超次元ゲイムネプテューヌ『女神と英雄のシンフォニー』チャプターU第6話『ラステイションに渦巻く陰謀の姿』
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「えっ? ガストも仲間に入れて欲しいの?」

 

「そうですの!」

 

 ガスと救出から一夜明け、アイエフが明らかにおかしい教会の内情を把握する名案を思いついたと他の三人に声を掛けたら何故か四人集まり、事の次第を聞いていた。アイエフは腕を組んでうーん、と唸り、やがて口を開く

 

「ガスト、私達の旅の目的とかは知っている?」

 

「当然ですの。昨日、コンパから聞いたですの」

 

「だったら判ると思うが、俺達の旅は危険なものだ。必要ならば普通の冒険者や一行商人が行かない様な場所にも足を運ぶ事になるしな」

 

「むしろ、願ったりですの!」

 

 アイエフの言葉を引き継ぎ、ケイトが説明するとガストは怯む所かその表情を明るくさせる

 

「ガスト独りじゃ、素材を集めに行ける場所に限界があったですの」

 

 けれど、皆と一緒ならば今まで行った事も無い様な場所でも行く事ができる。それはすなわち、そこでしか取れない素材を集める事も出来る。つまりは今まで作った事も無い様なアイテムも作れるかもしれない

 

「うーん、私は良いと思うな。だって、ガストの作ったあの爆弾も凄かったしねっ!」

 

 と、ネプテューヌの言葉を聞いてアイエフとケイトは顔を見合わせる。確かに、ガストの作るアイテムは爆弾一つとっても凄いものがある。足手まといになるかと言われれば応えはノーだ。そして、当の本人も自分達の事は承知の上で同行を申し出ている。やがて、二人の表情が苦笑に変わり

 

「アイエフ」

 

「まぁ、本人がそこまで言うなら断る理由は無いわね、判ったわ。ガスト、これからよろしくね」

 

「よろしくですのーっ!」

 

「さて、それじゃ本題に入るわね」

 

 ガストが正式にパーティに加わり、アイエフは改めてみんなを見渡す

 

「今日は、協会の内部事情を知る為に異端者を探すわよ」

 

「ちょっと待ってくれ。異端者って言うのはその地方の宗教とは別の宗教を違法にあがめている人たちの事だろ?」

 

 この世界で言うならその大陸の女神を信仰していない人だ。つまりは協会とは一番縁遠い人達の事だろう。そんな彼らに話を聞いても何も判らないのでは?ケイトが疑問な表情を浮かべている。

 

「このゲイムギョウ界での異端者って言うのは厳密には少し違うの。大まかな部分は地球と同じだけど、正確にはその大陸の協会に所属してるのに、他の女神様を信仰して協会から追い出された人たちを指すのよ」

 

「つまり、自分の協会にも女神が居るのに他の女神に手を出して、協会から絶縁されちゃった人たちの事だね?」

 

 女神とそれに仕える人たちの集う教会。どこか神聖かつ厳かなイメージを感じていたのだが、ネプテューヌの間違っては居ない解釈に、そのイメージが一気に崩れ去り、ガストは思わず目を伏せ、首を振っていた

 

「一気に俗物的な内容になった出すの……」

 

「なるほど、異教でも元は教会関係者。そいつから内部事情を聞いてみようって訳だな」

 

「でもさ、教会の時みたいに話も聞かないで追い返されちゃったらどうする?」

 

「その時は、ガストの方で自白剤を調合して飲ませるから問題ないですのーっ!」

 

 と、なんかガスとの口から物騒な意見が飛び出したもんだから、ケイトは思わずジト目になってしまう

 

「ガスト……一応聞くが、その薬安全なのか?」

 

「効果は保障するですの。まぁ、効果が切れた後に何日か意識がなくなるだけですの。問題ないですの」

 

「ケイト、ネプ子、話を聞いてくれないときは二人が武器突きつけて脅してあげて」

 

 安全な交渉手段とは脅しとは……あまりのシュールさにケイトはため息、ネプテューヌは苦笑を浮かべるしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石に異端者ともなれば堂々と街中に住む訳にもいかないのか、件の人物は人里はなれた洞窟に隠居してるらしく、一行はその洞窟を探索していた

 

「なんかさー、モンスターの数多くない? そんなに広くないはずなのにすごいいるよ!? そんなに居心地いいのかな、ココ」

 

