営業三課・秋山悠輔のとある災難【その6】〈最終回〉
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 ガルダンは、大丈夫なのだろうか。

 秋山は言われたとおり、聖域内にいくつかある石塔の陰で、息を潜めて隠れていた。

 闇の奥から、刃を交える金属音と、ざくっ、ざくっという乾いた音が聞こえてくる。それは、生身の身体を切り裂くような湿った音ではなく、なにか、藁のような乾いたものの塊を斬り付けているようにも聞こえた。

 秋山は少し心配になって、そっちのほうへ近付いてみることにした。危険なのはわかっていたが、ひとりで戦っているガルダンを、見守らずにはいられなかったからだ。

 やはり、ガルダンは敵に取り囲まれていた。

 それ以上奥へは進ませまいと、敵の黒い影は次々に襲いかかっていく。

 ガルダンの大きな剣が、影たち切り裂いていく。

 ところが奇妙なことに、その黒い人影は切り裂かれても、血飛沫ひとつ飛び散るわけではない。ざくっ、と切り裂かれた瞬間、どさどさっと、地面に崩れ落ちるのである。まるで、土人形が崩れ去るように。

 一度崩れた土人形は、二度と元の形に戻りそうになかったが、それでもどこから湧いて出るのか、黒い影たちは、次から次へとガルダンに群がっていく。

 これでは、ガルダンの体力が持たない。

 何とかしなければ。自分に出来ることは何かないか?

 秋山は石塔の陰からこっそり出て、敵が崩れ去った残骸のあるところまで進んだ。残骸を手にとってみると、一塊の乾いた土くれであることがわかった。

「土人形…」

 この世界では魔物のようなものが、当たり前のように跳梁跋扈しているのだろう。RPGで言うところの〈アンデッド〉というヤツか。理屈はわからないが、〈生命〉があって動いているものではなさそうだ。

 掌でさらさらと崩れていく土地の塊を見ながら、秋山は考えた。

 この土を、湿らせるとどうなるのか。土を泥に変えてしまえれば。

――どこかに、水はないか?

 水脈探知機だ。秋山はキャリングケースを開いて水脈探知機を取り出した。これを使えば、封じられているこの地の水脈がわかるかもしれない。その水脈から水を引いて…。いや、そんなことをしている暇はない。もっと手っ取り早く…。

