Masked Rider in Nanoha 四十四話 その日、機動六課 中編
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 苦戦の末、黒い龍騎を倒した龍騎はナイトと共にビルの屋上に立つ。その雰囲気は激戦を制したにも関らずまだ戦士のものだった。その理由はその見つめる視線の先にある。

 二人の眼前に存在するは同じミラーモンスターの大群。それを放置すれば大変な事になると二人は考えていた。だがその体に残る疲労はかなり強く、冷静に考えればこれ以上の戦闘は出来ない。それでも龍騎もナイトも絶望したようには見えなかった。その証拠に二人はどちらともなく躊躇いさえ見せずにそのモンスターの群れの中へ向かっていく。

 

 と、そこで真司は目を覚ました。全身に感じる気怠さを忌まわしく思いながら彼は片手を動かして目元へ置いた。

 

「……この夢、か」

 

 そうぽつりと呟いて真司はゆっくりと起き上がる。毎度の事ながら、これらの夢の後、彼は信じられない程の汗を掻く。真司は汗で張り付くシャツを脱ぐとそれを手にして動き出した。まだ寝ている二人を起こさないように気を付けながらだ。

 シャツを洗濯籠へ入れた彼はその場から静かに引き返して三段ボックスの引き出しを開ける。それが真司のタンス代わりなのだ。取り出したシャツを着た彼は静かに窓へと近付いていく。カーテンを少し動かし外を眺める真司。だが、その表情は困惑していた。

 

「何でこのタイミングで見るんだよ……」

 

 悪夢にも等しい夢。それをよりにもよって大事な決戦前に見る事に不安と苛立ちを感じたのだ。今日は公開意見陳述会。邪眼達が総攻撃をかけてくるだろう日なのだから。

 そこで見たのが同じミラーモンスターの大群との戦い。それが真司にはマリアージュを連想させる。そして黒い自分の姿。それは強敵である邪眼や恐ろしい怪人を思わせた。結果としてそれに勝利出来るのはいい事だ。だが、その後がいただけなかった。あれでは、まるでライダーがマリアージュに押し潰されると暗示させるようだったために。

 

 そんな風に思て真司は軽く首を振る。なのは達と協力して仮面ライダーが負けるなどはあるはずがない。そう言い聞かせるように真司は頬を軽く叩いた。

 

「っしゃあ!」

 

 気合は入れ直した。そんな風に声を出す真司。だが、その声で五代と翔一が揃って目を覚ます事になり、彼は申し訳なく思って二人へ頭を下げる事となった。

 そのまま彼らがいつものように食堂の仕込みを始めてすっかり隊舎が普段通りの様子へ変わり出した頃、地上本部にいるなのは達は警戒を続けていた。朝日を浴びながら地上本部周辺を歩いているヴィータとスターズコンビ。その目には他の局員達とは違って疲れの色があまりなかった。

 

「結局夜襲は無かったですね」

「ああ。もしかしたらマリアージュ辺りでも散発的にけしかけてくるかと思ってたんだけどな」

 

 スバルの呟きにヴィータはそう返した。時刻は八時を指している。普段ならここから一日が始まると思うのだろうが、生憎今回は徹夜明けだ。それでも交代で仮眠を取り、出来る限り疲労を取ってはいる。

 しかも六課の面々はある種の確信があるため、仮眠もそこまで気を張る事無く取れた。邪眼が狙うのは絶対に意見陳述会の最中。なので、六課とゼスト隊は仮眠を緊張する事無く取る事が出来た事もあり、他の者達よりも疲れがないのだ。

 

「やはり全戦力を集中させるつもりなんでしょうか?」

 

 ティアナは周囲に他の局員がいない事を確認しそう尋ねた。六課とゼスト隊以外には邪眼の事は未だに伏せられているために。マリアージュだけはその出現の詳しい経緯を伏せられ、危険指定のロストロギアとしか認知されていない。故に、全戦力という言葉は周囲には理解されないし疑問を抱かれる事にもなりかねない。だからこそティアナは周囲へ気を配ったのだ。

 

「多分な。だから本番まではあまり緊張すんな。後、絶対奇襲になるはずだからうろたえんじゃねえぞ」

「「はい!」」

 

 ヴィータの言葉に返事を返す二人。その力強さに彼女も満足そうに頷き、三人は視線を周囲へ向けた。現在なのは達隊長三人とシグナムは地上本部内の警備をしている。中はデバイスの持ち込みが禁止されているので本来彼らは無力に近い。

 だが、六課の者達は密かにデバイスを所持している。実は怪人の危険性を認識しているオーリスが秘密裏にはやてへ告げたのだ。六課所属の者に限り、内部へのデバイス持ち込みを見逃すと。

 

 それを聞いたはやてはオーリスの処置に感謝した。怪人が地上本部内部に侵攻してくるのは明らかだったからだ。そのために内部にはライダーを行かせたかったのだが、それも色々とあって中々困難だったのだから。

 非常時になれば彼らでも入る事は可能だ。しかし、平時では民間協力者では入る事は厳しいと言わざるを得ない。故に、なのは達は出来るだけ自分達で地上本部内は防衛するしかなかった。それ故にデバイスの所持を見逃してもらえるのは有難かったのだ。

 

「……本番までもう少しか」

【フェイトちゃん、そっちは?】

 

 なのはは歩きながら別の場所を見回っているフェイトへ念話を送る。一応念のために警戒をしているのだ。六課に対してのスパイが無かったため、彼女達は地上本部襲撃に関っているのではとそう判断した事がそこにはある。

 はやてはその旨をオーリスへ伝え、警備の重要人物などを二人で密かに調査中。だが、そう簡単に判明するものではないと分かっているため、精々出来てある程度注意を払うぐらいだったが。

 

【こっちは問題ないよ。何となくだけど、疑い過ぎるのも良くないと思うし】

【どうして?】

【疑ってるとみんな敵に見えるけど、信じると仲間に見えるでしょ?】

 

 それが光太郎の言った言葉の変化だと気付き、なのはは微かに笑う。フェイトは疑うよりも信じていようとしているのだ。万が一裏切られても動揺しないで対処すればいい。そう言いのけたようなフェイトの考え方に。なので、なのはもそれに頷くように返事を返した。そして同じ言葉をはやてへも念話で伝える。

