21 ごめんなさい………。 義姉様………。
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●月村家の和メイド21

 

「え? あれ? どうしてここに?」

「ええっと……、すみません、今話す気力がありません……」

 意外なところで意外な人物に出くわしたモノで、フェイト・テスタロッサは驚いているようです。無理からぬ事とは存じますが、カグヤも返事をする気力がありません……。

 っと言うのも、今カグヤは―――、

 

 

「さて皆さん? 実は先週急に決まったんですが、今日から新しいを友達がこのクラスにやってきます。海外からの留学生さんでフェイト・テスタロッサさんと、カグヤ・K・エーアリヒカイトさんです」

「あの……、フェイト・テスタロッサと言います。よろしくお願いします」

「カグヤ・K・エーアリヒカイトと申します。分けあってこの様な格好をしておりますが、カグヤは男にございますのであしからず」

 スカート姿で御辞儀をするカグヤの目は、きっと死んだ魚の如く無機質な物となっているのでしょうね。まさか恐怖に負けて女物を身につけているだなんて、カグヤは変態と言われても仕方ない気がします。

 教室内ではカグヤが入学する事を知らなかったすずか様と御馴染みの御二人が、驚いた表情でこちらを見ていますね。すみません、黙っていたのは忍お嬢様の「直前になって知った方が驚かせていいでしょう?」と言い出したからです。ちょっと楽しそうだと思ったのは内緒です。

 

 

 カグヤ、軽く死にたくなりました。

 っと言うのも『朝の会』と言われるホームルームが終わり、クラスの生徒達が転校生のカグヤとフェイトに集まって質問攻めしてくる時の事です。

 こんな経験は皆無であろうフェイトはたじたじになって一生懸命に質問にお答えしている横で、カグヤはされた質問に適当な物を返していました。時に余裕がある時はフェイトの手助けをするように話に割り込んだりもして差し上げ、できるだけ早く場が静まるよう心がけました。生徒を遠ざける方法で鎮静させなかったのは、後にすずか様に影響する事を避けるためです。

 ええ、ここまでは良かったのです。全て順調でした。フェイトの恥しがりながらも一生懸命な姿は、同年代の彼らにも人気なようでしたし、カグヤも波風立てないように努めるのに、苦を感じる事はありませんでした。

 その言葉が飛び込んで来るまでは……。

「フェイトちゃんもそうだけど……、カグヤちゃんも可愛いのね?」

「はい?」

 今何と言いましたそこにポニーテイル少女?

「ホントに、こんな可愛い女の子が二人も来るなんて驚き。私このクラスで良かった」

 ピウキシッ!!

 カグヤの中で何か脆いモノに罅が入った気配が……。

「男です」

「へ?」

「カグヤは男と申しているのです! 確かに訳あってこの様な格好をしていますが、最初に言いました通りカグヤは男で―――」

「ああ、あのユニークな冗談? 俺スッゲー驚いたけど、ちょと無理あるって」

 カシャ〜〜ン……。

 今、カグヤの中で何かが砕け散りました……。

「……脱ぎます」

「え?」

「脱ぎます。もう脱ぐしかないんです。ええ、分かっていましたとも。この様な格好でここに来れば勘違いされるのは道理。ましてカグヤ、ここ数年男として認識された事など殆どありませんでした。だからもう! これしかないのです! 脱げば解るでしょう!! カグヤが男である証拠をその目で余すことなく目撃すれば良いのです〜〜〜〜っ!!!」

「お、落ち着いてカグヤちゃん!?」

「いくらなんでも女の子が脱ぐとか言っちゃまずいって!?」

「か、カグヤ? どうしたの? 何に怒ってるの!?」

「黙りなさい! 今回と言う今回は本気です! なんなら明日から短パン穿いてきますよ! そうです! 最初っからそうすればよかったのです! 屈辱に身を浸すくらいなら汚名を受ける事も辞さない覚悟にございます! 見なさい! これがカグヤの―――!!」

 言って、服の端に手をかけた瞬間、思いっきり頭をド突かれてしまいました。平手で無くてゲンコツでした。かなり痛いです。

「いい加減にしなさい! こんな所で脱ぐなんて、慎みを知りなさい!」

 アリサ様でしたか? っと言おうと思ったのですが、頭の痛みに悶えるのに必死でなんどころではありません。この人手加減と言うモノを知らないのではないでしょうか?

