魏エンドアフター〜家族〜
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夏侯淵「……?何だ?」

 

夏侯惇「どうした!秋蘭!!」

 

張遼隊の突撃を受けていた曹操の部隊、夏侯淵は違和感を感じていた。

張遼の考えていた策は夏侯淵にもわかっていた。

最後に全力でひと当てしてから退くつもりなのだろうと。

しかし些か突進力にかけており、

敵部隊も僅かながらに混乱しているように見える。

そして張遼の旗が掲げられているというのに当の本人が見当たらない。

さらに言えば、華雄隊とぶつかっていた劉備軍の動きが慌ただしい。

遠目からでも分かるくらいに後退してくる兵達が動揺している。

何かに怯えながら、必死に逃げているように見える。

この最後の吶喊によるものだとしても、

この突進力の無さであのような状況になるとは考えにくい。

 

夏侯淵「華雄は討ち取られ、後は攻め入るだけのはずだが……、姉者」

 

夏侯惇「何だ?」

 

夏侯淵「ここは指揮せずとも押し切れるだろう、我らは前へ出よう」

 

夏侯惇「なに?それでは劉備の軍とぶつかってしまうぞ」

 

夏侯淵「いや、大丈夫だ。

    理由はわからんが奴らは部隊を後退させている。

    しかし華雄を討ち取ったにも関わらず

    そのような状況になることがおかしいのだ」

 

敵の将を討ち取ったにも関わらず、まるで敗走でもしているような様相なのだから。

 

夏侯淵「華琳様のもとへ戻る前に状況だけでも把握しておきたい」

 

夏侯惇「なるほど。わかった」

 

状況を把握しようと、二人が前へ出ようとすると、

 

「報告します!!」

 

曹操の命により、劉備の軍に潜り込ませていた斥候が戻ってきた。

 

夏侯惇「何だ!!」

 

「敵が火矢を放った模様!既に被害は甚大!

 劉備軍も既に部隊を後退させています!」

 

夏侯淵「なるほど、火矢か」

 

夏侯惇「ふん、ならば劉備軍は敵の苦し紛れの策などでここまで動揺していると言うのか。

    やはり弱小だな」

 

「いえ、それが……」

 

夏侯淵も彼女の言葉通りなのだろうと思ったが、

兵が何かを言いたそうにしている。

 

夏侯淵「火矢が原因ではないのか?」

 

「はい、突然現れた呂布によって劉備軍は撤退せざるを得なくなりました」

 

夏侯惇「どういうことだ?

    呂布隊の吶喊に耐えられなかったということか?」

 

よく意味が理解できず、問いかける。

するとその場の光景を思い出したのか、兵が身を震わせながら

 

「……隊ではなく、文字通り、呂布一人によって

 劉備軍の兵達は撤退せざるを得なくなりました」

 

夏侯惇「なに!?」

 

夏侯淵「……見たことを全て話せ」

 

彼女に促され、兵は自分の目で見たことを全て話した。

猛将と呼ばれる三人に加え、圧倒的な力の差を見せ

華雄を討ち取ったものでさえ全く歯が立たず、

劉備軍の主と思われる男が炎に包まれた戦場で戦っている事を。

 

「あれは人じゃない……鬼だ……」

 

彼女たちへの言葉が崩れてしまう程に、兵も動揺していた。

劉備軍とは違い、幾多の戦場を駆けた曹魏の誇る兵ですら、恐怖していた。

 

夏侯淵「……どう思う、姉者」

 

にわかには信じられない。

当然だ。

関羽、張飛、趙雲は知らぬ者のほうが少ないであろうというくらいの英傑。

そして圧倒的な力で華雄を討ち取ったとされる謎の将。

それですら歯が立たないというのだから。

 

夏侯惇「わからん……が、どうせ我らは劉備の手助けをするつもりだったのだ。

    ならば我等がそこへ乗り込み、状況を打破すれば実は取れずとも名は上がる。

    華雄という華琳様への手土産がなくなった今はこれが最善の手だろう」

 

夏侯淵「……なるほどな、ならば行こう」

 

夏侯惇の言うとおり、手ぶらで主の元へ帰るわけにもいかないという事で

部隊を率いてその場へ乗り込む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孫策「……後ろが騒がしいわね」

 

