魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 レイジングハートさんがストレスでデデデストローイな32話
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「おい、そこの嬢ちゃん。ここら辺で学制服着た男を見かけ……おいおい『トイレの花子さん』かよ!?」

 

 

田中の様子を見に行こうとした花子さんは、森での道中に奇妙な男と出くわしていた。

どうやら森の中をあちこち探っていたらしい、葉っぱや枝が体についている。

そして『奇妙な』というのはその男の格好だ。

 

まず目に付くのは髪型、まるで頭に大砲でものっかってるんじゃないかと思う程巨大で、見事に整えられた黒光りするリーゼント。

次に服装、田中と同じく高校生らしく黒い学生服を着ているのだが、改造されているのかやたらポケットが多く、そして上着の丈が靴に届くほど長い。

所割『長ラン』と呼ばれるものだ。

 

ごつい体格と高い背丈、その上そんな恰好をしているせいもあるのか、ちゃんとした恰好をすれば顔は美形であるはずなのに威圧感しかしない。

 

そして何より、『目つきが悪い』常時睨みつけてるんじゃないかという程鋭い三白眼。

それだけならまだしも目の色までヤバい、悪意とか怒りとか悲しみとかがいっぺんにゴチャ混ぜになったかのようなドス黒い目なのだ。

 

そいつの外見を一言で表すならば、ぶっちゃけ『番長』である。

それも随分と昔のマンガみたいな。

 

 

「くっ……、なんてワルそうな奴なんだい。長いこと学校の怪談やってるアタイでもこんな不良は初めてだよ」

 

「ちょっと待てや、会った第一声がそれかよ。スケ番口調のアンタにいわれたかねぇぞ……!」

 

顔をひきつらせる番長(仮)。

どうでもいいが最近はこんな感じの番長やスケ番は最早絶滅危惧種なんじゃないかなと作者的には思わざるを得ない。

 

 

(……あれ? コイツ『アタイが見えてる』?)

 

と、話している内に花子さんは違和感を感じた。

そう、この場所は『森の中』なのだ。

 

いくら有名な幽霊であろうと、学校の怪談や都市伝説は『話の中で出る場所』でなければ実体化は出来ない。

つまり今の花子さんは生きている人間には見えない筈なのだ、それなのに花子さんと会話が成立しているこの男は……。

 

「あー、コッチは別にアンタに用はねえんだが、アンタと一緒にいる男に用があるんだ。何処にいるのか知らねえか?」

 

(幽霊だコイツ、しかも木の枝とかゴミがくっついてるってことは都市伝説級……見たことない奴だけど……? いやそれより学生服を着た男って、何で田中を?)

 

 

普通なら田中の知り合いと考えたかもしれないが、田中は幽霊の知り合いといったら花子さん達しかいない。

明らかに怪しい不審者に、花子さんは警戒を強める。

 

「待ちな、相手に何か尋ねる時は名乗るのが筋ってもんじゃないかい? 悪いけどアタイはアンタみたいな都市伝説は初めて見るしね」

 

何にせよ、名前さえ分かれば相手がどんな幽霊か分かるだろう。

都市伝説や学校の怪談というものは、更に有名になるために案外素直に名乗ることが多いのだ。

番長(仮)は「おう、それもそうだな」と納得している。

 

 

「わりぃわりぃうっかり忘れてたぜ、俺は――――っあ? なんだよ、『名乗るな』だって? いいじゃねぇか別に」

 

「?」

 

ところが、おかしなことに番長(仮)は他に誰もいない筈なのに話を途中で遮られたかのような反応を見せる。

何やら小声でブツブツ呟いているのだ。

 

(ラップ音で会話している? いやアタイ達以外の声もしないし……)

 

端からみれば正常とは思えない行動に、花子さんは思案するも答えは出ず、首を傾げる。

 

「俺の名前が分かったって俺達の正体なんざわかりゃしないっての。え、あ、『俺達』とか言っちゃマズかったか……? チッ、しゃらくせえ…………今のは忘れてくれ、俺は『板張 剛』(いたはり たけし)だ」

 

まるで電話を苛立ちながら途中で切るように独り言を止めて自己紹介を始める。

その仕草を見た瞬間、花子さんの脳裏に閃くものがあった。

 

 

(コイツ、まさか『中二病』なんじゃ……?)

 

そう、一般的に中学校の生徒が発症するといわれる中二病。

学校の怪談をやっている花子さんにとっては非常に身近な病の一つである。

 

病状の例を挙げるなら『くっ……抑えろ俺の右手』とかいいながら怪我もしてないのに包帯を巻いた右手を抑えたり、『とうとう奴らが動き出したか……』とかいいながら至って平和そのものの青空を窓から見たり、見ているこっちが痛々しくなる物ばかりである。

 

ちなみに板張の当てはまると思われる病状は、掛けてもいない電話相手に『ああ……例の奴だ……』的な謎セリフを喋るものだ。

そうなるとどす黒い瞳も、カラーコンタクトか何かだと予想が出来る。

 

「あー、アタイは『トイレの花子さん』だけど。……程々にしときな、後で思い出して恥ずかしいのはアンタなんだから」

 

「おう? なんかしたか俺?」

 

なんということだ、コイツ自覚がない。

頭に『?』と疑問符を浮かべる板張に、花子さんは哀れみを込めた視線を送る。

 

「俺の顔に何かついてるのか……? まあいい、とにかくだ。単刀直入に言わせて貰うぜ、『俺は学生服の男と勝負しに来た、だから居場所を教えろ』」

 

 

 

 

ただしこの言葉を聞いた瞬間、視線は哀れみから敵意へ切り替わる。

 

「……何だって?」

 

「聞こえなかったわけじゃねえだろ。アイツの実力ってやつを知りたいんだよ、『俺たちの仲間にふさわしいか』見極めるためにな」

 

板張の言っていることは理解できる、だがなぜそんなことをするのかが分からない。

それに『板張 剛』なんて名前の都市伝説など聞いたこともなかった。

 

「今、田中は取り込み中だよ。アンタと勝負してる暇なんてない」

 

「そいつの事情なんざどうでもいい、アンタに聞かなくても勝手に探すさ。まあ殺しゃしねえから安心しな。」

 

どうやら花子さんに聞くのは諦めたらしく、板張は田中を探すためか飛び立っていこうとする。

 

田中の作戦はあくまでもリニスと1対1、そしてポルターガイストで操作する人形で魔法少女達を相手にするのが前提条件なのだ、そこにこんな訳の分からない奴をいかせてはならない。

 

「待ちなっ! アタイの弟子にケンカふっかけるたぁいい度胸してんじゃないかい!」

 

花子さんは人魂を、圧縮して打ち出すイメージで板張に放つ。

レーザーのように細く鋭いそれは、霊格が低い今の花子さんでも都市伝説級すら撃ち抜ける攻撃だ。

 

