その素晴らしい発見 |
「素晴らしい、実にすばらしい発見だよ」
「どうしたました教授?」
突然席を立ち、狂喜乱舞する教授に助手は聞いた。
「いやね、今まさに素晴らしい発見をしてしまったのだよ」
「……というと?」
「はは、これは言葉などでは説明できそうにないね」
「なら、今すぐ実験の手配を……」
「違う違う、そういう次元の問題ではないのだよ」
そう言って、教授は自分の頭を指さす。
「ここに理論が組みあがっているのだよ、それを伝えるなんてとてもじゃないが無理だね。それくらい素晴らしい発見なのだよこれは」
「はあ、それでしたら論文でしょうか?」
「君もわかってないねえ、私の発想が生み出したものを外に表現などできるわけがないのさ。それくらい素晴らしく、前人未到の大発見なのだよ」
フハハハハと教授が笑い転げる。
その様子を見て、助手が苦笑する。
「あの、教授。何か他に、表現する方法がないのでしょうか? それほど素晴らしい発見と言うのならば、私にも興味があります」
それを聞いて、教授の笑い声がぴたりと止んだ。
「何だ? 君はあれか? 私の発見を盗むつもりなのかい?」
優しげな教授の目が怒りに満ちる。
「いえいえ、そんなことはありませんよ。ただ、どういった発見なのかはやはり気になりまして」
「ふざけるな! そんなことを言って、私を騙して手柄を横取りするつもりだったのだろう!」
教授が声を荒げる。
「どうせヒントを得て、自分の研究にしたかっただけだろう。その後用済みになったら私を殺す気だったのだろう!」
「お、落ち着いてくださいよ教授。そんなこと誰も思ってませんよ」
「嘘だ、信じられん。……残念だよ、君がこんな最低の人間だったなんて」
ゆっくりとした動作で、教授は戸棚からナイフを取り出す。
「君のような下種な輩に、私の発見は盗まれてはいけない! だからこそ、殺られる前に殺る!」
教授が助手に飛びかかり、その胸にナイフを突き立てた。
それからしばらくして。
「何故だ? 理解出来ん。私はこの素晴らしい発見をただ守ろうとしただけじゃないか!?」
呆れるようにして、裁判官がもう何度目となるのかすらわからない質問を繰り返した。
「……ですから、その発見とはいったいどういったものなのかと聞いているじゃないですか?」
「またその質問かい、愚問だよ」
また教授は自分の頭を指指す。
「今でもその発見はここに入っているのだと言っているではないか。そしてあまりにも素晴らしすぎるそれは、言葉や実験でどうこう出来る代物ではないのだよ」
法廷全体に嘆息が響く。それは裁判官だけのものではない。
「もういいでしょう、わかりました」
そう言って、裁判官は警備の者達に合図を送り、教授が脇を抱えられる。
「これは何の真似だ! 離せ! まさか、私を妬んで策に嵌めようというわけか!」
ジタバタともがく教授は、そのままずるずると法廷を引きづられていく。
わざわざ告げるのも煩わしいレベルだが、被告のいなくなった法廷に静かな判決が下った。
死刑、と。
「……そうか、なるほどな。どうやら貴様達のような下賤な愚か者どもには、私の発見の真意が見抜けなかったというわけか。傑作だな! だが、逆にこれで証明されるのだよ、私の発見は誰も理解することが出来なかったとな!」
フハハハハと言う笑い声とその言葉を残し、絞首刑は執行された。
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何というか、ちょっと書き足りないような気もしますが思いついたままに。サブタイトルをつけるなら、妄信ですかね。 | ||
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