「確かに、洞窟の規模自体は大した事ないのにな。っていか、こんな所にホントに人が住んでるのか?」

 

 ネプテューヌが肩を下げて、疲労を露にしながら愚痴っている隣で、ケイトもフゥとため息を吐いてから、アイエフの方に顔を向ける。仮にその異端者が協会の軍関係者の人だとしてもこれだけのモンスターがひしめく洞窟でずっと生活するのは困難な話だ。

 

「けれど、情報ではココで間違いない筈よ」

 

「それに逆に考えればこれだけモンスターが大量にいるなら、協会の人たちもそう易々と入ってこれないですの。モンスターさえどうにかできれば、むしろ異端者が潜むには最適な場所ですの」

 

「なるほどです。そういう考え方もあるですね。でも……こんなじめじめして真っ暗な場所、健康によくないですよ」

 

 異端者、と言われるのだ。協会からしてみれば忌むべき存在、可能なら罰するべき存在だ。ならば、協会の人間が簡単に入ってこられない場所に隠居すると言うのは確かに間違いではない。が、看護師の卵であるコンパからしてみればやはり、良いとは思えないらしい

 

「更に言えば、当たりみたいだ。ほら」

 

 そう言ってケイトが指差した先には洞窟には不釣合いな木製のドア。これは人が住んでいる何よりもの証拠だ。ケイトが武器を手に持ったまま、反対の手でドアをノックするとそれはゆっくりと開き、奥から杖の付いた老人が顔を覗かせ、ケイト達を訝しげに見詰めている

 

「お前達は……?」

 

「こんな真っ暗な場所、健康によくないです! 手を引いてあげますから、一緒にでましょうですぅ!」

 

 と、コンパが手を差し出すも老人はそれを一瞥し、視線を一行に戻すだけだった

 

「ワシに近づくな、ワシは動かん。“アレ”の受け取り場所はここだけじゃ。使いの者は、この場所しか知らん……」

 

「まぁ、それはアンタの自由だから強くは言わんけどな……。なら、協会について教えてくれないか?」

 

「……協会? おお……協会か。協会の何が知りたい」

 

 アレ、と言うのは気になりはするが普通に考えれば生活に必要な物資か、もしくは危ない薬だろう。とは言え、普通に会話する事は出来る。なら、早い内に目的を済ませようとケイトが口を開く

 

「協会の内部事情ですの。総合技術博覧会を突然中止にしたり、来訪者を門前払いしたりと、ラスティションの協会はおかしいとこだらけですの」

 

「……協会は今、政治を行う国政院によって牛耳られておる。女神に仕える教院は辺境へと追いやられてしもうた。今の協会には何を言っても無駄じゃ」

 

「教院は女神に直接的に仕える連中だろ。それを追い出すなんてありえないだろ……と、言いたい所だが」

 

「見張りの人、女神なんてどうでもいい。って、言ってたもんね」

 

 あの時の見張りの態度からして見ればありえない話じゃない。むしろ、女神を疎んでいるのであれば、それが教院にも飛び火してもおかしくない

 

「……まぁ、それは頭の固い教院関係者もいっしょじゃがな。女神を信じ、ワシ等の警告にはまったく耳を貸さん。このままでは……人類が滅ぶと言うのに」

 

「ちょっと待つです! 人類が滅ぶ、何のことです? 世紀末の予言ですか……」

 

「そう、人類は滅ぶのじゃ。畏怖の王、邪神ユニミテスによってな……。ユニミテスは遥か昔の女神でさえ封印するにとどまった凶悪な魔王じゃ。現在の守護女神でさえもその強大さに、下界へ逃れるしか術が無かったと聞いておる……」

 

「そうか……そうなんだ……。ソイツがモンスターで世界を混沌に陥れようとか実はしてたんでしょ!? わーワルモノっぽい!!」

 

「いや、はしゃぐ様な内容じゃないですの……」

 

 呆れ気味にツッコむガストの言うとおり、その内容が本当ならとんでも無い事だ。この世界で最強と謳われている守護女神でも勝てない相手。まず間違いなく自分達じゃ勝ち目はないだろう

 

「……でも。そんなの信じられないです。女神様でさえ太刀打ちできない魔王なんて本当にいるですか?」

 

「そうじゃ。誰しもそうじゃ。最初はワシも信じられんかった。じゃが信じねば……いずれ使いによって罰が下る!!」

 

