大徳が舞う2 |
大徳が舞う2
?転生先?
※ 第一話にて元徳君は玄徳君である事を教えていただき、直させていただきました。
ご注意下さった方、ご指摘ありがとうございました。
また、玄徳君は所謂チートであり、そういった事が嫌いな方は左上にある左矢印のボタンを押してください。
??「...」
宵闇の中、一人の男が館の廊下を歩く。
歳は15、好奇心旺盛なお年頃である。
されど子どもは子どもにあらず、この歳ですでに「男」と呼ぶにふさわしい風格を携えている。
優しき瞳、細身の体、そして美しい桃色の髪を持つ男。
男は、生まれた時から全てに恵まれていた。
優しい親、美しい姉、かわいい妹達、頼れる友人、それら全てが存在し、何不自由無く生きてきた。
しかもこの男、恵まれたのは環境だけでない。彼自身もまた、途方も無く神に愛された存在であった。
曰く、彼様は天下無双の武を持つ方である。
曰く、彼様は唯一無二の智を持つ方である。
民は、生まれながらにありとあらゆる才を持つこの男を神童と呼び、尊敬と畏怖のまなざしを向けた。
当然家族も彼を自慢とし、将来必ず大業を為す男だと信じてやまなかった。
そんな男が、今、深夜に館を歩いている。なぜか?
理由は単純、脱走である。
では、それはなぜか?
不自由ない生活がつまらなかったから?
否
周りからの期待に耐えきれなかったから?
否
ならばなぜ、脱走を企てたのか、それは思い出したからである。
五年前...
男が10になる時、突然頭の中に経験したはずの無い記憶が巡った。
そして男は思い出した。
自分がどんな存在なのかを、そして何をすべきなのかを。
それから男の世界は急変した。
町に出る機会と他人との会話の回数を極端に減らし、全てを鍛錬と勉学につぎ込んだ。
人々は驚いたが、その行いが悪い訳でもなく、逆に男の変化に感心し、ますます尊敬した。
しかし、それは彼の外見のみを見た場合の印象であり、見るべきなのは、内面であった。
記憶を取り戻した途端、男は周りの人間全てが憎くなっていた。
あれだけ尊敬していた母や姉も、兄妹として愛していた妹達も、大切にしていた民達も、全てが憎悪の対象になってしまっていた。
そしてその変化に気付いていたのは男の家族のみであった。
家族は皆、男の内面の変化に驚き、総出で心配し続けた。
その中でも、男を一番心配したのは真ん中の妹。
ある日、妹は偶然男が鍛錬をしている所を偶然見かけた。そして、今まさに自分の姉が男の背後に回ろうとしている所であった。
姉が彼に対して、可愛い悪戯をする事はよくあった。そしてその度に、男は姉の気配を察知し、驚く振りをして姉を満足させていた。
自分も大好きなあの優しい笑みを浮かべながら。
しかし、今日の男は異様であった。
姉が鍛錬に夢中な彼を驚かせようと、背後に忍び込もうとした時、彼に本気の殺気を向けられ、顔を青くさせて倒れ込んでしまった。
その時の彼の顔、妹は忘れられなかった。
そこには、いつもの男の優しい笑顔は無く、拒絶を孕んだ冷たいまなざししか無かった。
妹は不安になり、その後男に問いかけた。
あれはどういうことだ?
人を間違えたのか?
