人類には早すぎた御使いが恋姫入り 四十一話
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一刀SIDE

 

呂布が俺を連れて皇宮を出て、宮殿の長い階段を降りていく間、俺は少し昔のことを考えていた。それはこの世界に来る前の話だった。

俺は過去が振り向かない主義だ。昔の記憶なんてものを掘り起こすぐらいなら前に一歩でも進んでいく方を選ぶのが俺らしい。

 

だけど、一度だけ…

 

一つだけ俺が振り向きたいことがあった。

あの時に戻るなら、選択に迷うであろう事件が一つあった。

 

だけど後悔も、やり直したいという気持ちもない。

俺は過去を遡るためにタイムマシンを作ったわけではない。

前に進むために作ったのだ。

 

「呂布、もう止まれ」

 

階段が終わる頃、俺は俺を肩に乗せて走っていた呂布に言った。

 

「……」

 

だけど、呂布は返事もせず、止まりもせずただ走るだけだった。

 

「呂布!」

「……」

 

呂布が俺を連れて逃げ出したのはやり方は荒かったが俺にとっては好都合だった。

あのまま皇帝の話に付き合っては居られなかった。

皇帝の婿入りなんて冗談じゃない。

自分に傷をつけた人間を助けるために婚約など、マゾヒストかとてつもなく憐れな人種かのどっちだ。

 

それはそうとコイツは一体どこまで行く気だ。

 

「呂布!」

「…!」

 

三度目呼んだ時、やっと呂布はその場に止まった。

そして、そこにあった芝生の上に俺を叩きつけた。

 

「くふっ!」

 

背筋に走る衝撃を感じると同時に呂布は高圧的な気迫を出しながら厨房でそうしたように倒れた俺の頭の両側に手を付けて、膝を俺の腰の両側について俺の動きを封じた。

 

「…何のつもりだ」

「…判らない」

「口で説明できないからって判らないと答えるな。説明しろ」

「したかったからしただけ……それだけ」

 

これだからコイツを話すのは頭が痛い。

 

「だから何だ。俺を助けるつもりじゃなくて、単にお前があの状況が気に入らなかったから俺を連れだしたということか」

「…うん」

「俺が董卓を裏切ると思ってるのか」

 

皇帝の婚約を受けたら俺の名目上の地位は連合軍の誰よりも高くなる。

それだけではなく、長期的には俺が皇帝を傀儡にしてしまうことも容易だろう。霊帝がそうだったように。

 

「違う」

「じゃあお前が裏切る計画でもあるのか?」

「違う」

「…お腹いっぱい食べたから一緒に散歩でもしたかったのか」

「違う」

「……お前だけは何考えてるか分からない」

 

俺は相手が何を考えているか読む。

それは俺が読心術を使えるわけではない。

相手が理性的に、或いは非理性的に考えたらどんなことを考えてるだろうか推測するだけだ。

 

だけど、コイツは…本能的に動く。

そこは俺も判らない。

だからコイツのことは近くに置きたくないんだ。何を考えてるかわからないから。

 

そう、それが理由だ。

 

「困ったことに俺は虎牢関でのようにお前に抵抗できるだけの力が残ってない。身体も限界が近いし、視野も狭くて甘いものを食べても味がわからない」

「………」

「お前が何をするつもりか分かりもしなければ興味もない。だから好きにすれば良い」

「…好きに?」

「そうだ。お前のやりたいようにや…」

 

そこから言葉が続けられなかった。

奴に口を塞がれて、俺の沸騰している脳みその反応速度はあまりにも遅かったせいで、何が起きてるのか気づくには時間がかかった。

 

「んちゅ……んっ…」

「っ……ん……」

 

この世界での初めての口付けの相手がコイツなのはある意味必然なのか。

そもそも俺にこんなことをするような人間がもう居るだろうと思わなかった。

 

口付けは奴の気が済むまで続いた。俺には抵抗する力もなく、そうする気もなく、ただなすがままにされる時間が続いた。

 

 

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月SIDE

 

