学園黙示録〜とりあえず死なないように頑張ってみよう〜 2話 |
―――すべてが終わってしまった日の前夜
―――俺は、夜更かしをした
……ごめん、ただやってみたかっただけだ。
まだ始まってもいないし、終わってしまったわけでもない。
とりあえず、俺は藤美学園に入学し、そして一年が過ぎ新学期が始まった。
一年の時、高校デビューということもあり、みんな緊張していた節があったが半年ほど過ぎるとそれも徐々に解けだし、学園生活に慣れ始めてくる。
そして二年にもなると今までおとなしくしていた生徒たちは頭角を見せ始め、髪染、ピアス、装飾に身を飾り、化粧をはじめ、もう誰が誰だかわからなくなるほどの変身を遂げるものも出てくる。
中には、中学の時は大人しかった女の子が高校デビューで心機一転。どういう方向性にしたかったのかはわからないが慣れない化粧をして登校し、なぜそれが女性陣の一部に受けてしまいそこからクラスでも騒がしいグループのうちの一つに仲間入りしたという子もいた。
なんだか、間違った流行を鵜呑みにしてしまっているんじゃないかと俺は遠くからあきれた視線を送っていたものだ。
まぁ、俺は前世からそういうものは好きではなかったから周りに合わせてということはなかったが、中には「周りがやっているから自分もやらないとおかしい」などという強迫概念じみた理由で別に好きでもないのにそのような行為にはしっている者もいる始末。
だが、それもいいのではないかと、今だからこそ思う。
転生憑依などという不可思議なことを体験している身でいうのもどうかと思うのだが、一度しかない人生なのだ、十分にはっちゃけて十分に間違えて十分に恥をかけばいいさ。
後々、同窓会などで集まった時に思い出話にでも出せば、いい酒の肴になるだろうさ。
いろんな思い出を積み重ねて心身ともに成長を見せはじめる。
みんなはそれは中学の時ではないかというが、私としては高校二年というのがそんな時期ではないかと思っている。
……前世の親友がやっていたギャルゲーの大半が、高校時代(作中では苦し紛れに学園や学生とされており、高校や高校生などと表記はなかったけど)を描いたものだったからこういう考えになってしまっているのではと思わないでもないがな。
だが、俺にとっては高校二年というのはそれ以外にも特別な意味があるものだ。
そう、この俺こと“小室孝”にとっての高校二年、それはつまり原作が始まるまでもう少しという合図ということだ。
先日、俺の幼馴染であり一学年上だった宮本麗が、なぜか同学年同教室になってしまったのだ。
俺も原作を途中までしか見ていなかったからその理由をよく知っているわけではないが、たしか三年で世界史の教科を担当をしている紫藤先生が原因だったように記憶している。
だが、『孝』はこの時点で紫藤が何かしたのだということを知らない。俺自身、麗に何かあったと知ったのは新学期が始まってからなのだ。
だから俺が「紫藤が一体何をやったんだ」と麗に聞くというのは不自然すぎるし、最悪下手な勘繰りをさせてしまうことになる可能性も否定できない。
と、いうことなので俺も原作をなぞり、麗のことを配慮してなるべく人気のないところで「なぜ留年したのか」「一体何があったのか」ということだけを麗に尋ねた。
すると麗は一瞬悲しそうな表情を浮かべて
「……孝にはわからないわ」
とだけ言い俺から離れていった。
俺としては別段麗に対して恋愛感情はないのだが、それでも麗は俺の幼馴染ということには変わりない。
悲しそうな表情を浮かべて俺から離れていった時は、胸が締め付けられる思いだった。
そして、その数日後に麗と、こちらの世界で出来た俺の親友ともいえる井豪永が付き合いだした。
麗は俺に対し思うところがあるのか、永と一緒にいるところを俺に見られると気まずい表情を浮かべる。
……いや、『孝』だったら原作通りに不貞腐れるところかもしれないが、何度も言うが俺は別に麗に対し恋愛感情は浮かんでいない。
親友である永なら俺としても麗を安心して任せることができるから、むしろ祝福したいところなのだ。
……いや、この際ぶっちゃけると、もし俺に原作知識がなければもしかしたら『孝』と同じように不貞腐れていたかもしれない。
恋愛感情抜きとしても、なぜ幼馴染の俺には何も言ってくれないのか。以前永に例の事を相談したところどうにも言いにくそうにしていたことから、もしかしたら永は麗の事情を知っているのかもしれない。それは、麗が永に話したからなのではないか? ならば出会ってそれほど時間が経っていない永に話せて、幼馴染の俺にはなぜ話してくれないのか。
俺はそれほどに頼りがないのだろうか、俺はそれほどに麗に対して信頼されていないのだろうか。
……前世の記憶がなく、俺が小室孝として新たに人生を始めていたとしたらきっと原作同様に不貞腐れていたかもしれないな。
小室孝の気持ち、実際に今俺が体験しているわけだから分からなくはないのだ。
だが、だからこそ俺は下手に手を出すことはしない。
前情報として俺はいろいろと知っているのだ。
麗が女性として素敵だということも知っているし、女性として『生き汚く』なれるところも知っている。
でなければ、永とあんなにイチャイチャラブラブといった感じだったのに、以前に恋愛感情を持っていたからと言ってすぐに乗り換えることができるだろうか?
