現代に生きる恋姫達 目指すは恋姫同窓会 桂花の前編 |
切欠は些細な事だった。
一人親元を離れて上京し、大学へと一人暮らしをしながら通っている私は、親の脛ばかり齧るわけにはいかないとばかりに、都内にある某ショップでアルバイトをしていた。そこはいわゆる、オタク、と、世に言われる連中の集まる街で、私が働いていた店も、そういう連中が客層のほとんどを占めている。
別に私自身は、オタクって言うか、二次元の世界になんか全く興味が無い。にも拘らず、この店をバイト先に選んだのは、制服、それが可愛かったのと、ある条件をこなせば結構な時給が貰えるからだった。その条件って言うのは、猫耳付きのフードが着いた、店のロゴ入りパーカーを着る事である。
正直、最初にそれを見たとき、私は妙な感覚がした。フード付きのパーカーなんてものはこの世にごまんとあるけど、猫耳付きなんてものは流石にそこで見たのが初めてだった。にも拘らず、私は何故か、とっても懐かしい感覚がするがした。
「……ちっちゃい頃にでも着けてて、それを忘れているだけかも」
大人になれば忘れる、子供の頃の事なんてざらにあるもの。その時はそう考え、その懐かしさを心の片隅へと私は追いやった。
けれど、それがそんな単純なものじゃあ無かったと分かったのは、私が店の一角にある、18歳未満立ち入り禁止コーナーを、嫌々ながらにも掃除と片付けをしていた時、私の視界に入った“ソレ”が、その切欠となった。
『真・恋姫†無双』
そう、題されたソレの、パッケージに描かれたキャラクター達のイラスト。そこに、五十人近くは居るであろう少女たちの中に、どこをどう見ても、“私”にしか見えない人物が描かれていた。
真・恋姫†無双、それは、いわゆる三国志をモチーフにした、成人男性向けのゲーム、もっと端的に言えばそう、『エロゲー』って奴で、私もその、エロゲーその物の存在は知っていたけど、物心ついてからの大の男嫌いな私からすれば、見るのも嫌な汚らわしいだけのモノでしか、今までは無かった。
そう、“今まで”、は。
ソレを見つけた瞬間、私は思わず仕事を忘れてしまうほどに、その、パッケージに描かれたキャラクターたちに見入ってしまっていた。他のバイト仲間達に声をかけられ、さらには頭を軽く小突かれるまで、全くといっていいほどに、周囲の状況、つまり、男性客がたくさん居る中でエロゲーのパッケージをジーっと見つめている、という、そんな事にすらも気付かず。
まあとにかく、そういうやらかしてしまった事はさておき、そのゲームのことがどうしても気になって仕方の無かった私は、バイトの帰り、同じ街の中にある別の店で、その件のゲームを購入。その時は気恥ずかしさなんかより、ソレに対する興味の方が勝ってしまっていて、その店の店員がどんな顔をしていたか、そんなことなんかまるで眼中に無かった。
……まあ、その事に後で気付いて、全身真っ赤にして一人奇声を上げたのは、ご愛嬌ってことで。
それはともかく。
ソレを買ったその日、私は食事も勉強もそこそこに、夜を通して、人生初のエロゲーを、一人黙々と、何かに取り付かれたかのようにプレイした。勿論、選んだルートは、私とそっくりなキャラクターの居る、『魏』ルート。
そして、気がつけば朝。
私は、両目からそれこそ滝みたいな涙を流しながら、エンディング後のスタッフロールを眺めていた。そして、“全て”を、思い出していた。私こと、“若文桂花”は、かつて、このゲームと同じ世界で、魏の皆と、“華琳さま”たちと共に生きていた、“荀ケ文若”だったことを。
前世の記憶が蘇る、なんていう話は、それこそ漫画かドラマの中だけのことだと、リアリストを自称して憚らない私は、これまでの十数年の人生、全くもって信じて居なかった。
けれど、自分の身に起こったこととなれば、話はまったくの別。なによりも、私自身が、私の心が、魂が、アレは事実だと、全く信じて疑っていなかった。
それからと言うもの、私は時間の空くたびに、ネットを使ってある事を調べ始めた。私と言う存在がこの世界に居るのなら、ゲームの世界から生まれ変わったというなら、もしかしたら、あの世界の皆も、華琳様たち魏の面々も、蜀や呉の連中も、そして、“アイツ”も、この世界に居るではないのか、そう考えるに至った私は、ネットを駆使して“みんな”のことを調査し始めたのだ。
まず一番にしたのは、“アイツ”が言っていた天の、この正史の世界のどこかにあると言う、アイツ自身が通っていたと言っていた学園、『聖フランチェスカ学園』、その存在と所在の確認、だった。
結果は……全くの成果なし、だった。
検索してトップに出てきたのは、どれもこれも、あのゲームの中のフランチェスカを舞台にした創作小説のタイトルばかり。現実には、日本のどこにも同名の学校は存在せず、海外にはなんとかって言う似たような名前の所もあったけど、当然の様に、あのフランチェスカとは何の関係もなし。
あいつ自身の名前で検索もしてみたけれど、やはり、それらしい名前は出てこなかった。……い、一応勘違いしないように言っておくけど、別にアイツに会いたいって思ってるとか、そういうんじゃあないんだからね?!ただその、あ、アイツが見つかれば、他のメンバーに、特に華琳様と会うことに少しでも近づけるんじゃあないかって、ただそれだけ!それだけなんだからね?!
