IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜 |
「うぅ〜、やっと出れたぁ」
建物から出た鈴はブルブルと身震いした。
「どうしたんだよ? なんかあったのか?」
俺が問うと代わりに一夏が答えた。
「なんだかよく分からないけど、あの中の雰囲気が気に入らないんだってさ」
「そうか? そうは感じなかったけど」
「…でも、あの男の様子は変だった」
「ああ、確かにちょっと変だったな」
戸宮ちゃんの言葉に賛同すると携帯に着信が入った。
「電話だ。エリスさんから? もしもし?」
『き、桐野さん! 逃げてっす!!』
受話器から大音量のエリスさんの声が聞こえた。
「い、いきなり大声出さないでください! 耳がキーンって・・・」
『ご、ごめんなさいっす! わ、ちょ、先ぱ――――』
電話の向こうで何か物音がしてから、声の主は変わった。
『瑛斗、いまどこにいる?』
「エリナさん? どこって…今ちょうど戸宮ちゃんの手続きが終わって、支部の建物から出たところですけど」
『遅かった…!』
答えるとエリナさんの呻くような声が聞こえた。
「? 一体どうし―――」
「え、瑛斗…」
一夏が俺の肩を叩いた。
「あ? なんだよ、いま電話中……」
そこで目に入ったのは、黒服にサングラスで筋骨隆々な感じの男数人が車から出てきてこっちに向かってる光景だった。
「ちょっと…ヤバそうじゃない?」
鈴が顔を引きつらせる。
「 …あの人たち、銃を持ってる」
戸宮ちゃんの限りなく不吉な発言に俺たちは凍りつく。しかも男の一人がこっちを指差して何か叫んだ。
「な、なんだかよく分からねえけど、走れ!!」
俺の声を合図に全員で走り出す。すると男たちも追いかけてきた。
『瑛斗! なにがあったの!?』
「なんだかよく分からない黒服の男たちに狙われてます!」
怒鳴るように答える。
『やっぱり…! 電話を切らないでそのまま聞いて! そいつらは戸宮ちゃんを殺すつもりでいるわ!』
「嘘だろおい…!」
通りを走りながら戦慄する。
『マーシャル社の合併に反対する過激派の一人…戸宮ちゃんを学園に送った張本人が仕組んだことらしいわ! マーシャル社の取締役から聞いたから間違いない!』
マーシャルはやっぱり亡国機業と繋がっていたのか…
「それで! どうすればいいですか!?」
『とにかく空港へ向かって! オランダの警察がそこで助けてくれるわ! 私たちも空港に向かってる!』
「空港だ! みんな、空港に向かうぞ!」
全員に聞こえるように言う。
「空港って、こっちと反対の方向よ!」
「マジかよ…!」
「IS使って飛ぶか!?」
「ダメだ! こんな街中で展開したら今度は俺たちが条約に引っかかる! ISは使うな!」
「じゃあどうするんだよ!」
「…あれだ!」
俺は目に入ったバスを指差す。偶然にも空港へ向かうバスだった。
「あれに乗って空港に行くぞ!」
バスに乗った瞬間ドアが閉まった。
他の乗客たちから不思議そうな目を向けられたがこの際気にしない。
「はあ…はあ……なんとか、逃げ切ったか…!」
一夏が肩で息をしながら言う。
「ったく、なんだったのよ…あれは」
座席に座った鈴が俺を見てきた。
「どうやら戸宮ちゃんを狙った刺客らしい。戸宮ちゃんを送り込んできたヤツの仕業だってよ」
「…やっぱり」
戸宮ちゃんは俯いてしまう。
「大丈夫。このバスに乗ってれば空港に行けるから」
そう言ってから、電話がまだ通話中だったことに気づいた。聞けば受話器からはエリナさんが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「エリナさん、俺です。全員無事に空港行きのバスに乗れたんでそっちに向かいます」
『良かった! 無事だったのね! エリス! みんな大丈夫だって!』
『本当っすか! よかったっす〜!』
電話の向こうで喜んでいる二人の声が聞こえた。
「そ、それじゃあそろそろ電話切りますね」
『わかったわ。待ってるからね』
俺は電話を切って席に座った。
「ふぅ、危なかった…」
「まったく、ロクな目に遭わないわ」
鈴が腕を組んでため息をつく。
「ああ。そうだな」
するとバスが停止した。停留所の止まったようだ。乗客が乗り降りしていく。
(……ん?)
