魏エンドアフター〜独リ〜
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張遼「ちぃっ、やっぱ数の暴力には勝たれへんか……!

   ちゅーか恋はどこ行ったんや!?」

 

呂布隊の突撃に続き張遼隊が横撃仕掛け、敵を混乱させたまではよかった。

もともと押し切れるとは思っていなかったし、

相手の隙を突いて退却するつもりだった。

しかし呂布の部隊に合流する手はずだったにも関わらず当の本人が見当たらない。

 

張遼「今撤退せんかったら流石にヤバイっちゅーのに……!誰かおるか!」

 

「はっ」

 

張遼「予定通り張遼隊は呂布隊と合流したあと、

   敵を一旦押し返してから撤退せえ!」

 

「はっ、しかし張遼将軍は……」

 

張遼「ウチは恋を探してから行く!

   ったくあのアホどこまで突っ込んだんや……!」

 

乱戦状態の中、人一人を探すのはかなり難しかったがそうも言っていられない。

 

「伝令!」

 

張遼「なんや!今死ぬほど忙しいねんからさっさと──」

 

「り、呂布将軍が単騎で劉備隊へ特攻!我々も追おうとしたのですがまるで追いつけず……」

 

張遼「はぁ!?なに考えとんねんあのボケ!

   つか敵がこれだけおるっちゅーのにどうやって突っ込むねん!」

 

「そ、それが奇妙な事に敵部隊は呂布将軍を素通りしてこちらに仕掛けて来まして……」

 

張遼「なんじゃそら!素通りして一直線に突っ込んだ言うんか!?」

 

「まさにその通りでして……」

 

訳がわからない。

この数の兵士を素通りできる訳がないし、

敵も呂布を素通りして仕掛けてくるはずもない。

ワケのわからない状況にますます混乱したが、

呂布の独走のために兵を無駄に死なせる訳にはいかない。

 

張遼「〜〜〜〜〜ッ!!ええい!

   お前らもさっさと撤退せえ!!あとはウチがなんとかする!」

 

「し、しかし!」

 

張遼「しかしもかかしもあるかい!

   今の状況見てわからんのか!

   今撤退せえへんかったら全滅すんで!

   さっさと行きぃ!」

 

「は、はっ!」

 

張遼「どうなっとんねん……!ったく!」

 

自軍に指示を出し、張遼は乱戦の中へ身を投じ、呂布を探した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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朱里「敵軍が一丸となって突出してきます!

   旗印は呂!飛将軍、呂布さんの部隊です!

   あと、曹操さんの部隊に張の旗が突っ込んで行ってます!」

 

やっぱりそう来たか!

 

一刀「よし!敵はもう撤退するつもりだ、戦意の無い者に刃は向けるな!」

 

星「よろしいのですか?」

 

一刀「ああ、敵と言っても相手は農民の次男三男が殆どだと思うし。

   それにこの戦いは諸侯の──

   いや、そういう兵を殲滅するのは桃香も嫌がるだろう」

 

愛紗「私も賛成です。そのような兵を手にかけるのは、気乗りがしません」

 

星「甘いな。……と言いたいところだが私も同意見だ」

 

鈴々「鈴々も同じなのだ」

 

一刀「よし、ならもう勝敗が決まってる以上無駄に血を流す必要もない。

   敵の逃げる隙を与えよう」

 

ここで逃がした兵が再び俺達の前に立ちはだかったとしても、

それは今戦うのとは大きく意味が違ってくると思う。

今は諸侯のくだらない権力争いに巻き込まれているだけかもしれないけど、

その時は自分達の志を掲げていると思うから。

 

星「しかし相手の様子が変だ。

  呂布隊、張遼隊共に将の姿が見えない」

 

雛里「もう既に撤退したのでは?」

 

星「いや、それは考えにくい。

  相手はあの飛将軍呂布と紺碧の張旗で恐れられる張遼。

  あの二人が兵を置いて我先にと逃げる筈がない」

 