 

【成程な。うん、了解や。オーリスさんにもそう伝えとく】

【理想論だけどね】

【綺麗事で済むならそれがええ。そやろ?】

 

 はやての言葉になのはは一瞬答えに詰まった。それがどこか五代の言葉に聞こえたからだ。そんな彼女の心境を理解したのかはやてが少し悪戯っぽく告げる。これは五代から教えてもらった言葉だと。その言葉になのはは納得。そして、心から賛成するように答えを返した。

 

―――うん、そうだね。それが一番いいんだもん。

 

 そう返すと同時になのはは立ち止まって窓を見る。そこからは丁度六課隊舎がある方角を見る事が出来た。そこにいる五代とヴィヴィオへ意識を向け、彼女は小さく微笑む。何があっても絶対に勝ってみせると思いを強くし、なのはは一人頷いて再び歩き出す。その表情は、誰が見ても分かるぐらい自信に満ちていた。

 

 

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「え? ゴウラムは使わないんですか?」

「うん。アクロバッターが言うには翔一君の言う事も理解してくれてるらしいし、こっちは戦える人が少ないから残しておくよ」

 

 五代はそう言ってゴウラムを撫でる。彼があの未確認との戦いでゴウラムを必要とする時のほとんどは金の力による被害を防ぐためだった。確かに空戦をするためにも呼ぶ事はあるかもしれないが、今の彼にはゴウラムを頼って自分が空戦をするよりも頼れる仲間がいる。

 そのため、ゴウラムを翔一達に託しても構わなかった。いや、むしろ託したかった。少しでも隊舎を守る力を増やしたい。そんな想いが五代にはあったのだから。ヴィヴィオにイクスという幼い存在。それを守る事が出来るようにと。

 

「分かりました。じゃ、遠慮なく頼りにさせてもらいます」

「頼むね。俺も向こうで頑張るから」

「行ってらっしゃ〜い」

「ご武運を」

 

 そう言って五代はビートチェイサーへ乗るために歩き出す。翔一とヴィヴィオにイクスだけがそれを見送る。同じ頃、残りの者達はヘリポートで光太郎達を見送っていたからだ。

 

「真司君、もしかするとこちらにも邪眼が来る可能性もある。その時は……頼む」

「任せてください! 俺と翔一さんで返り討ちにしてやります!」

「アタシもいるしな!」

 

 光太郎の不安を吹き飛ばす程の笑みを返す真司とアギト。それに彼も笑みを返して頷いた。邪眼の残る数は十体。一体を本体として残すとすると九体が自由に動ける計算になる。光太郎は、昨夜自分がもし相手ならばどうするかを考えた。

 ライダーが四人。それを必ず分散させると読み、自分も半数程度に分かれて動くのではと。なのでウーノと協議した結果、邪眼が隊舎にも現れる可能性が高いと予想。その対策をウーノはグリフィス達と練る事にしていた。

 

「トーレ、気をつけてね」

「ああ。万一の際は任せろ」

 

 ウーノの言葉にトーレは凛々しく頷いた。ヴァルキリーズで攻撃の要となる役割を担う彼女は、おそらく空から襲い来るだろうドライ達を相手にする事になる。そのため、トーレはセッテとコンビを組み、それに対応する事にしていた。

 更には万が一の際の助っ人としても期待されているため、その双肩にかかる責任は重い。だが、彼女にはその事が不思議と嬉しく思えていた。頼りにされている。それがトーレに無言の力を与えていたのだから。

 

「セッテ、エリオとキャロに怪我しないようにって改めて言っておいてね」

「分かりました」

 

 ドゥーエの言葉に笑みを浮かべてセッテは答える。エリオとキャロの二人とドゥーエの仲は誰もが知るように良好だ。エリオはややドゥーエを苦手としているが、それでもキャロと共にフェイトとは違う意味で慕っている。なのでドゥーエからの言葉は二人に少なからず力になるとセッテも思うからこそ、確実に伝えるとの気持ちで頷いていたのだ。

 

「ではな、ディエチ。留守を頼む」

「アタシ達も頑張るッスから」

「無理、すんなよ」

「うん。ありがとうノーヴェ。チンク姉とウェンディも気をつけて」

 

 手を振り合うディエチとウェンディ。ノーヴェは少し照れくさそうにではあるが手を振っている。チンクはそんな妹の姿に微笑み、ディエチへ顔を向けて小さく頷いた。地上本部で三人はスターズと協力する形で動く事になっている。

 それはノーヴェとウェンディのコンビがスバルとティアナのコンビに近いからだ。つまり、なのはやヴィータもその動きや考えを理解し易く指示を出す事が出来る。更に、コンビ同士の連携も出来るため、戦力的に見てもかなりのプラスになるためだ。

 

 チンクはヴィータと同じくサブリーダー的な役割を期待されている。姉としてのフォローと実戦経験の多さから来る安定感でスバル達を支えて欲しい。そうなのは達から頼まれているのだ。加えてISも支援向きになっている事もあり、怪人戦の決め手としても動けるのでかなり重要な位置付けと言える。

 

「オットーちゃんにディードちゃん。シンちゃんの事、頼むわね」

「はい。クアットロ姉様もお気をつけて」

「ガジェットの制御もあるので色々と大変でしょうが、ご武運を」

 

 ヘリの中に積まれた数機のガジェット。それを制御しながらクアットロは戦う事になっていた。彼女自身はライトニングと協力する事になっているが、ガジェットはスターズとライトニング双方の援護へ向かわせないといけないのだ。

 それによる複雑な行動を余儀なくされているため、二人はクアットロの事が心配だった。本来ならばウーノやオットーもそこに加わっての三人で分担する事で負担を軽減するのだが、今回はそれが出来ない。かと言ってオットーが地上本部に行く事も出来ないのだ。

 

 そんな二人の気持ちを理解してるのかクアットロは自慢するように笑みを浮かべて言い切った。自分を誰だと思っているのかと。それだけでオットーもディードも笑みを返した。もうそれだけで言葉は要らなかった。妹達の気持ちを受けた姉は感謝しつつも逆に励まし、それを受けた二人が笑みと共に頷く。