俺は新しく乗ってきた乗客の一人に目がいった。
(何であんな厚着してるんだ? 身体も不自然に太ってる…)
三十歳くらいの男がチラ、とこっちを見てくる。目があったから俺は目を逸らした。
バスが発車する。
「…あ……」
戸宮ちゃんが鈴の制服の袖を掴んだ。
「? 何よ」
「…アイツ……」
「え?」
「なに?」
「…アイツが、私に命令した…」
戸宮ちゃんが指差したのは、俺と目があったあの男。
俺はそこで合点が行った。
「じゃあ、あの男が―――――」
「全員動くなぁっ!!」
「「「「!?」」」」
男が突然大声を上げた。そして着ていたコートの前を開ける。
「動くなよ…! 一人でも動いたら全員あの世行きだ!」
男の体には、大量の爆弾が巻きつけられていた!
「ひいいっ!?」
驚いた運転手がハンドル操作を誤って、車体が揺れる。
一瞬で車内がパニックになった。
「運転手! ちゃんと運転しろ! ただし空港には行くな! このままこのあたりを走れ!」
男が運転手に怒鳴り、血走った眼で俺たちを、いや、戸宮ちゃんを見てきた。
「梢、こっちに来い!」
「…え」
俺たちは戸宮ちゃんを守るように構える。
「……………」
戸宮ちゃんは躊躇う。
(しまった…フォルヴァニスはフォルニアスと一緒にIS学園に…!)
先生たちに押収されたのを思い出して俺は舌打ちする。
「どうした! 私の命令が聞こえないのかっ! それとも、ここにいる全員を巻き添えにして死にたいのか?」
「…っ」
戸宮ちゃんは立ち上がった
「ちょっと、アンタ本気なの?」
「…大丈夫……だと思う」
戸宮ちゃんは鈴の問いに頷いた。
近づいてきた戸宮ちゃんの肩を強引に引っ張って自分のそばに寄せると、男は持っていた手錠で自分の左手首と戸宮ちゃんの右手首を繋いだ。そして今度は俺たちに怒鳴ってきた。
「そこの専用機持ちども、お前たちもISを展開するな。他の乗客が死ぬぞ!」
「くそ…」
「外道が…!」
「こんな奴、すぐに倒せるのに…!」
『専用機持ち?』
『ISを持ってるのか?』
静かになっていた周囲がまたザワザワとざわめき始める。それを男が一喝して黙らせた。
「よし…運転手! 俺が指定する場所にいけ!」
男は戸宮ちゃんを連れて運転手のところに行くと地図らしきものが描かれている紙を見せた。
「…どうする? かなりマズい状況だぞ」
俺たちは小声で話し始める。
「…いつかセシリアとバスジャックを止めたことはあるけど、被害者になるのは初めてだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。なんとかしなきゃ」
「なんとかっつっても、相手は体中に爆弾抱えてんだぞ。怪しい動きを見せたら即ドカンもありえる・・・」
すると男がこっちを向いて吠えた。
「お前ら! 何を話している!」
「別に何の話ってわけじゃねえよ」
俺は男の目を見て答えた。
「いいか、変な動きをしたらすぐにここにいる全員は木端微塵だぞ!」
男が袖から出ている紐を見せてきた。
「この紐を引けば爆弾は爆発する。絶対に動くなよ!」
「うえぇぇぇ…うえぇぇぇ…!」
小さな男の子が泣き始めた。
「黙れ! 黙らないと爆弾を爆発させるぞ!」
しかし男の子は泣きやみそうにない。
「黙れって言ってるだろ!」
男が男の子に向かって歩き出した。
「いいじゃねぇか。子供が泣いてるだけだろ」
一夏が男に止めた。
「何ぃ?」
「体中に爆弾巻いてるヤツが怒鳴ってるんだ。怯えるのは仕方ないだろ」
「ガキが…!」
ゴッ!
