Lycoris
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((暗殺者|アサシン))。

 

いや、テロリストとも言うのかも。

 

彼らは卓越した技術と能力を持ち。

裏社会を跋扈する。

世界の闇、そのものだ。

 

僕は不安だ。

この仕事は、多くのヒトの命を奪う事になるし、仲間の命が危機にさらる事すらある。

そして、自分の命をかける事にもなる。

 

それが怖い。

 

師であるお兄ちゃんは

「それでいい。

誰もが忘れる恐怖、お前は忘れてはいけない。

恐怖の忘却は、多くの同胞を失った。

お前は死んではいけないぞ。

 

父上と母上はお前にF.E.n.という名前を付けた。

全てを終わらせる、Fin。

それにちなんでつけた名前。

 

おまえは、終わらせるんだ。

リコリスが世界を平和にして、ヒトを、殺さなくて良いように。」

 

「僕には、出来ないと思うんだ、お兄ちゃん」

 

一つの小屋の中

ここは、兄弟の家ではない。

 

空き家を占領して、一時的な基地としているのだ。

 

「オレだと無理だ。

おまえにやってもらわないと、フェン。」

 

外は雪だ。

白い衣装の僕たちにとっては、絶好の好機だった。

 

「でも……」

 

「オレはもう顔が知られている

お前はまだだ。

いいか、オレが先に地下道から出る

お前は一刻の後、この小屋の正面から堂々と出て行け。」

 

「………うん。」

 

「目的地には二刻に着くように。

それまでは周りの兵を抜ける方法を見てから考える。

基本作戦はオレが暴れてから逃げて、兵とターゲットの意識を向ける。

その隙に突け。

目的が済んだら、二日後に家で落ち合おう

いいね、いこうか、フェン」

 

正直、のり気じゃない。

でも、この世界の現状を変える為には仕方ないのかもしれない。

 

僕は、優れた善人なんかじゃないんだから――

 

 

 

 

「結界の起動まではまだか?」

 

「ええ、その、魔力媒介の入手に手間取っておりまして……。」

 

「馬鹿者!

人の子一人持っていくのにどれだけ時間がかかっているんだ!」

 

「それが――例の、何者かが動いているようで。

あらゆる地域の見回りが殺されているのです。

皆、まるで時間が止まったかのような死に様でした。

話の合間に笑っている顔のまま倒れていたり。

体温はありませんでした、心臓も動いていません。

まるで、魂どころか、電気をそのまま抜かれた、ロボットの様な死に様でした…。」

 

「奴が、来てるのか。」

 

「おそらく。」

 

「くそっ

いいか、やつらの存在を世間に露見させよう。

そして然るべき措置を取らせるのだ。」

 

屋内に居る男は電気も点いてない室内の奥の方へ消えていった。

そも、この世界の文化では、基本的にまだ火を灯りにしているが、その松明すら消えて、薄い闇を張っている。

 

まさに正当なる政治家だ。

人民からの支持が厚いのも納得する。

 

屋内のシャンデリアは明かりが点いてなく。

黙視するのにちょうど良いところだった。

 

部下の男は出口に向かっていく。

 

今だ、今しかない。

 

「ふッ」

 

地上に降りて、すぐに出口の閂を入れる。

 

とすん、フェンは手を着くことなく、一軒家並の高さから飛び降りた。

 

「うわっ!」

 

男はすぐにきびすを返して、さっきの主の居た部屋へと向かおうと走り出す。

 

「ふんっ」

 

ワイヤーを投げ、奥のシャンデリアに引っかけ、魔法で引き上げる。

加速し、体は浮き上がる。

 

男より速く上空を通過し、マジックガンを取り出すと、男の足下に打ち放つ。

 

「うぎゃっ!」

 

男の足下が崩され、男はバランスを崩し転がる。

 

マジックガンは魔力をエネルギーに変換し、無属性な半物質となり相手を撃つ魔術的機械だ。

 

フェンは扉の前に着地した。

ガツンと音がすると、扉の掴む所が潰されていた。

フェンが殴ったのだ。

 

「……う、うわ。」

 

「バーサーカー・三〇。」

 