 その時、穏やか、とは言えずとも少なくても落ち着いていた筈の老人がカッと目を見開き、杖をケイトの眼前に突きつけ、ケイトは突然の事に一歩後ろに下がる

 

「お前達も同じじゃ! モンスターを倒してここまで来たのじゃろう? 罰は下る! お前達にも必ず罰は下るぞっ!!?」

 

 と、言いながら今度はケイトに向かって杖を振ってきた。頭部を狙って横に振るわれたそれを体をかがめて避ける

 

「ちょっ! いきなりどうしたですのっ!? そんなに怒ったら血圧上がっちゃうですのっ!!」

 

「ユニミテスに刃向かう愚か者共め!! ここから立ち去れっ! 立ち去れぇえええいっ!!」

 

「うわわわわ〜〜っ! お、お邪魔しました〜〜〜っ!!」

 

 などと言いいながら杖を振り回して襲ってくる老人。流石に反撃するわけにも行かず、急いでその場から逃げ出し、少し離れた所でその足を止めて、逃げてきた方を振り返る。どうやら、追いかけてくる様子はなさそうだ

 

「と、とりあえずそっとしておこうか。出たくないっていってるんだし無理やり連れ出すのも、なんか可哀そうでしょ……?」

 

「だな、とりあえず聞きたい事は一応聞けたし目的は達成って事でいいだろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、コンパは今夜もガストの部屋を訪れていた。ガストの横に立ち、彼女の作業の様子をじっと見詰めている。ガストはドライバーを置いて、目の前の物体を手に取り、確認を行う。形としては飾りっけのない大きめなペンダント。けれど、これこそガストの発明品であり、コンパの力不足を解消してくれる装置だ。最終確認を終え、ガストは頷き、それをコンパに差し出す

 

「完成ですのっ!」

 

「ホントですかっ!?」

 

「ハイですの。後は明日、実際に使ってみるですの」

 

 コンパは受け取ったそれを首に掛け、ペンダントの本体部分を手に取り、見つめている

 

「これで……ねぷねぷ達の足を引っ張らないで済むですね」

 

 その言葉に反応するかのように、雲が途切れ、差し込んできた月の光を受けて、ペンダントの様なそれは一瞬だけ光ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……悪いな、変に気を使わせて。俺はもう大丈夫だ!」

 

「シアンさん、もう立ち直ったですか? 博覧会の中止は残念だったですけどきっとまだ、何か手はあるはずです!」

 

 博覧会の中止、それ以来音沙汰のなかったシアンからの連絡を受け、大急ぎでパッセ製造工場を訪ねたネプテューヌ達。そこには既に立ち直り、何時もの様子で自分達を出迎えてくれたシアンの姿があった。

 

「分かってる。俺もまだまだ諦めないって! それより、博覧会用の資材。忠魂したんだから取りに来いって電話で怒られた。急いで取ってきてくれないか? 場所は……確か前に地図を渡したよな。隣町って言っても、その通り進めばすぐだから。運搬用の手車も外に置いてあるからそれを使ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇコンパ。朝から気になってたんだけど、その胸からぶら下げているペンダント、それどうしたの?」

 

 隣町への街道を歩く中、ネプテューヌがコンパの胸に昨日まで無かった筈のペンダントの事を尋ねるとコンパはペンダントを手に持ちながら

 

「ガストちゃんから貰ったです。前に言ってた、すごい発明品なんですよ」

 

「その通りですのっ! まだ試作品の段階ですけどこれが完成すれば絶対に売れるですのっ!!」

 

「発明品ねぇ。具体的にはどんな機能を持ってるの? それ?」

 

「それは――」

 

「みんな、話は後にした方がいい。お出ましだ」

 

 その時、手車を引いていたケイトが前方を睨みつける。そこにはモンスターの一団。全員がそれぞれの武器を構えて戦闘体勢に入る。そんな中、ガストも愛用の杖を構えながら得意げな笑みを浮かべた。

 

「丁度いいですの。口で説明するより、実際に見てもらったほうが早いですの。コンパ、やっちゃうですの!」

 

「はいですっ!」

 

 コンパが注射器を片手に持ち、空いた手でペンダントを首から外し握り締め目を閉じる。すると、ペンダントがぼんやりと緑色に発光。その変化にいち早く反応したのはアイエフだった。

 

「えっ!? この反応って……」

 

「スパークルっ!」

 

