双子物語-41話-夏休み編3
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【観伽】

 

 確かに私が来たのは雪乃先輩の別荘だから、叶が雪乃先輩に構ってもらおうと

必死にアピールするのはわかる。なんていうか、私から見ても二人は両想いだし。

 

 そして、初日、二日目は叶を独占できたのはよかったよ。海で泳いでいても

終始雪乃先輩の話ばかりで上の空だったとしても楽しかったよ・・・!

 

 しかし、それ以降はちっとも一緒になれない。最初決まった部屋割りも

彩菜さんの一言で再び変えられちゃって同じ部屋でさえなくなってしまったり。

 

 こんなやるせない。もやもやした時は何か面白いものを見つけるに限る、と。

憤慨する気持ちを抑えながら浜辺を歩いていると、別荘の物陰に何かの気配を感じた。

 

 ここの私有地は土地含めてかなりの広さ。不法侵入者だろうか、そんな怖い考えを

抱きながらも好奇心の方が勝ってしまって、ついつい覗いてしまった。

 

「・・・!」

 

 私が驚きの声を自ら塞ぐと相手も気づいて私の方を見てきた。

それは雪乃先輩の家系とは想像もつかないような、ごつい顔と体形。

修羅場を潜り抜けてきたかのようないかつい男の人。

 

「サブちゃんさんじゃないですか」

 

 こんな暗がりで何をしているんだろうかと思っていたけど、見てしまったら

あまりのギャップについ、笑いそうになってしまった。

 

「な、なんだ・・・?」

「い、いえ・・・」

 

 サブちゃんさんの無効にはダンボールが置いてあり、その中で子猫が

ぴちぴちと美味しそうに皿のに入っているミルクを飲んでいた。

 

 暗がりなんだけど、部屋の窓の近くにあるからか、うっすらとその姿を確認できる。

 

「お、親父さんに言うなよ。怒られるから」

 

 まるで子供のような言い草に私の彼に対する印象が大きく変わってしまった。

不機嫌で退屈の私にはちょうどいいおもちゃを見つけたような気分である。

 

「いいですよ、その代わり」

「・・・」

 

「次の日、一日の間。私の相手をしてくれること」

「は・・・?」

 

「こんなか弱い女の子の頼みも聞けないようだったら、ばらしますよ?」

 

 しなを作って軽く脅しをかけてみた。もちろん、冗談半分だったけど。

こんな状況だし、私に脅されても色々避けようがあるはずなんだけど、このヤクザさんは

真面目なのか何なのか。

 

「こ、この俺を脅そうだなんて・・・!」

 

 凄みを見せていても、何だか可愛く見えてしまう。そんなに後ろの猫が大切なのだろう。

私にはよくわからないけど。

 

「どうするんです?」

「うぅ・・・」

 

 否定しないってことは肯定していいのだろうか。少し迷ったが、調子に乗りすぎたら

怒られるだけだろうし、ここは面白い方に乗らせていただきますか。

 

「よしっ、決まり〜」

「お、おい・・・!」

 

 私は彼から離れようと歩き出すと、引きとめようと手を伸ばした所で私は振り返った。

 

「にゃんこも連れてきてくださいよ。暑さにやられちゃうかも」

 

 こうなったら私も同じ道に乗らせてもらおう。楽しませてくれるのなら、見つかって

一緒に怒られるのも悪くはないと思えた。

 

 私の部屋に持ってきた箱の中を覗くと、薄汚れていながらも目はパッチリ開いていて

目ヤニも少ない。捨てられたばかりのにゃんこなのかもしれない。

 

 小さくて暖かい部屋の中で何も知らずに欠伸をしている姿を見てると、

思わず微笑みが漏れてしまう。

 

「いいのか?」

「はい?」

 

 後ろから聞かれたことに、意味がわからず聞き返すと、相部屋の住人に了解を

取らなくてもいいのかっていう意味だったらしい。

 

「ここにいる人たちは、部屋決められても居るとは限りませんし」

 

 苦笑しながら言った。一応決められてはいても、それぞれ会いたい人のとこへ

向かってしまうから、ここ最近一人でいることが多いのだ。

 

 話せる相手も来ているメンバーの中ではほとんどいないので、ちょうどいいのだ。

その説明をした後にドヤ顔をして振り返る。

 

「他に何か問題でも?」

「い、いや。何でもない」

 

「じゃあ、もう戻っていいですよ〜」

「あ・・・?」

 

「あまり長居してると、上の人に怪しまれますよ」

「あ、そ、そうだな・・・すまない」

 

 しかも乙女の部屋だと気づいたからなのか、気まずい表情のままそそくさと

逃げるように部屋から出ていった。

 

「何か・・・ちょっとした快感が」

 

 セクハラを楽しんでいる上司のような気分で変な笑いがこみ上げてきた私だった。

 

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【サブ】

 

 予想外にも厄介そうな子供に目をつけられてしまった。

自分の部屋に戻り、顔を洗ってから溜息を吐いた。

 