「いい? 良く聞きなさい! アンタは女じゃないわ!」

 なんと!? もしやアリサ様、ついにカグヤの事を男と御認めに……!?

「アンタは義妹弟(いもうと)なのよ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

「その情報、何処から仕入れて来たのですか貴女は〜〜〜〜〜〜っ!?」

「「「「「「「「「「なるほど」」」」」」」」」」

「まさかの肯定!? カグヤのオプションが社会公認となってしまいましたっ!?」

 こうしてカグヤは……死にたくなりました。

 

 

「まさかカグヤちゃんも来るなんて驚きだよ。言ってくれればよかったのに?」

「いえ、その……忍お嬢様が、悪ふざけで……、すみません、もう少しカグヤに時間をください……」

 お昼休み、屋上ですずか様達、四人と御食事を御一緒させてもらっている中、カグヤは軽く鬱な呟きを洩らします。

 ちなみに言うと、カグヤにもさっそくお友達が出来ました。((斜向井|むかい))((嘉納|よしな))。薄茶色の髪を後ろで束ねた元気な娘さんです。転校生のカグヤ達に真っ先に質問を投げかけて来た超特急な性格でいらっしゃるご様子。

 もう一人、この方は席が隣になって仲良くさせていただいております。((冴沢|さえざわ))((花奈|かな))と申しまして、ブルーロングヘアーの髪で、視界を遮らないようにヘアピンをしていらっしゃる大人しそうな顔立ちをした娘さんです。実際は結構興味持ちで、隣の席になったのをいい事に、授業中も色々と質問されてしまいました。その全てに応えていたら、何故かお友達宣言をされてしまったのです。

 

(※↑オリキャラですが、As´第四話で、フェイトに質問をしていたクラスメイトの中から選びました。どんな子か気になったら探してみてください)

 

「フェイトはどう? 学校には慣れそう?」

「まだ解んないけど……、皆いい人だし、大丈夫だと思う」

「よかった! ……これからは、フェイトちゃんずっと一緒だね?」

「なのは……、うん!」

 なのはとフェイトは相変わらず、特別仲が良いように見えますね。この二人には二人の間にしかない特別な絆があると見えます。

「ずっと一緒……。そっか、カグヤちゃんも、これからはずっと一緒なんだよね?」

「え? ……ああ、そうですね。これからは学校でも一緒にございます」

「うん♪」

 すずか様はカグヤを見て微笑まれます。

 なんでしょう? 今一瞬、心臓が跳ねた様な気がします?

 しかし、嬉しいです。

 そうです。カグヤはすずか様を魔術から御守りするために編入してまいりましたが、よく考えれば、すずか様とした『ずっと一緒に居る』と言う約束を果たす結果ともなっているではありませんか? だったらいつまでも塞ぎこんでいないで、すずか様にお応えするが、カグヤのするべき事なのでしょう。

「ずっと一緒です。すずか様」

「うん♪」

 カグヤの言葉にすずか様はもう一度頷いてくださいました。

「……この五人で揃うと、私って軽く空気にならない?」

「「「「そ、そんな事ないよ(ありませんよ)………!」」」」

 アリサの遠くを見ながらの呟きに、カグヤ達は咄嗟にフォローするのでした。

 

 

