Masked Rider in Nanoha 四十七話 すべては君を愛するために |
会議室に集まったはやて達。その表情は当然ながら暗い。最後に見た邪眼の姿。それに関して誰もが聞きたい事があったのだ。そう、光太郎が叫んだシャドームーンとの名。それを五代と翔一から聞いたために。
しかし彼はどこかそれを話す事を躊躇っているようにも見えたので誰もがその気持ちが整理されるのを待っていた。実はその実態は少し違う。彼は気持ちの整理だけではなくある予感を感じて一人の人物が来るのを待っているのだ。すると、そこへ慌てたようになのはが現れる。
「ごめん! 今戻ったよ!」
その姿へ全員の視線が注がれた。それに彼女は少し恥ずかしそうに頬を掻いた後、感謝を告げて頭を下げた。自分の感情を優先してくれた周囲へだ。それに誰も文句を言う事は無かった。確かに組織に属する者としては軽率な判断かもしれないが、六課はどこかそういった雰囲気ではない。それに誰もがなのはの気持ちを汲み取っていたのだ。
愛する者が死んでしまうかもしれない。そうなれば会いに行かせてやりたいのが人というものだ。それになのはは必ず戻ってくると信じていたのもある。そして彼女が現れた事による周囲の騒ぎも落ち着いたのを見計らって光太郎が口を開いた。
「……これで全員揃ったし、あの銀色のライダーのような存在について話そうか」
その言葉に誰もが頷いて光太郎を見つめた。それを受けて彼は語り始める。それは自分の過去を話す事にも繋がる話。五代やフェイトさえ知らない光太郎の隠していたい過去の一頁だ。故に光太郎は前置きにこう告げた。
この話を聞いて自分に何を思ってくれても構わない。それだけの内容だから、と。その言葉に全員が何も言わずに視線だけで了承を返した。それを合図に始まる話。それは光太郎がまだBLACKとして戦っていた頃の事。ゴルゴムとの戦いが激しさを増した記憶だ。
「あれは、シャドームーンと言う俺と戦った世紀王を模しているんだ。邪眼は俺と戦った時、一度その姿を見ている。おそらくそれをイメージして体を変化させたんだろう」
それを皮切りに光太郎はシャドームーンの事を簡単に話した。自分の幼馴染であり親友であった秋月信彦。それがゴルゴムによって改造された姿こそがシャドームーン。脳改造までされたため、記憶こそ持っているが完全に世紀王となってしまい戻す事が出来なかった事さえも。
そこまで話した時点で誰もが言葉を失っていた。光太郎の過酷な宿命の一端。それに触れただけではない。まさか彼がそこまで話すとは思わなかったからだ。別に話さなくても構わない部分であるはずの情報。そう誰もが思った。だが、それを光太郎は無視してこう続けた。
「だがシャドームーンは、俺がRXになってクライシスと戦っている最中、突然復活して姿を見せた。その記憶のほとんどを失いながらも、世紀王としての執念だけで打倒RXを唱えて」
それに誰もが違う意味で言葉を失う。一度倒されたはずのシャドームーンが蘇った事もそうだが、記憶を失いながらも宿命の相手だけは忘れていなかった事に。それだけRXとシャドームーンが因縁の関係なのだと誰もが理解した。
光太郎はRXとして戦ったシャドームーンとの最後の戦いの結末を語った。それこそが彼が一番言いたい事だったのだ。勝負に負けたシャドームーンは彼にクライシスの企みを阻止する事を託し、自身は傷ついた体を押して人質になった子供達を助け出して眠りについたと。
「俺はあの時、シャドームーンは信彦に戻ったと思ってる。だからこそ、邪眼のあの姿は許す訳にはいかない!」
「光太郎さん……」
フェイトは光太郎がどうしてここまで詳しくシャドームーンの事を話したのかを理解した。親友であった存在。それが最後の最後で人らしい心を取り戻してくれた。そう信じていたい。そのままで終わらせておきたかった相手であるシャドームーン。それを邪眼がよりにもよって模倣した。
綺麗な思い出を傷を付けられたように感じたのだろう。いや、安らかに眠った親友を踏み躙られたと考えたに違いない。そう考え、フェイトは光太郎へ視線を向ける。
今彼はシャドームーンの能力を思い出せる限り語っていた。その表情はもう戦士のものだ。周囲は光太郎の話に思う事があるだろうがそれを言う事はしない。同情も批難も出来るはずがないからだ。
仮面ライダーの敗北が意味する事。それを思えば光太郎の決断は当然だった。しかし、それを聞いて想像する者と実際行った者との間にある壁は厚い。誰もが自分ならば出来るだろうかと自問する。愛する家族や親友を敵として、その命を絶つしか平和を守る術がないと言われたらと。
「……これが俺が知るシャドームーンの能力だ」
光太郎がそう締め括ると会議室に沈黙が訪れた。その重さを作り出した彼は内心で謝った。感傷に流され、聞かせてはいかない事さえ話してしまったと思って。自分が親友を手にかけた事はいい。だが、それを他者が聞けばどう思うかなど分かっていたはずだったのだ。
それでも、光太郎は言わずにはいられなかったのだ。自分の中で大きな傷であり大切な思い出である存在。それをあんな形で汚した邪眼への怒りが彼を動かしてしまったのだから。
気まずい沈黙の中、一番に口を開いたのは真司だった。
「俺も……最悪それをしなきゃいけないかもしれなかった。だから、邪眼のした事がどれだけ光太郎さんを傷付けたか分かります」
「真司君……」
「自分が悩み苦しんで、やっとの思いで倒して眠らせた相手を、よりにもよって利用されるなんて絶対許せる事じゃない。俺だって、もし同じ事されたら黙ってられないから」