確かに最後の吶喊というには、将が居ない事から明らかに突進力が足りない。

星の言うとおり、霞は兵を逃がすために自分は残るというくらいの気概の持ち主だ。

それがここに居ないというのは大きな違和感を覚える。

違和感の正体を探っていると──

 

愛紗「ご主人様ッ!!」

 

愛紗の叫び声が響くと共に押し倒される。

 

一刀「え──」

 

先ほどまで俺が立っていた場所を何かが轟音で空を斬り、後ろに居た兵が苦渋の声を上げる。

見ると兵の肩には剣が突き刺さっており、痛みから呻いていた。

突然の出来事に唖然としていると、呟くような小さな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「北郷一刀」

 

 

 

 

 

 

一刀「ッ……!」

 

身の丈程もある戟を担ぎ、周りの乱戦などには目もくれず、悠々とこちらへ歩いてくる。

 

一刀「恋、か」

 

誰にも聞こえないような声で彼女の真名を呟く。

恋は明らかにこちらに向かってくるが、その姿にどこか違和感を覚えた。

 

愛紗「呂布か!」

 

星「この状況で単騎特攻とは大層な自信だ」

 

呂布「────」

 

様子がおかしい。

確かに恋は感情をあまり表には出さない子だけど、ここまで無感情ではない。

目の前に居る恋はまるで人形のように表情が抜け落ちており、

只一点、俺を見つめている。

その目もどこか虚ろで、意識がないのではないかと思える程だ。

恋が俺達の目前まで近づくと、兵達が恋に向かって突撃し始めた。

 

『うおおおおおおおーーーーーーーーーーー!!!!』

 

一刀「待てッ!!手を出すな!!」

 

静止の言葉も虚しく、愛紗、星の部隊の兵が突撃していく。

そして恋の体に刃が届こうとしたとき──

 

 

 

 

呂布「────」

 

 

 

 

真っ赤な血飛沫が戦場を舞った。

 

愛紗「なっ!?」

 

星「なんだとッ!?」

 

一瞬、本当に一瞬だった。

兵達が恋に斬りかかった時、恋が担いでいた戟を二度、三度薙いだ。

それだけで兵士達の身体は切り裂かれ、

声を上げる間もなく血の海に沈んだ。

 

『ひッ─────』

 

凪「手を出すなぁッ!!下がれぇぇーーーーーー!!!」

 

あまりの出来事に兵達が唖然としている中、

状況をいち早く理解した凪が声を張り上げる。

それを聞くと同時に、兵達は恐怖の声を上げながら後退していく。

 

凪「朱里様、雛里様!各部隊をさがらせて下さい!早く!!」

 

朱里「ひ、ひゃいっ!?り、了解です!!

   関羽隊と趙雲隊の皆さん!後退します!

   私たちに付いてきてください!!」

 

雛里「っ……」

 

朱里はなんとか凪の指示を聞き部隊を指揮しているものの、

雛里は目の前で起きた出来事に完全に怯えきっていた。

今までの戦闘とはまるで違う。

まるで果物のように上半身と下半身を真っ二つに両断され、血の海に沈んでいる兵士。

そしてその中に悠然と、返り血で真っ赤に染まり、

感情が抜け落ちたような表情で佇んでいる呂布。

雛里だけでなく、兵士達の恐怖心を煽るにはそれだけで充分すぎるほどだった。

 

『う、うわああああーーーーーーーーーーーーッ』

 

後退、というよりももはや逃走していると言ったほうが正しい。

こちらの兵とていくつもの戦場を経験した熟練の兵という者ばかりではない。

呂布という畏怖の存在に飲まれ、武器を放り出し逃げるのがやっとだった。

 

呂布「北郷、一刀」

 

もう一度俺の名前を呟くと、返り血で染まった戟を再び担ぎ、こちらに突進してくる。

 

愛紗「こいつッ!ご主人様の命が狙いか!」

 

星「お下がりください主ッ!!」

 

