いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した
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 第八十九話 スフィアが有る世界。無い世界。

 

 

 

 なのは視点。

 

 「…星光。じゃなくて、シュテル、でいいんだよね」

 

 「そうです。なのは。久しぶりですね」

 

 海鳴市の上空でマテリアルらしき反応をキャッチした私達が向かうとそこには私に似たマテリアルの子。シュテルがいた。

 

 「カッコいい名前だね」

 

 「ありがとうございます」

 

 「また悪い事をしようとしているのかな?」

 

 「残念ながら。貴方達にとってはそうでしょうね」

 

 それは残念だな。

 

 「それはどうしてもしないといけないことなのかな?されると私達が困っちゃうんだけど…」

 

 「申し訳ございませんがこちらとしても『砕けえぬ闇』の入手は我等の使命ですので…」

 

 ペコリと頭を下げながら頑なに私の要件を断っていく。

 その姿に隣にいたユーノ君は呆れながらぽつりとつぶやく。

 

 「話は聞いてくれるけど譲ってもくれない。…さすがはなのはをモデルにしたマテリアルだね」

 

 「ゆ、ユーノ君。それじゃあ私は頑固みたいに聞こえるんだけど…」

 

 「なのは。君はよく僕の制止を振り切って、危険な所に飛び込んでいくよね」

 

 うう…。言い返せないの。

 

 「そちらの方は…。私の持つ情報が正しければ私のオリジナル。なのはに魔法を教えた先生ですね」

 

 「え?うん、まあ、そうなるのかな?」

 

 ジャキィッ。

 

 と、シュテルが杖をユーノ君に向ける。

 

 「では私と力比べをしましょう」

 

 「ええ!?なんで!?」

 

 ユーノ君は慌てふためくが、シュテルは冷静に返していく。

 

 「そちらの目的は私達の捕縛でしょう。ですが私は捕まるつもりはありません。逆にあなた方をこの場に足止めするという使命をおびてここにいます。抵抗する私を無力化しなければならない。だけど、私とも戦いたくない。ならば戦いたくなるような理由を作ればいい。それに…」

 

 「それに?」

 

 「私のオリジナル。なのはの先生と一度戦ってみたいのです」

 

 シュテルは相変わらず無表情だけど瞳だけが生き生きしているようにも見えた。

 その表情にため息をつきながらも私の方を見て、もう一度ため息をついた。

 

 「…やっぱりなのはだ」

 

 「ユーノ君?!」

 

 どういうことなの!?

 私は自分の意見が通らなかったら魔法の打ち合いで解決しようなんて…。な、んて…。

 ………ごめんなさい。あります。

 

 「お互いに譲れないものがありますからね。私が勝てば私は足止めの任を果たすことが出来る。あなたが勝てば、…そうですね。私から王にこの世界を破壊するのは止めるように言を入れてみます」

 

 了承されるかどうかは別として。と、シュテルは最後に付け加える。

 

 「頑張ってね、ユーノ君!」

 

 私は二人の書部を邪魔しないように少し離れた位置に移動する。

 

 「え、ええええ?というか、君達はこの世界を『砕けえぬ闇』で破壊するのが目的だったんじゃないの?」

 

 「入手が目的ですので…。それ以降はどうするかは王の采配次第ですので…。それにレヴィもこの世界を壊すは嫌だとごねていましたから」

 

 レヴィって、フェイトちゃんに似たマテリアルの子だよね。

 

 「あの子は『ハンバーグをもっと食べたいから王様、壊さないでー!『傷だらけの獅子』と一緒にご飯食べに行こうよー!美味しいお菓子もあるんだよ!』と泣いて、駄々をこねていましたので…」

 

 …高志君。レヴィちゃんに何やっていたの?

 なんでハンバーグやお菓子なんかを買ってあげていたんだろう?…デート?

 

 「レヴィが持っていたお菓子は美味しかったですよ。…ハンバーグとやらは私も食べてみたいですし」

 

 …シュテル。意外とおちゃめな部分もあるんだ。

 

 「ただ、『今度産』とやら食べたくないですね。私と王はその変な匂いで口にするのを止めましたが、レヴィが無理に食べようとしていました。結局、美味しくないと言って魔法で焼き捨てていましたし…」

 

 『今度産』?