ライダーバトルをやっていた真司。だからこそ彼にはシャドームーンがナイトである蓮に重なって見えたのだ。自分と蓮だけが残ったとして、もうどちらかが倒れるしか戦いを止められないとなった時、自分がどうするかを考えて仮定すればこの話は他人事ではなかった。
今の彼ならばそれでも諦めないだろう。しかし、五代達に出会う前の彼だったらそれを選んでしまったかもしれない。故に真司は光太郎の心情を思いやって拳を握り締めた。その言葉に今度は五代が続いた。
「俺は、単純に人の触れられたくない部分を平気で踏み躙るやり方が許せない。しかも不気味だった前と違って、今度は静かに眠った仮面ライダーの姿を真似するなんて余計に」
「五代さん……」
光太郎は五代の言葉に心が熱くなった。シャドームーンはゴルゴムの指揮を執った存在。それは悪だ。それでも、五代は仮面ライダーと呼んだのだ。それは脳改造された事を考慮し最後の行動から判断してだろうと察して、光太郎はその優しさに密かに視線で感謝の意を告げた。翔一も五代の仮面ライダーとの言葉に頷き、光太郎へ視線を向けてこう言った。
「邪眼に教えてやりましょう! シャドームーンの姿をしたって、お前じゃ本物には及ばないって」
「翔一君……ああ!」
翔一の言葉に光太郎は握り拳を見せる事で応じる頃には、静かに会議室の空気が変わり出していた。悲しみや戸惑いに満ちていたそれが闘志や決意で満たされ始めていたのだ。それを感じてかなのは達の表情にも明るさが戻る。
そして、はやての口から明日の決戦についての最終通告がされた。本体以外の邪眼はライダーが一体ずつ相手にし、残る一体をギンガを除いたヴァルキリーズが相手にする。邪眼が怪人はもう使わないと言ったが、撤退した怪人達は健在している事もあり全てを信じる訳にはいかないのでスターズとライトニングで相手をする事に決めた。
トイやマリアージュはガジェットと共にはやて達が相手をし、本体はそれらを片付けてから総力戦を以って打ち倒す事で同意して。誰も不安や恐怖は抱いていなかった。その場にいる全ての者達が凛々しい表情を見せていたのだ。それを頼もしく思いながらはやては部隊長として口を開く。
「ええかみんな。明日の戦いは単なる奪回戦やない。真司さん達の家を、わたし達の世界の平和を、みんなの笑顔を取り戻す戦いや」
「そうだね。だからこそ、絶対負ける訳にはいかない!」
「みんなで力を合わせよう! そして、必ずここにいる誰も欠ける事無く邪眼に勝とう!」
はやてに続いたフェイトの言葉は全員の気持ちを代弁した。なのははそんな言葉を受けて周囲へ告げる。それは願い。それは誓い。そしてその手にはいつもの仕草がある。そのサムズアップに誰もが力強く応じる。込めた想いはただ一つ。この戦いを最後にしてみせるとの決意だ。
こうして最後の打ち合わせを兼ねた話し合いは終わりを迎えた。そして、それぞれに最後の夜が訪れる。”この”機動六課として過ごす最後の安らぎの刻が……
「ママ、お帰りなさい」
「ただいま、ヴィヴィオ」
廊下で一度再会したものの会議室での話し合いに参加するためにしっかりとした会話が出来なかった二人。故に改めてなのはとヴィヴィオは挨拶を交わす。その表情は共に笑顔だ。
なのははヴィヴィオの体を優しく抱き締め、その無事を心から喜ぶ。フェイトやはやてから怪人にさらわれそうだったと聞いた時、彼女はユーノの元に行った事を少し悔やんだぐらいだった。だが、リインやヴァイスの支えとイクスの存在がヴィヴィオを守ったと知り、先程彼女は三人へ礼を述べてきている。
今、二人はなのはの部屋に戻り、話をするべく向き合っていた。地上本部へ向かう直前になのはが言った大事な話をするために。
「あのね、ヴィヴィオ。お出かけする前にママが言ってた事覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。帰ってきたら大事なお話があるって」
それになのはは嬉しそうに笑みを浮かべて頷くとヴィヴィオの頭を静かに撫でる。それにくすぐったそうな反応を返すヴィヴィオを見て、彼女はその目を見つめて尋ねた。本当に自分の子供にならないかと。ヴィヴィオはその言葉に驚くもすぐに嬉しそうに頷いた。その反応を見てなのははどこかでこう思った。ヴィヴィオは本当の両親とは会えないと察しているのかもしれないと。
だからこそ、なのはは意を決して告げる事にした。ヴィヴィオの生まれについてを。隠し続ける事は出来る。それでもいつそれを知るか分からないのなら自分の口から教えてやりたいと思ったのだ。かつて親友であるフェイトが受けた衝撃。それと同じ事にならぬためにと。
「いい? よく聞いてねヴィヴィオ。ヴィヴィオは聖王って言う人の……コピーなの」
「え? コピー?」
「そう。だからこれから先、ヴィヴィオは生まれの事で苦しむ事があるかもしれない。でもそれに負けないで欲しいんだ」
なのはは思いの丈を込めて告げる。フェイトも直面した出来事である”自分が誰かのコピー”であるという重たい事実。それをまだ幼い少女へ告げるのは正直なのはもかなり苦しい。だが、だからこそ彼女が言わねばならなかった。
ヴィヴィオの親になると決めた以上、これはその資格を得るための最低条件だと言い聞かせてなのはは語る。ヴィヴィオが不安にならないよう、細心の注意を払って彼女は事実と今後の不安を告げていく。それでも最後にはこう言うのを忘れない。それは、フェイトを立ち上がらせる力となった言葉。嘘偽りないなのはの気持ち。
―――でもね、何があってもママはこう言うよ。ヴィヴィオはヴィヴィオだからって。誰かのコピーなんかじゃないって。
