とある姉弟の話 |
女の子はふわふわしている。
彼は常々そう思っていた。
抱き締めると柔らかい。
髪はふんわりとしている。
女性だからこそ身に着ける事が可能であるスカートなどがふわりと舞う。
それらを纏めて女はふわふわしていると感じていた。
勿論例外も居る訳ではあるが。
「…何見てんの?」
「んー?」
不意に彼女に声を掛けられ、彼は視線をそちらに向けた。
緩いパーマがかかった柔らかそうな栗色の髪に大きな瞳。
普段の彼女が好む服装がフリルがついているものが多いせいか、それとも彼女自身が持っている雰囲気がそうであるせいか、ふんわりした印象を受ける。
「…ぼんやりしちゃって、何か面白い事があった?」
「いや……女の人ってさ…ふわふわしてるなぁって」
彼の言葉に彼女は目を瞬かせる。
その言葉の意図を理解しようとしているのが見て取れる。
「見た目がって事?」
「んー…見た目も中身も?」
「頭が軽そうとかいう意味じゃないわよね?」
「それだったら俺、ふわふわしてるなんて可愛い表現使わずに頭の中が軽そうとでも言うけど」
その言葉に彼女はくすりと笑った。
彼の性格を考えてみれば確かにそうだ。
基本的に彼は言葉の選びが下手だが、それなりに何とか悪い印象を受けぬようにと必死で選んでいる。
「それ、私以外の人の前で言わないようにしなさいよ?」
「何で?」
「あなた、ただでさえ余計な敵作りやすいのにもっと作るつもり?」
「……」
下手な言い回しを行う事も多い彼は敵も多い。
本人も自覚をしているらしいが、直そうと試みている訳でもないらしい。
「あのね、敵は少ないほうがいいでしょ?」
「そうだけど」
「でしょう?だったら、少しは口下手から脱出しなさいよ」
彼女の言葉に彼は小さく溜息を漏らす。
面倒だというよりも、どのように行えば口下手でなくなるのかがわからない。
そんな感情を彼の表情から感じ取り、彼女は軽く彼を抱き締めた。
「饒舌になれっていう意味じゃないのよ。ただね、少しだけ柔らかい言葉を選ぶように日頃から心がけてごらん?」
「柔らかい言葉?」
「そう。さっきの話題で言えば、あなたは女の子がふわふわしてるって言ったけど、それをイメージした言い方ってあるでしょ」
「んー……そうだけど…」
眉を寄せ何かを考え込んでいるらしい様子の彼の頭を優しく撫で、彼女は言葉を続ける。
「女性らしい物言いをするとかじゃないからね。『こんな風に言われたら嬉しい』って思うようなことを出来るだけ口に出すようにしたらいいんじゃないかな」
「嬉しいと思う言葉…ね」
「例えば、ご飯を作った時に『おいしい』って言ってもらえると嬉しいでしょ?それと同じ感じよ」
「ああ…」
彼女の例え話に納得したよう彼は頷く。
その間もずっと抱き締められている訳だが、彼は全く顔色を変えない。
薄い眼鏡のレンズの奥にある瞳は僅かに恥ずかしさを感じているらしいが、あえて彼女はそれに気付かない素振りを行った。
「ほんの少しだけでいいから、女の持つふわふわとしたものを真似てみたらいいのよ。お礼を言う時に笑顔を見せる…とかね?」
「わかった…」
「よろしい」
ようやく彼を解放し、彼女は満足そうに微笑んで見せた。
困ったような表情を浮かべながら彼は頬を軽く掻く。
「女のふわふわって何か難しいよな。俺が男だから余計そう感じるのかもしれないけども」
「少しずつでいいからやってみたらいいのよ。それで、相手が変な反応しちゃったら次回からそれをしないようにしたりとかね。せっかく綺麗な顔してるんだから、もう少し自分に自信持って行動なさい」
「……姉ちゃんってさ、結構自覚がないブラコンだよね」
「私は自覚があるブラコンよ。弟であるあなたが大好きだもの」
姉と呼ばれた彼女は、ふんわりとどこまでも優しげに微笑んだ。
説明 | ||
即興小説トレーニングにて書き上げたものです。お題は「女のふわふわ」でした。 | ||
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