リテラエルネルア「第九話」 |
ブリッツとの戦闘から二日後(いざこざはあったがはぐらかした)、俺は八神からの依頼で現地の局員に連れられて海岸付近の遺跡に来ていた。
「では自分はこれにて失礼します。 この遺跡は未だ本格着手出来ていないので何が起こるかわかりません、どうか御無事で」
「ありがとうございます、終わったら勝手に帰るんで迎えは不要とお伝えください」
「はい、わかりました。それでは」
女性局員は一礼すると踵を返し来た道を戻る。 俺はそれを見送るともう一度遺跡を見る。
「遺跡ねぇ…こういったものは大体当たりなんだがなぁ。 とりあえず中入ってみるか、入口はっと」
ひとまず入ってみなければわからないので、入口を探す。
「ん、これか……ってこれは…」
入口を探しているとそれらしきところを見つけたがその近くに見覚えのある紋章が見えた。 かなり古い記憶、悪魔の頃のものなので鮮明には思い出せないが、見たことあるのは確かだ。
「入るか…」
中へ入ると、地響きを上げながらいま入って来た入口が閉じられた。
「歓迎ってか」
入口を閉ざされたことで光源がなくなりどうしようかと思っていると遺跡全体が明るくなった。
照明機能があることからどうやら単なる遺跡ではなさそうだ。
「歓迎するお客には持て成しがあるんだが――」
待機状態のアグニ&ルドラをデバイス化し身構える。
「こんな持て成しは要らないな」
奥の曲がり角からズルズルと何かを引きずる音が聞こえる。
気配からして悪魔だろう。
「コイツは……」
角から現れたのは継ぎ接ぎ人形の姿をした悪魔だった。
「ビンゴ…かな」
アグニで狙いをつけ引き金を引こうとしたとき――
[ギャ!?]
「?」
いきなり悪魔が飛んできた。
こちらに飛んできた悪魔をアグニの引き金を引き、魔力を撃ち放って消滅させる。
「なんなんだ?」
『よくぞ来ました』
消滅していくスケアクロウを見ながら警戒すると、スケアクロウの後から人の形をしたなにかが現れた。
「誰だ?」
アグニの銃口を向ける。
『私はこの遺跡の主を守護する者。 貴方のことは存じ上げています『アムカディム』、我が主が貴方をお待ちしています』
「………なるほど、わざわざ悪魔名を言うとはな」
一瞬思案するがコイツは俺には害意はないと判断しアグニを下ろす。
ふむ、高町達の日本に桜木市が無い事と、平行世界なのに過去に見たことある事と紋様といい―――
まったくの平行世界では無いわけか、差し詰め分岐世界と言ったところか。
共通点は俺が『悪魔の時』だな。
それからなにかの切っ掛けで俺の世界とこの世界が分岐した訳か。 恐らく俺が魔界から去った時か?
となると、俺はこの世界に干渉していた時期があるということだ。
『さぁ、行きましょうアムカディム』
「あぁその前に」
踵を返し奥に行こうとするそいつを呼び止める。
『なんですか?』
「アムカディムは悪魔の時の名前だが今は人間なんでな、神崎 暁って名前なんだ。 呼ぶならそっちで呼んでくれ」
『わかりました神崎 暁』
それから、その人の形をしたなにか。 そいつは自分を『マリアージュ』と名乗った奴に案内され遺跡深部へと向かう。 だが気になることがあるため歩きながら聞くことにした。
「聞きたいことがある」
『なんですか?』
「あの悪魔は何故この遺跡の中に居た?」
そう、出現ではなく『居た』。 悪魔の出現ならば俺が感知するのだが、感知するまえに悪魔―確かスケアクロウ―が居たのだ。
『恐らく我が主の力に引き寄せられたのでしょう、そして加えて言うならあれが最初ではありません。
私達『マリアージュ』は主が御目覚めるまで守護する存在です』
「その主ってのはだれだ?」
悪魔の頃の記憶は相当昔のため曖昧な部分もある、入口にあった模様もそうだ。
『イクスヴェリアです』
「……スマホ?」
『それはエ○スペリアでは?』
「なぜそれを知っているのかと俺は聞きたいんだが?」
『主がいつ御目覚めになられても良いように情報収集は欠かせませんので』
それは殊勝な事だが、どうやっているんだか疑問なんだがなぁ……。
『着きました。この広間に我が主、イクスヴェリアが眠っておられます』
着いたのは古代機械らしき機材が多数配置された広間、しかし部屋の中心に位置された所に柩らしき箱が鎮座している。
大きさから言えば大人が中に入るにしては小さいな。 イクスヴェリアは子供か?
