IS学園にもう一人男を追加した 〜 OVA 迷える愛犬・・・新しい主人
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ルン

「くぅ〜」

 

【迷える愛犬・・・新しい主人】

 

深夜のIS学園の学生寮・・・

 

ルン

[キョロキョロ]

 

何故か、ここ学生寮に迷い込んだ一匹の炎犬。

明かりはともっていないのに、自ら発光する紅い灯が暗い廊下を少しだけ明るくしていた。

その視界と嗅覚で廊下を歩いていると、酒臭い匂いが『ルン』の鼻につんざく。

 

ルン

「・・・」

 

その匂いに顔を歪めながら、その匂いの発生源を求めて、ある一室で足を止めた。

 

ルン

「・・・がう」

 

小さく鳴いて、扉が開閉を確認する。さすがに鍵は開いてないが、『ルン』には関係ない。

身を霧状にして、室内の侵入に成功した。

 

箒・鷹月

「zzz・・・」

 

無音の部屋に2人分の寝息が聞こえる。

そして、酒臭い匂いの根源は・・・

 

「んんぅ・・・すぅ・・・」

 

『ルン』は椅子かかった白いドレスの匂いを嗅いで、その持ち主が箒と分かる。

 

ルン

「・・・ふぁあああ」

 

正体も分かって、眠気も襲ってきて、『ルン』はその場を立ち去ろうとする。

 

「んぅ・・・」

[ゆらっ・・・]

 

ルン

[ピクッ]

 

箒が寝返りを取った時、掛け布団からはみ出た美しくのびた黒髪がベットで揺れ、『ルン』は動きを止めた。

ピョンとベットの上に飛び乗り、『ルン』が箒の長髪を前足を触る。

箒が寝返りをうつ度に、発光している『ルン』の光でキラキラと黒髪が輝く。

 

ルン

「・・・」

 

その光に魅了されたか、黒髪に横たわる『ルン』。

そして、すぐに眠りに落ちた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

 

「うぅん・・・もう朝か」

 

もう冬の時期なのに、日差しが窓から漏れている。

 

「いつっ・・・!」

 

頭痛がする・・・確か昨日は、一夏と一緒にテレシアのレストランに行って、告白しようとして、王子様が・・・

あれ? その後は?

 

鷹月

「今日は起きるのが遅いね。やっぱり、織斑君と何かあった?」

 

寮部屋が同じ鷹月 静寐が日差しを塞いで私の顔を覗き込む。

その懐に・・・

 

ルン

「・・・」

 

「・・・」

 

何時ぞや襲撃してきた炎犬が収まっていた・・・

 

ルン

「がう!」

 

「うわっ!? な、なんだ?」

 

急に頭の上に乗ってきた炎犬。

 

鷹月

「やっぱり、箒の髪の上が一番、居心地がいいんだよ。寝てる間も、気持ち良さそうだったし」

 

ルン

「♪〜」

 

「・・・どうして、こうなった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ナデナデ]

ルン

「・・・ふぁああ」

 

クラス女子

「「「可愛い〜!!!」」」

 

私の頭上で轟く女子達の歓喜な声。

周囲を円に囲んで叫ぶから耳につんざくのに、当の本人・・・本犬はのん気にあくびをかいている。

ただでさえ、頭痛が酷いのに・・・

 

ラウラ

「すごい人気だな・・・」

 

セシリア

「確かに・・・」

 

外野の声がやけに聞こえやすい・・・って、この炎犬が学園を襲った存在って事を忘れてるのか? 何故、そこまで落ち着いている・・・しかも!

 

シャルロット

「可愛い〜!」

 

コイツも、思いっきり愛でてるし!

 

「・・・はぁ」

 

私はこの犬の主人ではないぞ・・・

 

ルン

「がう?」

 

千冬

「何を騒いでいる!」

 

クラス全員

[ビクッ!?]

 

出席簿を手に・・・というか、武器にして教室に入ってきた。

クラスの皆はそそくさと私から散らばって自分の席に着席する。

 

千冬

「・・・篠ノ之」

 

「あ、いや、これは・・・」

 

ど、どう頭に乗る愛嬌犬を説明すればいい? このままじゃ、またシバかれ───

 

千冬

「昨日の件で、少しばかり話がある。HRが終わったら職員室に来い」

 

「え・・・あ、はい」

 

そう言って、朝のSHRが始まった・・・いつも通りに。

私はすぐに頭に触れた・・・

 

[ナデナデ]

 

感触はある。だが、そこには、あの炎犬の姿はない。

 

(い、一体、何がどうなっているのだ・・・?)

 

その後、職員室の千冬さんの話や授業内容は、一切、頭に入らなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学食にて・・・

 

シャルロット

「それって、"陽炎"とか"蜃気楼"とかじゃないかな?」

 

同じ席に座るシャルロットから、この炎犬・・・『ルン』が"消えたのに、そこにいる"という現象の推測を聞いた。

"陽炎"は地面が熱せられて、空気が揺ら揺ら立ち昇り、景色が揺れているように見える現象。"蜃気楼"は光が屈折し、地上や水上の物体が浮き上がって見えたり、逆さまに見えたりする現象。

どうやら、『ルン』は大気の熱量を制御が出来て、光の屈折で自分の姿を消せるみたいだ・・・情報提供者は飼い主 兼の布仏。

 

ルン

[クイクイ]

 

「な、なんだ?」

 

今は姿を露にしている『ルン』が小さな前足で、私の頭を叩く。

たぶん、私が食べている塩焼き魚を欲しがっているのだろう・・・お前は犬だろうが。

しかたなく、私は割り箸でつまんだ白身魚の切り身を頭上に持っていく。すると、パクッと一口で『ルン』は切り身を食べた。

 

「ハァ〜〜〜♪」

 

・・・今日一日、こんな感じで過ごしていかなければならないのか。

 

ルン

[クイクイ]

 

「お前は気楽でいいな・・・」

 

ルン

「がう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜〜・・・」

 

今日の部活は休んだ。

さすがに、今の精神力じゃ持たないだろう。

私はベットに体を投げ出して、ボフンとベットに埋まる。

 

ルン

「zzz・・・」

 

仰向けになると、ベットの上に散らばりになった黒髪の上で『ルン』は寝息を立てていた。

布仏からは、"ルンちゃんの好きにしてあげて"と言われたが、寮はペット禁止だ・・・って、コイツは生き物の認識でいいのだろうか?