 

「痛ぇっ!? おいおい、ちょっと待て。俺は女と戦う趣味はねえぞ!」

 

(殆ど効いてない!? 後頭部をぶち抜いてやろうと思ったのに……)

 

何気にえげつない狙いだった、ちなみに頭が吹き飛んだら大概の幽霊は消滅します。

しかし、花子さんの人魂は板張の頭にコブをつけるぐらいしか効いていなかった。

 

「アンタの信条なんて知らないね。田中の敵は師匠であるアタイの敵、行かせはしないよっ!」

 

だがそれが何だ、田中の人魂はカラスにさえ傷一つつけられない。

そのうえでリニスと戦っているのに自分が敵の足止めぐらいできなくて何が師匠だ。

 

「行かせないって、力の差を理解してんのか? トイレにいないアンタじゃそこら辺の幽霊と同じ様なもんだぞ、都市伝説級の俺の相手になるわけが……」

 

「舐めるな、霊格だけじゃ幽霊の勝負は決まらない。そうやって油断してると浮遊霊にも負けるよ」

 

「いやだから女とは戦わねえって……。チッ、ならやってみろ。『1分』だ、『1分間だけなら俺は何もしない』その間に俺を止めてみろよ。碌にダメージもはいりゃしねえ人魂でな」

 

仕方ない、といった様子で板張は飛び去ることを止めて花子さんに向き合う。

『女とは戦わない』という信条は本物らしく、こんな条件まで出してくるとは思わなかった花子さんは少し驚く。

 

 

「勘違いすんじゃねえぞ、一分たったら力ずくでも探しに行くしそれでも邪魔するならアンタにも容赦しねえ」

 

「分かった、ならアタイも一分でしっかりケリをつけてやる」

 

「……言ったな。少しは期待してるぜ?」

 

歯をむき出しにして豪快に笑う、どうやらテケテケと同じく先頭狂の気があるようだ。

仁王立ちのまま動かない板張に対して、花子さんは右手の人差し指を向けビー玉ぐらいの大きさの人魂を作り出した。

 

「またレーザーみたいな人魂か? いくらイメージが良くたって根本的に火力がないんじゃあ……」

 

板張が呟くや否や、花子さんは人魂を発射。

ただし、人魂のイメージは先程のレーザービームではない。

 

 

 

カッ!!! と、花子さんの放った人魂は板張の目の前で炸裂、凄まじい光を放った。

かつて海鳴のカラス達を気絶させたスタングレネードのイメージだ。

 

「うおっ!? 眩しっ!」

 

「アタイが何度も同じ手を使うとでも思ったのかい? そんで隙だらけだよっ!」

 

顔を覆いたまらず動きを止めたチャンスを逃すわけはなく、花子さんは板張に向かって走り出し大きく跳躍する。

空中で横倒しの状態になりながら、両足を板張に向け、さらに人魂を自分の頭の上に作り出す。

 

(田中、技を借りるよ! えーと、『吹っ飛ばすイメージだけ』で……)

 

「『爆発飛行』ッ!」

 

ドカン! と花子さんは人魂を爆発させ、その推進力を利用しロケットのごときスピードでドロップキックを放った。

 

「おぐっはっ!?」

 

目を潰されている板張には見えるはずもなく、鳩尾に両足を叩き込まれ無様に吹っ飛んでいく。

流石に田中を蹴っ飛ばした時みたいに地球一周は無理だったが、地面に土煙をあげながらも数メートルは進んでいる、相当な威力だ。

 

 

「どうだいっ、アタイの弟子の技も大したもんだろう?」

 

「ぐっ、ぐおお……!?」

 

仰向けに倒れ悶えている板張に花子さんはしてやったりといった表情で近づいてゆき……。

 

「こいつで『詰み』だよ」

 

「あ?」

 

 

顔に人差し指を向ける、すると板張の『口の中』に青白く輝く人魂が生み出された。

 

「動くな。コレは『吹き飛ばすだけ』の人魂だよ、アンタの口の中で爆発させれば……後は分かるだろう?」

 

「は!? あがっ!!?」

 

自分が今どんな状況に陥っているのか理解できたらしい、板張の顔がみるみる青ざめていく。

いくら『吹き飛ばすだけ』と言っても、花子さんを人ひとり軽々蹴飛ばせる人間砲弾に変えれるような代物なのだ、いうなれば『熱量無きグレネード』そんなものが口の中で爆発してしまえば頭など簡単に消し飛ぶだろう。

 

「死にたくなけりゃ吐きな。どうしてアンタは田中を狙うのか、アンタは一体どんな都市伝説なのかね! さあ、口を動かすと暴発するからラップ音でキリキリ吐きなっ!」

 

「はあぁ!?」

 

花子さんの目的は花子さんの狙いは脅迫、要はこの訳の分からん不良が何がしたいのか知っておきたいのだ。

万が一田中の知り合いだったらマズいので殺す気は無い、『今は』。

 

板張は初めこそどうにかして脱出しようと考えていたが、自分の鳩尾に走る痛みを思い出して観念した。

 

『チッ、まさか弱体化してるアンタに負けちまうとは……。仕方ねえ、まずはアンタの弟子と戦いたい理由は『単なる俺の趣味』だよ。深い理由なんかねえ』

 

「趣味? てっきりアタイは田中と因縁でもあるのかと……」

 

『そんなもん無いに決まってるだろ。アイツと俺は初対面だ』

 

 

一番に聞きたかった所がしょうもない理由だったので花子さんは肩すかしをくらってしまう。

どうやらテケテケと同じ人種らしい。

 

「ていうか、ヤンキーで中二病で先頭狂って。アンタ節操のないキャラしてるね……」

 

『ちょっと待てやコラ、ヤンキーと戦闘狂はともかく中二病はなんだオイ』

 

リーゼントの如何にも番長な雰囲気で戦闘狂、だがしかし独り言をブツブツ言ってる残念キャラ、花子さんの板張のイメージはだいたいこんな感じである。

ところが、板張はそんなつもりが微塵も無いらしく不服のラップ音をあげる。

 

 

『何で俺が中二病なんだよ。そりゃまあ俺達の組織名はそんな感じだが、俺は違ぇぞ?』

 

「え、『俺達の組織』? アンタが妄想で独り言いってるだけじゃなくてかい?」

 

『何が妄想だっ! 通りでさっきから哀れみの視線向けられてると思ったらそういうことかよ!!』

 

命を握られているというのに、果敢にも突っ込む板張。

中二病扱いが嫌らしく勝手に説明を始めだした。

 

 

『なんか変な勘違いしてるみたいだが、俺は『レギオン』っつう幽霊の組織の一人なんだよっ! アンタには独り言いってるように聞こえるかもしれねぇが、さっきから仲間が『組織のこと喋りすぎるな』ってうるさいったらありゃしねえ――――