しかし、男は何も答えず鍛錬を続けるだけ。
それからというもの、男は家族達との接触を極端に避けるようになり、妹もまた、男と話せなくなっていった。
妹は恐怖した。男に対してではない。男がどこかに離れてしまうのではないか、と。妹は男を愛していた。兄妹の垣根を越えてしまいそうな程に。
だから妹は懸命に兄に接した。兄がおかしいのは何か原因があるから、と。それさえ直せば、またいつもの兄に戻ってくれる、と。
しかしそのがんばりも虚しく、現在男は外に出ようとしている。もう戻る気はない。
??視点
廊下の火を消し、足音を殺して、私は静かに廊下を歩く。
必要なものは全て用意してある。
館を出て、裏に用意してある馬に乗れば全てが終わり、いや、始まりだ。
なぜ私はここに居るのか、それは未だに分からない。気付いたらこの館の一員になっていて、気付いたら全てを思い出していた。
今まで幸せだと感じていた空間は醜く色褪せ、思わず吐き気を催してしまう程であった。
しかし、同時に私はこれを天啓であると悟った。
天は私にやりなおせ、と言っているのだ。
お前はこんな所で死ぬべきではない、今度こそ全てを救ってみせよ。
そう言っているのだ。
もともと、全てを思い出した時にこの館を出る事は決めていた。
しかし何の因果だろうか、天も抜けているところがあるのだろうか。よりにもよって、怨敵の家族にさせられるとは...。
しかし、そのおかげで旅立つ準備は十分すぎる程にできたのだ、良しとしよう。
家族には何も言わない、いずれ敵になるから。
これ以上情愛が増せば、必ずそれは邪魔になる。
真っ暗な道をひたすら歩き、やっと出口への最後の扉まで出た。
後少し
本当に後少しで全てをやり直せる。
皆にもまた会える。
今度こそ救う事ができる。
私は浮き足立つ思いを抑えながら、出口に繋がる戸を開けた。
出口までの道は、いくつもの蝋燭が輝き、昼間のように明るかった。
応援しているぞ、見事に大成してみせよ、そう言っているかのように...
...いや、明るすぎる。
こんな夜更けになぜ、この道だけこんなにも明るいのだ。もしや脱走がバレたのか?
そう思い、私は剣を抜き臨戦態勢に入った。もし、本当にバレたとしたならば、ここで逃げ仰せなくては今度はいつ脱出できるか分からない。
しかし、どこからも襲ってくる気配はない。
どれだけ待っても敵は現れず、次第に剣を握る手の力も緩んできた。
ただの偶然か?
そう思った瞬間、背筋が凍った。
一番会いたくなかった者の視線を感じたのだ。
生暖かい舌で、体中を舐め回されている錯覚に陥る。
いつもあの目で視線を送る。
淀みきっていて真っ黒な、底の見えない暗い瞳。
彼女達を拒絶するようになり、いつ頃からか彼女はあの目をするようになった...
まるで感情の無い目...思い出しただけで冷や汗が止まらない...
だが、ここで止まる訳にはいかない、絶対に。
緩んでいた拳を再び握り締め、私は視線の感じる方向を向く。その先は、出口への最後の門。
その陰から、一人の少女が出てきた。
??「...」
自分と同じ鮮やかな桃色の長髪を持ち、玉のような美しい肌を持つ女。
そして、私が最も憎む愛しき妹。
??「どうした孫権殿、早く自室に戻られよ」
私の拒絶の言葉に対し、彼女は暗い目を細め、不気味な笑みを浮かべて答える。
孫権「兄様...貴方こそ、私と一緒に部屋に戻りましょう?明日は母様から真名を貰える、大切な日なのですから...」
紹介が遅れたな、私の名は孫霊義王、孫堅を母に持ち、孫策を姉に持ち、孫権と孫尚香を妹に持つ孫一家の長男である。
そして、死ぬ前の名は劉備玄徳という。
そう、私の第二の故郷は、大嫌いな呉の孫家であった。
なかがき
孫霊ってなんぞ?って思う方もいると思いますが、簡単に言うとオリキャラです。
兄弟関係は、孫策>孫霊>孫権>孫尚香、という順番になっています。
説明 | ||
史実の劉備玄徳が恋姫の世界に行った場合のお話です。 今回は玄徳君がどこに行ったのかを示します。 感想とかいただけると嬉しいです(0w0) |
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コメント | ||
チートかぁ、どこまでチートなのかが問題だな・・・憎しみが抑えられないのはいいんだけど、なら今のうちに斬ってしまえばいい話では?(PON) まぁ、感情が抑えられないんでしょう。おそらく夷陵で勝っていたら、父親の仇討として徐州で大虐殺した曹操と同じように江東で屍山血河を作っていたでしょうから。(h995) うわぁ・・病んだ妹が前世の怨敵だとは・・・救いは無いみたいですね・・・(諦め)(グリセルブランド) 忘れてた。始めまして。一話の更新時からチェックしてました。頑張ってください。(陸奥守) 男が女に変わってるという時点で孫家の人たちが別人でここが別世界という事に気が付かないのはどうかと思いますが。(陸奥守) |
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