魏エンドアフター〜求メタ声〜
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愛紗と鈴々の号令と共に左翼部隊が突進をはじめた。

敵の前衛とぶつかるまで俺達の部隊は流れに任せる。

突撃していった全員が愛紗達の戦訓に習い、三人ひと組で突進していく。

前衛が敵軍と接触し、怒号と共に戦闘が始まる。

先頭の愛紗が敵陣に突進、食い込んでいき──

 

凪「遊撃部隊!左翼から離脱!

  回り込んで横撃を仕掛けるぞ!続けッ!」

 

凪の号令と共に左翼を離脱、そのまま敵の横に回り込むも、

愛紗の迫力と強さに気を取られ敵は気づいていない。

やはり雑軍、周りを監視するものも居なければ伝令も指揮系統もあったもんじゃない。

これが相手が正規兵だったら間違いなく潰されるだろう。

 

凪「はあああーーーーーッ!!!」

 

手足に気弾を溜め、それを全て撃ち放つと同時に

 

凪「吶喊ッ!」

 

着弾するよりも早く号令を出し、敵陣に向い突進していく。

凪の放った気弾が着弾し、それと同時になだれ込む。

横からの気弾により敵陣の表面が吹き飛び、そこへさらに遊撃部隊の攻撃。

賊も慌てて対応しようとこちらに向き直るがそこにもう遊撃部隊はいない。

 

凪「引け!引けぇぇ!!」

 

そしてやはりというべきか、

少数のこの部隊をつぶしにかかろうとする敵の部隊が釣られる。

こちらに釣られ向かってきた賊に向き直り、

凪の拳から放たれる氣弾。

 

凪「転身!突っ込め!!」

 

突っ込んできた勢いと共に前衛にもろに氣弾が入り、釣られていた部隊が崩れる。

そこへ続く遊撃部隊。

こちらがいかに少数と言えど前衛が崩れ、

指揮するものがいない部隊にはそれだけで壊滅を意味した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白蓮「うわぁ……なんだあれ」

 

凪の率いる遊撃部隊の動きを遠目で見ていた白蓮が

感心を通り越して呆れともとれる声を漏らす。

それはそうだろう。

今日、初めて自分の兵を貸したにも関わらず、

いかに少数とはいえあそこまで自由自在に部隊を操り

さらには特大の気弾、面白いように沈んでいく敵部隊、

そして当たり前かのように次の場所へ向かっている遊撃部隊。

あれだけ激しく部隊を動かしているのに兵の動きに疲れが見えない。

その理由は見ればわかる。

なにせ気弾で崩れ、無防備になったところへ容赦なく吶喊しているのだから

相手の抵抗も微微たるものだろう。

少数でひと当て、そして徐々に引き、敵を釣り、殲滅。

生半可な腕ではすぐに返り討ちになるであろう方法を当たり前のようにこなしている。

それも数が足らず、正規兵ではない、

義勇兵が固まり、押され気味の場所を的確に狙い、押し返している。

さらには遊撃部隊の一方的な攻撃に痺れを切らし、

敵の弓兵部隊が総攻撃を仕掛けるも、それも一刀と凪に叩き落とされるのだ。

 

 

白蓮「……これ、数日とかからないんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

星「はっはは、なんと出鱈目な強さだ。

  個人の武だけでなく、将としての才も抜きん出ているとは」

 

別部隊を率いている星にも遊撃部隊の動きが届き、感嘆の声を挙げる。

 

星「趙雲隊!我らも負けてはおれんぞ!

  相手は寄せ集めの雑兵だ!恐れるな!存分に功名を立てぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗「よし!敵は総崩れだ!

   今こそ我らの力を見せつける時!」

 

愛紗の励ましにより、左翼部隊が戦線を崩壊した盗賊団に立ち向かっていく。

その流れを読むかのように、星、白蓮の部隊も敵の本隊に向い突撃を開始する。

 

一刀「敵が崩れた!愛紗達に合流するぞ!」

 

凪「はッ!これより我らは左翼へ合流する!遅れるな!」

 

凪が号令を出し、総崩れとなった敵へ突進していく左翼へと合流するために歩をすすめる。

 

一刀「はぁ、はぁ……!」

 

息が切れる。

疲れもあるが一番大きな原因が心にある事は自分でわかっていた。

俺がいくら強くなれたから、城での襲撃に対し応戦したからと言ってもこれだけは慣れない。

人を殺す。

多分、これから先、どこまで行こうとも俺がそれに慣れる事はないだろう。

決して相手に同情している訳じゃない。

こいつらだって、人を殺し、奪い、それを笑って済ませるような奴らなんだから。

人の悲しみなんて理解しようともしない蛮族なのだから。

だけどやっぱり俺は、周りが天の御使いだとはやし立てても、

やっぱり俺は庶民だから。

 

