IS x 龍騎?鏡の戦士達 Vent 30: 心の中身 |
鈴音との衝突から数日後、一夏はバイクで夜の町中を走っていた。シートに伝わるエンジンの振動が体を落ち着かせ、心を白紙に戻してくれる。夜風が体に当たって頭も冴える。だが、走っている最中に千冬の姿を見たので、そちらに向かってバイクを止める。
「千冬姉、乗って。」
「一夏・・・・!」
「プライベートで会うのは久し振りだから。ちょっと話したくて。」
「良いだろう。」
予備のヘルメットを被ると、再びバイクをスタートさせた。行きつけのカフェに入ると、ケーキセットを注文してテーブルを挟んで座った。
「お前から誘うとは珍しいな。どうした?」
「いや、何つーか・・・・あ、独り言と思って聞き流して欲しいんだ。何でISが出来たんだろうなと思ってさ・・・・ISが無かったら、どうなるんだろうなとか。特異ケース二人の内一人だし、問題の火種でしかない。でも、やっぱり俺は戦い続けなきゃ行けないんだ。俺を見失わない様に」
「一夏・・・・(いつから、お前はそんな悲しそうな目をする様になったのだ?いつから私が知っていた昔のお前は、『黒』に染まってしまったのだ?)」
「それに、俺は、俺だから、今の世界を敵に回す事になってしまった。戦う事に、俺は疲れたのかもしれないんだ。でも、止まったら、そこで終わってしまう気がして、怖い。もし、友達が俺を倒す事になって差し向けられたら・・・・俺はどうすれば」
「もう黙れ、馬鹿者。」
千冬は一夏をゆっくりと優しく抱きしめた。幸い死角に当たる席を取っているので他人には見えないが、突然の行動に一夏は慌てた。
「ちょ、千冬姉・・・・?」
「いつからそんないっちょまえの考えをする程偉くなった?まだ弱冠十六歳の小僧がそんな大層な事を心配する必要は無い。今まで私が知らない所でお前に何があったかは聞かない。だが、無茶はするな。私には、もうお前しかいないのだ。」
久しく触れなかったその温もりに、一夏の目から涙が零れ落ちた。
「お前はお前だ。好きに生きろ。ただし、私に何の断りも無く勝手に死地に赴く様な馬鹿な真似は許さん。良いな?」
「・・・・・分かった。」
涙を拭き、少し冷めたコーヒーを飲んだ。涙の所為で塩っぱくなっていたが、気にせずに飲み干した。
(ありがとう、千冬姉。そうだ・・・・俺は俺なんだ。だから、俺は、司狼さんに付いて行って、この世界を変えてみせる!)
帰りは少し歩いていたが、途中柄の悪そうなベタな連中に絡まれた。だが、一夏は散歩前に進み出て、只こう言った。
「三秒やる。三、二・・・」
だが、明らかにハッタリだとしか思っていないのか、手近にいた一人が殴り掛かって来た。
「一。」
一夏はその拳を回避し、強烈なソバットを男の下腹部に叩き込んだ。がっくりと腹を押さえて酸欠になったかの様に苦しむ男の後頭部に肘鉄を食らわせ、その上に座って手招きをする。
「はい、次。」
結局そこにいた全員は一夏のみならず、千冬のオーラに気圧されて方々に散って行った。
「全く、必要以上に戦うな、お前は。いつからそんなに喧嘩っ早くなったのだ?」
「俺も色々と変わったんだよ。いつまでも、守られている訳には行かない。自分の身は最低限自分で守るつもりだ。まだ千冬姉を守るなんて大言壮語出来る程俺は強くないし、そう言う風につけあがる程馬鹿じゃない。そろそろ門限だ。帰ろう?」
再びバイクに乗ると、一夏の心は真っ白になった。考えたくない時、何も考えられずに行き詰まる時にはいつもツーリングに行く。だが、今はいつも以上に落ち着いていた。後ろには姉が乗っており、その温もりが心地良くじわじわと体に広がって行った。
(千冬姉・・・・・絶対俺は、強くなる!)