鈴々「お兄ちゃんに手は出させないのだ!」

 

三人が俺の前へ飛び出し、恋の突進を妨げようとする。

 

一刀「待て!!様子がおかしい!!逃げ───」

 

俺が言葉を言い切る前に三人と呂布が接触。

 

愛紗「ッ!?ッッぐああ!?」

 

星「ちぃッ!?」

 

鈴々「うわわ!?」

 

最初に恋の攻撃を受け止めた愛紗がそのまま力任せにはじき飛ばされ、

それに続き星、鈴々も恋の薙いだ戟によって後退させられる。

 

一刀「愛紗!!!」

 

はじき飛ばされ、岸壁に背中を強く打ち付け咳き込んでいる。

愛紗が顔を上げると、自分に向かい走ってくる一刀と

その彼に向かい一直線に突進している呂布の姿が目に入った。

 

愛紗「ゲホッ!──お逃げくださいご主人様ぁッ!!」

 

喉が張り裂けんばかりの声で叫ぶ。

 

凪「ちぃッ!」

 

向かってくる呂布の前に凪が立ちはだかり気弾を放つ。

 

呂布「────」

 

しかしその気弾を戟で切り裂き、その隙間を抜いながら突進してくる。

 

気弾を切り裂かれるなどという事は未だかつて経験したことのない事だった。

しかし凪も驚いているだけではない。

気弾が通じないと解れば突進してくる呂布に対し、凪も突進。

 

凪「はああああッ!!」

 

呂布が突進と共に自分へ向かってきた凪に戟を振るう。

それを半回転し紙一重で避け、呂布の懐へ潜り込み

その回転の勢いのまま腹部に肘を入れようと踏み込む。

完璧な間合いで、完璧なタイミングだった。

しかし、誰もが叩き込んだと思ったその一撃は、呂布にあたることなく空を切った。

 

凪「ッ!?」

 

空振り、隙を見せた凪目掛けて視界の外から戟が振るわれる。

しかし凪もその一撃を反射神経のみで避け、戟を払い受け流す。

受け流した戟の柄を掴み、呂布を自分の視界へ引っ張りこみ顎目掛けて掌底を放つ。

戟を掴み、動きを封じての一撃。

しかしそれも呂布には当たらず、空を切った。

 

凪「なッ!?」

 

攻撃が避けられ、しかし先ほどのように隙を見せずに体制を立て直そうとした直後、突然の浮遊感。

呂布は凪が掴んでいた戟をそのまま持ち上げ、地面に叩きつけた。

 

凪「かはッ!」

 

背中から地面に叩きつけられ、一瞬呼吸困難に陥るも

追撃を避けるために体を回転させ間合いを抜ける。

目の前で繰り広げられた凄まじい攻防に誰もが息を飲み見守るも、

凪でさえ一撃を入れる事ができなかった。

 

星「なんと出鱈目な……ッ!」

 

愛紗「ゲホッ!ゲホッ!はぁ、はぁ……ッ!

   なんだというのだこやつは……!」

 

鈴々「愛紗!しっかりするのだ!」

 

凪「くッ……!」

 

四人と攻防を繰り広げたにも関わらず、呂布の表情には微塵の疲れも見えない。

絶対的な力。

絶対的な武。

天下の飛将軍呂布とは、ここまでの化け物なのかと誰もが恐怖する。

しかし違和感を拭いきれなかった。

いくら呂布が強いと言えど限度がある。

大会という場では、確かにルールが存在し、命のやりとりでは無かった。

しかし間違いなく恋は本気だった。

今目の前で繰り広げられた戦闘は、

一刀の目から見ても明らかに今から三年以上も未来の恋よりも段違いに上。

 

一刀「皆下がれッ!!手を出すな!!」

 

凪との攻防を繰り広げた恋は、只悠然と、俺を見つめて佇んでいる。

 

朱里「皆さん!ご無事ですか!?」

 

俺を含め、凪、愛紗、星、鈴々の五人で武器を構え、恋の攻撃に身構える。

兵を後退させた朱里が戻ってくるも、雛里の姿が見えない。

 

鈴々「雛里はどうしたのだ!?」

 

朱里「雛里ちゃんは桃香様と一緒に後ろで待機してもらっています!