 そして、コンパが目を開き、ペンダントをモンスターに向かって翳した瞬間、一匹のモンスターの頭上に電気が集まり、やがて、小さな落雷となってモンスターを直撃した。

 

「魔法……コンパが使ったって言うの?」

 

 魔法は本来ルウィーの人間でなければ扱えない。それがゲイムギョウ界での一般的な常識、けれど、今目の前でそれが大きく覆った。その事にアイエフは戦闘中でもあるに関わらず、驚愕に目を見開きコンパを見詰めている。

 

「ほら、アイちゃんッ! びっくりするのも、話を聞くのも後々っ!」

 

「兎に角、まずはこいつらを全滅させてからだ、アイエフ!」

 

「え、ええ。ごめんなさい」

 

 二人に注意されて、アイエフは首を振った後、改めてカタールを構え戦闘に混ざる。

 

「それで、コンパさっきのは一体なんだったの?」

 

 ケイト、ネプテューヌ、アイエフの三人で前の出て応戦、ガストとコンパが魔法で援護を行い、モンスターの一団は特に問題なく仕留めることに成功した。それぞれが武器をしまい、アイエフがすぐにコンパのところに駆け寄り尋ねると、コンパは手に持っていたペンダントをアイエフに手渡す。

 

「これのお陰です」

 

「これって、ガストの発明品。もしかしてさっきの魔法はこれで?」

 

「その通りですのっ! これこそ、ガスト渾身の最高傑作、《エニグマ》ですのっ!」

 

「エニグマ……」

 

 ガスト曰く、そもそも魔法とは大気中のマナを体内に取り込み、それを火や水といった属性のエネルギーに変換し、そのエネルギーに精神的要素で働きかけて魔法を発動させる仕組みとなっている。

 

「ルウィー人以外が魔法を使えないのは、大気中のマナを体内に取り込んだり、属性エネルギーに変換する生体器官が元から備わってないからですの」

 

「それは私も知っているわ。魔法を覚える際の基本だしね。あっ! もしかして、このエニグマって――」

 

「その通りですのっ! このエニグマはマナの取り込みと変換を人の変わりに行ってくれる機械なんですの」

 

「すごいわっ! これさえあれば、誰でも魔法を扱う事ができる様になる。確かに物凄い大発明ね。効果の方も実証済みだし」

 

 若干興奮した様子で、アイエフはエニグマをコンパに返す。

 

「ただ、このエニグマも万能と言うわけではないですの」

 

「どう言う事だ?」

 

「エニグマの場合、普通の魔法使いと違って伸び代が無いですの」

 

「伸び代がない?」

 

「コンパちょっと失礼するですの」

 

 ガストはそう言って、コンパからエニグマを借りて蓋を開ける。すると、そこには7つのくぼみが空いており、更に中央のくぼみから二つのスリットラインが伸びており他のくぼみと連結している。組み合わせは6個と2個だ。そして中央には青の、左下には緑色の結晶がはめ込まれている。

 

「これって、セプチウムの結晶?」

 

「ガストは|結晶回路《クオーツ》と名づけたですの。エニグマが変換できるエネルギーの属性と総量はこの結晶回路で決まるですの。今、コンパのエニグマには風と水のクオーツが一個ずつしか付いてないですの。つまり、現在コンパが扱える魔法は風と水だけなんですの。他の属性のクオーツはまだ精製中なんですの。加えて、エニグマで扱えるのはルウィーで体系化された魔法のみでら・デルフェスみたいな個人のオリジナル術式の魔法は無理なんですの」

 

「なるほどね。けど、結晶回路をはめ込む部分は7つもあるわ。現在、ルウィーで一般的に体系化されている魔法の属性も地、水、火、風、時、空、幻の7つよ。つまり、結晶回路さえあれば全属性が扱えるってことじゃない?」

 

 アイエフの問いにガストは肯定とも否定とも取れない表情を浮かべた

 

「それも不可能ではないですの。けれど、結晶回路一つで変換できるエネルギーの総量は決まってるですの。クオーツ一個だけじゃ、せいぜいその属性の低級クラスの魔法が使える程度ですの。もし、一つの属性でより強力な魔法を使いたいのであれば同属性のクオーツをいくつもつける必要があるですの」

 

 そこまで聞いてアイエフ、そしてケイトもさっきのガスとの言葉を理解した。つまり――

 

「つまり、多くの属性を同時に扱えるか、少ない属性でより上級クラスの魔法を使える様になるかどちらかしか選べない、正確にはその二つのバランスがあるという訳だな」

 