 俺は人との付き合いが極端に苦手なのだ。そういうのは基本、気さくなお嬢だったり、

親父さんだったりがいつもしているから。

 

「まぁ、すぐに飽きるだろう」

 

 最近の若いやつは興味がコロコロ変わるようだから、俺が心配するほどのことでは

ないだろうと、自分を誤魔化して寝付いたが・・・。

 

 次の日・・・。

 

「サブちゃんさん!」

「お前か・・・」

 

「あ、何なの、その態度は。昨日の件、上の人にばらしちゃいますよ?」

「お、お前!ヤクザを脅す気か!?」

 

「脅すなんてとんでもない!私はただ遊びたいだけですよ」

 

 といって、いきなり俺の腕にそいつの腕が絡ませくっついてきた。

 

「やめろって」

「今日一日くらい良いじゃないですか」

 

 ブーブーと口を尖らせながら文句を垂れる、雪乃お嬢の後輩。

こんな強面にわざわざ近づいてくるなんて、怖いもの知らずなのか。

それとも、俺がナメられて遊ばれてるだけなのか・・・。や、恐らく後者だろうな。

 

「くそう・・・」

 

 あまりに情けなくてしょげ返って二人で歩いていると、もう一人の後輩と楽しそうに

喋りながら歩いている雪乃お嬢がいたので、助けを求めるように声をかけてしまう。

 

 本当は楽しそうにしている時に邪魔はしたくないが、今は緊急事態とばかりに

悲痛な声を上げたが。

 

「・・・?」

 

 最初は何事かという視線を俺に向けるも、その光景を目にした時に微笑ましい

表情をして再び視線を戻されてしまった。

 

「お嬢・・・!」

 

 無慈悲にもお嬢はそのまま俺の目の前から去っていった。

そして、再び二人きりになってはしゃがれるのかと憂鬱にもなったが、

一向に五月蝿くなる気配がない。

 

 隣にいるお嬢の後輩を見ると、神妙な面持ちでお嬢たちがいた所を見つめていた。

 

「どうした?」

「え・・・?」

 

 俺が声をかけると我に返ったのか反射的に言葉を返してきた。

 

「急にボーッとしてるからよ」

「あ、あぁ・・・」

 

「まぁ、無理には聞かねえさ」

 

 笑いながら言うと、俺の顔を見てから安心したのか。ボソッと聞こえるか聞こえないか

くらいの小さな声で呟き始めた。内容は好きな人がいるとのことだ。

 

「雪乃お嬢のことかい?」

「もう一人の方!」

 

「あぁ・・・あの子か」

 

 小さいがしっかりして気が強そうに見える。色んな厳しい状況を凌いでいる顔つきだ。

ああいうのが好みだったか、と。隣で照れくさそうに話すお嬢の後輩が可愛らしく見えた。

 

「女同士で変とか思ってるんでしょ?」

「いや、雪乃お嬢の姉にあたる彩菜お嬢もどっちかというと女好きだしな。

別に何とも思ってねえよ」

 

「ほんとに?」

「あぁ」

 

 お嬢たちがしてるのは、一般人から見たらどうかと思うかもしれないが。

普通に考えれば、別に変なことじゃないってことはわかった。

 

 人が人を好きになるのは、ごく自然なことだからだ。

それを男だの女だのってくだらない理由で差別するのはどうかと思えた。

 

「それを言ったら、俺は身分の差がありすぎる人に恋しちまってたからな」

「へぇ〜。それは誰なの?」

 

「これ以上は言えねえけどな」

「ふーん」

 

 もっと深く突っ込んでくるのかと思ったが、意外とあっさりと引いてくれた。

興味がなかったのか、デリケートな部分だと感じたからなのかは定かではない。

まぁこれ以上聞かれても俺は答えようがなかったし、ちょうどよかったが。

 

「でも、それってさ。ほとんど特定できるよね」

「あん?」

 

「サブちゃんさん、ノーマルぽいし。ここでの身分高い女性って言ったら

ほとんどいないじゃない」

「あ・・・」

 

「ぷふふ、けっこうボケ要素あるんだね」

 

 口に手を当てて、人を小ばかにするような言い方をするお嬢の後輩。

 

「お、おまっ。いくら雪乃お嬢の後輩だからってあんまナメてかかると・・・!」

「あ、そうそう。どうせだし、私のこと名前で呼んでよ」

 

「あん?」

 

 少し凄みを利かせるが、とんと効果はなく。どんどんと二人の距離が狭くなってく

気がする。こいつは遠慮という文字を持っていないのだろうか。

 

「何かご不満でも?」

 

 ニヤニヤしながら聞いてくるから、不満だらけだとハッキリと言ってやる。

初めて対面したのにちっとも遠慮とかしねえから。

だけど、こいつは。

 

「よし、じゃあ私はサブちゃんさんの部下になる!だから名前で呼んで!」

 

 どういう理屈だろう。部下になったら名前で呼ぶのかと思ってるのだろうか。

逆に呼ばなくなるっていう考えはないのだろうか。

 