凪「……隊長、大丈夫ですか?」

 

俺の様子を心配してか、隣に居た凪が気遣ってくれる。

軍隊での戦闘はやはり、どうしても”戦争”というものを感じてしまう。

どうしても全身で漠然とした恐怖を感じてしまう。

だけど皆頑張ってるんだ。

平和な明日を手に入れるために頑張ってるんだ。

だから俺だけ弱音を吐く事なんて出来ない。

俺はずっと華琳達の背中に守ってもらうだけだったから。

だからこの世界では華琳達がいなくても、

せめて人の前に立てるようになりたい。

 

 

一刀「大丈夫、あと少しで敵を殲滅出来るんだ。

   もう一息、頑張ろう」

 

 

こうして、愛紗達や凪の活躍もあり、公孫賛軍は完全なる勝利を収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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華琳side

 

冥琳「…………」

 

恋「…………」

 

華佗「よし、今日も検診始めるぞ」

 

冥琳「あ、ああ」

 

恋「…………」

 

どれくらいこうしているだろう。

この城で大事を取ることになった私が目を覚ましてからというもの、

毎日のように恋が来る。

来てくれるのは一向に構わない、構わないが……

 

恋「…………」

 

冥琳「…………」

 

ずっとこうして無言で見つめるのはなんというかやめてほしい。

雪蓮はと言えば、

初めてこの状況を見たときは必死に笑いを堪え、黙って部屋の外へ出ていった。

今は華佗がいるが、検診が終わり帰った後、

私は延々と見つめられ続けるのだ。

とりあえずなぜそんなに私を見つめるのか理由が知りたい。

 

冥琳「……なぁ恋」

 

恋「……?」

 

冥琳「どうしてそんなに私を見つめるんだ?

   私の顔がそんなに珍しいか?」

 

恋「……(フルフル)」

 

否定。

そもそもこの娘はいつこちらに来たのだろうか。

確かあの大会が終わってから無理にでも愛紗に連れ帰られた記憶があるが。

……まぁ城へ襲撃があってからというもの、ほぼ全武将がこの城に居る訳だが。

 

冥琳「ならばなぜだ?

   何か気になることがあるのなら言ってくれないとわからんぞ」

 

恋「……気配がする」

 

冥琳「……気配?」

 

恋「一刀の気配」

 

北郷の気配?

……言葉足らずでいまいち要領がつかめない。

 

華佗「あぁ何だ、周瑜から北郷の気配がするというのはあながち間違いではないぞ?」

 

検診をしていた華蛇が手を休めずに言う。

 

華佗「今の周瑜の体内には北郷の氣がかなり混ざっているからな。

   普通、他者の氣がそこまで体内に入るなんて事はありえないんだが」

 

冥琳「北郷の……」

 

華佗「まぁ他人の病魔を自分に移すなんて事自体普通はできないんだがな。

   俺も長年医者をやっているがこんな経験は初めてだ」

 

そう、私は北郷に救われた。

私が目を覚ました時、既に事は終わっていたようで、

私の寝ている寝台のすぐ横で眠る雪蓮が目に入った。

私が起きた気配で目を覚ました雪蓮に説明を聞き、事の次第を知った。

私の病気は症状が出てきた時には既に体の半分を蝕んでおり、

もう治療の余地はないと宣言された。

雪蓮を残して逝く事が心許なかったが、

三国が平定し、あとは平和を目指すだけという事もあり、私はどこか諦めていた。

もちろん雪蓮や呉の皆とその平和をこの目で見れないということは残念だが、

私は私の役目を果たしきったのだと思った。

そして北郷と言葉を交わし、彼の人柄を知り、

雪蓮が惚れた男ということで雪蓮を任せる事ができると思った。

だが彼は必死に、只必死に私を生かそうとしたのだという。

天の国から帰ってきて、華琳達との日々を取り戻し、

これから少しずつ幸せを掴んでいけたはずなのに。

数日間のほんのひと時、言葉を交わしただけの私を、

その身を削り必死に助けてくれたのだという。

 

冥琳「悪い事を……してしまったな」

 

私が発作を起こし、雪蓮と言葉を交わし、気を失った後の事はわからない。

しかし漠然と、頭に直接響くような想いを感じた気がする。

”生きろ”と。

あれは北郷が私に向けた想いなのだろうか。

 