 

「そーそー、私たちのリーダーは用心深いからー。ところでバンチョー、ちょっとお話しし過ぎだよー?」

 

背後から、何の前振りもなく聞こえる女の声。

花子さんは咄嗟に気付いて後ろを振り向くが――――遅かった。

 

「はい残念、その人魂はしまってねー。脳髄がぶちまけられるグロ展開は私もあなたも得をしないと思うよー?」

 

「!?  なっ、アンタだれ……っていうかいつの間に!」

 

拳銃を突きつけるように、橙色の人魂が花子さんの額で燃えていた。

花子さんに気配すら察知させることもなく背後を取った人魂の主は、どこか抜けているような、のんびりした喋り方をする少女だった。

 

 

髪型はショートボブだが、くせっ毛らしく先がカールしていて『ゆるふわ系』と言えば分かるだろうか、年齢も田中とそう変わらない。

「ほらほらー、バンチョー離したら何にもしないから早くしてよー。わたし動くの面倒くさいしさー」と言っているようにずぼらな性格らしい。

というか、服装がパジャマである。

 

『てめぇ優羽! 俺のケンカに手ぇだすんじゃねえっ!』

 

「あーバンチョーわたしの名前までえー。あとケンカって言ってもバンチョー負けちゃってるじゃんー」

 

(……まーた変な奴が出てきたね。しかもコイツも知らない幽霊だし、というか『どっから出てきた』?)

 

口喧嘩をし始めた二人を花子さんは観察するものの、やはり見覚えは無い。

 

優羽と呼ばれた少女はまるで『メリーさん』や『異次元おじさん』が瞬間移動してくるように現れたのだが、花子さんは二人以外に瞬間移動が出来る幽霊を知らない。

言動から分かることと言えば『二人はレギオンという組織に所属している』ということ、『最低でもリーダーと呼ばれる奴があと一人いる』ぐらいか。

 

そして『レギオン』、その名前は確か聖書に書かれている悪霊の名前だったはず――――

 

「あーもー、負け犬バンチョ―なんか反省して頭パーンってなっちゃえばいいんだよー」

 

『ちょ、おまっ!? まてまてなに人魂爆発させようとしてんだよ!』

 

「は? な、わあああああ!!?」

 

とか考えている内に、優羽と呼ばれた少女はあろうことか勝手に人魂を爆発させてしまった。

不意打ちすぎて花子さんは反応が遅れてしまい、板張に向けている人魂を爆発させることも出来ない。

 

ドカン! と花子さんの目の前で爆発した人魂は大量の煙幕を撒き散らす。

 

(田中、ごめんよ……足止めも出来ないダメな師匠で……。せめて最後に、アンタにちゃんと気持ちを――――)

 

「ってゲホッ、あれ? アタイ生きてる……?」

 

あんな近くで爆発したものだから、てっきり助からないと思っていた花子さん。

どうやらあの人魂、『煙幕だけ』出すようなイメージを込めていたらしかった。

 

 

「じゃあな〜とっつあん〜〜。なんちゃってえー」

 

「ゴホ! ってめえ紛らわしいんだよ! 逃げるならなんか合図送れ!」

 

煙幕のため姿は見えないが、さっきまでそばにいた筈の二人の声が上空から聞こえた。

まんまと脱出させてしまい、花子さんは歯噛みしながら追いかけようとするが……。

 

 

「待ちなっ! まだ聞きたいことが山ほど

 

「まあまあー、『今回は』わたしたち何にもしないからさー。それよりも彼氏の方にいったほうがいいんじゃないかなー? もうすぐ終わるみたいだしー」

 

かっ!? 誰が彼氏だいっ!!?」

 

突拍子もない発言にうろたえてしまい、一瞬動きが止まる。

我に返って煙幕を上に飛び突っ切るが既に二人の姿は無かった。

 

 

「アタイとしたことが……。まさか取り逃がすなんて、田中のいる方向には向かってないみたいだけど……」

 

二人の声が最後に聞こえた方向は田中がいる方向とは真逆である、どうやら本当に何もする気がないらしい。

最期まで何が目的だったのかはわからなかったものの、事が終わり次第、一度全員で話し合う必要があることは明白である。

 

「ロクでもない連中だってことは分かるけどね。っとそうだ、田中はどうなって……」

 

優羽と呼ばれた少女が『もうすぐ終わる』といっていたため、そちらに花子さんは顔を向ける。

すると、少し離れた上空にリニスのフォトンランサー・ファランクスシフトの光が輝くのを目にした。

 

 

「……『大量の黄金の人魂』。 作戦通りに追い詰めれたってわけかい、でかした田中。絶対にしくじるんじゃないよ、チャンスは一度きりなんだからね」

 

夜空に浮かぶ黄金の光達を見て、花子さんは自分の弟子の勝利を確信していた。

 

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「……『貴方は私の敵です』!!!」

 

俺の考えに考えた作戦が上手くいって、ついにリニスさんがフォトンランサー・ファランクスシフトを使ってくれた。

俺の前方にいるリニスさんは敵意100パーセント、殺意120パーセントな感じで睨みつけている、間違いなく殺す気だろうなぁ……この戦いが終わったら事情話して協力してもらいたいんだけど、今度はこっちが上手くいくのか不安になってきた。

 

いやまあ、ここまで嫌われるのも仕方ないよな、だって作戦が作戦だったし。

 

俺が立てた作戦というのは、全て『リニスさんにフォトンランサー・ファランクスシフトを使わせる』ことを中心に組み立てていたのだ。

何故その技を使わせるかの理由はこれから分かるからいいとして、作戦の内容を簡潔にするならこんな感じ。

 

リニスさんに必殺技使わせたい→必殺技ってどういう時に使う?→追い詰められたとき→タイマンじゃ勝てなくね?→フェイトちゃん達追い詰めたらいいんじゃね→お前天才

 

 

……全然分からなかった人たちスミマセン、俺も攻撃くらったりして少し疲れてるんです。

 

1から言うと、まず俺がリニスさんと戦う大前提として『タイマンでは勝ち目は無い』というのがついてまわる。

いや勝ちにいくのにその前提は無いだろとか思われるだろうが、こちとら攻撃力はゼロ、ついでにリニスさんはフェイトちゃんの師匠なだけあってなのはちゃんより強いんだよ。

 

初戦では初めこそ不意を突いたり奇襲で優位に立てたけど、人魂ソードが砕け散ったアレ以降攻撃がほとんど躱され、完敗してしまっている。

 

ではどうやって俺はリニスさんと戦うのか、という問題に対して俺が出した答えは『フェイトちゃんを利用する』というもの。

 