学園に向かうモノレールの駅に着くと、別れを告げて社宅に向かった。内装はシンプルな作りで、家具以外私物は殆ど無かったが、広かった。ソファーではマドカが座っていた。
「兄さん、お帰り。」
「ああ、ただいま。悪いな、俺の後始末を任せちまって。」
「全く・・・・いくら社長から休暇を貰ったとは言え私に押し付けるとは・・・」
「ごめんごめん。夕飯は?」
「冷蔵庫で兄さんが作った残り物を食べた。冷めても美味しかったな。今度私にも教えて欲しい。」
「ああ。良いぞ。」
マドカの隣に腰を下ろし、書類の整理を手伝い始めた。
「長かったな。ここまで。」
「そうだな。今まで色々あった。初対面の時は兄さんの事が大嫌いだった事を覚えている。ミラーワールドやISで((殺し合い|ケンカ))も随分とした。でも、あの時・・・・兄さんに助けられた・・・・あの日・・・・」
「あ、あれは、その・・・・咄嗟にやった事だから。気にするな。それに、形はどうあれ俺達は兄妹だ。ちゃんと守れて良かったよ。あの時はヒヤッとしたぞ。」
「それでも・・・・ありがとう。私は、これからも兄さんと一緒に戦う。兄さんを守る。」
マドカは一夏の肩に撓垂れ掛った。
「そうか。今夜は久し振りに一緒に寝るか?」
「え・・・・あ、う・・・・」
「まあ、俺の部屋の鍵は開けてるから、気が向いたら来い。先に寝てるから。お休み。」
一夏は二階に上がって部屋のベッドに寝転がった。いつ眠りについたかは分からなかったが、眠っている事は確かだった。
「ん・・・・・?」
だが、突然顔に眩しいライトを当てられた様に瞼の裏がほんのりと明るくなり始めた。目を開けると、そこは何も無い白い空間だった。
「ここは・・・・?」
『ようやくここまで来たか。』
『お待ちしていました。』
『待ちくたびれたぞ、小僧。』
「え・・・・?ダークレイダー・・・?!それに、その二人は・・・?」
『何を寝ぼけている?私はお前とともにずっと戦っていたではないか?』
『酷いです、分からないなんて。』
「て事は・・・・まさか、白式・・・・と、白騎士!?」
『そうだ。』
『正解でーす!』
「でも、何で?俺は、確かに・・・・寝ていた筈なのに・・・」
『ここはお前の精神世界の中だ。私達とお前の間に相互意識干渉が起こっていると思えば良い。』
「成る程。」
『小僧、お前は何の為に戦っている?』
「この世界を変えて、俺の仲間を守る為だ。」
一夏はダークレイダーを見据えてハッキリとそう答えた。
『今のお前に、そこまでの大言を吐く実力は無い。』
ダークレイダーはそう斬り捨て、鼻を鳴らした。
『私達を倒す事すら不可能だ。あの時の様に、迷ってしまえばな。』
「っ!?(こいつら・・・・何故知ってる?!)」
白騎士の言葉に一夏は思わず目を見開いた。
『驚く事はありません。私達は二十四時間貴方と行動しています。貴方の行動は全て見聞きしていました。甲龍の使用者との戦い、そのやり取りも。貴方は世界を変える代償として、仲間を手にかけてしまう事に恐れを抱いている。違いますか?』
白式の言葉に、一夏は見事に図星を疲れ、俯いてしまう。その通りだからだ。
「だったら何だ?!誰だって友達を殺したいなんて奴はいない!仮にいたとしても、俺はそんな事はしたくないし、しない!」
『フン、甘いな。その考えがどこまで通用するか、我々が見極めてやろう!』
白式、白騎士、ダークレイダーの姿が掻き消え、一つになった。現れたのは、ナイトサバイブだった。
「力試しって事か・・・・良いぜ。やってやるよ!変身!」
一夏はカードを使わずに直接サバイブ状態に昇華し、ダークブレードを引き抜いた。だが、攻撃も防御も悉く通用せず、後ろに吹き飛ばされた。
「っく・・・・!」
『脆弱だな、主よ。』
「脆弱だろうとなんだろうと、俺は考えを変える気は無い!」