華佗「ま、周瑜が責任を感じる事じゃない。

   卑弥呼達が言うに今回は前ほど悲観する状況ではないようだし、

   何より謝罪の言葉よりも感謝の言葉を言うべきだ」

 

冥琳「……そうだな」

 

華佗「よし、経過も順調だし、これならもうすぐ完治を言い渡しても大丈夫そうだな」

 

ちなみに雪蓮は今警邏に出ている。

もちろんこれは雪蓮の仕事ではないが、自ら手伝うと言いだしたのだ。

雪蓮の事を長年見てきたものならばこれは夢か、

何か悪いものでも食べたのではないかと疑いたくなるが事実だ。

これも雪蓮から聞き出した話だが、雪蓮は北郷に泣きついたらしい。

何も出来ない自分が悔しい、武しか取り柄のない自分が憎いと涙を見せたらしい。

そのせいで北郷を巻き込んだと思っているのだろう。

優しい彼が、そんな雪蓮の涙を目の当たりにして放っておけるはずがないのだから。

私もいつまでも寝ている訳にはいかない。

少しでもこの国の役に立たなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「……そう」

 

玉座の間。

そこで華琳は秋欄から偵察の報告を聞いていた。

数日前に入ってきた情報、

国境付近であの白装束らしき部隊を目撃したこと。

それと共に五胡の凶族もいたこと。

その情報を確かめるために秋欄に偵察に向かわせたのだが

有力な情報は得られなかった。

 

華琳「ご苦労様、下がりなさい」

 

秋欄「は」

 

…………。

何かが起ころうとしているのか。

白装束はあの時、ほぼ壊滅状態に陥ったはず。

あそこから再起するのは不可能だと言えるだろう。

しかし相手は妖術を使う。

常識で考えてはいけないのかもしれない。

私がこうして白装束の動向を探っているのには訳がある。

貂蝉が一刀達の落ちた外史を探しに行く前に私に言ったのだ。

一刀を移す道を作ったことで、通り道ができてしまった。

そこから別の外史の管理者がここへ攻め込んでくるかもしれない、と。

外史を逸脱したこの世界は放っておけば正史に影響を出すかもしれない、

という理由で管理者とやらはこの世界を消し去りに来る、と。

にわかには信じられない。

当たり前だ。

世界を滅ぼすと言っているのだから。

バカバカしいとは思うが、また城を襲撃されてはたまったものではない。

詳しくはわからないが白装束は明花を狙っていたという。

あの子の特別な力とやらに関係があるのかはわからないが、

何があろうとあの子を渡すつもりはない。

今は一刀を除けば一番懐いている星に任せているが、

あの子も心中穏やかではないはずだ。

 

華琳「全く、次から次へと……」

 

なにごともなければそれでいい。

だけどそれは叶わぬ願いである、と思ってしまう。

今のこの平和な日々は、嵐の前の静けさであると思えてしまうのだ。

 

華琳「さっさと帰ってきなさいよ……バカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一刀side

 

