インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#90
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IS学園、本校舎の食堂は妙な沈黙に包まれていた。

 

一部の備え付けになっているテーブル席を退かして広いホール状のスペースとなった食堂にほぼ全ての生徒が集まっている。

 

そして、簡単に壇上になった場所に、楯無は立っていた。

 

その手にはオレンジジュースの並々と入ったグラス。

それを掲げ―――

 

「それではっ!IS学園、文化祭の無事終了を祝してぇ―――――乾杯!」

 

「乾杯ーー!!」

 

楯無の音頭に続いて、生徒会主催の打ち上げ会場となった食堂にいた生徒たちの声が重なった。

 

打ち鳴らされるグラスの音。

 

それまでの沈黙が嘘のようにざわめきが溢れだし、食堂を喧騒が満たしてゆく。

 

 

「ふー。」

 

「お疲れ様です、会長。」

「おっつー。」

「お疲れ、お姉ちゃん。」

 

役割を終えた楯無を迎えたのは生徒会の面々―――なのだが、二人ほど人数が足りなかった。

 

「皆も、いろいろ準備お疲れ様。これからはゆっくりと楽しんでいって頂戴ね。―――処で、織斑くんと篠ノ之さんは?」

 

乾杯の前から姿の見えない二人を探して楯無はキョロキョロと辺りを見回す。

 

『いつもの七人組』は壇上に居た時にだいたい探してみたのだが、鈴は二組の集団の一角に、セシリア、シャルロット、ラウラは一組の集団の中に居た。

が、二人の姿はどうも見当たらなかったのだ。

 

「ええと……そこの中じゃないかな?」

 

やや躊躇いがちに簪が指さした先は――

 

「食堂の、厨房?」

 

『食堂のおばちゃん』たちの((戦場|しごとば))であった。

 

その中からは((飢えた野獣|せいとたち))に供給される料理を作る『食堂のおばちゃん(一部お姉さん)』の声が―――

 

『唐揚げとフライドポテト、増産急いで!』

『了解です。』

『そっちは任せたわよ、箒ちゃん!』

『はいっ!』

 

『チョコレートケーキ、三ホール上がり!――次はショート三行きますよ!』

『は、早い!?これが、織斑先生の弟さんの実力なの!?』

 

「………あれ?」

 

何故か、食堂職員の声に混ざって、一夏と箒の声が厨房の中から聞こえてくる。

 

不思議そうにする楯無に簪は軽く溜め息をついた。

 

「お姉ちゃん………」

 

「ええと、簪ちゃん。どゆこと?」

 

「判り易く三行で言うね?―――

 見回りの時お姉ちゃんが謀ったせいで織斑くんは女装させられた。

 女装したせいで織斑くんのストレスがかなり酷い事になった。

 溜りに溜まったストレスを発散させる為に料理しまくる織斑くんとそれに付き合って手伝ってる箒。」

 

「な、成る程。」

 

何のために三行なのか、イマイチ判らない楯無ではあったが事情は理解できた。

――その原因が自分である事も。

 

「とりあえず、これからは要自重。いい?」

 

「…はい。」

簪に言われて、楯無はがっくりと肩を落としながら頷いた。

 

 * * *

 

 

 

『ぜ、全滅!?』

『十二機のゴーレムが全滅だと!?」

『たった一機のISを相手にか!』

 

臨時招集された亡国機業 幹部会は紛糾していた。

 

取り沙汰されているのは当然のことながら先のゴーレム全滅の一件である。

 

『それも、救援に駆け付けたエージェントと折角奪取した第三世代機を道連れにな。』

『機体の解析が終わっていたからまだ良かったものの…』

 

『しかも機体の残骸は騒ぎを聞きつけた((日本の海上保安庁|コーストガード))とIS学園が動いて回収。』

『使用コアに至っては十三個全てが行方不明だ。』

『この損失の責、どうとるおつもりか?』

 

次々と上がる非難の声。

 

だが、一方でその矛先となった面々も黙っては居ない。

 

