Masked Rider in Nanoha 四十三話 その日、機動六課 前編
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 六課隊舎内のミーティングルーム。そこに主だった者達が全員集まっていた。理由は、明日に迫った公開意見陳述会のためだ。

 

「……とりあえず、隊舎にはアギトと龍騎を残す事にした」

「なら、俺と光太郎さんが地上本部へ?」

 

 光太郎の告げた言葉に疑問符を浮かべ、五代が問いかけた。それは他の者達も同じだ。邪眼の目的を考えればクウガとRXが一緒にいるのは絶好の機会となってしまう。だが、光太郎はそんな五代の問いかけに頷くとはっきり告げた。それは、ある種の宣戦布告。そして周囲への決意表明。

 

「そう。俺と五代さんで邪眼を全て引き受けるつもりだ」

 

 その言葉に全員が息を呑んだ。だが、五代はやや何かを考えて頷き、光太郎の目を見つめて応えた。

 

「分かりました。やりましょう。クウガとRXなら邪眼を全部相手に出来ます」

「ああ、そして必ず倒してみせよう。その代わり……」

 

 光太郎が言いにくそうにしたのを受け、なのはが力強く宣言した。

 

「怪人達は、私達が引き受けます!」

「スターズとライトニングで最低四体は相手してみせますから」

「ヴァルキリーズだって三体は倒してみせるさ!」

「ゼスト隊が一体はやってくれるやろし、負ける事はあらへんよ」

「隊舎にはアギトと龍騎がいる。だからこちらの怪人達は心配ないわ」

 

 強がりではない宣言。特にウーノの言葉に翔一も真司も即座に頷いた。ヴィヴィオとイクスヴェリアがいる六課隊舎。おそらく怪人達はそれを奪取しに来るだろうと、そう考えて隊舎にもライダーを二人にヴァルキリーズの半数近くを残す事になった。

 それにザフィーラとシャマル、それにリインも加わる。防衛戦力としても申し分ないだけのものがある。そう、ジェイルによって地上本部襲撃の段取りは説明されていた。そこでは、ヴィヴィオがもし六課に保護された場合の対応も想像し話された。

 

 ジェイルは六課が手薄になるのを見越し、隊舎へ少数精鋭でヴィヴィオの奪取を企てるだろうと。だが邪眼達にはマリアージュがある。そのため、予想される戦力は少なくても怪人三体にマリアージュが数体。

 なのでヴァルキリーズはウーノを始めとする支援を得意とする者を隊舎に残し、トーレ達戦闘を得意とする者達を地上本部へ向かわせる事になったのだ。

 

「トイのAMFは、先日完成したばかりのAMFCで無力化出来るはずだ。ただし、まだ絶対ではない。あまり過剰な期待はしないでくれ」

「それと、準備出来たガジェットもそこまで多い訳じゃないんです。なので、あまり破壊されないように注意してください」

 

 ジェイルとシャーリィが告げる言葉になのは達が頷く。AMFCを搭載したトイは区別をするためにガジェットと呼称する事になった。ガジェットの制御はウーノなどの指揮役が受け持つ事となり、今回はクアットロがガジェットを制御して地上本部組に参加する事となっている。

 

 こうして全員による当日の打ち合わせが終わり、解散しようとした時だ。五代が全員へ呼びかけた。

 

「みんな、頑張ろうっ!」

 

 サムズアップ。それに全員が笑顔でそれを返す。冷静に考えれば戦力差は大きい。それでも不安よりも希望が大きいのはやはり誰もが信じているからだ。仮面ライダーを、そして自分達の事を。どれだけ強い敵が現れても決して負けない。挫けはしない。

 そんな強い心があるからこそ、六課の者に絶望はない。そして、なのは達スターズ&ライトニングは地上本部の警備へと向かい、ヴァルキリーズ参加組は明日の朝まで待機し、光太郎と共にヘリで地上本部へ向かう事となった。五代はビートチェイサーを使用する。

 

 翔一と真司を始めとする留守番組の振り分けは、リインがヴィヴィオとイクスヴェリアの護衛を担当し、ザフィーラとシャマルが残るヴァルキリーズと共に怪人の迎撃をする事になっていた。怪人が大勢襲い来る事も考えたのだが、邪眼の行動を推測するとやはりヴィヴィオやイクスヴェリアよりも創世王への執着の方が強いと予想されたのだ。

 

「アインさん、ヴィヴィオの事をよろしくお願いします」

「安心してくれ。お前の娘もイクスも必ず守り抜く」

 