 

「セイン、お前はややそそっかしい時がある。それに気をつけろ」

「は?い。リインさんは、ヴィヴィオとイクスの護衛頑張ってください」

「大丈夫よ。私やザフィーラもいるんだし」

「こちらは心配いらん。互いに全力を尽くせばいいだけだ」

 

 唯一姉妹とではなく守護騎士三人に声を掛けられているセイン。ヴァルキリーズの中で一番のムードメーカーである彼女はその分そそっかしい。リインがそれを軽く嗜めるように言葉を掛ける。その姉のような雰囲気にやや苦笑を浮かべながらもセインは言葉を返した。

 シャマルとザフィーラはその彼女の反応に微笑み、安心させるように答えていく。そしてザフィーラの言葉は周囲の気持ちを代表していた。その証拠にその場の誰もが力強く頷いたのだから。

 

 こうして地上本部組も出発した。残った者達は来たるべき時に備えるために隊舎へと戻る。今日は長い一日になるだろうと誰もが感じながら……

 

 

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 同時刻、レジアスの執務室を思わぬ人物が訪れていた。その人物はある物を貸してもらうためにレジアスを頼ったのだ。邪悪な爪に倒れて眠る一人の男の無念を晴らそうと考えて。

 

「……いいだろう。確かにそれもデータとして役に立つだろうからな」

「ご理解感謝します、レジアス中将」

「まさか海の貴様が儂に頭を下げにくるとは思わなかったぞ……」

 

 そう言ってレジアスはどこか楽しそうに笑みを浮かべた。今彼の目の前にいるのはこれまで彼が嫌ってきた本局で名を轟かせてきた相手だったのだ。

 

「それで、一体どういうつもりだクロノ・ハラオウン」

 

 クロノはその言葉に両拳を握り締める。彼がここに来たのはある物をレジアスから借りるために他ならない。それはもうレジアスが必要としていない物だった故にあっさりと許可は出た。全てはユーノの借りを返すための行動。

 そう、今のままでは怪人と戦う事は出来ても倒す事が出来ない。そう判断したクロノは即座に六課にいるグリフィスを頼った。何か怪人に対抗する手段や方法はないかを聞くために。相手をグリフィスにしたのは昔からの知り合いである事に加えてもう一つ理由があった。

 

 それは口が堅い事。クロノの雰囲気から何かを悟ったのかグリフィスは突然の質問に対して詮索もせず、黙って彼へバトルジャケットの事を話した。そして、それが今どこにあるのかをジェイルから聞き出す事さえしたのだ。

 その情報を頼りにクロノはレジアスへ会うための行動を起こした。半ば強引にはなったが、オーリスへ怪人の事で相談があると告げてレジアスとの対面に成功したのだ。クロノはレジアスにこう頼んだ。バトルジャケットを貸して欲しいと。しかも局員としてではなく一個人として。

 

 その理由をレジアスは聞く事はしなかった。彼はハラオウン家が本局に幅を利かせているためにクロノを嫌っていた。だが、仮面ライダーやグレアムとの接点を作り、クロノ達もまた平和を願っている事を知った今、かつて程の嫌悪感は無くなっている。

 更に、クロノはいきなり彼へ頭を下げた。駆け引きも何もなく、ただ真心だけをぶつけたのだ。ならばレジアスはそれを利用する事が出来なかった。もう陸と海の関係改善も進んでいる。ここでそれをこじらせる訳にもいかなかったために。

 

「今日、奴らは行動を起こします。僕は、本来ならばそれに関る事は出来なかったのですが……」

「そういえばクラウディアは現在艦長不在のまま任務に就いているらしいな。何でも艦長が急病だと聞いたが?」

「ええ。怒りに我を忘れています。なので、そんな者は次元航行艦の艦長失格です。事実上の失職ですよ」

「貴様、そんな性格だったのか。聞いていた印象と大分……」

 

 レジアスはクロノの言葉に内心驚きを感じるもどこか意外そうに言葉を返す。だが、それを言い終わる前にクロノがこう告げた。

 

―――誰にでも、絶対に許せない事が一つはあります。それでも、自分を抑える事が出来るのが正しい局員なら……

 

 そこでクロノは一旦言葉を切る。そして、レジアスを見据えたまま告げた。

 

???僕は、局員を辞めますよ。

 

 その言葉と表情にレジアスは一瞬息を呑んだ。だが、すぐに笑い出した。冷静沈着の優秀な人物。そんな風に聞いていたクロノが自分へ言い放った啖呵。それに不覚にも感動してしまったのだ。海にも骨のある奴がいたと思って。

 何せ提督までなった者が局員を辞めるとまで言ったのだ。しかも、ある意味で敵対する陸の代表格である自分へ。それが意味する事を考え、レジアスはクロノの評価を変える事にした。陸と海の確執をクロノならば取り除いていけるかもしれないと。

 

「そうか。ならばもう何も言わん」

「……感謝します、中将」

 

 そう告げるとクロノは立ち上がって一礼し、バトルジャケットを入れたケースを手に退室しようとする。そんな彼にレジアスは一言だけ声を掛けた。

 

―――お前に儂の事を任せたい。この事が終わったら時間を取ってくれ。

―――……分かりました。全てが終わった時にその話を聞かせてください。

 

 クロノはそう返して部屋を後にした。その答えにレジアスは小さく笑みを浮かべる。クロノは自分の罪状を知っているのだろうと理解して。そこでレジアスはふと思うのだ。オーリスの言うように陸だの海だの言っている場合ではなくなった。だが、そのおかげで知れた事もあると。

 海にも陸にも共通する思いがあった。そして、それを抱く者は思ったよりも大勢いる。クロノはきっと地上も本局も差別しないだろう。そう考えてレジアスは悔しそうに呟く。もっと早くに気付くべきだったと。海にも自分と同じ理想を持ち、願う者達がいた事に。

 

(地上だけではなく全ての世界の平和。それこそが局員の願い。こんな基本的な事を信じる事が出来なくなるとはな)