でも、気配は探れるみたいだし、いざって時は自分で判断しているから私が気を使うことがない。ただ"巻き込まれる"だけだ。

 

「・・・」

 

私は髪を胸元までもってきて、その上に『ルン』を寝させる。

胸元の谷間に顔を乗せ、寝息を立てている姿は本当に愛らしい。

懐かれるのは、嫌な気分じゃない。事情も知って、『ルン』は脅威でないことも分かった・・・気にしているのは、『紅椿』だ。

 

[ゥゥ・・・ゥン]

 

さっきから、待機状態の『紅椿』が疼いている。

これが何を意味しているのか・・・もしかしたら、私はコイツとなら───

 

ルン

[パチッ]

「・・・がう?」

 

「・・・これからも、頼む」

 

どうして、この言葉が出たのかは分からない。

だけど、コイツとなら何かが成せるかもしれない・・・勘だけど。

 

ルン

「がうっ!」

 

 

 

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【増えた獅苑ファミリー。中国に不法入国・・・語られない"その後"】(その2)

 

獅苑

「・・・あ〜、疲れた」

 

俺はたった今、日本海を自分の身だけで横断して、朝鮮の港の無人小屋で身を潜めている。

黒いウェットスーツを脱ぎ捨て、篠ノ之博士特製の防水バックから私服着に着替える。

 

獅苑

「───博士。無事、到着しました」

 

耳に取り付けたインコムで篠ノ之博士と連絡を取る。

 

『じゃあ、そのまま中国に行って。結果が出たらまた連絡するから・・・あっ、移動方法は自分で探して』

 

そう言って、相手から通信を切られた。

篠ノ之束のラボにお世話になってから、少しは博士とも他人の会話は出来るようになった。特に、俺から何もしてないが、くーが居てくれたおかげだろう。

 

獅苑

(・・・はぁ。1人がこんなに退屈とはな〜)

 

中学時代に1人で家で過ごしてた時は、こんな気持ちにはならなかった。それだけ、学園生活が充実していた。

しかも、ここ何週間、全国を1人で乗り物も使わず、海やら山やらを越えている。哀楽や秋激にも会えないから、毎日の脱力感が半端ない。

で、何で俺が世界中を回っているかというと・・・俺にも知らない。

ラボに居候してもらうかわりに、仕事を手伝っているのだが、その詳細は知らない。"マイクロ波"がどうのこうのとは言われたが・・・

まぁ、この旅にもう1つ目的があって、俺の中に残っている催眠対策として、精神修行にもなっている。

それが日本海横断と関係があるの?と言われたら、返す言葉はないが・・・

 

獅苑

「・・・で、どうやって国境を渡れと?」

 

確か、この辺りに豆満江(とまんこう)っていう国際河川があったな・・・まさか、目を盗んで不法入国やれと?

 

獅苑

「またかよ・・・」

 

だから、俺は国際指名手配犯の悪名がドンドン大きくなるんだよ・・・まぁ、学園の人達の耳に・・・特に更識家には伝わってないみたいだし、そこ"だけ"は救いだ。

という訳で、不正国境渡りを実行する事にした・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅苑

「ぐふ・・・」

 

中国の区域に到着・・・だが、すでに身体的にヘトヘトになっていた。

顔は見られなかったが、まさか警告なしに発砲してくるなんて・・・おかげで、服がボロボロだ。

 

獅苑

「もう、無理・・・寝る」

 

廃工場跡地で、ボロボロの黒いコートを投げ捨てる。

錆びたシェルターに背を預けて、懐から薬瓶を取り出す。そこから三錠ほど手の平に乗せて口に放り込む。

 

獅苑

「[ゴクッ]・・・はぁ」

 

これを定期的に飲まないといけない。

俺は"ただのクローン"ではないから、老化のスピードが速く、この薬はその老化を抑える効力がある。"方舟"や"人造人間"と言われても、その分脆い部分はある。

勿論、この薬は篠ノ之博士特製。

 

獅苑

「ふぁああ・・・おやすみ」

 

薬の副作用で眠気が一気に襲ってきて、俺はすぐに眠りに落ちた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅苑

「・・・」

[ピタッ]

 

・・・何か、額に冷たいものが・・・

 

獅苑

「うぅん・・・」

 

李詠(りえい)

「あっ、起きた?」

 

目を開ければ、見知らぬ天井に見知らぬ着痩せしたオレンジ髪の少女。

額には濡れタオルが折り畳まれて置かれていた。

 

李詠

「アンタ、廃工場で高熱を出して倒れてたんだよ」

 

日本語・・・?