……こほん。
ともかく。
ネットで調べて駄目な以上、この世界ではただの学生に過ぎない私には、これ以上、皆に関する情報を集める手段なんて無い。探偵なんて到底雇えるお金なんか無いし、こんな事で親に相談なんか出来るわけも無いし、ね。
「……も、忘れよう」
たとえ、このまま探し続け、仮に、偶然がいくつも重なって、この世界に生まれ変わっていた皆が居て、出会うことが出来たとしても、その彼女らも、私と同じように“前世の記憶”をもっているとは限らない。
その時、私はただの頭のオカシイ人間として嘲笑され、全く相手にされなくなるというのがオチ、だ。だから、私はそれ以降、もう、皆の事を調べるのを止め、いつも通りの生活に戻って行った。
そして、それから一年が経った。
それは、本当に唐突に、まるでドラマか漫画みたいな、あまりにも出来すぎな感のある形で訪れた。いつも通り、大学へと向かう電車に乗った私は、その日に限って、いつも使っている女性専用車両に乗り損ねてしまった。これを逃せば一限の講義は確実に落とすことになるその電車を、寝坊したという自業自得な理由で逃せなかった私は、仕方なく、一番近い通常の車両に飛び乗った。
ラッシュアワーの時間帯と言うこともあってか、ぎゅうぎゅう詰めの車内はスーツ姿の男性がほとんどで。人より少々背の低い私は、そんな男性達に囲まれ、というか埋もれて、ドアのすぐ側に立っていた。
「うう……男くさい……汗臭い……早く駅に着いてえ〜……」
そんな事を小声で呟きながら、自分にとっては必死な今の状況を何とか堪える。正直、自分が男嫌いを自覚したのは、多分小学生位の時だったと思う。理由はまあ覚えてないけど、多分、相当にトラウマとして残るほど、強烈に嫌なことがあったんだと思う。
そしてもう一つ、一年前のあの日から、自分の男嫌いの原因、それはおそらく、前世の記憶が何かしら影響しているのだろうとも、そう思うようにもなっていた、そうでも思わなければ、こんな、男性とは半径1m以内にすら近づきたくないと思うほども、出来うる事なら一生、男となんて関らずに生きていきたいだなんて、思うようになる筈が無い、と。
でも現実はそうはいかないわけで。
今も現に、多分に自分のせいとは言え、男とほぼ密着するような形で、嗅ぎたくも無い男の匂いを嗅ぎ、それを我慢せざるを得ない状態になっているわけだが、こうなると、決まって出てくるのが。
「ッ!?」
……来た。
私の腰の、少し下あたりに、確実に、狙って触れてきているその感触。それはもう間違いなく、人間の、男性の手の平。
“痴漢”。
そう、そうなのだ。なぜか、私は昔っから、良く、痴漢に合う。正直言って、自分でい言うのもアレだけど、私は小さい。背も低いし、3サイズも、前世の頃よりは“多少”、成長してはいるけれど、モデルどころか、同い年の友人知人連中と比べてみても、平均的体型には届かない。
なのに、よ。
なのに、な!ぜ!か!……中学を出た辺りから、しょっちゅうと言っていいほど、痴漢に合ってしまうのだ。原因は、いまだにもって、全く不明。
だから、それを避けるためにも、普段は女性専用車両にか乗らず、タクシーだって女性ドライバーをわざわざ指名してまで使ったりなんかもしているわけだが、まあ来てしまった以上、私がやることはただ一つ。
“いつも”の様に、かつての“前世”の時の様に、汚物を見るかのような目線でもって相手を見下し、言葉にするの憚られるような罵詈雑言を、マシンガンの弾の如くソイツに浴びせるだけ。
そう、しようとしたんだけど。
「あだだだだだっっっっ!」
「ちょっとあんた……って、え?」
突然、私を触っていたその男の手が、別の何者かの手によって、捻りを加えつつ掴み上げられていた。
「……良い歳して恥ずかしい事してんなよ、おっさん」
「なっ、なんだキミは?!わ、私が一体何をしたと……っ!」
「はいはい、見苦しく醜態を晒すのは止め。痴漢の現行犯、この目でしっかりと見たからな。な、“華琳”」
「ええ、私もしっかり見たわ、“カズト”。ねえ貴女、貴女もこの男が、貴女に不埒な真似をした奴で間違い無いわよね?確かに触れ……え」
「華琳?」
何これ。
これって一体、どこの三流ドラマ?