 

 上層部はともかく現場の者は決して互いを見下したりする者ばかりではない。そうもっと早く信じる事が出来れば良かった。そんな事を思いながらレジアスも動き出す。間近に迫った運命の時刻。それに備えるために。

 

 そしてそれから時が流れ、遂に公開意見陳述会が始まった。その事を音や雰囲気で感じ、警備の陸士達にも緊張が走る。当然六課の者達もそれは同じだった。

 

「……始まりましたね」

 

 エリオが噛み締めるように告げた言葉に光太郎達が頷いた。ライトニングの指揮を執るべきフェイトとシグナムは本部内部にいる。なので現在のリーダーはクアットロが引き受けていた。光太郎は周囲に怪しく思われないように陸士の制服を着ている。

 襲撃の本命時刻へ突入した事に六課の者達は揃って警戒を強めた。光太郎は出来る事なら変身したいと思いながらもせずにいた。RXの能力を使い、万全の態勢で索敵などを行いたいのだ。だが今それをやってしまえば無用の混乱を招きかねない。

 

 故にヴァルキリーズがその能力を最大限に発揮する事で索敵を行なっていた。クアットロとセインはライトニングと共にいるが、トーレとセッテはゼスト隊の傍にいる。スターズはヴィータとチンクを中心とし警戒をしている。

 一人五代はビートチェイサーに乗ったまま地上本部近くで待機していた。その理由はビートチェイサーの置き場に困ったのと、本部警備をする陸士がバイクで来るのはさすがに怪しまれるためだ。格好は陸士の制服なので、周囲には地上本部周辺の警備と取られているのかあまり不審がられていなかったが。

 

「……始まったんだ。じゃ、そろそろかな」

 

 五代は聞こえてきた音声に呟き、周囲へ視線を向けた。警備自体はもっと本部に近い場所で行なわれている。そのため人々の注意は自分へ向けられてはいない事を確認し、彼は変身の構えを取った。

 

「変身!」

 

 緑のクウガへ最初から変身し、その感覚を使い周囲を探る。聞こえる様々な音や見える様々な景色。その中に怪人の姿やトイを捜す。そして、それをある程度行って制限時間前に赤へ戻る。だが、クウガは少し時間を置いて再び緑へ超変身し索敵を行なう。

 光太郎のように普段から鋭い感覚を発揮出来る訳ではない五代。そのため、こうするしか彼には敵への対処がなかったのだ。すると、その聴覚がある音を聞きつけた。独特の羽音。それが意味するものを理解したクウガは即座に赤へ戻るとビートチェイサーの通信機能を使用した。

 

「みんな、あのカマキリが来るから気をつけて!」

 

 ビートチェイサーの通信機能を改造し簡易的デバイスと同じにする事で得た機能。これは一旦ロングアーチを経由して関係者のデバイスへ伝えられる。それを聞いた者達が周囲へ注意を呼びかけた瞬間、地上本部へ強力な砲撃が行なわれた。

 

「これは……カメ怪人のものか!」

「遠距離砲撃ねぇ。なら、ここは……クウガにお願いしてもいいかしら?」

『分かった!』

 

 クアットロはそう通信を送る。クウガはそれを聞き、彼女の狙いを理解した。そして近くにいた局員を見つけて声を掛けたのだ。

 

「あの、すみません!」

「何だっ!? え、あ、仮面ライダー……?」

「少しデバイス貸してください! すぐに返しますから!」

 

 砲撃に備えてだろう身構えていた局員。当然声を掛けられ驚きを見せるも、相手がクウガであり丁寧且つ真剣に頼んだ事を受けてやや戸惑いながら手にしたストレージデバイスを差し出した。クウガはそれを受け取ると緑へ変わる。

 それに驚く局員を無視し、彼は更に金の力を発動させる。相手の特徴は邪眼以上の強度。それに対抗するためには金の力を使わざるを得ないと判断したのだ。倒した後の爆発を一瞬心配するクウガだったが、これまでの怪人の爆発を思い出して場所によっては大丈夫と踏んで小さく頷く。

 

(金の力で倒した時、トイの爆発は思ったよりも大きくなかった。なら、あの未確認の爆発は金の力が原因じゃないはず!)

 

 ライジングペガサスとなったクウガは、その更に研ぎ澄まされた感覚を駆使し高層ビルの屋上から砲撃を行なうツェーンを発見。素早く照準をそれへ合わせ、手にしたライジングペガサスボウガンの引き金を引いた。

 

 放たれた三発の電撃を纏った空気弾がツェーンを直撃する。その内の一発は背中の砲台を破壊した。そう、クウガは倒せなかった時の事を考え、攻撃手段だけでも失わせようとしたのだ。

 ツェーンはそのダメージにビルの屋上を転がるが何とか立ち上がる。それを見届けクウガは赤へ戻って息を吐いた。これで砲撃は阻止したと。そう全員へ連絡しようとした瞬間、地上本部から爆発音が響いた。

 

「何だっ!?」

「おいっ! どうしたんだっ!? ……駄目だ! 本部と通信出来ないっ!」

 

 クウガの声と同時に局員がそう告げる。それだけでクウガは内部で怪人が暴れていると察して動揺する局員へデバイスを返すとビートチェイサーに跨った。彼は地上本部の内部へ向かおうと考えたのだ。唸りを上げるエンジン。その爆音が局員へクウガの行動理由を気付かせた。彼は離れていくその背中へ慌てて叫ぶ。

 

「あっ! 裏の方に車両用の搬入口があるんだ! そこからならバイクでも行けるっ!」

「ありがとうございますっ!」

 

 後ろから聞こえる局員の声に大声で礼を返しクウガは走り去っていく。その背中に局員が期待を込めて大声を上げる。

 

―――頼んだぞ、仮面ライダーっ!