フェンがボソボソとそう告げた。

その吐きは、己に向けて。

 

空気が、変わる。

 

「く、くそ!来やがれ!」

男には自信があった。

何せ、そこに居たフェンは顔こそ見えないものの、白い肌に透き通った声に、肩口にかかる髪の、女性のようななりだからだ。

女性と信じて疑わなかった。

腕力で押し負ける気などそうそう無かった。

 

が。

 

「むごっ!?」

 

フェンの動きは、早かった。

瞬間にして、男のみぞおちを殴っている。

 

男の視界では、フェンがぬるりと距離を詰めた映像に見えた。

しかし、実際は大きな一歩で距離を詰めていた。

 

「ひ、ひいいい!」

 

横に逃げる、そこに、ナイフが飛んだ。

男はそれをきびすを返して走ることで避ける。

だが、走って逃げる先には、フェンが居た。

 

明らかにナイフの投擲方向とは矛盾する所に立っているように見えるが、フェンはすぐに場所を変えただけだ。

 

「くっそ!」

 

剣を抜くと、男はフェンへと切りかかる。

((華奢|きゃしゃ))な体型のフェンだが、その剣を自分の剣で受けた。

 

打ち負けた、この瞬間、男からは勝負という名の行動ではなくなった。

そう、ここから先は、男にとって、いかに逃げ延びるかであった。

 

「くそ!何で!」

 

アテが大きく外れた、女だとなめていた相手は、超人的な武人であったのだ。

 

剣を構え、投げナイフをも捌く気で構える。

 

しかし、飛んできたのは、足だった。

 

フェンの体が跳ね、空中で回転すると、踵が落ちてきた。

刃を相手の足に向けて、来る攻撃を利用して切ろうとする。

 

しかし、なんという動きだろうか。

剣を構えたのが見えた途端、彼は空中で上半身を起こし、剣を両手で掴んだのだ。

向きを反らされた剣は威力を失い、踵を男に打ち突けるのを許してしまった。

 

「おがァっ!」

 

いくら華奢なフェンであるとはいえ、空中から落ちてきた肉体の重みを一点に集中し打ち突けられたら、相応な攻撃力を誇る。

 

「くそおおおォ!」

 

男の肩が脱臼し、剣を左手に持ち変える。

 

フェンは一言も言葉を発しないまま、拳を突き出した。

一、二、三撃

すべてフェイクの寸止めの拳だ。

一、二まで追っていた剣も、三撃目には混乱して動かなくなっている。

それを超人的なスピードで判断した後、膝で男の腹をどついた。

 

「――うぶっ!」

 

よろけた男を、また空中から踵落としを決め込んだ。

どういう動きをしているのか、上げた膝の勢いを利用し、飛び出し、男を飛び越え、行き過ぎる前に空中で回転して後ろから踵を落とす。

剣は音を立てて床を滑り、男は頼みの剣を失い、戦意を失った。

 

「よせ――!

やめ、や」

 

静か、だった。

日光が照り、屋内は明るさを得る。

男はその薄明かりから、フードの中のフェンの顔を見て取れた。

それでも、女性と信じるほどの、可憐で中性的な顔立ちだった。

 

「貴方の主について、教えて」

 

透き通る、高めの声が部屋に響く。

 

男にとって、やはりそれは女としか認識出来なかった。

 

「これからの行動

そして、人を一人連れてくるって、誰?」

 

「教えるものか――

殺れ、お前達は永遠に罰せられる、だろう。」

 

「貴方、死ぬのは怖くないの?」

 

「――フン。

それが、これからオレを殺す奴の言い分か?」

 

「――――ごめんなさい。」

 

籠手に装備していた武器で、男の腹を突く。

 

「……」

 

男は既に、死別していた。

 

「全ては神の裁きなり

祖は平和への糧となろう……。」

 

時間が止まったように死んでいるその肉体を後に、フェンは主の居た部屋へと向かった。

 

