魏エンドアフター23
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一刀「……はい?」

 

 

 

雪蓮「だからぁ、蓮華の鍛錬を見てやってほしいの。いい?」

 

夜、俺の部屋を訪ねてきた雪蓮が唐突にとんでもない事を口走った。

 

一刀「無理ですごめんなさい」

 

そのまま直角に身体を曲げ全力で謝る。

俺がこの世界の英傑相手に剣術を教える?

無理無理。

 

雪蓮「いいじゃない減るものじゃないんだから。

   それとも蓮華に何か気に入らないところでもある?」

 

気に入る気に入らないとかの問題ではなく

 

一刀「そうじゃなくて、俺ここの人に教えられるほど強くないんだけど……」

 

雪蓮「あらそんなことないわよ?

   男で只一人あたしが認めてるんだから」

 

雪蓮は前の大会での戦いのことを言っているんだろうけど……俺は今氣を使えないし。

でも華佗が言うには俺の氣は順調に回復してるみたいだ。

時折激しく痛みが襲うのも回復している証拠なんだとか。

血流の悪いところが痺れて、その血流を元通りにした後に襲ってくるあの痛みのようなものらしい。

痛みの程度ではあんなもんの比じゃないんだけど。

蓮華というのは孫権さんの事だろう。

全く話をする機会がなかったしすごくプライドが高そう。

私は私のやりかたで!みたいな

 

一刀「というか孫権さんにはいつも甘寧がついてるんだから甘寧に見てもらえばいいんじゃないの?」

 

あんなに強いんだし俺なんかが教えるよりはよっぽどいいと思うんだけど。

 

 

雪蓮「んー、そうなんだけどねぇ。

   蓮華って私たちに比べて腕力というか全体的に力がないのよ」

 

そりゃあなた方と比べられたら大抵の人間が非力でしょうとも

 

雪蓮「それに一刀この前言ってたじゃない。

   自分は力が無いからどうのこうのーって」

 

……確かにそんな事を言ったような言ってないような

 

雪蓮「だからお願い!鍛錬する時は蓮華に一言声をかけてほしいの!

   あの子もあの子で一生懸命強くなろうとしてるのよ」

うーん……

 

一刀「ちなみにその事を孫権さんには?」

 

雪蓮「ん?言ってないわよ?あの子がこんな事素直に聞くわけ無いじゃない。

   それに思春が知ったら貴方殺されるわ」

 

あぁ思春っていうのは甘寧の事ね、

あはは♪と笑いながら物騒な事を言い出したので

 

一刀「却下!」

 

そのまま刀を持って部屋の外へダッシュ。

 

雪蓮「あー!待って待って!冗談!冗談だってば!」

 

全然冗談に聞こえない。

遠目から見てもあの人は怖い。

春蘭の手の早さと秋蘭の性格を足したらああなるんじゃないだろうか。

これを引き受けたらすごく危ない気がしたのでその場を逃走した。

……黄蓋さんとかならこういう事教えるの好きそうなのに

 

雪蓮「ふぅ。

   ま、無理にとは言えないわね。

   ……あ」

 

何を思いついたのか、ふふっと笑いを漏らし雪蓮はその場を後にした

 

 

 

 

 

そしていつもの夜更け頃の鍛錬。

まだ氣は回復していないため基本的な動きや形を確認。

ずっと星と試合をしていたせいかこういった基本動作はすごく久しぶりに感じる。

というか結構疲れる。

何度も何度も同じ動作を繰り返す。

自分の身体が自然とその動きを覚えるまで何度も。

修行は一生とかなんとかじいちゃんが言ってたけど確かにそうなのかもしれない。

 

 

 

 

「相変わらず美しい動きをしなさる」

 

 

 

 

一時間ほどした頃だろうか、突然声をかけられる。

 

一刀「……あのね、気配消していきなり声かけるのやめてくれる?心臓に悪いんだけど……」

 

星「これは失礼。

  声をかけようとしたのですが鍛錬のお邪魔になるかと思いましてな」

 

いつから見ていたのだろうか、酒を片手にメンマをつまみながらご満悦。

 

星「本来なら私がお相手をしたいところなのですが

  生憎と私の得物は先の戦いで折られてしまいまして」

 

そういえば真桜が新しい武器を作るために試行錯誤してたような。

俺に何か良い案はないかと聞いてきたが

鍛冶屋でもない俺にそんな知識があるはずもなく……無駄な知識ばっかだな俺。

 

星「ま、今日は一刀の舞を見ながら酒を頂くとします」

 

