ソードアート・オンライン After Story 〜100層到達を目指して〜 第2話 |
俺は茅場の解答を聞いた瞬間、自分の予想が的中したことも忘れ、心の奥底から湧き上
がる苛立ちや怒りを奴にぶつけた。
「100層への到達?ふざけるのも大概にしろよ・・・!あんたは自分が何を言ってる
のか分かってるのか!?さっきのボス攻略戦での惨状を忘れた訳じゃ無いだろ!?」
惨状とは、ヒースクリフが茅場晶彦と判明する前に行われた75層のボスとの戦闘のこ
とである。俺たち攻略部隊は、『ボスの部屋の扉が閉まり開かなくなる』という新たなトラ
ップの対策として、俺を含めて合計32人という異例の人数で攻略に臨んだ。もちろんこ
の攻略部隊は、ギルド『血盟騎士団』や『聖竜連合』などのトップギルドに所属するプレ
イヤーや、『βテスト』経験者のソロプレイヤーなど、歴戦の強者を集めた部隊だった。し
かし、このボスの攻略が完了したとき、残っていたプレイヤーは18人。14人ものプレ
イヤーが命を落としていたというものであった。
「ああ。忘れた訳では無い。」
茅場はただ一言、そう答えた。そして、言葉を続ける。
「だがね、キリト君。残念ながら君たちプレイヤーがログアウトするにはこの方法しか
無いのだよ。私の方でログアウトの操作が出来ない以上、後は100層に到達するという
正攻法でしかログアウトは出来ないということだ。」
茅場が言った正論に、俺は何も言い返すことが出来なかった。だが、奴の言うことも一
理ある。この世界をコントロールしていた彼の操作が受け付けられないのであるなら、も
う俺たちが自力でログアウトする以外に方法は無い。だが、今回のボス攻略で14人もの
トッププレイヤーが死亡したとなると、100層に辿り着くのは限りなく0に近い確率で
あった。いくらプレイヤーが6000人余りいるからといって、その全てが強力なプレイ
ヤーである訳では無い。俺たちのように常に最前線で戦い続けるプレイヤーは精々400
〜500人といったところだろう。
だが、今回の――75層のボス戦で14人が死んだとなると、100層に辿り着く攻略
組のプレイヤーは1桁、またはその前に全員が死亡するかの可能性が非常に高い。ただで
さえ、75層であの強さなのだ。これがさらに強くなると考えると、死亡者が増えるのは
火を見るより明らかだった。
また、俺たちで最前線で戦えるプレイヤーを育成するという方法もあるが、これもまた
難題であった。ゲーム開始から第一層の『はじまりの街』に滞在し続けるプレイヤーを育
成するとなると、骨の折れる作業となるのは明らかである。何せ、戦い方を知らない連中
に一から教え込むのだ。これでは、クリアされる年月がかなり先になってしまう。一転し
て中層プレイヤーなら、レベルもそれなりに高く場数も踏んでいるので育成は楽になるが、
問題はボスとの戦闘経験が無い者が多いことだった。ボスとの戦闘経験が豊富なトッププ
レイヤーでも、ボスの威圧感に圧倒されるものがいるのだ。ましてそれが戦闘経験の無い
者となると、ボスの威圧感に圧倒されて何も出来なくなる人が続出するのが関の山だった。
そう俺の思考がマイナスの方向に傾き始めたとき、突然ある言葉が脳裏をよぎった。
――君を必ず、向こうの世界に帰してみせる――
そして俺は、僅かな笑みを浮かべていた。
そうだ。俺は彼女に、アスナに誓ったんだ。現実の世界に、必ず帰してみせると。そこ
に理屈なんか無い。あるのは、アスナを向こうの世界に帰したいと思う俺の『気持ち』だ。
たとえそれがどんなに困難なことであっても、諦めるわけにはいかない。それに、他のプ
レイヤーたちだって、現実世界に帰還することを夢見て戦い続けているんだ。皆、死の恐
怖を抱えながらもその武器を振っているのだ。それなのに、俺だけ逃げ出すわけにはいか
ない。俺は、必ず頂上の――100層に辿り着いてみせる!!
