真恋姫†夢想 弓史に一生 第六章 第一話 広陵攻略戦(前編) |
〜聖side〜
報告を受けてから三日後。
俺たちは、自分達の領地へとたどり着いた。
先行していた蛍と勇により、既に戦の準備は整えられ、後はもう少し兵糧を集めれば出発できる状態となっている。
しかし、強行軍で兵を進めてきただけあって、皆疲れているのが目に見えている。
とにかく今は、皆を休ませる必要があるので、明日の軍議まで各自で休息を取っておくように指示を出し、城へと帰還することにした。
玉座に行き、先に帰っていた蛍と勇、それに、簡擁ちゃんと馬謖ちゃんに会う。
「蛍も勇もご苦労様。おかげで素早く行動に移せそうだ。」
「な〜に、聖のお頭の為ならこんな事、ちょちょいのちょいでさ!!」
「……頑張った。」
「よしよし。よく出来ました。」
「……んっ。」
蛍の頭を撫でてやると、目を細めて、嬉しそうに笑った。
……蛍ってこんな風に笑えるんだな…。
あぁ〜この笑顔見てると癒されるわ〜。
「ちょっと!!徳種さん!! 何やってるんですか!!」
「何って……頭撫でてるんだけど。」
「それぐらい分かります!! そうでなくて、何故そんな事をしているのですか!! 私たちの上に立つものとしての威厳が感じられません!!」
「そうか?? 信賞必罰に乗っ取ってるつもりなんだが…。」
「その、締まらない顔でですか。」
「ぐっ…。悪かったよ。もう少し、気を付ける。」
「そうしてください。」
うむ…。簡擁ちゃんは、やはり厳しいな…。
と言うか……怒ってないか??
…俺何かしたかな…??
「あはははっ!! 偉空ちゃんたら、居残りさせられた怒りを、徳種さんにぶつけても仕方ないのに〜…。」
「そっ…そんなこと…。私は別に、怒ってなんか…。」
「そんな事してると…徳種さんに嫌われちゃうぞ♪」
馬謖ちゃんが人差し指を一本立てながら、簡擁ちゃんにそう言うや否や、簡擁ちゃんがうろたえ始める。
……どうしたんだろうか…??
「と…徳種さんは…そんな事では嫌いになりませんよね…??」
えぇ〜っと…そんな、目頭に涙を一杯溜めて聞くことでもないよね…??
「う〜ん…。怒られるのは好きではないね…。」
「そ…そんな〜…。」
今にも涙が溢れ出しそうな目をしたまま、簡擁ちゃんが膝から崩れ落ちる…。
さて、このままだと話が進まないな…。
俺は、簡擁ちゃんの頭を撫でながら、諭すように語りかける。
「大丈夫、俺のことを戒める役割は、真面目な簡擁ちゃんにしか出来ない仕事だよ。君のお陰で、俺は誤った判断をしなくて済むんだ。だから、嫌いになることなんてあるはずが無いだろう?」
「…グスッ…徳種さ〜ん…。」
簡擁ちゃんは、俺の胸で泣き始めた。その間も、頭は撫でてあげる。
「あの〜!!! 話が進まないんですけど〜!!! そこでイチャイチャするの止めてくれません〜!?」
馬謖ちゃんの一言に、簡擁ちゃんは、俺から素早く身を離した。それはもう、驚くほどの速さで…。
「さてと、朱熹姉さんも真名を預けてるようだし、私も預けちゃうね。私の真名は((紫熹|しき))。よろしくね、徳種さん♪」
「あっ…ずるい、紫熹。一緒に預けようって決めたじゃない!!」
「まぁ、良いじゃんそんな事…。相変わらず真面目なんだから…。」
「まったく調子の良い事を…。 徳種さん、私の真名は((偉空|いそら))です。この真名、あなた様にお預けします。」
「紫熹に偉空か…。分かった、確かに君たちの真名預かった。俺のことは呼びたいように呼んでくれ。他の皆もそうしてるから。」
「「じゃあ、ご主人様で!!」」
「はぁ……やっぱりね…。」
「では、ご主人様。これからいかがしますか?」
「そうだな…糧食の補充の目処は?」
「明後日には集まると思うよ♪」
「俺の言ったように出来たか??」
「………予備費の方も少し使った…でも…手筈どおり。」
「よしっ。 明日には、蓮音様のところに行った芽衣も戻ってくる。 ならば、出発は明後日。それまでは、各自出発の準備をしていてくれ。 芽衣が戻り次第、軍議を始める。」
「「「「応っ!!!」」」」
着々と、聖たちの出陣の準備は整うのだった。
〜張超side〜
聖たちが町に帰ってから三日後の広陵で……。
「え〜い!!! どうなっておる!!? 出陣の準備はまだ出来んのか!!?」
「張超様!! それが、糧食が中々集まらず…。」
「良いから早く集めんか!! ぐずぐずしてると、あやつらに気付かれるぞ!!」
「はっ!!!」
「え〜い……何故、糧食が集められんのじゃ…!!!!」
不味い……早くせんと、奴らに勘付かれてしまう……。
黄巾賊の対応に孫堅が右往左往しているこの時しか、奴を打ち倒す機会は無いというに……。