「ぐっ!」
一夏が男に殴られた。
「一夏! ちょっとアンタ!」
鈴が男に怒鳴るが、男は紐を見せて鈴を黙らせた。
「大丈夫。これくらいなんともない」
一夏はそう言うが、頬は赤くなっている。
「…どうして、こんなことをする」
戸宮ちゃんが男に言った。
「どうして、だと…!? お前が任務を全うしていればこんなことはせずに済んだんだ! 全てお前のせいだ!」
「…なら、私だけを狙えばいい。この人たちは関係ない…!」
「黙れ! 人形の分際で――――」
「私は人形じゃないっ!!」
「………」
戸宮ちゃんの言葉に、男は一瞬たじろいだ。
「…そうか。お前まで私を…! 梢!!」
男が紐に手をかける。
空気が凍りついた。
しかしそこでバスが止まった。
「…着いたぞ」
運転手がこっちを向いて男に告げた。どうやら目的地に着いたらしい。
「なんだ…? 倉庫か?」
窓から見えたのは、たくさんの倉庫が立ち並ぶ光景だった。
「チッ…まあいい。来い」
男は踵を返して戸宮ちゃんとバスを降りた。
「バスはここに止めておけ! 誰も降りてくるなよ! この爆弾は強力だからな!」
どうすることもできず、俺たちは戸宮ちゃんを見送るしかなかった。男がいなくなり、車内には静かな話声が聞こえ始める。
「な、なあ、君たち…」
スーツ姿の男が俺たちに話しかけてきた。
「ISを持ってるんだろう? アイツをどうにかできないのかい?」
「出来たらとっくにやってるわよ!」
鈴が怒鳴るように言った。
「よせ鈴。すみませんけど、今はどうすることもできません。あの爆弾がここら一帯を吹き飛ばすような代物だったら、俺たちはともかく、あなた達が無事じゃすまない。
「そうか…」
「ぐすっ…お兄ちゃん、ごめんなさい」
さっきの男の子が一夏の前に立って言う。
「ごめんなさい。僕のせいで…」
「平気だよ。兄ちゃんはこれくらいじゃなんともないから」
一夏は男の子の頭を撫でて笑う。
「さて…どうするか」
俺は窓から男と戸宮ちゃんの様子を伺う。なにやら話しているようだった。
「昨日はよくも命令に背いてくれたな。ギリギリまで待ってやったのに来なかったじゃないか」
バスから出て数歩歩いてから、男は梢の顔を見ながら言った。
「…こんなことはもうやめて」
「お前が命令するのか? 少し見ない間に生意気になったものだ」
「…マーシャルは、もうお終り。計画が失敗した時点で―――――」
「黙れ! フォルヴァ・フォルニアスは完璧な機体だった! 私の力を思い知らさせ、マーシャルを今一度立て直すためのな!」
「…そんな勝手な理由……あの組織が黙ってるわけがない…」
「…」
梢の言葉を聞いて、男は一度息を吐いてから手錠を外した。
「分かっている。だから梢、一緒に来い」
「え…」
「もう亡国機業に戻らず、別の組織へ鞍替えする」
そう言って男は袖から垂れる紐を揺らした。
「…全部、私を捕まえるために?」
「狂気じみてるというか? だがな、ここまで来てしまったのだ。後戻りはできない」
「……………」
「お前が頷けばこのままここを去る。決めろ」
梢は悩んだ。ここで頷けば瑛斗たちを含めたバスの乗客は助かる。しかし拒否すれば・・・・・
梢は一歩下がった。
「逃げようと考えても無駄だ。言っただろう? 爆弾は強力だとな」
「……………」
後ろのバスを見る。窓の内側から瑛斗たちが見ていた。
(…私を自由の身にするために、手助けをしてくれたあの人たちが助かるのなら…)
「…わかった」
梢は小さく頷いた。
「ハハハ! そうだ。お前は口でいくら言っても私の操り人形であることは変わりない! ハハハハハ!」
男の哄笑が響く。
(…やっぱり、上手くいくわけなかったんだ……)
自由なんて、ありえない。自由なんて、あるはずがない。今までも、これからも、ずっと・・・。
そんな思いが頭をよぎり、目から一筋の涙が零れた。
「ひどいことをするわね」
ふと、声が聞こえた。女の声だ。
「誰だっ!」
男が叫ぶと、また声がした。
「自由になりたいと願う女の子を泣かせるなんて、男の風上にもおけないわ」
現れたのは、警官姿で帽子を深く被って顔を隠した長身の女だった。
髪は、息を呑むような、美しい金髪。
「…誰、なの?」
梢の問いには答えず、女はこちらに近づいてくる。
「く、来るな! 私は爆弾を――――――!」
パッ!
短く乾いた音が響く。
それから数秒経ってから、梢は女の手にサイレンサー付きの拳銃が握られているのに気付いた。
「う」
男がガクリと両膝を折った。
「あ………」
胸のあたりから赤い液体が噴出し、そして、男は地面に倒れ伏す。
「先に危険物(爆弾)を晒してきたのはそっちよ。今のは正当防衛ね」
倒れたまま動かない男の周囲が赤く汚れていく。
「あ…ああ……」
震える梢の肩に女の手が乗った。
「もう大丈夫よ。悪いやつは死んだわ」
笑いかけてくる女の目は、絶対零度の冷たさを秘めていた。
「それじゃあ、あとはよろしくね」
新たにやって来た警官風の女が動かない男を担ぎ上げて、脚に装甲を展開した。
「…IS……?」
ISらしきものを展開したもう一人の女はそのまま路地の方へ消えて行った。残った金髪の女も梢に敬礼をしてからバスへ向かって行く。
梢の目の前には、赤黒くなった血が溜まっていた。
「い、いま…撃った?」
鈴がうわごとのようにつぶやく。
「それより、あの女の人って…」
一夏がこっちに話しかけているようだが、俺はそんなことを気にしている余裕がなかった。
(どういうことだよ、今のは!)
