咲-Saki-《風神録》日常編・南二局二本場 |
「エヘヘ……」
「………………」
先ほどからモモは花の咲くような笑顔を浮かべていた。その手には、今しがた二人で取ったプリクラを大事そうに携えている。
最近のプリクラは以前友達と撮ったときのものよりも随分と機能が増えていて、若干操作が大変だった。今のプリクラって字とかかけるんだな。デフォルトに備わっていたハートマークやらは流石に恥ずかしくて使えなかったが、それでもモモは「初プリクラ!」などと書いて随分と楽しそうだった。
ん? 俺はどうだったかって? そりゃもちろん楽しかったさ。狭い空間でモモと二人っていうシチュエーションはかなり気恥ずかしかったが、なんかこういうのもいいなと思ってしまった。……今度はモモと恋人同士になってから堂々とプリクラを撮ろうと、誰かに知られたら羞恥死しそうなことを考えながら。
その後も、二人で某ゾンビだらけのガンシューティングをプレイしたり(意外とモモが上手くて驚いた)、クレーンゲームでモモの欲しがったプライズを五百円ほどで入手したり(ちょっと大きな猫のぬいぐるみ)、メダルコーナーでスロットを回して遊んだり(モモがメダルを入れた途端フィーバータイム)と、なかなか充実した時間を過ごすことが出来たと思う。
さてさて、そんな風に遊ぶことに夢中になっていると、案外空腹というものは忘れ去られてしまうものである。いつの間にやら正午を過ぎ、一時近くになっていたことに気が付いたのは俺の腹の虫がレスキューコールを出してからだった。一度気付いてしまうとそのまま一気に腹は減っていくもので、モモも空腹ということでとりあえず少し遅い昼食をとることとなった。
咲-Saki-《風神録》
日常編・南二局二本場 『遊びに行こう!〜邂逅編〜』
「さてと、何処で飯食うかね」
「私は何処でもいいっすよ」
まぁモモならそう言うと思っていたが。
ゲームセンターを後にし、再び駅前に戻ってきて二人並んでぶらぶらと歩いていた。ここら辺は食べ物屋が多いからこうして歩いていれば気分にあったところが見つかるだろう。
そんなときだった。
――キャプテンから離れろし!
「……ん?」
何処からかそんな声が聞こえてきて、思わずそちらに首を向けた。その声の発信源と思わしき人物はすぐに見つかった。丁度車道を挟んで反対側、真っ白な制服を着た少女二人と男二人が言い争っている様子だった。いや、言い争っているというよりは、男二人が少女二人に絡んでいて、それに少女が反発しているといったところだろう。
先ほど聞こえた声の主にして、今でも男二人に噛み付くように叫んでいる小柄な少女。体全身を使って威嚇する様はまるで猫のような印象を受けた。そんな少女の後ろに庇われるようにして立っている、キャプテンと呼ばれている金色の髪の少女。見た目の印象としては思わずその豊かな胸の膨らみに目が行きそうになるが、それと同じぐらいに常に閉じられている右目が何故か違和感のようなものを感じた。
「どうしたっすか?」
モモは急に足を止めた俺を不審に思ったのか、振り返りながらそう尋ねてくる。
「いや、何か女の子二人が絡まれてるみたいだったから」
ほらあれ、と車道の反対側を指差す。
「……女の子、っすか」
何故かモモの声の温度が三度ほど下がったような気がした。
その間にも四人のやり取りは加速していた。執拗に絡む男二人に対し、小柄な少女は徹底抗戦の構え。そんな少女の後ろでキャプテン(仮)はオロオロとしていた。何処からどう見ても「困っている人オーラ」が盛大に漂っていた。
「やっぱり、助けた方がいいよな」
完全に気まぐれだし、捉えようによっては偽善かもしれない。けれど、フェミニストとしてはやはり困っている女の子は放ってはおけない。ちなみに自分がフェミニストだってことには最近気付いた。……ただ単にモモに甘いだけという意見は却下させていただく。
「……分かったっす。御人君が差し伸べてくれた手にすくわれた身としては、反対なんてできないっす」
協力するっすよ、とモモは頷いてくれた。
ほんと、ええ子やなぁ……。
「よし! それじゃあ早速プランBだ!」
「……Aは何処に行ったっすか?」
そんなものはありません。
というわけでプランB『((知り合いのフリしてその場から脱出|フェイク・エスケープ))』、その名の通り知り合いのフリをしてさりげなく救出する作戦である。古典的な方法ではあるが、一番簡単だろう。おまけに定番の男の俺一人ではなく、モモという女の子がいるので作戦の成功率は上昇していることだろう。
というわけで、早速作戦実行だ。
「あ、キャプテン、こんにちわー!」
「こ、こんにちわっす!」
極力自然に、モモはその存在感の薄さも考慮してやや声を大きめに、少女二人に話しかける。
「は? 誰だし、お前ら」
「「「「………………」」」」
休日に偶然知り合いを見かけた風に投げかけた声は、少女の一言によってあっさりと切って捨てられてしまった。
「……タイム!」
俺たちと同じくように呆気に取られている男二人に待ったをかけ、モモを含めて四人で円陣を組む。
(何で乗らないの!? 困ってるっぽいから折角人が助けてあげようと知り合いのフリして声かけたっていうのに!)