おのれ〜………。
実はこの時、聖の策により広陵の糧食は買い占められていたのであるが……それを張超は知るはずも無かった…。
「張超様!! 報告です!!」
「なんじゃ!!!?」
「はっ。 どうやら、敵兵が来たようです!!」
「なんじゃと!!? ちっ…もう気付きおったか…。孫堅のやつめ…!!!」
「いえっ、それが…敵兵は、孫家ではありません!!」
「何っ!! では、一体どこだと言うんじゃ!? 曹操か!? それとも、劉表のやつか!?」
「それが……赤と白で模様付けされ、金で縁取られた白い十字架とその上に同色で『誠』の文字が…。」
「『誠』?? 聞いたことがないな…。」
「多分ですが…巷で噂されている、天の御使いのことかと…。」
「天の御使い……あの時のガキか!! 県令として置いてやったと言うのに、親に牙を剥くとは…。 よしっ、ならば迎え撃て!! 奴らを潰して、糧食を奪い、そのまま一気に孫堅を撃ってくれようぞ!!」
「はっ!!!」
「太史慈!!! 太史慈は居るか!!?」
「……。」
ワシの目の前にやってくる少女。
「奴らを完膚なきまでに叩きのめしてやれ!! 良いな!!」
「……はっ。」
少女は短い返事をすると、踵を返して部屋を出て行く。
「……ふんっ…。何を考えているのか分からん…不気味な奴じゃ。」
「あんな不気味な奴、切ってしまえば宜しいではありませんか…。」
「じゃが、奴は使える…。奴に任せとけば大丈夫じゃろう…。」
「そういうものですかね…。」
「……なに、仮にやばくなったら、奴を囮にワシらは逃げれば良い。」
「……成程、良い捨て駒ってことですな…。」
「ふふふっ、せいぜいワシらの為に尽くしてもらおうかの…。」
張超の下種な笑いが、広陵の玉座に響くのだった。
〜聖side〜
街の警備が薄くなることに心配はあったが、橙里、麗紗、蛍と二千人の兵を残してあるので、何かあっても大丈夫だろう。
俺たちは、広陵城に向けて、西に行軍している。
先ほど斥候から報告が入り、どうやら張超軍は、野戦で俺たちと戦うようだ…。
「野戦か…。」
「そのようですね〜…。」
「向こうは、あたい達に気付いてはいたんだよな??」
「そのはずなんですけどね〜…。」
「町に被害を出したくなかったとか??」
「いやっ、張超はそんなことを気にするような奴じゃない。」
「ではご主人様。一体何故、このような愚策を張超はとるのでしょうか??」
「きっと、馬鹿だから戦うことしか見えてないんだよ♪」
「……あながち間違いではないですね〜…。」
「多分、私たちを侮っているのでございましょう…。篭城などせず、野戦でぶつかって私たちを潰し、その勢いのまま寿春へ向かう。」
「成程…。私たちの糧食を奪って、足りない分の補充とする…か。」
「まぁ、その通りだろうな。」
「ひーちゃんを侮るなんて…言語道断ね…。」
「へっ!! 戦うことしか見えてねぇ、武官共の考えそうなものですぜぇ。」
「そう言う勇だって、武官だろうが…。」
「おっ…俺っちは、こんな愚行しやせんって!!」
「どうだかな…。」
「酷いですって、お頭〜…。」
「「「「「「「ははははっ!!!!」」」」」」」
戦前だというのに、俺たちには緊張感が欠けていると思われる。
とは言え、緊張でがちがちになっていても困るわけで…。逆に、これぐらい解れていてくれた方が良いのかもしれない…。
俺たちの後ろには、三千人の兵士、つまりは新撰組の兵達が追従している。
彼らにとっては、賊相手以外での戦闘はこれが初めて。
中には、戦場に立つのが初めての人も居るだろう。
そんな奴らの緊張が解れればと思っていたが…どうやら、少しはマシみたいだな…。
「聖様、張超軍の情報ですが…。」
「あぁ、どうだった??」
「武官ばかりと言うことで、相手はろくに策も持っては無いでしょう。ただ、気を見るに敏で、戦慣れはしていると思われます。」
「成程ね…。武官としての経験値は高いと。」
「はい。中でも、太史慈は気を付けたほうが良いかと。」
「ほぉ…何故かな??」
「蓮音様が、『太史慈には気をつけな。』と仰っていました…。」
「蓮音様が認めるほど…ってことか。了解した。」
「では、作戦は…。」
「別段、変更はいらないだろう…。どうやら、張超のやつは城の中らしいし…。」
「はっ!! では、通達してきます。」
「あっ、太史慈の相手は俺がするからって言っておいて!!」
「……大丈夫ですか??」
「なぁ〜に、負けはしねぇよ…。上には上がいるってことを教えてやら無いとな…。」
「……分かりました。」
芽衣は、一人行軍の輪から外れて北に向かう。
「お頭!! 五里先に張超の軍勢が見えますぜぇ!!」
