GRAVITY 1 〜side京〜
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GRAVITY〜side京〜

 

拳崇が事故った。

 

正確に言うとアテナをかばって車にぶつかった。

いつものように日本でのアテナの仕事についてきていたとき。

急いでいたアテナは左右の確認をせず横断歩道を渡って、

そこに車が突っ込んできた。

拳崇はその中に飛び込んだらしい。

結果アテナは無傷。拳崇は車とまともに衝突。

大きな外傷こそないものの頭を打っているため

様子見に一週間ほどの入院を余儀なくされた。

 

――というのが真吾から聞いた話だ。

奴は昨日、不知火舞とユリ・サカザキ(わざわざ来るなんて暇なんだな)に放課後

校門で拉致られ、見舞いへ連れて行かれたらしい。

後で強制的にここら辺の観光の案内役をさせられたとかも言ってたな。(どっちが目的なんだか)

俺は午後の授業をサボったおかげで難を逃れたのだが。

 

――KOFで戦った仲だ、見舞いくらい行ってやるか。

というわけで俺は今、拳崇の病室にいる。

頭に巻かれた痛々しい包帯にいつもの笑顔がアンバランスだ。

 

昨日までに見舞いにきた奴らの話なんかをひととおりしたあと、

俺は率直な感想を口にした。

「お前さ、ホント無茶するよな。命がいくつあってもたりねえぞ?」

一途だねえ、と冷やかしも暗に含めて。

「そやけどアテナ女の子やで?仕事もあるし、ケガさすわけにはいかんやん。」

口調はさっきまでと変わらない。だが目には真剣な光が宿っている。

 

俺はなぜか不安になった。

 

無意識に冷やかし口調が抜けていく。

「何言ってんだか。死んじまったら元も子もねえだろ。」

「…そらそうやけど、俺アテナ守るって決めとるし。

 アテナ守れたら俺は別に…」

俺の不安の理由。それは拳崇の目の光だった。

強くてまっすぐだが、あまりにも細く、儚い。

 

――こいつ、「死んでもいい」なんて言うのかよ…。

 

拳崇が言いよどんだ先を読んで俺はものすごい違和感を感じた。

確かに好きな女が目の前で危険に曝されているのならとるべき行動はひとつしかない。

でも、これは何かが違う…。

 

「…アテナ、何か言わなかったか?」

拳崇は目を伏せた。

「泣いとった。…こないなケガ試合のときに比べたら全然たいしたことないんにな。

 『ごめん』『ごめん』て何度も繰り返して。」

「そりゃそうだろ。試合は純粋に戦いの場だ。

 けどよ、今回のはアテナが原因でお前が入院するハメになったんだ。

 ケガの度合いじゃねえよ。」

一緒にいる時間の長いアテナなら拳崇の目の光――危うさ――を

俺よりも強く感じとっていたのだろう。

 

今の拳崇からは生き抜く気概が感じられない。

自分の命を軽くみているような気がしてならない。

とんでもない危険が迫ったときは生きる気満々の奴でも命を落とす。

――だったらそれを投げ出した奴はどうなる?

  オロチとの戦いだって、なにがなんでも生きて帰るつもりだったから俺は今こうしてんだよ…。

 

おそらく、今回は運が良かったからこの程度のケガですんだのだ。

次アテナに何らかの危険が迫ったとき、拳崇は躊躇なく自分の命を投げ出すだろう。

 

「なあ拳崇、そんなケガでもアテナは泣くってのに

 もしもお前になにかあったら、あいつ…どうなると思ってんだ?」

 拳崇の目が泳ぐ。

「どうって…」

我ながらありきたりな台詞だとは思っている。が、そのまま俺は話を続ける。

「お前は自分を軽んじてるみてえだけどな、アテナは違うと思うぜ?」

 

伏せられていた目がこちらを見る。

「あいつにとってもお前は身近な存在だろ?

 具体的にはわかんねえけど…大切に思ってるのは間違いねえよ。泣いたぐらいだし。

 お前ひとりのことだってあいつにとっちゃ大問題なんじゃねえのか。」

 

さっきこちらに向けられた目は、今も俺をくいいるように見つめている。

 

「アテナを守るのはいい。命がけでもいい。

 だけど、守って自分だけ死ぬなんて勝手なマネはするな。

 『命がけ』と『命をあきらめる』のとは違う。体だけ守ればいいってもんじゃねえだろ?

 決めたなら、生きて、心まで守れよ。」

 

 

「…そやな。アテナ泣かすやなんて俺、最低やったわ。」

 

「命も心も守ってこそ本物のナイトっちゅうもんやな!!

 よっしゃ、やったるで!」

気合を入れた拳崇の目には、しっかりとした力強い光が宿っていた。

 

世の中から見れば人間ひとり居なくなっても何も変わらないかもしれない。

でも、身近な人がいなくなったとき、人ひとりの存在の大きさを思い知らされる。

――ったくよ、やっとわかったか。

俺は一息ついた。

 

その後、NESTSの基地から拳崇がアテナを守って脱出したという話を耳にしたのは

ずいぶん経ってからだった。

 

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あとがき

時間的には98あたりの話…です。

99と繋がってるしオロチ戦も終わっているので

京が随分世話焼きですがあの戦いの後、生還しただけに

拳崇が死ぬ気なのはいただけなかったのではないかということで。

中途半端な話でまだ色々と言い訳し足りないのですが、side拳崇に続きます。

2005年9月

 

説明
KOF98~99くらい?京と拳崇の話です。カップリングではありません。
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