恋さんが一刀さんを連れて消えた後、私たちは直ぐに陛下の部屋に戻っていました。

恋さんが消えた後直ぐに戻ってきた周泰さんに、詠ちゃんをこの部屋に連れてくるように頼んで、今は詠ちゃんは陛下の寝床で眠っています。

 

陛下の部屋に戻ってきて間もなくして、霞さんが報告を受けました。

 

「陛下と月を襲った兵たちやけど、生捕りした奴らを審問しようとした途端

全部自害したそうで……」

「じゃあ、何も聞き出せなかったのですか」

「何をやってるですか!それじゃあ奴らが袁紹の兵であることも証明できませんぞ」

「済まん…ウチが近くに居なかったせいや」

「作戦が失敗したら情報を漏らさないように自害することは特殊部隊の基本です。最初から情報を聞き出すことは至難の技です」

「そういえば、まだ汝の名を聞いておらぬな。申せ」

「はっ!」

 

周泰さんはその場で礼をして跪いた。

 

「江東の虎、孫堅の娘、孫策さまに仕える周幼平と申します。孫策さまより偵察の命を授かって洛陽に来ました」

「汝が偵察のためにここに来たのであれば、偵察だけしてバレずに戻れば良いことだ。張遼や呂布を助けたり、余を捕まえていた袁紹の兵を殺したのはどういうことだ」

「私はもう一つ命を受けました。彼がすることを手伝うよう命じられました」

「彼とは、北郷一刀のことか」

「はい」

「それも孫策の命か」

「いえ、これはその妹さまの孫権さまの命でした」

 

陛下の前で全てを話す周泰さんの姿を見て、私は連合軍の今の様子について半分理解することが出来ました。

所詮は利害が一致して集まった群れが連合軍です。

だけどそこに義はなく、各々の利のために動くため連合を裏切ることも裏切っているのだと思わないのです。所詮は一瞬の利害が合って一緒に戦う仲であってこれが終わったらまた敵同士になる群れ。裏を持っていない方が愚かなだけなのでしょう。

 

「月」

 

陛下に呼ばれて私は辞儀をしました。

 

「やはり余と汝が洛陽を守るにはあの男が必要だ」

「…はい、ですが…」

 

確かに陛下の仰る通り、今私たちが頼れるのは一刀さんだけです。

でもだからと言って

 

「そのために陛下が犠牲をなさる必要はありません」

「犠牲…?」

「陛下が一刀さんに婚約を申し込んだことです」

 

一刀さんを陛下の夫にすれば、確かに彼の罪も無くせますし、それだけではなく、一刀さんを陛下の近くに置くことで、陛下は大きな力を得ることになります。

だけど、そのような政略的な婚約を自らなさる必要はありません。

 

「そもそも、一刀さんはそれ自体拒否しています。一刀さんを近くに置くためには他の方法を取るしか…」

「皇帝の夫だぞ。それ以上のものを望むというのか」

「一刀さんは地位に縛られる人ではありません。あの方を縛るには本人が興味を向かせるようなものでしなければなりません」

「……余の夫という立場に興味がないというのか」

「さっきの一刀さんがただ礼儀として申し込みを拒んだとは思えません。死んでも陛下との婚約は拒んだと思います」

「……そうか……」

 

その時、陛下の顔には少しばかり悲しみが感じられました。

まさかとは思いますけど、本当に自分を殺そうとした男に気があったのか、それとも皇帝の夫という地位をものともしない様子を見てご自分の姿に嘆いたいらっしゃったのかは判りません。

 

「しかし、だとすれば彼の興味とは一体何だというのだ。地位でなければ財にも興味がないだろう」

「はい、そもそも今の洛陽にはそれほどの財物もありませんし」

「それなら問題はない」

「はい?」

 

陛下はそう言いながら霞さんが立っている方へ向かいました。

 

「文遠」

「は、はい」

「退いてもらおう」

「へ?」

 

霞さんが理解できずともそこを退くと、そこには部屋に飾ってある石像が一つありました。

陛下がその石像の頭をいじると、頭が向きを変えながらカキっと何かが掛かる音がしました。

すると、石像の横の壁が開いて、下に繋がる階段への扉が開きました。

 