 

獅苑

「・・・高熱?」

 

・・・そういえば、あの薬の副作用は眠気だけじゃなくて、高熱も発症するとか言ってたな・・・ってか、絶対嫌がらせで作ったろ、博士の奴・・・

と、心の中で呟いていると、木製のお盆を持って若い奥様が、古びた襖を開けた。

 

羽羽(はう)

「調子はどうですか?」

 

獅苑

「は、はい・・・」

 

こちらも達者な日本語で、優しい笑みを浮かべる奥様。その服装は、つぎはぎだらけでボロイ。

少女の服装も、この家もそうだが、かなり貧乏なお宅みたいだ・・・って、失礼だな。

自分に×をつけて、奥様が持ってきてくれた水で喉を潤す。

 

羽羽

「今日は泊まっていって。まだ熱は残って──ごほっ、ごほっ!」

 

李詠

「お母さん! 無理しちゃ駄目だって! ほら、お部屋に戻ろう」

 

少女は奥様の背中をさすりながら、部屋に送り届けに行った。

 

獅苑

「・・・なんか、"面倒"そうな匂いがする」

 

直感的にそう思った・・・博士の所に居候してからというもの、面倒事を押し付けられ続けたせいか、鼻が利くみたいに勘が利くようになった。

さっさと退散した方が───

 

獅苑

「あれ? 荷物は・・・」

 

李詠

「ここよ」

 

奥様を部屋に送り届けた少女の手には、黒いポーチが握られている。間違いなく俺のだ・・・

少女はポーチのチャックを開けて、護身用の拳銃を取り出す。

 

李詠

「アンタ、何者? こんな物騒な"ブツ"を入れてるなんて」

 

獅苑

「・・・」

 

ど、どう言い訳しましょう・・・?

 

李詠

「・・・ここじゃ、あれだし。外に行きましょ」

 

拳銃をポーチに戻し、俺にボロボロのコートを投げ渡して、家を出る。

俺もその後について行くと、少女は小さな公園のベンチに腰を下ろした。

 

李詠

「ほら、アンタも座りなさいよ」

 

トントンと座っているベンチの隣を叩く。俺はそれに従って少女の隣に座った。

 

李詠

「アンタ、名前は?」

 

獅苑

「ジョン・スミス」

 

李詠

「・・・それって、"偽名の代名詞"だよね? ぶっ飛ばされたい?」

 

いや、笑みで脅されても・・・自分は国際手配犯なんで、と言えるわけもないし。

 

獅苑

「・・・ぶっ飛ばされても、いい」

 

おいおい・・・この発言は危うくないか?

 

李詠

「・・・」

 

ほら、引いてるし・・・

 

李詠

「ま、まぁ、人それぞれ事情はあるよね、うん・・・じゃあ、ジョンは特に泥棒とか、怪しい奴じゃないのね?」

 

獅苑

「違う」

 

泥棒というか、国際的犯罪者ですけどね・・・

 

李詠

「なら、さっさと家から出てって。あたしの母親、見ての通り誰でも心を許しちゃう人だし、拳銃を持っている人だって家に上げさせちゃうほどなんだから・・・だから、あいつらに騙されて」

 

獅苑

「・・・」

 

最後の部分は聞き流すことにした・・・我ながら、酷い奴だとは思うがな。

 

李詠

「とりあえず、このポーチは預かるわよ」

 

獅苑

「・・・は? なんで?」

 

李詠

「あのね、警察に報告しないだけでも感謝しなさいよ。ここ最近、ISやその操縦者を狙った事件とかあるんだから」

 

それは"亡国企業"の事か? だけど、あの組織は既に力を失っているはず・・・

 

李詠

「じゃね!」

 

獅苑

「あっ、おい!」

 

俺が気づいた時、少女の姿は遠く小さくなっていた。

さすがに、ポーチをそのまま持っていかれたら困る。拳銃の事もそうだが、あの中身には色々と入ってるんだぞ・・・!

すぐにベンチから立ち上がり、少女を追って駆け出す。たぶん、自宅に戻ったのだろう・・・と思い、記憶を頼りに足を速める。

 

「───!!」

 

獅苑

「っ・・・?」

 

少女の家は目と鼻の先。だが、その玄関前で先ほどの少女と、いかにもヤクザと匂わせる服装をしたおっさん3人が言い合っていた。

中国語で何を喋っているかは分からないが・・・あっ、奥様が出てきた。

 

羽羽

[ペコペコ]

 

今度は頭を下げた。少女は苦渋な顔で奥様に合わせて頭を下げる。

おっさん達は調子づいた笑みで、少女が持っていた黒いポーチを奪って立ち去っ───

 

獅苑

(・・・あ〜あ、どうすんだよ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜・・・

 

下っ端1

「那裡的夫人、相當的美人火山灰!」

 

・・・和訳します。

 

下っ端1

「あそこの奥さん、中々の美人だよな!」

 

下っ端2

「いやいや、娘さんも可愛いかったぜ。あの幼い体には勿体ない位の実りがある! ありゃあ、将来は上玉になるぜ!」

 

下っ端3

「そんなにすげぇのかよ!?・・・なぁなぁ、だったら早いとこ手をつけようぜ」

 

下っ端4

「馬鹿かおめぇは・・・そんな事したら組長に殺されるぞ」

 

下っ端5

「それに、あそこの娘は代表候補生だ。組長も政府を相手取る事はしないだろ」

 

下っ端6

「じゃあ、未だにあの家族に突っかかるんだ? 家やら家具やら取っ払えば、返せない借金でもないだろうに」

 

下っ端7

「何でも、次のIS適正試験に落ちれば代表候補は剥奪されるらしい。あの娘は成績最下位者だから、剥奪される時期を待ってるようだぞ」

 

タバコの煙が充満する荒れた事務所に、詰め込むように柄の悪い男達が十数人が溜まっていた。

その奥の部屋・・・

 

組長

「このポーチ、どう思う?」

 

若頭

「重さからして、金属部類の物が入っているのは間違いないと思いやす・・・開けやしょうか?」

 

組長

「頼む」

 

2人しか居ない室内に緊張がピンと張り詰める。

葉巻を口に咥えた組長も、サングラスをかけた若頭も、裏社会で命を張ってきた"男"だ。

女尊男卑の世の中でも、ISさえなければ男が普通に強い。テロ組織などにでも女性が筆頭になっている組織はあるが、半数以上は男が多い。

まぁ、説明もほどほどにして、若頭が黒いポーチのジッパーに手をかける。

 

[・・・ジ、ジジジジジ]

 

開かれるポーチを覗き込むように、組長と若頭が息を呑み、ついにジッパーが中間まで来た時・・・

 

[ボンッ!]