そう言いながらグイっと仰ぐ。

……見られると気が散るんだけど。

しかし邪険にするのも躊躇われるのでそのまま鍛錬を再開する。

見られるのは恥ずかしいけど星はところどころ俺の無駄な動きを指摘してくれるし、

こうして二人で居る空間は居心地が良かったりする。

あ、でも今この人酔ってる。

まぁいいかと思いつつ身体を動かす。

じいちゃんの形を鮮明に思い出しながら。

今でもあの綺麗な流れは網膜に焼き付いている。

 

 

 

 

 

 

一刀「……ん?」

 

一通りの形を終え、少し休憩しようと星の傍へ行こうとすると視線を感じた……ような気がした。

しばらく辺りを見回してみるが……うーん?気のせい?

 

一刀「うーん……?」

 

星「何を唸っておられる、催しているのならすぐに──」

 

一刀「ちげぇわ」

 

そのまま星の隣へ腰掛けると

 

星「はい」

 

一刀「…………」

 

星「ほい」

 

一刀「……」

 

星「ふぅ」

 

片手に御猪口、片手にメンマを手渡された。

 

 

 

 

 

 

 

一刀「ふぅじゃないよ何一息入れてんの。

   俺まだ鍛錬中!今休憩してるだけなの!」

 

まぁまぁとそのまま酒を注がれる

 

一刀「いや、ちょ」

 

「お、なんやなんや。

 二人でええ雰囲気に──って、酒盛りしとんの?ならウチも入れてや」

 

拒否しようとしたところに聞きなれた声

 

星「ふむ、ちょうど一刀も鍛錬を終えられたところだ。

  丁度良い」

 

一刀「勝手に終わらせないで!何も丁度良い事ないから!」

 

霞「おお、ほんなら遠慮する必要もないな。

  お邪魔しまーす」

 

お、俺の話を聞いてくれ!

 

「よいしょ──こうしてお兄さんとお酒を飲むのも久しぶりのような気がしますね〜」

 

どこから出てきたのか、そして何で胡坐をかいた俺の上へ乗るのか。

ナチュラルにさもそこに居たかのように振舞っている風。

 

一刀「ねぇちょっと」

 

さらにこちらへ近づいてくる影がひとつ。

 

「外が騒がしいと思えば……何をしてるの?一刀」

 

俺が聞きたい。

 

一刀「俺主催のパーティにでも見えますかね……」

 

華琳「そうとしか見えないのだけど?」

 

一刀「…………」

 

周りを確認。

配置的にはまず俺、その上に風。

そして両隣に霞と星。

 

一刀「……おっしゃるとおりですね」

 

ていうかよく集まったね君ら。

風とかどこに居たのよ。

華琳は文句を言いに来たのかと思いきや

 

華琳「まぁいいわ」

 

そう言って俺の前に腰掛ける。

 

星「ふむ、何やら大人数になって来ましたな」

 

本当にね。

もう夜中ですよ。皆寝なくていいのか

 

風「明日の事は明日考えればいいのです」

 

軍師にあるまじき発言いただきましたー

 

華琳「ま、最近は政務のほうも落ち着いてきたし少しくらい羽目を外してもいい頃よ」

 

つまりつい先日のような書類とのデスマッチは稀なケースなんですね

 

春蘭「ほら!華琳様がいるじゃないか!」

 

またしてもこちらへ近づいてくる聞きなれた声

 

秋蘭「む、どうやら大勢いるようだな」

 

真桜「うわ、ホンマに隊長がおったで」

 

詩優「凪様……」

 

紗和「凪ちゃん……ちょっと引くの〜」

 

凪「な、なぜだ!?」

 

ちょ、いくらなんでも集まりすぎ……

 

流琉「もう!料理持ってるんだからもっと慎重に運んでよ季衣!」

 

季依「大丈夫だって──っとと」

 

流琉「あああっ!」

 

いや、何で料理持ってるの?