リニスさんはフェイトちゃんの守護霊になるほど彼女を愛し、守ろうとしている。そのフェイトちゃんがピンチに陥れば気が気ではいられなくなるだろう。

 

 

そして、俺はあの特訓のおかげでポルターガイストの操作が異常なまでに器用になってきてることに気付いた。

それで人形か何かを操作してみると、驚くことに『今まで見てきた人物の動きを完全にコピーして動かすことが出来た』のである。

その凄さ、試しに恭弥さんの動きを真似したらテケテケさんと互角に渡り合えるほど。

 

フェイトちゃんにはこのポルターガイスト操作人形『マクシー君』をぶつけ、適度に追い詰めながらリニスさんと戦った結果、読み通りリニスさんはフェイトちゃんの方に気がいってしまいまともに戦えなくなってくれた。

 

そして『一気にケリをつけるしかない』と思わせてフォトンランサー・ファランクスシフトを使ってもらう、これが俺の作戦の全貌だ。

 

 

ぶっちゃけ「ほらほらどうした、早くしないとフェイトちゃんの命は無いぞ〜」的な戦い方、いやあ我ながらすっげえ汚い! 嫌われても仕方ないよね!

 

ま、どんなに嫌われようがかまわないけどね。

絶対にリニスさんも、プレシアさんも、助けるんだ。

 

 

「さーて、それはどうでしょうかね!」

 

いつまでも長々と考えてる暇はない、俺も最後の大詰めをやらないとな。

リニスさんの言葉に返事をして、俺はあるイメージをしやすくするために両手を上にあげる。

 

「うおおおおおおおっ!!!」

 

「!? それは……」

 

 

 

ボッ、ボッ、ボッ、と俺の周りに次々と人魂が生み出されてゆく、それはまるで『フォトンランサーの発射体のよう』。

一つ、二つとどんどん増えていく人魂、リニスさんとほぼ同じペースで、同じ大きさのもの。

リニスさんがフォトンランサーの発射体を作っている様をしっかりと観察して真似しているのだ。

 

 

「もうすこし……まだ数が足りない、まだ……まだだっ」

 

そう、俺がリニスさんにフォトンランサー・ファランクスシフトを使ってもらった理由はただ一つ。

 

 

 

「……『百鬼矢光』コイツが俺のとっておき、全身全霊でいかせてもらいますよ」

 

俺の必殺技を完成させるためだ。

 

 

リニスさんと対になる形で、俺の周りには30個近い人魂が待機する。

あ、『三十鬼矢光』じゃねえかというツッコミは無しで、これぐらいの数しか管理しきれないんだよ。

 

俺はポルターガイストと違って人魂の扱いは下手だ、というか極端すぎるのだ。

『吹き飛ばすだけ』とかシンプルな意識を込めて使うことしかできない、だからリニスさんが魔法を使うイメージを参考にしてこの技を完成させたのである。

 

ふー、やっぱり手元以外の場所に人魂作るのむつかしいな……、だが完成はさせた、イメージもちゃんと込めてる、万事オッケーだ。

 

 

「私の技を……、フェイトでさえデバイスなしじゃ不可能だったのに」

 

リニスさんも驚いてる、まさか今自分が使ってる技を真似されるなんて経験したことないだろうしな。

あーでもバインドで足止めしないとこの技って完成しないんじゃなかったっけ?

まあいっか、どうせ俺がこれからやることは――――

 

 

「そんじゃ、いっけええええええ!!!」

 

「え!? バインドは……? く、撃ち砕けっ!」

 

真正面から撃ち合いだ!!!

バインドなどさせるものか、つーか人魂でバインドができるかっ!

 

リニスさんに向かって一斉に飛び出していく人魂たち、そして俺に向かって連射されるフォトンランサー。

これらの違いと言えばフォトンランサーの発射体はその場に留まって何発も撃っているのに対して、俺は人魂そのものが飛んでいること。

 

その差『30VS1000』弾数が圧倒的に違う、いくら表面だけ真似してても本質までは同じには出来ないのだ。

 

 

 

「そんなことは百も承知! いくぜっ!」

 

両手に人魂ソードを作って、背中には爆発飛行用の人魂を作る。

 

俺が今からやるのはリニスさんの技のパクリみたいなものだが、そのままパクっただけじゃあリニスさんには勝てないからな!

 

「爆発飛行ッ!」

 

「突っ込んできた……!?」

 

人魂と一緒に俺も吹っ飛ぶ!

リニスさんは魔法弾の制御に手間をかけてるせいか、その場から動いていないし、真っ直ぐ突き進むぜ。

 

 

ドゴン! ドガガガ! ズゴ! ダダダダッ!

 

「ぐっあああ!? すごい痛い怖いなにこれヤバい!?」

 

(なんて自殺行為……。正気なんでしょうか彼)

 

 

 

やっべえええ!!!

正面からフォトンランサーの嵐が! すんごい量と勢いで迫って来てまじで怖い!!

 

普通は横に回避するもんだよね俺の馬鹿!

顔とか致命的な所は人魂ソードで弾いてるけど、その他諸々の部分に被弾しまくってまじで痛いいい!

 

「ぐがっ、あきらめて、あだっ、たまるかよっ! おおおおっ!」

 

でも、それでも、みんなを幸せにするなら痛みぐらい、多少被弾しても構うものか。

なんたって俺はなのはちゃんの守護霊なんだ、ご主人様と同じで根性と諦めの悪さだけは自慢なんだよ!

 

閃光の嵐の中を、『百鬼矢光』で放った人魂と共に半ばごり押し気味で進む。

あと少し、もうすぐ届く!

 

 

 

「届けええぇぇ!」

 

「ライトニングバインドっ!」

 

 

なん……だと……!?

あと一歩、人魂ソードの切っ先がリニスさんに触れるか触れないかの距離で俺の体は雷を帯びたバインドで動きを止められた。

 

「そんな馬鹿な、攻撃の制御で手一杯なんじゃ……ていうかバインドってどんなイメージ力だよ」

 

「貴方なら絶対に不意を突いて迫って来るだろうと思ってましたから。まさか正面から来るとは予想できませんでしたけど……」

 

なんていうこったい、全部読まれてたわけか。

動かなかったのも俺を迎え撃つための準備だったのか、どんだけ凄いんですかリニスさん……。

俺の動きが止まった瞬間からフォトンランサーの発射体達が消えていくのが横目で確認できる。

どうやらトドメはリニスさん自身でつけるみたいだ。

 

 

 

「……貴方に一つだけ聞きたい事があります」

 

「?」

 

人魂ソードを突きつけた格好で止まったままの俺に、リニスさんが何か聞いてきた。

もしかして、話を聞いてくれる? 説得のチャンスか?

