20 早く男になりた〜〜い! です………。お嬢様…… |
●月村家の和メイド20
クヨウ view
あの戦闘の後、私達は無事に我らが主、八神はやての元に帰る事が出来ました。今は夕食も終わり、のんびりリビングでテレビなどを見ている。
足の動かない我が君は、獣の姿となったザフィーラに寄りかかり、フローリングの床にヴィータと座り、テレビを観賞している。私はソファーに座って新聞を読むシグナムの隣で、努めていつも通りに寝たフリをしていた。
「はやてちゃん、お風呂の準備できましたよ」
洗い物をしていたシャマルがエプロンを外しながら呼びかけます。
「うん、ありがとう」
「ヴィータちゃんも、一緒に入っちゃいましょうね」
「はぁ〜い」
ヴィータの返事の後、シグナムは新聞を畳みながら忠告を述べました。
「明日は朝から病院です。あまり夜更かしされませんよう……」
「は〜い」
我が君は素直に肯定し、シャマルに抱き抱えられます。
「シグナムはお風呂どうします?」
「私は今夜はいい。明日の朝にするよ」
「そう」
「お風呂好きが珍しいじゃん?」
ヴィータに言われたシグナムは、寝たフリをしている私の方に視線を向ける。
「何をしてきたのか、クヨウももう寝てしまったからな。付き合いだ」
「くすっ、そうか、そんならお先に〜〜」
「はい」
シャマル、ヴィータ、我が君の三人が部屋を出ていった。残ったのは私とシグナムとザフィーラの三人だけ。
私は出て行った三人の気配を確認してから訊きます。
「今日の戦闘で、ね?」
「敏(さと)いな。その通りだ」
そう言ってシグナムは自分の服を捲って腹部の傷を見せた。
目を瞑っていても、動きや視線を一つ一つ正確に確認できる私ですが、その傷は敢えて目で見ておく事にした。なんせ我が将に負わされた傷なのだから。
「お前の甲冑を撃ち抜いたのか?」
同じく気付いていたザフィーラがその傷を見て低く唸った。それだけ我らが将に傷を与えたのは驚愕の出来事だった。
「清んだ太刀筋だった。良い師に学んだのだろうな」
シグナムは巻くっていた服を戻すと、
「武器の差がなければ、少々苦戦していたかもしれん」
と言い、それを聞いたザフィーラは、
「ああ、それでもお前は負けないだろう」
と告げた。
「そうだな」と呟くシグナムには、何処となく哀愁が漂っていて、それは『負けられない』と言う意味だと良く解りました。
シグナムは、闇の書を片手に立ちあがると、夜空を見上げながら呟く。
「我らヴォルケンリッター、騎士の誇りにかけて……」
「私は番外ですけど……」
それでも思いは同じ―――、そう言外に伝えながら、振り返る二人に笑いかけると、二人も薄く笑い返してくれた。
カグヤ view
なのはの友人、フェイト・テスタロッサが引っ越して来たとかで、すずか様、アリサと共に御挨拶に行く事となりました。場所は海鳴り市で有名な大きなマンションです。
「こんにたわ〜〜」
「来たよ〜〜!」
すずか様とアリサ、お二人の声に呼ばれ、部屋からフェイトとなのはがそれぞれで迎えます。なのは嬉しそうに二人の名前を呼んだ後、すぐにアリサがフェイトに自己紹介を始めます。行動が疾くて素晴らしいですね〜〜。
「はじめまして―――ってのもなんか変かな?」
「ビデオメールでは何度も会ってるもんね?」
「うん」
二人に言われて頷いたフェイトは、頬を赤くして照れたように続けました。
「でも、会えて嬉しいよ。アリサ、すずか、カグヤ」
あ、カグヤの名前もやっぱり出るんですね? カグヤ基本的にすずか様の後ろに居るだけなのですが……。
「うん!」
「わたしも。ね? カグヤちゃん?」
振らないでくださいすずか様。実はカグヤ愛想笑いを浮かべるのに必死なのです。
そうして挨拶をしていますと、奥の方からあのリンディ提督が現れました。私服姿だと、とても若く見えますね〜。
「フェイトさん、お友達?」
「「こんにちは〜」」
挨拶をするお二人に倣い、カグヤも無言でお辞儀します。大丈夫だとは思いますが、カグヤはこの人の前で『狐』を演じていました。万が一にもばれないように極力喋らないでいます。……いえ、なのはが解らないのですから、本当に大丈夫だと思うんですけどね。
「こんにちは。すずかさんにアリサさん、それからカグヤさん、よね?」
「「は、はい」私達の事……?」
「ビデオメール見せてもらったの」
「そうですか〜!」
「良かったら、皆でお茶でもしてらっしゃい」
リンディさんの提案に、なのはが良い事を思いついたような表情になると、
「あ、じゃあ家のお店で―――」
「翠屋ですか!?」
しまった! カグヤ思いっきり反応してしまいました!?