その言葉に自分の生まれ方などに困惑していたヴィヴィオがなのはを見た。その視線は助けを求め縋るようにも見えた。だからだろう。なのはは優しく微笑むと彼女の体を静かに抱き寄せる。その温もりを感じ、ヴィヴィオは嬉しくなったのか顔を擦り付けるように抱き締めた。
なのははそれに微笑みを浮かべた。それはまさしく母の笑み。そして彼女はそのままヴィヴィオへ告げる。それは自分の事。そうユーノとの婚約の事だ。期せずして父親まで出来るかもしれないと思ってヴィヴィオは満面の笑顔を見せた。
「じゃ、ヴィヴィオにパパが出来るの?」
「そうだよ。今度お休みになったら、一緒に会いに行こうね」
「うんっ!」
ユーノが危ない事は伝えない。それはなのはが信じているからだ。ユーノが死なずにいると。女の勘もある。だが、サムズアップをしたユーノがその約束を破るはずがないとクロノも信じるように、なのはもそう思っていたのだ。
それ故にヴィヴィオへは言わない。今は少しでも笑顔を曇らせたくないから。万が一など考えない。最悪の結果などない。そう自分に言い聞かせるようになのはは笑う。邪眼を倒して、次の大きな戦いは結婚に向けてのものだと、そう心から信じて。
なのはがヴィヴィオと深い絆を結んでいた頃、光太郎とエリオはベッドに腰掛けたまま無言で見つめ合っていた。明日に迫った決戦を前に、エリオにはどうしても光太郎へ言っておかねばならない事があったのだ。
「光太郎さん、聞きたい事があります」
「何だい?」
「この戦いが終わったら、光太郎さんはまた旅に出るんですよね? 平和を守るための旅に」
エリオの言葉に光太郎は無言で頷く。それに彼は表情を微かに悲しみに変えるも、それでもすぐにそれを消して真剣な眼差しで告げた。
―――だから、約束して欲しいんです。また僕やキャロに、フェイトさんに会いに来るって。
それに光太郎は即答が出来なかった。ここへ来れた理由を考えれば、もうこの世界へ来る事は出来ないだろうと思ったのだ。しかし、エリオの眼差しが彼へ問いかける。どうして返事をしてくれないのかと。
エリオもそれを絶対に叶えて欲しいとまで言わない。ただ光太郎の気持ちが聞きたかったのだ。自分達との別れを良しとせず、いつか再会を果たしたいと考えてくれるのか否かを。そんなエリオの考えを感じ取ったのか光太郎は一度息を吐くと笑顔で答えた。
―――分かった。約束するよ。必ずまた君達に会いに来る。いつになるか分からないけど、絶対に……
その言葉にエリオが一瞬驚きを浮かべると瞳を潤ませて頷いた。自分が言って欲しかった言葉。それを光太郎が言ってくれた事に感極まったのだ。そんな彼の頭へ光太郎は優しく手を置いて笑う。
「こら、男の子がこんな事で泣いちゃ駄目だぞ」
「な、泣いてません」
そうやや恥ずかしそうに返し、エリオはその手の温もりを忘れまいと思う。そんな風に二人が兄弟みたいな時間を過ごしているように、フェイトもキャロとまるで姉妹か母娘みたいに寄り添って話していた。
「明日で全てが終わるんですね」
「そうだね。邪眼を倒してもう怪人も生まれなくなるから」
笑顔のキャロにフェイトも笑みを返す。だが、その雰囲気がどこか暗い事にキャロは気付いた。何か悲しい事を堪えている。そう、それは以前海鳴への出張任務で見せた顔にそっくりだったのだ。
光太郎と別行動になった事を悲しんだフェイト。それと同じ表情を今の彼女はしていた。キャロはそれからある事に思い当たる。それは、この戦いが終われば仮面ライダー達は必要なくなる事。つまり光太郎はすぐにでも旅立ってしまうかもしれないという事に。
(そっか。だからフェイトさんは悲しそうなんだ……)
本当の理由を知らないキャロだったが、悲しみの大本は察する事が出来た。故にフェイトの手を掴み、ある仕草を伴って力強く告げる。
「大丈夫です!」
「え……?」
「光太郎さん達は勝手にいなくなったりしないですから。絶対、私達に一言ぐらい言ってくれるはずです」
「キャロ……」
自分の悲しみを感じ取ったのだろうと思い、フェイトは嬉しくなって微笑みを浮かべる。その言葉がどこか自分の考えている別れに一筋の希望を与えてくれたように思え、キャロの髪を優しく手櫛で梳いた。
それをくすぐったく思いながらもキャロは嬉しそうに笑う。その光景を見てフェイトは小さく微笑んである疑問を浮かべた。今の自分達は母娘のように見えるのだろうか。それとも姉妹のように見えるのだろうか、と。
その答えを自分で出して彼女は笑みを深くする。どちらでも間違っていない。時に母娘で時に姉妹。そんな関係が自分達を言い表しているのだと結論付けたのだ。
「実は、今日スバルさん達とお話してたんです。この戦いが終わった後、みんなでキャンプとかに行きたいねって」
「それはいいね。みんなで、か……」
「はい。光太郎さん達だけじゃなくて、ジェイルさん達も一緒に」
キャロの言葉にフェイトは一瞬だけ驚きを見せるもすぐに微笑みを浮かべて頷いた。彼女もジェイルの事をそこまで憎く思う事はなくなっていたのだ。少なくても以前のように恨んでいたりはしない。特にシャーリーから聞いている事が大きかった。
ジェイルの仕事振りや性格などを一番身近で見聞きしているシャーリー。その報告はフェイトの信頼出来る情報だ。ただある時を境に、そこへ個人的な感想が混じる割合が増えたように感じてはいたが生憎彼女はその理由までは気付けなかった。
そんな事を思い返してフェイトはふと考える。ジェイルがいなければ、もしかすると自分は生まれていなかったかもしれないと。皮肉な話だが彼の基礎研究があったからこそ彼女は生まれ、そして怪人や邪眼が生まれてしまったのだ。