「なっ!」

「こんな仕掛けがあったんか!」

「この仕掛けがあると知ったのは偶然の出来事であった。張譲もこれについては知らなかっただろう。恐らくは先代も知らなかっただろう」

「中には何があるのですか」

「皇家の財宝だ」

「!!」

 

まだそんなものが…

 

「もし先代がこれについて知っていたなら、十常侍も知っていただろう。そしたらこの中には何も残っていなかったはずだ」

 

陛下は私に手を差し伸ばしました。

 

「付いてきてくれ。月に見せたいものがある。他の者たちにはここで待っていてもらおう」

「…わかりました。霞さん、詠ちゃんが起きたらお願いします。後、恋さんと一刀さんの居場所も探してください」

「北郷さんのことは私が探しましょう」

 

周泰さんがそう言いましたので、私はお願いして、陛下の手を取りました。

 

 

・・・

 

・・

 

 

階段は下へと暫く続きました。

 

途中であった火打石で松明に火を付けて、陛下と私は下へと降りて行きました。

 

「あの男が好きというわけではない」

 

咄嗟に陛下はそんなことを仰りました。

 

「…存じています」

「月が余がそうかもしれないと思っているようだったが、余の勘違いか」

「………」

 

私は片手には松明で行く先を照らして、もう片手には陛下の手を握っていました。

陛下は話を続けました。

 

「余は昨日まで誰一人信じれる者のいない世に生きていた者だ。よもや自分を殺そうとした男に恋心を持つのであれば、余が狂っているのだろう」

「……でも、だったらどうして」

「慣れておらぬのだ。人に手を差し伸ばすのも、伸ばした手を振られるのも」

「あ…」

「呂奉先は自分が北郷一刀に興味を持っていると言った。そしてその興味という言葉を彼から聞いたと言った。だから少し期待していたのだ。余に言った興味というのも、そういう意味だったのかと。でも、違うというのならそれもまたそれで構わぬことだ」

「では、本当は一刀さんにその気はまったくなかったのですか」

「それは判らないな、月」

「はい?」

 

私が脚を止めて振り向くと、陛下は続いて仰りました。

 

「あの男が余を殺そうとしたとは言え、彼の言葉がなければ余は月という友を得られなかっただろう」

「…『友』ですか」

「『相国』とはそういう座であろう?汝は余の部下であるが、同時に余が唯一信頼できる友たちだ」

「陛下……」

 

陛下の友だなんて、そんな恐れ多いものが私に務まるはずがありません。

だけど、ここでそれを拒んでしまっては、私を頼りにしてくださっている陛下に大きな傷となるでしょう。

ただ力を尽くすことが、私に出来ることの全てです。

 

「階段が終わったな」

「ここが……」

 

階段が終わり床に辿り着いたら、周りに火を付けて明るくしました。

そこには本当に昔からそこにあったような金貨が宝などが置いてありました。

 

「こんなものがまだ都に残っていたなんて…」

「この仕掛けは恐らくこの宮殿が建てられた時に造られたものだろう。一体何を惜しんでこんな隠し倉庫などを造ったのかは判らないが、国の危機である今は有用に使わせてもらう他ない」

「……陛下、あれはなんでしょうか」

 

財宝の山の隣にある異様な物に目が行った私は陛下に言いました。

 

「あ、それか。…判らない。だがこのようなモノ見たことがない」

 

丸い構造をしたソレは、瑠璃にできた外形に色んな構造物がついてあって、また瑠璃の中には椅子のようなものが二つ置いてありました。

 

「これも元からここにあったのですか」

「そう。だが、これだけは一体何なのか判らない」

「中に入れるのですか」

「試してみたが、門があるわけでもないし、壊すわけにもいかないからな」

「……一刀さんならこれが何か分かるでしょうか」

 

私はふとそう言いました。

 

「何故そう思う」

「特に理由があるわけではありません。ですが、本当一刀さんが天の御使いなら、これが何か分かるかもしれません。…少なくともこれは決してこの世のものとは思えません」

「…そうだな……」

 