 

 

「貴方は一体どうやって勝つつもりだったんですか?」

 

「そんなわけないよねー。はぁ……」

 

「何ですかその反応は」

 

予想はしてた、世の中そんなに上手くいくチャンスすらないからな……。

残念がる俺を無視してリニスさんは質問を続ける。

 

「だって『貴方は人を傷つけることは出来ない』筈ですよね? 現に今、私は『無傷』です。それなのにどうして……」

 

「『勝てると思っている』ですか?」

 

まあそうだろうな。

結局、いくら特訓しても俺は『人魂に殺意を込める』事はできなかったんだから。

 

今の今まで俺はリニスさんの攻撃を防いだり、かわしたり、あとフェイトちゃん達のとこに行かないよう牽制するぐらいしかしていなかった。

自分から攻撃に入ったのはこの『百鬼矢光』だけだし。

 

 

「最後に私の技を真似しても、結局はダメージは無いんですよね? 私の所に攻撃が来てないということは、大方『私のフォトンランサーに撃ち落とされた』様ですが」

 

 

事実、『百鬼矢光』で作った人魂はいつも俺が使ってる攻撃力がない人魂だ。

いくら特訓しても、どれだけなのはちゃんやリニスさんの真似をしようが、俺の限界はここまで。

 

 

 

「ははは……。『半分』正解です」

 

「半分?」

 

人を傷つける勇気すらない、臆病で、卑怯者の俺が勝つためには。

 

 

「確かに『傷一つつきません』よ? それに、『2、3発は撃ち落とされましたけど』――――

 

 

 

 

 

――――後、28発。ほら『貴女の後ろに』」

 

「っ!?」

 

こうやって奇策を仕掛けるしかないじゃないか。

 

俺の言葉に合わせて後ろを振り返るリニスさん、そこには『わざとリニスさんの後ろに待機させた百鬼矢光』達。

 

 

最後に特訓の成果。

花子さん直伝、『手元から離れた人魂のコントロール』だ。

 

花子さん曰わく『人魂を自分の一部と思うのがコツだよ』とのこと、今回は『リニスさんの後方まで飛んでその場で待機』のイメージである。

 

「確かに人真似ばっかりじゃあ貴女には勝てない! だから最後は、『俺自身の経験』で勝たせてもらう!」

 

 

「しまっ――!

 

「吹き飛べええええ!!!」

 

ドゴンッ! と俺はリニスさんに向けている『人魂ソード』を爆発させた。

 

初めからこの人魂ソードはフェイク、斬るためではなく『吹き飛ばす』イメージで作った。

 

フォトンランサー・ファランクスシフトとの撃ち合いも、不意を突いて斬り込むのも、全てはこの瞬間のための偽装工作!

距離を詰めた時点で俺の勝ちだ!

 

 

 

人魂ソードの爆発により、後方へ吹っ飛ぶリニスさん。

そしてその後ろには、百鬼矢光の『吹き飛ばすイメージの人魂』が配置されている。

 

「きゃっ!?」

 

ドカン! と当然人魂は爆発しリニスさんを猛スピードで別の方向にぶっ飛ばす。

 

更にその先には『吹き飛ばすイメージの人魂』があって――――

 

 

ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン!

 

「いやあああああああああああ!!!?」

 

 

右へ左へ上へ下、東西南北どの方向にもリニスさんは連続で吹き飛ばされ続ける。

 

『百鬼矢光』なんてカッコつけた名前をつけたが、『人間ピンボール』と言った方が似合っているこの技は。

 

 

「どうだっ! 滅茶苦茶に視界が揺れるから気持ち悪くなるだろう!」

 

かつて暴走体との戦いで、爆発飛行を調子に乗って使いまくり体調を崩した俺自身の体験談を元に思いついたものだ!!!

 

 

威力が無いって時点でこの使い方以外に勝てる方法が浮かばなかったのと、あくまでも『気持ち悪くなるだけ』なんだから、リニスさんを誤って傷つける心配もないのが採用理由。

 

吹き飛ばすイメージも俺は得意だしね。

 

あと10何発か、残りの人魂もドカンドカン言いながら爆発していく。

そして最早目では追いつけない程の速さで飛んでいるリニスさんは、もう悲鳴すら聞こえない。

あっ、バインド解けた。

 

 

ドカン! と最後の人魂が爆発し、リニスさんは抵抗することも無く俺の方へ吹っ飛んできた。

百鬼矢光が決まったら俺の所へ来るように吹き飛ぶ方向を調整していたのである。

俺はそのままリニスさんを受け止めた。

 

「うぐっ、なんちゅう勢い。これだけスピードがついてるなんて我ながらビックリだぜ……」

 

「きゅう〜〜〜」

 

勢いを殺し切れず、何メートルか後ろに下がってしまった。

腕の中で抱きかかえられてるリニスさんは当然目を回していた。

意識はあるみたいだけど、碌に思考ができていないらしい。

 

 

「傷とかは見当たらないな……、良かった。まあ俺はボロボロなんだけどなにわともあれ……」

 

あ、やばい。なんか色々こみ上げてきた。

そのまま湧き上がる衝動に身を任せ、叫ぶ。

 

 

 

「俺の! 勝ちだあああ!!!」

 

そうだ、あのリニスさんに勝ったんだ。

前に完膚なきまでに叩きのめされた相手に、勝てたんだ。

 

これまで沢山苦労して、色んな人たち(カラスも含む)に協力して貰ってやっと掴めた勝利。

みんなには本当に感謝してもしきれない。

 

 

嬉しすぎて下にいるマクシー君まで連動して動いてしまう。

 

 

ガッシャン、ガッシャン!

 

「今上から爆発が……? って踊ってる!? なんで!?」

 

マクシー君が突然合体し、ブレイクダンスを踊り始める様はさぞかし奇妙だっただろう。

都合の良いことにフェイトちゃんの注意がそれてくれたし、もう少し調子に乗ってマツ○ンサンバ踊ってみようかな。

 

 

「あ、そうだ。この後どうしよう。リニスさんはこのまま拉致する予定なんだけど……フェイトちゃんの事考えて無かった」

 

拉致って言うと犯罪臭が半端ないが、一旦リニスさんを学校まで運んで、それから事情をゆっくり話してあげようと思っているだけである、他意はない、無いったらない。

 

それは兎も角今はフェイトちゃんだ。

マクシー君はいまだ無事で戦闘は一応続行できるが、このまま戦い続ける理由は特に無いはずだ。

今ここでフェイトちゃんを倒したとしても俺にはどうしようもないし、その間にリニスさんが回復しないという保証もない。

 

あ、でもジュエルシードは渡すわけにはいかないし、という事は……。

 

 

「三十六計逃げるに如かず、ジュエルシードはこのまま持ち逃げさせてもらうぜっ」

 

ダカダカダカダカ! とフェイトちゃんに背を向け『十傑集走り』。

 

「あっ! まって、ジュエルシードを渡して……!」

 

HAHAHA! そういうわけにはいかんのだよ!