取っ手が破壊された部屋の前、先ほどの((籠手|こて))に内蔵されている、細い円柱の棒は、一個体、あるいはある程度の質量の魔力を弾き出すという代物。

魔力とは、あらゆるもののエネルギーを補う力だ。

人間にそれを使えば、一瞬にして全ての生命活動を停止させる。

魂と言うものまで、弾き出してしまうのだ。

実質、生き返る事は、不可能だった。

 

それを扉に使えば、今度はその扉が一気に朽ちて落ちる。

 

中は密閉された室内だ、だが、あの主の姿はなかった。

 

代わりに聞いたのは、後ろからの声だ。

 

「見事だ、君みたいなのをアサシンっていうのかね。」

 

後ろに居たのは、神だ。

 

ここ、ムー大陸には、天界から神が降りてきて、共に生活していた。

もっとも、神は精神的な生き物であり、人間より遙かに長寿で丈夫だ。

 

「……ここに居た、男はどうしたの。」

 

「ん、これは驚いた。

君もその男を追っていたのか…。

申し訳ない、先に殺ってしまったよ。」

 

投げ出された死体がある。

傷つき、ボロボロになった体だ。

 

「君との戦闘が予知出来たのか、どうなのか、隠し扉から出ていったよ。

そこを私が殺した。」

 

「何で?」

 

「君たちの事を聞きたくてね。」

 

「…………それは、天界の神が僕達を調べてるって、そう言うことなの?」

 

「正しく。」

 

フェンは、怖じ気付いた。

予定が狂っている、これは失敗するのではないか。

この男を、この神を倒さなくては。

 

「我々は単に追っているだけだ。」

 

「そうか、それは参ったもんだ。」

 

神の背後から、聞きなれた声がした。

 

「お兄!」

 

「おまたせ、フェン。

ある程度一掃出来たから、お前が大丈夫かと思ってな。」

 

「ほう、兄妹なのか。

どれ、お前たちにも、聞かなくて――」

 

「mesolte」

「anteelmis」

 

魔法の詠唱を、二人で紡ぐ。

兄が詠唱を始め、それにフェンは合わせたのだ。

多人数詠唱、これにより、魔法はさらに強くなる。

 

「ぬうっ!?」

 

神を束縛する。

 

「どう言うことだ!?」

 

「貴方はまだ僕たちの事をわかってないよ。」

 

「これは魔法陣による、概念束縛の魔法だ。

お前は不運だった、ここは俺たちの組織が設置しておいた魔法陣のポイントだったんだ。

そこの中に、お前は入ってしまった、俺たちは、地下にある魔法陣を起動させただけだ。」

 

「――っぐうううオオォォ!!」

 

神の主成分は魔力が主だ、彼らは魔術的束縛にとても弱い。

 

殺し屋、二人が神へと近づいていく、そして、両方から籠手に納めてあった棒を突く。

 

神は、消えていく。

精神的存在である神は、霊気させている魔力を失うと消滅を待つのみだ。

 

「往ね、神よ。」

「往け、神よ。」

 

全ては神の裁きなり。

祖は平和への糧となろう。

 

「――行くぞ、また会うから挨拶は要らないな?」

 

「…………。」

 

二人は無言で別れを告げる。

 

フェンは外へと、兄のレフィンは屋内の隠し扉を探しに、奥に入っていった。

 

壁一枚、向こうは雪の降る、番兵の跋扈する空間だ。

これから民衆として紛れる為、つけていた武器を捨て、武装を籠手だけにする。

少しの時間を置いてから、フェンはフードを外し、外へ出た。

 

「番兵さん!番兵さん助けてー!

中に、中に暗殺者が居るのぉ!」

 

外に居た兵はすぐにフェンに駆け寄った。

 

何人かはすぐに、建物の中に入っていく。

 

「きみ、どうした!?」

 

「中で…人がっ……っ。」

 

「落ち着いて聞かせてくれ、人が?」

 

「殺されて、ました。

助けて!ボクも殺される!」

 

「お、落ち着いて、ええい、着いてこい。」

 

「あの!兵長!」

 

「なんだ!?」

 

「モルタリア様が……殺されています。」

 

「な、何!?」

 

ターゲットだ。

なんだ、彼しか見つけられなかったのか、と兵とは裏腹、フェンは安堵した。

 