てか何これ、全員いるんじゃ──いや、稟がいないな

 

風「言っておくとですね。稟ちゃんは華琳様のおかげで血の海です」

 

なるほど……いやなるほどじゃないけど。

というかその説明にはいろいろと足りないものがある。

傍から聞いたらとんでも無いような事が起きてるから。

 

一刀「え?そのまま放置してきたの?」

 

風「華琳様の閨に勝手に入る訳にもいきませんからねぇ。

  稟ちゃんの生命力を信じるしかないですね〜」

 

今日、人が一人死ぬかもしれない。

というか最近風は稟にトントンしてあげてないような気が……

稟が倒れているビジョンが頭の中に浮かぶ

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

 

うん、大丈夫な気がする。

本人は幸せな気分だろうしそっとしておこう。

想像だけで安否を決定するのもどうかと思うけどあながち間違ってはいないのではないだろうか。

 

一刀「というか凪たちはどうしたんだ?そんなに騒がしくしてるつもりはなかったんだけど」

 

もう鍛錬は諦めることにしよう。

酒飲んじゃったし。

 

凪「い、いえ、その」

 

真桜「凪がいきなり『向こうから隊長の気配がする』とか言うて走り出してな」

 

沙和「そしたら本当に隊長がいたの〜。

   ……最近の凪ちゃんの隊長一直線はたまに危険な臭いがするの」

 

凪「だからなぜだ!自分は只隊長の気配を感じ取っただけじゃないか!」

 

真桜「なんでそこで隊長限定なん?皆おるのになー」

 

凪「う、それは」

 

ゴニョゴニョと口ごもる。

でも凪の言ってる事も分かる気がする。

 

一刀「まぁ俺も皆の気配ならなんとなく分かるよ。

   凪も真桜も沙和の気配もね」

 

もじもじしながら俯いている凪の頭をぽんぽんと撫でる

 

真桜「……そう言う事言うとるんやないような。

   いや言うとることはそうなんやけど」

 

沙和「相変わらず隊長は鈍くさいの。思考が」

 

一刀「なんでよ!?」

 

ひでぇ。

今のどこに俺が罵倒される要素があったんだ。

 

詩優「あはは、これも北郷様の人徳ですよね」

 

どのへんが?

 

真桜「ちゅーかなんや詩優、まーだ隊長の事そんな固い呼び方してるんかいな」

 

詩優「え?」

 

沙和「そろそろ”北郷様”なんて他人行儀な言い方やめるの」

 

俺の呼称をなぜお前らが決めるんだ。

……別に嫌じゃないんだけどね。

好きなように呼んでもらえれば──

 

真桜「別に種馬でもええで」

 

一刀「おいいい!!」

 

前言撤回。

名前で呼んでください。

 

桂花「種馬」

 

いつ来た!お前いつ来た!

 

詩優「あはは……」

 

うわーすごい苦笑い。

 

凪「だが隊長を名で呼ぶことは許さん」

 

あれ?おかしいよねそれ?

 

真桜「うーん、確かにウチらかて隊長の名はあんま呼んだ事ないしなぁ」

 

沙和「うーん、詩優ちゃんが隊長を名で呼んだら……あーでも仲良くなるには……ううううう」

 

何やら俺の呼称で勝手に葛藤している三人──じゃなくて二人。

凪は断固許さないようだ。

いやいや。

 

一刀「皆名前で呼んだらいいじゃないか。

   華琳だって星だって皆俺のこと”一刀”って呼んでくれてるし」

 

真名──というか名前を許してない訳じゃないし許さないわけも無い。

別にいつだって名前で呼んでくれても構わないんだ。

 

凪「し、しかし」

 

モジモジ

 

真桜「なんや、そのぉ」

 

モジモジ

 

沙和「ねぇ……?」

 

モジモジ

 

詩優「あ、あはは……」

モジモジ

 

 

 

なんだし

 

 

 

 

一刀「よし、じゃあ皆が俺を隊長って呼ぶ限り俺も皆を部下その1、2、3、4で呼ぶことにしよう」

 

なにやら四人で顔を見合わせてモジモジしていたのでそう言った──瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪の背後に落雷したような気がした。

そして──

 

 

 

 

 

 

 

凪「!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

凪がこの世の終わりのような顔をした。

 

詩優「……」

 

真桜「いや……凪、ウチらもそら傷ついたけどな……」

 

沙和「な、凪ちゃん?おーい、凪ちゃーん?」

 

沙和が凪の目の前で手を上下に動かすが反応が無い。

 

真桜「ちゅーか今落雷せんかったか?」

 

詩優「奇遇ですね……私もそう見えました」

 

風「直撃しましたねー」

 

しばしの沈黙の末、凪が静かに正座。

そして

 

 

凪「皆、私は先に逝く。

  後のことは任せたぞ」

 

どこからか取り出した小刀を自分の腹部に向けた。

 

一刀「あ、ちょ!ちょちょちょ、凪!?冗談だから!!

   冗談だからやめて!!つかなんでそんな侍!?」

 

真桜「隊長も相手見て冗談言いや!