確かに俺は麗のことは幼馴染だとは思っているし友愛は抱いているだろう。
だが、いくら状況が状況だからといっても、俺としてはそういう女性は恋愛の対象には見ることはできない。
……その『生き汚い』部分を、俺は怖いと思ってしまったのだ。
こういう考え方をすると、面倒事を永に押し付けたとようにみえるが、永だったらと思っていることも本当なのだ。
きっと永なら麗を支えてくれる、心の隙間を埋めてあげることができると信じている。
とにかく、麗に対して俺ができることはきっともうないだろう。
ならば俺は俺に出来る限りのことを、俺の考える『計画』を成功させるために尽力するしかない。
「さて、残り少ない平和な時間で、最後の悪あがきでもしますか」
◆◆◆◆◆
「こんちわっす、林先生」
俺が来たのは工作準備室。
そこにいたのは、白髪に顎鬚をはやした厳格そうな顔をした白衣の爺さん……もとい林源一郎先生だ。
先生はその顔に似合わず温厚で優しい性格をしているのだが、他の生徒たちは全く知らない。
全く、人は外見だけではないというのに。
「……む、小室か。今日も来たのか?」
「えぇ、もう少しで完成ですからね」
俺は今、木工愛好会という俺が一年の時に設立したサークル活動に入っている。
顧問に林先生を置き、メンバーは俺のほかに麗、永、そして石井というどこか地味な男子生徒の計四名という細々としたものだ。
まぁ、実質活動に参加しているのは俺だけで、麗と永は名前だけという所謂ユーレイ会員というやつだ。
そして何気に時々だが参加している石井。
彼がよく作るのはペーパーナイフだ。
地味なくせに何気に器用ではあるようで、来るたびにいろいろな形のナイフを作っていく。
……てか、石井ってなんか聞いたことがあるような気がするのだが、気のせいだろうか?