 

組長・若頭

「っ!?!?」

 

ポーチから突如飛び出したバネ付きのピエロ人形。予定外の事に組長も若頭もその場で尻ごんだ。

そして、自分達がおちょくられたと思った2人は顔面を真っ赤にして、怒り心頭。

 

組長

「ぐ、ぐぐ・・・あの小娘をここへ連れて来い!! 大人の怖さを教え込んでやる!!」

 

組長の怒号に若頭が応答した。だが、若頭が組長室から飛び出す手前、一人の下っ端が慌てた表情で飛び込んできた。

 

若頭

「何だ!? 組長の前だぞ!!」

 

下っ端8

「す、すいません! で、ですが───」

 

[ガタガタガタガタガタッ!!]

 

組長

「何だ、騒々しい・・・どこの奴らだ?」

 

下っ端8

「そ、それが・・・若い女でして」

 

若頭

「"女"?」

 

下っ端8

「しかも、相手はたったひとりで───[ゲシッ!] ぐへ!?」

 

下っ端は"何者"かに蹴飛ばされて、組長室の床を滑る。

その何者かは、ボコボコに顔を腫らした下っ端を引きずって、担いで、一言だけ口を開いた。

 

獅苑

「ポーチ返せ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組長

「ぐふっ・・・」

 

若頭

[グテッ]

 

獅苑

「・・・はぁ」

 

ったく・・・面倒事を増やしやがって・・・

とりあえず、さっさとポーチを回収して───何これ? ピエロ?

ポーチから、子供が見たら泣き出しそうな笑みを浮かべているピエロ人形が飛び出している。

 

李詠

「おおぉ! すごっ、メチャメチャじゃん!」

 

そこに、気絶した下っ端や室内の荒れように、テンション高めで組長室に入ってくる少女。

その手には、組長が持っていたポーチ・・・というか、俺が持っていたポーチとそっくりだった。

 

獅苑

「返せ」

 

李詠

「う〜ん・・・いいよ、別に」

 

サッとポーチを差し出す少女・・・怪しい。余りにも素直すぎる。

そんな疑問を持ちながらも、ポーチを受け取って中身を確認───

 

[ベチャッ!]

獅苑

「ぶっ!?」

 

開けた途端、赤いゲル状の物質が俺の顔・・・両目にかかる。

 

李詠

「アハハッ♪ 引っ掛かった、引っ掛かった!」

 

獅苑

「・・・こ、この野郎〜」

 

李詠

「こっちが本物だよん!」

 

目がゲルの被害にあったというのに、腹を抱えて笑う少女は、ピエロ人形が飛び出しているポーチを手に持ち、バネごと人形をポーチから抜き取った。

どうやら、ポーチの中身の上からバネ付き人形を被せて、フェイクと見せかけたフェイクにしていたようだ。

 

李詠

「これ、大事なものなんでしょ?・・・だったら、取引しない?」

 

一切、こっちの気遣いがない・・・まぁ、俺の瞳は今───

 

組長

『動くな!』

 

李詠

「っ!?」

 

詰めが甘かったのか、気絶から立ち直った組長が少女の首に腕を回し、懐に忍ばせていた銃を眉間に当てる。

聞き慣れない中国語に怒号が混じっているところを見ると、だいぶ興奮してるな・・・俺は目を開いてないから、分からないけど。

 

組長

『くそったれ! やっと、ここまで勢力と資金が回復したってのに! 何が"女尊男卑"の世の中だ! ISがなけりゃ、女なんか男なんかに敵わねぇはずなのによ!』

 

獅苑

「・・・」

 

一生懸命、声を荒げて、今までの鬱憤をぶっこんでいるのに・・・正直、どうでもいい。

・・・コンタクト外そっ

 

組長

『とりあえず、てめぇは死ねっ!!』

 

獅苑

「あ?」

 

少女の眉間から離れた銃口、火花を噴いて迫る弾丸・・・光る濁金の眼光。

 

[ビュンッ!]

 

組長

『よ、避けた・・・? この距離で・・・』

 

李詠

「っ・・・ヴォーダン、オージェ」

 

獅苑

「もう面倒だ・・・ー快睡」

[ゲシッ]   『さっさと寝ろ』

 

床を蹴り、組長との距離を詰めて、顔面を蹴り飛ばす。組長は窓に叩きつけられ、その手前に少女を奪い取った。

 

[パリンッ!]