『存在しないハズの機体では何処にも追求など出来ん。』

『早く調査権限を日本から取り上げたまえ。委員会直轄にしてしまえば手出しは出来ん。』

『研究所を新設して各国からコアを接収すれば問題はないだろう?』

 

『…そういう問題では無いのだがな。』

 

「………」

内心で何度目になるか判らない溜め息をつきながら、スコールはそんな会議――否、責任の押し付け合いを眺めていた。

 

(まったく、この老害共が…)

 

スコールの記憶が正しければ今、盛大に騒ぎ立て非難している面々は前回――今朝召集された幹部会でゴーレムシリーズによる襲撃作戦に賛同していた連中だ。

 

それどころか、ゴーレムの制御システムを育てる為に行った模擬戦でゴーレムに負けたエージェントの機体も解体してコアをゴーレムに使うべきとまで言った程だ。

 

(風見鶏共が…)

 

『――スコール。キミも何か言いたまえ。今回の一件ではキミが一番の受害者だ。』

 

『ッ!そうだ、元はと言えば貴様が奪取したデータが不完全だったから―――』

 

声に出さずに毒づいたとほぼ同時に矛先が自分に向いた事に何度目になるか判らない溜め息を、今度は内心ではなく本当につく。

 

「…無人制御技術は未完成だと判っているにも関わらず依頼されて奪取した物だ。それに『未完成だ』と断りを入れた上で技術部に引き渡している。―――文句なら技術部に言って貰いたいな。」

 

とりあえず、軽いジャブ程度で言い放ってみる。

だが、それで一部の連中が黙った処を見ると妙に効いているらしい。

 

「それよりもこの襲撃、何故に今朝――実行の直前まで我々に隠されていたのか…その点を説明してもらいたいな。」

 

それでもお構いなしに斬り込む。

 

「む、」

「そ、それはだな………」

 

言い淀む幹部連中を尻目にスコールは『相手』の事を考えていた。

 

(あのエムが逃げるかどうかで迷って『逃げるよりも戦った方がまだ可能性がある』と考えた相手だ。無人機じゃ幾ら数で押しても無駄だろう。)

 

身内補正があるとはいえ、スコールはエムの実力をよく知っている。

それ故にその思いは確信とも言える。

 

(それに………)

 

ちらり、と手元にある端末に視線を落とす。

そこには撃墜されるまでの間にサイレント・ゼフィルスが送ってきた観測データから切り出した一枚の画像が表示されていた。

―――強力なECMとセンサーの限界を超える速度のせいでかなりのノイズが入っているその画像には確かに『白いIS』が写されていた。

 

「―――((原初にして最強|白騎士))か。…相手が悪いなんてものじゃないな。」

 

『む…スコール、何か言ったかね?』

 

「いや、何も?」

 

画像を閉じ、端末の電源を切る。

 

軽く溜め息をついてから、更に荒れ始めた様子の会議に向き合う。

 

(エム―――せめて、無事で―――)

そう、願いながら。

 

 

 

―一方でその隣室。

オータムが一心不乱にマシントレーニングを行っていた。

 

(エムの野郎―――勝負はまだついてないんだ。先に退場だなんて、許さないからな…!)

 

説明
#90:今日までハレの日、明日からケの日



文化祭編はここまで―――バックストーリーをもう一つ挟んで次ぎ、行きますよ。
目指せ、年内あと二回は更新!
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コメント
#91はおおよそ半分くらい出来ているのでまあ、あと一回くらいは出来そうです。 サブタイトルは実は『文化祭という非日常が終わって明日から平日』程度の意味しかなかったり…まあ、始まりますが。(高郷 葱)
記念すべき第90話の更新お疲れ様です。なんとも意味深なサブタイトルを象徴するような、日常と非日常が同時に進行し、遂に何かが始まるのだと思わされました。今年中にあと2回の更新を予定されているそうですが、無理はなさらず執筆を頑張ってください。私の方は…今年中の更新はどうも無理っぽいです。(組合長)
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