周瑜「そうか?私には何も聞こえんが」

 

孫策「ううん、そういう事じゃなくて……なんていうのかしら。

   武人の勘、とでも言うのかしらね」

 

この英傑も、遥か後方で起きている事態を第六感のみで感じていた。

 

黄蓋「策殿も感じるか」

 

孫策「あら、祭も?」

 

黄蓋「うむ、どうも嫌な感じがすると思うておったが、

   策殿もそう感じておるのであれば、何かが起きているのじゃろう」

 

周瑜「二人とも何を言っているのかはわからないけど、

   我らは水関を突破し、一番手柄を上げた。今はそれだけでいい。

   いくら連合と言えど、我らに関係の無い事に首を突っ込む必要はない」

 

孫策「確かにあたしもそう思うんだけどね。

   でもね、違うのよ冥琳」

 

彼女の言っている事がいまいち理解出来ない。

 

黄蓋「うむ、これは何者かの悪意がある気がしてならん」

 

周瑜「つまり、放っておけば、後々我らにも被害があると?」

 

孫策「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

   でも呉の再建を計るなら、少しでも不安要素はなくしておいたほうがいいじゃない?」

 

周瑜「ふむ……」

 

彼女のいうことも尤も。

今は袁術の客将という事で上手く飼い慣らされているように見せているが、いずれ我らは独立する。

その時には間違いなく袁術を相手にすることになる。

たたでさえ今の呉の軍事力ではかなり不利な状況だ。

そこへさらに不安要素があっては、我らはいつまでもこの状況を脱せないだろう。

 

周瑜「わかった。どうせダメと言っても行くのでしょう。

   しかし貴女一人に行かせる訳には行かないわ。

   黄蓋殿、雪蓮の手綱をお願いします」

 

黄蓋「ほっ、任されてやろう」

 

雪蓮「むー……まぁいいわ。

   じゃあ少しばかり兵も借りていくわね」

 

周瑜「ああ、気をつけて」

 

雪蓮「うん、ありがと」

 

周瑜を納得させ、何かが起きていると思われる場所へ向かう。

 

雪蓮「さて、何が起きているのやら」

 

黄蓋「良い事でないのは確かじゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陳宮「呂布殿ーー!!!呂布殿ぉーーーー!!」

 

張遼「ちょ、阿呆!なにしとんねん!

   火の海に突っ込む馬鹿がおるかい!!」

 

陳宮「しかし中に呂布殿……恋殿がいるのですぞ!!

   見捨てろというのですか!!」

 

張遼「そんな事言うとらん!

   只馬鹿正直に真正面から突っ込んでも火達磨になって終わりやろが!」

 

自分の号令により放った火矢により

炎に包まれている呂布を放って置ける筈もなく、陳宮は取り乱していた。

 

張遼「ったく、何でこんな面倒な事になっとんねん……!」

 

間近で感じた呂布の異変。

目の前で繰り広げられているめちゃくちゃな戦い。

なぜ呂布がここまで一刀に執着しているのかは彼女にはわからない。

自分一人の独走で味方を巻き込んで居る事には甚だ怒りを覚えるが、

目の前で炎に囲まれている仲間を放って置く事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一刀「はあああッ!!」

 

呂布「────」

 

炎に囲まれた戦場で、一刀と呂布は戦い続けていた。

一刀の体力にも限界が近づき、完璧に呂布の攻撃を避ける事は難しくなっていた。

不規則なリズムで繰り出される斬撃に加え、巧みに体術を折り混ぜた呂布の戦闘スタイル。

二振りの刀を巧に操り、なんとか呂布の攻撃を凌ぎ受け流し、反撃する。

交わった得物からは火花が散り、鉄と鉄がぶつかる激しい音を響かせる。

 

星「主ッ!!くッ……この火は何とかならんのか!!!」

 

凪「氣で吹き飛ばそうにも既に規模が……!

  隊長ッ!!!」

 

炎が広がるに連れて徐々に一刀達との距離も離れてしまう。

まだ致命傷は受けていないものの、

既に切り傷による出血で体中が赤く染まっている一刀の姿を目にしているのに、

それを見ていることしかできない。

 

 

 

 

 

 

一刀「(考えろ……!考えろ……ッ!

