真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第40話]
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真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜

 

[第40話]

 

 

「うんとねー。お爺ちゃんは昔、結婚して居て奥さんと子供が居たんだってー。でも、お爺ちゃんは仕事優先の人だったらしくて、奥さんは家庭を顧みないお爺ちゃんに愛想を尽かして、子供を連れて実家に帰っちゃったみたいなんだよ。なんかねー、奥さんの実家の方が家の格が高かったらしくて、それを鼻にかけた横暴な奥さんだったんだってー。そんな奥さんが居なくなって、その時のお爺ちゃんは清々したって言ってたよー」

 

張角は上目づかいで首を少し((傾|かし))げ、人差し指を自身の((頬|ほお))に当てながら、在りし日の老公から語られたであろう思い出を話し始めました。

どうやらボクの言葉を受けて、少し態度を軟化させてくれたみたいです。

 

「奥さんの実家は家の格に傷が付くことが恐くて、事を荒立てた表だった文句は言って来なかったんだって。でも、奥さんの実家の後ろ盾が無くなったから、お爺ちゃんも少しは苦労したみたい。それと、お爺ちゃん((家|ち))の跡継ぎ問題も出て来たんだけど、その時は親族の御家から養子を取れば良いって考えていたんだってー」

 

張角は、さらに詳しく老公の事を話してくれました。

 

「そのあと暫くして、奥さんは子供を連れて再婚したんだって。でも、再婚先には子供が居なかったみたいで、お爺ちゃんの子供を跡継ぎにしたらしいよ。その子供が大きくなってお嫁さんを貰って、可愛い女の子のお孫さんが生まれたみたい。いいよねー、可愛い女の子。お爺ちゃんの話しを聞いてたら、お姉ちゃんも子供が欲しくなって来ちゃったよー♪」

 

夢見がちな少女のような感じを((匂|にお))わせつつ、張角は瞳を潤ませながら感想を述べてきました。

でも、すぐに真剣な表情に変えて話しを続けてきます。

 

「でも、その御家とお爺ちゃんの親族の御家ね。なんか((清流|せいりゅう))派? とか云う派閥の御家だったみたいで、派閥抗争とかで負けちゃって、みんな捕まっちゃったんだってー。お爺ちゃんだけは((濁流|だくりゅう))派? とか云うのに近づいてたから、大丈夫だったみたい。なんかねー。その頃のお爺ちゃん、親族の御家からも煙たがられてて立場が無かったって言ってた。可哀そうだよねー」

 

いつ終わるとも知れない張角の語る昔話しを、ボクは辛抱強く聞いていました。

すると、彼女の口から清流派・濁流派と云う語句が飛び出てきます。

清流派と云うのは、家柄のある子弟が学業を終えたのちに王朝に出仕して、そのまま出世を重ねて行くエリート集団。((宦官|かんがん))などを毛嫌いして居るのが特色でした。

濁流派と云うのは、賄賂や策略で清流派官僚の出世に割り込んで栄達を謀ってくる、宦官と何らかの繋がりのある集団。主に宦官で構成されている者たちの事でした。

どうやら老公とやらは、清流派から濁流派に鞍替えした人物だったみたいです。

毛嫌いしている者たちに頭を下げるとは、よほど困窮していたと云う事なのでしょう。

もしかしたら、重要な仕事から干されたりして、仕事がやり((辛|づら))くなって居たのかも知れません。

仕事を生き甲斐とする人物にとって、それは耐え難い苦痛であり恐怖だった事でしょう。

そう云う人達にとって、それは自分の存在価値が次第に奪われて行く事を意味するのですから。

 

「お爺ちゃんは助かったけど、他の人達は捕まっちゃったでしょ? 中には((粛清|しゅくせい))されちゃった人達も居たらしいんだけど、その中に奥さんと再婚相手が居たんだって。それでね。お爺ちゃんは、何とか子供さん夫婦とお孫さんだけは助けたくて方々に働きかけたみたい。だけど、その事がお爺ちゃんの上司の人に煙たがられたのか、上司の人がしていた汚職の罪を代わりに着せられて免職されちゃったんだってー。なんか酷いよねー? お姉ちゃん、それ聞いた時すっごく腹が立っちゃったよぉ! だって周りの人達、誰も助けてくれなかったって言うんだもん!」