 こいつは鋭いのか抜けてるのか、わからないことが多すぎる。

だけど、嫌な癖に突き帰さない辺り。俺もまんざらじゃないのかもしれないな。

 

「わかった、わーかった!じゃあなんて呼べばいいんだよ」

「観伽ちゃんで♪」

 

 語尾に星マークでもつきそうな作られた甘い声で言われ、俺は背筋が寒くなった。

そんな風に呼べるはずがない。そう思うとそれが伝わったのか口を尖らせながら。

 

「ワガママだなー」

「どっちがだ」

 

「じゃあ、苗字でも何でもいいよ〜」

「わかったわかった。後で考えておくから」

 

「ほんとに!? やった〜」

 

 高校生とは思えない子供っぽい笑みに思わず釣られてしまっていた。

そんな姿を見せたらまたからかわれると危惧していたら、雪乃お嬢と一緒にいた

女が再び俺たちの前に現れた瞬間。

 

「おーい、叶〜!」

 

 一人になっているのを確認して表情が一変。俺の存在なんかすっかり忘れて

飛び出していった。

 

 今まで組んでいた腕が急に楽になって、ちょっとした違和感を覚えていた。

いつも通りに戻っただけなのに。

 

 それから間もなく、部下たちがニヨニヨしながら俺に近づいてくる。

何かを聞きたそうだったから、イラつく俺は早く言うように強く言うと。

 

「いやぁ、兄貴もモテるんですね。女子高生にくっつかれて最高でしたでしょう?」

「は?」

 

 女子高生・・・。あぁ、確かにあいつは女子高生だったな。

当たり前のことを今更のように受け取る俺だが、話していたら別の何かを感じていた。

不器用で近くにいるのに気持ちを伝えられない何か。

 

「そんなんじゃない。俺は付きまとわれていただけで、迷惑だったよ」

「えー、嘘だーーー」

 

「お前・・・そんなこと言ってないで、やることやってこい。シメられたいのか?」

「わああああ!すみません兄貴!い、行ってきやす!」

 

 青ざめた顔をして慌てて走り去っていく部下たち。普通は俺が睨むとああいう反応を

するんだが、親父さんやお嬢たちに近い反応したんだよな・・・。アイツは・・・。

 

「名畑か・・・」

 

 名前で呼び合える人間なんて指で数えるくらいしかいない。何だか照れくさくて

その言葉を頭を振って消した。

 

「俺たちは状況は違えど、似たもの同士だよな・・・」

 

 外に出て、煙草を吸いながら何となくそう思った。それに、隠していてもこうやって

まとわりつかれるなら、いっそ白状した方が気が楽だと悟った俺であった。

 

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 翌日。

 

 別荘の仕事が一段落して煙草をふかしながら休憩をとっていると、慌てた表情で

俺の元に走ってくる女がいた。

 

「ちょっと、サブちゃんさん!」

「どうした、名畑嬢」

 

「私の部屋に置いたにゃんこいないんですよ!」

「あぁ、あれは親父さんに相談したら飼ってもらえることになった」

 

 最初から言うべきだったな、とダルそうに付け加えると。

 

「そういう意味じゃないです。あれがないと、サブちゃんさんを連れ回せない

じゃないですか」

「やっぱ、そんなろくでもない事を考えていたのか・・・」

 

「当たり前です!」

 

 胸を張って威張るが、そこは威張る所ではないと思った。

呆れながらも俺はごく当然のことを名畑嬢に伝えてみる。

 

「俺みたいなヤクザもんにくっついてないで、友達と遊んでたらどうだ。

勉強もあるだろう?」

「叶以外にそんなのいるわけないじゃないですか・・・」

 

 苦虫を噛み潰すような嫌そうな顔をしながら、吐き捨てるように言った。

俺は思わず口から煙草がこぼれて、視線を外して呟いた。

 

「それは・・・すまないことを言ったな・・・」

「私の傷口は広がる一方ですよ・・・」

 

「悪かったよ・・・!」

「こうなったら、今日も付き合ってもらいますよ!!」

 

「なに!?」

 

 しつこくしてくると思ったら今回もこいつのお守りをしなくちゃいけないのか。

だけど、多分断るとお嬢達に悪いように伝えて俺の立場を危うくしそうな気がする。

 

「さぁ、買い物にレッツゴーですよ!」

「何か・・・悪い女に引っかかった気分だぜ・・・」

 

「何か言いました!?」

「いいや、別に・・・」

 

 ぐいぐいと引っ張られながら、俺は半ば諦めて付き合ってやることにした。

同じ傷を持ってる者同士と思えば、最初ほど抵抗はなくなっていた。

 

「しょうがねぇな」

 

 ちゃんと許可をもらってから、行きたい場所を聞いて名畑嬢を車の助手席に乗せ

走らせる。何だか昔からの友人と遊びに行くような感覚に軽く胸を躍らせていた。

 

(たまにはこういうのも悪くはないな)

 

説明
あらゆる意味であぶれた組み合わせの話。似た境遇の中でどういう感情が芽生えるのかは、もう少し後の話。双子の登場シーンはほぼ皆無
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