    恋を救うにはどうすればいい!)」

 

彼女の心は今、深い暗闇に覆われ、閉ざされている。

このままではその闇は更に深く、深く彼女の心へ入り込み、蝕んでいく。

そして制御の効かなくなった自分自身によって

その身を滅ぼしてしまうだろう。

もう諦めるしかないような状況にも関わらず、

一刀は彼女を救う方法を考えていた。

休みなく振るわれる戟にその身を傷つけられながらも、

自分の命の危機など頭に無いというように、

恋を救う方法をひたすら探っていた。

目の前で苦しんでいる子がいるから。

涙を流して、助けを求めているから。

寂しいと、心を閉ざして泣いているから。

 

 

 

 

一刀「────ッ!諦めてたまるかああああああーーーーーーッ!!!!」

 

 

 

自分を鼓舞するように雄叫びを上げる。

絶対に諦めない。

絶対に助け出す。

もう、明花のように、誰にも泣いて欲しくない。

目の前に、自分が手を伸ばせば届く場所に居る人を、悲しませたくない。

 

 

 

自分の掲げた信念に嘘をつくなと、華琳に教えられたから。

 

 

 

その雄叫びは凪と星にも届いた。

絶望や失意からヤケになった叫びとは違う。

強い意思を持ち、そして怒りを秘めたような雄叫び。

 

星「主……?」

 

凪「隊長……」

 

その雄叫びは絶望に包まれていた彼女達にも、強い意思を呼び戻した。

主である彼がまだ諦めずに戦っているのに、自分たちがこんな有様でどうする、と。

 

星「……凪、一瞬でもいい、この火をお主の気弾で吹き飛ばせないか?」

 

凪「一瞬ならば可能だと思いますが……どうするおつもりですか?

  我々が割り込んだところで事態は何も──」

 

星「いや、呂布は主に任せる。

  主が呂布を抑えた後の対処だ」

 

彼を信じるしかない。

自分達では全く歯が立たず、こちらの攻撃が当たりすらしない呂布に

互角とは言わないまでも、驚異的な刀の速度によって得物を噛み合わせている。

 

星「とにかく、今我らのできる事と言えば主の退路を確保することだ。

  ……主を信じよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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誰かが言う。

 

”壊せ”と。

 

誰かが言う。

 

”奪え”と。

 

誰かが言う。

 

”喰らえ”と。

 

誰も居ない。

 

寂しい。

 

壊れる。

 

恋が、壊れる。

 

こわれる。

 

コワレル。

 

コワ……レ

 

 

「恋殿ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……音々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陳宮「恋殿ぉーーーーーー!!!」

 

喉が張り裂けそうなくらい叫ぶ。

喉が潰れたって構わない。

聞いて欲しい、自分の声を。

 

陳宮「ッ!!」

 

何も出来ない自分が悔しくて、悔しくて。

気づいたら体が勝手に動いていた。

 

張遼「音々ッ!!!」

 

燃え盛る炎の中へと、駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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一刀「はぁッ……はぁッ……!」

 

どれくらい恋と対峙しているだろうか。。

軽いはずの桜炎と摩天楼も、腕に鉛を付けられたように重く感じる。

体力は限界を超え、筋肉が痙攣しているのがわかる。

 

「恋殿ぉーーーーーーー!!!!」

 

次の攻撃に身構えていると、恋の後ろから女の子が走ってくる。

間違いない。

前の世界でも俺と恋が一緒にいるところへ何度もやってきた子。

いつも恋と一緒に居る女の子。

音々音。

衣服は所々が焼け焦げ、

火傷をしていてもおかしくないくらいにすす焦げている。

そのまま恋に無造作に駆け寄り、恋が戟を振りかぶる。

痙攣している脚に無理矢理氣を送り込み、全力で走る。

しかし、あと一歩。

あと一歩間に合わない。

 

一刀「やめろぉぉおおおーーーーーーーッ!!!」

 

手が届く直前で戟が振るわれる。

恋にとって一番大切であろう存在を、自らの手で殺めてしまう。

 

陳宮「恋殿ッ!!!」

 

呂布「────ッ」

 

一刀「ッ!?」

 

間に合わないと思われた俺の手は、戟が振り切られる前に音々を掴み、

そのまま抱え込み間合いの外へ滑り込んだ。

間違いない。

まだ恋は完全に飲まれていない。

音々の声に反応して、戟を振るう事を一瞬躊躇した。

 