 

張角は顔を赤色に染めつつ頬を膨らませながら、怒りの感情を((露|あら))わにしてきました。

初見の第一印象では天然風の人物だと思えましたが、どうやら彼女には心優しい一面もあったみたいです。

ボクはそのような感想を抱き、そのまま張角が語る老公に((纏|まつ))わる話しを聞いていきました。

 

「汚職の罪って重いでしょ? だからわたし、良く命が助かったねって、お爺ちゃんに言ったの。そしたら、身分を((剥奪|はくだつ))されて平民に落とされる刑罰と云うのがあって、それを受けただけで済んだんだって。頼る親族も居なかったから、その後は生きて行くのが大変だったって、お爺ちゃん言ってたなー」

 

張角は自分の実の祖父の事を語るように、どこか懐かしそうに老公の事をボクたちに語ってくれました。

彼女にとって老公は、自分たちを支援してくれた恩人だったと、そのように感じているのかも知れません。

 

「でね、でね。ここからが凄い所なんだけど。なんとね! お爺ちゃんを((陥|おとしい))れた酷い人も居たんだけど、助けてくれた素敵な人もいたの! お爺ちゃんが酒場で御酒を飲んでいる時にね、子供さん夫婦とお孫さんを助ける手立てがあるって言う人が現れたんだって! まるで、わたし達を助けてくれた、お爺ちゃんみたいだよね?!」

 

張角は、まるで物語の終盤を盛り上げるかのように、自慢げに声を張り上げながら語ってくれます。

ボクたちに語りかけている彼女は、自分だけが知っている事を話せるのが嬉しいのか、ちょっと興奮気味。

 

「それでね、それでね。その助けてくれた人からお爺ちゃんに、子供さん夫婦とお孫さんの助命嘆願の進み具合の知らせが何度か届く事に成ってたんだよ! そしてなんと! ついに助かったって云う知らせが届いたの! その頃のお爺ちゃん、身体が弱ってて元気が無かったのに、その時だけはすっごく嬉しそうにしてたの。だから、お姉ちゃんも嬉しくなって一緒にお祝いしたんだよ!」

 

張角の語る昔話しも、そろそろ物語の核心に繋がって来たみたいでした。

やはり老公には、緊密な連絡を取り合う存在が居た。それが誰かなのかが分かれば、そこから正体不明の権力者へとの繋がりを暴いていく事が出来る。

ボクはそれを期待しながら、身を乗り出して注意深く彼女の話しに耳を傾けていきます。

でも何故か、張角は鼻息を荒くするだけで、一向に話しを押し進める気配を見せませんでした。

 

 

「……それから?」

 

暫く待っても続きを話してこない張角に、ボクは((痺|しび))れを切らして問いかけました。

すると張角は、ボクが何を言っているのか分からないと云った風体を((醸|かも))し出しながら、少し首を傾けつつ返答してきます。

 

「えっ? それからって?」

「いや、だから。老公は、その助けてくれた人に、どんな手立てを教えて貰ったのかって事だよ。それに、その人物の素性とか姓名とか、そういう話しの続きさ」

「えぇー。そんなの、わたし知らないよぉー。だってお爺ちゃん、微笑むだけで教えてくれなかったもん!」

「……」

 

張角はボクの問いかけに、不満気なのを隠す様子も見せずに返答してきました。

ボクは無言でそれを受けつつも、思わず『知らねえのかよ?!』と、心の中でツッコミを入れてしまいます。

どうやら張角は、自分がせっかく感動する話しを語ってあげたのに、ボクが感動していない事に不満を覚えているようでした。

 

「え〜。じゃあ、その助けてくれた人からの((文|ふみ))の現物とか、もしくはその文の詳しい内容ぐらいは知っているよね? それを教えてくれないかな?」

「そんなの、わたし知らないよー。だって、お爺ちゃん。いつも、文を読んだ後に燃やしちゃったし。それに、他人に来た文を見ようとするなんて真似、わたししないもん!」

 

ボクは尚も食い下がって、何とか証拠なり確証を得ようともがきました。

ですが、そんな涙ぐましいボクの努力を、張角は一刀の下に切り捨ててくれます。

しかも正論を言われているはずなのに、何故か張角から言われると素直に聞き入れたくない、そんな屈辱感も合わせてもたらしてくれました。

 