窓のせいで狭い範囲しか見れなかったけど、男が撃たれたのが見えた。
しかも女二人が来て、一人がISみたいなのを使って倒れた男を連れて行きやがった。 それよりも、俺が気になったのは女の金色の髪だった。
(見間違えるはずがねぇ…!)
「あ、瑛斗!」
俺は席を立って乗り降り口へと駆けた。
「お下がりください」
「!」
降りようとした時にその金髪の女と鉢合わせした。
「お前は…!」
「お下がりください」
「…くっ」
女の冷たい声に威圧されて、思わず俺は一歩下がった。
「乗客の皆様! バスジャック犯は我々が捕縛しました! もう大丈夫です!」
そう宣言すると、乗客たちから安堵の声があがった。
(…クソ……!)
こうなってくると、もう女の正体を晒すことができない。そっちの方が危険なことは百も承知だ。
「待てよ鈴!」
すると鈴が立ち上がって喜び合う人達の間を潜って戸宮ちゃんのところへ行った。俺は一度女の方を見たが、特に反応はなかったので俺と一夏もバスの外へ降りた。
「戸宮! 大丈夫!?」
鈴は戸宮ちゃんのところへ駆けつけた。
「怪我はしてないわね!?」
戸宮ちゃんは鈴の問いになんとか頷く。
「…でも、あの男が……」
戸宮ちゃんの足元には、血溜まりができていた。
「…うちの組織の人間が迷惑をかけてごめんなさいね」
「「「!」」」
振り返ると、警官姿の女が立っていた。
「わざわざ警察の恰好で来るなんて、どういうつもりなんだ。・・・スコール」
俺が名前を呼ぶと、スコールは帽子をとって長い金髪を下ろした。
「あら? 助けてあげたのに随分な言い草ね」
「まさか、次はあなた達がバスを乗っ取るつもりか?」
一夏に顔を向けたスコールは薄く笑いを浮かべた。
「それも、いいわねぇ」
「お前は…!」
俺はビームガンを呼び出して銃口を向ける。
「と、思ったけどやめたわ。今日は組織の膿を排除しに来ただけだから」
スコールは戸宮ちゃんに目を向けた。
「……………」
「かわいそうな子…あんな男の下で……さぞ辛かったでしょうね」
「戸宮まで殺すつもり!?」
鈴は戸宮ちゃんの前に立って吠えた。
「安心して。女の子を殺すなんて私の美学に反するから」
「所長たちを殺しておいて、よくもそんな・・・!」
俺に肩を竦めてみせてから、スコールは腕時計に目を落とした。
「さて、そろそろ本物の警察が来る頃ね。オータム」
スコールが呼ぶと、見たことのないISを展開したオータムが現れた。
「爆弾の無力化も済んだぞ。アイツはチリも残さず消してやったよ」
「そう、勝手をする人間にはふさわしい最期ね。ご苦労様。帰りましょうか」
「待て! 逃がすと思うのか!?」
俺はG-soulを全身展開に切り替えてビームソードを抜いた。
「オータム」
「分かってるよ。はぁっ!」
オータムの展開するISの背中の装甲から、六本のアームが出てきた。
「《アラクネ》改め《アルバ・アラクネ》。いい出来でしょ? ジェシーがアラクネを改修したのよ」
「そういうわけだ。あばよ!」
アームの先端部分の銃口から地面に向けてエネルギー弾が連続射出されて土煙が立った。
「逃がすかっ!」
煙の中に飛び込んで、ビームソードを振る。だが手ごたえはなかった。煙が晴れたときには、すでに二人の姿は消えていたのだった。
「クソ…」
展開を解除して地面を蹴る。
「……………」
戸宮ちゃんは小刻みに震えていた。
「大丈夫か? 怪我とかしてないな?」
「………」
戸宮ちゃんはコクリと頷くだけで、何かを言うわけではない。パトカーのサイレンが聞こえてきたのは、その直後だった。
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それは、限りなくめまぐるしくて | ||
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コメント | ||
鈴と箒に質問です。 お姉様って、呼ばれたい?(後輩の女子から)(グラムサイト2) 取りあえず、梢ちゃんが無罪放免で良かった。 梢に質問です。 恋人にするなら、一夏と瑛斗どっちにする?(グラムサイト2) |
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