やはり悪いのはジェイルだけではなくその技術を使う者にもある。特に命を気軽に扱うような技術はあってはならないと、そう結論を出してフェイトは内心で呟く。
―――私も戦い続けよう。忌まわしき技術で生まれたからこそ、もう二度とそんな技術を使わせないために……
月明かりの下、翔一は隊舎前に呼び出されていた。相手は言うまでもなく妹分のはやて。大事な話があると言われ、彼は何だろうと思いながらやってきたのだ。だが、その手には夜は冷えるからと用意してきたホットココアがある。
それを翔一ははやてへ渡した。その温かさに少しだけ彼女が微笑む。その笑みに彼も嬉しそうに笑みを返しその隣へ自然に立った。そこが翔一の自然な立ち位置となったのはいつだろう。そんな事を思いながらはやては時間の流れを感じていた。
「な、翔にぃ」
「何?」
「もう、出会ってから十年以上経つんやね」
「そうだね。でも、俺が途中抜けてるから実質は半分ぐらいだけど」
気にするでもなく明るく翔一はそう言ってホットココアを口にした。その熱さに少し顔をしかめるが、即座にはやてへ熱いから飲む時は気をつけてと言うのを忘れない。そんな翔一にはやては相変わらずだと思って笑みを零す。
だが、その表情が少しだけ寂しそうに曇った。それを出来るだけ気取られないように彼女は翔一から若干顔を背けた。そしてそのままこう切り出した。本題を話すと。それに翔一が不思議そうな表情をはやてへ向けた。
「それはいいんだけど、一体どんな話? 邪眼関係じゃないんだよね?」
「そや。これはわたしの個人的な話やから」
はやてのその言葉に翔一が増々分からないという顔をする。それに顔を背けているはやてが気付くはずもない。だが、意を決して振り向き翔一へはやては告げた。
―――前も言うたよね? わたしが結婚する時は翔にぃとバージンロードを歩きたいって。
その言葉に翔一は息を呑んだ。はやてが自分へ何を言いたいかに気付いたからだ。それは父親が受け持つ役割であり、両親の亡くなったはやてからすれば兄へ代役を頼む事。つまり彼女が結婚する際、翔一に新郎の隣までのエスコートをお願いしたいという事だ。
しかし、翔一はその意味を理解した。はやてが自分と永遠に別れるつもりはないと言ってくれたと。だから、翔一は戸惑いながらも真剣に考える。自分はおそらく邪眼を倒せば元の世界に戻る事になる可能性が高い。それでもはやてが告げた言葉へ真摯に答えなければと思って。
(はやてちゃんの気持ちは真剣だ。俺はそれにきちんと向き合わないと……)
いなくなるだろう自分へ大仕事を頼んできた。その気持ちをちゃんと受け止めるために翔一は悩んだ。本音を言えばここへまた来れると彼は思っていなかった。それを正直に伝えるべきかを。はやての心に少なからず傷を作るのではないかとの思いが翔一の中に生まれる。それでも嘘を言う事も出来ない。そこまで考え、翔一は実に単純な結論に達した。
「はやてちゃん、ありがとう。俺、凄く嬉しいよ。こうやってはやてちゃんのお兄さんとして扱ってもらえて」
「翔にぃ……」
「でも、俺は今までここに残れるって思ってもいなかった。だからはやてちゃんのお願いへ簡単に頷く事は出来ない」
「そう……やろな」
はやてはどこかで予想していた。翔一は素直だ。きっと一度別の世界へ飛ばされた時から邪眼を倒したら帰還する事と思っていたのだろうと。だからそこまで衝撃はない。だが、俯いて落胆した。再会の約束はしてもらえないのだから当然と言える。
しかし、そんな彼女にへ翔一はゆっくりと近付いてその肩に手を置いた。それにはやてが顔を上げる。翔一はいつもの優しい笑みを浮かべていた。
「でも、今からはやてちゃんの兄としてちゃんと戻ってくる事を意識するよ。それに……結婚式はもう少し先だよね?」
「えっ……それって……」
「うん。俺、絶対ここへ戻ってくるからさ。必ず、妹の結婚式へ出席出来るように」
それが再会の約束だと理解した瞬間、はやては溢れる涙もそのままに笑顔で彼へ頷いてみせた。翔一はそれに笑顔を返し、その流れる涙を拭き取ろうとポケットを探る。しかし中々出てこないのか不思議そうにポケットを探り続けた。
それを見てはやてがいつもの翔一だと内心笑うも、その表情はやや拗ねたようにこういう時ぐらいしっかり兄らしく決めて欲しいと文句を言うのは当然の流れだ。それに彼が申し訳なさそうな顔でやっと取り出したハンカチを差し出した。
「もう! 相変わらずやな、翔にぃは」
「ごめん。次から気をつけるから」
差し出されたハンカチを受け取りながらはやてがそう言うと翔一は申し訳なさそうに手を合わせて謝る。それに彼女は呆れたようでどこか楽しそうな笑みを浮かべた。その様子を離れた場所で隠れるように見ていた者がいた。
「……翔一さんとはやてさん、仲良しだな、やっぱ」
ティアナは眼前の光景を見て誰にでもなくそう微笑むように呟いてから寂しそうな顔へ変わる。スバルがギンガと共に相談したい事があると申し出たので、彼女はギンガが使っていた部屋を今夜は使う事になっていた。しかし緊張や普段と違う部屋のためか中々寝付けず、宿舎を出て軽く気分転換に散歩しようと外へ出た矢先に前の方を歩く翔一を見かけたのだ。
声を掛けようとしたのだが、その先に彼を待っているであろうはやてが見えたため、気になった彼女は悪いと思いつつも物陰に隠れて一部始終を見てしまった。ただ、距離が開いているために会話までは聞こえなかったのだ。しかし、様子だけを見れば二人が仲を深めたようにしか見えないため、ティアナは二人が兄妹仲を確かめ合ったと捉えた。