(ちっ。これじゃあ、知らないでいる時より余計に気になるじゃないですか。((肝心|かんじん))な部分が抜け落ちているお話しなんて、肉なしの牛丼みたいなものです。それじゃあ、牛丼じゃ無くてタマネギ丼だっつうの! まったく使えません。((質|たち))が悪いのにも、ほどがありますよ)

 

ボクは内心で舌打ちして、そのように思いながら今後どのようにして行くべきかを悩んでしましました。

正体不明の人物に対抗する為に情報を求めたのに、その情報を聞いた後の方が混迷さを増してしまったからです。

 

「姉さん……。私、そんな話し初めて聞くんだけど?」

 

ボクが内心で毒づいていると、張梁が張角に問い質していました。

彼女は頭が痛くなっているのか、目を閉じながら ((眉間|みけん))に寄っているシワを指で((解|ほぐ))しているようです。

 

「そっ、そうよ! そんな話し、今まで聞いたことなかったわよ?! 何で黙ってたのよ?!」

 

張梁に続いて、それまで黙って話しを聞いていた張宝が、同じように声を荒立てながら張角に詰め寄りました。

 

「ええー。お姉ちゃん、黙ってたんじゃ無いよぉー。二人が話しを聞いてくれなかっただけじゃない!」

 

張角は問い質してくる妹たちに、怒りを露わにしつつ頬を膨らませながら反論してきました。

 

「だって、れんほーちゃんは、商人のおじさん達と難しいお話しばっかりしてて、お話ししようと思っても『いそがしいから、後でね』って言うし。ちーちゃんは、可愛い男の子たちを周りに((侍|はべ))らして、((悦|えつ))に((浸|ひた))って居たじゃない! お姉ちゃんも((交|まぜ))てって言ったのに、聞いてくれなくて悲しかったよ! だからお姉ちゃん、誰も相手にしてくれなかったから、お爺ちゃんとお話ししてたんだもん!」

 

張角は自分が悪くないと云う反論をしている中で、張宝が可愛い男の子を周りに侍らして逆ハーレムを作っていた事を暴露してしまいます。

それを聞いていた華陽軍の将軍たちは、『へぇ〜、そうなんだ〜』みたいな感じを匂わせる生温かい目を張宝に向けました。

 

「ちょっ?! ちっ、違うわよ?! そんな事して無いんだからね?! あっ、あれよ! その……。そっ、そう! 悩みを聞いてあげてたのよ!」

 

周りからの生温かい目に耐え切れなくなったのか、張宝は『いま考えました』的な、その場しのぎの((杜撰|ずさん))な言い訳をかましてきました。

そんな幼い子供みたいな態度をとる彼女を、周りにいる将軍たちは温かい目で見守っています。

でも張宝は、そんな大人的な周りの反応を理解していないのか、これで大丈夫とばかりに一息をついて安心していました。

 

「えー。そんな事ないよー。だって、ちーちゃん。お姉ちゃんが部屋に入って行った時、可愛い男の子と何か良い雰囲気だったしー。それになんか、“ちゅー”しようとしてたもん!」

 

これで一件落着としたい張宝の((健気|けなげ))な努力を、張角は自分の方が正しいとばかりの反論で無に帰してしまいました。

 

「わあー! わあー! 何で姉さん、今そんなこと言うかなぁー?! お願いだから、黙っててよぉ!」

 

少し涙目な張宝が張角の口を手で押さえ込んで、余計なことを((喋|しゃべ))らせないようにしていました。

でも張角は、そんな張宝の行動を避けながら真相を暴露しているようです。

ボクはそんな彼女たちの姉妹喧嘩を余所にしながら、座っている椅子の((肘|ひじ))掛けに肩肘をついて頭を((凭|もた))れかからせ、もう片方の手の人差し指を肘掛けの上で((忙|せわ))しなく動かしていました。

 

(まったく。なんて茶番でしょうかね。緊張感が、まるで感じられません。彼女たちは、正体不明の強敵が居ると云う事を分かっているのでしょうか? こうしている間にも、その牙が((此方|こちら))に向かっているかも知れないというのに)

 

思うように情報がもたらされなかった事に、ボクは大きな失望を感じていました。

さらに、それらを理解していないであろう張角たちの無天気さが、それに拍車をかけているように感じられる。

だからボクは、何の手立ても考えつけずに無策のまま、そんな茶番を見ているしかありませんでした。

 