 そうだ。革袋だ。水の入った革袋。ガルダンがこの土地に入る前に、秋山に水でいっぱいに満たしてくるように言ったものである。

 すぐさま秋山は、ガルダンたちの荷物を置いてある場所に取って返すと、水で満たされた革袋を探した。

 これだ。これをポンプに繋げば…。

 革袋の小さな給水口は、幸いなことに秋山のポンプの口と合いそうだった。少し漏れる感じがしたが、手で握ってやれば何とかなりそうだ。

 革袋自体は背負えるようになっていたから、革袋とポンプで、簡易給水装置の出来上がりである。

 この水をあの土くれどもにぶち当ててやれば、ささやかながら援軍になるのではないか。

秋山なりの戦闘態勢を整えると、アミンターラの人形を荷物の間の安全のところに隠した。

「しばらく、ここで待っていてください」

 秋山は言い残して、闇の中に飛び出して行った。

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「ガルダン、大丈夫か!」

  敵に囲まれたガルダンに声をかけながら、秋山はポンプで水を撒き散らしながら、突き進んでいく。水の効果は絶大で、少しでも水の掛かった土人形は、その部分から崩れ去る。

「なにをやっている、ユースケ!姫をお守りしているはずではなかったのか!」

「このままじゃ埒が開きそうにないからな。俺でも役に立てることがあるかもしれないと思って、こんなものを作ってみた!」

 秋山は自慢げに、ポンプの水を勢いよく噴射して見せた。

「どうだい、この威力は」

「凄いが、どうしたのだ」

「なに、ちょっとしたデモンストレーションさ。営業活動、ってやつだ。安くしとくよ、だんな」

 秋山は笑いながら、土くれを次々と泥に変えていった。

「中央突破だ」

 ガルダンが敵を切り裂く一方で、秋山も土くれを泥に変えていくことで、敵の数はずいぶん減って行った。

「しかし、何とかならないのか、この土人形の元を断つには」

「閉ざされた水門を開ければ、何とかなるかもしれん」

「水門?」

「ああ、この神殿の奥底深くに水門があって、そこを押さえられているために、この地の水が絶えてしまったのだ。この地を水で満たせば、あの影どもも泥に戻る」

「そうか、じゃあ、その水門を開こう」

「待て、その前にあんたを、元の世界に帰さなければ」

「どうしてだ。敵を倒すのが先だろう、でないと落ち着いて」

「そうではない。水門を開けると神殿は水浸しになってしまう。『鏡の間』は、水門のすぐ上にあるのだ。水が引くまで待っていたら、夜が明けてしまう」

「そうか…」

 秋山は二者択一を迫られた。

 一日でも早く、元の世界に戻りたい。その一方で、一日くらい待てるのではないか、という思いがちらついた。この二人ともっと話してみたい。いろんなことが知りたい。この世界のことも、もっと――。

「いや、ちょっと待て。あまり役には立たんかもしれないが、ポンプで汲み出すという手があるぞ。このポンプだ」

 その時、自分でもよくわからなかったが、差し迫った二つの問題を同時に解決できる方法をひらめいたような気がした。それが正しい答えなのか、やってみなければわからない。理屈を越えた何かが、秋山を突き動かしていた。

「とにかく、俺をその水門まで連れて行ってくれ。水さえあれば、俺は自分の身は守れる。その間に、あんたは姫さんと俺の鞄を持ってきてくれないか」

「わかった、あんたの言うとおりにしよう」

 ガルダンは即決断すると、秋山を伴って神殿の地下にあるという水門を目指して、一気に駆け抜けた。

 

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 土人形たちの執拗な攻撃をかわしながら、二人の男たちは神殿の奥へと向かう。勝手知ったる場所なのか、右の扉、左の階段と、ガルダンは目的地に向かって迷いなく突き進んでいく。

 神殿の奥へ行くにしたがって、さすがに敵の数は減っていった。それでも追いすがってくる土人形たちを、どうにかこうにか撃退しながら、大急ぎで石の階段を駆け下り何枚目かの扉を開けると、、地下の一番深いところに大きな鉄の扉で塞がれた空間が現れた。

「ここが水門か」

 そこは巨大な地下貯水槽に間違いなかった。ドーム状の天井は、さながら秘儀を執り行うための伽藍のようにも見える。

 二人がいるのは、貯水槽の底の部分、水門を開けば真っ先に水に浸される場所であった。今は鋼鉄の水門はぴたりと閉じられているので、ぴっちりと隙間なく敷き詰められ、磨き上げられた床はからからに乾いていた。

 水門の開閉を制御する仕掛けは、右手奥の壁沿いに作られた階段を昇ったところにあった。壁から少しせり出すように、櫓のような作りになっている。そこからさらに小さな階段が伸びていて、上の階へと上がれるようになっていた。本来なら直接櫓へと下りていけばいいのだが、それでは遠回りになるから、とガルダンは直接床底へ出るルートを取ったのだ。

 ガルダンは秋山をつれて櫓へ上った。開閉装置は大きなハンドルによって操作するようになっていた。

「いいんだな」

 ガルダンが念を押した。ここを開けば神殿は底部から水に浸される。〈鏡の間〉もじきに水没してしまうのだ。

「かまわないさ。なに、上の部屋が水浸しになったところで、戻れるのが一日遅れるくらいだろう」

「あんたがそう言うのなら」

 ガルダンは開いているほうの目を細めた。

「急げ、時間がない」

 今は静かな地下空間だが、敵の侵入も時間の問題だ。

「いくぞ」

 二人は眼と眼を見交わし、共に力を込めてハンドルを握った。二人の渾身の力によって水門は、ぎ、ぎ、ぎ、と重いきしみ音を立てて動き始めた。狭い隙間から、ちょろちょろと水が漏れ始める。