アルフちゃんが気絶してるからフェイトちゃんも追いかけたくても追いかけられないんだなコレが。

 

「いやー、上手くいって本当に良かった。ていうか上手く行き過ぎで逆に怖いわー」

 

フェイトちゃんから離れ、花子さんと合流するために旅館の方へ向かっていく俺とマクシー君。

リニスさんも倒せてジュエルシードも確保した、ここまで思い通りに事が進むって今までなかったからな。

この後とんでもないオチがつきそうで怖くなってくるぐらいだ。

 

「まあオチなんて無いだろうけど。後は帰ってリニスさんに説明して、ジュエルシードはなのはちゃんに郵送すればいいだけだし」

 

勿論、血文字でね。

 

 

 

「そういえば、なのはちゃん来なかったな。いまどこにいる

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

カァオ!!! と、空間を強引に引き裂くような音がして、俺の下にあった木々が桜色の光と共に『消し飛んだ』。

 

 

 

「「……え?」」

 

俺と、後はフェイトちゃんの声が被る。

 

 

俺の真下、つまりはマクシー君が走っていたはずの場所が、『無い』。

大地が、何か巨大な龍が通ったんじゃないかというふうに一直線に抉られていた。

 

 

ガシャン、と金属製の何かが落ちた音がする。

見てみると、鎧の『左手だけが』ジュエルシードを握りしめたまま、茶色い地面に落下した音だった。

あれ、おかしいな。マクシー君のポルターガイストの手応えがないよ?

 

 

〈ディバイン・『ゴースト』・バスター〉

 

聞き覚えがある声が聞こえた途端、再びカァオ!!! と桜色の光線が俺の顔の隣を駆け抜けていった。

 

すげー頬を掠ってるよリニスさんに当たらなくてよかったなー。

 

ザッ、ザッ、ザッ、と誰かが近づいてくる足音がする、それぐらい今この森は静まり返っていた。

 

それが『誰か』なんて、俺は見なくても感覚で理解した、それと同時に今回のオチとやらも。

 

この『体が引きずられる感覚』、守護霊特有の繋がりは。

 

 

 

 

 

 

〈ディバイン・ゴースト・バスター。外れました、砲身を左へ2度、下へ1度修正して下さい〉

 

「ざんねん、鎧には当たったけど上の方は外れちゃったね。でも次は当てるの。あはハはは」

 

 

来た、『高町なのは(オチ要員)』が。

-3ページ-

 

「ちょっ、なのは!? いきなりどこに撃って……森が無くなってる!?」

 

最早魔王と言っても差し支えない雰囲気のなのはちゃん、そして何故か人間形態になってるユーノくんがついにこの場にやって来た。

目の前に突然現れた、ダイナミック☆環境破壊の惨状にユーノくんが驚愕してるけど俺はそんなことを気にしてる余裕すらない。

 

「待て待て何でなのはちゃん暴走してんのさ、今回べつに怖がらせるようなことやってないんだけど俺」

 

今回ばかりはまじめに心当たりがない、というかなのはちゃんと接触してすらない筈だ!

なのになんで大木の暴走体の時と同じようにバーサク状態になってんのさ!

 

 

「じゃあこれでトドメ、ディバイーン……

 

はは、ヤバい、なのはちゃんが遥か上空にいるはずの俺にしっかりと照準を向けてるっていうのに、蛇に睨まれたカエルの如く動けない。

 

 

「わあああ!? 駄目だよなのはやたらめったら砲撃はしないって約束したじゃないかー!!!」

 

俺に向かって砲撃を放とうとするなのはちゃんを、すんでのとこでユーノくんが抑えてくれた。

ああ、俺が見えてないから『なのはちゃんがいきなり上空に向けて砲撃してる』風にみえてるのか。

 

カァオ!!! とレイジングハートさんから某ハイスピードメカアクションに出てくるレーザーライフルみたいな発射音と共に放たれる砲撃は、ユーノくんの行動によって俺から大きくそれて、後ろの山にぶち当たる。

 

ウソだろ、山の一角がえぐられて丸い穴が空いてしまった……。

あ、あんなのが直撃したら、リニスさん諸共マクシー君と同じ末路(蒸発)をたどること間違いなしだぞ!?

 

 

 

「一体どうしたのさ! いつものなのはに戻ってよ!?」

 

「私はいたってだいじょおぶダヨ? ほら、あそこの空におばけがいるっぽい感じがシタかラ……」

 

「目にハイライトが無いんだけど!? あと空には何も見えない――――ねえ、あそこに転がってる左腕は何!? さっき見た甲冑のだよねアレ!?」

 

「ふふふ何を言ってるのカナ、ユーノくん。あの甲冑の中に誰もいなかったでしょ?」

 

「確かに中の人なんていなかったけども! 何のためらいもなしに撃ちぬくキミが恐いよ!?」

 

ちゃ、チャンスだっ。ユーノくんとなのはちゃんが話している内に逃げてしまおう。

この際ジュエルシードはどうでもいいや、命あっての物種なんだよ! 死んでるけど!

 

 

〈マスター、幽霊と思わしき反応が遠ざかっています〉

 

「逃さない、今度こそケリをつけてやるの――――私の魔法でっ!」

 

「ままま待ってよなのは! 目の前! 目の前にジュエルシードがあるからそっちを先に回収しようよ! そしてレイジングハートもなのはをとめようよ!?」

 

〈元マスター、私は思ったのです。『低速で飛行する飛行機をコントロールするより、超高速でぶっ飛ばすコンコルドの方が安定する』と〉

 

「暴走を止める気がまるでない!? 諦めないでよ君が諦めたらぶっちゃけどうしようもないんだよ!?」

 

〈もういいんです、疲れたんですよ。いくら私が戦略とか考えたり助言したとしてもどーせ何かしらのトラブルやら話聞いてくれないわで全部無駄になるんですよ。だったらもう勢いに任せて暴走した方が楽なんです〉

 

「それに関しては本当にごめんなさい! 君にイロイロ背負わせすぎたのは謝るからーっ!!!」

 

〈もう遅い。ターゲット確認、排除再開〉

 

 

レイジングハートさんなんで俺が逃げてるのが分かるの!? 見えてないよね!?