私たちは暫くソレを見つめていました。

長い間ここに眠っていたはずのソレを眺めていると、何故か妙な気分に襲われました。なんだかとてもそれに近づきたくない感じがして、思わず数歩後ろに下がっていました。

 

 

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一刀SIDE

 

 

頭がぼうっとした。

熱が更に沸騰するように熱くなっていく中、俺は一つ気づいた。

 

こんな風になる可能性が何度もあったことを。

 

しかし、俺はそれを拒んできた。

理由は明白だ。

だけど、ならどうして今は拒んで居ないのか。

単に身体が言うことを聞かないから。言い訳としては上々だが自分を騙すことは難しい。

 

やがて奴の唇が俺から離れて行くと、俺はやっと正気を取り戻すことができた。

 

「…満足か」

「………………熱い」

 

熱い吐息が二人の間に続いた。

 

「もっとしたい」

「…自分が何故こんなことをするのかは判ってやってるのか」

「…判らない。したいからしたいだけ…一刀は嫌?」

「……」

 

俺が何も言わずに呂布を見つめていると、呂布はまた顔を近づけてきた。

 

「やめろ」

 

俺は呂布の肩を押しながら言った。

 

「…どうして?」

「俺にこんなことをするな」

「こんなことって?」

「……」

「…一刀、恋はおかしい」

 

呂布はそう言いながら肩に添ってる俺の手を自分の胸に当てた。

 

「すごく、ドキドキしてる」

「……」

「戦う時とは違う。戦う時のドキドキは、少し嫌い。早く終わらせたい。なのにこのドキドキは…すごく嬉しくなる」

「…呂布」

「恋って呼んでほしい」

「……」

「さっきのはもうしない。その代わり恋と呼んでほしい」

 

呂布の胸のどきめきが俺の手に伝わってくる。

 

俺は間違ったのかもしれない。

あの虎牢関での選択、間違ってたのかもしれない。

いや、もしくは自分で選べなかったのがいけなかったのだろう。

呂布の助言を受けて、俺はやっと道を選んだ。

その出会いが今の状況を呼んだのだとしたら、

 

「…『呂布』」

「……」

「すまない、呂布」

「…駄目?」

「……」

 

俺は頭を横に振った。

 

「…なんで?」

「今お前の真名を呼ぶことは簡単かもしれない。だが、もしそうしたら、俺は一生自分のことを許さないだろう」

「……」

「俺が憎いか」

「…ううん」

「痛いか」

「…苦しい。…さっきまではドキドキしてたのに、今は……チクチク刺さる」

 

呂布が何を考えているか判らなかった。

でも、判ってしまった所で、結局俺に出来ることはなかった。

 

「…長く続くだろう。もしかしたら永遠に」

「……」

「お前の真名だ、呂布。どういう意味か知っているか」

「…恋…」

 

呂布は、届くはずもない胸の奥の痛みを耐えようと胸を握りしめた。

 

「…恋(こい)?」

「そうだ」

「…恋が、一刀を?」

「そうだ」

「…どうして?」

「お前が唯一この世界で俺のことを惨めだと思ったからだ」

 

呂布と俺は似ていた。

だけど、俺がその能力故に恐れられ、警戒され続ける間、呂布には自分の心を託せる仲間が居た。

最初に呂布が俺を見た時、俺を殺さなかったのは、興味とか、一目惚れだとか、そういうものではなく、

 

憐れみだった。

 

呂布は俺を憐れだと思った。

それだけではなく、そんな俺を助けたいと思った。

自分が家族のような人たちに出会ってその温もりを知ったように、今度は自分がその心を俺に注ごうとした。

 

だけど、俺は一度もそんな呂布の好意を受け入れたことがない。

そんな俺に対して呂布は更に親しく接することでその壁を崩そうとした。

 

だけど時間が経つと、その心はどんどんただの好意ではなくなっている。

感情とはとても酔い易い。

自分が他の意図でそう接したのだとしても、その裏の企みはいつしかなくなる、表に現していた感情が本当の自分になる。

呂布は俺を可哀想に思って俺に親しく接した。だけど、いつしかその好意は善意から来るものではなく本当に俺に対しての好意になった。

そしてその好意は新たな感情を呂布の中に芽生えさせた。

 