   ……っ」

 

一瞬、朱里の表情が歪む。

呂布の作り出した光景に怯えた雛里は兵を後退させた後、

なんとか前に出ようとするも恐怖で体が動かなかった。

その光景を思い出し、朱里は苦悶の表情を浮かべる。

 

一刀「いや、それでいい。

   今ここでこれ以上の恐怖を植えつけられたら

   二度と立ち直れなくなるかもしれない」

 

朱里「……はい」

 

そして戻ってきた朱里も、目に見えて体が震えている。

 

一刀「朱里もご苦労様。

   後は俺たちに任せて下がっててくれ」

 

朱里「でも……」

 

幾度も戦場に身を投じて来た朱里でも、目の前の光景には恐怖を覚えざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこれほどまでに力が膨れ上がるとは。

 素晴らしい、素晴らしいですよ。

 そのまま心の闇に咽まれてしまうのもまた一興。

 やはり負の感情というものは素晴らしいですねぇ」

 

その様子を影から見ている男。

 

「貴女の心に植えつけられたその感情は根深いものだったんですねぇ。

 天下の飛将軍。

 天下無双の武。

 故に、誰からも恐れられ、邪険にされる」

 

心底楽しそうに呂布に術を掛ける際に感じた感情をまくし立てる。

 

「貴女のその負の感情が強くなれば強くなるだけ、貴女は力を得ることができる」

 

そこまで口にすると、にやりと口元を吊り上げ

 

「まぁ、体に無茶な負荷が掛かる分、命も削られていくんですがね」

 

術により心をかき乱され、ほんの小さな負の感情が激しい負の感情、激情になり、

体内に流れる氣を必要以上に活発化させ、爆発的に膨れあがらせる。

氣の扱いに長けている者ならばこれを自分の意思で加減して使用し、戦闘を有利にできるが、

呂布の場合、普通の氣を持つ者の場合はそうではない。

加減もできず、術により操られ、体を休めることも出来ない。

それを続けると何が起こるかといえば、

一刀が氣を暴走させた時と同じように命を燃やし続ける事になるのだ。

 

「さて、この舞台も名残惜しいですが、次の準備に取り掛からねば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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戦場を突っ切り、劉備軍の目の前まで呂布を探しに来た張遼。

普段ならばそんな無謀な事はしないが、

遠目からでもわかるように、劉備軍は部隊を後退させていた。

理由はわからないが、そこに呂布が居るという事を直感で感じ取り、探しに来たのだ。

 

張遼「あーーーー!!!やぁっとおったであのド阿呆!

   ねね!アンタの主人やろが!しっかり手綱握っとき!」

 

陳宮「呂布殿の手綱を握るなど恐れ多い事を言うなです!」

 

呂布と居るはずだった陳宮を連れていた。

呂布が独走した事により陳宮の部隊は置き去りにされていた。

そして呂布が居ないという事で先に撤退するということだったが

陳宮はそれを断固として拒否していた。

絶対に呂布と一緒でないと撤退はしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗「張遼だとッ!?この忙しい時に……ッ!」

 

星「しかし様子が変だ。

  何か思惑があるわけでもなく、我武者羅に突っ込んできたように見える」

 

鈴々「鈴々もそう思うのだ。

   連れている兵もすごく少ないし、

   あの数じゃ吶喊したところですぐに押し返されちゃうのだ」

 

一刀「じゃあ予期せぬ事態があっち側で起こった……って事か」

 

凪「そうだと思います。

  何より呂布のこの突撃はあまりにも無謀すぎる策です。

  まるで自分の命を顧みず、

  目的の人物を一人討ち取る事だけを目的としたような……」

 

一刀「なるほど……それが、俺か」

 

凪の推測はあたっていると思う。

恋はここまで単騎で来たし、何よりも俺を殺そうとしているのは明白。

ズキズキと心が痛むが今はそれどころではない。

恋が自分の意思で俺の命を取ろうとしているならそれは仕方の無い事だ。

だけど目の前にいる恋は明らかに様子がおかしい。

まるで誰かに操られているように、自分の意思など無いように見える。

俺達が構えたまま動けないでいると、

 

陳宮「皆の者!火矢を放て!!