 なのはの言葉にリインはそう返し、優しく微笑む。ヴィヴィオとなのはの関係はもう六課内では完全に親子と認識されていた。唯一ママと呼ばれ、ヴィヴィオから慕われているなのは。その姿は誰もが和む光景なのだから。

 イクスヴェリアもはやてが夜天の主と聞いて軽く驚きを見せた。実物を見た事はなかったが、夜天の魔導書の名を聞いた事はあったらしい。なので、自分と六課の繋がりに運命を感じたと思っていたのだ。

 

 ヘリポートへ向かうため、ミーティングルームを出て歩き出すなのは達。それを外で待っていたヴィヴィオとイクスヴェリアが気付き、笑顔で出迎えた。

 

「ママ、もうお出かけ?」

「うん。ヴィヴィオ、アインさんの言う事をちゃんと守って留守番しててね」

「う?……五代さん達は明日だよね?」

「そうだよ。だから、そこまで寂しくないでしょ?」

 

 なのはとヴィヴィオのやり取りに五代達が微笑む。一方、イクスヴェリアは自分の護衛を務めてくれるリインへ感謝を述べていた。

 

「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

「気にしないでくれ。イクスも私からすれば家族のようなものなのだから」

「家族、ですか?」

 

 リインの表現に軽い驚きを浮かべるイクスヴェリア。それにリインが笑みを浮かべて頷いた。そこへはやても顔を出し、こう告げる。

 

「そや。イクスはもう六課の一員。それに、わたしが責任者やしな。ある意味八神家の一員とも思うてる」

「私が……八神家の……」

「あ、別になれって訳やないよ。そうわたしは考えてるってだけやから」

 

 はやての少々慌てた声にイクスヴェリアは小さく微笑み、分かっていますと返す。そして彼女達八神家の者達へ頭を下げた。それに若干面を喰らうはやて達へ、イクスヴェリアはそのままでこう告げた。

 

―――不束者ですが、よろしくお願い致します。

 

 その言葉にその場の全員が言葉を失い、そして笑顔を浮かべた。はやてが嬉しそうに何度も頷き、ツヴァイは嬉しさのあまりアギトと手を繋いで騒ぎ出す。アギトはそんな彼女に苦笑しながらも、その嬉しさを理解してそれに付き合っていた。

 シグナムとシャマルは互いに笑みを向け合い、ザフィーラとリインは微笑みながら何かを言い合っている。五代達はそんな八神家を祝福し、そしてヴィヴィオは友人が家族を得た事に喜びを感じて笑顔を浮かべる。

 

 決戦の前の小さな喜び。それに誰もが心を和ませ、そして改めて誓う。決してこの幸せを失わせはしないと。そう、強く心に抱いて……

 

 

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 ヘリポートで見送りをする五代達とヴィヴィオにイクス。五代達が傍にいるとは言え、ヴィヴィオはどこか寂しそうな表情を見せていた。それになのはが苦笑するも、その目線の高さにしゃがんで笑いかける。

 

「ヴィヴィオ、ちゃんと帰ってくるから」

「うん……」

「約束」

 

 なのははそう言って小指を差し出す。それが何を意味するのかを理解し、ヴィヴィオも小指を差し出して絡めた。指きりの歌を口ずさむ二人。それに周囲も微笑みを見せる。やがて歌も終わり、二人揃って指を離す。

 

「約束破ったら、針千本だからね」

「うん!」

「あ、それと……帰ってきたら話したい事があるから」

「お話?」

「そうだよ。ヴィヴィオにとっても、ママにとっても大事なお話」

 

 なのはのその言葉からフェイトは何かを察して軽く驚き、そこから小さく笑みを浮かべた。そしてヴィヴィオの肩に手を置いて優しく笑みを浮かべて告げる。楽しみにして良い子で待ってるようにと。それにヴィヴィオも頷き、笑顔を返した。

 なのはもフェイトもそれに笑顔を返して歩き出す。はやてはイクスから武運を祈られたためやや苦笑していたが、それがどこかシグナムやリインを連想させたのか嬉しそうに頷いた。スバルはノーヴェと拳を軽く合わせてまた明日会おうと約束し、ティアナはウェンディやクアットロへ待っていると告げている。

 

 ギンガは似たような立場のチンクと微笑みを見せ合い、妹達を守るとの誓いを交わしあっていた。エリオはドゥーエからからかいを受けるも小さく告げられた無事を祈る言葉に小さく頷く。その横でキャロはセインに気をつけるようにと言われて元気よく返事を返していた。ヴィータとシグナムはシャマルやザフィーラに隊舎の者達を託し、それぞれヘリへと向かって歩き出す。