呂布の中にはいつの間にか自分が初めて感じるそんな感情が何なのかも知らず、ただ本能的に俺を求めた。

相手への好意という、最初は善意から現れた造られモノの感情が今は呂布の本当の感情になった。

 

「俺がお前を避けた理由はそれだった。お前は俺を『同情』した。今まで俺に興味を示す者、俺を嫌がる者も居た。でも、確かに俺を同情する奴は新しかった。でも、俺はその同情が嫌いだった。俺は一度も同情されたくて何かをしたつもりはない。だから態々お前には厳しく当たった」

「……」

「だけど、今のお前は俺を同情しているわけではない。お前が戦場で戦うことが本能的だったように、今お前が俺に抱く気持ちもただ自分が望むようにやりたいようにやってるだけのこと。誰のためでもなく、自分がそうしたいから」

「…じゃあ、恋は一刀に恋(こい)しても良い?」

「……やめろ」

 

呂布の顔が歪んだ。

人にその感情を拒まれることがどれだけの苦しみを伴うのか俺は知っている。

でも、それを知っているからこそ俺は呂布の感情に応えることが出来なかった。

 

「お前が自分のやりたいようにするのは自由だ。俺が口を挟む権利はない。だが、俺はお前のソレに応えることが出来ない」

「…一刀、恋のこと嫌い?」

「そういうわけではない」

「じゃあ…」

「頼む」

「……」

「これ以上俺にそんな感情を抱くな」

 

ここで死ぬとしても、これだけは譲れない。

俺が呂布を受け入れてしまうことは即ち俺自身が己のことを同情しているということになってしまう。

呂布にここで殺されるとしても、俺は守らなければならない意志があった。

 

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恋SIDE

 

胸が痛い。

さっきまで嬉しくどきめいていた胸が今は千本の針が刺さるように痛い。

一刀が嫌だと言ったから?それもある。

 

でも、それだけじゃない。

一刀は恋が嫌いなわけではない。

恋が嫌いではないけど、それでも恋が一刀に『恋』するのが辛いと思ってる。

 

恋には判った。

一刀がとても悲しい目で恋を見ているのが。

さっきまで紅潮していた顔にはもう恋と一緒に高ぶっていた感情は冷えて、辛い思いだけが残っていた。

恋の無理やりな思いが一刀を傷つけてしまった。

 

「……っはぁ…」

 

一刀が辛そうに息を吐きながら目を閉じた。

 

「一刀…?」

「…疲れた」

「……皆のところに戻る」

 

恋はそう言って一刀を抱き上げた。

今度は荒くしないでちゃんと両手に抱き上げる。

 

「……」

「…一刀」

「…あ?」

「…ごめん」

「やめろ」

「……」

「…やめろ」

 

同情するな、一刀はそう言った。

いくら恋でも、判ってしまった。

恋が一刀のことに恋をしてはいけない理由。

一刀が恋を拒むしかない理由。

 

 

 

恋のこんな気持ちを、一刀はとっくの昔に他の誰かに抱いていた。

 

「北郷さん!呂布さん!」

 

その時、周泰が恋たちを見つけた。

 

「こんな所で何をしてるんですか。探しましたよ」

「…今行く」

「北郷さんは…」

「疲れてる…話かけないで」

「あ」

「……」

 

一刀は何も言わなかった。

恋はそんな一刀を連れて月たちの所に歩いて行った。

 

・・・

 

・・

 

 

 

「恋、帰ってきたんか!」

「恋殿!」

 

陛下の部屋に来たら霞とねねだけが居た。

 

「…月は?」

「陛下とあの下にな…ウチらはここに居るっちゅうから残ったんやけど、なかなか上がって来なくて行ってみようと思ったところや」

「…下?」

 

一刀が反応した。

 

「お前、男のくせに恋殿にそんな風に抱っこされて恥ずかしくないのですか」

「どうでも良い。それより下って何だ」

「あれです。あの下に二人とも行きました」

 