フェイトがずっと黙っていたカグヤが急に反応したので不思議そうな表情をしています。変な意味で疑われたかもしれません……。
それを見ていたすずか様は楽しそうに微笑まれます。
「あはは、カグヤちゃんはケーキとか甘い物が大好きなんだよ♪」
「お恥ずかしい所を申し訳ありません……、甘味には理性を制御する術がないのでございます……」
「そうなんだ」
フェイト、声が笑っていらっしゃいますよ……。
「それじゃあせっかくだから、私もなのはさんの御両親に御挨拶を……、ちょっと待っててね!」
どうやらリンディさんは、フェイトの恩人であるなのはの御両親に挨拶をしておきたいようです。こう言った御近所ネットワークの構築は、流石母親と言えるのでしょうね……。
「綺麗な人だね」
「フェイトのお母さん?」
事情を知らないお二人が、そうフェイトに訪ねます。いえ、確かあの方はクロノの母親であって、フェイトの母親は既に―――、
「えっと、その……、今は、まだ違う……」
……おや? この反応? もしやもう時期母親になられるのでしょうか? っと言う事は?
「カグヤと同じですか……」
「え?」
「ああいえ、何でもございませんよ。フェイト様」
大切な人を失って、温かい手に引っ張り上げられて、そして新しい家族に迎え入れてもらう……。この子はカグヤと全く同じ人生を歩んでいるのですね。
それでも……、きっとカグヤの方が何倍も救われているのでしょうね……。
「さて、色々聞かせなさい龍斗? 何がどうしてこのような結果になったのです?」
カグヤはフェイト宅に一足早く来ていたにも係わらず、カグヤの気配を感じて隠れていた龍斗を引っ張り出し、共に翠屋に連れてきてから問いただします。
念のため、魔術師の会話が聞かれないよう、「一刻も早く甘味が食べたいのです! 龍斗様が奢ってくださるそうなのでカグヤは店内で食べます!」と言う理由付けをしてすずか様達四人とは離れています。あ、せっかくなのでケーキは本当に奢ってもらいました。その時龍斗が「お前は鬼だ……」と泣いていらっしゃったような気もしますが、カグヤは無視させていただきます。
「どうしてもこうしても……、昨日侵入者がいたのは知ってるよね? たぶん予想出来てると思うけど、カグヤを襲ったのと同一人物だったよ。敵は確認できただけで五人。四人が女性、一人が男」
「その一人がカグヤを襲った褐色の男だったのですね?」
「そう。でも見た感じ、アイツは誰かの手先……って言う言い方は変だけど? 主犯格の敵じゃない感じ。あくまで仲間っぽかった」
「では、主力の敵は?」
「そいつも一員だから、同じ主犯には違いないけど……、俺が見た感じ、剣を持ってる女の人が一番強いように見えたかな? 俺は相性の悪いアサシンタイプとぶつかってたから、よく見られなかったけど……」
「そうですか? ……それで、彼女達がここに来た理由は?」
カグヤは視線を高町夫妻と話しているリンディさんへと向けて問います。
「運悪くアースラ……、リンディさんとこの母艦が整備中なんだと? んで、偶然あの事件に出くわす形になっちゃったもんだから、管轄押し付けられて、仕方なく拠点を現地に持ってきたってとこ。理由はしっかりしてるし、なんか、敵も海鳴の土地を拠点にしてるっぽいって話だから、今回は共同戦線って事になった。勝手に許可出したけど、良いよね? 今回は理由もちゃんとしてるしさ」
「はい、カグヤも異を唱える様な所は見つかりませんでした。それは構いませんよ。……ですが、個人的に魔術関係者がすずか様周辺に集まるのはいただけませんね。カグヤには今守る力がないとあれほど―――」
「ああ、そうだ。その事なんだけど、実はなのはも昨夜リンカーコアを奪われたんだ」
「!?」
まさか!? しかし、そうだとしたら魔術師の才能を奪われて、彼女はどうして平然としているのでしょうか? ……いえ、それはつまり―――、
「管理局の医師の話では、リンカーコアが全て奪われない限り、自己修復が可能らしいよ。だからカグヤちゃんも―――」
ガタンッ!!