 それを全員が見送り、やがてヘリのハッチが閉まる。そしてゆっくりとそのローター部分が回転を始め、ヘリを浮かびあがらせていく。それにヴィヴィオや真司が大きく手を振り、五代達も手を振って送り出す。

 

 遠ざかるヘリ。それが見えなくなるまで誰もそこから動こうとしなかった。どこかで感じているのだ。これが最後の戦いへの前哨戦になると。故に、この見送りが持つ意味は大きい。勝利への出発。邪眼へ引導を渡す為の大事な一戦。

 それが明日なのだ。なのは達地上本部組は留守番組よりも激戦が予想されるのもある。そう、留守番組の者達はそれがあるからこそ余計にこの見送りに込めた意味は強いのだから。

 

「……明日で全てが決まるんですね」

 

 ぽつりと翔一が呟いた言葉。それに誰もが頷いた。あの無人世界での戦いからもう十年近く。その長きに渡る戦い。それがいよいよ幕を迎えようとしている。そう感じ、五代は特に思うものが強かった。

 そして、それは翔一と光太郎も同様に。彼ら二人はある意味発電所から戦い続けているようなものだからだ。三人とは違い、真司は邪眼との因縁が長い訳ではない。だが、それでもその思いは三人に負けぬものがある。

 

 彼は長年暮らしていた場所を奪われ、コピーとは言え自分が家族のように思っている少女達と戦う羽目になったのだ。その怒りや悲しみは三人に匹敵する。

 

(明日でクウガとしての寄り道が終わる。だから、絶対に負けられない!)

(アギトとして……そして仮面ライダーとして、明日は負ける訳にはいかないんだ!)

(邪眼……あの発電所での借りを返す。そして、もう二度と復活出来ないようにしてみせるっ!)

(明日の戦いに勝って、そのままの勢いで俺達の家を取り戻す! 絶対負けないかんなっ!)

 

 静かに拳を握る五代と光太郎。表情を真剣なものに変え、ゆっくりと拳を握る翔一。そして、力強く拳を握り締める真司。それぞれに込めるは明日への決意と覚悟。仮面ライダーとして、そして一人の人として大切なものを守るために戦おう。その気持ちを新たにしたのだ。

 やがて誰からともなくゆっくりと隊舎へと戻り始める。その足取りは重い。明日の戦いへの重圧や不安を感じているためだ。しかし、その表情は決して暗いだけではない。笑顔ではないが沈んでもいない。誰もが信じているのだ。勝利を、平和を。

 

「ノーヴェ、ウェンディ、明日は気をつけてね」

「おう。それはそっちもだかんな」

「そうッスよ。ディエチも気をつけて欲しいッス。接近されたら危ないッスからね」

 

 参加組である二人へディエチが心配そうな声を掛ける。それにノーヴェもウェンディも明るい声を返す。それどころか彼女の方が心配だと返したのだから。それにディエチが苦笑。無言で頷き、それに応えた。

 トーレはセッテと共に参加組。なので、留守番組のウーノとドゥーエへ万が一の際の事を相談していた。それは予想に反して隊舎へ怪人が多かった場合だ。トーレとセッテは空戦専門。その移動速度もかなり速い。それを活かし、緊急時は地上本部から隊舎へ向かう事を話し合っていたのだ。

 

「では、その時は……」

「ええ。ディエチに信号弾を撃たせるか私かロングアーチが連絡するわ」

「それと、二人一緒でなくてもいいわ。どちらかでも来てくれれば助かるから」

「了解だ。まぁ、願わくばない事を祈るがな」

 

 トーレの締め括りに三人揃って頷いた。留守番組の戦力はオットーにディエチとディードの三人。ウーノとドゥーエはどちらかと言えば支援型に近いからだ。そう、残るのはその五人。残りの七人が全て地上本部へ投入されるのだ。

 これはヴァルキリーズ全員で話し合った結果。ギンガも含めた十三人で色々と加味し出した結論。基本防衛戦になるだろう隊舎戦。ならば、自分から切り込む者より支援に向いた者がいい。そう、ライダーを援護するのに適した者達だ。

 

 チンクも候補に挙がったのだが少しでも戦力を地上本部へ向かわせるべきだとなり、半分ずつではない振り分けとなったのだ。トーレ達四人が能力を知る怪人達への対処法を確認し合う横で、クアットロがチンクとセインの三人で真剣な表情を見せ合っていた。

 

「結局、スパイは来なかったわねぇ」

「そうだな。情報漏れも疑われたが、スクライア司書長だったか? 彼の真偽も確かめられたしな」

 