(はぁ!? そんなこと分かるわけないだろ!)
(み、御人君落ち着くっす)
(か、華菜も落ち着いて。困ってたことは事実なんだし、ここは素直に助けてもらいましょ? ね?)
(……キャプテンがそう言うなら……)
(よし! んじゃ、話を合わせてくれ)
作戦会議終了!
「待たせたな!」
「「お、おう……」」
ノリと勢いに任せると、男二人は若干怯む。勢いってのは大事である。
「んで? お前ら何なんだよいきなり」
「この二人の知り合いかぁ?」
若干二人目の喋り方がうざいな。
「え、えっと、そう、先輩だ」
「先輩ぃ?」
「そ、そう、俺の部活の先輩なんだよ」
「何処の高校だよぉ」
何こいつしつこい! 喋り方うざい上にしつこい! イチイそれ聞いてどうするつもりだよ!
(ほ、ほら、何処の高校っすか?)
フォローをするために後ろでモモがキャプテンさん(仮)に尋ねてくれている。
は、早く早く!
(か、風越女子です)
「か、風越女子だ!」
背後からそっと耳打ちされた高校の名前をそのまま口にする。
「「……は?」」
「「「「………………」」」」
口にしてから気が付いた。風越女子。つまり、女子校である。
「……タイム!」
再び四人で円陣を組む。
(何で女子校なんすかぁぁぁ!!?)
(ご、ごめんなさい……!)
(キャプテンのせいにすんなし!)
(け、けどこれはちょっとマズイっすね……)
(クソ、こうなったら実は俺は男装女子でしたという設定で押し通すしか……!)
(流石にそれは無理がありすぎるっすよ!?)
四人額を合わせてあーだこーだと言葉を交わす。
「おい、オメーらいい加減にしろよ」
「舐めてんですかぁ? あぁん?」
くそ、流石に二回も待ってはくれなかったようだ。
こうなったら最終手段だ!
「控えおろおおおおおお!!!」
「「「「「……!?」」」」」
俺が突然大声を上げたことに全員が怯む。怯んで一歩後ずさった男たちの鼻先にポケットから取り出した「それ」を突きつけた。
「この一筒が目に入らぬかあああ!?」
「「「「「………………」」」」」
「……意味は、無いっ!!」
すぐさま振り返ると、モモとキャプテン(仮)さんの手を引っ掴んで走り出した。
「ちょ、御人君!?」
「え、ええ!?」
「キャ、キャプテン!?」
「は!?」
「ちょっ!?」
突然のことに全く動けなかった男二人をその場に残し、モモとキャプテン(仮)さんと少女を連れて急速にその場から離れるのだった。
……勢いって大事だなって改めて思った。
《流局》
説明 | ||
再編集は終了していたのにあげ忘れていた罠。 | ||
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2965 | 2863 | 2 |
コメント | ||
久しぶりに咲の単行本を見直しました。個人的な意見ですが、モモ可愛いぞー。もっと活躍させてください!…マジお願いします。(arcgun000) 今回の話には関係ないのですけど、既に臨海女子に風神って呼ばれている雀明華という子が……(妖刀終焉) 御人の勢いだけにフイタ(笑) モモが超可愛いです。頑張って下さい(mataigo01) |
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咲-Saki- 麻雀 学園 オリ主 再構成 東横桃子 加治木ゆみ | ||
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