恋姫無双 槍兵の力を持ちし者が行く 31話
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other SIDE

 

 「おー、おー、頑張ってるじゃねえの」

 

 「ま、無駄だけどな」

 

 そう城壁で気楽に喋っているのは頭に黄色の頭巾を被る人間。

 その目の前に広がるのは大量の自軍を相手に退かずに踏ん張っている義勇軍の姿。

 見張りを任されている雑兵の彼らであるが、あの義勇軍が此方の先行を撃破したという情報を知っていて……

 

 「それにしてもこの時に攻めてくるなんて見えにくい。もうすぐ日が落ちる」

 

 「少しでも数の差をなくしたいとか考えたんじゃないのか?」

 

 この時代、基本的に夜襲は用いられていない。なぜなら暗闇で姿が碌に確認できず、同士討ちの可能性が出てくるからだ。

 そして、恐らくそれが狙いだと当たりを付ける。

 

 「所で、天和ちゃんたちは今どうしているんだ?」

 

 「馬鹿か。人和ちゃんたちは今官軍の野郎に足止めされてて動けない状況だって言ってたじゃねえか。それで俺たちは物資と援軍を送るつもりだったんだ」

 

 「ああ、その時になって義勇軍が攻めてきたってことだ」

 

 そう言いながらも彼らは何も心配はしていない。なぜなら此方はまだ数に余裕がある。時間をかけると有利なるのは此方なのだから……

 

 と思っていたら一人がいきなり音もなく倒れる。

 

 「な、何が」

 

 そういう間にもまた一人、一人と倒れる。

 その時に最後に立っていた一人が倒れている者の背中に一閃の切り傷が、ある者には一突きの傷跡がすべて急所にあるのに気づく。

 その時にようやく気付く、此処に敵が入っていると、そして義勇軍がこんな日が落ちる直前に攻撃をしてきたかを。

 それに気付いた時は既に自分の背中の左胸に強い痛みと突き抜けるような衝撃を味わい、意識が失われていく。そして、意識が失われていく途中でかすかに見えた黒い鎧を着、そして、恐らく自分たちの血で染められた短刀を持った者が彼の最期の映像だった。

 

 

 

 「こっちは排除完了だ。おい、他は?」

 

 「大丈夫だ。どうやら他の2人も排除したようだな」

 

 その直後に城壁に黒い4名が集まった。彼らはそのまま四人で次の作業の準備をし始める。

 

 「すべて殺ったな?」

 

 「勿論、俺らは隠密じゃないが、これぐらい出来なきゃ紅蓮団じゃ生き残れない……」

 

 「だな、それにもし、失敗なんかしてみろ。隊長は笑って許すかもしれんが、司馬の姉貴は……」

 

 「おい、想像させんな。高の奴があっちに残っちまって、ただでさえ抑える役がいないんだ。姉貴は隊長だけしか甘くないんだぞ」

 

 「分かったよ。ま、これぐらいは成功させないとな」

 

 そう軽く(少し怯えるように震えながら)会話しながらも、着々と用意を整えていく。無駄は許されない。本来の目的は完遂されなかったのだから、このついでの任務ぐらいは成功させる。そう何も言わずとも伝わる雰囲気を彼らは持っていた。

 

 「……本当に、見つからなかったんだよな?」

 

 「何度も言わせるな。張三姉妹の部屋だと思われるところ、書が集められている所、宝物庫、ありそうな所はすべて探し、更に、本来やる必要のなかった拷問もして、アレは張三姉妹が肌身離さず持っている。という情報が手に入ったんだ。これを伝えて、任務完了だ」

 

 彼らはそう言いながら準備を完了する。

 

 「……そろそろだな。行くぞ」

 

 「「「応」」」

 

 恐らく、他の部隊も、各々自分の役割を果たしている頃合いだろう。という確信を抱いて、自分たちの目的である門に向かった。

彼ら、……紅蓮団が特別な指示がない場合の戦闘規定はただ一つ、『見敵必殺』。彼等はそれを実行する。

 

 

 

SIDE END

 

 

 「申し上げます!!砦内部から煙が出るのと同時に門が開けられ、夏候惇将軍、夏侯淵将軍が砦内部に突入していきました」

 

 「そう、今のところは順調の様ね」

 

 「劉備の所はどうかしら?」

 

 「義勇軍の所はもうすぐ押し切れそうだが、こっちから加勢を送るか?」

 

 そう、煙が至る所で昇ってる砦を眺めながら、伝令の報告を聞きつつ、加勢を送るかどうかを聞く。まあ、凪達がいるから大丈夫だと思うが。

 ……正直に言おう。物凄く出たい。戦場を見ると、自分でもいやになるほど血が昂ぶる。

 

 「送るとしても、アナタは駄目よ。此処にいて頂戴。

 森羅、加勢が必要なら貴女が判断して行って頂戴。

 桂花、追撃をお願い。誰も逃がさないで」

 

 「「は」」

 

 そんな俺の心情を察したのか、俺にここに居るよう指示し、桂花と森羅に指示を出す。

 まあ、さっき華琳の傍で護ると言ったし、しょうがないか。

 

 「どうかしら?」

 

 「嬢ちゃんの所か?

 それとも、凪達のことか?」

 

 「あら、春蘭と秋蘭のことはいいのかしら?」

 

 暇なので、周囲を警戒しつつ、華琳の話に乗る。というかこれぐらいしかやることがない。

 

 「バカが、アイツらなら賊如きよほど不利な状況でなきゃ大丈夫だろ。これは信頼だよ。信頼」

 

 お前もそうだろ?と続けると華琳も小さく笑う。

 

 「そうね。あの娘達が危なくなるような状況じゃないわね。

 で、アナタの目から見て、劉備の軍はどうかしら?」

 

 「戦運びがうまいな。義勇軍のソレじゃない。凪達の方もうまく連動出来ないからか、分けて犠牲を少なく、最も効果が得られるように配置、動かしている。

 あの坊主の近くにいた。諸葛亮、だっけか?アレが中心になってるんだろう。

 現場の細かい指示は張飛と関羽がやって、うまく微調整しているんだろう」

 

 まあ、アレが孔明とは思わなかったな。

 あまり、自己主張をしない感じを受けたし、別の人物かと思ったんだが……

 まあ、そんなことより、凪達もしっかりと動けてるな。周りも見えているし、良く動いている。

 

 「凪達も大丈夫なようね。あの娘達の担当教官も合格の評価かしら?」

 

 「だな、見たところは凪は小さい塊で動かして、大きな範囲は真桜が動かしている。で、沙和の指示が一番全軍に回ってるな。言いたいことはまだあるが、それは訓練じゃなく、別の経験を積ませなきゃ意味がない」

 

 「そう、なら一定以上の戦果は獲得できたわね。

 もう少ししたら戦の後処理の準備をさせるわよ」

 

 「了解した。これからより面白くなりそうだな」

 

 「ええ、そうね」

 

 それ以上は何も語らない。

 だが、お互いに考えることは似ているのだろう。己の持つすべてをかけて挑む一世一代の勝負に花を添える者が出てきた。と。まあ、それは毒花かもしれないが……それも一興だ。

 そう思いながら、砦の方から勝鬨が上がるまで、燃え上がっている砦を華琳と共に見ていた。

説明
ようやく、ここまで来た。
ここに最初から書来たかった場面がありまして、感慨深いものがあります。今後もよろしくお願いします。
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