 あの海底遺跡の一件を受け、光太郎と五代がユーノへ面会しに行き確認したのだ。その結果、ユーノは白となり、あの一件は邪眼達も偶然辿り着いたとなった。

 

「でも、まだ能力の分からない怪人が六体、か」

 

 セインがそう不安そうに呟くと、それを聞いたオット?が口を開いた。

 

「逆です、セイン姉様。もう六体しかいないんです」

「ええ。オットーの言う通りです。半数はもう能力もある程度分かっています。なら、警戒するに越した事はありませんが、恐れすぎる必要はありません」

 

 その言葉にセインだけでなくクアットロやチンクも軽い驚きを見せる。だが、すぐに笑みを浮かべて肯定するように頷いた。そうだ。例え能力が分からない怪人が相手だとしても、自分達のISは知っている。それに姿からある程度の想像もつく事が多い。

 そう思い、セイン達は視線をある者達へ向けた。そこには既に笑みさえ浮かべて話す翔一と真司の姿がある。彼ら二人は邪眼が攻めてきた場合の事を話していた。戦力的に一番手強い邪眼。それを相手に勝利するにはライダーである自分達が引き受けるしかないからだ。

 

「じゃ、いきなりあの姿を?」

「はい。明日はもう最後だと思って一気に片付けようと考えたんです」

「そっか。なら、俺もそうしようかな?」

「いえ、城戸さんは最後の最後まで温存した方がいいです。邪眼との決着まで」

 

 翔一が温存していたアギトの姿を使う事を決意したと聞いて、真司は自身もユニゾンを使おうかと迷った。しかし翔一の言葉にそれを思い留まる。邪眼との決着。それは言うまでもなくラボを取り返すための戦いだ。それが本当の意味での最終決戦。

 だから、翔一は真司へ告げたのだ。そのラボでの戦いで決め手となるべきは龍騎だと。ラボで暮らし、ジェイル達と共に思い出をそこに残してきた真司。そんな真司がラボを取り戻すキッカケとなって欲しい。そう翔一は思っていたのだから。

 

 それを感じ取り、真司は力強く頷いた。邪眼の知らぬ自分の力。それを解禁するのは最後の最後まで取っておくと。そんな二人の会話を聞きながら五代と光太郎もまた決意を新たにしていた。

 

「……光太郎さん、俺もいざとなったら」

「いや、五代さんそれは」

「分かってます。でも邪眼を大勢相手にするには……それしかないですよね?」

「……そう、だとしても……それ以外の可能性を諦めちゃいけない」

 

 光太郎の答えに五代は思わず言葉を失う。そんな事を言われるとは思わなかったのだ。光太郎はそんな五代へ告げた。凄まじき戦士の力を使うのは本当にそれ以外に打つ手が無くなった時だけ。それまではどんなに絶望的でも足掻き続ける事だと。

 そこで彼は語る。自分も諦めず戦った結果、RXからロボライダーやバイオライダーへの変身を得た事を。それを聞き、五代もまた思い出した。自分も初めて超変身したのは赤のままで足掻き続けての結果だった事を。

 

(そっか。俺、気付かない内にどこかで甘く考えてたのかも。一度制御出来たから今度も出来るって。まだ黒の金のクウガもあるし他の色の金もある。それを全部使い切っても駄目だったら、その時が四本角の出番なんだ)

 

 一度やってのけた事実。それが知らずどこかで自分の中の凄まじき戦士への危険性を鈍らせていたと、そう五代は思った。あれは簡単に使ってはいけない力。光太郎の方がそれを熟知していたと。

 それは光太郎がRXの力を恐れているからだ。太陽の光ある限り、無敵に近い力を持つRX。それと凄まじき戦士は同じような存在と考えるからこそ、光太郎はその力を安易には使わないで欲しかったのだ。

 

(もし凄まじき戦士が暴走すれば、それは邪眼以上の脅威になる。そして、最悪の場合は……いや! そんな事にはさせない! 俺が何としても阻止してみせるっ!)