「君、今すぐ町を出なさい、護衛の兵をつけるから。」

 

「ありがとう、ございます。」

 

上手く行っている。

少なくともフェンはその時、そう確信していた。

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「お嬢さん、準備は整ったのか?」

 

翌日、ボクは詰め所で一晩過ごしてから町を発った。

兵達は「久々の女だ!」とか喜んでいた。

正直、何かされたりするのか、と気が気でなかった。

常に籠手に納めてある反魔力体を構える準備をしていた。

寝るときですらも、片時も。

順調とは、恐ろしいものだ。

だが、理には叶っていた、灯台下暗しとはこの事である。

まさか誰も、自分から敵地に匿われる事を望む者が居るとは考えまい。

 

それでも、彼が不安を覚えるのは、彼自身もよくわかっていた、自分は、恐がりなのだ、と。

 

「君の護衛をするジョージスだ、よろしく。」

 

「私はマルスだ、そういえば、貴方の名前を聞いておりませんでしたね、お姫様。」

 

「そんな、大層な人じゃありません、ボクはカノンです。」

 

偽名だ。

だが、相手にボクの名前が行くのはよろしくない。

 

しかし、兵とは、これほどにまで、穏やかな人々だったろうか?

いや、考えすぎだ、落ち着こう、恐怖で気が散漫している。

 

フェンは己を制するように構える。

 

「よろしく、聞けば君はこの町の出身じゃないそうだな。

それにしては、なんであんな所に居たんだ?」

 

あの建物は、上級階級の人間しか入れない所だった。

そんなありきたりな質問への回答など、寝ているフリをしてる内に何回もイメージトレーニングし、検証を繰り返した。

 

「私の町から、モルタリア様に電報を預かっておりました。

道に迷ってしまって、変なところからあそこに入れてしまって。」

 

「あんな目立つ建物なのに?」

 

「ボク、すごくドジなんですよ、それはもう、信じられないくらい。」

 

「ははは、そうだな、そう見える。」

 

ジョージスとマルスから、敵意を今のところ感じない

どうやら、正真正銘味方のようだ。

 

「なんでボクなんかに、貴方方のような優秀な護衛がつけられたのでしょう…?」

 

「君は近頃の若者にしては清楚、とも言うべきかな。

その性格が、副町長に買われたようだね。」

 

「また俺たちの町に来てほしいそうだ。

その時は歓迎するぜ、詰め所でもよろしければ、だけどな。」

 

「ふふ、ありがとう。」

 

言わないが、絶対御免だと考えたフェンであった。

 

町の結界を越える。

町の結界は、外部からのあらゆる外敵から町を守る為に作られた結界だ。

基本は五つの札からなり、その札が、魔物を近寄らせず、時には悪意ある人間をも撃退する。

 

結界についての効果の範囲は三つ。

外界反応型。

境界反応型。

内界反応型。

町によって結界も異なり、この町の結界は、境界反応型だ。

結界を越えた瞬間に、心理を読みとられ、クリア出来なかった者は、何らかの魔法迎撃が行われるようだ。

 

ボクには、そのようなものは効かない。

そもそも、ボクらリコリスの人々は、この籠手に納めてある反魔力組織の棒、ヴィマーによってあらゆる魔法的障害を無効化する。

 

この結界のせいもあって、この町の人間はまさか暗殺者が外から来たとは考えないはずだ。

 

「カノン、君はレイモービルに乗ったことは?」

 

「あ、ああ、はい、見習い程度ですが…

先導してくれれば。」

 

使いの者という設定なのに、見習い程度でいいものだろうか。

だめだ、一日詰め所というのはある意味尊大な精神的な攻撃でもある。

 

「そうか、じゃあ、レイモービルを借りてくる。」

 

レイモービル、ムー大陸に伝わる、レーザー出力の魔力によって浮遊し、移動する機械。

 

レイライダーというのもあるのだが、こちらは学生などが自転車の用に使うものだった。

馬や車など、最速の自立移動機械はレイモービルが先進的だ。

 

ボクはここでフードをかぶる。

 