「もう少しだ」

 土人形たちが影のように水門の部屋になだれ込んで来た。

 自分たちにとって危険区域であることがわかっていないのか、土で出来た守り手たちは、平気で入って来ようとしている。

 水は、床を浸し始めていた。影たちは、水に満たされた床に足を浸した瞬間、どろどろと溶けていく。秋山とガルダンは、今一度力をあわせて、水門を一気に半分くらいまで開いた。

 どごっ、という音と共に、大量の水が地下空間に溢れ出た。

「これくらいでいいだろう」

 地下水槽は見る見る水かさを増していく。すでに貯水槽に入り込んでいた土人形たちは、足元から泥となって水の中へ溶けて行く。

「このすぐ上が〈鏡の間〉だ。行くぞ」

 櫓から伸びている梯子を伝って、二人は階上の部屋へと向かった。もはや二人を追ってくる土人形たちは皆無だった。水は地下全体を浸しながら、徐々に水位を上げていく。いったいどこにこれまでこれほどの水が蓄えられていたのかと思えるほど、その量はとめどなく、膨大だった。

 梯子をよじ登ると狭い通路にたどり着いた。〈鏡の間〉はその先にあるのだ。

 ガルダンが先導してその通路を歩いていく。行き止まりの壁に扉が一枚現れた。

「あんたはこの扉の向こうで待っていろ。ここが〈鏡の間〉だ」

「あんたは?」

「私はもと来た道を戻る。なに、最短距離を行くまでだ。あんたの荷物を取りにね」

「だが、あれでは」

 水はすでに地下水槽の6割ほどを満たしていた。

「大丈夫。水の行き先はわかっている」

 言うが早いか、ガルダンは貯水槽に身を躍らせた。水は水門から溢れながら、ガルダンを神殿の外へと運んでいった。

 その姿を秋山は呆然と見送った。すごい男だ。そんな感想しか出てこない。ガルダンという男、これくらいのことで命を落とすようなことはないのだろう。彼が戻ってくることは疑いのないことだと、秋山は確信していた。

 ガルダンの姿が見えなくなったところで、秋山は〈鏡の間〉への扉を開けて、中へと入った。

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――何なんだ、ここは?

 〈鏡の間〉に足を踏み入れた秋山は思った。真っ白な空間が広がっているだけの場所に出てしまった。空間全体が白く輝いていて、距離感がつかめない。どこまでが壁なのか…。それに、光はどこから入っているのか。確かここは、神殿の地下だ。最下層から一つ上がっただけのところに過ぎない。見たところ窓らしいものはどこにもない。

 それに「鏡」はどこにあるのだ。

 秋山はその白い空間に一人取り残されて、言いようのない恐怖を覚えた。本当に、ここから帰れるのか?元の世界に戻れるのか?可奈恵にまた逢うことは出来るのか?

 さっきまでいた世界と切り離された、また別の世界に来てしまったのではないか、という恐怖と疑念が、秋山の脳裏を過ぎる。だがそれはすぐに打ち消された。

 足が、なにか冷たいものに触れていた。扉の隙間から水が浸入し、床を濡らしているのだ。破れた靴の先から水が沁み込んでくる。

 この部屋は、たしかにあの貯水槽と繋がっていることはわかった。だが、鏡は?〈鏡の間〉というくらいだから、どこかに鏡があるはずなのだが。

 鏡はどこだ。

 この部屋が水浸しになる前に、ここから出て行けるのだろうか。

 

『〈鏡の間〉で待っていろ』

 とガルダンは言った。

 そしてここが、〈鏡の間〉だという。

 水は、秋山の膝下まで来ていた。

 遅い。ガルダンは、無事姫の下に戻れたのだろうか。そして、荷物を持って引き返してくれるのだろうか。

 もう、ずいぶん長いこと待ち続けている気がした。白い部屋にただひとり、動くことも出来ずただ肩で息をしながら、何もわからず待つだけというのは辛い。

 ガルダンのことは信用しているつもりだった。短い間だったけれど、これまでの人生で味わったことのない濃密な時間を過ごせたし、強い絆を感じることの出来た相手だった。お互いのことはまだよく知らないけれど、運命を共にしたという実感は、おそらくこれからの人生においても得がたい経験になることは間違いないと思われた。