(お兄ちゃん、どうしてるのかな? 心配、してるよね。六課が明日ゆりかごへ向かうのを分からないはずないもの)
寂しさの理由はそこ。二人を見てしばらく会っていないティーダの事を思い出したのだ。連絡を取ろうとも思ったのだが、彼は忙しい執務官なので彼女は結局通信出来なかった。いや、しなかったのだ。すれば弱音を吐いてしまうそうだったために。なのでティーダからの連絡を待ったのだがそちらは一切なかったのだが、その理由に彼女はふと思い当る事があった。
「そっか……アタシが出来なかったようにお兄ちゃんも出来なかったんだわ」
次元世界の命運を賭けた決戦前夜。つまり、その心境を想像してティーダは敢えて連絡をしなかったのだ。すれば妹の気持ちを乱してしまうかもしれないと考えて。そうティアナは結論を出して小さく苦笑する。するとそんな彼女へクロスミラージュからサウンドメールを受信したと告げられた。
「サウンドメール? 一体誰よ?」
”お兄様です”
「……お兄ちゃん、か。クロスミラージュ、再生よろしく」
”かしこまりました”
微かな間の後聞こえ出すティーダの声。それは正直緊張しているものだった。ティアナを励まそうとしているのだが、どう聞いても逆に不安になるような言い方や内容。それに彼女は最初こそ苦笑していたのだが、段々と無言になっていく。
気が付けばその目元には涙が浮かんでいた。ティーダの不器用だが一生懸命に励まそうとしている様子を想像し、ティアナは胸が一杯になっていくのを感じていた。幼い頃から自分を育ててくれた親代わりの兄。その思い出が彼女の中へ溢れ出す。
―――もう、何よ。聞いてるだけでイライラしてくるじゃない……
泣き笑いの顔でそう呟くティアナ。その声は泣いているせいか掠れている。しかも最後には容量限界を忘れていたのか中途半端なところで終わったのだ。その瞬間、ティアナは思わず吹き出した。知らず抱えていただろう色々なものをそれと共に吐き出したのを感じながら。
「……あー、笑ったわ。クロスミラージュ、アタシもお返しにメール送るわ。文句の一つでも言ってやんないと」
”文章だけにしておきますか?”
「ううん、音せ―――やっぱそうして。後、口頭筆記よろしく」
”かしこまりました”
兄と同じ事になりかねないと思ったのかティアナはそう告げて返信内容を文章だけにした。その内容はメールの酷さへの文句と不満。そして一言だけの感謝。それを送り返し、ティアナは大きく背伸びした。これでぐっすり寝れそうだと強く確信して。
そこで彼女はふと視線を動かす。まだはやてと翔一が話しているのを確認しティアナは小さく告げた。
「ありがとうございます翔一さん、はやてさん。二人のおかげでアタシもお兄ちゃんと繋がってたって分かりました」
そう言って彼女は宿舎へと向かって歩き出す。明日に控えた最終決戦。それに対する不安などを微塵も感じない背中がそこにはあった。
「明日はここには襲撃はないと思うが、一応気をつけてくれ」
「はい。アインさんがいるので大丈夫ですし、ゼスト隊の方々も来て下さるので安心です」
宿舎内にあるはやて達八神家の部屋。そこでイクスはシグナムの言葉に笑顔でそう返した。今、ここにははやてと翔一を除く八神家が全員勢揃いしている。つまりザフィーラは狼状態だ。
「そうだ。それに万が一怪人の生き残りなどが来ても、イクスとヴィヴィオは私が守り切るから心配するな」
「お姉ちゃん、頼もしいです」
「でも、無理は程々にね」
ツヴァイの言葉に頷きながらもシャマルが軽い注意をする。ゆりかごを起動出来る手段を得た邪眼。それがもうヴィヴィオやイクスへ執着する事はないとは彼女も思っている。だが念には念をとの気持ちがシャマル以外にもあった。
「シャマルの言う通りだ。今日の事を忘れるな」
「それはそうだが……」
「これぐらいにしよーぜ。あたしらは邪眼共を倒して、アインはゼスト隊と一緒にイクス達と六課を守る。それだけでいいじゃねえか」
これ以上は変な雰囲気になりそうだと思ったヴィータが告げた言葉に誰もが理解を示し苦笑した。単純明快だからこそ、それが一番分かり易いと思って。そこからはある事について話し合う。それは、今ここにいない二人の事だ。
翔一を呼び出している事は全員が知っている。それがどういう事かを知っているから上手くいって欲しいと思っているのだ。しかし翔一の事を知る守護騎士達は不安が尽きないのもまた事実。
一番の敵は天然さだとシグナムが言えば、それにシャマルとリインが同意する。ヴィータは翔一が素直故に全てをありのまま受け止めている事を不安として告げ、ザフィーラがそれはありそうだと同調した。
しかし、ツヴァイがそんな五人へ不思議そうにこう呟いた。例え何があっても翔一は自分達の家族ではないのかと。それにイクスを除く全員が固まった。イクスは急に押し黙った五人を見てクスクスと笑い出す。
―――リインの言う通りかと思います。一番新参の私が言えた事ではないですが、八神家は何よりも心の繋がりで家族となるのですから。
その正論に誰もが恥ずかしそうな表情を見せる。ツヴァイはイクスと共に微笑み合っていた。八神家の末っ子であるツヴァイとイクス。それ故二人は一番八神家の愛情と絆を知っている。
時に母であり姉でもあるはやてと父であり兄である翔一。姉的立場だが時に失態を見せて周囲を和ませるシャマルと、男性顔負けの頼もしさを持つが反面やや不器用なシグナム。妹的立場と姉的立場を切り替えられるヴィータに、寡黙だがしっかりしているザフィーラ。そして誰に対しても慈愛を見せるリイン。その五人から様々な事を教えてもらい、また与えられてきたのだ。