「おお、大きなフードだな、どうしたんだ?」

 

「女だって思われると、山賊や盗賊が黙っていないので……。」

 

「そういう輩から守るのが俺たちの仕事なんだけどなぁ、全く。」

 

「すみません、お守りみたいなものなんです。」

 

嘘ではない。

リコリスの援助監視に、フードの被ってないアサシンが兵をつれているのは、自分は危険だ、という意思表示になるのだ。

 

今、兵をつれてるこの状態でフードを被ってなければ、ボクを巻き添えにしてでも、この二人を殺しかねない。

 

「行きましょう、ホームシックになっちゃいますよ。」

 

 

「オラ待て、そこのアサシン!」

 

声が聞こえた、先ほどの町からは大分離れたところだ。

 

「下がって、カノン」

 

おかしい。

なぜだ?

バレているのか。

それとも、お兄ちゃんが……?

 

不安症なフェンにとって、これほどまでに、起こって欲しくない事はなかった。

 

だが木の林立する山から降りてきたのは、山賊だ。

 

「おやおやあ?

兵士さん、どうしたんだぁ?

そいつ、おまえ達の護衛してるヤツはアサシンだぞ?」

 

二人は、案の定固まっていた。

 

……まずい。

 

「カノン……正直に答えて、どうなんだ?」

 

「…………。」

 

完全に思考がフリーズしてる。

こんな状態。

こんな状態で、一体どうやって…。

 

「おら、怖じ気付いてるじゃあねえか、よせよ、マルス。」

 

……助かった、のか?

 

「オラどうしたアサシン!さあ来いよ!

お得意の超能力で俺たちに勝ってみろ!」

 

「いくぞ、マルス。」

 

「ああ、ジョージス。」

 

騎士二人は、モービルを片手で扱い、飛んでいく。

 

ボクは、アサシンの身のこなしをみせるわけにはいかない。

なるべくして、敵とはちあわないようにおどおどと逃げまどうフリをする。

 

「キザ野郎が!」

 

山賊がマルスに斧を振りかざす。

魔力を霊気させるのが、フェンには見えていた。

あれは、魔力放出だ。

魔力で振り下ろすスピードを上げているのだ。

 

しかし、対するマルスは。

 

「どうやら力はあるようだね。」

 

刀身の細い剣で受け流し、懐へ潜り込む。

 

「ちぃッ!」

 

斧を上げるのには魔力を使えない、魔力放出はそんな短いサイクルで出来るものじゃないからだ。

そこへマルスの足が飛ぶ、上げようとする斧を踏みつぶした。

 

殴りつける山賊の手を必要最低限の行動で避けるマルス。

 

スピードスター。

彼はそういう超能力者なのだ。

 

「はッ!」

 

刺し穿つ。

細い刀身には、血が滴っている。

 

「あぶねえカノン!」

 

後ろに来ていた山賊二人を、ジョージスが止めに入った。

ジョージスは、ブエルム使いだ。

 

ブエルムとは、柄の部分を振り回し、様々な形状の刃物を飛ばしたり、魔法を併用したりする武器だ。

 

彼がブエルムで振り回している武器は、他には類を見ない程の、重たく、丈夫そうな刃物だった。

巧みに操ると、相手二人の背後から、相手二人の脳天に直撃させる。

 

「オイマルス!おされてんぞ!」

 

「不味いね…!」

 

二人と、ボクの距離が縮まる。

それは、山賊がこちらに押し入ってると言うことだ。

 

「おおおおおらあァアアア!」

 

「むっ!?」

 

「うっ!?」

 

横から、大男が飛びかかってきた。

空に飛ぶそれにめがけて、ジョージスはブエルムを飛ばすが、弾くどころか、粉砕されていく。

 

「マジかよ!!」

 

「――ッ!」

 

マルスは剣で受けようとするが、対する相手はクロスクラッチハンマーという武器だ。

魔法による機械仕掛けの武器で、両腕あわせて使うと、二つのハンマーによるプレス攻撃が待っている。

その威力は衣類が圧力でダメになるほどだ。

 

無論、刀身の細い剣なんか簡単に崩れてしまう。

 