──まだ助けることができる。

 

陳宮「うっ……恋殿……」

 

一刀の腕の中で、呂布に戟を振るわれた事にショックを受けているのか、表情が陰る。

だが一刀は一筋の希望を見出した。

確かに見た呂布の戸惑い。

まだ彼女は完全に心を手放してはいなかった。

 

一刀「はぁ、はぁ……ッ!まだ、諦めるな」

 

陳宮「え……?」

 

一刀「まだあの子は完全に飲まれてない。

   間違いなく君の声に反応したんだ!」

 

陳宮「飲まれ……?

   どういうことですか!」

 

涙を堪えグシグシと目を袖で拭いながら、強い口調で聞いてくる。

 

一刀「今彼女は妖術で操られてる。

   心と体を蝕まれて、無理矢理動かされてるんだ。

   このまま放っておいたら死んじまう……!」

 

陳宮「なっ!?」

 

一刀「だけどまだ飲まれてない。

   ほんの僅かだけど、意識がある。

   君の声に反応したんだ……!

   君への想いで反応したんだ!!」

 

呂布へ目を向けながら、伝わるかどうかもわからないような言葉をぶつける。

やっと見出した一筋の光。

今これを逃せば、もう二度とチャンスは来ないだろう。

 

一刀「絶対に……ッ!

   絶対に死なせない!

   絶対に助けてみせる!!」

 

陳宮「お前……」

 

一刀「だから……!

   あの子の一番の理解者である君が諦めるな!!」

 

なぜ敵であるはずの彼が、命を掛けてまで呂布を救おうとするのかはわからない。

しかし、彼の強い想いをぶつけられた事により、

音々音の中のありったけの勇気を振り絞る事ができた。

 

陳宮「……ふん!もとより諦めるつもりなど、芥子粒程もないのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏侯淵「なんだこれは……」

 

一刀達のもとへ駆けつけた夏侯淵が目にしたものは、あまりにも不可解な光景だった。

炎に囲まれた中に確認できる三つの人影。

呂布、一刀、陳宮。

普通ならば呂布と陳宮に対し、一刀が応戦しているのだろうと思うが、

彼らの戦いを見ているとそうは思えなかった。

一刀の後方に、隠れるようにして居る陳宮。

呂布の攻撃に対し、応戦している一刀も、

呂布を傷つけないように戦っているように見える。

そして一刀が呂布へ必死に呼びかける言葉。

 

”目を覚ませ”

”飲まれるな”

 

とても戦いの場に相応しいようには思えないそれを、

呂布の戟を受けながらも必死に叫んでいるのだ。

 

夏侯惇「秋蘭、どうする!」

 

目の前の不可解な光景に呆気にとられていると、姉の声が響く。

 

夏侯淵「……来たばかりの我らにこの状況はわからん。

    が、この厄介な火を鎮火することが最優先だろう」

 

星「なっ!?夏侯惇に夏侯淵!?

  なぜお主らがここにいる!」

 

不可解な状況を理解するよりも明らかな問題を解決するべく思案していると、

その場で一刀たちを見守っていた星が来る。

 

夏侯淵「話はあとだ。

    今はこの火をどうにかするほうが良いのではないか?」

 

星「っ……確かにそうだが、ここまで広がってしまった火の手をどう止める?」

 

凪「気弾で吹き飛ばす事も出来ますが、ここまで炎が大きくなってしまうと一瞬が限界で──」

 

夏侯淵「気弾で吹き飛ばす、か。なるほど」

 

凪の言葉を聞き何かを納得すると、兵に指示を出す。

 

星「何をするつもりだ?」

 

夏侯淵「なに、我々も多少ならば氣に心得がある。

    そこへ土でも布でも掛ければ

    少なくともこれ以上火の手が広がることはないだろう」

 

星「地道だな……」

 

夏侯淵「だが現状、これしか方法はあるまい」

 

「あら、ならあたしたちも手伝いましょうか?」

 

声の方向へ目を向けると、

 

星「な──」

 

孫策と黄蓋を筆頭に、孫呉の小隊が並んでいた。

 

夏侯惇「お主らはなぜここへ?」

 