 

 脳裏に浮かんだ最悪のシナリオ。それを振り払い、光太郎は周囲へ告げた。絶対に最後まで諦めないで欲しいと。諦めなければ、必ず奇跡を起こせるから。そう力強く言い切った。それに全員が頷き、ヴィヴィオが手を上げて叫ぶ。

 

「諦めないぞ! お?っ!」

 

 それに誰もが笑みを浮かべ、声を返す。幼い命が告げる言葉。それに大きな勇気をもらって……

 

 

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「父さん、本当にいいんですか?」

「ああ、もう迷いはない。皮肉なものだが、邪眼とやらのおかげで踏ん切りがついた」

 

 地上本部はレジアスの執務室。そこでレジアスは娘のオーリスと明日に迫った公開意見陳述会の最終確認をしていた。そこで彼はこれまでの質量兵器の解禁ではなく、まったく別の物の許可を得ようとしていたのだ。

 それは先日ジェイルから届いた改良型バトルジャケットだ。そのフェイスにオーリスは疑問を浮かべたが、レジアスはむしろそれに満足していた。自分の希望通りだったからだ。そして、そこには行く当てを失った初期のバトルジャケットも残されていた。

 

「でも、明日にあの化物が襲ってくると予想されています」

「だからこそ、これを儂が使うのだ。そして見せなくてならん。これこそが、魔導師にも騎士にもなれぬ者達の希望だと。魔法に並ぶ護るための力なのだと」

 

 レジアスが噛み締めるように告げる言葉。それに込められた想いは強い。魔力がなくても戦える力。非殺傷を出来ずとも、相手を止める事が出来る防御力と制圧力。唯一の難点はその重量だが、それでも訓練すれば誰でも装備出来るようになる適応性。

 全てにおいて、このバトルジャケットはレジアスの理想だった。質量兵器に該当する要素はないのも大きい。そう、これはあくまで鎧。剣でも銃でもないのだ。オプションで剣や盾を使う事は出来る。しかし、それにはベントカードが必要。しかも一度きりの消耗品。ならば、それを厳正に管理すればいいだけだ。

 

 確かにまだ色々と穴はあるかもしれないが、それでも製造技術は現在ジェイルのみが有している。犯罪者へ流れる事があったとしても早々作り出せないようにする事も可能だろう。何せ、彼はアルハザードの申し子”アンリミテッド・デザイア”なのだから。

 そう考え、レジアスは内心笑う。犯罪者だったジェイルをここまで信頼している自分にだ。いかに改心したとはいえ、相手は広域次元犯罪者。それをここまで信頼するなど、以前の自分であれば有り得ないと。

 

(ふん、ゼストだけでなくスカリエッティまで感化されたか。グレアムが言った通り、仮面ライダーとやらは凄まじい影響力を持っているようだ。明日、奴らの力と姿を次元世界は知る事になるのだろうか……? だとすれば、それについても何らかの対策を……いや、その時になってから考えれば良い)

 

 もしかすれば、その姿を見せる事無く怪人達を倒してしまうかもしれない。そんな風に思い、レジアスは笑う。そんな父の姿を見たオーリスは小さくため息を吐いた。随分機嫌がいいと思ったのだろう。なので彼の口癖とも言うべき事を尋ねたのだ。

 

「……全ては、地上の平和のために、ですか?」

 

 オーリスの呆れたような呟きにレジアスは即座に声を返す。そして、その後に続く言葉に彼女は言葉を失う事となった。

 

―――いや、全ての者達の笑顔のために、だ。

 

 

 無限書庫内司書長室。そこへユーノはある者から呼び出されていた。大事な話があって、あまり人目に付きたくないと。実は彼自身、本来ならばそれに応じたくなかった。何故ならば今のユーノはその相手を警戒していたからだ。とは言え、表向きは違う。これまで信頼し頼りにしていた相手なのだから。

 だが、光太郎や五代と久しぶりに会った際聞いた事がキッカケで彼はその相手を探った。人事部のレティから情報を入手し、更に詳しく相手の個人情報を洗った。その結果は彼へ恐ろしい事を教える事となり、現在の警戒心へ繋がっている。

 

「申し訳ありません、スクライア司書長。わざわざお呼び出しして」

「いいさ。で、何の用だい?」

 

 そこでユーノは静かに深呼吸をした。

 

「……ルネ」

 

 ユーノの目の前には司書であるルネッサ・マグナスが立っていた。彼女はその端正な表情を少しも変える事無くユーノへ告げた。最近自分の事を調べているのはどうしてかと。それにユーノは平然と返す。

 司書全員の事を把握出来ないで司書長は名乗れない。そう親友であるクロノから言われたからだと。自分もそれに確かにと思い、悪いとは思ったがそれぞれの個人データを可能な限り閲覧させてもらった。そう迷う事無く言い切った。

 

「何か他に質問はあるかい?」

「いえ、ありません」

「そう。もし気に障ったのなら謝るよ、ルネ」

「あ、その、私は別に……」

 

 ルネッサはユーノの言葉に気にしていないと返そうとしたのだろう。だが、それを遮るように彼は告げた。

 

―――ただし、君が本当にルネッサ・マグナスなら、ね。

 