「そうだな。お前達の言う通りだ。さて、ではそろそろ寝る準備をしなさい」
「はいです」
「分かりました」
リインの言葉に明るく返事をして二人は揃って洗面所へと向かっていく。その背を見送りながらシャマルが小さく微笑んだ。
「アインもすっかりお姉さんが板についたわね」
「ああ。見事なものだ」
「これぐらい誰にでも出来るようになる。まぁ、確かに多少の慣れはあるだろうがな」
リインはそう笑みと共に返して二人の後を追う。その少し後に聞こえてきたリインのツヴァイへの軽い注意。それにやや拗ねたように反論する彼女と苦笑するイクスの声にシグナム達は家族らしさを感じて小さく笑った。まだ八神家となって日が浅いイクスもちゃんと家族になっている事を改めて実感しながら。
そんな八神家とは違い、静かに過ごしている家族もいる。明かりを落として真っ暗な室内に聞こえる呼吸音。しかし、それは寝息ではない。ここはスバルとティアナの部屋。つまり今夜ここにいるのはナカジマ姉妹だ。
「……ギン姉、まだ起きてる?」
「……どうしたの?」
ティアナへは相談があると言ったスバルだったが実際は違った。珍しくスバルがギンガへ甘えたくなったのだ。今夜は一緒に寝て欲しいとそう思って。それにギンガは快く了承し現状へと至る。しかも二人はスバルが寝ている二段ベッドの上段で揃って横になっていて、尚且つその手は繋がれていた。
スバルがそうして欲しいと言い出したからなのだが、ギンガはそこから彼女が不安になっていると気付いている。その理由さえも既に把握済みで、自分の事ではなく明日六課を守る母親の事だと踏んでいたのだから。
「明日、母さんはここを守ってくれるんだよね」
「そうよ。通信でも凄い意気込んでたじゃない。六課の心配はせずに、邪眼を思いきり叩きのめして来なさいって」
やはりかと思いつつギンガは明るい口調でそう返した。そう、最終決戦を控えていたためか寝る前にクイントはゲンヤと共に通信を入れてきたのだ。それは想像も出来ない厳しい戦場へ行く娘達を励ますために。そして少しでもその緊張を和らげるためにだと彼女達は悟った。だから二人も笑顔で絶対に無事に帰ってくると言い切ったのだから。
「でも、残った怪人が全部ここへ来たら……」
「スバル……」
その言葉でギンガは妹の抱いていた不安を確信した。スバルはずっとそれだけが頭に渦巻いていたのだ。今日の戦いで残った怪人は少ない。だが、その能力はどれも厄介だった事を彼女は効いている。
それが本当に自分達へ向かってくるのならまだマシだ。何せ彼女達は何度も怪人戦は経験しているし、なのは達隊長陣も共に戦える状態なら負けはないと思えるのだから。しかし、隊舎を守るゼスト隊はそうはいかない。リインが残っているとはいえ六課に残された戦力はそれだけなのだ。
怪人が三体もいれば制圧されかねない程度の戦力。スバルはそれ故に不安だった。光太郎の予想により、怪人達は邪眼に忠誠を誓っているため隊舎を襲撃するよりもその護衛に回るはずと判断された。それでもスバルは不安が消えないのだ。
それを感じ取ったギンガは小さくため息を吐くとその体を軽く抱きしめる。その温もりにスバルは抑えていた何かが込み上げそうになっていた。細かに震える体。それを包み込むようにギンガの優しい声がその耳へ響く。
「スバルは嫌なのね。自分が母さん達と一緒に戦えない事や六課のみんなを守れない事が」
「……そう、なんだと思う」
その時、スバルは気付いた。ギンガの体も微かに震えている事に。思わず顔を上げるスバルが見たのは、初めて見るようなギンガの顔だった。
「私だって同じ気持ちよ。でも、だからって母さん達に加勢する訳にはいかない。邪眼を倒さない限り、この戦いは終わらないんだから」
「ギン姉……」
「明日が怖いのはみんな一緒。だから一生懸命戦うの。それに、母さん達を助けるには私達が少しでも早く邪眼を倒す事。……違う?」
ギンガの問いかけにスバルは肯定するために静かに首を振る。その目がもう不安を振り払ったと告げていた。それにギンガは嬉しそうに頷き返す。二人共に震えはもう治まっていた。だが、その手が離れる事はない。まるでそれが姉妹の絆を意味しているように強く結ばれている。
―――ありがとギン姉。明日、頑張ろうね。
―――ええ、それとありがとうは私もよ。おやすみスバル。
―――……おやすみ、ギン姉。
微笑み合って目を閉じる二人。そしてあまり時間もかからず眠りへ落ちた。その見る夢が同じなのか彼女達は揃って笑みを浮かべる。繋がれた手が二人の夢と心を結び、笑顔を作り出す。明日の戦いを生き残れるようにと……
「え? それ、どういう事だよ」
「だから、この戦いが終わったら、お前にはシグナムさんの手助けをして欲しいんだよ」
真司の言葉にアギトは言葉がない。ロードと決めた彼からの最後の頼みと言う切り出し方で始まった内容は要約すればそういう事だった。邪眼を倒した後は自分ではなくシグナムをロードとして生きてくれ。それを理解しアギトは複雑な気持ちを真司へぶつけた。
何故なのかと。真司の世界の事を少しでも聞いたアギトとしては当然この戦いが終わった後はその手助けをするつもりだった。しかし、真司はその彼女の気持ちは嬉しいと言った上でこう告げた。
―――俺の世界の戦いは、俺の世界の人の手で終わらせなきゃ駄目なんだ。
それに込められた覚悟が分からぬアギトではない。それは仮面ライダーとしての言葉。その名が人を影ながら守り続けてきた存在だったと知ったからこその宣言だと。だからアギトは何も言えなくなる。真司は優しくお調子者だ。だが、その心が一度決まったらもう動かない事も知っている。