 

 その声にクウガは背中越しのサムズアップを返し、そのまま地上本部搬入口へと向かって消えた。一方、光太郎達はそれぞれの場所でトイとマリアージュ、そして怪人との戦闘を開始していた。

 他の陸士達もトイやマリアージュとの戦闘を開始している。トイのAMFには苦労しているが、数があまり多くないためか絶望的ではなかった。ゼスト隊が率先してマリアージュを引き受け、108隊も対AMF対策をゲンヤがはやてを通じて聞いていた事やヴィータの短期教導もあってかトイを相手に善戦していた。

 

「AMFだろうが……」

「アタシらには関係ないッス!」

 

 それはその半数近くを向けられた六課にも言える。AMFが意味を成さないヴァルキリーズが中心となってトイを主に相手取り、スターズやライトニングがマリアージュを主に相手にする事でそれを凌いでいたのだ。

 

「マリアージュも……」

「対処さえ分かればっ!」

 

 動きを止めれば勝手に自爆する。それを利用するティアナ。スバルはそれを援護しつつ、持ち前の力を使い撃破も行なう。だが、四人はそれらを相手にしながらも厄介な存在にも気を配っていた。

 

「そこだっ!」

「やばっ!?」

「そうはさせないッス!」

 

 フュンフの糸がティアナの足を捉えようとする。それをウェンディの放った攻撃が阻止する。エネルギー弾に当たった糸はそれで誘爆したように消えた。ティアナはそれに安堵し、視線だけでウェンディへ礼を伝える。

 それに彼女はウインクを返してその場を離れた。そこにもフュンフの糸が放たれたのだ。回避しつつもその糸をエネルギー弾で除去するウェンディ。それと並行するように、ある程度トイを片付けたノーヴェが加速をつけて突撃する。

 

「おぉぉぉっ!」

「馬鹿がっ! 正面など……」

「馬鹿はそっちだよ!」

 

 ノーヴェを迎撃しようとするフュンフ。すると、その背後からスバルが同じように迫る。ノーヴェへ対処すると背面からの攻撃に、スバルへ対処すると正面攻撃される。しかし、それでもフュンフは慌てなかった。

 その長い蜘蛛の手足を使い、両方へ攻撃を同時に行なったのだ。それがそんな事も出来るのかと驚く二人を突き刺そうと迫る。その攻撃はそのまま二人の顔を貫こうとしていた。だがそれは叶わず終わる。

 

「なっ!?」

「「行け(行くッス)っ!」」

 

 ティアナとウェンディの射撃が打ち砕いたのだ。それを信じていたスバルとノーヴェは加速をつけたまま拳を構える。そして視線だけで語り合うとその勢いを乗せたままで拳をフュンフへ放った。

 

「「クロスナックルッ!!」」

 

 リボルバーナックルとガンナックルによる挟み撃ち。それが見事にフュンフを捉えた。その衝撃に体を揺らすフュンフへ二人はそのまま同じ方向へ蹴り落とすように回し蹴りを放つ。

 そこにはティアナとウェンディがいた。ティアナはファントムブレイザーを、ウェンディはエリアルシュートをフュンフへ発射するべく準備万端で構えている。スバルとノーヴェはそれが命中するのを見届ける事無くそれぞれ空への道を作り出し駆け上った。

 

「「これでっ!!」」

 

 フュンフが体勢を整えきる前にティアナとウェンディが攻撃を直撃させる。そのダメージを受けてもまだフュンフは健在。即座に立ち上がると口から糸を吐いて二人へ攻撃したのだ。

 二人はそれを際どく回避するがその後が続かないのか動きを止める。若干焦った表情を浮かべるティアナとウェンディ。そんな二人へフュンフはとどめの糸を吐き出そうとして、嫌な予感を感じてそこから離れた。それと同時にスバルとノーヴェが蹴りの体勢でそこへ落ちてきたのだ。

 

「おのれ、自身を囮にするとはな!」

「惜しいっ! 気付かれたか」

「でもいけるよティア」

「ああ。でも、トイ共がまだ少し残ってるな」

「そうッスね。アタシらが完全に排除しとくッス」

 

 それぞれにフュンフから視線を外さず言葉を交わす四人。ライダー無しでも怪人を相手出来る事を確かめて闘志を燃やす。サムズアップを交わし合い、彼女達は散開して動き出した。

 

 一方、ヴィータもチンクと共に怪人を相手にしていた。しかも、トイとマリアージュはスバル達四人が相手となったので完全に怪人だけに集中出来る状態で。その相手はこれが初戦闘となるノインだ。つまり黒髪のノーヴェで完全近接型。距離を取って戦える二人には有利な相手だ。

 しかし、それでも二人は油断しない。エアライナーを使い、地上戦と限定的空戦を行えるのだ。チンクはノーヴェとは動きが違う事に気付き、ヴィータはその正体を現す前に出来るだけダメージを与えようとしていた。

 

「んなろぉぉぉぉぉっ!!」

「遅いんだよ!」

 

 ヴィータの攻撃を余裕さえ感じさせるように避けるノイン。だが、そんな彼女へヴィータは馬鹿にしたような笑みを返す。それにノインが何かを言おうとした瞬間、そこへ数本のスティンガーが殺到して爆発した。

 そう、ヴィータは攻撃速度を調節する事でノインの回避先を誘導し、それを理解していたチンクがそこへスティンガーを投げ放っていたのだ。全ては確実にダメージを与えるために。煙に包まれて落下したノインへヴィータは呆れるように告げた。

 

「遅いんじゃねぇ。遅くしたんだ」

「そういう事だ」

 

 ヴィータの狙いも分からず、目先の事にだけ反応したノイン。だからこそ、爆発の衝撃でエアライナーから落下する羽目になったのだ。そんな無様な様子に二人は憐みさえ込めた目を向ける。ノインはその声を聞きながら体勢を整えて無事に着地すると二人へ鋭い視線を向けた。その表情は侮られた事に対する怒りを宿している。

 

「そうかよ……なら、もう手加減はいらないな」

「「前置きはいいから早くしろ」」

 

 ヴィータとチンクは呆れたように同じ言葉を告げる。最初から本気で戦っている二人。手加減というのは実戦でするものではないと思っているからこそ、二人はノインの言葉に心底呆れたのだ。

 それに完全にノインがキレた。その姿をおぞましく変化させたのだ。その姿はアルマジロ。その姿から二人はある程度の能力を予想する。

 

