IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「もうすぐIS学園ね。エリス、着陸態勢を」

 

「了解っす」

 

ロウディの操縦席。エリナさんがエリスさんに指示を出す。

 

「やっと帰ってきたのねぇー…」

 

鈴ははぁっと息を吐いて窓の外を見た。

 

時間は日が沈みかけている夕方。

 

「嵐のような二日間だったなー…」

 

一夏もそうつぶやいて伸びをする。

 

結局スコールが消えた後、俺たちは取り調べらしい取り調べも受けずにすんなりとオランダを出ることになった。エリナさん曰く『政治的なことも関与しているのよ』とのこと。

 

まあ、そこらへんのことはよく分からないから早く終わってよかったということにしよう。

 

(…それよか……)

 

俺が気になったのは、端の椅子に座っている戸宮ちゃんである。

 

「……………」

 

ずっと上の空で、窓の向こうを見ている。

 

(そりゃ、人が目の前で撃たれたらショックだよな………)

 

男を撃ったスコールとは戸宮ちゃんは面識はなかったらしい。そう考えると余計に心配だ。

 

声をかけるべきかどうか悩み、鈴と一夏に話しかける。

 

「なあ、声かけた方がいいかな? ロウディに乗ってからずっとあの感じだし…」

 

「…そうしたいけど、なんていうか」

 

「晴れて無罪の身なのに落ち込んでるわよね…」

 

心ここに有らずな様子で流れていく景色を見ている戸宮ちゃんの姿が、なんだか寂しそうに見えた。

 

「…よし」

 

俺は小さく気合いを入れて、戸宮ちゃんに話しかけた。

 

「戸宮ちゃん、辛いことがたくさんあって大変だったかもしんねーけどよ、もうお前は自由の身だよ。身柄の安全もちゃんと保障されてる。だから………」

 

「……………」

 

無反応な戸宮ちゃんを見て、俺は言葉を詰まらせる。

 

「なにやってんのよ、もう少しなんか明るい話題はないの?」

 

鈴が肘で小突いてきやがる。

 

「明るい話題っつったって、そんな…」

 

「…わからない」

 

「そうそう、わからない…って、ん?」

 

唐突に戸宮ちゃんが口を開いた。顔は窓の向こうを見たまま動いてないけど。

 

「…スワンさんの話で、マーシャルの人達の大部分は買収を受け入れてたのは分かった。でも、あの男がどうしてあそこまでして認めたくなかったのか、わからない」

 

「それは…」

 

エリナさん達がエレクリットとの話し合いを無事に終えたと聞いたときにその話も聞いたけど、男が撃たれて すぐだったので触れないでいた。でも気にならないと言えば嘘になる。

 

俺はエリナさんの方に顔を向けた。

 

「…あの男、マーシャルの先代の社長の息子だったそうよ」

 

エリナさんは遠い目をしながら話し始めた。

 

「本当なら自分が社長になるはずだった…けど、先代の社長がまったく違う人間を次の社長に選んだの。それ以来、あの男は一技術者として働いていたらしいんだけど、数か月前に失踪 。あとは瑛斗たちが知ってることと繋ぎ合わせれば、それが全てよ」

 

「何よそれ、ただの逆恨みじゃない」

 

鈴は顔をしかめて言う。

 

「確かに逆恨みって捉え方もあるわ。でも、ほかの会社に自分の父親の会社を取られたくないっていうのもあったかもしれないわね」

 

「それで爆弾を体に巻いてバスジャックか。ぶっとんだ親孝行もあったもんだ」

 

俺は頭の後ろで手を組んで背もたれによりかかった。

 

「真相は闇の中…ってやつっすね」

 

ポツリとエリスさん言うと、エリナさんは俺に耳打ちしてきた。

 

「あんなこと言ってるけど、警察の人達から瑛斗たちの状況を聞いたとき、エリス半泣きだったのよ」

 

「へ?」

 

「せっ、先輩! 何を言うっすか! 何を!」

 

危ない、エリスさん前見て操縦しないと危ないよ。

 

「ほらほらエリス前見て操縦して。IS学園に落ちたら大変よ」

 

「ぬぬぬ…! で、でも、心配したっすよ。だから桐野さんが無事で本当によかったっす」

 

エリスさん、心配してくれてたんだな。ありがたい。

 

「エリスさん」

 

「は、はいっす!」

 

「ありがとうございました。心配してくれて」

 

「いいいいいえ! とととんでもないっす!」

 

なぜか顔を紅くして噛みまくりで答えるエリスさん。俺の隣でエリナさんが笑いを噛み殺してたけど、なにがそんなに面白いんだろう?

