出会い |
「・・・うっ・・・・うっ・・・・・・」
スパーダが小学校から帰ろうと思って下駄箱に向かって歩いていたとき、銀髪の少年が校舎の壁の人目のつかないところで、一人ひざをかかえてうずくまって泣いていた。
スパーダは、最初はそのまま通り過ぎようと思った。だが、「一人でいるところ」や、「人目につかないように泣いていること」が気になってしまった。
スパーダ・ベルフォルマは、まだ小学5年生であったが、ケンカが強く、周りから恐れられていた
―――だが、必ずしも「強者」というわけではなかった。
ベルフォルマ家は昔ながらの名家であり、スパーダは、そこの七人兄弟の末っ子として生まれた。
家の中でのスパーダの立場は、決してよいというものではなかった。
スパーダは末っ子であるが、兄弟の中で最も優秀であり、そして、末っ子であるがために、その優秀さを兄たちに妬まれ、両親からは疎んじられていた――そして、使用人たちも自分たちの主と同様に、スパーダを疎んじていた。
―――スパーダのことを、ちゃんと見ようとする者はいなかった。
だから、「一人でいること」が多かったし、泣きたいときだって「人目のつかないところで泣く」ことが多かった。
そのため、今一人で泣いている少年のことが放っておけなかった。
(「・・・声ぐらい、かけてやるかぁ・・・」)
スパーダは、つかつかとその少年のところまで歩く。
「・・・なあ、何泣いてんだ?」
「・・・・・・!!」
少年がひどく驚いた様子で、顔を上げスパーダを見る。
「っ・・・・・・・・・」
驚きのあまり、その少年は声を発することができなかったようだ。
スパーダは、どうしたものかと、頭をガシガシとかく。
「あ〜・・・なんで、泣いてんだ・・・?」
少年はためらいがちにスパーダを見て言う。
「あの、・・・その・・・・・・ちょっとクラスの子に・・・」
そこまで聞いてスパーダは――
(「あー・・・そうか・・・」)
「・・・いじめられたのか」
スパーダからしたら、思ったことを呟いただけだった。
けど、その少年からしたら、それだけではなかった。
少年は顔だけでなく、耳まで真っ赤にして、大きな翡翠の目を涙で潤ませて、またうつむいてしまった。
スパーダは、自分の言ったことがまずかったことに気づいたようで、慌てて少年に声をかける。
「あっ、・・・いや・・・悪い!!」
スパーダは、さっきとは違う感情で、どうしたものかと思い、少年をなだめる。
――しかし、スパーダが必死に少年をなだめていても、少年は一向にうつむいたままだった。
「そんなやつらのことなんて、気にするなよ・・・」
もうどうしていいのか分からず、スパーダは苦笑いでそう言いながら、少年の頭を撫でる。
すると、少年は涙で潤んだ目を少し上げて、スパーダを見た。
「・・・・・・うん・・・」
少年はスパーダに頭をなでられたまま、目をごしごしとぬぐう。
スパーダは少しだけほっとした。
――そして、この少年を少し羨ましく思った。
――こんなことでは、自分は生きてこれなかった―――
日常的に向けられる、兄たちからの妬み、両親の苛立ち、使用人たちからの嘲笑――時には、感情だけでなく、それが形となってスパーダに向けられた。そのためにケガを負わされたことは一度や二度ではない。
スパーダはそんな家の中を、独りで生き抜いてきた。
やられたからといって、その度に泣いていたんじゃ、あの家では暮らしていけなかった。
それは、スパーダの「強み」でもあり、「弱み」でもあった。
一人でも、立ち向かえるという「強み」
一人でいいと思い、他人に心を閉ざしてしまうという「弱み」
だからと言って、スパーダはこのことをどうにかしようとは思っていない。
あの家で生きていくには、必要なことだから。
だからこそ、少年が心のままに泣いていることが羨ましかった。
それから少し経って、少年は落ち着いてきたようで、顔を上げ、涙で腫れているものの、その翡翠色の瞳でスパーダをしっかりと見た。
その様子にスパーダは、もう大丈夫だ、と思い、そこから離れようとした。
「じゃあな」
「あっ、・・・あの・・・!」
少年が何か言いたげに、スパーダを見る。
「・・・?」
スパーダが、どうしたんだ、と思って少年を見ると―――
「あの・・・・・・ありがとう」
――少年は、頬を赤らめながら、本当に嬉しそうに、スパーダに微笑んだ。
「――――!」
スパーダは、鼓動が大きく跳ねたのを感じた。
なんだかむずがゆくて、恥ずかしくて、でも――――――――――
―――――――嬉しくて
今まで感じたことのなかったものだった。
スパーダは、顔を赤くして、小走りでその場を離れていった。
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TOI-Rの現代パロの1話目です。 | ||
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