俺が決心を固めたとき、茅場は再度確認するように俺に質問をしてきた。
「さあキリト君。どうするかね?」
俺の決心が固まると同時に、茅場は再度質問してくる。俺はその質問に、迷いの無いはっ
きりとした口調で答えた。
「茅場、あんたは俺たちプレイヤーが現実世界に戻るにはこのゲームをクリアするしか
無いと言ったが、それなら俺は――いや俺たちは必ずこのゲームをクリアして、向こうの
世界に帰ってみせるさ。俺は、絶対に諦めない。」
俺がそう答えると、奴は僅かな微笑を浮かべていた。
「キリト君。私は君がそう答えると信じていたよ。」
「そう答える以外に選択肢が無いのも事実だけどな。」
奴は俺の返答に苦笑すると、何やらメニューウィンドウのようなものを呼び出し、それ
を素早く操作し始める。俺はその行動に疑問を感じ、ひたすらウィンドウを操作する奴に
尋ねる。
「何をやってるんだ?」
茅場はその質問に、ウィンドウを操作しながら答え始める。
「ゲームの設定を変更しているのだよ。幸い、エラーを起こしたのはログアウトシステ
ムだけだったのでね。」
「何を変更する気だ?」
そう再び質問するが、操作に集中しているからなのか、奴は俺の質問には答えずひたす
らウィンドウを操作し続ける。そして全ての操作を終了させたのか、ウィンドウを閉じる
と少し遅れて俺の問いに答え始めた。
「そう焦るな。今から順を追って説明する。まずキリト君、君なら気づいているだろう。
ある一定の層を通過するごとに出現する武器が変わっていることを。」
「ああ。薄々勘付いてはいたよ。」
俺がこのことに気付いたのは六十層あたりからだった。それまでにも出現武器がガラッ
と変わることがあったためにその推測はしていたが、確信が無かったため誰にも言わずに
心の中に押し留めていたのだ。
だが、何故そんなことを聞く?そう疑問に思っていたところ、奴は話を再開した。
「やはり気付いていたか。察しの通り、出現する武器はある層を突破するごとに変更さ
れた。そして、それを行ったのは私だ。その層のモンスターと釣り合う武器を私が調節し、
出現させていたという訳だ。ついでに言っておくが、スキルもその制度で出現させていっ
た。ただし、ユニークスキルは例外だ。あれは、私が見込んだ者にしか与えなかったので
な。つまり、君は私が見込んだプレイヤーという訳だ。それに、その見込みは大方はずれ
ていなかったようだしな。」
「あんたに見込まれても嬉しく無いけどな・・・。」
俺がジト目で見ながら言うと、奴は苦笑した。そして、「話がそれたが、」と言って再び
話し始める。
「私が先ほど行った操作が二つある。その内の一つだ。私は今、これから先の層で出現
する全ての武器及びスキルを全てアンロックした。もちろん、スキルはエクストラ、ユニ
クを含めて全てアンロックした。」
そう言って一度言葉を切ると、奴は二つ目の操作の内容に話を切り替えた。
「ではキリト君、二つ目の質問だ。君はこのゲームのプレイヤーの最高レベルがいくつ
か知っているかね?」
「それについては知らないが、多分100なんじゃ無いのか?」
俺はとりあえず、一番ベタな答えを出した。すると、奴は「御名答。」と言って話を続け
る。
「この世界では、限界レベルが100までに設定されている。だが、私は当初最高レベ
ルを200にして発売しようとしたのだよ。まあ、この計画は白紙にされて結局100に
なったがな・・・。だが私は、このゲームのプログラムに途中からレベルの最高値を変更
出来るように細工しておいたのだよ。使う機会は無いと思っていたが、よもやこんな形で
使用することになるとは私も想定外だったよ。これで君も分かったと思うが、私が行った
二つ目の操作は、この世界でのレベルの上限を100から200に変更したことだ。」
そう言って彼は話を締め括ったが、俺は腑に落ちないことがあったため、それを奴に聞
いた。
「なんでそんなことをするんだ?」
すると、茅場はこう答えた。
「君たちとの約束を破ってしまったからな。それに対するけじめのようなものだ。」
「そうか・・・。」
俺はその返答に、端的にそう呟いた。
「では話も終わったことだし、私はそろそろ行くよ。」
すると、彼の体が透け始めた。そして、茅場の全身が半分ほど透けた頃、奴は最後の質
をしてきた。
「最後の質問だ。君の本名はなんというのかね?」
「桐ヶ谷和人だ。」
「ふむ・・・。桐ヶ谷和人君か・・・・・・。覚えておこう。」
その言葉を最後に、彼は跡形もなく消えた。それと同時に、俺の意識も落ち始める。そ
して、俺の意識は闇に飲み込まれた。
説明 | ||
昨日のうちに投稿したかったのですが、文章がまとまらずに投稿が遅れてしまいました。 本当にすいません・・・・・・。 さて、今回はヒースクリフとの話の回の後編です。 それではどうぞ!! |
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