カァオ! カァオ! カァオ! と空間を切り裂く音を響かせながらピンクの光線が迫ってくる。

 

「ええいなりふり構ってられるかっ! 『爆発飛行』っ!」

 

普通に飛んでたんじゃ簡単に撃ち殺される、やむを得ず爆発飛行で下へ大きくかわす。

森の中へ逃げ込めば早々見つからないと思ったのだが……。

 

「う、うええ……気持ち悪い……」

 

「す、すいませんリニスさん。ちょっとだけ我慢してください!」

 

ああ、ますますリニスさんがグロッキーな状態に……。

このまま爆発飛行を続けてるといつしかの俺みたくエクトプラズマを吐いてしまうだろう。

くっ、リニスさんのイメージダウンは避けたいところだが……。

 

「アッハハハハハハ! もう意味不明な怪奇現象なんて懲り懲りなの、なのはを怖がらせるおばけなんかみぃーんな消し飛ばしテアげる!!!」

 

「避けざるを得ないよな畜生! どうしてこうなった!」

 

森の中で視界が悪いはずなのに正確に俺を狙ってくるし、その度に森の木々ごと薙ぎ払う砲撃を避けるしかない。

なんで俺なのはちゃんの守護霊やってるのになのはちゃんの手で殺されなくちゃいけないんだよ!

 

「はやいとこ花子さんと合流して帰らないと――――のわっ! あぶなっ!」

 

「や、やめて……。うう……」

 

「くっ、このまま旅館までもってくれるか……まだ距離があるしな」

 

はやいとこ旅館にいる花子さんと合流しないといけない、普通に直線距離を進むだけだったらあっという間かもしれないが、砲撃を避けながらだと時間をロスしてしまう。

ちょっとこれはマズイかなと思っていたその時だ。

 

 

「田中ぁっ! 無事かい!!!」

 

「花子さん!?」

 

旅館への道の途中、花子さんがいたのだ。

どうしてここまで来てくれていたのかは分からないけど、ちょうどよかった!

 

「その様子だと勝てたみたいだね、流石はアタイの弟子――――ひゃあっ!?」

 

とにかく立ち止まるのはヤバいので、花子さんに急速接近し、思いっきり抱き寄せ身柄を確保する。

なんだか凄くかわいらしい声が聞こえた気がしたが、気にしてる場合じゃない。

 

「たっ、たたた田中!? 勝てて嬉しいのは分かるけどいきなり抱きつかれるとアタイも心の準備がっ!?」

 

「すいませんっ! とにかく今は逃げないとまずいんでっ!」

 

抱き寄せた瞬間、背中に悪寒が走り爆発飛行。

上へ飛ぶと、さっきまで俺たちがいたところをカァオ! と桃色ビームが走り抜けていった。

 

「ぎゃああ!? な、なんだいあれはっ!?」

 

なんだか凄く乙女にあるまじき悲鳴が聞こえた気がしたが、気にしてる場合じゃない。

 

 

「なのはちゃんがまた暴走モードになってるんですよ!」

 

「はあ!? アンタまた何か驚かせたのかい!」

 

「それが俺も心当たりがないんですっ!」

 

「も、もう限界……オエ

 

「ひっ!? ちょっとリニスとやらここで吐くな! アタイにかかる!」

 

「わわ、花子さん動かないでっ!?」

 

こんなかんじで、随分としまらない雰囲気の中俺たちは帰るのであった。

ちなみに山を越えても砲撃が飛んできて怖かった、レイジングハートさんの索敵能力どんだけだよ!

 

 

 

 

 

田中達の戦いはここでいったんは幕を閉じたが、しかしこの話はここで終わらない。

いまだ戦場に残っているものが二人いたのだ。

 

「あの子、なんで何も無いところに砲撃を……?」

 

「あたたた……。はっ、フェイト! 大丈夫かい!?」

 

「アルフ、動かないで。重症なのはアルフの方なんだから」

 

そうフェイトとアルフである。

アルフはようやくギロチンドロップのダメージから回復し、フェイトは突然乱入してきたなのはの行動にフリーズしていたのだ。

目が覚めたアルフは、とりあえず自分が気絶している間に何があったのかを確かめるため辺りを見渡しているとあるものが視界に入った。

 

「あれは鎧の? もしかして一人でアイツを倒したのかい!?」

 

先ほどまで戦っていた鎧だけの騎士は、無残にも左手のみを残して消えてしまっているのだ。

アルフは脅威が過ぎ去ったことに対する安堵と、主の力になれなかった申し訳なさが混じった気持ちで問いかけるが、フェイトは首を横に振って指をさした。

 

「ううん、その。あの子が砲撃で……」

 

 

 

「どこまで逃げようと無駄ァ! わたしの魔法で全部撃ちぬくっ!!!」

 

「なのはやめてー!! さっきから森の動物たちが理不尽な被害を受けてるってばぁー!!!」

 

そこには現在進行形で森林破壊活動をしている白い魔法少女の姿が!

本当は田中をねらって撃っているのだが、傍から見れば森の木々にオーバーキルな八つ当たりをしているだけである。

 

「……アレって、フェイトがこないだ戦った魔導師?」

 

「た、多分」

 

直接戦った筈のフェイトが自信を無くすほどの豹変っぷりに、アルフはドン引きする。

よく見てみると、辺りの大地は抉れ、木々はなぎ倒されており、あげくのはてには遠くの山に穴が空いていた。

フェイトを傷つけたお返しに拳の一つでもくれてやろうかと思っていたのだが、今はただただ『関わりたくない』と思ってしまうのであった。

 

「前にあった時はあんな感じじゃなかったんだけど」

 

「それは分かる。初めて見たときからあんな奴だったらあたしだってまず逃げる――――ってあれ? あの光は……」

 

他にも何か変化はないのかと見ていたら青い輝きが一つ、騎士の左手からである。

そう、騎士に奪われたジュエルシードがそのまま残っていたのだ。

 

「チャンスだよ! 今のうちにジュエルシードをいただいていこう」

 

「え、でも鎧を倒したのはあの子なのに……」

 

「確かにアイツを倒してくれたのはありがたいけどさ、それとこれとは話が違うよ。大体あたしたちだって鎧と戦って消耗してるんだから、わざわざジュエルシードを賭けて戦うのはリスクが高いよ」

 

漁夫の利を取ってしまうような行為に、フェイトは後ろめたさを感じてためらっているがアルフが言っていることもまた正論ではあるのだ。

射撃魔法を封じられていたために魔力の消費は少ないが、体力的にはかなり消耗しているからである。

 

「……わかった。バルディッシュ、お願い」

 

「イエス、サー」

 

アルフの説得に応じ、バルディッシュを構える。

ジュエルシードは膨大な魔力の塊なので、封印するときには集中しなければならない。

なのは達に気付かれない内にやらなければならないので多少は焦るものの、フェイトの魔法は完璧だった。

 

 

「ジュエルシード、封印!」

 

〈シーリング〉

 

「しまった!」

 

バルディッシュから黄金の閃光が走り、ジュエルシードを包んでいく。

ユーノがこちらに気付きはしたがもう遅い、すでに二人はここから去ろうとする。

 

「まてっ!」

 

「待てって言われて待つ奴なんかいないよ! ジュエルシードはあたしたちが頂く!」

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……。チッ、逃シタの」

 

〈掠りはしたようですが〉

 

「それジャだめだよ、わタシが望んでるのは完全な除霊、成仏、消滅。もう二度とバケて出ないよう完膚なきまでに殺しKILLことなの。それが掠っただけなんて不完全燃焼にもほどがある…………あ?」

 

「やっぱり逃げてそこの二人ーー!」

 

「「ぞっくぅっ!!?」」

 

ざんねん 魔王からは 逃げられない!