 そんなお菓子あったかな?今度、お母さんに聞いてみよう。

 

 「…高志。何買ってあげているの?」

 

 ユーノ君は顔を赤くしてシュテルから目を逸らしていたけどどんなお菓子か知っているのかな?

 

 「では、もうそろそろ始めましょうか。先生」

 

 「あ、うん。始めようか」

 (これが終わったら高志の奴をとっちめてやる)

 

 頑張ってユーノ君!

 世界の命運は君にかかっているの!

 

 「では、私の全力全開を受け止めてくださいね、先生」

 

 「は、ははは」

 (受け止めきれる自信無いな〜)

 

 そして、苦笑混じりのユーノ君と無表情ながらもイキイキとしたシュテルの魔法がぶつかり合った。

 

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 三人称視点。

 

 「…あのゴムみたいの美味しくなかったなー。やっぱりシュテルんと王様が食べていた棒みたいなものにすればよかったなー」

 

 ボケーっとしながら、レヴィが最後のスナック菓子を食べ終えるとそこにフェイト達がやって来た。

 

 「…あ、僕のオリジナル!」

 

 「フェイト。だよ」

 

 「へいと?」

 

 「フェ・イ・ト」

 

 「めんどいからオリジナルでいいじゃん」

 

 「…そっちの方が面倒だろう」

 

 フェイトとレヴィの話し合いを見たアルフはため息をつく。

 

 「あっ、大きい犬!」

 

 「…一応、狼なんだけどね」

 

 ちなみにアルフは人型になっています。

 

 「まあいいや。お菓子も全部食べ終わったことだし今度は僕と遊んでよ。美味しいものをたくさん食べたから思いっきり動きたいんだ」

 

 「え、えーと。私達はあなた達に『砕けえぬ闇』の事について聞きたいことがあるんだけど…」

 

 「んう?別にそれぐらいだったらいいよ?でも…」

 

 ひゅんひゅん。と、レヴィはバルディッシュに似たデバイスを振り回しながらフェイトとアルフに向かって言い放つ。

 

 「僕とその相棒バルニフィカスの雷に勝てたらだけどねっ!」

 

 そう言われてフェイトはバルディッシュを構える。

 

 「…アルフは手を出さないでね」

 

 「…わかったよ。でも気をつけてね、フェイト」

 

 そう言ってその場から離れるアルフを見てレヴィが不思議がる。

 

 「…あれ?二人まとめてこないの?」

 

 「一対一じゃないと卑怯だからね」

 

 「むっ。僕はこう見えても『力』のマテリアルだぞ。二人掛かりでも…」

 

 レヴィは頬を膨らませてフェイトとアルフにまとめてかかってこいと言おうとした瞬間だった。

 

 「駄目ですよ。レヴィ。あの二人を侮ってはいけません。なんせ、私の教え子なんですから」

 

 「「…え?!」」

 

 そこにははやてよりも薄い茶色の髪をした二十歳ぐらいの女性が現れた。

 短く切り揃えられた髪。黒と白の服を身に纏い頭には白色のベレー帽のような帽子をつけた女性。

 

 「…そんな」

 

 「どうして…」

 

 その声と容姿を見たフェイトとアルフはショックのあまり思考が停止する。

 

 「ぶー。どうしてさ」

 

 「『力』のマテリアルであるあなたのオリジナルですよ?あなたが強いという事はフェイトも強いという事になります」

 

 「え♪うん、そうだよね。僕強いもんね♪うん、それじゃあへいとも強いよね♪」

 

 褒められながら説明を受けたレヴィは嬉しそうに女性に犬のようにじゃれつく。

 

 「全く…。ディアーチェに言われてあなたについて行って正解でした。ようやく追いついたと思えばぺらぺらと余計なことを言いそうになりますし…」

 

 「えへー♪ごめんなさ〜い♪」

 

 「…まったく。めっ」

 

 つん、と。レヴィのおでこを軽く指で小突く女性。

 

 「…リニス」

 

 「…リニスなんだよね」

 

 ジュエルシードを集める前。

 二人にとっては魔法の先生であり、姉のような存在だった彼女の名前はリニス。

 プレシアの元使い魔で、弱り切っていくプレシアの体を思い自ら使い魔としての契約を切り、ジュエルシード集める少し前にフェイト達の目の前から姿を消した女性。

 

 「はい。そうですよ。フェイト。アルフ」

 