孫策「何かが起こっている気がしてね。

   袁術にバレると面倒だからあたしたちだけこっそり来たのだけど、正解だったようね」

 

黄蓋「うむ、何が起きているのかは知らぬが、

   尋常ではない状況ということは把握した」

 

凪「手を……貸してくれるのですか?」

 

孫策「ま、ね。別にあたしたちは盟友でもなければ同盟を組んでいる訳でもないけど、

   せっかく連合を組んでいるのだし、一度くらいは協力してもいいと思わない?」

 

夏侯淵「ふふ、同感だ。

    袁紹の指示でない上にこれだけの英傑と、

    ということならば華琳様もお許しになってくれるだろう」

 

黄蓋「儂も氣にはそれなりに心得があるからの。

   力になれん事はあるまい」

 

凪「……ッ!ありがとうございます!!」

 

ありがたい申し出に頭を下げる。

一刀の雄叫びに勇気をもらったと言えど、状況は変わらず絶望的だった。

しかし、これだけ氣の使い手と兵がいればなんとか鎮火もできるはず。

凪と星も、絶望の中に一筋の光を見出すことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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陳宮の心からの叫びが届き、一瞬の躊躇を見せた呂布。

その後も彼女の奥底に僅かに残された意識が抗っているのか、

先ほどよりも見るからに戟を振るう速度が遅い。

しかし残された時間はもうあまりない。

呂布の体も一刀の体も、とうに限界を超えている。

戟での一閃を避け、懐へ潜り込み言葉をぶつける。

 

一刀「──思い出せッ!!

   何も無いなんて事ないだろうがッ!!」

 

呂布「────ッ!」

 

陳宮「恋殿ッ!!

   目を覚ますのです!!」

 

呂布「う”う”う”……ッ!!」

 

苦しそうな呻き声を上げながらも、戟を振るう手を休めない。

 

一刀「本当に独りだったか!!

   今までずっと独りだったか!!

   違うだろうがッ!!」

 

やっと見つけた一筋の希望を手繰り寄せる。

 

呂布「う”う”う”ッ!!!」

 

我武者羅に振るわれる戟を避け、言葉を投げかけ続ける。

彼女を想ってくれている子の、決死の覚悟を無駄にしないために。

結んだ絆が、離れないように。

 

一刀「セキトや張々達は家族じゃないのか!!」

 

呂布「う”あ”あ”あ”!!!」

 

一刀「ぐッ!!」

 

横薙ぎに戟が振るわれ、避けきれず刀で受け止める。

腕が折れてもおかしくない程の衝撃に息が詰まるも、言葉を止める訳にはいかない。

彼女から伝わってきた心の闇。

それが直接自分の頭に流れ込んできたせいか、痛いほどに気持ちがわかってしまう。

だからやめる訳にはいかない。

諦める訳にはいかない。

 

一刀「霞はお前を恐れたか!!

   友達として見てくれてたんじゃないのか!!」

 

呂布「ああああああああああッ!!!」

 

雄叫びを上げ、大粒の涙を流しながら戟を振るい続ける。

感情が爆発したかのようなその叫びは、悲痛な色に染まっていた。

 

一刀「ずっと傍に居てくれた子が居るだろうが!!

   これからもずっと──傍に居てくれる子が居るだろうがッ!!!」

 

呂布「う”あ”あ”ああああああああああああああ!!!」

 

今まで以上の叫び声を上げ、渾身の一撃を振るう。

 

陳宮「まずいのです!!!」

 

一刀「ッ!?

   があああああッ!!!」

 

桜炎、摩天楼で防御したにも関わらず、

その防御の上からの一撃に苦痛の声を上げる。

暴走した必殺の一撃に、彼の体が耐え切れなかった。

苦痛の叫びと共に飛沫を上げる赤い鮮血。

 

一刀「ぐぅ……ッ!!」

 

防御の上から叩き伏せられ、体を回転させながらその場を脱する。

 

一刀「はぁ、はぁ……ッ!」

 

陳宮「ッ──!!!」

 

間合いを抜け、体勢を整え、起き上がった彼の左腕は力なく垂れ下がっていた。

深く刃が食い込み、まるで水でも零したかのように赤い液体が腕を伝っている。

それでも彼の目は死んでいない。

絶対に諦めないと誓ったから。

 