故に気付いたのだ。もう自分では真司の心を動かす事が出来ない事を。ロードとして認めた真司。だからこそ、その気持ちを尊重したい。アギトはそう決意して流れる涙を拭い告げる。
「……分かった。でも、まだアタシのロードは真司だかんな!」
「ああ、分かってるって。だからさ、明日は頼りにさせてもらうからな!」
「おう、任せろ!」
笑顔を向け合う二人。烈火の炎が結んだ絆。それを明日は遺憾なく発揮する。そう誓い合い、アギトは真司へ尋ねた。ユニゾンはいつ使うのかと。それに真司はやや悩んだ。邪眼次第だが、下手をすると最初からそこまでしないといけない可能性もあると考えて。
故に出したのはその時次第だという答えだった。それにアギトが神妙な表情で頷いた。シャドームーンと同じ姿になったのが本体だとすると、残りも同じような姿をとる可能性がある事に気付いたのだ。となれば今までとは違った動きや力を発揮する。それは完全に出たとこ勝負になる要素が大きい。
しかも、邪眼が一番データを得ているのは龍騎。だからこそ一番邪眼が倒し易いと考えるのは真司だと予想出来る。アギトはそう結論付けて最後の確認をした。今まで以上に手強くなるだろう相手への手立てはあるのかと。
それに真司はしっかり頷き、自分を信じて欲しいと笑顔で告げる。ジェイルからそのための切り札をもらったと力強く言い切って。その頼もしさにアギトも笑みを返す。そして彼女は明日に備えてもう寝ると告げてトーレ達の部屋に戻って行った。それをしばらく見送って、真司はある事を思い出していた。
(もしかしたら、邪眼の奴は……)
頭に浮かぶある予想。それが何故かずっと頭を離れないのだ。彼のデータが一番邪眼に収集されている事から想像した推測。もしそれが合っているとしたら、邪眼が何故ライダーのデータを得ようとしていたのかが納得出来るのだから。
だが、どこかでその予想が外れて欲しいと彼は思っている。それが当たれば自分が一番恐れている状況になるからだ。だが、それでも戦う事を止めたりはしない。そう真司は自分へ言い聞かせるように呟く。
―――明日で全部終わらせてやる……
これまで見てきた悪夢を終わらせるためにも絶対負けられない。そう強く決意して彼もベッドへと向かう。その頃、休憩室で五代とジェイルが話していた。消灯時間も迫っており、普通ならばゆっくり話していられないのだがこの二人は違った。
「榎田さん、ねぇ」
「はい。きっとジェイルさんと話が合うと思いますよ」
五代の告げた名前を復唱してジェイルは腕を組んだ。ここに彼らがいる理由は実は同じようなものだった。ジェイルは色々と思う事があって寝れなかったため、少し気分展開に飲み物でもとここへ来た。すると五代が先に休憩室にいたのだ。そこで彼はジェイルの話を聞いて「そうなりますよね」と嬉しそうに笑ったのだから。
「私としてはむしろクウガやゴウラムを生み出した古代の方に興味があるね。えっと、そっちに詳しいのはさく……?」
「桜子さんです。沢渡桜子。俺の大っ…………切な、仲間の一人です!」
ジェイルはそんな五代の言葉に苦笑。今、彼は平行世界への手がかりにでもなればと思って五代の世界の話を聞いていた。未確認の事ではなくクウガやゴウラムなどの事を中心に。そこで五代が嬉しそうに話したのがクウガの戦いを支えた者達との話だ。
ジェイルはその話を聞いて、五代が以前も六課のような存在と共に戦っていた事を知り納得していた。何故五代がここまで六課の中心にいるのか。未確認対策本部の者達のように、知らず誰もが五代を支えようとしていたのかもしれないと、そう結論付けたのだ。
「そうか。で、その桜子さんならある程度はクウガの事を知っているんだね?」
「はい。もしかすると今は碑文の解読も終わってるかもしれないし、もっと色々分かってるかもしれないです」
「ふむ……例えば?」
「そうですねぇ……実はゴウラムがみんなに聞こえるように話す事が出来るとか」
「アクロバッターじゃないんだよ? まぁ、確かにそうなっても不思議はないから笑えないんだが」
五代の言葉にジェイルは苦笑気味に言葉を返す。バトルジャケットやAMFCにかかりきりで調べる事は叶わなかったが、彼からすればライダーマシンも調べてみたかったのだ。だがその時間が確保出来るはずもなく、精々がシャーリーがビートチェイサーを改造する際に得たデータぐらい。
それでもかなり興味深い物ではあったのだが、それをジェイルが五代に話したために余計榎田と話が合うと思われた。特に榎田とジェイルは似ている部分があると五代は感じていたのだ。仕事に集中するとすぐに周りを気にしなくなるのがその一番の原因。
「ですよね。いっそゴウラムが何て言ってるかを分析してもらえたらなぁ」
「アクロバッターが通訳をすれば不可能じゃないね。もっとも、それはかなり面倒な作業になりそうだ」
「あ〜、俺が聞いた声を文字に起こしてアクロバッターの翻訳を聞いて、ですもんね」
「一覧表を作るのに最低でも半年は見た方がいいだろうが、仮に出来ても意味がないように感じるのは私だけかな?」
「あ、気付きました? 実は俺も別にそこまでしなくてもいいような気がしてました」
そこで二人は揃って笑い出した。そんな和やかな雰囲気だが話が切れるタイミングというのは必ずやってくる。そこでジェイルは五代に聞いてみたい事があった事を思い出し、尋ねる事にした。
―――ところで、君は元居た世界とこの世界とが行き来出来る手段があるとしたらどうする?