「そして、普通の魔法使いならそれを修行次第で幾らでも両立できる。エニグマに伸び代が無いと言うのはそういう意味ね」

 

「その通りですの。一応、結晶回路の付け替えは自由に行えるから状況に応じて付け替える事は出来るですの。けれど、本業の魔法使いには及ばないですの」

 

 とは言え、それでも今までルウィー人しか扱えなかった魔法を事実上、全員が扱える様になるのだ。それだけでもガストの発明品はスゴイの一言に尽きる。

 

「いいなーコンパ。一人だけパワーアップしちゃってさー。ねぇねぇ、そのエニグマ、私にも作ってよっ! 私も欲しい〜っ!」

 

「焦らなくても、完成した暁には特許を取って売りだす予定ですの。その時に購入するといいですの!」

 

「しっかりしてるな。さすが行商人ってとこか」

 

「で、お話は終わったのか?」

 

 ネプテューヌとガストの様子にケイトが苦笑を浮かべると後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、全員が手車の方を振り向くと、そこには荷台に乗っかり、その縁に腕を掛けている一人の青年の姿。

 

「エミルさんっ!」

 

「よっ」

 

「どうしたんですか、こんな所で? って言うか、あの時、いつの間にか居なくなってから何処に行ったのか――」

 

 エミルは軽く手を挙げると、駆け寄ってきて問い詰めてきたアイエフの頭をあやす様に軽くポンポンと叩くと「もう、子ども扱いしないでください」と手で頭を押さえながら顔を火s化に赤らめている

 

「悪い悪い、ちょいとばかし気になった事があってな、個人的に調べてたんだよ。そんでそれがひと段落したからお前らと合流しようと思ってシアンから行き先聞いて急いで追って来たって訳だ」

 

「そうなのか、ところで調べ物っていうのは?」

 

 ケイトが尋ねると、エミルは荷台から降りて背伸びして一行の先頭に立つと全員の方を振り返る。

 

「まぁ、詳しい話は後にしようぜ。こんな所で立ち話してもまたモンスターが来るだけだし、こんな場所でするような内容でもないしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー! シアンの代理できましたけど、誰かいるー?」

 

 エミルも加わり、一行は特に危険も無く無事に隣町の資材屋に到着した。ネプテューヌがカウンターに手を乗せて、声を上げると奥の方から、作業着姿の男性がフリップボード片手にやってくる。

 

「お前達だな。シアンの言ってた漫才チームってのは……って、聞いた話じゃ4人の筈だが随分と増えてるな?」

 

 シアンから連絡を受けた際には女の三人の男一人の筈だったのだが、それに加え見慣れない人物が二人も増えている。作業着の男性シェーブルはエミルとガストをまじまじと眺めている。

 

「ども」

 

「よろしく、ですの」

 

「まぁいい、荷物は裏にある。でも、結構重いぞ。大丈夫か?」

 

「大丈夫ですの! こちらには荷物持ちの男が二人もいるから問題ないですの」

 

「まっ、この面子ならしゃーないわな。ケイト、行くぞ」

 

「了解、っと」

 

 荷物持ちは男の宿命。もはや自分達にご指名が掛かるのは予想済みでエミルは肩を竦め、ケイトは苦笑を浮かべて、他の従業員の案内の下、店の裏手に消えていった。

 

「しかし、シアンもいい友達をもったな」

 

 モンスターの被害が増えている昨今、街から街への資材運搬も危険なモノとなっている。そんな中、シアンの為にモンスターを蹴散らしここまで来たのだ。漫才チームとは称したモノの、シェーブルは彼らの力量を予測し、しみじみしながらウンウンと頷いた。

 

「父親の後を継いでからずっと気を張ってるみたいだったから。頼れる友達が居るってだけで、ちょっと安心したよ!」

 

「そういえば、シアンのお父さんってまだ見てないね。どうしたの? もしかして、お仕事が見つからなくて……」

 

 そこで、ネプテューヌは言葉を止めて少しの間の跡に

 

「1番:他の大陸に出稼ぎ! 2番:酒に入り浸ってパチンコ! 3番:遺書を残してビルの屋上……さーどれ――ねぷっ!」

 

「ちょ、ちょっと待つです3番っ! ねぷねぷ、そんな縁起でもない事言ったら失礼ですぅ!」

 