盗賊退治が終わった後、俺たちは公孫賛の元に留まっていた。

その間も盗賊討伐は続き、

愛紗や鈴々達の事を知らない者はいない、というほどの活躍をした。

凪はといえば、

あの大掛かりな盗賊団討伐の時の見事な働きにより目立ってしまった為、

愛紗達の武名に隠れるように活動していた。

しかしそれでも大陸の様子は徐々におかしくなっていく。

匪賊の横行、大飢饉、疫病。

一般の人たちも暴力に怯え、

その日食べるものにも困り、病に倒れる。

暴力、暴乱。

負の連鎖は止まる事を知らず、大陸は混沌とした空気に満たされる。

こんな乱世を二度も体験することになるとは思わなかった。

一度華琳たちと大願を遂げた事もあり、

正直この状況には結構参っていた。

そしてそんな毎日を送っている時、白蓮から玉座の間へ呼び出された。

朝廷からの命令により、黄巾党を討伐せよとの指令が来たらしい。

そしてそれは桃香達にとってチャンスであると。

ここで手柄を立てれば朝廷から恩賞を賜る事になる。

そしてそれなりの地位を獲得できるだろうということだ。

愛紗や鈴々、凪の活躍を間近で見ていた白蓮はそれを確信しているようだった。

そして俺たちはその話に乗った。

地位を得られればより多くの人たちを救えると桃香が判断したからだ。

しかし俺達には何より手勢がない。

恋じゃあるまいし、一人で三万人を殲滅するなんて芸当ができるはずもない。

ならばどうするか、ということで星が白蓮を説得してくれた。

白蓮は若干渋っていたようだが最終的には許可してくれた。

やっぱりこの子は人が良いと思う。

そんなこんなで一週間が過ぎ、すべての準備を整えた。

集まった義勇兵を率いて出陣の時を迎えていた。

さぁ行くぞという時に少女二人が声をかけてきた。

見覚えがある。

宴会や大会の時に何度が見た顔だ。

諸葛亮に鳳統。

聞けば、大陸を包んでいる危険な状況を

見るに見かねて私塾を飛び出して来たのだとか。

そして俺達が義勇兵を募っているという情報を元にここへやってきたという。

桃香や愛紗たちはこの子達の幼い外見から

戦列に加えることに躊躇いがあったようだが俺はそうじゃない。

知っているから。

この子達の智謀を。

蜀軍に来るということを。

桃香達も渋々頷いてくれた。

 

桃香「私はね!劉備元徳!真名は桃香だよ!

   これからは桃香って呼んでね♪」

 

鈴々「鈴々は張飛って言って、鈴々は真名なのだ。

   呼びたければ呼んでも良いぞー」

 

愛紗「我が名は関羽。

   真名は愛紗という。よろしく頼む」

 

凪「楽獅と申します」

 

一刀「俺は──」

 

桃香「この人は北郷一刀さん!

   天の御遣い様で私達のご主人様なんだよ♪」

 

一刀「違うよ!」

 

何度言っても俺のご主人様という位置が覆らない。

だんだんと外堀を埋められている気がしないでもない。

そして黄巾党討伐。

相手の数はこちらの二倍程度という事でかなり不利な状況だったが、

朱里と雛里のおかげで勝利を納める事ができた。

官の暴力に怯えていた農民が武器を取り立ち上がったのが黄巾党ならば、

それを殲滅しようとするのも黄巾党の暴力に怯えていた農民達。

強欲によって生み出される負の連鎖。

只一人の傲慢な欲が憎しみを生み、争いを生む。

目の前で繰り広げられる暴力に、言いようのない吐き気が襲う。

怒り、悲しみ、恐怖。

狂気の時代を二度も体験するのは、それなりに俺の精神を蝕んだと思う。

それに耐えることができたのは桃香達が居てくれるのはもちろん、

何よりも凪が傍に居てくれたからだ。

俺が弱音や愚痴をこぼしても、励ましてくれた。

そして黄巾党を追い払った後、放置された陣地へと侵入し──

 

 

 

 

そこで、出会った。

 

 

 

 

「申し上げます!陣地の南方に官軍らしき軍団が現れ、

 我らの部隊の指揮官にお会いしたいと──」

 

 

 

 

会いたくてたまらない少女と

 

 

 

 

「官軍が使用する旗を用いず、曹と書かれた旗を掲げているのです」

 

 

 

 

会いたくない世界で、出会ってしまった。

 

 

 

 

「誇りとは、天へと示す己の存在意義。

 誇りなき人物は、たとえそれが有能な者であれ、人としては下品の下品。

 そのような下郎は我が覇道には必要なし。

 ……そういう事よ」

 

桃香達の話に割って入った声。

俺が求めてやまない声。

だけど、この世界で求めてはいけない声。

 

一刀「…………」

 

凪「隊長……」

 

泣きたかった。

心が折れそうになった。

その声を聞くだけで、

俺の中で別の世界にいる彼女への想いは膨大になった。

自分でもわかるほどに、情けない顔をしていたと思う。

桃香達が何かを話しているようだったが、

それも頭に入ってこなかった。

 

曹操「改めて名乗りましょう。

   我が名は曹操。

   官軍に請われ、黄巾党を征伐するために軍を率いて転戦している人間よ」

 

たとえ世界が違っても、やっぱり華琳は華琳だから。

 

桃香「こ、こんにちは。

   私は劉備って言います」

 

どうしても、心が求めてしまうのだ。

 

曹操「劉備。

   ……いい名ね。

   あなたがこの軍を率いていたの?」

 

桃香「それはその……私が率いていたんじゃなくて、

   ご主人様が──」

 

曹操「ご主人様ぁ?」

 

桃香のような美少女が男の俺に仕えているのが気に食わないのだろう、

不機嫌そうな声を挙げる。

俺を知らない華琳ならば当たり前の反応であるだろう事さえ、辛かった。

 

一刀「……初めまして、北郷一刀です。

   宜しく」

 

どうしても声のトーンが落ちてしまう。

 

桃香「……ご主人様?」

 

俺の様子が変な事に気づいてか、桃香が心配そうな目で見る。

 