「うわっ!? どうしたのカグヤちゃん!?」
カグヤは、椅子から滑り落ちそうになり、机に額を打ち付けてしまいました。しかし、今は額の痛みより、身体に襲い掛かる脱力感の方が勝っています。
「い、いえ……、すみません……、酷く安心してしまって……」
顔に力が入りません。なのに今不思議と笑いたい気分です。おかげでとても変な顔をしているのでしょうね。
「はは……、念のため、近い内に管理局で見てもらおうな?」
「はい、お手数をおかけしました」
そう言ってカグヤは、実はずっと手を付けれずにいたケーキをやっと一口、味わいました。
「甘ウマ、です……」
微笑みを零しながら、いつもの決まり文句を呟きました。
「リンディ提―――リンディさん」
「おや?」
入口の方からフェイトの声が聞こえたので視線を向けてみると、何やら長方形の箱を手に、リンディさんに何事か訪ねているようです。
「なんでしょう?」
「見に行ってみようか?」
「そうですね。一応関係者なわけですし」
そう言ってカグヤ達も二人ですずか様達が集まる場所に行きますと―――、
「週明けから、なのはさんのクラスメイトね♪」
「――――」
ちょっと待ってください? よく考えましょう。カグヤに何か落ち度があったかもしれません。見逃している物があったかもしれません。大した事でない物が混ざっているのかもしれません。正確な思考能力が働いていないとも限りません。
ともかく情報をもう少しいただけないでしょうか?
「聖祥大学校ですか? あそこはいい学校ですよ。な、なのは?」
「うん♪」
はい、士郎様、なのは様、情報ありがとうございました。
………。
ちょっと待ってくださ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!?
ちょっ!? ま……っ!? 待ってください!!
これはいけないでしょう? まずいでしょう! 宜しくないでしょうっ!?
仮にも魔術関係者が厄介事に巻き込まれている最中にすずか様の周辺に集中しているのは色々まずいと思いますよ!? もしもの事態が起こり得ないとも限らないんですよ!? 不測の事態になったら、今のカグヤじゃ対処できないんですよ!? 解ってるんですかその辺〜〜〜〜〜っ!!?
「カグヤちゃん、顔すごい笑顔で張り付いてるよ?」
龍斗がこっそり教えて下さいましたが、カグヤにはそんな余裕など毛頭ないのでございますよ!! このままではすずか様の危険度が乱立状態! 日常生活で既に危険度ランクイエローにございます! これはもはや本人達が巻き込む気がないとか言ってる場合ではないのではないのです! 放っておいたらすずか様の身が静かにピンチなのです!!