「――――あぐっ!」

 

大男にのし掛かられて、マルスは戦力を失った。

 

「マルス!」

 

円盤型の刃を片手に持ち、物理攻撃をしにいくジョージスだが――――

 

「ぬウゥン!」

 

ふたたび、クロスクラッチハンマーに粉砕された。

 

「くそっ!―――うぉっ!!」

 

二人は取り押さえられた。

 

「よお、アサシンさんよ、ようやく大人しく会話が出来るな。」

 

「――――。」

 

「アマだと思ってなめるな、痛い目見るぞ、野郎共。」

 

「聞きたい事が、あるのだけど。」

 

「おおん?どれ、聞いてやろう、お前を捕まえた後で、じっくりその女みてえな声で泣かせてからな。」

 

ぞっとした、こんなありきたりな脅しに。

 

でも、今はそれどころではない。

この二人が死ぬ理由はない、こんなになるまで、自分の嘘を信じてくれた者達が。

 

「捕まえろ。」

 

後ろから手が延びる。

 

「――お?」

 

掴まれた途端、フェンはその手を引いた。

 

前のめりになった兵の上に空中で回転をし、兵の背中をバネ代わりに、山賊の軍隊から飛び出る。

 

「おい!追え!」

 

空中に飛んだまま、マジックガンを取り出し、兵隊の目の前に撃ち、進行を妨げる。

 

すとん、と、地面に着地する。

 

「ごめんよ、マルス、ジョージス。

ボクの名前はフェン。

リコリスに所属する――――アサシンだっ。」

 

「殺れ!!」

 

大男の命令で、男たちはフェンに食ってかかる。

 

「そんな華奢な体で何が出来んだよお姫さん!」

 

バーサーカー。

 

彼の口は、声帯を震わすことなくそう象った。

 

三人の男が斧を不規則に振り回してくる。

 

柄の部分のところへ入り込み、相手の視界が追いつく前に、両端の男達から両手で斧をぶんどり、口も使って、三つ目の斧もぶんどる。

敵に背中をむける形で懐に入り込んでいたフェンは、そのまま前方に一歩踏み出すと、回転して、その勢いで斧を振り、一人の男の首を掻き切る。

 

ブン、と振り回すと、逆手持ちで持っていた斧が元の持ち方へ直る。

それをもう一度振るったら、斧は飛び、一人の頭に命中した。

頭蓋骨を割られて、男は力無く倒れる

 

「おおおおおお!!」

 

横と前から敵が来る。

フェンは、左手に余った斧を、高く緩い放物線をつけて、武器を奪った男へ投げた。

男は攻め込む事も出来ず、進行方向を失い、一旦後ろに下がる。

 

フェンが口元に斧をくわえたまま、大降りな男の一撃を速く、そして姿勢を低く、かわした。

口の斧を右手に持ち変えると、ぶん、と相手の斧を天に舞上げる。

その流れのまま、先ほど後ずさった男の首を、斧を投げてかっ飛ばす。

フェンは間髪入れず、相手の腹にパンチを当てる。

男はうずくまる。

フェンは下がってきた頭へ、サマーソルトを決める。

男は、仰向けに倒される、そして。

 

落ちてきた斧に、首を持って行かれた。

 

「すげェ――…。」

 

「くそがッ!!」

 

大剣が振り落とされる。

フェンはそれを、人差し指と親指だけで、摘むように白羽取りを決める。

間合いの大きい男へ、白羽取りをしながら、前に進み、男の腹にヴィマーを打つ。

 

男の記憶は、剣を振った記憶で途切れた。

 

大剣は手が緩んで、フェンの右手に渡る。

まず右下にその大剣の刃を持ったままブンブンと振り回し、下げる、そして、団体の一人に向かって、刃を持ったまま、柄を掴むことなく大剣を投げ飛ばす。

 

それは、大男の肩を突き刺した。

他人には偶然に見えたであろうが。

寸分違わず、大男の利き腕、左腕の肩を意図的に持っていったのだ。

「うわああぁぁぁあ!」

 

山賊達は逃げていく。

 

フェンは靴に霊気させておいた魔力を使って、飛び出し、空中で大男の頭を鷲掴みにする形で掴まえた。

 

 

 

 

 

「――聞きたい事が…あるのだけど。」

 

「な、にを……」

 

「ボクの事を、誰から聞いたの。」

 

「し、シルソティス、シルソティスだよ!