   呂布殿の退路を確保しますぞ!!」

 

星「なっ!?火矢だと!?」

 

火矢を放ち、混乱している隙に張遼が呂布の元へ駆け寄り怒声を上げる。

 

張遼「さっさと帰んで恋!!もう撤退や!!

   恋はようやった、後はうちらが下がるだけや!!」

 

呂布「────」

 

そう言いながら恋の肩を掴もうと手を伸ばす、が、

張遼の武人の勘がその場から体を後ろに飛び跳ねさせた。

直後、張遼の居た場所に戟が振り切られ、空気を裂いた。

 

陳宮「呂布殿!?」

 

張遼「ちぃッ!?」

 

助けに来た者に攻撃され、困惑の表情を見せる陳宮と張遼。

火矢を放ち、呂布を連れすぐに撤退するはずだった、しかし

呂布が退こうとせず、その場を動かない。

 

陳宮「呂布殿!!早くこちらに来てください!!」

 

一刀達と呂布の周りに瞬く間に火の手があがる。

陳宮が声を張り上げ、呂布に必死に言葉を投げかける。

しかしその言葉にも耳を向けず、燃え盛る炎の中で彼女を一瞥するだけだった。

 

張遼「ねね……恋がおかしいで。

   ウチに得物振り回してきたのは頭に来たけど、恋の様子がおかしい」

 

陳宮「ど、どういうことですか!」

 

張遼「あんだけ全力でぶん回して来たにも関わらず全く殺気を感じん。

   いや、覇気がない」

 

文官である陳宮には張遼の言っている武官の感覚というものはわからないが、

彼女がそういうのならば今の状態は普通ではないのだろう。

 

張遼「とにかく、あれは恋の意思やない」

 

彼女達が呂布の異変を感じとる。

そして火矢によって燃え移った炎がどんどん大きくなり、完全に一刀達を囲みつつあった。

 

星「主!!このままではまずい!退却を──」

 

呂布「────」

 

星「くッ!?」

 

一刀に向かって投げかけた言葉を言い切る前に、呂布が星に斬りかかる。

まるで一刀を逃すまいとするように、彼女の言葉を遮る。

 

愛紗「星!!……つぅ……ッ!!」

 

愛紗も得物を構え、星の加勢に入ろうとするが脇腹を鋭い痛みが襲う。

 

鈴々「愛紗!?どうしたのだ!?」

 

愛紗の異変に気づき、鈴々が駆け寄る。

苦悶の表情を浮かべ、得物を支えに脇腹を抑えている。

 

愛紗「ッ……どうやら、ッ……先ほどの一撃でやってしまったらしい……ッ」

 

最初の呂布の一撃を受けた際に運悪く、得物の柄が自分の脇腹に食い込んでしまった。

そしてそのまま叩きつけられた事で肋骨が折れてしまっていた。

 

鈴々「愛紗……」

 

初めて目にする自分の姉の状況に狼狽えざるを得なかった。

いつもならば痩せ我慢でも大丈夫だと言いながら強がる姉が、

苦悶の表情で、額には脂汗を浮かべながら蹲ってしまっている。

 

鈴々「愛紗!しっかりするのだ!愛紗!!」

 

一刀「落ち着いて、まず愛紗を安全な場所へ連れて行ってくれ。

   そこで手当をしてもらって」

 

苦しんでいる愛紗を目にし、涙ぐみながらもしっかりと、

 