(あの皮膚……下手すりゃかなり硬いな。無理は……アイゼンのためにも程々にすっか)

(丸まっての攻撃を得意とするのだろうか? とすれば、その時はスティンガーが通らんな)

 

 そう考え、二人は微かに互いへ視線を向ける。その眼差しから互いに注意する事が理解出来ていると踏み、小さな笑みと共に頷いた。そこへノインのエアライナーが展開される。それを確認する前に二人はその場を離れる。そこを凄まじい速度でノインが通り過ぎた。

 チンクの予想通り、その体を丸めて。更に、エアライナーを上昇させる事でかなりの高度へ自分を運んだ。すると、そこから下に向かってエアライナーが展開される。しかも、一本ではなく複数を絡ませるように。

 

 それにヴィータとチンクの表情が悔しげに変わる。そう、その道は複雑に入り組んでいてどれがどこへ繋がるかすぐには理解出来なかったのだ。これでは攻撃がし辛いし下手な防御も出来ない。

 

「死ねぇぇぇぇっ!」

 

 叫びと共にその入り組んだ道へ駆け下りてくるノイン。それを眺め、二人は小さく呟く。これは厄介な戦いになりそうだと。それでも表情に不安はない。部下や妹が露払いをしてくれた以上負ける事は出来ない。そう思って二人は凛々しく立ち向かうのだった。

 

 

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 RXはクウガからの個人通信を受け、本部内部の方を任せると返して身構えた。そう、今彼の前には邪眼がいる。しかし一体だけ。他の怪人達はエリオ達が相手にしていてそこにはいない。RXは他にも邪眼がいるのかと思い警戒しているのだが、一向に現れる気配がなかった。

 それだけで彼は嫌な予感がしていた。九体の内、半数が本部へ向かっていると仮定するとここには一体しかいない。では、四体か三体は内部だ。だが本当にそうかとどこかで訴えるものがあった。だからこそ嫌な予感がしているのだ。自分の予想が外れている事とそれが更なる悪夢を引き起こす気がして。

 

「くっ!」

 

 邪眼の放つ電撃をかわし、RXは一番考えたくない想像をしていた。それはこちらの予想を逆手に取り、一体だけをこちらへ差し向けて残りを全部隊舎へ向かわせている事。そんな考えがちらつき、RXは拳を握る。

 もしそうだとしても今ここから動く訳にはいかないために。そう、エリオ達が戦っている怪人の中には初めて戦う相手もいるのだ。黒髪のウェンディそっくりの存在―――エルフは、その正体を未だに明かす事無く戦っている。その手にライディングボードを所持しているのもウェンディと同じだった。

 

 エリオ達が相手にしている怪人の数はたった二体。アインスとエルフだ。クアットロのISで撹乱しつつ、エリオが高速移動で翻弄しキャロがフリードのブレスでアインスの羽を迎撃。セインはISで地面に潜み、相手に対し時折奇襲を掛けていた。

 不安要素は多いが、トイとマリアージュは他の陸士達が相手をしてるためかそこまでおらず、早々に片付ける事が出来ている。それだけが唯一の幸いだった。

 

「クア姉、そっち行った!」

「分かってるわよ!」

 

 ガジェットの制御をしつつクアットロはISも制御している。それを悟ったアインスが彼女を先に仕留めようと動いていた。セインとキャロがそれを相手にしているのだが、中々厳しい状況としかいいようがない。二人には強力な攻撃方法がない事がその一因だ。

 今はアインスの羽をキャロが、セインがISでクアットロの移動と回避を補助していた。エリオはエルフがそちらへ手出し出来ないようにひたすら足止めに徹している。しかしその状況はお世辞にもいいとは言えない。

 

「フリード、ブラストレイ!」

 

 それを見たキャロはフリードに怪人達の牽制を任せ、自分はエリオに対しての援護へ集中し始めた。バインドも試みてはいるのだが、相手の攻撃にも注意を払わなければいけない。そのため、的確なタイミングでの使用が出来ないでいた。

 そんな風に苦戦するエリオ達。そこへ剣閃と共に焔が駆け抜けた。剣閃はクアットロを狙っていたアインスを迎撃し、焔はエリオへエネルギー弾の連射をしていたエルフとRXと対峙する邪眼を襲う。それにその場の視線が動く。そこには一人の騎士がいた。

 

―――すまん、遅くなった。

 

 周囲へ希望を与えるようにシグナムはそう言ってアインスを弾き飛ばす。そして、全員へ聞こえるように告げた。

 

「内部の怪人はなのは隊長と八神部隊長が中心となって戦っている。更に、確認はされていないがクウガも戦闘中らしい。私達はここを片付けた後、そちらへ援護に向かうぞ」

 

 それにエリオ達が力強く頷き、一度体制を整えるため集合する。それを見たRXは邪眼をシグナム達から離すべきと考えて地を蹴った。邪眼はそれを追うようにその場から離れていく。シグナム達はそれだけでRXが何を狙って動いたかを理解すると無言で頷いた。

 二体を任されたのだと。その信頼に応えるべく彼らは視線を怪人から逸らさず、睨むようにしていた。シグナムは念話で自分とセインでアインスを相手取り、エリオとキャロでエルフを相手にするように指示を出す。クアットロへは両者の支援をしつつ状況把握に努めるようにと。

 

 それを聞いてまず動いたのはエリオだった。手にしたストラーダを突き出すように構えて雄々しくエルフを睨んだのだ。

 

「じゃ、僕が先陣を切ります! ストラーダッ!」

”ソニックムーブ”

 

 エリオはエルフへ速度を活かし突撃する。それに対して射撃を行なおうとするエルフを見たキャロがそうはさせないとブースト魔法を使った。それにより速度を増したエリオがエルフの真横を通り抜ける。

 それが相手の脇腹へ傷を作った。するとエルフは傷をなぞるように触ってどこか楽しそうに笑みを浮かべる。その反応にキャロは一瞬恐怖を感じるも両足に力を込めてそれを耐え切った。

 

「中々やるじゃない。このままじゃ倒すのは面倒って事ね」

 

