大徳が舞う
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大徳が舞う

 

 

 

夕暮れ

 

大きな館に一人の男が眠っている。

 

男の姓は劉、名は備、字は玄徳。

 

大徳の王と言われ、多くの民に慕われていた男。そんな男が、寝床にたった一人で横たわっている。

 

眠りながら、王は思い出していた。これまでの人生を。

 

義兄弟と出会い

 

弓腰姫と結婚し

 

多くの人々と仲間になり、支えられて今まで生きてきた。

 

だがしかし、気づいた時にはすでにそのほとんどは自分の前からいなくなっていた。

 

キィ・・・

 

孔明「王よ・・・」

 

夕日に照らされ、王が最も信頼した男、諸葛亮孔明が入ってきた。

 

孔明「王よ、何をお考えですか?」

 

玄徳「・・・、今までの全てだ」

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玄徳は言う。生涯の淵、王ではなく、一人の人間として。

 

玄徳「私は、今まで苦しむ者のため、命をかけて戦ってきた...民の笑顔を守るため...大徳の象徴として...」

 

孔明「ええ...」

 

眉間にしわを寄せ、元徳は言う。

 

元徳「もちろん...それは強制されてではない...王としての重圧は...半端なものではなかった...だがそれは...自ら望んで挑んだもの...太平のためならと...」

 

孔明「ええ...」

 

元徳「だが...」

 

拳を握りしめ、元徳は言う。

 

玄徳「今の私には・・・何が残ったのか・・・」

 

孔明「・・・」

 

涙を浮かべ、元徳は言う。

 

玄徳「確かに頑張ってきた。全てを失う覚悟で。だが、最後には大切なものを失った...雲長...翼徳...愛すべき義兄弟を無くし...私怨にかられ...愛しき妻の祖国を攻め...多くの兵を失い...」

 

孔明「王よ、それ以上は...」

 

玄徳「孔明、私の最後は悔恨と憎悪しか残らなかった・・・」

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孔明「王よ...まだ終わりではありません。まだまだ、これからやる事がたくさんあるのですよ?そのためにも今は体をお休めにならないと...」

 

王の弱気を払うために、孔明は優しく叱咤する。

 

玄徳「今も憎い...孫呉が...孫権殿が...ならぬと分かっていても...彼の首を切り裂いてしまいたいと...今も思っているのだ...」

 

孔明「王!」

 

それでも続く王の懺悔を聞いて、孔明は思わず怒鳴ってしまった。見ていられなかった。自分の信じた男が、こんなにも弱り切った姿を。

 

玄徳「孔明...君になら...全てを任せられる」

 

孔明「お止めください!王!」

 

王の手を取り懇願しても、王は止まらない。

 

玄徳「私の夢を...王ではなく...友として君に捧げよう...どうか...私の様な人間を...二度と...つくらないでくれ...」

 

孔明「劉備...殿...」

 

涙を流す友を横に、男は全てを言い終えて静かに目を閉じる。

 

玄徳「おお...雲長...翼徳...待っていてくれたのか...ハハッ、分かった分かった...三人で今から...あの桃園に酒でも飲みに行こう...我らは永遠に一緒...義兄弟なのだからな...」

 

全てが紅き夕暮れ時、大徳の王は天へと昇った。泣き崩れる軍師を現世に残して。

 

享年63

 

劉備玄徳、亡

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??「...」

 

場所は変わり、ここは外史の管理局。

 

??「...マズい、どうしたものか...」

 

??「ん?どうしたのだ、女禍」

 

書類を見ながら頭を抱える同僚に、漢女卑弥呼が聞いた。

 

女禍「ああ、卑弥呼...今度始まる外史なのだが...一人分空が生じてな」

 

卑弥呼「空?それはまた面倒な事が起きたものじゃの」

 

 

物語を進めるために必要不可欠な存在、それは主人公や共に戦う戦士、敵となる悪役等の物語の主幹となる存在だけではない。

 

訪れる村の住人、出会ってすぐに倒される雑魚敵、合う事すら無い人々ですらも、一つの物語を進めるために重要な要素となってくる。

 

もし、その中で一つでも空きが生じてしまった場合、たとえ居なくても変わらない様な人物だとしても、言わばそれは精密な時計の部品の一つ。部品を無くした物語は崩壊し、結末を迎える事ができなくなってしまう。

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女禍「見た所本当にどうでも良いポジションなんだけど...無くすわけにもいかないし...参ったわね...」