良い的を見つけたとばかりにレイジングハートを向けるなのは、もはや誰でもいいのか。

 

「ぶちぬけえええぇっ!!!」

 

〈デストローイ〉

 

カァオ! と空間を引き裂く音と共に放たれるディバインバスター。

魔力以外にも田中に対するストレスやら殺意やらが込もっているせいなのか、非殺傷設定の筈なのに当たれば無事では済まない気がする。

 

「フェイト、防御はあたしの方が硬いからここは任せてうぐぅううああっ!? プロテクションがゴリゴリ削られてー!?」

 

「受け止めるとか考えちゃダメだ!」

 

勇敢にも主人の盾になろうとしたアルフは、ズザザザザザザ! と無情にもプロテクションごと押し流されてしまう始末。

 

そして、ついに耐え切れず爆発。

哀れアルフはヤムチ○となってしまった。

 

「そんな……!? アルフッ! 返事をして、お願い!」

 

「あたしは、いい……にげ……」

 

ボロボロになったアルフに駆け寄るフェイト、満身創痍のアルフは、主を守るために声を振り絞る。

だがしかし、その願いは叶う事はない。

 

 

 

「アハッ、これでようやくお話しできるね?」

 

〈フラッシュムーブ〉

 

なぜなら、すでに絶望は目の前にいるから。

高速戦闘を得意とするフェイトに対抗するため、なのはは『フラッシュムーブ』を習得し音もなく移動したのだ。

 

「ひっ……! あ、ああ」

 

既にフェイトの戦意は恐怖によって喪失している。

最早『デバイスを向けて抵抗する』という当たり前の行動すら、今の彼女の頭にはないほどの恐怖。

 

 

「わタシ、初めて見たとキから貴女の事が気にナッてたんだ」

 

そう、母プレシアの『お願い』でロストロギアを求め、危険な原生物が大量にいる世界へ探索に赴いた時よりも。

 

「ずっと辛そうな顔をシテたかラ、寂しソウな目をしてるから」

 

苦労して見つけたロストロギアがプレシアの求めるものではなくて、その怒りを虐待という形で受けた時よりも。

 

 

「ねえ、お話しシヨ? 私は『高町なのは』、なのはって呼んデネ!」

 

〈ディバイン・ゴースト・バスター。チャージ完了〉

 

目の前の白い少女が、たまらなく『怖い』。

 

 

 

 

「だから駄目だって! なのはストップ!!!」

 

「きゃっ!?」

 

ところがどっこい、救いの神はいた。ユーノである。

なのはの凶行を見るに見かね、後ろから羽交い絞めにして動きを封じる。

 

……『なのはを守る為に』人間の姿になったのに、まさか『なのはから守る為』に人間の姿が活かされるってどういうことなんだろうか。

 

「離してユーノくん! あの子に憑りついてる幽霊をっ、除霊しないと! 私の砲撃で!!!」

 

「そんな事したらこの子ごと吹き飛んじゃうじゃうよ!? そこの君も早く逃げるんだっ」

 

もうジュエルシードがどうたらといった事情なんて二の次、今は人命救助が第一と考えたユーノはフェイトに逃亡を促す。

 

「ーーっ!? は、はいっ」

 

呼びかけられて我に返ったフェイトは慌ててアルフを背負い飛び去る。

それはもうすごい勢いで、多分フェイトの人生中一番の速さなんじゃないかってぐらい。

どうやらトラウマ確定のようだ。

 

 

「ああああ?! 待っテ、名前だけでも。ついでに除霊も!」

 

「除霊って言うと聞こえは良いけど、『砲撃を喰らって』って言ってるのと同じだからね!?」

 

 

未だに未練が残って、というか今からでも拘束を解いてフェイトを狙い撃つつもりのなのはは激しく抵抗する。

一方のユーノもこれ以上なのはを暴走させまいとがっちり羽交い締めにする。

 

 

 

「お願いだから離して−−−−っきゃあっ!?」

 

「だから一旦落ち着いて−−−−わああっ!?」

 

−−−−ここで、ちょっとした『ハプニング』が起きた。

なのはが拘束を解こうと力いっぱい暴れ、二人の足が絡み合いお互い地面へ倒れ込んでしまったのである。

 

(危な、なのはが下敷きになるっ)

 

なのはが被害を受けてしまうことを察知したユーノは、咄嗟に両腕を地面へ向けて突き出した、そして−−

 

 

 

「なのは、大丈夫……ってああっ!?」

 

「ううん……な、何が起きたの。あれ、ユーノくん?」

 

倒れたショックのお陰なのか、なのはが正気に戻っていた。

しかし、ユーノが声を上げたのは別の理由がある。

 

 

「いや、その、ごごごごめんっ! わざとじゃないんだ!」

 

その理由というのは『体勢』、今現在二人の格好は『なのはが仰向けに倒れ、その上をユーノが覆いかぶさるような状態』。

ユーノがなのはを押し倒してしまっているシチュエーションにしか見えないのである。

 

「ふぇ? え……ええええっ!?」

 

自分たちがどんな状況なのか理解したらしいなのはは、みるみる内に顔を赤らめて――――

 

 

「はわわわわわ―――――はふぅっ……」

 

「気絶した!? だ、大丈夫!?」

 

――――羞恥心が許容範囲を超え、気を失ってしまった。

高町なのは、2度目の撃墜である。

 

 

 

 

 

さて、今宵は様々な意志を持った者たちが集い、戦い、それぞれの意志を貫こうとした。

結果、その戦いで勝利したのは。

 

「ちょっ、ホントにどうしよう! 絶対僕一人じゃごまかしきれないよこの惨状! なのはも運ばないといけないし、ああああ〜!!!」

 

ユーノ、お前がナンバーワンだ。

説明
お久しぶりです、VSリニス編終了!

かいてる途中でミスって全文消去で心が折れるかと思いました。
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コメント
ノッポガキ様、感想ありがとうございます! 魔法やらポルターガイストなんかよりも恋の力が一番強かったというわけです(多分違う)。そして次回、更なるどうしてこうなった番外編が2連続の予定!ロッテさんも出るよ!エロいことしか思い浮かばないよ!(タミタミ6)
ユーノの勝利ww 思わず「どうしてこうなった」って言ってしまいましたよ。 笑った笑った。 二度も撃墜しちゃったからこれはもう責任取るしかww(ノッポガキ)
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