 放課後の夕方頃。すずか様は図書館に来ておりました。この頃は気に入った童話がある様で、殆ど決まった日に訪れております。

 今回はカグヤも迎えではなく、動向ですので御一緒させてもらっています。

 しかしアレですね? 図書館の本は興味深いです。同じ内容の本でも、作者の見解によって全く違う結論に達している物もあれば、結論が同じだと言うのに理由が異なっている物もあります。どっちが正しいのかと言うと、どちらも正しいのです。ただ物事には色々な考え方があるのだと言う証拠が、此処には一挙に揃っているのだと解ります。

 ですが、個人的に知識として取り入れるには、多少集めた種類がバラバラ過ぎている気もしますね。偏りが無さすぎるのもどうかと思います。

 まあ、魔術師が興味を持つ視点での話ですけど……。

「あ、はやてちゃん」

 すずか様が誰かの名前を呼び向けた視線の先には、以前お見かけした車椅子の少女と、車椅子を押す、赤い髪をポニーテイルにした長身の女性がいました。

 すずか様とはやて様は、この図書館で時々御会いする御友達です。カグヤは以前、はやて様の従者でシャマルと交流を持っていたのですが、今回は別の方が付き添っている模様です。ちなみに、はやて様に対しては、シャマルの主と言う事で敬意を示し、心の中でも敬称で呼ばせてもらっております。

 以前シャマルと主を待っていた廊下の椅子に座り、すずか様とはやて様は楽しそうに談笑しております。カグヤは長身の女性同様に少し離れた位置で御二人を眺めます。

 言い忘れましたが、カグヤ、学校を出てからは振袖の千早を羽織っております。振袖の中に武器を仕込んでありますので、学外では出来るだけ積極的に着ているのです。普段は鞄の中に仕舞っていますが、鞄の中も殆ど武装だらけです。教科書類は今日中に全部机に置いてきました。

「今日はシャマルではないのですね」

 カグヤが隣でそう訊ねると、お付きの女性は少し意外そうな表情でこちらを見ます。

「皆それぞれ用事がある。今回は偶然私だっただけだ」

「用事ですか……。信頼し合える従者が複数いると、そうやってプライベートが生まれる物なのですね」

 カグヤの言葉が何か気に入らなかったのか、彼女は少し険しい目をなさいました。

「貴様、何者だ?」

 カグヤは鞄からいつも頭に引っかけているカチューシャを取り出し、それを頭に装着して見せます。あまり好いてはいないのですが、メイドカチューシャなど見ただけで何か分かりそうな物です。ですので、カグヤは仕事とプライベートをこれを使って使い分ける事にしています。

 彼女はしばらく意味が解らなかったのか、じっと眺めていましたが、何かを思い出したようにはっとして、納得したと言う顔で頷かれました。

「お前も騎士だったか」

「そこまで大そうな物ではありませんよ。精々身の回りの御世話が関の山。危険に際し、この身を呈してお守りする事もありますが、それは主が御喜びになりませんので」

「そうか、お前の主も、よい主なのだな」

「ええ、自慢の御優しい主にございますれば、命を預けるも甲斐があると言うモノです」

 カグヤはすずか様を、彼女ははやて様を、それぞれの主を見つめながら誇らしげに笑みを浮かべます。

「シャマルとは知り合いか?」

「シャマルには以前お会いしました。彼女は同じ従者として尊敬を込め、敢えて敬称を避けさせてもらっています。カグヤは彼女とは対等且つ近しいモノでありたい。それ故の呼び捨てにあれば」

「そうか」

 彼女は短く答え、ずっと主を見守っています。その佇まいは以前のシャマルとは違い、かなり場慣れした気配を感じます。歴戦の猛者だからこそ発揮されるオーラの様なモノでしょう。カグヤがもう少し場数を踏み、経験を得れば、もっと彼女の色んな物を読みとれたかもしれません。それだけに彼女がその身から溢れ出す気配は大きな物でした。