   隊長が凪にそんなん言うたらこうなるやろ!」

 

沙和「本当に乙女心が微塵もわかってないの!」

 

一刀「あれ!?俺が全部悪いの!?

   凪!凪!?ちょっと落ち着こう!?」

 

詩優が呆気にとられてる間に真桜と沙和と俺でなんとか凪を止める。

……俺の膝を陣取ってる癖に何もしない風はすごく邪魔だった。

 

風「ひどいですねお兄さん。

  風はそこに存在するだけで皆に癒しを──」

 

一刀「自分で言うな」

 

ペシッと風の頭を軽く叩いたつもりが、宝慧にヒット。

 

 

ポロ。

コロコロコロ……。

 

 

一刀「…………」

 

 

風「乙女の頭を叩くとは、お兄さんも鬼畜野郎ですねー。

  ……?、どうかしましたか?」

 

一刀「い、いや、何でもない」

 

 

 

もげた。

宝慧の頭がもげた。

気づいていない風の斜め後ろあたりにコロンと転がっている。

……心なしか俺を見つめているような気がする。

 

一刀「き、気のせいだよな」

 

風「何がですか?」

 

そういいながらこちらへ振り返ろうとする。

 

一刀「な、なんでもない!只の独り言だから!」

 

風の頭を掴んでグイッと前を向かせる。

 

風「ぉふ……く、首が……」

 

宝慧「おうおう兄ちゃん。乙女はもっと丁寧に扱うもんだぜ」

 

首のない宝慧が風の頭の上で喋っている。

……何このシュールな画。

ちょっと面白くはあるが風が気づく前に何とかしなければ。

コロっと虚しく落ちている宝慧の頭を拾い、胴体に接合を試みる。

……どうなってんだこれ。

折れたにしてはそういった跡がないし、

乗ってたっていうにはあまりにも重力を無視してるよな……。

あれだけ風が動いてるにも関わらず頭から落ちない時点であれだとは思うけど。

とりあえずぐずっていても仕方がないので頭を乗せてみる。

と、案外普通にくっついた。

ふぅ、何だ焦ったじゃないか。

この人形の胴と頭は着脱可能なのか?

そんな事を考えていると、ぐるんと宝慧の頭がこちらを振り返り

 

 

 

 

宝慧「んなわけねぇだろ」

 

一刀「…………」

 

宝慧「次はねぇぜ、兄ちゃん」

 

一刀「……ごめんなさい」

 

 

 

風「ん?さっきからどうかしましたか?お兄さん。

  顔色悪いですよー?」

 

一刀「いや、何でもない。

   ……何でもないよ、うん。

   ……何でも」

 

忘れよう。

きっと俺の罪悪感が見せた幻覚であり幻聴だったんだ。

 

 

 

 

 

 

……いつか御祓いしてもらおう。

怖いもん。

 

 

 

 

 

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鍛錬からの宴会という謎の展開を遂げたこの場もそこそこ盛り上がり、皆も出来上がってきている。

星は稟、風と三人で談笑している。

あれ、稟って血の海に沈んでたんじゃ……まぁいいか。

同じ城にいるけどああして旅をしていた三人で話をするのは久しぶりなのではないだろうか。

稟も風も思い出話に花を咲かせているのか、とてもいい顔で笑っている。

……宝慧がこちらを見ている気がするが見なかったことにしよう。

凪達はいつもの三人でいるが、最近はその中に一人プラスされている。

詩優だ。

真面目な子だけどちょっとした事でおどおどしてしまうから打ち解けられるか心配だったが杞憂に終わったようだ。

春蘭達はといえば、桂花といつものごとく華琳の事で言い合っている。

それを止めずに姉の姿を微笑ましそうに見ている秋蘭とニヤニヤしてる霞は結構いい性格してると思う。

季衣と流琉は──なんだろう、

季衣が料理を見つめてすごく難しい顔をしている。

気になる。

でも人間ってのは真剣な顔してる時は案外どうでもいいことを考えてたりするもんで。

ほらね。

次の瞬間には二人揃って笑い合ってる。

あの二人は悩みがなさそうでいいなぁ。

ちなみに張三姉妹は公演で疲れて眠っている。

決して忘れていた訳ではない。

疲れてるからそっとしておいてあげるんだ。

忘れていた訳ではない。

 

 