 

「はっはーん、そういうことね…」

 

おまけに鈴はしたり顔で笑うし、それにエリナさんはウインクするだけだし、何が何やら。

 

「「?」」

 

一夏と一緒に首を捻る。

 

「………」

 

おっといかん。戸宮ちゃんが置いてけぼりを食らってるよ。

 

「ま、まあ何はともあれ、戸宮ちゃん、もう大丈夫だ。今朝言ってた通り、蘭の前に堂々と立てるぜ」

 

「………」

 

戸宮ちゃんは頷いただけだけど、心なしかちょっと嬉しそうに見えた。

 

 

 

 

 

「お世話んなりましたー!」

 

遠くの空へ飛んでいくロウディを見送って、俺はほっと息を吐いた。

 

「あー、やっぱ地面に足がついてるっていいな」

 

一夏もそう言って首を鳴らす。

 

「宇宙育ちの俺の前で言うか?」

 

そりゃ失敬、と一夏は笑う。

 

「誰か来るわよ」

 

すると鈴が何かに気づいて向こうの方を指差した。

 

「おにーちゃーん!」

 

「おー、マドカか!」

 

手を振りながらかけてくるのはマドカだった。

 

「おかえりなさい! どうだった?」

 

「おう。バッチリ上手くいったぞ!」

 

一夏が親指を上にあげて笑って見せた。

 

「おいおい、今日の作戦は俺が立案者だぜ? なんでお前が威張るんだよ」

 

「まあ、そういう言い方もできるな」

 

「お前なぁ…」

 

マドカはふふっ、と笑って見せてまた元来た方へ歩き始めた。

 

「じゃあ行こう! みんな待ってるよ!」

 

「何かあるのか?」

 

「楯無さんがね、お兄ちゃんたちが帰ってきた時のためにいいことを企画してたの」

 

「楯無さんが…?」

 

俺と一夏はその言葉に警戒する。

 

「楯無さんの企画って…なぁ」

 

「ああ…」

 

「大丈夫! 別に危ないことじゃないから! 早く早く!」

 

俺たちは恐る恐る付いて行くことにした。

 

・・・

 

・・・・・

 

・・・・・・・

 

マドカが連れてきたのは桜が綺麗に咲いている俺のお気に入りのスポットの一つだった。

 

それよりも目を引いたのはそこでブルーシートを敷いて談笑している生徒のみんなだった。

 

「なにこのお花見会場…」

 

「食べ物まであるぜ……」

 

鈴と一夏がきょろきょろと周囲を見る。

 

「飛行機が飛んで来たのが見えたから、私が迎えに来たんだ」

 

マドカが説明するのと、シャルがこっちに気づいて手を振るのは同時だった。

 

「あ、瑛斗帰ってきた! おーい」

 

とりあえずシャルのところへ行くと、箒やラウラといったいつものメンツが揃っていた。

 

「どうやら、うまくいったようだな」

 

「ああ。道中色々あったがなんとかなった」

 

ラウラの言葉に答えると、後ろから楯無さんが飛びついてきた。

 

「二人ともお疲れさま! おねーさんがご褒美あげちゃうぞ☆」

 

一夏ごと飛びつかれたのでバランスを崩しそうになってよろける。

 

「た、楯無さん、危ないから離れてください」

 

「もう、つれないわねぇ。いいじゃないの、ちょっとくらい!」

 

「お姉ちゃん…二人とも、疲れてるから……ね?」

 

「むー、簪ちゃんに言われちゃしょうがないか」

 

簪の一言で楯無さんは離れてくれる。

 

「ちょっとアンタたち、私の心配はしないわけ?」

 

鈴がむすっとした表情をする。

 