 以前のシャマルとは、多少、従者としての会話をしましたが、この方はどう言った方なのでしょう? 気になったカグヤは直接聞いてみる事としました。

「大切な人は、守れそうですか?」

 内容が突飛な物だったからでしょうか? 彼女は少し驚いたような表情でこちらを見降ろします。

 カグヤは視線を、はやて様の車椅子の後ろにある網で出来た収納スペースへと向けます。いえ、正確にはその中に在る薬の袋に。

「車椅子に乗っていれば、健康でない事くらい解ります。ましてアレが見えてしまっては心配にもなると言うモノです」

「よく見ているのだな」

「貴女様と同じにございましょう。カグヤもすずか様を護るために周囲に気を配らねばなりません」

 カグヤに言われると、彼女は「確かにその通りだな」と言って微苦笑を洩らしました。

 そのまま少しの間を置き、彼女は独り言のように呟きます。

「もし主が知ったなら、私達は蔑まれる事になるのだろう。それでも、私達は温かさをくれた彼女のためになら、剣を振るう事を躊躇ったりなどしない」

「そうですね……」

 カグヤはすずか様を見つめます。二人とも何やら童話の話で盛り上がっているようで、互いに笑みが絶えません。本当に幸せそうで、カグヤは少し羨んでしまいます。

「カグヤは……、ただ主を悲しませるだけになるところでした」

「なに?」

「少し前に、『大丈夫そうだ』と言う報告がありまして……、それでカグヤは、主を悲しませるかもしれない事態には、ならずに済んだのですが―――」

 何度思い返しても、すずか様を悲しませない結果に持っていける想像はありませんでした。それでもカグヤは義姉様への罪悪感を抑え切る事などできず、きっとこの命を無駄に捨てていたかもしれません。

「まだ、はっきり診てもらったわけではないのですが……、カグヤと貴女様は、どうやら逆の立場にあるようです?」

「逆……? とは、まさか……っ!?」

 彼女は何かに気付いた様に、先程までカグヤが見ていた薬の入った袋へと目を向けます。

「まあ、大丈夫らしいですよ。前例もあるらしいですし、自然治癒が見込めるそうですから」

「そうか。……主にその事は?」

「話していません。話していい事ではなかったので」

「話していい事ではない?」

「生まれ付き、色々抱えている身でしたので……」

「……そうか」

 カグヤのあやふやな物言いに彼女は察してくれたように質問しないでいてくれた。

「カグヤは屈していました。問題から逃げる事で、結果を少しでも後回しにしようとしてました。その結果は、運に助けられましたが……、きっと貴女様達には、逃げる選択肢はないのでしょうね……」

「ああ、それでは意味がない。主を護る事はできない」

「カグヤは自分が子供だと思い知らされました。いざという時、自分はこんなに憶病なんだと……。尊敬するシャマルと同じ主の元に居るのなら、貴女様もカグヤにとって尊敬するべき対象。どうか、主様を守りきってください」

「言われるまでもない事だ」

「でも言いますよ。でないとすずか様が悲しみます」

「そうだったな。あの方はお前の主だったな」

「はい」

 カグヤ達は一度も視線を合わせていません。互いに見る事はあっても向き合う事はありません。それは、従者にとって主以外の何かは、おまけでしかないからなのかもしれません。ですがきっと、カグヤ達にとっては正しいことと存じ上げます。

「私はベルカの騎士。シグナム。お前は?」

「カグヤ・K・エーアリヒカイト。月村家、すずか様御付きの使用人です」

「カグヤ・K・エーアリヒカイト……。憶えておくよ。同じ誇り高き従者、カグヤよ」

「恐悦にございます。カグヤも尊敬を込めて、敢えて『シグナム』と呼ばせて頂きます」

「ああ」

 そうしてカグヤ達は、従者同士、一度も視線を合わせることなく別れました。それでもここに、きっと絆はできたと思います。

 

 

「明日、なのはの検査があるんだ。それで、カグヤもついでに診てもらいに行かないか?」

 龍斗のその誘いは、カグヤのリンカ―コアを管理局の医療施設で診てもらうと言うモノでした。実際、今もカグヤは魔術の使用ができません。ここは一度しっかり診てもらった方が良いのも解ります。多少の不安は残りますが、それでも、カグヤもいい加減前へ進むべきなのでしょう。シグナム達の様に。