「……けい……ふぁ?」
「……かりん、さ、ま……?」
「へ?」
痴漢の腕を捻り上げた状態のままの“彼”と、その“彼”の側に立つ、その、とても良く“覚えている”髪型の少女。二人とも、私の顔を見たその瞬間に、揃って唖然とした表情で固まり、私も私で、その二人の顔を見た瞬間、唖然呆然といった表情で固まってしまった。
そこに居たのは。
『前世』での、敬愛する主君だった、曹操孟徳さま、華琳さまと。
『前世』では、全力全開で毛嫌いしていた、種馬の御遣い…じゃなくて、天の御遣い、北郷一刀。
そんな、今時、少女マンガでもありそうに無い、ドラマチックにも程がある、その二人との“再会を果たした”。
そう、その時は思っていた私。けれど、その少しあと、実際の現実という物を、二人のその口から直接、突きつけられることになるのである……。
《後編に続く》
と言うわけで。
同タイトルの作品を始められました、MiTiさんからの許可をいただき、私めもまた、この、現代に生きる恋姫たちを書かせて頂くことと相成りました。
でもって、まずは桂花の前編。
多分後編は年明けになると思いますが、気長に待ってやって下さい。
そしてあと一人、華雄もまた、僕が書かせていただくことになってますので、桂花編の次に、彼女のを書きたいと思います。
……でもやっぱり、このシリーズ、“北郷一刀”は出しちゃあ駄目なんでしょうかね?
その点につきまして、MiTiさん、これを見られたら、ショートメールでご連絡くださいw
では今回はこれにて。
再見w
説明 | ||
ども。 タイトルどおり、MiTi氏と、そしてルサナ氏が書かれている、 同タイトル作品に、私も参加させていただき、書かせていただきました。 まずは桂花編の前編。 ・・・こんなんで良かったのか、ちょっと心配ではありますが、まずはご一読ください。 であ |
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コメント | ||
続き気に成るわwwwwwまさか参戦してたとはwww検索結果にも全然引っかからなかったから気付かなかった;(スターダスト) ルサナさん<文章構成とかそんなこと無いですってば(テレテレ///// 蓮華と桂花、もしかしたら、もしかするかも、ですねw(狭乃 狼) 真山修史さん<モチベの失踪原因はボクの・・・ナニ?w(狭乃 狼) おぉ、楽しみにしておりましたので、ようやく見つける事が出来ました。文章構成が上手すぎて正直私のが霞んでしまう… というか案外蓮華と桂花、知らない所で会ってたりするのでしょうか(ルサナ@母艦がぼっかーん!) モチベさんが失踪したのにこの出来・・・モチベさんの失踪原因は狼さんの・・・・・(真山 修史) 不知火観珪さん<乙女の一念岩をもってことで<クリア時間の件w 高クオリティだなんて、そんな、恥ずかしいですよお(テレテレw(狭乃 狼) アーバックスさん<現代世界での場合、平気で横文字が使えるっていう利点があって、ある種書きやすかったりどうだったりw(狭乃 狼) MiTiさん<いやいや、拙策なんぞ駄文ですからww(狭乃 狼) kuorumuさん<前後編の場合、ああいう引っ張り方がお決まりでしょ?(えw いちお、MiTiさんのやられてるのを基本に考えてますから、ほかの面子はまだ合流していません。そして最後に出てきた一刀が一刀とは一言も言ってませんw(狭乃 狼) 一晩でクリアとか、ボクよりも攻略早いんですけど……桂花たんマジ桂花たん。 今作も続きが気になるぅ! さすが狼さん。 安定の高クオリティで。(神余 雛) おぉー・・・。あまり見たことのないタイプの恋姫無双ですね~♪続きが楽しみです~^^(アーバックス) ックソウ!?シリーズ発案者の自分よりも上手い!文構成や話の切り方が!次が楽しみで仕方ないジャマイカ!今後もがんばりましょう(MiTi) 良いところで切りよった―! やばい、続きが気になる! 桂花以外の魏のメンツはすでに合流済みだったりしてww 一刀はどういう立ち位置なんだろう? 記憶あるのかな?(kuorumu) 一丸<あと一人、書いてみたい気はするのが居るけど、書いちゃっていいものかどうか、まだ判断に悩んでるんだよね。MiTiさんのお返事次第かな、その辺はw ・・・モチベさん・・・居るような居ないような(え(狭乃 狼) やったww久々の一コメGET!!wwおお〜このシリーズに狼さんも参戦ですか〜・・・そして、作成する話は桂花と華雄とは、さすがの一言ですwwではでは、後編楽しみに待ってます!!・・・モチベさんは見つかりましたか?(一丸) |
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