 それほどの相手を信用しないわけには行かない。

――『走れメロス』の、メロスの親友、なんだっけな、セリヌンティウス?だっけか、こんな気持ちだったのかな。来るか来ないかわからない相手を待っている身。

 それにしても冷たいなあ。地下水だから冷えるんだよ。このままじゃ、溺れちまうよ。足首くらいまでの水で、人間溺死するって聞いたことがあるもんなあ。

 一人でいるとろくなことを考えない。発送がネガティブなほうへネガティブなほうへと傾きかけたその時。

「待たせたな」

 と、まったく思いもよらない方向からガルダンが現れた。

 白い部屋の見えない壁に突然扉が現れて、そこからガルダンは入ってきたのだ。

「すまなかったな。ちょいと後片付けに手間取ってな。ほれ、あんたの荷物だ」

 遠回りになるが上から直接アプローチできるルートから入ってきたのだ、とガルダンは説明した。

「かなり上がってきたな。急ごう」

 水にすっかり浸かっている足元を見る。

「姫は?」

「ここに」

 ガルダンは懐を開いて見せた。人形のアミンターラの小さな白い顔がのぞいていた。

「しかし、鏡はどこだ?」

「ああ、それなのだ。忘れていたが、ここに来ただけでは鏡は誰にも見えないのだ」

「なんだって?」

「しばらく待ってくれ。夜明けが来るまで」

「夜明け?」

「そうだ。夜明けだ。アミンターラ姫が元の姿に戻る瞬間、この部屋に鏡が現れる。その時、あんたは鏡を通るんだ。そうすれば、元の世界に帰れる」

 いっている意味がよくわからなかったが、要するにアミンターラ姫がいなければ、ここへ来ても元の世界に戻ることは出来ない、ということらしい。

「じゃあ、あんたともここでお別れというわけだな」

「そういうことだ」

「…どうも、お世話になりました」

 頭を下げながら思わず出た言葉は、自分でも驚くほど丁寧なものだった。ガルダンは、秋山のそんな態度に少し戸惑ったようだったが「こうなったのも何かの縁だ」と言って笑い返した。

 外の世界では夜明けが近づいていた。

 ガルダンは大きな身体をぶるっ、と震わせた。

 ああまた、狼に戻るときが来るのだな、と秋山は切ないような気分になる。

 ガルダンは懐からアミンターラの人形を取り出し、静かに両手でささげ持った。水に浸かった床に置くわけにいかないからだろうと、秋山は思った。

 ゆっくりと時間が過ぎて、水位が膝を越えたころ、突然部屋全体が強い光を放ち始めた。目も眩まんばかりの光の洪水に、水面は煌き、秋山は本気で目が開けていられなくなった。

 部屋中に光が溢れ、すべてが光に包まれたとき、秋山はかろうじて薄く開いた眼の中に、背の高い女人の姿を見たような気がした。いつかまどろみの中で見た、あの美しい貴婦人である。

 そのの女性は光の中心の傍らに立って、手招きをしているように見えた。

「ここを通って行くのです」

 聞き覚えのある声だった。ああ、あなたがアミンターラ姫なのですね、と秋山は無意識のうちに理解していた。

 導かれるように、吸い寄せられるように、秋山は今や水浸しでどうしようもなくなったキャリーバッグを引きずって、光の源へと近付いていった。ハレーションが激しくなり、いっそう何も見えない状態になっていったが、驚いたことに、姫の傍らに影のように聳え立つ威丈夫の気配を感じた。

――ガルダン?