 その言葉にルネッサの表情が微かに変わる。どういう意味だ。そんな言葉が聞こえてきそうな視線をユーノへ向けていた。それに彼は内心で軽い焦りを感じていた。万が一に備え手はいくつか打ってはある。だが、それでも不安は尽きない。対策の中の一番有効なものはいつ動くか分からなかったからだ。

 

 それに彼の調査結果が教えた答え。それが、目の前の相手がルネッサ・マグナスではない事を示していたからだ。それを今から相手に突きつけるしかない。そう決意し、ユーノは口を開いた。

 

「君は本当に上手く誤魔化したよ。レティ提督でさえ信じ込むぐらい、精巧な個人データだった。でも、精巧すぎた。君は僕に何て言った? 戦災孤児だと、そう言ったよね?」

「……ええ。それが何か?」

「じゃ、どうして同じ個人データが二つあるんだろう?」

 

 そこで初めてルネッサに驚きが浮かんだ。ユーノはそれに構わず続ける。自分が調べたところ、ルネッサ・マグナスと言う人物はそれなりにいた。だが、戦災孤児でとなると途端に数を減らしていき、残ったのは二人だけ。

 もしかしたら戦災に合う前と合った後かもしれない。そうも考えた。だが、調べてみると両方とも完全に同一人物だったのだ。その内容もまったく同じと言っていいもので、違いがあるとすればたった一つだけだった。

 

「作成者のミス? いや、違う。そもそも戦災孤児のデータを二つ作る事が有り得ない。それに、何よりも唯一の違いがあった。現在地さ」

 

 片方はヴァイセン。そしてもう片方は言うまでもなくミッドチルダ。そこまで知ったユーノは即座にヴァイセンの方を本物だと決めた。その理由は特にない。だが、もう一方を偽者とする理由はある。それは……

 

―――あの海底遺跡の場所を知っていたのは六課関係者以外では僕ともう一人。そう、君だよルネ。いや、おそらくツバイとでも呼べばいいのかな?

 

 そうユーノが告げた瞬間、辺りを静寂が包む。だが、徐々に緊迫感が増していくのを彼は体で感じていた。その口の中はカラカラに乾いている。今まで感じた事のない緊張と恐怖が体を襲う。それをユーノは振り払うように全身に力を込める。そして、鋭く目の前を睨みつけた。

 やがてルネッサは笑い出した。それはユーノの言葉が楽しくて仕方ないと言うように。それでも彼は目を逸らさない。一しきり笑ったところでルネッサはゆっくりと声量を落とすとユーノへ鋭い視線を向けた。

 

「戯れの穴として残しておいたけど、詳しく調べる事はないと思ってたわ。一度調べられた後にはね」

「ああ、本当ならそうだったよ。でも、さすがにあの海底遺跡は疑われる要素だ」

「ふふっ、お人好しばかりと思ったけど無条件に信じてる訳じゃないのね?」

「残念ながら、ね。そうしたかったけど、邪眼のせいで疑う事をせざるを得なくなったんだよ」

 

 ユーノがそう言うと、ルネッサは姿を変え黒髪のドゥーエそっくりに変化する。それを見て彼は心から小さく呟いた。

 

―――本当は、最後まで信じていたかったんだ……

 

 だが、その噛み締めるような呟きを聞いたツバイは吐き捨てるように告げた。

 

―――馬鹿ね! この世で他人など信じられるものかっ!

 

 その言葉にユーノは目を伏せた。そして、ゆっくり眼鏡を外す。そう、眼鏡は伊達。ユーノが眼鏡を掛けた理由は一つ。自分は学者として生きようと決めた際、それらしくなるようにと掛けただけだったのだから。

 ツバイはそんなユーノに妙な迫力を感じ、やや意外そうに注視した。彼女の調査ではユーノは戦闘能力が無いに等しい。だからこそ、こうして対峙する事になっても一欠片の不安も抱いていない。

 

 そんな視線を受けつつもユーノは眼鏡を外すと、それを静かに内ポケットへしまう。それは、ある決意。学者である自分ではなく一人の男としての自分であると示すため。そして、彼はツバイへ向かって言葉を放つ。

 

「仮にそうだとしても……僕は、僕は……」

 

 その声は震えていた。だが、それは決して恐れから来る震えではない。それは別の感情から来る震えだ。それは怒り。ツバイの告げた言葉に対する抑えきれぬ怒りがユーノを動かしていたのだから。

 

「僕は、誰かを疑わなきゃ生きていけない世の中なんてご免だっ!!」

 

