アイマスSS 歩いて帰ろう〜最近のいおりんときたら編〜 |
歩いて帰ろう〜近頃のいおりんときたら編〜
この765プロに勤め始めてはや数年。自分で言うのもなんだが、プロデューサー業も板につき始めてきたと思う。
何人ものアイドルをプロデュースし、トップアイドルとして育て上げてきたつもりだ。
時に、最近のニュースといえば、やはり人気絶頂のアイドルグループ、我らが竜宮小町が解散したことだろう。
ファンからの反響は凄いものだったが、彼女たちは良いファンを持った。
それぞれがそれぞれの道を進むことを快く受け入れ、応援してくれている。一昔前なら親衛隊なんて呼ばれるようなファンたち。ほんとうに有難い。
と言うわけで俺は、このような経緯を経て、かつての担当アイドル、水瀬伊織のプロデューサーに舞い戻ったわけである。
戻ったわけなんだが――。
「伊織、そろそろ仕事に戻らないと」
「なによ、もう少しくらい良いじゃない。せっかく昼からオフなんだから、ゆっくりさせなさいよね」
今現在の我々の格好といえば、俺が事務所のソファーに座り、更にその膝の上に彼女――水瀬伊織が座っている。
「そうは言ってもだなぁ、その仕事が終わらなきゃ一緒に帰れないぞ?」
「そ、それは困るわね。どいたげるから早く済ませなさいよね」
膝の上から、普通より少し高い体温が離れた。
「かしこまりました、お嬢様」
なんて軽口をたたくのも、最近になってからだったように思う。
彼女が竜宮小町に入る前、初めて俺が所属アイドルとして彼女とあったときは、事あるごとに怒鳴られていた気がする。
「にひひっ、あんたもレディーの扱いに慣れてきたみたいで、一緒にいる私も鼻が高いわ」
決して大きく笑うわけではないんだが、子供の無邪気さと大人の優雅さを兼ね備えた笑みは、これから事務仕事につく俺の心には栄養剤だった。
さて、音無さんは相変わらず頑張ってるし、俺も頑張るか。
始めの頃は、私一人でもなんでもできると思ってたし、正直プロデューサーなんていらないとさえ思ってたわ。
でも、事務所の仲間達と仕事をしてきて、人間は誰かと一緒に歩んでいく生き物なんだと悟ったの。
だから、またプロデューサーが私を担当してくれるって聞いた時、正直すごく嬉しかったの。
――にひひっ、本人には言えないけど。
「伊織さ、最近良く笑うようになったよな」
「そ、そうかしら?スーパーアイドル伊織ちゃんだもの。誰が見てるかわからないじゃない」
そう、誰が見ててもいいように、私の一番をみせてるわけ。当の本人は気付いてないみたいだけど。
「やっぱ、笑ってる顔が一番可愛いな。さすがスーパーアイドル」
「ば、バカ!当たり前じゃないのよ!」
あぁ、またやっちゃった。ホントはありがとうって言いたいのに、なんでいつも憎まれ口を叩いちゃうんだろ。
「そうだな。伊織が可愛いのは当たり前だよな」
「もう――」
ぎゅっとシャルルを抱きしめて、熱くなった顔を隠した。
あいつは下むいて仕事してるし、見えてないわよね?
か、可愛いだって。ふふ、悪い気はしないわね。
「あと、どのくらい掛かりそうなの?」
「そうだなぁ。もうすぐ終わるかな」
そっか。すぐじゃない。
「それが終わったらもう帰れるの?」
そう、最近アイドルたちと歩いて帰ることが多くなった。もちろん伊織ともよく一緒に帰る。
「そうだな、音無さんが優しければ帰れるな」
――音無さんが無言で睨んでる気がするが、まぁ気のせいだろ。音無さん優しいし。
「小鳥は優しいから、帰れるわね」
「そうだな、小鳥さん優しいもんな」
褒め殺しにされた小鳥さんは、顔を赤らめて自分の仕事に戻る。可愛らしい人だなぁ。
「さて、そんなことを言ってるうちに終わったぞ。帰るか」
「待ちくたびれたわよ」
こんな感じの言葉にも、棘がなくなった気がする。
「ごめんごめん、さぁお嬢様、参りましょうか」
「えぇ、行きましょう、P」
そういえば、最近伊織に名前で呼ばれることも増えてきた気がする。
なんて言うか、むず痒いというか。まぁはっきり言って嬉しい。
「何よニヤニヤして。気持ち悪いじゃない。シャキッとしなさいよね」
まぁこうやって怒られるのも悪くはない。正直最初の方はこたえたけどな。
「あぁすまん、伊織に名前呼ばれるのが、なんて言うか嬉しくてな」
一瞬で伊織の顔が真っ赤になった。
な、何をこんな往来で恥ずかしいこと言ってんのよ!
「ば――」
だ、ダメよ。ここで怒鳴っちゃ。素直にならなきゃ。
「と、当然でしょう?この伊織ちゃんに褒められたんだから、もっと喜びなさい」
――これも違うわね。素直になるって難しいわ。
「なぁ伊織、寒くないか?」
「確かに寒いわね。でもそういう時期でしょ?悪い気分じゃないわ」
あんたと一緒だしね、にひひっ。
「ホットの100%オレンジジュースがあればよかったんだけどな」
「あんまり美味しくなさそうね、それ」
「ほっとレモンとかあるし、いけると思ったんだけどなぁ」
あんたの、こういうなぁんにも考えて無さそうな所、見習いたいわね。嫌味じゃないわよ?
「今度温めてみようか。意外といけるかも」
「気が向いたらね」
あ、と短く声を上げて、小走りで道の端の自販機に駆け寄っていく。
こういうとこ、とっても気が利くんだから。
「悪い悪い、おまたせ」
すっと差し出されたホットの紅茶の缶は、これでもかっていうくらい熱かった。なんとかならないのかしらね、これ。
「伊織の口に合えばいいけど」
「たまにはこういうのもいいわ」
プルタブを引き上げると、ふわっと紅茶の匂いが漂ってきた。正直安っぽいけど、あいつが買ってきただけで美味しいわ。
「――はぁ」
私が息を吐くと、温まった息が白くなった。もう冬ね。
「私ね、あん――あなたにずっと言いたかったことがあるの」
今なら、言えそうな気がする。
「いつも、ありがと。初めて担当してもらった時から、ずっと感謝してたのよ?」
「へ、それって――」
あいつの顔が――私もだけど――赤くなってるのがわかるわ。
「か、勘違いしないでよね。一時の、気の迷いなんだからぁ!!いい、これからもずっと見ててよね!!にひひっ」
説明 | ||
間に合わなかったぁ・・・悔しいのぅ、悔しいのぅ。お題は「進歩」なのです。いおりんが素直になったらきっとぐうかわ。ツンデレラでも最強なんですけどね | ||
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