まぁいいとりあえず開けてみるか。 そう思いモニターの前に行きコンソールを適当に弄ってみる。
『………』
後ろにいるマリアージュは黙って成り行きを見守るようで何も言ってこない。
「ふむふむ、なるほど」
コンソールを叩きモニターに表示されていく文字、古代ベルカ文字らしいが俺にはなんてことはない。
柩にはパスワードがかけられているが無きに等しいな。
「……まてやコラ」
『どうかしましたか?』
パスワードがわかり、後は入力するだけなのだがそのパスワードが人物の名を示しているので考えた奴に突っ込みを入れたい。
「なんでパスワードが俺の名前だよ」
そうそのパスワードは『AMCADEYM―アムカディム―』…俺の悪魔名だ。
まぁ今考えてもしかたない。
再びコンソールを叩きパスワードを入力する。
パスワードが認証されると中心部の柩の蓋が開いていく。
さぁてイクスヴェリアってのはどんな奴かな?
「ここは…?」
『イクスヴェリア、御目覚め如何ですか?』
「マリアージュ? そうまた目覚めてしまったのですね」
柩から身を起こしたのは子供と言っても良いほどの体型をした少女だった。
駄目だな覚えてない。
「貴方が操主様ですか?」
「操主がどういう意味を指すのかはわからないがパスワードを解いたのは俺だ」
『彼はアムカディムです』
「!?」
マリアージュが俺の名前を話すとイクスヴェリアは目を見開いた。
「彼がオリヴィエが言っていた」
「ちょっとまて」
今オリヴィエといったか?
俺の記憶違いでなければ彼女なら俺の事を知っているはず、仮に知り合いならばイクスヴェリアに俺の事を話していても不思議ではない。
「そのオリヴィエってのは『オリヴィエ・ゼーゲブレヒト』か?」
「えぇ、そうです」
成る程ねぇ……
確か彼女に会ったのが約1000年ぐらい前だから、イクスヴェリアもその時の人物ってわけか。
当時聖王と呼ばれていたオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。
女性でありながら優れた戦闘能力、民からの圧倒的な信頼。 歴代の聖王を名乗る者達の誰よりも優れた能力から歴代最強を称えられていた。
※
その日は気まぐれで人間界に来ていた俺は、空からその地上を見下ろしていた。
「気まぐれで来てみたが魔界とは違いなかなか活気あるじゃないか」
爆発音や怒声が響く中、紅く拡がる飛沫。人を形成していたなにか。
「しかしまぁいつの時代も争いは減らないわな。 ん?」
一体の空気が変わった。しかも魔界特有の空気だ。
「人間界に来て直ぐかよ」
異形による集団の出現に場は騒然となる。
人間とは掛け離れた風貌に竦み上がっている、近くに居た人間が斬り裂かれた。
それを皮切りに悲鳴にも似た叫びの波紋が広がる。
「ん?」
全体を見渡していると何故か一点に目がいった。
他の人間とは違い気配が格段と違う人物、女性。
態勢を立て直そうとしているのか周りの兵士に激を飛ばしていた。
小柄ながら懸命に号令する姿から将軍かそれに値する地位の人物だろう。
次の瞬間女性の後ろから空間の歪みが見えた。
「しゃあない」
俺は工房空間に接続―リンク―をして武器を掴む。
盟友スパーダと同じ名前を冠する大剣を構え――
「陛下!? うしろに!!」
「え?」
ザンッ――
急降下し剣を振り下ろそうと現れた悪魔を縦に斬り裂いた。
「……アンタが指揮官か?」
消滅する悪魔を確認し目の前の女性に言葉をかける。
「え? あ」
「言葉、通じないか?」
再び声をかけると周りの兵士が槍の矛をこちらに向けてきた。
「貴様ぁ、陛下に対して無礼であるぞ!!」
陛下、ねぇ。 まだ女性になりきれていないような者を上に立たせるなんてな。
ま、俺には関係ないな。
そういう意味を込めて目を細めると、視線があった兵士は一歩退く。
「止しなさい!!」
「陛下、ですが…!」
「止しなさいと言っているのです、武器を下げなさい! 私を助けてくださったこの方に矛を向けるならばこの私、聖王への無礼と受け取ります!!」
そう言われた兵士は渋々槍を下げる。 なかなか様になっているようだな、おまけに信頼度も高いようだ。
「……もう一度聞くぞ、アンタが指揮官か?」
矛先が下げられたのを見て本題に入るため再度確認する。
「まずはお礼を、異形から助けていただきありがとうございます。 私はこの戦場の指揮官です、名をオリヴィエ・ゼーゲブレヒト」
「そうか、俺はアムカディム。 気まぐれで人間界に来た悪魔、アレと同類だ」
「!?」
同類と聞いた瞬間下げられていた矛先が再び俺に向けられた。
「止しなさいと言ったはずです!!」
「まぁコイツラの気持ちを汲んでやれ、俺が用あるのはアンタなんでな。 他はどうでもいい」
「……それでは何か用ですか?」
「なに、馬鹿な同類共を躾にな。 その為にこうしてアンタを尋ねたんだ、用件は一つ」
この場から離脱しろ
「……彼の様な得体の知れない相手に尻尾を巻いて逃げろと言うことですか?」
「どう捉えるかは勝手だ。 だがアンタら人間がいるとこっちとしてはやりにくいのでな」
「聖王たる私がかのような得体の知れない者相手に逃げ出すのは愚の骨頂。 我々の戦に介入してきたというのならばもはや我々の戦の内なのです」
「一理ある。 しかしその考えでは無駄な犠牲が増えるだけだが?」
「戦ならば犠牲は付き物。 今までも……」
埒があかないな。
「じゃ好きにやれ、俺はやりたいようにやる」
結局俺が折れ、スパーダを担ぐとその場から跳躍、最も悪魔が集まっているところにむかった。
※
「アムカディム?」
「ん? あぁ、悪い。 ちょっとオリヴィエと会ったときの事を思い出してた」
別に誤魔化す様な事はしてないはずだが、何故かイクスヴェリアはコチラを見つめていた。
「どうした?」
「いえ、オリヴィエから聞いていた特徴とは掛け離れていたので」
「訳ありでな、今は人間として存在している。 ちなみにマリアージュに言ったが今の俺は『神崎 暁』だ呼ぶならそう呼べ」
「わかりました」
さて、これで依頼の方は粗方終わりか?