陳宮「…………」

 

ボロボロになりながらも彼女を救おうとする彼を見て、

体中に電気が走ったかのような衝撃に見舞われる。

 

”一番の理解者である君が諦めるな”

 

彼の言葉が頭に蘇る。

彼女もまた、命を賭けて呂布を救おうとしていた。

 

 

左腕は力なく垂れ下がっている。

もう今までのように刀でいなし、避ける事は難しい。

となれば次の一撃で全てが決まるだろう。

幸い手元に残ったのは摩天楼。

多少無理をしてもこの刀なら耐えてくれるはず。

 

摩天楼を鞘へ収め腰を落とし、呂布の出方を見る。

雄叫びを上げながら突進してくる。

 

一瞬だ。

この一瞬で全てが決まる。

俺の命も、恋の命も、この一瞬で決まる。

 

残されたありったけの氣を総動員し、身構える。

まだ完全に氣が戻っていない状態でこの一撃を放てば、間違いなく激痛が襲ってくるだろう。

 

限界まで引き寄せる。

周囲の物音も聞こえなくなるくらいに集中する。

ここで自分が死ねば、目の前で苦しんでいる子を救う事ができなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

──それだけは絶対に嫌だッ!!

 

 

 

 

 

 

 

呂布が間合いに入り戟を振るい、一刀に刃が届こうかという瞬間を狙い、

 

一刀「うおあああッ!!!!」

 

全身全霊。

ありったけの氣を込めての居合。

摩天楼が方天画戟に触れ、激しい火花を散らすと共に、

刀に纏っていた氣が飛び散り、深紅の華が吹雪いた。

全力で氣を使用しての居合により、体中に激痛が走る。

 

一刀「ぎッ──!!

   ああああああッ!!」

 

それでも身体を硬直させる事なく、

一瞬動きの止まった呂布の更に懐へ潜り込み、

握っている戟目掛け、かち上げるように蹴りを入れる。

蹴り上げた戟は呂布の手を離れ、後方へ落下し地面へ突き刺さった。

 

しかし呂布は武器を手放しても突進をやめなかった。

飛ばされた武器に見向きもせずにそのまま一刀へ突進し、壁へ叩きつける。

 

一刀「う”あ”あ”あああああッ!!!」

 

左腕の傷口をもろに握られ、苦痛の叫びを上げる。

壁に叩きつけられ、もう為す術なく、呂布に嬲り殺されるだろうと思った。

しかし、そのまま無手での攻撃の嵐が来るかと思いきや、

叩きつけたままの姿勢で止まっている。

大粒の涙をボロボロと流し、ぐちゃぐちゃになった顔で一刀を見つめ、止まっている。

左腕を襲う激痛を堪え、そのまま右腕を呂布の頭の後ろに回し、胸に抱き寄せ──

 

一刀「ッ……音々は、恋にとって一番大切な子だろ。

   思い出せ。

   忘れちゃダメだ。絶対に」

 

そう呟き、あの時と同じように、闇を吸い寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだろう。

 

暖かい。

 

すごく、暖かい。

 

それに……優しい匂い。

 

 

「音々は、恋にとって一番大切な子だろ」

 

 

音々。

 

ずっと、恋と一緒に居てくれた。

 

恋の事を怖がらないで

 

ずっと隣に居てくれた。

 

 

「思い出せ。

 忘れちゃダメだ。絶対に」

 

 

忘れるはずがない。

 

忘れられるはずがない。

 

だって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──家族だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を抱き寄せられた姿勢から力が抜け、二人揃ってズルズルとその場に座り込む。

 

一刀「……思い出した?」

 

恋「……思い出した」

 

一刀の胸に顔をうずめたまま、小さく呟くように答える。

 

一刀「独りだった?」

 

恋「……違う」

 

一刀「誰が居た?」

 

恋「音々も、霞も、月も詠も、セキト達も……皆居た」

 

一刀「じゃあ、独りじゃないね」

 

恋「……(コク)」

 

静かな問答。

今までの激戦がウソだったかのように、ひたすらに静かな時間が流れた。

 

一刀「ほら、君を心配してあんなになってまでここへ来てくれたんだ」

 

一刀の促す方へ目を向けると、

衣服の所々が焼け焦げ、すす汚れた顔の音々が居た。

 

恋「……音々」

 

その少女の真名を呟くと、段々とその瞳が濡れ、涙で頬を濡らしながら、

 

音々「恋殿ぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

大声で泣きじゃくりながら、恋のもとへ走ってきた。

 

音々「でんどど(恋殿)ぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

そのままの勢いで、一刀にもたれかかっている恋へ抱きつき、

涙でぐちゃぐちゃになった顔を擦りつける。

 

音々「じんじでおりましだぞ(信じておりましたぞ)!!

