チートでチートな三国志・そして恋姫†無双
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第21話 北郷の犯した大失策と『暗号』 〜孫権と周瑜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

また時が経ち、季節はすっかり秋になっていた頃、三度目の会議が行われた。

 

平穏な地を確保し、強大な軍を手に入れたことで盤石と思われた劉備たちは、ここで全く予想していなかった二つの大問題と直面していた。

 

一つは”反戦の気運”である。

 

北郷自身は”民衆に広がっていく思い”などというものは胸に秘める策でどうにでもなると思っていたのだが、自分が戻る前にこれほど早く民衆に広まっていくというのは”想定外”であった。このことは、自分が考えた統治のやり方が上手くいっていることの現れでもあるのだが……。

 

 

「民衆に広がっている”反戦”の思いをどう酌み取ってあげるべきなのでしょうか……。」

 

諸葛亮の言に趙雲が同調して

 

「そのせいで兵の集まりがとても悪い……。白露殿との交易で馬は集まりつつあるが、2万まで兵を増やすのはとても大変だった……。」

 

と言った。

 

 

劉備たちは公孫?、袁紹という2つの群雄とそれぞれ交易できる道を確保したため、幽州や冀州の特産品

 

――馬など――

 

を集めることに成功していた。

 

 

「?やこれまで移動してきたところから我々を慕ってついてきてくれた民も、元々北海に住んでいる民も”度重なる賊の襲撃”という恐怖から解放され、平穏に暮らせるようになった。そのことはとても喜ばしいことなのだが、”これ以上の戦など論外”という雰囲気が高まりつつある。」

 

張?も困り果てた口調でそう言った。

 

「ただ、問題はそこではない……。兵の練度だ……。」

 

趙雲が”2つ目の大問題”を端的に言った。

 

「どうしてこんなに上手くいかないのか、さっぱりわからないのだ……。」

 

張飛も同調してそう言った。

 

 

北郷が大失策を犯したため、兵の命令系統が上手くいっていないのである。

 

 

北郷はこの世界で統治をするにあたり、様々な歴史上の出来事を参考にしている。ここで参考にしたのは『明治維新』である。それに習い、戸籍を作り兵を集める準備を整えた……ところまでは良かった。しかし、『学校』を作らなかったがためにこの問題が起きているのだ。

 

 

実は、『学校』の機構は極めて軍隊的なものなのである。例えば、ランドセルはもともとフランス陸軍の背嚢であったし、セーラー服はイギリス海軍の、学生服はドイツ陸軍の制服である。それだけ『学校』というのは『軍隊』と似通っているのだ。

 

 

さて、ここで命令系統が上手くいっていない最も大きな原因は”言葉の違い”である。公孫?の居る北平、袁紹に献上した?、そこから北海までの道のり……。住む場所が違えば言葉も微妙に違ってくるものである。そのことに気づいていなかったがためにこの問題が起きているのだ。

 

北郷は『啓蒙』を恐れて『学校』を作らなかったのだが、自分たちに都合の良い教育である『儒学』だけを教えれば良い話なのである。

 

この時代の儒学は『親に従え・敬え』、『目上の者に従え・敬え』というものである。すなわち『差別を正当化』する学問なのだ。これは残念なことに孔子が説いたものとは違ってきているのだが……。

 

 

そのこと自体は北郷も重々承知ではあった。しかし、自分が直接やらなければいけない……と思っていたのだ。その理由は、北郷のこの考えが儒教思想の根付いたこの時代に『儒学』をある種否定するようなもの、すなわち『異端』だからである。

 

 

 

 

「それでも、二万の兵がいつでも動けるようになったのじゃから大きな進歩じゃろう。間者のほうはどうなっておる?」

 

「こちらは全く問題ありません。我々のことを最も警戒している人物が誰か……ということも明らかになりました。それにと……ご主人様が教えて下さった『暗号』で間者同士の文章のやりとりをしているのですが、それが予想外に効果的というか便利で……。暗号ではなく普通に使いたいくらいです……。」

 

「ん? そんなに便利なものがあるのか? それは何じゃ?」

 

「『アラビア数字』です。0・1・2・3・4・5・6・7・8・9

 

これだけで全ての数が表せます。我々が使っているのは壱・弐...ですが、それより遥かに楽です。これを隠すところだけに使うと、見事にわからないですよ……。”百聞は一見にしかず”ですから、見てみて下さい。」