「なあなあ、大将。どないしたん?」

 

どう対処したものかと考え込んでいると、おもむろに李典が近寄って来て話しかけてきました。

ボクはそのままの格好を維持しながら、そんな彼女を見るともなしに返答していきます。

 

「んー? 何がだい?」

「いや、何って……。大将の態度のことや。いつもと、ちゃうやんか」

「そーかい? いつもと変わらないと思うけど?」

「そないな事あらへん。大将、絶対おかしゅう成っとるって。そないイラついてるんが、その証拠や。きいつけんと」

「はあ〜?! なに言ってるんだよ、真桜。そんな事……な…い…?」

 

いきなり変な事を李典が言ってくるので、ボクは取り合うこと無く否定の返答をしました。

しかし、李典が尚もしつこく言い募ってくるので、ボクは顔を上げて彼女と視線を合わせながら否定の言葉を返そうとします。

でもボクは、そこでふと我に返って今の自分の在り方に気が付きます。

いつの間にかボクの意識状態は“いま、ここ”に在るのでは無く、 “思考の罠”に囚われていたと云うことに。

 

「……」

 

ボクは自分の意識状態に((愕然|がくぜん))として目を見開き、片手で口元を隠しながら今迄の自分の在り方を((顧|かえり))みていきます。

そうすると、李典が言うように自分を見失っていた事に納得せざるを得ませんでした。

いつの間にか口論を止めている張角たちや華陽軍の将軍たちが、そんなボクを気遣うように見ています。

ボクは席から立ち上がり、そんな彼女たちを顧みることなく、そのまま張角たちの脇を通って天幕から出て行こうとしました。

 

「若。どこへ、お行き為さる?」

 

会議の途中で天幕から出て行こうとするボクに、厳顔が説明を求めるように後方から話しかけてきました。

 

「……少し、夜風に当たって頭を冷やして来る。ボクは小半時ほどで戻るから、皆もそれまで休憩してくれて良いよ。それと明命。悪いけど、((天和|てんほう))たちをもと居た天幕に連れて行ってくれるかな。後で誰かを呼びにやるから、その時に彼女たちの荷物も一緒に持って来て欲しい」

 

ボクは厳顔の言葉を受けたので、天幕の入り口付近で一旦立ち止って将軍たちに言早に要件を告げます。

将軍たちが了承する言葉を確認すること無く、ボクはそのまま天幕から出て行きました。

 

 

 

「ここら辺で良いかな……?」

 

ボクは華陽軍の陣営から離れた((人気|ひとけ))の無い場所まで歩いて行き、周りを見回しながら独り言を((呟|つぶや))いて、そのまま少し((傾斜|けいしゃ))のある斜面に大の字になって寝転がって行きます。

地面に寝転がって夜空を見上げてみると、そこには上弦の月が真上に来ていて、秋から冬にかけての季節の移り変わりに相応しい、やや寒い風がボクの肌を軽く撫でてきました。

 

 

「はあー……」

 

暫く肌を誘う風を感じていましたが、ボクは少しずつ肺にある息を静かに吐き出す事に意識を向けていきました。

 

「すうー……。はあー……。すうー……。はあー……」

 

身体が((力|りき))まない程度に息を吐き出して行った後、その境を静かに見詰めながら、今度は静かに鼻から息をお腹に吸い込んで行きました。

その複式呼吸を意識的に行なっていく中で落ち着きを取り戻していき、ボクは次第に自分の意識状態を“いま、ここ”に在るように変性していこうと思います。

ボクは目を閉じながら感覚を研ぎ澄ましていき、自分の内なる身体を感じ取っていく事に専念します。只々無心に、その事のみを行なっていきました。

目を閉じながら暫く呼吸を整えていたボクは、頃合いを見てそのまま右手を感じていきます。次に右手から肘までを、さらに肘から肩までと云った具合に意識を向けて感じ取っていく。

右腕が終わったら、次は左腕を右腕と同じように感じ取っていきます。その同じ要領で、胸・腹・股・右足・左足・尻・背骨・頭などの五体を次々に感じ取っていき、最後に全身を((隈|くま))なく網羅するように意識を向けて感じ続けていきました。