それに五代は軽い驚きを見せる。だが、すぐに真剣な表情で考え込み始めた。ジェイルはその間、何も言わずにそれを見つめた。五代は彼の告げた言葉の意味を噛み締めるように考えていた。もしそれが本当にあるのなら純粋に嬉しい。だが、とも思うのだ。
それが制御出来るものではなく自分のように突発的にしか出来ないものだとすれば問題だ。それに仮に制御出来るとしてもいつ問題を起こすか分からない。五代は様々な可能性を考えて自分の答えを出して頷いた。
「答えは出たみたいだね」
「はい。俺は……簡単にそれを使って欲しくないですね」
「簡単に? どういう意味か、もし良ければ理由を聞かせて欲しい」
「……俺、こう考えたんです。確かになのはちゃん達をおやっさん達に会わせてあげたいし、榎田さんとジェイルさんがみんなの笑顔に繋がるような物を作ってくれるとかありそうだと思ったんですよ。きっとすごい楽しくて嬉しい事が一杯ある。でも、それってホントにいい事だけなのかなって」
五代は自分がどうしてここへ来たのかを思い出して語った。神のような存在が導いた。だとすれば、それは本当ならあってはいけない出来事ではないのかと。交わるはずのない者達が出会う事は、本来ならば有り得ない事。つまり奇跡。それを人為的に成し遂げようとすれば、どんな恐ろしい事が起きるか分からない。そう告げて、五代はこう締め括る。
―――でも、安全に出来ないとかなんて思わないし、ジェイルさん達ならそれをやってくれる気がします。だから、俺、信じて待ってます!
―――ハハッ、真司も大概だが君もかなりだね。分かった。君達が心配する事が起きないレベルになるまで安易に使わないと約束するよ。
五代の笑顔でのサムズアップを見て、ジェイルは少し呆れながらも嬉しそうにそう返した。その手はサムズアップを形作っている。五代もそれに頷くようにサムズアップを少しだけ前に押し出した。ジェイルもそれに苦笑して頷く。
そして互いに立ち上がり部屋へ戻るために動き出す。歩きながら軽く明日の事を話す二人。ジェイルが勝利を願っておくと告げると、五代は嬉しそうにありがとうございますと返す。そんな風に夜は過ぎる。その翌朝、彼らを待っていたのはミッド上空を浮遊する巨大な存在を映し出すモニターだった。
広い空間。そこにただ一つ玉座のような物がある。そこに一人の女性が座っていた。ヴィヴィオと同じ髪の色で同じ瞳。だが、背丈が違う。成人女性と呼んでもおかしくない身長だったのだ。女性は自身の前に立つ存在へ楽しそうに告げる。
「パパ、いつでも攻撃開始出来るよ」
「そうか。ならば、いいと言うまで待機しろ。もうすぐここへ来るだろう客人に備えねばならんからな」
「うん」
笑みさえ浮かべて女性は頷く。それを聞きながら邪眼は通信を行うためにモニターを出現させた。それはウーノのISと同じ能力。モニターに映るは五つの存在。形だけならば仮面ライダーに見えるそれらは、全て邪眼の分身だ。
しかし内四体は究極体でさえない。一体だけ究極体がそこには映っている。邪眼はそれを見て小さく頷くと告げた。仮面ライダーと全ての人間に絶望を与える時が来たと。それに五体が揃って頷くとこう返した。
―――全ては創世王になるために……
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次回から最終決戦開始。原作と同じく空と陸に分かれての戦いです。
もう数話でこの拙作も終わりますので出来ればそれまでお付き合いください。
説明 | ||
邪眼の見せた姿から始まる一つの戦士の物語。その内容はライダー達の中でも厳しく悲しい戦いの記憶。 それぞれが迎える最終決戦前夜。おそらくこの六課として迎える最後の夜になると、そう思いながら過ごす者がいる。そうとは知らず過ごす者がいる。彼らはそれぞれの時間と過ごし方で明日への気持ちを固めるのだった。 |
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