こうしていつも皆が騒いでるのを遠目から見るのが好きだったりする。

もちろんあの中にまざって一緒に騒ぐのも好きだけど

一歩下がった目線から皆の楽しそうな顔を見ているとどうしようもなく嬉しくなる。

そういうのってあるだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいつもこういった宴会の場で彼が一人離れる癖を知っている。

皆を遠目に酒を片手に本当に嬉しそうに見ている。

 

華琳「貴方はあそこにまざらないの?」

 

答えは分かり切っているが私は聞く。

何の話題もなしに彼の元へ行くのはいささか気恥ずかしい。

そんな私の問いかけにも彼は笑顔で返してくれる。

 

一刀「それもいいんだけどね。

   こうして皆を見てるとさ、思わない?」

 

話しながら彼が胡座をしている隣へ座る。

彼の問いかけるような答えを聞く。

 

 

 

一刀「あぁ、幸せだなぁ、って」

 

 

 

予想外の返答に思わず彼の横顔を見てしまう。

将軍であるにも関わらず、そんな事お構いなしでいつも馬鹿みたいなことを言っている彼の発した言葉。

 

華琳「そうね。……そう、思うわ」

 

その問いかけに答えたあと、彼の発した言葉は彼にとって当然であり願望である事がわかる。

少し考えれば分かる事だ。

彼の言動、行動。

その全ての原点にあるものが──あそこにある光景なのだから。

 

一刀「俺にも故郷はあるし家族も居れば思い出だってたくさんある。

   どれも大切だし感謝だってしてるんだけどね。

   それでもさ」

 

きゅっと、彼が私の手を握る。

 

一刀「俺にとっては、こうしてる時が一番幸せだよ」

 

一刀「こうして華琳に触れていられる『今』が、一番幸せだよ」

 

いつの間にか、私も彼の手をぎゅっと握り返している。

彼の目線はこの先にあるあの子達の幸せに向けられていて

彼の手から伝わってくる愛情を握り締めるかのように、二人で手を重ね合わせて。

私はいつしか、その横顔から目が離せなくなって。

言葉にはできないような、暖かくて、包み込まれて、涙さえ出てきそうな彼の言葉と想いが。

私には、私達にはどうしようもなく心地良くて。

 

華琳「今の言葉、蓮華や愛紗が聞いていたらもっと貴方を見直すでしょうに」

 

それを隠すように、冗談めかした事を言ったりして。

 

一刀「はは、あの二人の視線は時々痛いからね。

   主に凪達が原因なんだけど……」

 

困ったような顔で笑う彼も

 

華琳「全て事実なのだから否定はできないわね」

 

一刀「そこが余計に痛いよね」

 

華琳「ばーか」

 

一刀「馬鹿は馬鹿なりに頑張っているんです」

 

冗談めかした顔で笑う彼も

 

華琳「当たり前よ」

 

子供のような純粋な笑顔も

 

一刀「華琳が傍にいる時が一番幸せかなぁ」

 

華琳「……ばか」

 

彼の表情ひとつひとつが

 

一刀「あ、照れてる」

 

華琳「て、照れてないわよ!」

 

どうしようもなく、私の心を満たしてくれる。

 

一刀「皆は俺の事を優しいとか言ってくれるけどさ」

 

目の前にある光景を眺めているのに、遠い未来を見ているような

 

一刀「只欲張りなだけなんだよ。

   皆が居ないと嫌だからね」

 

欲張りだっていい。

だってそれが──貴方の優しさの証でもあるのだから。

 

華琳「……なら、ずっと守っていかないとね」

 

一刀「うん。絶対、守ってみせるさ」

 

華琳「あら、貴方一人で守れると思っているの?

   ……皆で守るのよ」

 

一刀「ああ……そうだな」」

 

だから私は、二度と彼を手放さない。

独りで泣く事もない、独りで消えることもない。

私の中で彼はもう、なくてはならない、なくしてはならない存在だから。

二人で夜空を見上げる。

一面の星空がこの世界に溢れる幸せのように輝いて。

浮かぶ満月が優しく見守る。

 

華琳「……月が綺麗ね」

 

一刀「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「見てみぃ秋蘭。華琳と一刀がしっぽりやっとんで」

 

秋蘭「ふふ、北郷もやるようになったな。

   まぁ、あんな華琳様は滅多に見れるものではない。

   網膜に焼き付けておこう」

 

霞「明花もいつか一刀に食われるんやろか」

 

秋蘭「……霞」

 

霞「ん?」

 

秋蘭「鬼畜だな。

   いろんな意味で」

 

霞「じ、冗談やんか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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華琳「…………」