 

呼吸と云うものを、人は普段の生活では無意識で行なっている。そうしなければ死んでしまうのだから、当然と云えば当然なこと。

ですが、同時に呼吸と云うものは意識的に行なえるものでもある。つまり、呼吸は無意識と意識的との境に位置する存在なのです。

さらに人は、二つ以上の存在に意識を向けている時、物事を考えると云った行為が出来ません。

例えば、意識的に呼吸しながら自分の身体の((丹田|たんでん))と心臓の位置に意識を向けて感じている時、頭の中で何かを考えると云った行為が出来なくなるのです。

それはつまり、自分の内なる身体を意識的に見詰めて感じている時は、自分の頭の中での“おしゃべり”が止む事を意味しました。

だから、呼吸を意識的に整えつつ内なる身体に意識を向けて行くと、次第に頭の中がすっきりしてくる。それに連れて、“おしゃべり”に邪魔されなくなる((明晰|めいせき))さが取り戻されていくのです。

 

 

「ふぅ〜……」

 

ボクは一息ついて、さらに身体の((力|りき))みを無くしていきました。

 

(だいぶ落ち着いてきましたね。もう大丈夫でしょうか……?)

 

ボクはそう思いながら、自分を内観しつつ状態を確認していきました。

すると、不安・疑念・焦燥と云った感情が、少しではあるものの残っている事を感じ取ります。

 

(はあぁ〜。まだ、ありますね。……仕方ありません。考え方を変えて、感じ方を変えて行くしかないですね)

 

ボクはそのように考え、自分の望みは何なのかを自身に問いかけていきました。

『ボクの今の望みは、何か……?』と。

そうやって自分を内観していく過程で、ボクは次第に自分の望みを明らかにして行くことが出来ました。

 

 

――ボクは死にたくない。

――皆を死なせたくない。

――正体不明の存在なんかに、負けたくなんかない!

 

 

そんな望みを、今の自分が持っている事を感じ取ります。

 

(いや……、これではダメです。これでは、ボクの望みは((叶|かな))わない)

 

ボクはそのように思い、自分の望みが叶うような考え方に変更していこうと考えました。

何故なら、『死にたくない』・『死なせたくない』と云う望みでは、自分や皆が『死ぬ』と云うことに((焦点|しょうてん))を当てているからです。

この望み方では、自分や皆が『死んで欲しい』と望んでいる事と同義になってしまうからでした。

 

(ボクは死ねない……。これも違いますね……。そうです! ボクは死にたくないんじゃない、“生きていきたい”んだ!)

 

ボクは内観の末に((閃|ひらめ))きを得て、自分が本当に望んでいる『生きる』と云う事に焦点が当てられました。

そのまま他の望みも、同じ要領で変換していく事にします。

 

 

――ボクは生きていきたい。

――皆に生きていて欲しい。

――ボクは強い存在で在りたい!

 

 

ボクは考え方を変えていった為に、少しずつ気分が高揚していくのを感じ始めます。

そして、その感覚をとっかりにして、次々に自分の望むことを表面に現れるようにしていきました。

 

 

先程までのボクは、知らず知らずの内に無自覚な状態に((陥|おちい))ってしまっていて、自分の頭の中に創り上げた想像の産物、つまり正体不明の権力者と云う存在を創り出して、その存在が今にもボクたちに害を及ぼすのでは無いかと云う恐怖を感じてしまっていた。

さらには、想像の産物には際限が無い為に、その正体不明の人物は戦乱すらも個人で創り出せる、そんな不気味で巨大な存在だと考えてしまっていたのです。

それらを恐怖する思いを基幹とした見解を持っていた為に、その在り方を感じる不安定な状態に陥ってしまって、その為に感じた不安感を解消すべく情報を求めたのに、思うように集まらない事に((苛立|いらだ))ちを感じてしまっていた。

張角の話しを聞く限りでは、人々の不満を((煽|あお))って黄巾の乱が出来上がる一因を創り出したと思われる老公は、((洛陽|みやこ))の誰かと連絡を取り合っていたと云う。