組長

「・・・[ガクッ]」

 

窓ガラスは割れ、白目を剥いて組長は倒れた。

 

李詠

「・・・」

 

懐に抱きしめた少女から、微弱に震えを感じる。

 

李詠

「あ、ありがと・・・」

 

声にも震えがある。"怖い大人"をおちょくる無謀さがあっても、中身は10代・・・という事か。

 

獅苑

「ん・・・でさ、どういう"取引"なんだ?」

 

少女を落ち着かせるつもりで、俺は話を切り出した・・・あえて言おう。この後の事は、特に何もない。

ただ、博士の連絡が来るまで、この少女・・・李詠に振り回され、その母 羽羽との介護に追われていただけの日々であった。

 

 

 

 

 

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【・・・番外編・・・】(持ち物検査)

 

 

これは、まだ獅苑と一夏が同室だった頃の番外話である・・・

 

千冬

「今日は持ち物検査をやるぞ。全員、バックと机の中に入れている物を全て机の上に置け」

 

ある日のHR。1年1組の担任こと、織斑千冬が教壇に立ち、抜き打ちの荷物チェックを宣言した。

ちなみに、副担任である真耶は、臨海学校の件でこの場には居ない。いないのは、他にも2人居て・・・

 

一夏

(・・・マズイ)

 

千冬の宣言に、冷や汗をかく一夏。だが、ほか女子も机の中、バックの中にある"何か"の心配をしていた。

だが、その中でも落ち着いているというか、自分は無関係orどうでもいいと考えている者もいる。

 

千冬

「織斑、前に出ろ」

 

一夏

「えっ?!」

 

千冬

「お前はクラス代表だろ? さっさと前に立て」

 

一夏

「あ、そういう事か・・・ふぅ」

 

どこかホッとしたように、一夏が教壇の前に立つ。

 

千冬

「・・・オルコット、お前も織斑のサポートにつけ」

 

セシリア

「分かりましたわ」

 

副代表の役職はないが、一夏とセシリアは一学期の始めに"クラス代表決定戦"で争い、結果的に一夏がクラス代表となった。

千冬は一夏のサポートとして、副代表の役職に近く適任なのはセシリアだろうという事で指名した。能力有無ではなく、立場上の考えとして。

 

一夏

「ええと・・・とりあえず、出席番号順に。まず、相川さんから」

 

相川

「え〜、恥ずかしい〜♪」

 

手元をモジモジさせて、イタズラっぽくバックの中身を見せるのを拒む相川。

そんな相川に、セシリアが頬を引き吊らせて笑みを浮かべて見せた。

 

セシリア

「オホホッ・・・さっさと中身を見せてくださいませ」

 

相川

「うっ・・・」

 

頬を赤めていた顔色が、一気にブルーへ変色し、相川は渋々バックを机の上に置いた。

中身には、特に規則に違反するほどの物はなく、以外にもちゃんと今日の時間割通りの教材を入れていた。他は、陸上部に用いる水分補給用の水筒とハンドタオルが入っている。

 

一夏

「次は、朝霧・・・って、いない」

 

千冬

「アイツなら布仏が迎えに行った・・・本来なら、同室であるお前が行くべきなのだがな」

 

一夏

「いや、だって獅苑の奴、揺すっても叩いても起きなく───」

 

セシリア

「そんな事、今は関係ありませんわよ。今は・・・"わたくしとの共同作業を"」

 

[ピキッ・・・!]

 

一夏

「ん? "今は"って?」

 

セシリア

「な、何でもありませんわ! 早く・・・いえ、しっかりと長い時間をかけてやりますわよ!」

 

一夏

「お、おう・・・」

 

2人にクラス全員の視線が集まる。その中で、"腹立たしさ"、"悔しさ"、"威圧"の三つの視線が2人に向けられていた。

 

(セシリアの奴・・・)

 

シャルロット

(あ〜あ、最初から学園に居たら、もしかしたらセシリアじゃなくて僕があの場に・・・)

 

ラウラ

(セシリアもそうだが・・・嫁のあの鈍い部分が気に食わない)

 

この視線に気づく事無く、持ち物検査は続く。千冬は遺憾であるが、別件の仕事のため退室し、相川のア行から始まり、カ行をまたいでサ行に入る。

 

一夏

「次は・・・箒か」

 

「・・・み、見るのか?」

 

まるで、自分の身を守るかのようにバックを抱えた腕で体をガードする。

 

一夏

「何だよ、箒? 見られたら、マズイの物が入っているのか?」

 

「そ、そんな物は・・・ないが」

 

一夏

「じゃあ、何なんだよ?」

 

鷹月

「織斑君! 女の子には色々とあるものなの! オルコットさんも分かるよね?」

 

一夏

「そうなのか?」

 

セシリア

「そうですわよ・・・って、今更ですけどね。箒さん、わたくしにバックの中を見させてもらっていいですか?」

 

「う、うむ・・・」

 

こういう時の女子は、妙に団結力が強い。いつも顔を合わせれば、いがみ合う関係である2人も、その例だ・・・と、一夏も深々に男孤独or女の園の環境が、いかに不可解な世界だと疑問に思っていた。

 

セシリア

「特に何もありませんわね・・・ん? 学生証に何か挟まって───」

 

「わぁああああああっ!!!」

 

セシリア

「ちょ、何ですの!?」

 

バックから抜き取った学生証に違和感を持ったセシリアだったが、突如、大声を上げて箒が奪い取ろうとする。

だが、驚いたセシリアから、学生証が手元から床に零れ、その落ちた学生証を一夏が拾う。

 

一夏

「これって・・・」

 

「〜〜〜///」

 

一夏

「懐かしいな。昔、"4人"みんなで撮った写真」

 

「ぇ・・・?」

 

一夏

「この頃は、束さんも失踪していない時期だったよな・・・あっ! 悪い、箒!」

 

「い、いや、気にしていない・・・それより、早く返せ!」

 

机から乗り出した箒が、風の如く一夏の手から学生証を取り上げた。

箒の慌てぶりにクラス全員は首を傾げたが、問題なく持ち物検査が再開する。

 

(危なかった・・・これを見られたら、私は)

 

クラスの視線が箒の次の人に向けられた時、一夏に見られた写真に重なっていた"もう一枚の写真"を手に取る。

どうやら、圧で写真同士がくっついていたようだ。

その"もう一枚の写真"には幼少期頃の一夏とのツーショットが写し出されていた・・・

 

一夏

「次は、シャルか」

 

シャルロット

[ドキッ!]