   でではでんどどをずっとじんじでおりまじだ(ねねは恋殿をずっと信じておりました)!!!」

 

多分、恋にも音々が何を言っているのかはわかっていないと思う。

でも、その気持ちはしっかり伝わっているはず。

その証拠に、

 

恋「音々」

 

彼女は音々の体に手を回し、その小さな体を抱き寄せ、涙を流した。

 

音々「で、ですが恋殿!

   音々の軽率な判断で放ってしまった火矢のせいで、もうこんなに火の手が……!」

 

少しは落ち着きを取り戻したのか、人の聞き取れる言語で話すことができるようになっている。

 

一刀「ああ、それなら大丈夫だと思う」

 

音々「な、何が大丈夫だというのですか!」

 

一刀「ほら」

 

そう言い、顔を向けてその方向へ促すと、

 

凪「はあああーーーーーーーーーーー!!!」

 

凄まじい勢いの気弾が地面を吹き飛ばし、そこを中心に兵達が鎮火活動をしていた。

その甲斐あってか退路を確保することに成功。

 

一刀「動ける?」

 

恋「…………」

 

試そうとしたのか、体を動かそうと身じろぎをするが、

 

恋「動かない」

 

一刀「あはは、俺も」

 

二人揃って体力の限界を超え、その場を動けずにいた。

 

音々「笑ってる場合ですか!」

 

一刀「いやほら、もう皆来てくれたし、

   大人しく担いでもらったほうがいいかなーと」

 

音々「全く……ちょっとその腕よこすのです」

 

そう言うと、自分の衣服の一部を千切り、

深く傷のついた左腕の患部へ巻きつける。

 

一刀「ありがと」

 

音々「ふん」

 

お礼を言うと、照れくさそうに顔を背ける。

 

星「主ッ!!」

 

凪「隊長!!」

 

そしてそこへようやくこちらに来れるくらいまでに火が弱まり、二人が駆けつけてくれた。

 

凪「よかった……ご無事で……!」

 

星「全く……生きた心地がしませんでしたぞ」

 

一刀「あはは、ごめんごめん。

   とりあえず俺達は動けないから、担架か何か持ってきてくれないか?」

 

凪「はっ!」

 

俺の指示に凪が返事をし、急いで担架を取りに戻る。

 

星「呂布も、ですか?」

 

恋「…………」

 

一刀「うん。

   事情は後で説明するから、この子達も手当してやって」

 

星「……御意」

 

こうして、長い、とてつもなく長い戦いが終わった。

これからまだ洛陽に行かなきゃいけないというのに、

こんな疲労していては先が思いやられる。

しかしまだ全てが終わったとは思ってはいない。

恋を通じて見えたあの白装束が、これだけで事態を終わらせる訳はないのだから。

でも今は、恋を救えたという達成感に浸っていても罰は当たらないだろう。

 

疲れきって自分の腕の中で眠るこの子達を、救う事が出来た。

その安らかな表情に釣られたのか、自分にも急激に睡魔が襲ってくる。

音々も憔悴しきってしまったのか、恋の腕の中で眠ってしまっている。

 

この二人の安らかな表情を見れただけでも、頑張った甲斐があったってもんだ。

 

一刀「あー……すげぇ疲れた」

 

そう一言呟き、彼も深い眠りへと落ちていった。

説明
題名が分かりづらいとの事ですが、私はそういったインスピレーションが無いので難しいところです。
蜀の話はそんなに長く続けるつもりは無いので気にしてなかったのですが、【蜀編】とかつければおkなのかな( ・・)?
それとも前みたいに数字のみに変えたほうがいいでしょうか。
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コメント
一刀君強くなって)ほろり。とりあえず恋のフラグは回収と。(レイブン)
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