だからボクの予想するように、本当に正体不明の権力者と云う存在も居るのかも知れないし、その人物が老公を送り込んで戦乱を広げる策略も計画したのかも知れません。

ですが、仮にそんな不気味な正体不明の権力者と云う存在が居たとしても、実際のボクの目前には存在しては居ません。ただ、ボクの頭の中に存在して居るだけなのです。

だから本来は、その存在に対して差し((迫|せま))った恐怖を感じる必要も無い。

それでも、その存在に対して恐怖を感じてしまっていたのは、その存在を“いま、ここ”でボクが臨場感を持って“あるもの”として((見做|みな))してしまったからでした。

だから、今にも自分が襲われるかも知れないと云う恐怖を、この身に差し((迫|せま))った恐れとして感じてしまっていたのです。

ですが同時に、これらの思考と云う道具は使い方によっては心強い友にもなり得るもの。

ある出来事を、ある思いを選択して見定めて解釈すれば、その選択した思いによって自分が受け取る現実が決まっていく。

つまりそれは、望まないことに焦点を当てて心配する余り、出来事を否定的に見て意気((銷沈|しょうちん))させてしまったのなら、逆に望むことに焦点を当てる事で、出来事を肯定的に見て意気((軒昂|けんこう))にしていく事も可能だと云うことなのです。

だからボクは、否定的な見解を自分が選択していた事を受け入れた後に、それを肯定的な考え方へと次第に変えていく事で、沈んでいた気分を情熱あふれるヤル気に満ちた気分に変えることができ、その在り方を感じられるように成って行ったのでした。

 

多くの人々は、先ほどまでのボクと同じように、未来に何かが起こるのでは無いかと憂いて心配しています。また、過去を振り返って自分の行なってきた事を後悔してもいます。

それらの事を気にかけ過ぎている為に、なかなか意識を“いま、ここ”に向けられずにいるのです。

でも実際は、過去の出来事は自分の“記憶の産物”であり、未来の出来事は“想像の産物”でしかありません。どちらにせよ、自分の頭の中で創り出している“物語”でしかありませんでした。

今現在の自分の身に起こっていないのですから、それらを今現在の自分に起こっていると感じる必要もない。

だから、自分の意識状態を“いま、ここ”に焦点を当てる事で、恐怖や不安と云った感情は霧散していくしかないのです。

もちろん、良い意味でも悪い意味においても、未来に何かがあるかも知れないと想定し、それに対処していく事は大事なことだとボクは思っていました。

危険を想定して対処することで、大事が小事に成っていくこともあります。それに、自分の望むことを想定することで、その望みに向かって自分自身が((誘|いざ))なわれていくと云うこともあるからです。

でも、未来に何かが起こりうると想定して自分のできる範囲の対処をした後は、あるがままを受け入れる心を持って、必要以上に心配して恐怖を感じる必要は無いのです。

何故なら、必要以上に心配して恐怖を感じていると云うことは、自分の望まないことに焦点を当てているからであり、それでは自分の望むことが叶わないようにしている事と同義に成ってしまうからでした。

 

現実に起こっている全ての出来事には、必ず理由があるとボクは思っていました。

原因の無いところには、結果も現れて来ないと思うからです。

でもそれらは、天ならぬ人の身では計れないものもある。

人の身では計れない色々な事象や、多くの人々の思惑などが重なり合って織り成して行くものだと思うからです。

多くの場合において、それは未だ目覚めていない人々が根底に持つ“恐怖心”が根幹にあって、複雑に((絡|から))み合いながら織り成されている。

悲しいことですが、己の持つ恐怖心と向き合う((術|すべ))を知らず、それを受け入れ手放していけない以上、そうならざるを得ないのが現状でした。

だから、何か自分にとって不都合で不愉快な事が起こって来ると、その責任を他者に押し付け排斥しようと謀ることになってしまう。

しかし、起こっている全ての出来事には、どのような意味をつけるのかは一人ひとりが決められるのです。

人生に起こる出来事は常に中立で、そのもの自体に意味を含んでいないのですから。

なにより、ある出来事を否定的な見解で見て、否定的にしか受け取らなければ成らないとは、誰にも決められていない。

不都合で不愉快な事は自分の外側で起こっているのでは無く、自分の内側で起こっている現象なのです。

仮に、ある見解を持つようにと強要されたとしても、それを受け入れるかどうかさえも自分自身で選択できること。

だから、自分を見失っていない状態を維持できるのなら、人は常に『どう在りたいのか?』と云うことを自身で決めていけるのです。

 