あのちょっと出来る魔法使いがッ!」

 

シルソティス?

聞いたことはあれど、接触したことはない人物だった。

 

「……本当に?」

 

「本当だ!断じて本当!本当だから!!」

 

「そっか――」

 

「殺さ――」

 

「全ては神の裁きなり。

祖は平和への糧となろう……。」

 

ヴィマーが、男の体に突き穿つ。

男の視界は、凶悪ながらも、可憐な少年をとらえて、無くなった。

 

「か、カノン――」

 

「マルス、ジョージス。

貴方たちは町に戻らないと、誓える?」

 

「……どういう事だよ…!?」

 

「ボクが、貴方達を生かす、手ほどきをしてあげる、その先の事は、貴方達で、生きていくの――」

 

フェンは、ゆっくりと膝を着き、マルスとジョージスの肩を寄せて、頭を下げて、言った。

 

「ごめんなさい――

 

――ボクは、優れた善人じゃ、無いんだ。

 

貴方達が帰ると言うなら、ボクは貴方達を殺さなくちゃならない。

お願い、着いてきて……。」

 

年端もいかない、可憐な少年の透き通った声。

 

漢達は、目を見合わせた。

 

「わかりました――」

 

「まじかよマルス……。

俺は、む、む、無理だ、よ。」

 

「……ッ」

 

籠手に左手を当てて、震える。

 

フードを下から見ると、フェンの顔が見て取れた。

追いつめられた顔、今にも泣きそうな顔だ。

彼は、アサシンには不釣り合いな程、優しい人間なのだ。

しかし、ジョージスも、追いつめられていた。

仮にも任せてと言った人間がこのざまなのだ。

自分は、どうなってしまうのだろう、と急激で過激な不信感に駆られた。

 

「――あ――ぁ――っ!

うわあああああぁあぁああ!」

 

逃げる。

 

逃げてしまう。

 

ああ、足が、足が

 

動け、動け、動け

 

世界を、こんな世界を変えなくちゃ――

 

 

 

ドッ

 

「全て、神の裁きなり。

祖は平和への糧となろう。

往ね、この、大地から――」

 

ジョージスの記憶は、恐怖と旋律の衝動で、幕を閉じた。

 

「お兄――ちゃん。」

兄がそこには、立っていた。

フェンにとって、その存在は、とても大きいものだった。

アサシンを続けられる、より所でもあった。

 

「お前が出来ない事は、俺がやる。

お前のそばには、俺が居る、忘れるな、フェン。

お前は、一人じゃないから――。」

 

「うん――うん――……っ!」

 

「二人で終わらせよう、この惨劇を。」

 

兄は、微笑んで手をさしのべた。

フェンは、すがるようにおびえたように、その手を握る。

 

「よし来た!」

 

「えっと、わわっ!」

 

レフィンは、その手を引き寄せ、弟を包容した。

 

レフィンにとってはたった一人の大事な家族なのだ。

妹なら拒むところではあろうが、彼にとってはたとえどんな外見をしていようが、フェンは弟なのだ。

 

「怖かったな、大丈夫だ――」

 

フェンは、ただただ、兄の腕の中で、安堵した、そして、急激な、睡魔に襲われた――――。

説明
この物語は腐女子じゃなくても楽しめるかと。まあ周りの腐女子たちに影響されたのは否めないけどもwファンタジックアクション暗殺系ですから?←訳がわからない■フェンという少女のような少年が居た。彼はアサシンである。性別を偽るのは暗殺者達にとっては不思議でもない事だった。兄とともにささやかに幸せでありながら人を殺す仕事をしていた。――あるとき、魔女、シルソティスが現れる、彼女はフェンを一目で気に入り、アサシン達に攻撃をしかける。そして、兄と共に消えた。これは魔女と、アサシン軍団の壮大な戦いである。
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