「そーよ! 2番はまだいいとしても、3番はあまりにもひどすぎるわ!」

 

「残念ながら、その三番が一番近いな。死んだよ。工場ネタとしてはベタかもいれないが、事故でね」

 

「あ……」

 

 アイエフからコツンと頭を叩かれ、ネプテューヌが頭を押さえ涙目になっている脇で、シェーブルは表情を暗くし、ため息混じりにそう言うとノリと冗談で言ったつもりだっただけにネプテューヌも流石に気まずそうな表情なる

 

「そう言うおじさんは、シアンさんとどういう関係なんです?」

 

 コンパが尋ねると、シェーブルはカウンターの後ろの棚に置かれていた一個の写真立てを手に持って眺めていた。遠い過去を懐かしむかのように

 

「シアンとはアイツが生まれた頃の付き合いだ。アイツの父親の仕事仲間でね。パッセの工場で、一緒に働いてた。だけど、他の工場と同じでな。最王手だったアヴニールに仕事を取られて苦渋の末に自分から工場を離れたんだ。シアンの父親が死んだ後、母親から経営者として戻らないかって話もあったんだが婿入りして、この資材屋を継いだ後だったしな」

 

「それで、シアンさんが社長さんになったですか。なんかみんな大変です」

 

「安心していいよ!! すぐに私達がアヴニールの悪行を暴いて倒しちゃうからっ!」

 

「それが、本当なら嬉しいんだがな。……まー無理だろう。何故なら――」

 

「アヴニールと協会、厳密には国政院が癒着してるから……だろ?」

 

 そこには荷物を運び終えた、二人の姿。そして、エミルの口から告げられた言葉にシェーブルは「その通りだ」と頷いて

 

「どういうコト? 国政院って、確か協会のかたっぽでしょ。女神様に仕える人達がなんでアヴニールを守るの?」

 

「幾ら、女神様だ国政院だ言っても自分達の独断だけで大陸は動かせない。やっぱし、その大陸に暮らす連中の民意、簡単に言えば賛成意見って奴が必要だ。んでもって、アヴニールは大陸一の大企業……大きな組織票を有するアヴニールは民意の塊みてぇなもんだ」

 

「なるほど。アヴニールが味方に付けば圧倒的な支持でなんでも強引に、国政院の思うが間々って事ね」

 

 国政院の意見にアヴニールが是を唱えれば、それで国政院の意見は通る様になる。ならば裏で取引をし、アヴニールを味方に付けようと考える者が出てくる。

 

「そして国政院の意見に賛成する代わりに自分達の市場や仕事の独占は見逃してくれ、って取引か」

 

「アヴニールが勢力を広めれば民意は更に大きくなり、国政院は更にやりたい放題できる様になる。見事な堂々巡りですの……」

 

「このまま行けば、ラステイションは国政院とアヴニールに乗っ取られる。ネプテューヌの言う通り、本気でどうにかしないとまずいな……」

 

 ケイトの言葉に、今度はアイエフも異を唱えない。それだけの事態になっており、アヴニールがそれだけ黒だという事が、証明されたのだから

 

「まっ、そう言うこった。と、ここで提案なんだが、あんたらが打倒アヴニールを目指すってんなら俺も乗せてくれねぇか? アヴニールからの依頼は金払いはいいが、どうも堅苦しすぎる。出来る事なら受けたくないんでな」

 

 けれど、大陸がアヴニールに乗っ取られれば、ラステイションで受ける依頼の殆どはアヴニールからのものになるだろう、それは御免被りたい。

 

「勿論ですよ! エミルさんが手伝ってくれるなら心強いですし」

 

 エミルからの申し出に、アイエフは二つ返事でオッケーをだす。心なしかテンションも上がっている

 

「決まりだな。そんじゃま、ラステイションにいる間だけだが、よろしく頼むわ」

 

 エミルの口から語られたアヴニール、そして協会の異常。このラステイションに渦巻く陰謀を知り、ケイト達は本格的に打倒アヴニールに向けて動き始めるのだった

説明
自分の力に悩みを抱えていたコンパ。そんな時、洞窟で出会った錬金術師にして行商人のガスト。物と物を掛け合わせ、新たな何かを生み出す錬金術に魅せられ、コンパは彼女に弟子入りを懇願するが、錬金術は簡単なモノではない事を教えられ、代わりに自身が同行することを条件にガストはコンパに強くなれるある方法を提示する
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