鈴々「わかったのだ!!」

 

そう返事をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

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星「(ちぃッ!!このままでは……!)」

 

愛紗に駆け寄る鈴々を目の端に捉えながらも、呂布の攻撃を捌いていく。

辛うじて、本当にギリギリのところでなんとか呂布の攻撃を避けていく。

しかしそれも長くは続かず、星の動きが次第に鈍くなっていく。

防戦一方。

反撃しようにも避ける事で精一杯のため、そんな余裕もない。

神経を限界まで研ぎ澄まし、避ける事だけを考える星に対し、

次々と一撃必殺の斬撃を入れる呂布。

 

星「くッ!?」

 

ついに星の動きが一瞬止まり、その隙を逃さずに放たれる呂布の一閃。

 

 

 

 

 

 

凪「はああああッ!!!」

 

確実に命を断つその斬撃は、しかし星に届かず、

凪によってぎりぎりのところで受け流された。

星を庇うようにして飛び込んだ勢いのままに、左右の拳を振り切り、踵落とし。

その全てを戟の柄や自分の腕で防御し、捌かれる。

それを予測していたように凪は呂布の側面に回り込み体制を低くし、

背中全体を思い切りぶち当てる。

それにより体勢が崩れたところへ拳槌、掌低、虎爪、

回転し猿臂、側頭部目掛けて熊手を放つ。

しかしその猛襲のすべてを避けられ、呂布が体を回転させ、その勢いのまま一閃。

 

凪「ぐッッッッ!!」

 

避けられないと判断した凪は両手を交差させ防御の姿勢を取った。

獅子王でなければ腕ごと砕かれていたのではという衝撃に後方へはじき飛ばされる。

 

一刀「(このままじゃダメだ……!!)」

 

愛紗と鈴々を炎の中から脱出させ、桃香の居るところまで運んでもらい、

手当をしてもらううよう手配した。

そして星も凪も限界だった。

攻撃を仕掛けるも、その全てを避けられ、捌かれ、必殺の一撃が飛んでくる。

既に火の手もこれ以上ないくらい広がっていた。

 

一刀「凪!!星!!戻れッ!!!」

 

二人に向かって声を張り上げると同時に呂布に向かって駆け出す。

二人が離れようとしたところへの呂布の追撃を入れ替わるようにして受け流す。

 

凪「隊長!!」

 

星「主!!」

 

後方へ下がり、二人が炎の輪を抜けると同時に一刀と呂布は完全に炎に囲まれた。

そして気づいた。

呂布の攻撃を受け流すために、接近した時に”見えた”。

周瑜の体を蝕んでいたあの黒い渦を見た時のように、見えた。

呂布の体の氣が異常な程に活性化している。

自分の氣が暴走した時とまるで同じ状況。

このまま放っておけば命に関わる。

 

呂布「────」

 

考えている間もなく、一刀に呂布が斬りかかる。

幾度となく振り下ろされる豪撃を避け、受け流す。

桜炎と方天画戟がぶつかり合い、鉄の擦れる嫌な音が響く。

受け流しているというのに、刀から火花が散る程の力。

こんな人間の限界を超えた力を振るい続けていれば、彼女の体が持たない。

 

 

操られている彼女の体を傷つける訳にはいかない。

それでなくとも彼女の体は悲鳴を上げているはずだから。

炎の熱気と、死と隣り合わせの緊張感が体力を徐々に奪っていく。

まるで一刀と呂布の戦いに拍車を掛けるように、炎が激しくなっていく。

 

一刀「はあああああッ!!」

 

背中に刀が回るほど振りかぶり、全身のバネを使い振り下ろす。

その速度を完全に見切る事が出来ないのか、

恋は避ける事をせずに、戟で一刀の攻撃を受ける。

そしてそれは一刀の狙い通り、祖父の剣術──

武器を通して呂布の腕にダメージを与え、武器を握れないようにしようとしていた。

しかしそれを気にする素振りも見せず、刀を受けるとほぼ同時に反撃が飛んでくる。

受け流す事でさえ力負けしてしまいそうな程の威力。

そのため一刀は一切受ける事なく、体を反らし、反撃を避けていく。

一瞬でも気を抜けば命はない。

 