 

ピンと無意識に背筋がのびたシャルロット。今回は、一夏がシャルロットのバックを開口する。

シャルロットは見た目どおりの優等生で、違反物などは入っていないだろう・・・{だけど、それじゃあ、面白くない}

 

一夏

「ん? これは・・・」

 

一夏がシャルロットのバックから取り出した"何か"。

それを見た途端、クラス全員の女生徒が絶句した・・・

 

一夏

「・・・ネコミミ?」

 

シャルロット

「えっ!? えっ、何で、ここにっ・・・ちゃ、ちゃんと部屋に置いておいて───ハッ」

 

シャルロットに集まるクラス中の視線。

羞恥したシャルロットは、訂正しようと両手を振りながら言い訳を考える。

 

シャルロット

「え、いや・・・あっ! こ、これはね、ラウラの物なんだ!!」

 

全員

「えっ!?」

 

ラウラ

「ん?」

 

今度はラウラに視線が集中する。

当のラウラは、所持品の"サバイバルナイフ"を磨いていた・・・{って、これは銃刀法違反なのでは?}

そのラウラにネコミミを持ったシャルロットが、頭にネコミミを装着させ───

 

千冬

[ガラッ!]

「もう少し、静かに検査が出来んのか、馬鹿ど───」

 

ラウラ

「む?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

千冬

「ぶっ!」

[バタンッ!]

 

千冬は顔を逸らして、去っていった・・・

残されたクラス中は呆然としている。そして、次は───

 

[ガラッ]

本音

「連行してきました〜・・・? どうしたのぉ、みんな?」

 

獅苑

「ねむい・・・ん?」

 

ラウラ

[ゾクッ]

 

ラウラが悪寒を感じた時、本音に引っ張られていた獅苑は飛び出していた。

 

ラウラ

「ひっ!」

 

軍人の逃走本能がラウラを駆り立て、レーゲンを展開し、AICを発動。

 

獅苑

[ニコッ]

 

一夏

「えっ!?」

 

だが、獅苑は一夏を踏み台に、天井スレスレを経由してラウラの背後を取る。その代わり、一夏がAICの餌食になる。

 

獅苑

[キラーン]

 

ラウラ

「いっ───!」

 

先まで、獅苑は眠たそうに目を細めていたはずなのに、今は輝きに満ちている。

レーゲンは、ISにとって狭い教室を飛び避け、獅苑も場も弁えず『死戔』を展開して追い詰める。

"黒猫"と"黒狼"の追いかけっこで、大荒れになった教室。

 

シャルロット

(うぅ・・・とんでもない事になっちゃった)

 

机を盾に、実質1年トップ2人の追いかけっこを眺める生徒達。

一夏達も獅苑に対抗するのに躊躇していた・・・

だが、そこに"笑い"を克服した千冬が乱入。ISブレードを展開させて、獅苑を叩き落した。

 

ラウラ

「教官・・・」

 

千冬

「ふぅ。とりあえず、机を整えるぞ・・・あと、これは没収だ」

 

ヒョイと目を逸らしながら、ラウラにつけられたネコミミを回収。

今回について、完全に獅苑が悪いため説教は免れ、ホッとしながら生徒達は荒れた机を整え始める。

 

獅苑

「ふぁあああ・・・? 何です、先生?」

 

千冬

「やっと、起きたか・・・朝霧、説明は後でする。今は皆を手伝え・・・特に岸本の机を頼むぞ」

 

獅苑

「まぁ・・・はい」

 

 

〜〜〜{3分お待ちよ}〜〜〜

 

 

獅苑・本音

「"持ち物検査"?」

 

荒れた教室が整え終えたところで、獅苑と本音に持ち物検査の旨を伝えた。

 

千冬

「・・・」

 

ラウラ

[ブルブルブルブル]

 

シャルロット

「あはは・・・大丈夫?」

 

千冬はこれ以上の騒ぎを起こされないため、椅子に座って足を組み、ラウラはラウラでトラウマが消えず、シャルロットの温もりで恐怖と闘っていた。

 

獅苑

「検査ならしかたないけど・・・お前ら2人のは、どうなんだよ?」

 

一夏

「・・・」

 

セシリア

「? 一夏さん?」

 

「お前・・・まさか」

 

本音

「あ〜! 代表なのに、持ってきてるんだぁ〜!」

 

一夏

「あ、いや、そんな訳───」

 

獅苑

「そりゃ、一夏だって"男"だもんな・・・」

 

一夏

「なんで"男"だけを強調したんだよ!?」

 

獅苑

「そんなの・・・なぁ?」

 

本音

「ねぇ〜」

 

「一夏・・・貴様は!」

 

一夏

「ま、待て、箒! たぶん、お前が思っている物は違うから!」

 

セシリア

「では、見せてもらいましょう」

 

シャルロット

「"百聞は一見にしかず"、てね」

 

という訳で、まずは一夏の所持品を検査する事になった。

皆が一夏のバックに群がる中、一夏は額に冷や汗をかいている。だが、バックからは特別"凄い物"は入っていなかった。

 

谷本

「なんだ、マンガ雑誌か・・・」

 

獅苑

「普通、だな」

 

「ホッ・・・」

 

安心する箒以外が、出てきた物が普通すぎてクラスの気分が"下がる"。

 

シャルロット

「あれ? でも、今日の授業ってこれだけだっけ?」

 