「そういや、お前の口から名前を聞いてなかったな。 もう一度、アムカディム改め、神崎 暁だ」
「そうでしたね。 私はイクスヴェリア、冥府の炎王イクスヴェリアです」
「冥府の炎王とは厄介な名前だが謂れはあるのか?」
そう聞くとイクスヴェリアの表情が暗くなった。
訳を聞くと原因はマリアージュの特性に因るものだという。
マリアージュは自立増殖兵器らしくこの世界の基準で言えば間違いなくロストロギアらしい。
そしてこれが一番の要因だがマリアージュは行動不能に陥ると自爆し周りを巻き込むらしい、そして相手の死体を基に生まれるため確実に敵地を火の海にする。 そのため『冥府の炎王』と異名が付いたらしい。
ちなみにイクスヴェリア自身もマリアージュを生み出すコアを無限生成できるらしい…物騒だな。
「どうするのですか?」
「ん?」
「私は存在してはいけないのです。マリアージュも、私自身も」
「それは自らの業に、か?」
「えぇ」
「なら俺はなんだ? 俺は悪魔だ、もとより人間界に居てはならない存在だ」
「ではなぜ?」
「自分が成すべき事を見つけ、自分が出来ることをやるだけだ。 そのためにいまこうしている」
「私は貴方ではない、貴方のようにできるわけではありません」
「それはそうだ俺は俺であってお前は俺ではない。 理由を見つけるのはお前自身だ」
理由が欲しいのならば手伝いは出来るがな。と付け加えておく。
「まぁ『理由』を見つけるために探すってのもありだな」
「いまいちわかり兼ねますが?」
「まぁ俺より『年下』だしな、理解できないのも頷ける」
敢えて年下というのを強調してみるとイクスヴェリアの表情がムッ、となった。 後にこの発言が失言だということ知った。
「良いでしょう。 ではアムカディム…神崎暁でしたね、貴方と行動を共にするとします」
「は?」
こいつは今なんて言った?
『行動を共にする』だと?
「まてまてまて、ちょっとまて。 Just a moment please.だ」
「なんですか?」
「なんで行動を共にする必要がある、手伝いは出来るとは言ったが」
「ですから理由を見つけるために行動を共にすると言ったのです。それに『年下』の者を導くのは年上としての責務ではないのですか、『お兄ちゃん』」
コイツ、俺の年下発言を根に持ってやがるのか。
俺はしゃがみ込み、両手でイクスヴェリアの頬を挟む。
「ふにゅ」
「別に手伝いは出来ると言った手前それに関しては否は言わないがその『お兄ちゃん』はやめろ」
なんか調子が狂う。
「でゅわ、にゃんと呼べぶぁ?」
ちゃんと喋れないようなので挟んだ手を離し立ち上がる。
「暁で良い。 くそ、八神になんて説明すりゃ良いんだよ」
「知り合いで良いのでは?」
「俺は並行世界の人間でこの世界に知り合いは居ない」
「オリヴィエがいたじゃないですか」
「それは俺が悪魔のころだ。 そいつらに俺の正体は教えてない」
「この際偶然知り合った子供にすれば良いのでは」
「苦しい理由だな」
『あの?』
「「?」」
今まで黙っていたマリアージュが口を挟み俺達はマリアージュを見る。
『この世界には『時限漂流』という言葉があります、ですからイクスヴェリアを時限漂流者として保護したということに。 そして神崎 暁に懐いてしまったので保護者代わりということで良いのでは?』
「マリアージュ、それは良い案です」
「だな、他に案が浮かばない以上これが適当だろう」
理由という言い訳が決まった以上さっさと帰るとするか。
そういや調査の報告どうしよう………
それ以前に俺も次元漂流者だったのを今更ながら思い出した。
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SSのあのキャラが出てきます(改竄設定で) ハーメルンにも投稿しています。 |
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