「早急に手を打たねば……」
「カグヤちゃん?」
まずはハラオウン家の人が少ない時を狙って侵入し、学校関連の資料を奪い―――、
「良かったわねフェイトちゃん?」
「あの……えっと……はい、……ありがとう、ございます」
桃子さんに訊ねられてフェイトが答えると。感謝を述べて制服を抱き締めました。
………。
こんな所まで一緒でなくていいではないですか……。こんな大切な物を貰った場面を見ては、カグヤも妨害工作などできません。
「別の手を考えますか……」
カグヤは前途多難にございます……。
「―――っと言うわけでして、カグヤにも社会の勉学が必要だと思い知った次第です。つきましては、忍お嬢様が再三申しあげていました学校の方に入学してみたいと存じます」
「ノエル! すぐに御赤飯を炊いて〜〜〜っ!!」
夜、すずか様が御入浴中を狙って、忍お嬢様に進言をしましたところ、台所に居るノエル義姉に、全力で注文されてしまいました。
「止めて下さい。学校に行く気が失せます」
「ノエル、残念だけど赤飯は後日よ」
「はい」
はい、じゃありません。ノエル義姉も最近カグヤの事を面白がっていませんか?
「でも急な話ね? あんなに学校嫌がってたのに?」
「嫌がってなどおりませんよ。元々必要ないと思っていたので無駄に通いたくなかっただけにございました。ですが今日、なのは様の新しいお友達をお見かけした時、カグヤの周囲の人は、着実に交流を広げいらっしゃるにも係わらず、カグヤはあまりに社交性を身につけていなかったと思いまして―――」
「それはさっき聞いたわ。でも、社交性がないって言うのはどうなの? アレだけの事が出来て?」
アレだけ―――っと言うのは恐らく、以前月村として参加したパーティーの事でしょう。カグヤはすずか様の身を守りつつ、将来のためのパイプ作りに、上手く主を立てた会話を成立させていた事でしょう。アレは義姉様がカグヤに教えた『人心掌握術』で、上手く弱味を聞き出す為の術だったりするんですが……、まあ、敢えて伝える必要もございませんよね?
「同年代と言うところがネックにございます。カグヤは年相応の子供らしくないと評判にございますれば」
「それには、すずかもそうなんだけどね……?」
忍お嬢様は苦笑い気味に額を押さえました。
「でも、せっかくその気になってくれたんですもの。断る理由はないわ」
「それでは?」
「ええ、すぐに手配してあげる」
「週明けまでにお願いいたします!」
「……急じゃない?」
「善は急げと言いますし、学校に通えると言うなら、すずか様のお傍により長い間居られる事になります。これは敬語がしやすいと思いませんか?」
「つまり、そのための準備を色々用意してあると?」
「無論にございます。カグヤは、すずか様のために手を抜いた事は御座いませんゆえ」
すみません。ブラフです。今回は急な思いつきで何の準備をしておりませんでした!
「いいわ、それならちょっとくらい無茶してでも入れてあげる。もちろんすずかのクラスにね」
「恐悦至極に存じます」
良かったです。なんとか誤魔化せました……。カグヤのポーカーフェイス、最近また磨きがかかり始めている気がするんですよね〜〜……。
おっと、忘れるところでした。これだけはお願いしておかなければ。
「つきましてはお願いがあるのですが?」
「あら? なに?」
「制服は『短パン』を所望します!」
「女の子の制服は『スカート』が基本よ?」
「カグヤは男にございます! 公共の場に出る以上、ここはお譲りしかねるのです!!」
「良いじゃない? 既に私服も女モノ多いんだし。……そもそもカグヤちゃんは義妹弟でしょ?」
「アレは仕事上で仕方なく着ているのです! ってか、それ性別じゃないですから! エル義姉とリン義姉が勝手に記載してしまっただけです!!」
「「はふっ!?」」
急に名前を呼ばれたお二人が、その場で跪きました。
「まだ慣れていらっしゃらないんですかお二人は!?」
「男子の制服なんてカグヤちゃんには似合わないわよ。やっぱり白いヒラヒラのスカートが一番だと思うわ」
「却下です!」
「それでも制服はスカートよ!」
「断固阻止します!」
「オヤツ抜きにするわよ?」
「ッ!? ……そう言えば忍お嬢様? 先日恭也様が参られた時の事ですが? 大変長い間お部屋の方で―――」
「OK、お互い交渉は正攻法で行きましょう?」
「では短パンで」
「スカートよ」
「いや、譲らない」
「そんなに言うなら、スカートを止めてフリル一杯のロリ服を着せるわよ! 学校には月村の力で強引に押しこみます!」
「解った。それなら僕も本気で短パンを個人の力で入手する」
一歩の引かない交渉(?)に、傍で聞いていたメイド姉妹が目を丸くしていた。
「今日のカグヤちゃん、いつになく本気ですね?」
「口調もいつの間にか当初のモノに戻っていますね? アレになると中々手強いのですが……、できればお嬢様に勝っていただきたい」
「あ、それは私もですお姉様」
「次から二人の事はノエルさん、ファリンさんと呼びますよ?」
「「ごめんなさい。余計な口出しでした」」
まったく、人が人生の岐路に立たされている状況で不謹慎な会話をしないで貰いたい。
しかし、これではこっちもらちが明かない……。ここは捨て身の攻撃も含めるしかない!