 

雪蓮「ふっふ〜ん♪」

 

華琳「…………」

 

雪蓮「うふふ♪」

 

華琳「……何よ」

 

次の日、雪蓮に会うなりニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて近寄ってくる。

 

雪蓮「んー?べっつにー?」

 

明らかに何かを含んでいるにも関わらずそれを教えずにジロジロ。

 

雪蓮「華琳も女の子なんだなーって思ってね〜」

 

華琳「はぁ?」

 

いきなり何を言い出すんだろう。

全く理解できない。

 

雪蓮「『華琳に触れていられる今が、一番幸せだよ』」

 

華琳「なっ……!」

 

かぁーっと頬が紅潮してしまう。

それを見て雪蓮が一層楽しそうに笑う。

 

華琳「あ、あんた覗いてたの!?趣味悪いわよ!」

 

雪蓮「人聞き悪い事言わないでよねー。

   あたしは只外が騒がしいなーと思って様子を見にいったら皆で宴会してたから混ぜてもらおうとしただけよ」

 

華琳「なら素直に混ざりなさいよ!結局覗いてたんじゃない!」

 

雪蓮「混ざろうとしたら華琳と一刀がいい雰囲気だったから入れなかったんでしょー?

   もう少し場を考えなさいよね」

 

……なんで私が怒られてるのよ。

 

華琳「……ちなみにどこから?」

 

雪蓮「んー?別に始終見てたわけじゃないから安心してよ。

   ……『貴方はあそこに混ざらないの?』あたりから──」

 

華琳「最初からじゃないのよ!

   ……はぁ、もういいわ。

   で、それを言って私をどうしたいわけ?」

 

雪蓮「どうもしないわよ。

   あたしを何だと思ってるのよ全く」

 

楽しければ何でもする。

見た目は大人、頭脳は子供。

神が作り出した迷惑の最高傑作。

 

雪蓮「あんた失礼な事考えてるでしょ」

 

そして無駄に鋭い。

 

雪蓮「ま、本当は一刀の鍛錬に混ぜてもらおうと思って外に出ただけなんだけどね。

   夜中に一人でやってるでしょ?」

 

確かに一刀は昼間は政務や警邏で時間が過ぎていくから鍛錬をするには夜中しかない。

本当はまだあまり身体を動かしてほしくはないが彼の想いを知っているから黙認している。

 

雪蓮「うちにも強くなりたい!って子がいるから見てやってほしかったのよねー。

   だめ?」

 

華琳「私は別に構わないわ。

   一刀に確認は取ったの?」

 

雪蓮「ええ、全力で断られたわ」

 

じゃあ駄目じゃない。

 

雪蓮「ま、華琳の許可も出たし一刀の事だから女の子が必死にお願いすれば聞いてくれるでしょ」

 

結局彼の意思は関係ないらしい。

 

雪蓮「んじゃまそうゆう事で♪」

 

華琳「はいはい……」

 

はぁ、無駄に疲れた。

 

 

 

 

 

雪蓮「でもね」

 

その場を後にしようとした雪蓮が立ち止まり、背中越しに言葉を発する。

 

雪蓮「すごく羨ましかったわ。貴女と彼」

 

先ほどのからかうようなものとは一転し、真面目な口調。

背中をこちらに向けているため表情は分からない。

 

雪蓮「まるでお互いの全てが繋がっているようで──上手く言葉に表せないわね。

   それじゃまたね」

 

その言い、彼女はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

雪蓮「ふふ、冥琳に怒られちゃうかしら」

 

蓮華「そうですね。

   主に盗み見についてだと思いますけど」

 

雪蓮「あら、蓮華だって見てたじゃない。

   同罪だと思うけど?」

 

蓮華「あ、あれは姉さまが来いというから行っただけで!

   そもそも鍛錬するというから行ったのになぜ宴なんですか!」

 

雪蓮「それはあたしも知らないわよ。

   でも素敵だな〜って思ったでしょ?」

 

蓮華「そ、それは──」

 

もじもじと言い淀んでいる妹を見てクスリと笑みを漏らす。

 

雪蓮「はい!というわけで今日から蓮華は一刀に鍛錬を見てもらうこと!

   直接行けば一刀だって見てくれるから、わかった?」

 

蓮華「は、はぁ」

 

 

 

なんとなく空を見上げる。

 

雪蓮「安心してね。冥琳だって私の大切な人なんだから」

 

誰に言うでもなく、発した言葉は、澄んだ青空に吸い込まれた。

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