と、恋の攻撃の手が一瞬止む。

その隙を突き、通しによるダメージを蓄積させようとするが──

 

一刀「ッッッ!?」

 

フェイント。

わざと隙を作り、一刀の攻撃を誘っていた。

フェイントに引っかかり、こちらが隙を作ってしまう形になった。

その隙を呂布が見逃すはずもなく、容赦のない一閃が飛んでくる。

 

一刀「ぐッ!?うあああ!!」

 

なんとか桜炎で受け止めるも、その力任せの一撃に吹き飛ばされ岸壁に叩きつけられた。

そこへ追い打ちを掛けるように、叩きつけられた彼目掛けて呂布が突進し、戟を突く。

 

星「主ッ!!!」

 

凪「隊長!!!」

 

叩きつけられた衝撃で舞った砂塵が、徐々に収まっていく。

彼の体に突き刺さったかのように思えた一撃は、

咄嗟に引き抜いた摩天楼による居合で僅かに逸れ、岩に突き刺さっていた。

突き刺さった戟を引き抜いている隙にその場を脱し、間合いを抜ける。

 

一刀「はぁ……ッ!はぁ……ッ!」

 

まるで相手にならない。

猛将四人を相手にし、それでも止められないのだから当然だ。

大人と赤子のような力の差を見せつけられ、凪と星は絶望感に見舞われる。

一刀が殺されてしまう、と。

 

しかし一刀は別の事を感じていた。

呂布と一瞬の接近、彼女の手が一刀に触れた瞬間伝わってきた想い。

 

 

 

 

 

 

 

────寂しい────

 

 

 

 

 

 

 

漠然とした感情ではあったが、確かに”見た”。

至近距離に近づいた時、彼女の目からこぼれ落ちた一滴の雫。

そして一刀が最も憎んでいる存在、白装束の姿。

 

一刀「(ここでもか……ッ!

    こんな優しい子を……ッ!!)」

 

恋と接した事のある者ならば誰もが彼女は心の優しい子だと理解できる。

そんな子が、こんなふざけた術で操られ、その命を削っている。

星と凪が絶望を感じているのとは反対に、一刀は激しい怒りを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物心ついた時から、恋は独りだった。

誰も居なくて、さみしくて。

恋を必要としてくれた人は皆、恋の力だけが目的だった。

そして恋の力が手に余ると解れば、

そのまま手放す者、

危険な存在だとして征伐に来る者、

怖いと言って、恋を遠ざける者。

いつも、恋は独り。

 

「───殿!ね──はいつまでも───殿のお傍にいますぞ!」

 

いつも傍に居てくれる声。

だけど思い出せない。

誰だったろう。

とても、とても大切な気がする。

 

「おー!───!また昼寝かいな、たまには仕事せえよ。

 ま、それが───らしいっちゃらしいんやけどな」

 

この声も、とても大切な声。

恋を恋として見てくれる人の声。

でも、思い出せない。

 

「わん!わんわん!わん!」

 

この声も知ってる。

いつも聞いてる、皆の声。

でも、思い出せない。

 

 

 

 

 

 

独りぼっち。

 

いつも、独りぼっち。

 

いつまでも……独りぼっち。

 

 

 

 

 

 

 

──寂しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

男の術により、負の感情を増幅させると共に、大切な記憶に霧が掛かっている状態になっていた。

只ひたすらに、誰の声も届くことなく、只ひたすらに心に抱えた闇が襲いかかってくる。

それは、永遠に覚めることのない悪夢のようなものだった。

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(? ?? ?)?うぃー
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魏エンドアフター 魏√ 真・恋姫†無双 恋姫 北郷一刀 主人公強化 

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