シャルロットの発言に、一夏は悪寒を感じ、体温が"下が"り、鬼神が席を立って、教室の室温が"下がる"・・・というか凍る。

 

千冬

「・・・織斑、なんだこれは?」

 

一夏

「いや、それは・・・」

 

千冬が歩く先、群がっていた女生徒が道を開けていく。

一夏にとって、マンガ雑誌を持ってきていた事態もそうだが、今日、必要な教材が揃っていないことだった。

先生として、姉として、この事を千冬が黙っている訳がない。

 

千冬

「放課後、私と近接訓練に付き合え・・・勿論、生身でな」

 

一夏

「・・・はい」

 

千冬

「とりあえず、水バケツを持って廊下に立ってろ」

 

一夏

「・・・はい」

 

心ここにあらず・・・顔に青を差して、一夏は教室を出ていった。

 

本音

「じゃ〜、次はセッシーの番だね〜」

 

セシリア

「ちょっと待ってくださいまし。その前に、獅苑さんのバックの中身を見たいですわ。生徒会の人間なら、当然、生徒の見本になるほど完璧なんでしょうね?」

 

獅苑

「・・・別に、かまわないが」

 

ちょっとだけ、言葉が詰まった獅苑。何故なら、"生徒会"なのに・・・ってか、長なのに見本とは言いがたい人が頭によぎったからだ。

 

獅苑

「ん・・・」

 

バックが机に置かれる。

その周りに、さっきまで怯えていたラウラも混ざって、セシリアがチャックを開ける。

入っていたのは、積もりに積もった飴玉の袋だった。

 

セシリア

「・・・何ですの、これ?」

 

獅苑

「見て分かるだろ」

 

「教材は?」

 

獅苑

「机の中」

 

シャルロット

「・・・せ、先生?」

 

千冬

「・・・」

 

{け、剣幕が恐ろしい・・・}

だが、千冬から発せられた言葉は、以外にも許しの言葉だった。

 

セシリア

「何故ですの、織斑先生?」

 

千冬

「教材を机に置いておくのは、規則に反してはいない。飴玉に関しても、朝霧が入学する条件として提示したものだ」

 

獅苑

「ふっ・・・」

 

セシリア

「ぐっ・・・!」

 

千冬

「だが朝霧、限度をわきまえろ。これは、さすがにありえないぞ」

 

獅苑

「・・・はい」

 

セシリア

「ふふふっ・・・」

 

シャルロット

「・・・あれ?」

 

シャルロットが獅苑のバックを見て、何かに気がつく。

 

「どうした、シャルロット?」

 

シャルロット

「うん。このバック、下の方がやけに柔らかいなって・・・"ぬいぐるみ"みたいな」

 

獅苑

「うひゃ!?」

 

獅苑が今までに発したことのない叫びをあげて、無意識にシャルロットの胸倉を掴んだ。

 

獅苑

「シャルロットさ〜ん・・・妙な事を言うもんじゃないですよ〜」

 

シャルロット

「あ、あははは・・・ゴメンなさい」

 

獅苑の営業スマイルに、ショボンとするシャルロット。

 

セシリア

「シャルロットさんが謝る必要はありませんわ・・・獅苑さん、これはまた可愛らしいところもあるのですね」

 

セシリアがバックから掘り起こしたのは、スモールサイズのアニマル人形。

それを見せ付けるかのように、何体も何体も机に並べ始めた。

 

本音

「これって、前に生徒会メンバーで遊びに行った時のだよね〜?」

 

「さすがに、この量は・・・」

 

千冬

「だから、限度をわきまえろと・・・」

 

獅苑

「い、いや、UFOキャッチャーで、乗り乗って・・・つい」

 

セシリア

「先生。これは、さすがに没収対象じゃないでしょうか。規則には"ぬいぐるみを持ってきてはいけない"と書いていないしても、これは完全に不要物ですわ」

 

獅苑

「ちょ、ちょっと待って・・・せ、先生?」

 

あの凛々しくクールと名高い獅苑の素が明かされ始め、ついには"没収"という言葉に、獅苑は目で千冬に訴えている。

 

獅苑

(分かりますよね? こんな物を部屋に飾ったら、絶対、一夏にどやされる! だから、こうして持ち運ぶしか・・・!)

 

それは、餌も与えられず、今にでも息絶えそうなのに、一生懸命"拾ってくれ"と訴える捨て犬のように。

これが、本当に動物ならば千冬も何かしらの対処で応えたであろう・・・だけど、相手は獅苑だ。{そりゃ、またツボにはまってしまう}

だが、それをグッと抑え、互いの意思を尊重した対処をとる。

 

千冬

「ゴホンッ・・・ならば、放課後までに預かっておく。その時、反省文の用紙を渡すからな」

 

獅苑

「・・・はい」

 

それでも、獅苑にダメージが大きかった。隣ではセシリアが勝ち誇ったように鼻を鳴らしていたが、逆にシャルロットは申し訳なさそうにうな垂れていた・・・

 

シャルロット

(うぅ・・・何で、今日に限ってこんな事に・・・とほほ)

 

「では、次こそセシリアの番だな」

 

セシリア

「かまいませんわ」

 

自信気に自分のバックを取り出し、開口。

中はきちんと整理された教材。テニス部の汗拭き用タオルは綺麗に畳まれており、優等生としか言いようがないほど完璧だった。

 

シャルロット

(あれ・・・これって)

 

そんな中、シャルロットがバックの中にある"お弁当箱"に気づく。

語られてはいないが、知る人ぞ知るセシリアの手料理。"形"だけに囚われた料理。不快感 〜 食中毒までに作用される料理を、シャルロットは知っている・・・というか、一夏も箒も鈴も知っている。