 夜寝る前に、カグヤはすずか様に伝えます。

 怪我をしてから身体の調子が今もおかしいので、少し東雲の方で腕の良い医者がいるところに行ってきます。

 それが伝えた内容でした。

 すずか様は何処か不安そうな表情をしていましたが、それでも頷いてくださいました。

 おかげでカグヤは何も心配する事無く、数日の暇をいただき、『狐』として管理局に向かいました。当初なのはと出会い、事の次第を聞いた時には「ええっ!? 狐ちゃんも襲われたの!? どうして言ってくれなかったの!?」と喚かれましたが「魔術師が魔術を使えなくなると言う事は、それを知られた時が死地でしたから」と伝え、腰を折って謝罪すると、慌てて謝り返されました。別に返す必要はないと思うのですがねぇ〜?

 そして、なのはのリンカーコアが無事完治したと伝えられ、病室を出て行ったあと、カグヤも医師に診てもらい―――耳を疑いたくなりました。

「もう一度言ってもらえますか。変な情はいりません。事実だけを」

「……、本来、リンカーコアは完全に抜き取られない限り―――つまり命に別状がない限りは、自然と回復が始まって行くものだ。君の様に若い物ならなおさらね。……しかし、どう言った事か、君のリンカーコアには複雑な回路の様な神経が密接に繋がっていた。今みたいな軽い診断くらいでは良く解らないほどにね。そしてそれはリンカーコアの影響と共に損傷し、治癒効果を失わせている。そのため君のリンカーコアは回復がまったくされていない」

「………つまり」

 カグヤは、その先の言葉を聞きたくないはずなのに、質問してしまいました。

 それが、カグヤにとってのトドメと解っていながら。

「……、残念だが、恐らく君は二度と魔法が使えないだろう」

 カグヤの神は死にました。

 カグヤが信じた世界は死にました。

 カグヤの望んだ未来は死にました。

 カグヤは大切な人を裏切りました。

 カグヤの全ては死に絶えました。

「………」

 カグヤは立ち上がり、病室を出ます。

 同時に何やら警報が鳴り始めましたが、今のカグヤにはどうでもいい事です。

 何かを考えるのが億劫です。

 何も考えたくありません。

 とりあえず此処に居たくないです。

 とりあえず……、

 カグヤは義姉様の所に向かいました。

 道中の道則など憶えていませんし、憶える気もありません。

 ただ、今は………、

「ごめんなさい……」

 カグヤは跪きます。そしてお詫び申すのです。詫びなければならないのです。

「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……っ!」

 涙が出ても、嗚咽を漏らしても、喉の奥から何かを吐き出しても、カグヤは詫び続けなければならないのです。

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 唯一義姉様がカグヤに残してくれた物。唯一義姉様が望んでカグヤに授けて下さった物。唯一義姉様が必死になって教えて下さった物。唯一、義姉様が……、義姉様渡す事の出来た欠片。それを―――カグヤは―――っ!?

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめ゛んなざい! ごめ゛んな゛ざい! ごめ゛んな゛ざい゛っ!」

 ごめんなさい義姉様。カグヤはもう、貴女の義弟として胸を張れません……。

 ごめんなさいすずか様。カグヤはもう……、

 

 もう帰れないようです……。

 

「ごめ゛ん゛な゛ざい゛……」

 視界は闇に染まりました。

 カグヤの内から零れる黒い泥が、カグヤを包んでいきます。

 これは自分が見せた幻なのか、現実なのか……、その答えは知っていたような気がしますが、もう思い出す事ができません……。

 いいや、どうでもいい事だ。

 もうどうでもいい事なんだ。

 だって僕は、全てを裏切った、裏切り者なんだから……。

 

 そう、僕はこの日、『裏切り』を知った。

 

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シリアス編に突入する前触れ
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