 そう言ってエルフは姿を変える。それはヤマアラシ。背中に無数の棘を持つ動物だ。エルフはにやりと笑うと、持っていたライディングボードに乗ってキャロへと突撃を敢行した。同時に背中の棘を射出しエリオを狙う。

 それを必死に回避しながらエリオは避けきれないものはストラーダで弾きつつエルフを追い駆けた。キャロは自分へ迫り来るエルフに対し迎撃ではなく退避を選択。動きを止めたままでは危ないと考えたのだ。

 

「フリード、上昇して!」

「おっと、逃がさないよ」

 

 ライディングボードを踏み台にしてエルフは高く跳び上がった。それは上昇を開始していたフリードをあっさり追い越す。キャロがそれに僅かに気を取られた瞬間、エルフはその鋭い爪を振り下ろした。

 その一撃がフリードの顔へ直撃しそうになった時、下から何かが物凄い勢いで飛び上がって爪を弾く。その正体はエリオ。ストラーダの力を使い、ロケットのように垂直上昇を敢行したのだ。そしてそのまま彼はストラーダでエルフの追撃を迎撃する。

 

「キャロ! 下に向かってブレスをっ!」

「えっ?!」

「早くっ!」

 

 エリオは落下を始めながらキャロへそう指示を出した。エルフも同様に落下を始めていたので攻撃する絶好の機会だとは彼女も理解している。だが、このままではエリオも巻き込んでしまうと思ったのだ。しかしすぐにある事を思い出したキャロはフリードへ毅然と告げる。

 

「フリード、ブラストフレア!」

「何っ?!」

 

 エルフはまさか味方ごと攻撃すると思ってなかったのか思わず声を発した。そこへフリードの火炎が放たれる。すると、それが直撃する前にエリオはストラーダを下に向けて先程と逆の事を行なった。

 それにより加速度的に落下速度を上げるエリオ。だが、エルフにはそんな事は出来ない。何とか少しでも早く落下するようにするもエリオ程の速度が出るはずもなく、その体は火炎に少なからず当たったのだ。

 

 それはエリオを攻撃しようとしていたエルフの棘さえ焼き尽くす。地上へ接近したのを見たエリオはストラーダの噴射で速度を調整しつつ体勢を何とか立て直して無事着地。そのまま火炎をくぐって落ちてくるエルフへ追い打ちの魔法を放った。

 

「サンダーレイジっ!!」

 

 それがエルフの体を直撃する。電撃が駆け巡り、火炎との連続攻撃にエルフは軽くよろめく。それでも膝をつくだけで立ち直り、ライディングボードを手にしてエリオへそれを向けた。放たれるエネルギー弾。だがそれを熱線がかき消した。

 

「チッ!」

「エリオ君大丈夫?」

「うん、キャロのおかげだよ」

 

 エリオへ声を掛けつつキャロはフリードとその隣へと戻る。完全に睨み合う形となる両者だが、エリオもキャロも戦って分かった事があった。それは、今の自分達なら怪人は絶対に倒せない相手ではないという事。だが油断は出来ない。少しでも気を抜けば殺されかねない事には変わりないのだから。

 

「キャロ、援護はお願いするよ」

「分かった。絶対支えるからね、エリオ君」

 

 互いに小声で信頼を告げる。そして、エリオは再びエルフへと向かっていく。それを助けるべくキャロもフリードと共に動き出した。それと同じようにシグナム達もアインス相手に五分の戦いを展開していた。シグナムが羽の迎撃と前線をする横でセインはクアットロの護衛をする形で。

 クアットロが制御するガジェットが厄介と理解したアインスは残ったトイを出来る限り彼女へと差し向けたのだ。故にセインがその撃退を受け持っている。シグナムはクアットロのISによる虚像を利用して戦っていたのだが決め手に欠けていた。

 

(やはりアギトかリインがいなければ辛いか? リミッター状態では今一つ届かん)

 

 先程から二度程自慢の剣技を叩き込んだのだが、それでもアインスは健在なのだ。少し弱っている感じはある。だが、それも二発叩き込んでやっとだ。とどめを刺すためにはどれだけ同じ事を繰り返せばいいのか。そんな思いがシグナムの中に生まれる。

 だが、そこで彼女は小さく笑った。ならば何度でも叩き込めばいいと、そんな事を思い始めていたのだ。あの無人世界での邪眼との戦い。あの時のクウガやアギトの言葉。それだけではない多くの者達の言葉を思い返し、シグナムは自分へ言い聞かせるように呟く。

 

―――倒せるまでやるだけ、か。

 

 小さく笑みさえ浮かべて、彼女は手にしたレヴァンテインを握り直して悠然と構えた。そして刀身に炎を纏わせアインスへと向かっていく。放たれる羽をその刀身で焼き払い斬りかかるために。それをアインスは羽ばたいて上昇する事でかわす。

 しかしその時、その頭部に何か大きな衝撃が走った。アインスの意識がそれへ向く。その目に映ったのは少し壊れた一機のガジェットの姿。シグナムを援護するべくクアットロがアインスへと向かわせたのだ。そう、アインスの回避行動を妨害するためともう一つの目的のために。

 

「このっ! ガラクタ風情でっ!」

「だが貴重な隙を作った」

 

 苛立ちからアインスがガジェットを破壊するも、その背後からシグナムが現れる。彼女はアインスが振り向く前にその剣を全力で振り下ろした。

 

「紫電一閃っ!!」

 

 これまでの二回よりも完璧な状態で決めた一撃。それがアインスの背中を大きく傷付けると同時にその体を落下させた。シグナムはそれを追い駆ける事はせず、その場である物を使うために素早く準備を始める。それを見たクアットロが機を逃すなとばかりにセインへ叫んだ。

 

「セインちゃん、私はいいからあいつを逃げられないようにして!」

「了解っ!」

 

 ISを使い落下したアインスへ接近するセイン。彼女はその足を掴むと地面へ引き込んだ。当然アインスは完全に地面へ埋まったようになる。セインはそのままその場を離脱し、それを察したクアットロが上空のシグナムへと合図を出した。

 

「今よ!」

「翔けよ! 隼っ!」

”シュツルムファルケン”

 