それは、"ラウラとはまだピリピリしていた時期の昼休みin屋上""夏休みin織斑邸での食事会"で起きた・・・{知らぬ者は、ぜひアニメ版を参考に}

 

シャルロット

(・・・止めとこう。またみんなに迷惑がかかっちゃう)

 

獅苑暴走事件の発端は、シャルロットがネコミミをラウラに被せて起こった事。ラウラに被せたかったのは嘘ではないが、自分の整理ミスで起こった事件だ。

一夏一昔一ペケの刑事件に限っては、シャルロットが発言しないでも起こっていた事だろう・・・{だけど、シャルロットは良い子だから・・・ねぇ}

そして、またここで発言をしたら、事件が起こるとシャルロットは心配でならない。"二度あることは三度ある"という説もあるから。

すると、シャルロットの代わりに、そのお弁当箱に気づいたのは千冬だった。

 

千冬

「これは、お前の手料理か?」

 

セシリア

「そうですわ。1つ、試食なさってみます?」

 

セシリアとしては、姉である千冬にポイントを見せるために試食を頼んだのだろう。

この際、教師として"食べる"という選択肢は普通はない事だが、千冬は本能でこの"お弁当箱"に何かを感じ取った。

 

千冬

「・・・朝霧、試食しろ」

 

獅苑

[ずーん・・・]

 

千冬

「従えば、ぬいぐるみはこの場で返してやろう」

 

獅苑

「いただきます」

 

以外にも単純な思考だった獅苑は、セシリアの"お弁当箱"を開ける。

"お弁当箱"の中身は、サンド系が箱の半分以上を陣取り、新登場のエビチリが残り領土に詰まっていた・・・{この組み合わせは、"フェテ・○・パン"という店のエビチリたまごサンドから、アイディアとして取りました}

獅苑は箸を手に取って、"赤く染まった"海老を掴み、口元に入れる。

 

獅苑

「っ!?!?」

 

入れた途端、獅苑はむせ始めた。顔を真っ赤にして、近くの机を叩き、何かを訴えようとしていた。

だが、周りの生徒達は何を訴えているのかは分からず、セシリアの脇に置いてあった水筒を勝手に飲みだす。

 

獅苑

「ぶはっ!?」

 

また、途端に吹き出した。

その手前に口に入れた分を飲み干していたため、惨事とはならなかったが、獅苑自信が惨事となっていた。

すると、その惨事を見て、千冬とシャルロットが調査に乗り出す。

シャルロットはエビチリの上を鼻に向けて手で仰ぐ。

 

シャルロット

「うっ・・・セシリア、香辛料どれくらい入れたの? 嗅いだだけで、鼻が痛いんだけど」

 

セシリア

「豆板醤を一瓶とタバスコ二瓶、使いましたけど」

 

シャルロット

「両方、使ったの!? しかも、その量は・・・」

 

シャルロットは、まだ下の痛みに苦しめられている獅苑に目を向け、心の中で手を合わせた。

そして、千冬は水筒の中身を。

 

千冬

「・・・チョコ?」

 

水筒の頭のコップに中身を移動させると、ドロドロした液体が流れ出す。匂いをかけば、ビターチョコの香り。

 

「これはあれか・・・ココアでも作りたかったのか?」

 

セシリア

「何を言ってますの? それは、"味噌汁"ですわ」

 

獅苑

「はあ!?」

 

いの一番に反応したのは、撃沈したはずの獅苑だった。

 

獅苑

「確かに、味噌の味は少し感じたが、あれは汁物でも飲料水でもない! ただの"黒いゲル"だ!」

 

セシリア

「何ですって!?」

 

2人とも熱くなり、言い合いが始まる。

 

獅苑

「そういえば、イギリス人って固形のチョコレートが出来るまで、飲み物の意味だったらしいな! まさか、味噌汁にまで"侵食"させるなんて、馬鹿なんじゃないのか!? この"金髪"!!」

 

セシリア

「馬鹿とはなんですの!? それに、わたくし達が生まれる前の話を持ってくるなんて、随分と小さい男ですのね!!」

 

この言い合いがいつまで続くのやら・・・{まぁ、すぐに納まるだろう}

と、生徒全員が思った。

 

千冬

[パアンッ! パアンッ!]

 

千冬が出席簿で、2人の脳天に打撃を与える。

2人は痛みに堪えかねて、言い合いは中断し、その場にへたり込んだ。

 

千冬

「お前ら2人も、廊下に立って頭を冷やしていろ! 朝霧、ぬいぐるみは放課後に返してやる。オルコット、この"毒物"はこちらで処理させてもらう」

 

獅苑・セシリア

「・・・はい」

 

 

 

 

 

 

一夏

「獅苑、セシリア。今更だけどさ、何でお前らも立たされてるんだ?」←右端

 

獅苑

「聞かないほうがいい・・・今回は俺も熱くなりすぎた。悪かったな、セシリア」←中心

 

セシリア

「いえ、わたくしもお見苦しいところを見せてしまいましたわ・・・それより、廊下に立ってどれくらい経ったのでしょう」←右端

 

一夏

「さぁ・・・ただ、そろそろ日没だぞ」

 

セシリア

「さすがに、両手に荷物があると辛いですわね」

 

獅苑

「たかが、水の張ったバケツ2つだろ・・・俺なんか4つだぞ。頭と片足に」

 

一夏

「・・・俺、お前がいれば、何でも頑張れそうな気がする」

 

獅苑

「誇っておくよ。その言葉・・・」

説明
最近、気温が冷たくなってきました。

皆さん、風邪を引かないように気をつけてね。

PS:今回は番外編があります。
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