 

卑弥呼「参ったも何もあるまい。調整ミスをしたのはおぬしなのだから、さっさと神龍様に謝って訂正させて貰え」

 

卑弥呼がそういうと、女禍は目を細め

 

女禍「そんな事できるわけないじゃない、それこそ皆に笑われてしまうわ。なんとしてもここで解決しないと...」

 

卑弥呼「ハァー...、まったくこの娘は...」

 

卑弥呼はこの女禍という女性の性格を思い出しため息をついた。女禍は昔からプライドの高い女性であった。そのために自分が何かミスをしてしまったとしてもすぐには相談せず、ギリギリになるまで自分で何とかしようとするのである。腹の底を話せる者も少なく、卑弥呼は本音を話せる数少ない友人の一人であった。

 

女禍「何か良い考えは...ん?あれは...」

 

女禍は悩んでいると、ふとある部屋が目に映った。その部屋は正史魂保管室。

 

その名の通り、正史にて散った者たちの魂を保管する部屋であり、外史を創る際にはこの部屋から魂を選び、転生という形で外史に送る事となっている。

さらに、どの役職にどのような人物が適しているかが決まっているために、保管されている魂は種類別に保管されている。

 

女禍「そうだ!あそこから一つ魂を頂戴してしまえばそれで済む!」

 

卑弥呼「な!?馬鹿を言え女禍!勝手に正史の魂を持ち出すなど、始末書では済まされんぞ!」

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女禍「いいじゃない、どうせ腐る程あるのだから。ね?お願いだから誰にも言わないでよ?」

 

実際、女禍の言う事は間違ってはいない。名の知れた人物ならともかく、ただの平民程度なら山のように保管されているために、その正確な数までは記録する事は不可能なのである。

 

卑弥呼「まったくこの娘は...バレても知らぬからな!」

 

そう言うと卑弥呼は踵を返し自分の部屋へと戻って行った。

 

女禍「誰がバレるものですか、隠蔽工作とか大得意なんだから...さて、どの魂にしようかしら」

 

女禍はそうつぶやくと部屋に入り、外史に組み込む魂を選別していった。

 

女禍「できれば何でもないサラリーマンとかが良いのよねー。有名人とか選んだらすぐにバレちゃうし...っとこれでいいかしら」

 

女禍は目当ての魂を選び終えると、すぐさま外史の欠如していた部分に組み込み、報告書に「問題なし」と記した。

 

女禍「ま、普通の農民だったしバレる事はまず無いでしょう。農民なんてこの世にゴマンといるんだし」

 

そう言うと女禍は鼻歌を唄いながら自室に戻って行った。

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しかし、報告書の提出後、女禍は月例会議にて神龍に厳しいお仕置きを受ける事になる。その理由は魂の無断引用。

 

なぜバレたのか、原因は二つある。一つ目は、女禍は外史に魂を組み込む際に、ある過程をすっぽかしてしまっていた事。それは魂に残っている記憶を抜き取る作業である。他の管理者が記憶がある魂のある外史を発見し、妙だと思い調査した事が始まりとなった。

 

しかし、別にそれくらいではバレる事は、「本来は」無い。調整ミスで記憶が残っている事などよくあったからである。問題なのは送られた魂にあった。

 

送り出してしまった魂、それは初めこそ農民であったが、後に世に名を轟かせ、群雄割拠に身を乗り出す唯一無二の英雄だったのだ。

 

その英雄の名は劉備玄徳、民に最も慕われた大徳の王である。

 

説明
史実の劉備玄徳が恋姫の世界に行った場合のお話です。
あと、一刀君は魏ルートです。
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コメント
お願い、面白そうだし、文章力にも概ね難はないのに台本形式だけがすさまじいまでの悪い意味での異彩を放っている・・・どうか台本形式の修正を(PON)
一刀くんもこの外史の一員なんでしょうか?(きたさん)
劉備の字は「玄」妙なる「徳」を「備」えるという、自身の名に因んだものだと言われています。そういう方は孫兄弟を含めて結構多いですので、字の間違いにはご注意を(孫策は伯「符」、孫権は仲「謀」が当てはまります)。(h995)
劉備くん 「私の字が玄徳ではなく元徳なのは何かの伏線なのだろうか・・・?(震え声)」(グリセルブランド)
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恋姫 劉備玄徳 恋姫†無双 

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