まぁ、それは置いといて、これは原作を知っている俺なりのアプローチの一つだ。
俺なりにことが起きてから必要になるのではと思えるようなものを考案し、ここで作成している。
まぁ、俺はもともと工作とかに関しての知識があったわけではないから、そこは林先生に力添えをしてもらったりしているが、明らかに用途のわからないものも作っているというのに、疑問には思っているだろうが聞いてこない。
これは一応信用されているということだろうかな。
「…ふむ、そうか。まぁ、とりあえずお茶でもどうかね? 学生の本分は勉強とはいえ、大変であろう。茶菓子もあるぞ」
「そうですか? じゃぁ、お言葉に甘えていただきます」
まぁ、俺は大抵授業さぼったりすることが多いけどな。
最低限の出席日数さえ稼げれば俺としてはいいと思っているし、仮にも一度高校生はやってきてるのだ、ところどころ抜けてはいるが半分以上はおぼえているような話ばかり。
あくびが出てしょうがない。
林先生は職員室にいることはほぼなく、この工作準備室に入り浸っており日本茶とか菓子とかも置いてあるのだ。
おおっぴらに置いておくと他の先生達からいろいろと文句も言われるとかで、見つかりにくいところにうまく隠している。
例えば机の引き出しの底を二重底にしてその中に隠していたり、木床の下に小さな空間を作りそこに隠したりといった具合だ。
……てか、学園の一室勝手に改造じみたことしていいのかとも思うが、本人は「ばれなければ問題になりはせんよ」と、笑いながら言っていた。
厳格そうな顔してほんとおちゃめな人だ。
こんな日常が本当にいつまでも続けばいいと思う。
しかし、そんな思いは、幻想はあっさりと現実という名の破壊者によってぶち壊されてしまう。
何せ、俺は知っているのだから。
もう時間はなく、終わりの時はもう近くに来ているのだということを。
◆◆◆◆◆
「……はぁ」
俺は今日も授業を抜け出して、原作で『孝』がよくいた非常階段のところで手摺りに寄りかかり溜息を吐く。
毎回授業を抜け出す俺を先生は目の敵にしているようで、たまに授業に顔をだすとなにかと嫌味を言って来たり、集中して問題を押し付けたりするのだ。
……まぁ、俺が悪いということはわかっているのだから、逆恨みするつもりもどうこう言うつもりはない。
今溜息を吐いているのはまた別の理由。
それは、いつ≪奴ら≫がやって来るのかということ。
いつ来るかわからない敵に常時警戒しているというのは精神的にさすがに無理がある。
「俺はフルメタルな主人公の軍曹じゃねぇんだっつうの」
彼ならば1日2,3時間ほどの睡眠があれば、数ヶ月見張りを続けることもできるかもしれないな。
まぁ、それは置いといてだ。
はっきり言って≪奴ら≫に関する情報は少ない。
あれだけの規模の出来事だというのに、朝は何ともなかったということ自体おかしいじゃないかと突っ込みを入れたい気分ではある。
今まで見たことがあるその手の映画であっても、まずどこかで何かしらの事件が起きて新聞の端っこに小さく載るくらいはするだろうに。
そしてそれからどんどん大事になって行き、最後に原作並みの規模になるもんだろう。
パンデミックだからで片付けられるほど簡単なものじゃないと思うぞ。
……と、いろいろと考えてしまうのだ。
別に今すぐに来てほしいとは思っていない。
むしろ、人物や場所等の名前だけ同じで、実はそんなこと起きないとかだったら、どれだけいいだろうか。
そのように、今でも違っていてほしいと願うくらい、来てほしくないと思っている。
もしこの世界が人物や場所などの名前だけが同じ世界だとしたら、今の俺の不安材料が無くなり平穏な学生生活を送ることができるというのに。
……いや、今まで先生に目をつけられてきてるから内申に間違いなく響いてるだろうし、それはそれで怖いか。
「……はぁ」
今日何回目かわからなくなるほど、俺はまたはため息を吐いた。
ちなみにもう一つの基準であるだろう高城沙耶の登場だが、おそらくそれはないだろう。
確かにあいつも幼馴染ではあるが、今までの付き合い方でいろいろ注意してきたからだ。
主人公という存在にありがちな不用意な発言、不用意な行動、その他もろもろ。
この世界の高城は俺に対して恋愛感情は抱いていない。
これは俺がよくある鈍感とかそういうものでないと仮定しての判断だが、どちらかというと永と同じ親友というカテゴリにあてはまるだろうと思っている。
麗の件でも少し前に相談してそれなりに話す機会はあったし、俺が麗に対して恋愛感情を抱いていないことも沙耶は知っているため、授業を抜け出しているのが喪失感というか悲しみというか、それらからくる不貞腐れた感情じゃないことも知っているだろう。
と、いうわけで下手な励ましを目的とした高城の登場は望めない。
自分で判断基準を減らして苦労していることに呆れて苦笑いが出てくる。
ふと空を見上げると、青い空に白い雲、鳥の鳴き声にかすかに吹く風、本当にのどかでいい気持ちにさせる。
(もう、今日はこのまま街に繰り出そうか)
しかし
そんな俺の気持ちは
一つの叫び声に打ち破られたのだ
「ぐ、ぐああぁぁあぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その悲痛な叫び声こそ、これから始まる惨劇の狼煙だった
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