曹操「北郷一刀。

   ……聞いたことのある名前ね」

 

桃香「あ、えっと……」

 

一刀「残念ながら俺はこの子達の主人ではないよ。

   あくまでも補佐役だから」

 

ちゃんと普通に喋れているだろうか。

 

曹操「なるほど。

   ならばこの軍の真の統率者は、やはり劉備という事で良いのね」

 

一刀「それで間違いない」

 

そこで華琳の視線は劉備に移り、そのまま話を続けた。

俺はもうここに居る必要もないだろう。

 

一刀「申し訳ないけど、やる事があるから俺はこれで」

 

桃香「あ……」

 

桃香が何か言いたそうにしていたが、それを聞いてやることはできなかった。

一秒でも早くこの場から離れなければ、俺の心が折れてしまいそうだったから。

 

凪「失礼します」

 

曹操「…………」

 

俺の隣に居た凪も少し遅れて後をついてくる。

心配してくれたのだろう。

もう何度迷惑を掛けたかわからない。

足早にその場から離れ、誰もいない物陰へと向かう。

胸がぎゅっと苦しくなり、不安な気持ちがこみ上げてくる。

華琳を挟むようにして立っていた春欄と秋欄も、当たり前だが俺の事など知らない。

目の前に愛しい人がいるのに、手を伸ばしてはいけないということが、

俺の精神を容赦なく削り取っていく。

それは時間が経つに連れて大きくなっていくと思う。

 

きついなぁ……。

 

凪「隊長、大丈夫ですか……?」

 

適当な場所に腰掛けている俺の横に座り、心配そうな顔で覗き込んでくる。

 

一刀「うん、大丈夫。落ち着いてきたよ」

 

凪の手をぎゅっと握り、なんとか心を落ち着ける。

 

一刀「ちょっと不意打ちだったからさ。

   びっくりしちゃって」

 

俺が握った手を、凪も握り返してくれる。

 

一刀「凪が居てくれてよかったよ」

 

もし俺一人だったら、本当にダメになっていたかもしれない。

凪が傍に居てくれるだけで、俺の心は凄く救われているから。

 

一刀「ありがとう」

 

凪「お礼なんて言わないでください。

  当然のことです、私は貴方を支えると決めたのですから」

 

一刀「ああ……それでも、ありがとう、だよ」

 

凪を抱きしめる。

本当に、凪には感謝してもしきれない。

 

一刀「弱音吐いてる場合じゃないよな。

   頑張らないと」

 

凪の頭を撫でそっと離れる。

その後、華琳が桃香の目指すものを問いかけ、

それに応えると自分に協力しろと申し出た。

誰から見ても弱小である俺達にとってその申し出は嬉しいものだった。

華琳の目的がどうであれ、

今は力のある者と協力することが最善の道だと思うから。

まぁ、華琳のことだから

自分の覇道を飾るに相応しい好敵手を育てようとかそんなところだと思うけど。

 

迎えた黄巾党との決戦。

幸いな事に、これから相手にするのは相手の中心部隊となる訳だが数はさほど多くない。

天和達三人が不在だからとのこと。

そして兵力を極力減らさずに

相手に痛撃を与えるということで相手の補給を断つ作戦が上がった。

いけるかのように思った矢先、魏の伝令から伝えられる俺達の先陣。

間違いなく囮なんだろうが多少の不安は否めない。

華琳の部隊ならそつなくこなしてくれるんだろうけど。

そしてやはりというべきか流石というべきか、作戦は成功。

その証拠とでも言うように黄巾党の陣地から黒煙が上がる。

 

一刀「今がチャンスか。

   伝令!全軍突撃命令!総攻撃を掛ける!」

 

「御意!」

 

前曲と本陣の部隊が慌ただしく動き、怯んでいる敵部隊へ突撃を掛ける。

 

一刀「俺達の部隊は本陣合流後、

   後曲前衛はそのまま桃香の指揮に入って追撃を行う!

   後衛は桃香を守る方形陣を構築する!」

 

その後、踏ん張っていた一部の黄巾党も、

春欄、秋欄の部隊の突進により総崩れになり壊滅。

俺達は見事勝利を収めた。

半年という長い時間を掛け、黄巾党との戦いもようやく終わりを告げた。

その間も華琳達と共に行動していたが

俺は極力会うことを避けていた。

幸い、華琳も活躍を見せていた愛紗や鈴々、

それを指揮する桃香にしか興味はなかったらしく、

こちらにコンタクトを取ってくることもなかった。

そして乱鎮圧の恩賞として

平原の相に任命された俺達は街の警邏をしている時に城への訪問者。

星が桃香を訪ねてきた。

俺達と分かれてから放浪を続け、

大陸を見て回った結果、桃香に仕える事に決めたらしい。

 

桃香「一緒に戦おう星ちゃん!