「お前は別にいいだろう」

 

「そうですわ。大方何もしてませんでしょうし」

 

しかし箒とセシリアに軽くあしらわれた。

 

「むきー! アンタ達ってやつらは!」

 

「……………」

 

ふと戸宮ちゃんの方を見たとき、戸宮ちゃんの動きは止まっていた。

 

いや、正確には……

 

「梢ちゃん…」

 

目の前に現れた蘭を見ていた。

 

「………」

 

戸宮ちゃんは一歩踏み出そうとするが躊躇ってしまう。

 

「…ほらもう、さっさと行ってやりなさい。蘭が待ってるわよ」

 

「あ…」

 

鈴に背中を押されて、ぎこちなく前に進む。だけどそれはすぐに確かな一歩になって、蘭に近づいて行った。

 

「………………」

 

しかしそれからの言葉が出ない。

 

「…あ、の……」

 

それでも絞り出すように言葉を紡いでいく。

 

「…迷惑をかけて、ごめんなさい」

 

「ううん。そんなの良いよ…」

 

蘭は首を横に振った。

 

「良かった…! もしかしたらもう会えないかもって……!」

 

蘭はそのまま戸宮ちゃんを抱きしめた。

 

「良かった…良かったよぉ……!」

 

そしてワンワンと泣き始めた。

 

「…うん……!」

 

そして戸宮ちゃんもそれに応えるように蘭の背に手をまわして、一緒になって泣き始めた。

 

「やれやれ。やっと一段落着いたな」

 

俺はそれを見届けてからブルーシートに腰を下ろした。

 

「お疲れ様。はい、飲み物」

 

「おう。サンキュ」

 

シャルから貰った飲み物に口を着ける。

 

「今日は、いったいどういうイベントだ?」

 

「楯無さんが言うにはね、新入生と―――――」

 

「『お花見で新入生と親睦を深めよう!』っていうイベントよ!」

 

待ってましたと言わんばかりに楯無さんが割り込んできた。

 

「梢ちゃんの件もあったし、少し学園の雰囲気がアレな感じだったから、それを払しょくするために生徒会長権限をフルで使っちゃったわ! 先生たちも向こうの方で飲んでるわよ」

 

「けほけほっ。もう、僕が瑛斗と話してたのに…」

 

「まあまあ、すぐに終わるから。そっちも大変だったみたいだけど、こっちも大変だったのよ」

 

「何がです?」

 

「委員会の連中が来て、梢ちゃんを引き渡せってね。でも、あの向こうの一年生ちゃんたちがもの凄い気迫で追い返したの」

 

楯無さんが示す方を見ると、土曜日に会ったヒューリーちゃんと土屋ちゃんとシエルちゃんがいた。三人とも蘭や戸宮ちゃんのところへ行っている。

 

「友達思いのいい子たちね。絶対に梢ちゃんは渡さないって、もう鬼気迫るって感じよ」

 

「へぇ、そりゃすごいな。ところで楯無さん」

 

「なぁに?」

 

「オランダの委員会支部がえらくビビり倒してたんですけど、どんな細工をしたんです?」

 

「それはね…」

 

「それは?」

 

「人には言えないような、とっても恐ろしいことだったりして〜……ふふふ」

 

「そ、そうですか…」

 

楯無さんの微笑みに、ものすごい何かが滲んで見えた。

 

「それでも、そっちの方の大変さには負けるかな」

 

「知ってたんですか!?」

 

「もちろんよ。私だもの」

 

「それもそうですね。…まあ、あの笑顔が見れれば、頑張った甲斐があったかもな」

 

俺はもう一度戸宮ちゃんの方を見る。

 

そこには、他の一年生の女子に囲まれて目元に涙を浮かべながら笑う、自由になった少女がいたのだった。

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夜桜と、笑顔と
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コメント
スコール・ミューゼル様に質問です。 オータム姉さんとはどういうキッカケで出会ったのですか?(カイザム)
蘭に質問です。 梢が妹にしてって、言って来たら、どうしますか?(グラムサイト2)
瑛斗に質問です。 あなたは恋人にするなら、年下、同い年、年上のどれが良いですか?(グラムサイト2)
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