ただ、この道を進んで生きて行くことは、容易なことではありません。

常に自分に意識を向けて状態を注意深く見詰めていても、気付かない内に恐怖心や不安感に((囚|とら))われていたり、まだ目覚めていない人々から善意であるのかも知れませんが、その人々が選択している考え方や思い方を強要される事もあると云うのが、その理由でした。

そして、それらの影響を受けて自分の望む在り方からブレてしまえば、その度に自分を見詰め直して在り方を戻さなければ成らないと云った、そんな地道な作業と根気さが要求されるからです。

地味で大変な作業は御免((被|こうむ))ると言って、今迄のように在りたいと望む人達を強制的に従わせることは出来ません。

在り方を決められると云うことは、その人達が持っている権利であると同時に、その権利で決めた結果を受け取るのが、その人達の義務でもあると思うからです。

だからこそボクは、多くの人達に新しい概念を伝えつつも、それを強制しませんでした。

いえ、出来なかったと云うのが正しいのかも知れません。

今迄の概念のままで在ることが、例えその人達にとって絶えず苦しみを生み出してしまう、そんな在り方であると気付いていたとしても、それでは人としての尊厳と誇りを、その人達から奪うことに成ってしまうのだから。

 

 

 

「ふふっ……ふふふっ……」

 

ボクは新しい概念を人々に伝えながら、その在り方を持って大陸に平和を築いて行きたいと考えていました。

その想いを胸に((此|こ))れまでやって来たというのに、そんな自分が李典に言われるまで恐怖心に囚われて居たことに気付かず、いつの間にか身の内に平和の感覚を築けずにいた事が可笑しくて、笑うよりほかなかったのです。

 

「はあ〜……。やれやれだね。自分の身の内に平和を感じていなければ、それを((唱|とな))えていく資格など無いというのに……」

 

ボクは自分に言い聞かせるように呟きました。

 

「……ボクも、まだまだ未熟、と云うことなのだろうね。ほんと、いつになったら納得いく自分で在り続けることが出来るのか……。さきは長い、と云うことなのかなぁ……」

 

溜息をつくように呟いていると、ふとお月様がボクの目に留まります。

 

人と云う((種|しゅ))が存在する何億万年前からそこに在って、これから先の何億万年後に人と云う種が存在しなくなる事があるとしても、変わらずそこに存在し続けるであろうと確信できる存在。

そんな悠久の存在である月が、幼く未熟な存在である人と云う種の成長を、ただ優しく見守るかのように、その身を輝かせながら静かに見詰めてくれていた。

それはまるで、自分のように悠然と存在する為に、もっと辛抱強く精進して行きなさいと((励|はげ))ましてくれているようだとも感じられて、そんな月にボクは、ただ静かに、そして深い感謝の念をささげます。

 

 

そしてボクは、月に誓いを((奉|ささ))げるかのように決心していく。

 

 

 

――これからも生き抜いていく。皆と共に。

        なにより平和を、この身で((顕現|けんげん))なさしめて――

 

 

 

 

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[補足説明]

 

丹田……お腹のヘソから、3p下あたりにあると云われている部位。指3本分くらい下?

 

 

読んで頂いて、ありがとう御座いました。

では、また次回にて。

説明
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
*この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。
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コメント
NSZ THRさん、コメントありがとう。なるほど、そうですね。それぞれの話しで、それぞれのテンポを使えば良いんですよね。これからは、その事を気にかけながら書いて行こうと思います。(愛感謝)
というよりも地の文が長いほうが良いかと 会話において物語を説明するとなると 敵が目標を喋ったりすると小物感がしませんか? 無論テンポの速い物語などでは会話の方が多いほうがいいこともあるのでそれは作者さんのさじ加減だと思います(NSZ THR)
NSZ THRさん、コメントありがとう。地の文が長いのが良いと云う発想は、私にはありませんでした。気づかせて頂いて感謝します。短くしようとしたんですけど、色々説明していたら長くなってしまいました。(愛感謝)
相変わらず地の文が長い 欠点ではなく、漫画や映画では必ずしも登場人物を完全に説明できないこともあるので 地の文が長いことはいいことだと思います 自分も物語を書きたいのですが地の文が短くて中身が薄く感じているので羨ましいです(NSZ THR)
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