 

厳顔の問いに?統はそう答え、『暗号』が書かれている文章を渡した。

 

 

北郷はたまたま、”暗号の失敗”について書かれている文章を国語の課題で読む機会があった。それは”本当に隠したいところ”だけに使うのが”暗号”であり、文章全てを『暗号』でやりとりしてしまえばあっという間に解読されてしまう……というものであった。

 

 

だからこそ、この世界の中国には存在しない『アラビア数字』をもちこんで暗号としたのだ。重要なところだけはこの数字でやりとりをして、他は全て漢字で表すように……と。

 

「125.600 と、壱拾弐万五千六百、あるいはこの算木が一緒じゃというのか!?

 

 

厳顔は叫ぼうとした。が、張?に止められた。最重要国家機密の一つだからである。

 

 

「ところで、我々を一番警戒しているのは誰なのだ? 藍里が言ってからずっと気になっていたのだが。」

 

張?がそう聞いた。

 

「”江東の虎”孫堅配下の参謀、周瑜です。

 

恐るべき頭脳の持ち主です。それと、もう一人危険人物があそこには居ます。」

 

「危険人物?」

 

「はい。前回の会議で話した”気になる不確定要素”のことなのですが……。」

 

沮授が”危険人物”と答えたことに驚いた張?は反射的にそう聞いた。

 

「次女の孫権です。今回、徐州討伐に大反対をし、その過程で周瑜に土下座をした……という人物でして……。」

 

と田豊が説明すると、文官4人以外は揃って「土下座……。」と呟いた。孫権は言わずもがな”州牧”の娘である。いくら優秀であり、家柄が高いとしても一文官に対して”土下座”をするというのはなかなか考えのつかないことであった。

 

「”周瑜”といえば、”周家”の一人娘か。たかが軍閥に味方するのはどういうつもりなんじゃろうな……? 父親の((周異|しゅうい))殿は洛陽の県令として素晴らしい方じゃったが、その娘がのう……。」

 

 

そう、”周家”は”二世三公”の名門。揚州随一の名家である。孫家とは比べものにならないほど家格は高いのだ。その名家の一人娘である周瑜が孫堅に味方し、娘である孫策と”断金の交わり”と言われるほど固い結びつきをしていることは廬植にとって多少、理解に苦しむところがあった。

 

 

「恐らく、ご主人様が胸に秘めている”天下布武”のように、これからは”武力無しでは生き残れない”という判断をしたのだと思います。

 

それで、話を戻しますが、参戦か否かを決める軍議の途中で次女の孫権は周瑜を連れ出し、土下座をして何かを頼んだ……そういう状況です。このことが母親の孫堅や長女の孫策からは猛反発がおきて一気に参戦に傾いてしまったようですが、これはある種の策略だと思います。

 

 

周瑜は孫策と知り合って作戦参謀の任に就き、揚州制圧の軍略をほぼ一手に引き受けました。ですが、孫堅の配下にはもともと、参謀として((程普|ていふ))と((韓当|かんとう))という2将が居たんです、周瑜と比べればお世辞にも優秀とは言い難いのですが、古参の将ですし、彼ら二人は徐州討伐に積極的でした。」

 

という沮授の説明に対して

 

「なるほど……。面目の問題……ということか。」

 

と張?が答えた。

 

「そうです。あくまで”孫権の判断で周瑜は反戦に傾いた”というふうにしなければ、今後の周瑜の立ち位置が難しくなります。というより、程普・韓当との仲は険悪にしかなりません。周瑜と次女の孫権にとって、今回の徐州討伐が失敗に終わることは明らかだったわけですから。

 

だからああしたんでしょうが、ああ”した”のか”させた”のがどっちなのかが問題なんです。

 

孫権が自ら気づいてやったのならば、ある意味周瑜以上に危険な人物だということです。周瑜の要求に応えたのならば、それだけ器の大きな人物だということです。

 

いずれにせよ、その2人にはかなり注意する必要があるということです。」

 

 

田豊が続きを話した。北郷からの”お願い”にもあった”孫家との付き合い”だけに、いつもよりさらに慎重に事を運ぶ必要があるのだった。

 

 

「それはとても重要だけど……。今回の議題は、”徐州討伐”でしょ?」

 

 

と、劉備が話の軌道を修正した。

説明
第2章 劉備たちの動向 安住の地を求めて 〜神の視点から〜
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