまり、クラナガンを火の海にする事があるとすれば、それにはRXとクウガを倒すという状況が必要となる。
無論、これが楽観的な見方であると誰もが思っていた。しかし、その可能性を強く否定出来ないのも事実なのだ。あの無人世界での戦いを経験した者達は特に。
「とにかく、決戦の時は近い。その際は、俺達ゼスト隊だけで怪人を最低でも一体は倒してみせる」
「頼む。あたしらも出来る限り怪人を倒してみせるから」
「そちらから提供されたデータを参考に、私達なりに対処法を確立させるわ」
「お互いに頑張りましょ!」
そう言ってクイントが見せたのはサムズアップ。それにヴィータも同じ仕草を返した。ゼストとメガーヌもそれに呼応しサムズアップを見せる。ライダーを支え、助け合う者達共通の仕草がそこにはあった。そして、それと同時に笑顔もまたそこに……
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日常回。ゆっくりと変化していく互いの関係。深まる絆と繋がる笑顔。そんな感じの話でした。
次回はいよいよ”その日、機動六課”に突入します。アニメでは中盤の盛り上がりとなった場面ですが、ここではどうなるかをお楽しみに。
説明 | ||
海底遺跡での戦いから数日後、六課はそう変わらぬ日常を過ごしていた。 優しく流れる時間、見せ合う笑顔。そして広がる絆とあの仕草。平和を愛するからこそ恐ろしい闇と戦うのだと、そう誰もが心に誓って。 |
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