 放たれるはシグナムの切り札。何とか地面を砕いて脱出しようとするアインスだがそれも間に合わず。魔力の矢は身動きが取れなくなったアインスを直撃した。しかし、シグナム達はそれでも気を抜かない。煙が晴れた先には翼がボロボロになったアインスがいたのだ。

 

「私の翼をよくも……よくもぉ!」

「まだ立てるんだ。厄介だね」

「そうね。でも、かなり効いてるみたいよ」

「ああ。しかもこれでしばらく空を飛べまい。セイン、ここからは今まで以上に頼りにするぞ」

「了解! 頑張るからねっ!」

 

 怒りに燃えるアインスに対し、油断など欠片もする事なく彼女達は再び動き出す。アインスを完全に倒すために己の全てを出し切るつもりで。こうして地上本部前で繰り広げられる六課と怪人の戦いは僅かに六課が優勢となっていた。

 

 

-5ページ-

「……来た」

「ですね」

 

 隊舎の外で龍騎とアギトを始めとする者達は怪人達を迎え撃つべく戦闘態勢を取っていた。地上本部との連絡が途絶した瞬間から留守番組は隊舎前で襲撃に備えていたのだ。

 眼前に現れたのは邪眼と怪人達。それに複数のトイとマリアージュだ。そちらは任せて欲しいとウーノ達が二人へ視線を送る。それに頷き返し、二人のライダーは視線を邪眼へ向けた。

 

「やはり待っておったか、仮面ライダー共!」

「まずはキングストーンを持たぬ貴様らから始末してくれるわ!」

 

 邪眼が二体揃って告げた言葉。それに二人はそれぞれに構え、告げる。仮面ライダーとして、そして人としての闇に対する決意表明を。

 

「「俺達は絶対負けないっ! 仮面ライダーも、人間も、絶対に闇へ屈しない!」」

 

 それに呼応するようにウーノ達も力強く頷いて見せる。その様子を全ての課員達が祈るように見つめていた。隊舎内のあちこちで流れる映像を不安気な眼差しで見守っているのだ。リインは食堂でヴィヴィオとイクスを抱き抱えるように見つめていた。

 グリフィス達は少しでもアギト達を支えるべく周辺の索敵や地上本部への連絡手段の模索を続け、ジェイルは今も一人デバイスルームでトイのガジェット化を進めている。だが、邪眼の姿を見た彼は別の事に取り掛かっていた。

 

「何とかして……何とかして間に合わせてみせる!」

 

 龍騎へ渡すための力。それをこの戦いが終わった後で渡すために。彼には嫌な予感がしていた。急がなければいけない。それが間に合わねば龍騎の危機へ繋がるかもしれないと。それがジェイルを駆り立てていたのだ。

 

 そうやってジェイルが一人作業に没頭する中、隊舎前では戦闘が開始されていた。邪眼の相手をそれぞれアギトと龍騎が引き受け、隊舎前から離れるように移動する一方で、トイをディエチが迎撃しマリアージュをシャマルとドゥーエが防ぐ。

 ウーノは周囲からの増援がないかを警戒しながら状況の把握に努め、ザフィーラはディードやオットーと共に怪人の相手をしていた。相手は二体。フィーアと初めて見る相手。黒髪のディード???ツヴェルフだ。

 

「私のコピー……ですがっ!」

「遅いですよ」

 

 激突する双剣と双剣。その衝突音を聞きながらザフィーラはフィーアと対峙していた。彼は相手が隊舎内にいるヴィヴィオ達を狙って周囲へ同化する事を懸念し、ある手段を講じるべく魔法を展開する。それは彼の得意魔法とも言えるものだ。

 

「うおぉぉぉぉ!」

「な……周囲を棘で囲んだ?」

「これで姿を消そうとも、抜け出す際は居場所を明らかにする事になるぞ」

 

 ザフィーラは一人でフィーアを倒すなど考えていなかった。今一番防がないといけない事。それはフィーアが隊舎内に侵入する事だ。ヴィヴィオとイクスの安全確保。それこそがザフィーラの第一目的だったのだ。

 オットーはそんな彼の狙いを理解している。故に、もしその一角が崩れた時は即座にレイストームを叩き込むつもりでいた。この戦闘は防衛戦。ならば勝利条件は敵の全滅ではなく全員の生存とヴィヴィオとイクスを守り切る事なのだから。

 

「この戦い……時間との戦いかもしれません」

 

 オットーはそう小さく呟くと視線をディードの方へ向けた。初めて戦う怪人に苦戦するだろうディードを援護するために。そう、彼女はザフィーラの事を心配していない。何故なら彼は盾の守護獣の異名を持つ者。ならば守りに徹すれば負ける事はないと信じているのだ。

 

 それぞれに展開する戦闘。それを一通りモニタリングしながらウーノは一人疑問を抱いていた。前もって出していた予想に反している点が多かったために。

 

―――怪人の数が予想よりも少な過ぎるわ。これじゃヴィヴィオ達を奪取する事なんて出来ないって分かるでしょうに……

 

 そんな彼女の呟きは誰に聞かれる事なく戦闘による音で消える。未だ姿を見せていない複数の邪眼や残る怪人達。それを考えると不安は尽きないが、それでもウーノは意識を切り替えて目の前の戦闘へ集中する。まずは今を切り抜ける事が最優先だと己へ言い聞かせながら。

 

 

 遂に始まった管理局と邪悪の戦い。それぞれが善戦する一方、ゼスト隊やなのは達はどこで誰と戦っているのだろうか? そして、邪眼は本当に九体がこの襲撃に参加しているのか? 未だ姿を見せない怪人達はどこに? その答えは、まだ誰も知らない……

 

 

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中編。やはり戦闘になると恐ろしい量になるので、分割。

 

次回は四人のライダーによる邪眼戦と一部の怪人戦をお届け。そしてクロノとレジアスも活躍予定。

説明
公開意見陳述会当日になり、いよいよ邪眼の襲撃が始まる。クウガとRXが地上本部で、アギトと龍騎が隊舎で邪眼を迎え撃つ。
一方、六課だけでなく管理局もトイやマリアージュを迎撃する。迫り来る闇に決して屈しはしないと……
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