アイマスSS 歩いて帰ろう〜星井美希バースデー遅刻編〜 |
歩いて帰ろう〜星井美希バースデー遅刻編〜
星井美希〜十一月二十五日〜
今日も俺の仕事は終わっていない。日が落ちているにもかかわらずだ
しかし、今日に関しては言い訳させてもらいたい。
まず春香の付き添いに千早のボイトレ、あずささんの捜索に雪歩と真の送り迎え、その他雑務もろもろ。
そして何よりも、ここ最近休みなしで働く美希の付き添い。
毎度のごとく断りを入れている気がするが、別に忙しいのが悪いわけではない。むしろ嬉しいくらいである。ただ、今回はちゃんと仕事をしていたことは知っていて欲しい。誰とは言わないが。
「ん、そろそろ美希を迎えに行く時間じゃないか」
パソコンの画面から顔を上げ、向かいの壁にかかった時計を見上げると、夕方美希と約束した時間が近かった。まずい、またへそを曲げるじゃないか。
「すいません音無さん、美希を迎えに行ってきます」
隣で仕事をする音無さんに声をかける。
「わかりました。気をつけてくださいね」
音無さんの返事を背に、事務所の扉をくぐる。とりあえず社用車出すか。
バタン、と扉を閉め、セルを回す。
シートベルトを締めて、ゆっくりと走りだした。
「はい、カーット!」
監督からのカットが出て、やっと今日のお仕事が終わったの。
時間は・・・うわ、やっぱ遅くなっちゃったの。ハニー、もう来てるかな。
「ミキちゃん、お疲れさま。遅くなっちゃったから、うちのに送らせようか?」
スタッフさんが声をかけてくれるけど、もうハニーとの約束があるから、丁重にお断りするの。
「すいませんなの。もう事務所の人が迎えに来てくれてる予定になってるから、今日は大丈夫なの。また今度よろしくお願いしますなの」
「そう、それなら安心だね。今日はお疲れ様」
そう言って、スタッフさんは帰っていったの。
「あ、ハニーに連絡しないと」
携帯電話を出して、ハニーの番号を押すの。ちょっとあってからハニーが出たの。
「あ、ハニー?今大丈夫?」
『お、美希。撮影終わったのか?』
「うん。ごめんなさいなの、遅くなっちゃって」
『何を謝ることがある。仕事ちゃんとしてたんだろ?褒められこそすれ、怒るわけ無いだろ』
やっぱりハニーは優しいの。美希ももっと頑張らないとなの。
『ちょうどさっき局の前についたから、準備が終わったら降りてきてな』
「わかったの。また後でね」
カバンを担いだ美希が、助手席に乗り込んだ。
「ハニー、遅くなってごめんね?待った?」
最近の美希はなんて言うか、謙虚になった気がする。どうなんだろう。ここ数日美希につくことが多かったから、美希の違う面が見えてるだけなんだろうか。
「何を言うんだい。そいつは言わねぇ約束だろう」
「あはっ、なんか古臭いの」
俺の返事に、美希がカラカラと笑う。やっぱ笑った顔が一番可愛いな。
「さて、事務所帰るか」
「ミキ的には、このままドライブデートでもいいよ?」
何を言っとるんだこの娘は。無言で受け流して、車を走らせる。
「んもう、さすがに無視はヒドいって思うな」
「すまんすまん。正直揺らいだ」
まぁ、でも流石にな、仕事中だしな。
「じゃあじゃあ、デートはまた今度にするの」
「そうだな、また今度な」
そう言ったっきり、美希は黙ってしまった。運転中だから、さすがに表情まで覗くことはできんが。
何度目かの信号を過ぎた頃、美希がおもむろに口を開いた。
「ねぇ、ハニー――」
「ん?」
やけに神妙な雰囲気だな、珍しい。
「やっぱり何でもないの」
なんだそりゃ。
向こうの方に、事務所の明かりが見える。
ハニー、やっぱり忘れちゃってるのかな。
でも、自分の誕生日のお祝いをねだるなんて、なんかイヤな子だって思うな。
「美希、事務所ついたぞ」
「うん、ありがとうなの」
いつの間にかハニーは助手席側に回ってて、ドアを開けててくれたの。
「しかし寒いな。風邪引くなよ?」
「うん、大丈夫だよ、ハニー」
なんでこんなに優しいのに、肝心なことは――。
「報告書、ちゃっちゃと書いちゃってな。今日は、送ってくから」
最近忙しかったから、この神書くのも慣れちゃったの。サラサラっと。
「ハニー、書けたよ」
「そうか、んじゃあ帰るか。音無さん、あとお願いします」
やっぱり外寒いの。早く春にならないかな。
でも、最近はハニーが一緒に帰ってくれることが多くなって、それはちょっと嬉しいかも。
いつもはもっとお話するんだけど、今日のハニーはなんか考え事してるって感じ。
でもでも、なんかこうやってシーンとしてるのも、夜って感じでいいって思うな。寒いけど。
「な、なぁ美希」
「なぁに?」
またシーンってなったの。
「あ、そ、そうだ。喉渇かないか?」
「大丈夫だよ。ありがとうなの」
そうか、って言ったきり、またハニーは黙っちゃったの。
なんか、やっぱりいつものハニーっぽくないって思うな。
どんだけヘタレなんだ俺は。そりゃ確かに誕生日プレゼントを渡しそこねてたのには引け目を感じるが、いくらなんでもヘタレすぎだろ。
――こんなんじゃ、だめだよなぁ。
「美希」
少し前を歩く美希を呼び止める。
「ハニー、どうしたの?」
じつは、誕生日プレゼントはずっと用意してたんだよ。前日から美希の仕事が予想以上に忙しくなって渡しそびれただけで。
「あのな、これ」
「マフラー?ハニー、これ――」
美希は、訳がわからなそうにマフラーと俺のかをを交互に見ている。
「ゴメンな。言い訳するつもりはないんだけど、ここんとこずっと忙しくて、誕生日過ぎてもずっと渡せなかったんだ。ほんとにゴメンな」
あぁ、我ながらなんて言い訳がましい。最悪嫌われたかもしらんね。
ほら、うつむいてプルプル肩震わせて、絶対怒って――。
「うわ!?」
びっくりした。いきなり美希が抱きついてきた。思わず受け止めたが、どうしたものか。
「み、美希?」
「ハニー、ミキね、すっごく嬉しいの!このマフラー大事にするね?」
どうやら喜んでくれてるみたいだ。美希の笑顔がこんなに近くに。近くに?
「わ、わかった。分かったからとりあえず離れろって!」
「や!遅刻した罰なの」
ば、罰か。それなら仕方ないな、ってんなわけあるか。
「ほら、マフラー巻いてやるから一回離れろって」
そう言うと、美希は渋々離れてくれた。
「よっ、いしょっと。こんなもんか」
「えへへ」
今度はそっと、俺の腕に自分の腕を組んできた。
「おい、美希――」
「ハニー、お願いなの。今日はこのままで、ね?」
「わかったよ。今日だけだからな」
そうだよ、今日くらいいいよな。遅れたお詫びも込めて。
「ハニー、大好きなの!」
歩いて帰ろう〜星井美希バースデー遅刻編〜 了
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ごめんねミキミキ。忘れてたわけじゃないの。三連休がなかったの。いいわけじゃないよ。ほんとだよ | ||
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