 リニスの微笑みは自分達の前から消え去る前を何ら変わらない優しい笑顔だった。

 でも、目の前にいる彼女は死んだはずだ。

 主であるプレシアの元を去り、命の源である魔力は枯渇。更には高志に直されたお蔭で魔力のリンクが切り離されて絶対に助からない運命にあったから。

 

 「ねーねー、リニス。僕達、王様たちの邪魔されないようにあの二人を足止めしないといけないんだよー。だから僕が二人をまとめて…」

 

 「いけません。一対一で戦いなさい。その方が…」

 

 「その方が?」

 

 「カッコいいでしょうっ」

 

 「おおおおっ、た、確かにっ、かっこいい!じゃあ、ヘイトとは僕がやるね!」

 

 「では私はアルフの方をお相手させてもらいますか」

 

 と、レヴィとリニスが準備オーケーだということを確認すると再びフェイト達に目線を移す。が、そこには混和の色を目に宿した二人がいた。

 

 「り、リニス…」

 

 「ぐすっ。リニスゥウウ…」

 

 今にも泣きだしそうな二人を見てリニスは言った。

 

 「…フェイト。アルフ。貴方達から離れてどれくらいの時を過ごしてきたかは分かりません。だけど、あなた達は一生懸命頑張って来たというのはわかります。…だから見せてくれますか、私の生徒がどれだけ強くなったのかを」

 

 その言葉を聞いてフェイトとアルフは自分の目に浮かべていた涙を拭きとると強い意志を宿した目でリニスを捉える。

 

 「うん。見ていてリニス。びっくりするくらい強くなったから…」

 

 「こ、こらー、僕もいるんだぞ。無視するなー!」

 

 レヴィはフェイトに向かって飛んで行くとそのまま二人は高速戦闘になった。

 対するアルフとリニスはお互いに間合いを取りながらじりじりと距離を詰めていく。

 

 「…本物。なのかい?」

 

 「いいえ。残念ながら『闇の書の欠片』の中で一番損傷が少ないもので作り上げられた魔法生命体のようなものです。常にレヴィかディアーチェ。…王程の魔力を持つ方に魔力の供給をしないと私は体を保つことが出来ません。ですので、今の私はアルフの敵です」

 

 「…」

 

 「そんな顔をしないでください。こんな形でも私は貴方達に逢えてよかったと思っているんですから。…あと、全力で攻撃してきても構いませんよ」

 

 「でも…」

 

 「アルフ。貴方の先生はこんなことで倒れちゃうような先生ですか?」

 

 その言葉を聞いてアルフの表情から迷いが消える。

 

 「いくよっ。リニス。リニスに教えて貰ったモノ全部ぶつける」

 

 「さあ、来なさい!アルフ!」

 

 なのは達が別空域で交戦しているところとは別のところで新たに戦いが始まろうとしていた頃…。

 

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 三人称視点。

 

 「…くっ。おのれぇえええっ。『砕けえぬ闇』さえ手に入れば貴様など」

 

 「王様っ!頑張って!あと少しだから!」

 (なんなのあの人!私が戦った融合騎や小烏ちゃんより全然強い!)

 

 シュテルとレヴィを足止め。そして、撹乱の為に二人を転移させ、念のために闇の書の欠片の中から一番サポートに適したリニスも送り出した直後にそいつは現れた。

 自分の後ろで見慣れないコントロールパネルを操りながら何やら作業をしているキリエを守るように魔法を彼に放ち続ける影があった。

 

 「…王を名乗っても所詮この程度。…木偶だな」

 

 「っ!その愚かな言動!死をもって償え!」

 

 『((闇総べる王|ロード・ディアーチェ))』は目の前に現れ、自分を愚弄した『知りたがりの山羊』のアサキムに向かって収束砲を打ち込む。

 

 「エクス、カリバァアアアアアアッ!!」

 

 「…死か。この程度で死ねたら僕は苦労しないよ」

 

 なのはのディバインバスター級の砲撃を真正面から受け止めるような動作も見せず、ただそれを見張るかのように棒立ちになるアサキムはその砲撃に飲み込まれるが…。

 

 オオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

 ディアーチェの砲撃によって生じた爆風が晴れるとそこには、撃たれる前と変わらぬ様子のアサキムがいた。

 

 「…化け物がっ!」

 