周泰が差す場所には、前に来た時には居なかった門があった。

 

「…呂布、俺はあそこに行く」

「駄目ですぞ、陛下が誰も通さぬよう…」

「本当にあいつがそう言ったか?俺が降りてきてはいけないと?」

「ぐぬっ…」

 

一刀にそう言われてねねは口を閉じた。

 

「…ウチらに来るなって言うたのは事実やで」

「俺はその場に居なかった。呂布もな」

「…一刀、疲れてる。休んだ方が良い」

「…自分の脚で行く」

「駄目」

 

勝手に降りようとする一刀を恋は止めた。

 

「…このまま連れてく」

「何言われるか判らへんで」

「一刀を勝手に連れて行ったのは恋。一刀は自分の脚で来てない」

 

もし何か間違って叱られても、一刀は何も悪いことしていない。

 

「恋……」

「…行ってくる」

 

恋は一刀を連れたまま階段を降りた。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

暗い階段の終わりに灯りが見えた。

 

「…恋さん!」

「…月」

 

そこには月と陛下が立っていた。

 

「呂布奉先……そして北郷一刀、汝も……」

 

部屋の中には宝物が一杯あった。

こんなにたくさんあったのに、洛陽の人たちは死んでいった。

 

「……呂布、降ろせ」

 

その時、一刀が静かに言った。

 

「…大丈夫?」

「降ろせ」

 

恋が一刀を下ろすと、一刀は力が篭っていない脚でやっと立った。

 

「……はっ」

 

そして、笑った。

 

「は、ははははっ…はははは!!」

「!!」

「!」

 

笑い出した一刀を見て、陛下も月も驚いた。

 

「何だ、どうしたんだ」

「……興味、嫌…どうでも良い。そんなもの…もう『どうでも良い』」

 

興味が…どうでもいい?

 

「こんな所にあったのか…あのまま時間のどこかに消えていったと思ったのに…」

 

一刀はゆっくりと歩いた。

一歩、一歩が弱々しかったけど、まっすぐに歩いて行った。

月と陛下の間を抜けて、一刀の手が届いた先には、不思議なからくりがあった。

 

「一刀さん、それが何か知っているんですか?」

 

月が恐れながら一刀にそれを聞いた。

 

「知ってるかって?ああ、知っているさ。…俺が『造ったんだ』。ネジの一つまで、俺と…『アイツ』が造った俺たちの夢……」

 

一刀は埃が座った球体の瑠璃に手を触れた。

そして、そっと横に手を動かして、指を動かした。

 

そしたら、そこから何かが光り出した。

 

「なっ!」

「な、なんですか」

 

中からとても綺麗な光りがして、月も陛下も、私も驚いた。

でも、直ぐにその光りは消えさった。

 

「……切れたか。再充電するには時間がかかる…せめて中に入ることが出来れば……」

 

一刀はそう呟いた。

 

「北郷一刀、何だ、それは…一体何をしたのだ」

「準備だ…この戦争を終わらせる下準備だ」

 

一刀は振り向いてそう言った。

 

「最後にしよう。この戦争も、興味深かった乱世も。お前たちは俺を天の御使いと呼んだ。だから全て終わらせた後帰ってやろう

 

 

 

 

 

天に…」

 

 

 

 

 

説明
悩んだ結果こうしました。

終わりが近づいています。
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コメント
もうすぐ最後ですか……最後に一体何が待ち構えているのでしょうか……(山県阿波守景勝)
興味の赴くまま動く一刀が興味をどうでもいいと切り捨てるほどのもの・・・一体何だろうか(ミドラ)
最終段階へ移行します・・・・・・さて、どうなるやら・・・。(本郷 刃)
この一刀の思い人か、っていうかもしかしてそれは最初のアレ?(下駄を脱いだ猫)
この一刀に興味すらどうでもいいと言わせるものって何だよ・・・・・・(アルヤ)
ついにクライマックスか、この外史の一刀の未来がどうなるのか、期待して待ってます(yosi)
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