   みんなが笑顔を浮かべて、平和に暮らせるその日のために!」

 

星を仲間に加え、内政に勤しんでいる頃、

この大陸の運命を変える大きな出来事が起こった。

漢の皇帝、霊帝の死。

そして見るに耐えない血で血を洗う権力闘争。

そこから話はどんどん膨れがあり、あの反董卓連合が結成される。

 

 

 

 

 

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桃香「ほわー……たくさん兵隊さんがいるねぇ〜」

 

朱里「さすが諸侯連合、といったところでしょうか。

   こうやって一同に会すると壮観ですね」

 

桃香達はこの連合についての話をしているようだったが俺は別のことを考えていた。

……ここに、霞達が。

俺は彼女達に、刃を向けてしまうのか。

絶望にも似た感情が襲いかかってくる。

でも逃げるわけにはいかない。

それに前の世界の通りならば霞は華琳達のもとへ行くはずだ。

無理矢理自分を納得させ、落ち着かせる。

そしてやはり起こる会議での問題。

総大将が決まらない。

どこの世界でもやはり面倒事は御免だという人が大半のようで。

当の俺はと言えばどうせ袁紹がやることになっているのだからどうでもよかった。

そんな中始まる袁紹の自己主張。

自画自賛。

本人はどうしても推薦という形で指名されたいらしい。

という訳で華琳達の適当な賛辞により総大将が決定。

他の人たちも何でもいいから早くしてくれと言わんばかりの雰囲気だった。

しかし俺は失念していた。

前の世界では華琳のところに居たから他人事だったがこちらでは当事者になるということを。

 

袁紹「連合軍の先頭で勇敢に戦って頂ければ良いのです。

   あ、もちろんその後ろには袁家の軍勢が──」

 

つまり、先陣に立てということである。

そして断れば俺達を攻めるだろう。

という訳でこの話は同意を求められてはいるが実質強制的な命令である。

しかし相手は袁紹。

話の節々にどうぞ突っ込んでくださいと言わんばかりの隙がある。

この世界でも馬鹿で居てくれてありがとう。

心からお礼を言ったと思う。

いや、そもそもちゃんと作戦を立ててくれればこんな事態にもならなかったのか。

前言撤回。

見事に兵糧一月分と袁紹軍の兵士五千人を獲得。

そしてやはりというべきか。

 

袁紹「作戦?そのようなものありませんわ」

 

レベルを上げて物理で殴ればいいってか?

やかましいわ。

 

袁紹「雄々しく、勇ましく、華麗に進軍、ですわ♪」

 

まぁ良いや。

この際だから好き勝手にやらせてもらおう。

作戦が無いという事はこちらに任せるということだ。

うん間違いない。

そもそも董卓の圧政で人々が苦しんでいるなんていうのは嘘。

自分を差し置いて頭一つ抜きん出た事が許せないのだろう。

という事を華琳は言っていた気がする。

王都である洛陽を支配下に置いているというだけで、

諸侯たちに妬まれるには充分なのだろう。

ならばそんなくだらない事のために極力兵達の命を危険に晒したくはない。

しかしそれでもこの状況が危機的であることに変わりはない。

董卓軍が約二十万。

連合軍が約十五万。

それを全て俺達が受け止める訳ではないが、

矢面に立たされている事に変わりはないのだから。

朱里曰く

 

朱里「難攻不落絶対無敵七転八倒虎牢関を抜くとなると、

   かなり厳しい戦いになりそうですね……」

 

……物騒な事この上ない。

前の戦で虎牢関の周辺の状況は把握している。

両脇には崖、そして洛陽に向かう一本道に、いくつかの関所。

これほど防衛戦に向いた場所は他にはないだろう。

虎牢関と泥水関。

この二つこそが最大の難所だ。

しかし俺が最も心配しているのはそこではなかった。

この戦には……恋も居るのだ。

天下の飛将軍。

文字通り一騎当千……いや、一騎当万か。

実際に三万の軍隊を一人で壊滅させているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曹操「秋欄、袁紹軍の先陣は誰が取ると?」

 

夏侯淵「袁紹軍ではなく、劉備の軍が先陣になったとのことです」

 

夏侯惇「劉備軍が?……大丈夫なのか?」

 

夏侯淵「劉備軍の持つ兵は連合の中で最も少ない。

    ……かなり厳しいだろうな」

 