二人のナイトサバイブのダークブレードがぶつかる度に火花を散らす。だがやはり一夏の方が劣勢に追い込まれて行く。理由は単純に行動を全て読まれてしまうのだ。
「ちっ・・・・俺の攻撃パターンは既に織り込み済みって訳か。だったら・・・・データに無い物を使えば、対処は出来ねえだろ!」
吹っ飛ばされた所で再び立ち上がると、デッキを抜き取り、別のデッキをバックルに装填した。リュウガのデッキである。
(返すの忘れてたけど・・・・ここは使うしか無い。)
デッキから引き抜いたのは、赤い背景に金色の片翼を描いたカードだった。
『それは・・・?!烈火のサバイブ・・・・?!どこでそんな物を・・?!』
「((生き残る|サバイブする))為の、切り札だ!俺は、ここで停められるわけにはいかない!勝たせてもらうぞ、白騎士、白式、ダークレイダー!」
そう言いながら、そのカードをブラックドラグバイザーが変化したブラックドラグバイザーツバイの口の部分にカードを装填した。
『サバイブ』
エコーの掛かったくぐもった声が鳴り響き、リュウガの姿が変わって行く。龍の意匠が更にハッキリと現れ、周りの青黒い炎がより一層禍々しく燃え上がった。
「さあ、ここからが、本当の戦いだ!」
バイザーから伸びた剣を振り下ろし、ダークブレードを押し返す。
「馬鹿な・・・?!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ドラグブレードを振り下ろしてようやくナイトサバイブに一撃入れる事に成功した。その隙にカードを装填する。
『ストレンジベント』
「あ?」
何も起こらず、再びカードが排出された。そのカードの効果を名前と図柄で理解したのか、即座にアードをベントインした。
『トリックベント』
十体に分身したリュウガサバイブがそれぞれドラグブレード、メテオバレットで攻撃し始める。だが、ナイトサバイブは全く怯まない。
『ブラストベント』
ダークレイダーの翼のタービンからダークトルネードが発生し、シャドーイリュージョンが次々と消され、あっという間に半数に減った。
「やばい・・・・」
『ガードベント』
「グウウゥウォオオオオオオオオオオオオオンン!!」
ドラグブラッカーが進化したドラグランザーダークが楯になり、本体を含めた五体を守り切る。
『『シュートベント』』
ダークアローとダークドラグバイザーツバイの光弾が交差し、激しい銃撃戦を繰り広げた。
互いの分身がどんどんと破壊されて行き、二人の得物の銃口は互いの頭に向けられた。
「これでも、俺はまだ弱いかよ?」
「認識を、改める必要がある事は認めよう。」
二人の体が粒子化し始めた。もう余り時間が無いのだろう。距離を取った二人は、最期の攻撃を放つ。
『『ファイナルベント』』
疾風断とドラゴンファイアーストームが真っ向からぶつかり、そこで一夏は目を覚ました。時計に目をやると、六時を少し過ぎた所だった。隣にはいつの間に潜り込んで来たのか、三毛猫の着ぐるみパジャマを着たマドカが潜り込んで丸くなっていた。
「夢・・・ではないよな・・・・」
左腕のウィングナイトを見ると、今までには無かった物が見えた。血管の様に青と赤のラインが入っており、両翼を模したデザインも広がっている。
「サバイブの、模様・・・?それも二つ・・・どう言う事だ?セカンドシフトはした筈なのに・・・・」
『サバイブの力が、ウィングナイトに覚醒したか・・・・』
オーディンはそれを遠巻きに眺めていた。デッキから己の力の源でもあるサバイブ『無限』を引き抜いた。それには不死鳥の胴体を模した金色の絵がある。
『私も、動く頃か。』
「キュエエエエエエ!!」
後ろでは、不死鳥型契約モンスターのゴルトフェニックスが翼を目一杯広げて鳴き声を上げた。金色の羽の旋風に包まれると、一人と一匹の姿は掻き消えた。
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