『明日』を探して
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 僕はそれをずっと探し求めていた。

 子供の頃に図書館で一度読んだきりで、それからずっと探しているのに見つからない、一冊の本。タイトルは覚えていない、その時はタイトルなんて気にせずに読んでいたから。読んだ時もパラパラッとめくって大ざっぱに見ただけで内容はほとんど覚えていない。そんな物を探し出すなんて無茶もいい所だけど、そうしてまでも今の僕には必要だった。

 はっきりと覚えているのは、あの本の一文。

 

「『明日』という名前の光に向かって行くんだ。」

 

 今の僕にはこの続きを思い出す、あるいは知る事が最優先事項だ。

 僕は現在、『明日』に行けない状況にある。

 これは比喩表現でも何でもない。文字通りの意味だ。『今日』という日が終わると、また『今日』に戻っている。せっかく今日になって完成した絵が二十四時を回ると昨日まで描いていた状態に戻ってしまう。明日遠くに住んでいるあの子と会う約束をしていたのに、明日に行けないからいつまでも会う事が出来ない。何もかもが徒労に終わり、明日以降の約束は果たせない。『今日』を百回以上迎えてからはもう何回『今日』を経験したか忘れてしまった。

 どうすれば『明日』に行けるのか、まったくヒントも何もなかったのだが、数十回くらい前の『今日』になって、先ほどの本の事を思い出したのだ。

 あの本の内容は、覚えている限りでは今の僕と同じ様に『今日』を何度も繰り返している主人公が『明日』に行くために東奔西走するといった感じだった。だから僕はわらにもすがる思いであの本を読もうと決意した。あの一文の続きにこの状況を打破するためのヒントが書かれているかもしれない。

 だけど近くの図書館で片っ端から本をあさってみてもそれらしき本はまだ見つかっていない。司書の人に尋ねてみても、さすがに僕の持っている情報が少なくてわからないと答えられた。

 この状況にタイムリミットがあるかもわからない。もしかしたら永遠に『今日』を繰り返すかもしれないし、唐突に『終わり』を迎えるかもしれない。ただ、予感というより確信に近いもので、このままだと絶対に『明日』に行けないと感じていた。

 必死になって探す。周りから見たら一心不乱日本を一つずつ適当に読んでは戻している怪しい人に見えているかもしれない。だけどなりふり構っていられないんだ。僕は『明日』に行きたい。これ以上『今日』を繰り返したくないんだ。

「うっ」

 その時、窓から差し込んでくる夕日が僕の視界を一瞬奪った。慌てていたせいで思わず夕日の方を振り向いて太陽光を直接目にしてしまったのだ。

「まぶし……ん?」

 太陽のある方から目をそらした時、僕は不思議な状況を目にした。

 夕日が手前の本棚で大半を遮られている中、わずかに横から入った光が一冊の本を照らしていた。僕はその本を手に取り、ページをめくった。

 僕はその時、いるかどうかもわからない神様に心の底から感謝した。

説明
即興小説で作成しました。お題「光の本」制限時間「30分」
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