 狼ではないガルダンが、そこにいた。言葉は交わさなかったが、それはたしかにガルダンの影だった。アミンターラ姫を守るように寄り添っている。そうだ、それが本来あるべき二人の姿なのだ。

「早く。時間がありません」

 アミンターラが促した。

 秋山は「ありがとう」とだけ言って、光の塊をくぐった。

 

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――何もいえなかった。

「どうぞお幸せに」とか「がんばってください」とか、なにか言えるのではなかったかと思ったが、じっさいには何も言うべき言葉は見つからなかった。涙すら出てこなかった。そんなことすらおこがましいと思えたからだ。

 ただ「負けるなよ」とだけ、心の中で強く投げかけた。ガルダン、運命に負けるな。俺もがんばるから。

 

 そして、秋山は戻ってきた。

 気が付くと、もとのホテルの部屋の前に倒れていた。

 背広はボロボロ、靴も泥だらけ。もちろん、頭もぼさぼさで、髭もまだらにはえていた。

 いったい何があったのかと言う、惨めな姿である。キャリングケースの柄を掴んだままでいたのは、あの〈鏡の間〉を必死で抜けてきたときのままである。

――生きてるのか、俺。

 秋山は身体を起こそうとした。

 驚いたことに、アミンターラとガルダンの陶器の人形は、まだ手の中ににあった。

「いったいどうして?」

 秋山は思わず人形に話しかけていた。だが戸惑いはやがて、懐かしい人たちと再会したときの、熱い思いに変わっていった。

 

 結局、予定通り秋山は日本に帰ることが出来た。

 あの二人と過ごした時間はどこに行ってしまったのか、ホテルの部屋の前で倒れていた間に見た束の間の夢だったのか。――にしては、すべてがリアルで物的証拠も残りすぎている。何よりも全身を襲う筋肉痛とかすり傷や若干の打撲の痕…。だが、それ以外はすべてが元のままだった。

 とにかく、すべてが土産物屋の一件があった夜から明け方までの出来事だったのだ。

――あの二人が命を賭けて、俺を戻してくれたんだ。

 機内から見下ろす中国大陸の広大な平野が、歪んで見えることに気が付いた。涙が洪水のように溢れ出していた。やばい、と思いながら秋山は人目もはばからず号泣していた。

 

 成田に着くと到着ロビーで、可奈恵が待ってくれていた。

 まだ怒っているのか、それともそんな振りをしているだけなのか、とにかく仏頂面のままである。

「お帰り」

 やれやれ と秋山は思ったが、迎えに来るだけかわいいところはある、とも思う。意図せず顔の筋肉が緩む。――あ、俺、喜んでる?

「どうしたの?その顔」

 秋山の顔を覗き込んだ可奈恵が怪訝そうに訊いた。数時間前に泣いてしまった跡が瞼に残っているのだ。眼鏡越しでもわかるくらいだから、そうとうかっこ悪い。

「ほれ」

秋山は可奈恵の質問かわすために、手荷物の袋から包みを取り出し彼女に手渡した。

「なにこれ」

 可奈恵は不信感丸出しで、包みを開けた。 パンダの背中に女の子が乗っている陶器の人形である。

「なに、これ」

 あ、鼻で笑ったな。

とはいえ仕方がないと、秋山は思う。俺だって最初はなんだこんなものと思ったんだから。

でも、驚くなよ。これには、数奇な運命の物語が…。

「かわいい」

 え?

「あなたにしちゃ、センスいいじゃん」

 それ、喜んでるの?褒めてる?

「アヴァールのお土産だ」

 ちょっぴり自慢げに鼻の穴を膨らます。

「アヴァール?中国じゃないの?」

「中国より、もっと遠い国」

「はあ。聞いたことないけど、ありがと」

 可奈恵の声は弾んでいた。「変だけど、なんかかわいい」と可奈恵は人形をためつすがめつ眺めている。

 秋山は可奈恵の耳元でささやくともなしに、つぶやいた。

――二人がずっと一緒にいられますようにっていう、お守りだ。

「え?」

 いつかおまえに話してやろう。俺の身に降りかかったとんでもない災難の物語を。

 この人形にまつわる不思議な物語を…。

 

 

説明
禁断の地での死闘。ガルダンたちは秋山を元の世界に帰すことが出来るのか。
いよいよ最終回です。
最後まで読んでくだされば幸いです。
ぜひ、ご感想をお寄せください。
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