「よしっ!! 全軍止まれ!! 陣形を組み替え、野戦の準備を始めろ!!」
「「「「応っ!!」」」」
俺たちはそこに陣を張り、張超との戦いに備える。
「はてさて…この戦どうなるかね……。」
「右翼展開!! 新撰組一番隊の力、見せてやりな!!」
「「「「応っ!!!」」」」
「左翼突撃!! 新撰組二番隊を止めることは、何人にも出来ないことを見せてやろうぜぇ!!」
「「「「応っ!!!」」」」
「中軍はそのまま待機!! 新撰組三番隊の、その堅牢の如き守りを見せてやれ!!」
「「「「応っ!!!」」」」
「伝令!! 各部隊、戦闘に入りました!!」
「ご苦労様。引き続き報告よろしく。」
「御意!!」
「さて、愈々始まったか…。」
「ご…ご主人…さささ…様…。ごごg…ご指示を…。」
「……いくらなんでも緊張しすぎじゃないか、偉空?」
「と言われましても…。はは…初めての…いいっ…戦ですので…。」
「あれっ?? 偉空は賊討伐に出なかったの??」
「……はい。城で内政を主にしてましたから…。」
「じゃあ、これが指揮デビューか…。」
「でびゅー??」
「よしっ!! じゃあ、ここの指揮は偉空に任せた!!」
「えっ!!!」
「俺は小隊を率いて、太史慈と戦ってくるから後よろしく!!」
「えっ!! ちょっと待って!! ご主人様〜!!!!」
偉空の悲痛な叫びが聞こえた気がしたが…まぁ、大丈夫でしょ。
俺は、予備兵二百人を連れて、中軍を率いている一刀の元へと向かう。
〜太史慈side〜
「太史慈将軍!! 敵の大将旗が中軍に移動しております!!」
「…進軍。」
「「「応っ!!!」」」
大将がわざわざ中軍にまで出てくるなんて、とんだ愚策をしてくるものだ…。
この戦、さっさと決着を付けてしまおう……そう思い、先ほどから中軍に攻撃を仕掛けていた部隊に合流する。
どうやら、敵の中軍は堅固な守備をしているようだ…。数で勝る我が軍を、寧ろ押している…。
「……邪魔。」
「あっ!! 将軍!!」
「おい!! 敵将だ!!」
「……死ね。」
シュルシュルシュル……!!!!
「ぎゃあああぁぁ〜〜!!!!」
敵の前線に切り込み、数人の兵士の首を飛ばす。
「将軍が道を開いてくれたぞ!! 全軍進め!!」
副官の指示で、私の部隊が空いた隙間から雪崩込んでくる。
これで、相手の中軍は壊滅するだろう。
「っ!!!」
キンッ!!
「…おやっ?? 当たったかと思ったが…。」
突然飛んできた矢を何とか打ち落とすと、射掛けた相手を見る。
するとそこには、見たことの無い服装をした男が、不思議そうな顔をして立っていた。
〜聖side〜
……おかしいな…確かに当たったように思ったんだが…。
俺が中軍の前線まで来て見ると、そこには、綺麗な青髪で丈の長いタイトなドレスに身を包んだ女の子が、我が軍の防御の一部を破壊して立っていた。
あの防御を破るってことは…あいつが太史慈かな…。
俺は蛇弓を取り出すと、彼女に向ける。
目で見る限り、彼女は武器を持たない素手での戦闘スタイルのようなので、この不意の一撃を受けるのはまず不可能…。
さて、早々で悪いけど、気絶していてもらおうかな…。
弓を引き絞り、狙いをつけて射る。
矢は、目標にあと少しというところで、何かによって打ち落とされた。
「…おやっ?? 当たったかと思ったが…。」
彼女は俺の存在に気付いたようで、こちらを睨んでいた。
どんなからくりを使ったのか知らないけど…とりあえず、不意打ちは失敗か…。
こりゃ、また大変な戦いになりそうだ…。
後書きです。
さて、今話で水鏡塾出身のオリキャラの真名が出揃いました。
纏めると、
簡擁→偉空
馬良→朱熹
馬謖→紫熹
伊籍→蛍
孫乾→麗紗
となってます。
なるべく他の人と被らないように気をつけてはいるんですけどね……多分蛍は被ってますね…。そこはご容赦願います…。
さて、今話で意味深に出て来た太史慈さん……。
聖の矢が打ち落とされた理由は果たして……。
次回を待て!!!
次回は水曜日に上げます。それでは………お楽しみに!!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 遂に第六章、広陵攻略戦です。 戦闘描写って難しいですね……。 どうやって書けば臨場感が伝わるのか……何とも言えませんね……。 第一話の総閲覧数がそろそろ3000に達しそうです。 それもこれも皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。 今後とも、どうかよろしくお願いします。 |
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