 故に吼えた。目を見開き、地を揺るがさんとばかりの大声で。それにツバイも無意識に一歩だけ後ずさった。仮面ライダーでもエースでもない男の叫び。それが怪人をたった一歩でも退かせたのだ。

 

「なっ……」

「覚えておけ、怪人! 僕らは確かに賢くも強くもない存在だろうさ。でも、お前達が思う程愚かでも弱くもないっ!!」

 

 それは、人類を代表しての啖呵。仮面ライダーと関ったが、なのは達と違ってその背を支える事が出来ぬ自分だからこそ抱いた想い。傍で戦う事も出来ないからこそ、怪人に恐怖する訳にはいかなかった。魂だけは気高くあろう。彼もまた知らず、なのは達と同じ心境に辿り着いていたのだから。

 

「ふんっ! 寝言は寝て言うのね……」

 

 ツバイはそう告げると、その体を変えていく。それは蠍。手の爪と尾から液体が流れており、それが床に落ちて穴を開けた。その周囲からは何やら害のありそうな煙が発生している。ユーノはそれを見て即座に動いた。それは入口の傍にあるスイッチを入れるため。

 その狙いに気付き、ツバイは軽く感心したような声を出す。そう、彼が作動させたのは空調。換気をさせる事で有毒ガスを排出させたのだ。

 

「やるじゃない……」

「力が無いから知恵ぐらいは、ねっ!」

 

 その声と共にユーノはバインドを展開する。チェーンバインド。彼が得意とする魔法となったものだ。バインドなどの支援魔法。それをユーノは徹底的に磨いた。攻撃が出来ずとも、それで誰かの助けになる。それをあの無人世界での戦いで知ったのだ。

 ツバイの動きを封じようとするチェーンバインド。それをツバイがかわしながらユーノへ迫る。それに彼は慌てる事無く対処した。ツバイの爪がユーノを捉えようとするその瞬間、その体が消える。それに驚くツバイ。そして同時に前もってそこに設置されたバインドが発動する。

 

「なっ!? これは一体?!」

「それは僕が部屋に入った時に設置したものさ。そして転送魔法は短距離なら今みたいに即興で出来る」

「味な真似をっ!」

「お褒めに預かりどうも。じゃ、お引取り願おうかっ!」

 

 再び転送魔法を展開するユーノ。転送先はベルカ自治区はジェイルラボ。本当ならば彼とてここで倒したい。だが、自分にそんな力がない事を誰よりも彼が知っている。故に危険がない場所へ転送する。

 その転送先の座標自体は既にウーノから聞き出し済み。出来る事なら六課へ転送しライダー達に撃破してもらいたいが、その打ち合わせを聞かれる可能性を考慮し出来なかったのだ。

 

「おのれ! 雑魚の分勢でっ!」

 

 転送魔法で消える瞬間、ツバイはその爪をユーノへ伸ばした。それがその腹部を捉えようと襲い掛かる。咄嗟に防御魔法を展開したユーノだったが、長距離転送中のためかその構造は雑になってしまった。

 結果、爪はあっさりとそれを貫きユーノへ傷を作る。それでも彼は咄嗟に身を引いて掠るぐらいに留めた。だが、その爪には強力な毒が流れている。それが僅かな傷からでもたしかに入り込んだのだ。

 

「ぐっ! て、転送っ!!」

 

 腹部に走る激痛に苦しみながらもユーノは意識を切らす事無くツバイを転送した。そして、それを見届けた瞬間堪らず床へと倒れ込む。するとそこへ勢い良く現れる者がいた。

 

「ユーノっ!?」

「や、やぁ遅いよクロノ」

 

 それはクロノだった。彼は翌日に控えた公開意見陳述会のため、一人本局へ戻って海の人間としてグレアムと打ち合わせしていたのだ。それをユーノは彼から聞き、その用事が終わり次第司書長室へ来てくれるように念話で頼んでいたのだ。それが、万が一に備えての手だった。

 クロノは倒れるユーノの顔を見て血相を変えた。素人目から見ても分かるぐらいに良くないのだ。一応ユーノも自分へ回復魔法を使っているが効果は薄いらしく、その顔色は優れない。それを確認しつつクロノは素早く彼を支えるように抱え、即座に本局中への緊急回線を開いた。医療班だけにしなかったのはそれだけ慌てていたからだろう。その内の一つに映る局員が、クロノの姿を見て不思議そうに問いかけた。

 

『どうされました、クロノ提督?』

「司書長室へ救護班を早くっ! ユーノが、ユーノがっ!!」

「お、落ち着きなよクロノ。君らしくない……」

「喋るなっ! 毒にやられたらしい! 誰でもいいっ! こいつを助けてくれっ!!」

『わ、分かりましたっ! すぐに向かわせます!』

「急いでくれっ!」

 

