GRAVITY 2 〜side拳崇〜
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GRAVITY〜side拳崇〜

 

――好きな娘を守りたい。守る。

こう決意したのはいつだったか。

――そのためなら自分の命やなんていつでも差し出せる。

いつの間にかそれが俺のアイデンティティになっていた。

 

アテナの付き添いで日本へ来た。

アテナが横断歩道を渡ろうとして、車が突っ込んできたとき。

俺のとるべき行動はひとつだった。

 

「私が注意しなかったから…ごめんね、ごめんね拳崇。」

アテナは泣きながら俺に謝った。

「ええって。アテナ無事やったんやから」

胸が痛む。自分の決めたことを全うした筈なのに満足感はない。

――なんでや?

胸の痛みを抱えたまま病院のベッドに収まっていた。

 

入院というのは一般的に退屈なものらしいが俺の場合は違った。

毎日KOF出場者が見舞いに来るのだ。

昨日は舞さんとユリさんと真吾が来てくれた。顔ぶれを見た瞬間

寧ろ俺の方が真吾にお見舞い申し上げてしまった。こっそりと。

「ありがとうございます。が、がんばるっス。」

涙目で答えた彼に思わず笑ってしまった。

 

そして今は京さんがいる。俺の部屋はかなり賑やかだ。

ただ、胸の痛みはずっととれない。

 

昨日までの話をしたあと、京さんは冷やかして言った。

「お前さ、ホント無茶するよな。命がいくつあってもたりねえぞ?」

妙にやにやしている。

「そやけどアテナ女の子やで?仕事もあるし、ケガさすわけにはいかんやん。」

軽く答えたつもりだが、本心だったので

俺の表情がちょっとカタくなった気がする。

 

京さんの表情が少しずつ変わる。

「何言ってんだか。死んじまったら元も子もねえだろ。」

「…そらそうやけど、俺アテナ守るって決めとるし。

 アテナ守れたら俺は別に…」

死んでも構へん、という言葉は飲み込んだ。

いくらなんでも軽々しく口にすべきでない、と思う。

 

京さんは射るような目で俺を見ている。

 

「…アテナ、何か言わなかったか?」

アテナの泣き顔がよぎる。

「泣いとった。…こないなケガ試合のときに比べたら全然たいしたことないんにな。

 『ごめん』『ごめん』て何度も繰り返して。」

 

「そりゃそうだろ。試合は純粋に戦いの場だ。

 けどよ、今回のはアテナが原因でお前が入院するハメになったんだ。

 ケガの度合いじゃねえよ。」

――俺は決めたことを実行しただけや。

  アテナが原因やなんてそないな言い方…

そう反論しようとした瞬間、京さんは諭すように言った。

 

「なあ拳崇、そんなケガでもアテナは泣くってのに

 もしもお前になにかあったら、あいつ…どうなると思ってんだ?」

 

――え?

いきなりで質問の趣旨がつかめない。

俺になにかあって、アテナがどうなるかなんて考えたこともない。

「どうって…」

――アテナは強い。

  例え俺がおらんくなってもちゃんと生きていける…。

 

「お前は自分を軽んじてるみてえだけどな、アテナは違うと思うぜ?」

 

――そら、どういうことや?

言葉の意味を探ろうと京さんを見る。

 

「あいつにとってもお前は身近な存在だろ?

 具体的にはわかんねえけど…大切に思ってるのは間違いねえよ。泣いたぐらいだし。

 お前ひとりのことだってあいつにとっちゃ大問題なんじゃねえのか。」

 

――アテナも俺のこと大切に思っとる…

  俺の身に起こることがアテナにとって大問題…?

京さんの台詞を頭のなかで繰り返す。

アテナの中で俺がどういう位置にいるか京さんにはわからない。

でも大切な存在ということは間違いない、ということだろう。

 

――アテナが泣いたんは俺が傷ついたから。

  アテナが傷つくと俺が痛みを感じるように

  俺が傷つけばアテナも痛みを感じるんや…。

 

ただ、守る以上自分の危険を顧みてはいられない。

命を落とすことだってあるだろう。

俺は求めるように京さんの瞳を見つめた。

 

「アテナを守るのはいい。命がけでもいい。

 だけど、守って自分だけ死ぬなんて勝手なマネはするな。

 『命がけ』と『命をあきらめる』のとは違う。体だけ守ればいいってもんじゃねえだろ?

 決めたなら、生きて、心まで守れよ。」

 

諭す中に含まれる必死さが俺の心をゆさぶる。

 

――自分を軽んじとったことでアテナを悲しませてもうたんか。

  俺は死ぬことにばっかし目がいって

  生きることを見てへんかったんや…

胸の痛みが解けていく。

――そうや。俺は痛いこと、苦しいこと、悲しいことから

  アテナを守りたい。

  そら物理的に守ることだけやのうて、心もなんや…。

 

「…そやな。アテナ泣かすやなんて俺、最低やったわ。」

反省の気持ちを吐きだしたら、なんだか力がわきあがってきた。

「命も心も守ってこそ本物のナイトっちゅうもんやな!!

 よっしゃ、やったるで!」

拳を握りしめた。

 

危険な目に遭うのは一生に一回だけではない。

苦しい目に遭うのも一生に一回だけではない。

悲しい目に遭うのも一生に一回だけではない。

 

――なら守り続けたる!

  ずっとそばにいて。

  生き抜いて。

 

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あとがき

テーマ絞れてなくてスミマセン(汗)命がけで守る=死ぬ?

というイメージを昔持ってました。

今はちょっと違うんじゃないかなあと考えてるので…。

関西弁が怪しいのが気になりますが…。

読んでくださってありがとうございました。

2005年9月

 

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