曹操「先陣の誉れに目がくらんだ、という訳ではないでしょうね。

   大方、袁紹の要請を断りきれなかったってところかしら」

 

夏侯惇「この難局を乗り切れなければ、華琳様の好敵手とはなりえませんな」

 

曹操「……そうね」

 

夏侯淵「……華琳様?」

 

夏侯惇の言葉に同意するも、何か引っかかっているような感覚。

しかし彼女自身も、それが何なのかわかっていない。

だけど気になっているのは北郷という男。

それはわかる。

初めて会った時の視線、表情、雰囲気。

その全てが、彼女を恐れるでもなく、

見下すでもなく、媚を売ろうとするでもなく。

 

 

 

──只、寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周瑜「雪蓮、大本営より作戦が届いた。

   我らはこの指示に従って進軍するのだそうだ」

 

孫策「やっとぉ〜?……全く、待ちくたびれて帰ろうかと思ったわ」

 

周瑜「指示の内容を聞けば、もっと帰りたくなると思うがな」

 

そう言い指示の書かれたものを見せる。

 

孫策「なになに……連合軍は雄々しく、勇ましく、華麗に前進するべし。

   ……これだけ?」

 

周瑜「それだけだ」

 

孫策「ふーん……面白いじゃない」

 

作戦書を破り捨て、にやりと口を吊り上げる。

 

孫策「それで?先陣は誰なの?」

 

周瑜「劉備の軍だな。

   どうやら袁紹の要請を断りきれなかったようだ。

   弱小の悲哀だな」

 

孫策「あらそうなの。

   ま、大丈夫でしょう」

 

周瑜「ほう、なぜそう思う?」

 

孫策「んー?勘よ。

   それにさっき劉備のところの将をちらっと見たけどね。

   そこそこやるかなーっていうのが三人。

   ま、それぞれ武名を轟かせていた関羽、張飛、趙雲ね。

   それと──」

 

そこで言葉を区切り、

 

孫策「未知数なのが二人。

   一人は天の御遣い君、それともう一人は顔が隠れていた女の子。

   あの子達の実力はわからないけど、私の勘が只者じゃないって言ってるの♪」

 

周瑜「ほう?」

 

孫策「それに、斥候の報告によると

   董卓の軍に白い衣服に身を包んだ不審な者がちらほら居るらしいわ。

   この戦い、何かが起こりそうな予感がするのよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-5ページ-

朱里が放った斥候の報告によると、泥水関に立て篭っている董卓軍は約五万。

そのうち主力の華雄率いる篭城軍の主力部隊が約三万。

 

一刀「……え?華雄に作戦なしで突っ込むの?」

 

雛里「こと攻城戦に限って言えば、作戦や策らしきものは必要ではないです」

 

朱里「攻城戦はどう頑張っても圧倒的に篭城側が有利なんです。

   なので野戦とは違い、

   策というものは調略方面でしか活躍できないんです」

 

愛紗「むぅ……」

 

しかし嘆いていても始まらない。

今はこの先陣を乗り切るための方策を考えるしかない。

猛将にして良将と謳われる華雄。

兵達からの人望も厚く、かなりの強敵だろう。

前は遠目で愛紗に敗走したのを見てただけだったが今回は対峙するんだ。

油断は出来ない。

また俺と凪の小部隊で、と出来ればいいのだがそんな事をできる地形ではない。

確か華雄は自分の武に誇りを持っているはず。

その辺りを攻められて出てきたところをやられたんだったか。

なら今回もその作戦で行こう。

だけどなぁ……。

作戦が成功して華雄が突出してきたとしてもそれを受け止めるのは俺達なわけで。

いくら袁紹から兵を借りたと言っても彼らを盾にしようとは思わない。

確かに袁紹の考えなしのせいで起こった事態だけど兵達にその責任はないから。

怒りに身を燃やして突撃してくる華雄をどういなすか、だなぁ。

 

雛里「華雄さんの部隊を袁紹さんに擦り付ける、という方法もあります」

 

朱里「そうですね。

   私達の部隊の後ろには中軍として袁紹さんの大部隊が控えています。

   押し込まれた振りをして後退すれば充分に可能です」

 

そうか、確か前も引きずり込んでいた記憶がある。

こういう事だったのか。

 

凪「では自分が前に出ます」

 

一同「え?」という表情をする。

 

凪「自分の気弾ならば遠距離からも足止めできますし、時間を稼ぐには一番良いかと」

 

一刀「それなら俺も出るよ。

   俺も一応氣を扱えるし、

   敵を引きつけながら袁紹に擦り付けるにはやっぱり俺達が適任だと思う」

 