 通信中、クロノもあまり得意ではないが回復魔法を掛け続けていた。しかし、その視界が薄っすらと滲む。ユーノの顔色がどんどん酷くなっているからだ。それでも諦めないでクロノは魔法をかけ続ける。目の前で親友が弱っていくのを実感しながら、それでも懸命に。

 どこかで無駄だと理性が告げる。だが、それを上回る声で諦めるなと叫ぶ意思がある。クロノは折れそうになる心を奮い立たせ、ユーノの手を強く握る。その手は軽く血で汚れていた。だが、それをまったく気にする事もなく、クロノはユーノへ呼びかける。

 

「しっかりしろ、ユーノっ! お前はこんな事で死ぬような奴じゃないだろ!?」

「……クロノ、頼みがある」

「分かった! 体が治ったら何でも聞いてやる!」

「今じゃなきゃ……駄目なんだ」

 

 クロノの手を握り返すユーノ。その力は弱いが、何故か不思議な強さがあった。それにクロノは何かを悟る。だが、それを顔に出す事無く頷いた。それにユーノは小さく感謝を告げ、ズボンのポケットの物をなのはに届けて欲しいと告げた。

 それにクロノがズボンのポケットを探ると、出て来たのは少し洒落た小箱だった。それに彼の視界が完全に滲んだ。開けるまでもなくそれが何か分かったのだ。何故なら、それは彼もかつてエイミィへ手渡した物だったのだから。

 

―――この馬鹿、これはお前の手で渡さないと意味がないんだぞ……?

―――勘違い、しないでよ。それは、婚約指輪さ。結婚……指輪は……っ! 僕から、渡すよ……

 

 その言葉にクロノは目を見開いた。今、ユーノは何と言ったと。そう、結婚指輪は自分で渡す。それが意味する事を理解し、クロノは涙を流しながら悪態をついた。気弱になっていたのは、自分の方だと気付かせた事に対する皮肉も込めて。

 

「こいつめ、人を前座に使う気か。しかも体が治ったらと言ったのにな。まぁいいさ。言った手前ちゃんと叶えてやる。だが、代わりに絶対死ぬなっ!!」

 

 それにユーノは言葉を返さない。ただ、静かに震える手である仕草を返した。それにクロノが泣きながら笑みを浮かべてそれを返す。それはサムズアップだった。その何よりの返答をクロノが嬉しく思っているところへ大勢の局員が現れる。

 同時に担架などが運ばれた。彼らはクロノからユーノの治療を引き継ぎながら去っていく。ただ一人残った者がクロノへやや躊躇うように問いかけた。付き添いますかと。それに彼は首を横に振ると黙って歩き出す。

 

「僕にはしなければならない事がある」

 

 その言葉に疑問を感じる局員へクロノは振り向かずに告げた。

 

「親友から受けた頼まれ事がある。僕は、必ず応えると約束した」

 

 それを無言で見送る局員。クロノはそのまま司書長室を出ようとして―――何かへ気付いたのか立ち止まる。そして、床の穴を詳しく調べてくれと言い残して部屋を出た。ゆっくりと廊下を歩くクロノ。だが、その歩みが少ししたところで止まる。

 そこで彼はいきなり壁へ拳を叩きつけた。更にその唇からは血が出ている。表情は憤怒を表していた。それをクロノを良く知る者が見たのなら、きっとこう言っただろう。こんなクロノは見た事がないと。

 

―――初めてこんな気持ちになったな。あれをやった怪人は……絶対許さんっ!

 

 彼はそこから自分が艦長を勤めるクラウディアへ通信を入れる。その告げられた内容に混乱するクルー達。だが、クロノの表情と眼差しに誰もが黙り、やがて諦めたように笑みを浮かべ頷いた。それにクロノは感謝を告げると通信を切る。

 そのまま彼は黙って歩き出す。そこにいるのはクロノ・ハラオウン提督ではなかった。そこにいたのは、親友を傷付けられて怒りに燃える一人の男だった……

 

 

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その日、機動六課前編。まさかのユーノ&クロノ登場。次回と次々回は戦闘回。

 

この作品でのユーノの見せ場はおそらくもう無いですが、クロノはこれからが本番になる予定。StSだろうとこの二人が活躍出来ない訳がない。

説明
遂に訪れた運命の日、公開意見陳述会。邪眼による最大の攻勢が予想されるため、六課は自分達に出来るだけの無理をしようと決める。
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