 「…化け物か。それの方がどれだけましだったか。まあ、少なくてもスフィアも持たない者が。いや、((物|・))というべきか?」

 

 「なんだとっ!貴様!言うに事欠いて我をもの呼ばわりするなど…」

 

 ディアーチェは今、自分の((全力砲撃|・・・・))を行うことが出来ない。

 理由は今、キリエが行っている。亜空間にあるだろう『砕けえぬ闇』を引き出すため。

 今、自分が全力砲撃をしてしまえばその魔力の余波でそれを再び見失ってしまうかもしれないからだ。

 

 「……やめだ。それに君達にはそのまま『砕けえぬ闇』とやらを引き出してもらわなければ僕も困るからね」

 

 アサキムはディアーチェからの砲撃を受けながらも話すのも億劫だと思ったのか、全身から力を抜く。

 

 「…どういうことだ?」

 (まだか、ピンク頭!)

 

 「僕は『砕けえぬ闇』などという((模造品|・・・))に興味はないという事さ」

 

 その言葉を聞いたキリエとディアーチェに衝撃が奔る。

 自分達がずっと探し求めていた強力な存在『砕けえぬ闇』を模造品というアサキム。彼が何を求めているのか、想像できなかったからだ。

 

 「っ。捕まえた!『砕けえぬ闇』を強制召喚!」

 (あの人が何を考えているかは分からない!だけど、私は『砕け得ぬ闇』を手に入れて…)

 

 「…((世界|エルトリア))を救う。かな?」

 

 「どうして?!」

 

 キリエは自分の目論見を詠まれたのかが不思議がっていた。

 と同時に、今まで戦ってきた海の上に黒い太陽が、まるでマジックミラーの向こう側からこちら側に現れるかのごとくこちらの世界に現れる!

 

 「…なんだピンク髪!我等に忠誠を誓ったのではないのか!?」

 

 「…誓っていますよ。王様。ただ、そのお力で私達の世界を救ってほしいんです」

 

 キリエはディアーチェをこれ以上騙し通すのは無理と観念したのか正直に話す。

 

 「…くっ。よもや、裏切りがこうも続くとはな。所詮、信じられるのは我自身とその臣下のみか。だが!」

 

 ギィイイイイインッ!

 

 耳鳴りのような音を鳴り響かせながら、先程現れた黒い太陽にひびが入る。

 

 「この『砕け得ぬ闇』。システム((U―D|アンブレイカブル・ダーク))を手に入れれば『知りたがりの山羊』!貴様といえど…」

 

 「その名称は正しくない。正しくは((U―D|アンブレイカブル・ドリーム))。無限エネルギーを自らの文明の発展の為に作りだされた((夢|・))のような機関。ただのエネルギー機関。それが((U―D|アンブレイカブル・ドリーム))。『砕け得ぬ夢』だ」

 

 「「?!」」

 

 アサキムの言う言葉にディアーチェとキリエは驚きを隠せない。

 

 「嘘よ!だって私は洗いざらいに調べてきた!『闇の書』の無限再生機構を担う『砕け得ぬ闇』が…」

 

 「それは((僕|・))。いや、((スフィア|・・・・))が無い世界での話だろう。残念ながら、この世界は君の知る世界ではない。未来が枝分かれているように、過去もまた枝分かれしているんだよ」

 

 「…スフィア?」

 

 「感謝するよ『時の操手』!君の世界を救いたいという強い意志、その為の『嘘』が『偽りの黒羊』をこの世界に呼び込む!」

 

 黒い太陽が今にもはじけ飛ぼうとしたその瞬間だった。

 

 「キリエ!」

 

 「見つけた!王様!」

 

 「アサキムの野郎まで?!」

 

 「くっ、ザフィーラ!主の護衛を!」

 

 「心得た!」

 

 キリエとディアーチェを探していた面々もその場に駆け付けたかのようにアミタとはやて達もその宙域にやって来た。

 

 

 

 ガキャアアアアアンッ!!

 

 

 

 ガラスを叩き割るかのように黒い太陽がはじけ飛ぶとそこには腰まで伸びた緩いウェーブのかかった少女が宙に浮いていた。

 

 

 とても悲しそうな視線で。

 

 

 

説明
第八十九話 スフィアが有る世界。無い世界。
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コメント
誤字訂正しましたありがとうございます(たかB)
バルフィニカス(○)がパルフィニカス(×)になってます(緋詩)
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