桃香「で、でも、すごく危険だよ?」

 

凪「危険は承知です。

  ですが、必ず誰かがやらなければならない事ですし、

  これは戦ですから、危険なのは皆同じですよ」

 

桃香「そ、そうだけど……」

 

一刀「凪の言うとおりだ。

   誰かがやらなきゃいけないなら一番被害を防げる人間が行ったほうが良い」

 

俺の言葉に心配は拭えないものの頷いてくれる。

 

一刀「じゃあとりあえず具体的な作戦を説明してくれる?」

 

雛里「御意です。ええと」

 

ひとつ咳払いをし、

 

雛里「華雄さんが突出した際、私たちはその攻撃を一度だけ正面で受け止め、押し返します」

 

雛里によって作戦の説明がされた。

 

星「これはまた。なかなか乱暴な作戦ですな」

 

一刀「星は反対か?」

 

星「いいえ、大賛成です。

  乱暴大いに結構。

  弱小の我らが生き残るために他者を利用するのは、正義というものです」

 

くっくと悪そうに笑う。

やはりこの子はこちらの世界でも星だった。

そして心を決め、持ち場につくなか、連合軍の本陣より諸侯の陣に伝令が走る。

連合軍の本陣から激しい銅鑼の音が聞こえてくる。

 

桃香「ご主人様……大丈夫かな」

 

鈴々「お兄ちゃんは強いからきっと大丈夫なのだ。

   桃香お姉ちゃんは心配症なのだ」

 

桃香「うん……」

 

鈴々の言うとおり、確かに心配症なのかもしれないけど

本当の心配はそこじゃなかった。

先陣には愛紗達も出ているし皆を心配な気持ちはある。

だが彼女は一刀のあの時見せた表情が忘れられなかった。

今にも泣きそうな、とても辛そうな表情を。

 

鈴々「全軍前進!作戦通り、敵の前で悪口を言って相手を釣り上げるのだ!」

 

「応ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「泥水関で何か動きがあるな」

 

愛紗「動き……ですか。

   まさか華雄が突出してくると言うのでしょうか」

 

星「そうなれば楽なんだがな。

  砦という絶対的に有利な条件を捨てて突出してくるなど、まさかそこまでの愚行は──」

 

と、言っている間に開門。

旗は華。

 

星「……ふむ」

 

愛紗「……そこまでの愚行を犯したな」

 

星「まぁ、好都合ではないか。

  敵が自ら突出してくれるならこちらとしては大助かりだ」

 

一刀「それじゃあ行こうか」

 

凪「はっ!」

 

愛紗「聞け!勇敢なる兵士たちよ!」

 

敵が眼前に広がると同時に愛紗達が兵の士気を上げるために鼓舞する。

ドクン、ドクンと心臓の鼓動が早くなるのがわかる。

これが俺の、本当の意味で初の戦争。

後ろで見ているだけではない、自分と相手の命の取り合い。

 

愛紗・星『皆の命、我らが預かる!』

 

敵の部隊も大きく雄叫びを上げ、突撃を開始する。

 

星「来た……!」

 

一刀「愛紗!」

 

愛紗「はッ!全軍魚鱗の陣に移行!

   敵の突撃に真正面からぶち当たり、その勢いを持って敵を後退させる!

   その後すぐに後退!殿はご主人様の部隊がしてくれる!

   時機を見失うな!合図を聞き漏らすな!」

 

愛紗が兵士へ作戦の確認をする。

どうしても体が震える。

恐怖なのか、武者震いなのか。

自分でも判断がつかない。

 

愛紗「全軍、突撃ぃぃぃーーーーーーーーーー!!!」

 

俺と凪が後退の際の引きつけ役のため、そのまま残れるように最前線にいる。

砂塵と共に怒号が近づいてくる。

覚悟を決めろ。

臆病な自分から抜け出せ。

 

一刀「三人ひと組を忘れるな!必ず守れ!

   隣の仲間を守れば隣の仲間が守ってくれる!」

 

氣を集中し、体中に循環する。

隣にいる凪も両手足に氣を集中させ、既に気弾を放てる状態でいる。

 

凪「仕掛けますッ!!はあああーーーーーーッ!!!」

 

掛け声と共に凪が氣弾を放つ。

 

 

 

 

 

 

反董卓連合としての戦いが始まった。

 

説明
ちょっと先のシーンばかり筆が進んで繋ぎが疎かに(;´Д`)
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コメント
旧版以降の話見も楽しみにしてます。(yosi)
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