「解りました。僕も譲歩する事にします……」
「ホント? じゃあやっぱりスカートに―――」
「これからはお嬢様を『シノ義姉』とお呼びいたしましょう」
「ぶふぅっ!?」
忍お嬢様鼻血噴出。これがテレビ映像なら、正面からは映せないシーンだ。
メイド姉妹が「今のはアッパーカットですよ!?」「ええ、見事な不意打ちです!」と戦慄しながら見守る中、鼻を押さえて俯いた忍お嬢様は、しばらく肩を震わせていましたが、きっかり三分後に浮上してきた。
「い、今のは本気で危なかったわ……。危うくころっ、と行きかけちゃったわ……」
「さすがにございますね忍お嬢様。僕もこれに耐えられるとは思いませんでした」
「ふふふ……っ、伊達にあなたを雇っては―――」
「では、『忍ママ』と『恭也パパ』などと言うのは如何でしょう?」
「カバァハッ!?」
お嬢様吐血です。胸を押さえて必死に深呼吸していますが、顔中真っ赤で、後ろを向いていても耳の赤さで丸解りだ。
……ってか、ここまで来るとこっちの精神的ダメージを大きいよ。『パパママ』とか呼びたくねぇ〜〜〜。
メイド姉妹が青い顔で震える中、今度はきっかり五分で復活してまいりました。
「ぜえ……はあ……、悶絶死させられるところだったわ……」
「中々やるな……。どうやらこっちの切り札を出さないと退いてくれないか?」
「ひっ!?」
「まだあるのカグヤちゃんっ!?」
お嬢様だけでなく、ファリン義姉まで悲鳴を上げて後ずさる。今回はどうしても一勝しておきたいので、とっておきの一発を用意しておきました。まあ、これをするとカグヤの精神衛生上、とてつもなく廃人になる可能性が十割を占めているのですが……。諸刃の刃を使ってでも、ここは男子復活への道を―――!
「分かったわ、もう交渉とか無しでお手上げよ……」
「そうですか。賢明な判断に感謝します。カグヤもこれは使いたくありませんでしたので……」
忍お嬢様は「子供に言い負かされた……」と嘆きながら天を仰ぎます。
これにてカグヤの完全勝利! メイド姉妹ががっかりしていようがいまいが関係などないのです!
「あ、でも一つ良いかしら?」
「なんです?」
「これは交渉じゃなくてね? ……男の子の恰好してるカグヤちゃんを見て、私達はカグヤちゃんって認識できるかしら? もちろんすずかも含めてね」
「………」
――――――――――――――。
――――――――――――――――――――。
――――――――――――――――――――――――――――。
「カグヤが前から欲しがった専用の工房と蔵を作ってくださいませんか? それで譲歩しても構いませんよ?」
「断ったら?」
「その時は恐怖に向かう覚悟にございます」
「転んでもただで起きず、突き飛ばされても置き土産を忘れないのね? 良い性格してるわ〜〜」
「カグヤは臆病ですが、勇気ある一歩が必要な事も知っておりますゆえ」
「でも♪ これって一体誰の勝ちなのかしらね〜〜〜♪」
「………」
もはや多くは語りたくありません。
カグヤはこの日、『敗北』を知りました。
……カグヤが男に戻れる日は来るのでしょうか?
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海鳴にフェイトがやってきた! これを機に、カグヤはある決断をするのです! |
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